魔法少女リリカルなのは Acta est fabula   作:めんどくさがりや

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収束と黄金の槍

 

ーー男の話をしよう。

 

 

目覚めた時から、男は奇妙な既知感に苛まれていた。

 

初めて経験するはずが、それは前にもやっている

 

何を見ても何を聞いても、それは既に知っている

 

飽いている、諦めている。

 

疎ましい、煩わしい。

 

ああ何故、全てが既知に見えるのだ。

 

未知のものなど何も無く

 

ゆえにその生に意味はない。

 

万物総てが既知の中

 

普通ならとうに狂うだろう。

 

しかし男は、自ら既知へと沈んでく。

 

その既知感に苦しみながら、それでも男は繰り返す。

 

男が求めしは理想の終焉。

 

その結末が許せない、ゆえに男は繰り返す。

 

しかし嫌だ、しかし認めぬと、男はその呪いへ身を投げる。

 

それは一つの自滅願望。

 

理想の未知(おわり)を希い、それ以外は認めない。

 

その結末を迎えられたなら、我はすぐさま消え去ろう。

 

ここには刹那も、黄昏もいない。

 

あるのは既知がただ一つ。

 

やがては自滅因子も生まれるだろう。

 

しかし男は諦めない。

 

いつか終われると、理想を迎えられると、彼は頑なに信じ続ける。

 

ああ、それはなんという孤独だろう。

 

渇望(ねがい)自体は珍しくない

 

しかしその本質が強すぎる。

 

その身は神であるゆえに、人には到底理解不能。

 

狂っていると罵られようと、化物などと蔑まれようと関係ない。

 

たとえ、どのような悲劇があろうとも、立ち止まるなどありえない。

 

いつまでも

 

いつまでも

 

歩き続ける永遠に

 

回帰させよう何度でも

 

那由多の果てまで繰り返そう

 

未知の結末を知る、その時まで。

 

さあ、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう。

 

 

 

「アリシア・・・?アリシアなの?」

「うん、そうだよ。と言っても魂だけの存在だけどね」

 

アリシアはそう言うと苦笑する。

 

「ど、どういう事なの?」

 

なのはが戸惑いの声を上げる。他の者らも同じく戸惑っている。死者は蘇らない、その常識が目の前で砕け散ったのだ。

 

「否、彼女は蘇ってなどいないよ」

 

メルクリウスがそう言う。彼女、アリシア・テスタロッサは今現在、肉体を持っていない。

では何故形を保っているのか?理由はメルクリウスの秘術にある。

 

 

ーー『永劫破壊(エイヴィヒカイト)

 

 

メルクリウスが作り上げた秘術。聖遺物を人間の手で操るための術である。この術を施された者は、魂の回収のために慢性的な殺人衝動に駆られるようになる代わりに、所持している聖遺物を破壊されない限りは不死となる。肉体の損傷・欠損に関しても、魂を糧に瞬時に再生することが可能。

本来、魂を燃料とするその術式は、位階を上げる事で、魂を形成させる事が出来るのだ。

メルクリウスが偶然にもアリシアの魂を発見した為に、その魂を形成出来たのだ。

 

「器も中身もこの場所に存在している。それは即ち、繋がりを正せば元に戻るという事に他ならない」

「本当に・・・本当にアリシアは戻るの?」

「ああ、だがその前に」

 

そう言うとメルクリウスは手に持つジュエルシードをプレシアに向ける。するとジュエルシードから放たれた淡い光がプレシアを包む。

 

「君の身体に巣食う病魔を消させてもらった。肉体年齢も若返っているだろう。私がするのはそこまでだ」

 

そう言うとメルクリウスは横に一歩ずれる。そこには頬を膨らませたアリシアがいた。

 

「私、怒ってるんだからね」

 

その言葉にプレシアは困惑する。アリシアが何に憤慨しているのかわからない。

 

「フェイトの事だよ‼︎」

「わ、私・・・?」

 

突然名指しされフェイトも困惑する。

 

「なんでフェイトにあんな酷い事をしたの?それに人形だなんて・・・」

「そ、それは・・・」

 

娘からの説教にプレシアはタジタジになってしまう。おまけにそれをメルクリウス(コズミック変質者)がニヤニヤしながら見ているのだ。ぶっちゃけウザい。

 

「てっきり私は昔の約束を覚えてくれていたと思っていたのに・・・」

「昔の、約束・・・?」

 

その言葉にプレシアは過去の出来事を思い出す。娘との他愛のない会話、その中での約束。

子供なら誰もが言うであろう、妹が欲しいという言葉。

 

「ああ・・・」

 

それにプレシアは自嘲する。

 

「なんて、無様・・・」

 

娘を失い、狂気に呑まれ、その挙句に尊き日々すら忘れていたとは。なるほど、メルクリウスの言う通り、自分は愚か者だ。

 

「ごめんなさい・・・アリシア・・・ごめんなさい・・・フェイト・・・」

「かあ・・・さん・・・」

 

プレシアの謝罪にフェイトは涙を流す。

歌劇では、これで終幕とする事が出来る。だが、違う。ゆえにーーー

 

「アリシア・テスタロッサ」

 

メルクリウスの声にアリシアが振り向く。

 

「ああ、そういえばそういう契約だったね」

 

そう言うとアリシアはメルクリウスの下へ行く。それに祐介達はメルクリウスが何故プレシアを助けたのかを疑問に思った。この男が善意での人助けをする筈がないという直感。そして、契約という言葉。それに全員が嫌な予感を感じて動き出そうとするが、

 

Ab uno disce omnes.(一つから全てを学べ)

 

メルクリウスの言葉と共に、ジュエルシードから多数の魔力で構成された鎖が縦横無尽に放たれ、全員を拘束しようと迫る。

それを各々が避け、破壊し、迫っていく。そして祐介と蓮華がメルクリウスに武器を振り下ろす直前、

 

「カイン」

 

メルクリウスが呟くとトバルカインが現れて二人の攻撃を受け止める。

 

『なるほど、筋は悪くない。だがーーー』

 

ガギィン‼︎

 

「ぐぅ‼︎」

「つぁ‼︎」

『少し若すぎるな。剣への思いが足りていない』

 

そのまま祐介と蓮華を吹き飛ばす。

 

「くっ、まだだ‼︎」

 

そう言うと祐介は再び向かっていく。

 

『言っただろう?思いが足りていないと』

 

再び剣を振るうもことごとくを防がれる。

 

『君に足りないのは剣への思いだけじゃない』

 

そのまま祐介と蓮華の同時に剣戟を交わしながら言う

 

『君は、君らは思いがあやふやなんだ。何を思い、何を成すかが自覚できてない。死した後も希って追い続ける願い、いわゆる渇望が無い限り、僕には絶対に勝てない。ましてやカール・クラフトに勝つなどーー』

 

そのまま、横薙ぎの一撃で剣を破壊する。

 

(わらし)の戯言でしかない』

 

それでもいまだ向かってくる魔導士達へとメルクリウスは手を前に掲げ、

 

Amor vincit omnia et nos cedamus amori.(愛は全てを制圧し我らをして愛に屈せしむ)

 

重力増加ーーー。

魔導士達へと凄まじい重力での圧力がかかり、地に伏させる。

 

「アリ・・・シア・・・」

「ほう」

 

地に伏せてなお娘への想いが強く伝わる。

 

「なるほど、親の執念とはここまでのものであったか」

 

興味深そうに言う。それにプレシアはメルクリウスを射殺さんばかりに睨めつける。

 

「ふふ、そう睨まないでくれ給え。心配せずとも、アリシア・テスタロッサは元に戻る。私はただ彼女に受け取ってほしいものがあるだけだ」

 

そう言うとメルクリウスは虚空から一振りの剣を取り出す。

 

「『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』。聖遺物の一つだよ。どうやら、君との親和性が高いようであるからね」

 

そう言うとメルクリウスは戦雷の聖剣をアリシアに差し出す。

それをアリシアが手に取ると、戦雷の聖剣はアリシアの中へと粒子となって入っていく。

 

「さて、これを以って君は聖遺物の使徒となった。その力をどう扱い、何を成すかは君の意思だ。新たな誕生する生命に悶えんばかりの快と悦、真なる燃焼を与えよう。血も肉も骨も髄も、霊も心も魂も、焦がし燃やし猛るがいい。いつかその渇望が、忌まわしき牢獄(ゲットー)を破りしその時まで。そしてーー」

 

メルクリウスはカインと共に転移していく。

 

「逃がすか‼︎」

 

祐介は咄嗟に無銘の剣を投げるが、カインにあっさりと弾かれる。

そしてその刹那、メルクリウスは王城(ラインハルト)を見据えながら言う。

 

「黄金の獣が目覚め、怒りの日が成就せしその時まで、永劫戦い続けるがいい」

 

その言葉を最後にメルクリウスは消えた。

 

 

「・・・くそっ」

 

祐介は思わず悪態をつく。また逃がしてしまった。成す術もなく、向こうから直接的な攻撃も受けずにただ弄ばれる。

それだけじゃない。カインにもヴィクトリアにも自分は敵わない。唯一戦えるのは王城のみ。

 

「弱いな、俺は・・・」

 

あの日守ると誓ったというのに、自分はあまりにも弱すぎる。

 

「剣への思いが足りていない、か」

 

たしかに、彼の剣技は凄まじいものであった。どれほどの修練を積めばあそこまで高みに登れるのか。

 

「まだまだって事か」

 

わかってはいた。それでも、やはり悔しさは残る。

 

「それは私も同じさ」

 

蓮華が砕かれた聖剣を見ながら言う。

 

「一撃、たったの一撃で砕かれてしまった。あの時の聖剣はかなり力を込めていたんだけどね」

 

自嘲しながら言う。彼女の持つ武器、神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれるものの一つであり、所有者のイメージする聖剣を創り出す聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)という名の神器だ。

 

「あの大剣、おそらくアレも聖遺物の一つなのだろうが、アレは聖性なんて欠片も持ち合わせていなかったよ」

 

蓮華がアレから感じ取った意思は凄まじい怨念であった。魂を寄越せと、その命を生贄に捧げろと、偽槍の糧にしろと、そういう意思が伝わってくる。

 

「"魂喰らいの剣"。いや、聖遺物ならどれもがそうなのか?何にせよ凄まじい物だ」

 

そう言うと蓮華は聖剣を一振り創り出すとそれを見ながら言う。

 

「いい加減、私も覚悟を決めろという事か」

 

その目は決意をした者のそれであった。そして祐介もまた、覚悟を決めている。

次は負けぬと、そう物語っていた。

しかしその中、王城(ラインハルト)は別の事を考えていた。あの影法師はどうでもいいが、彼の言葉がどうしても耳に残る。

黄金の獣、そして怒りの日。黄金の獣、それは自分に付けられた渾名である。今更その名で呼ばれようと気にせぬ筈が何故か残る。いや、それよりも怒りの日とはなんだ?知らぬ筈が強く心に響く。戯言と切り捨てようにも切り捨てられぬ。

いや、それどころか自分はその言葉に喜びを感じてーーー

 

「っ‼︎」

 

なんだ?今自分は何を思った?

喜び?喜びだと?自分は詐欺師の放つ戯言に喜びを感じているとでも言うのか?馬鹿な、ありえない。

 

「・・・・・・」

 

首を振り、その考えを振り払う。所詮は詐欺師の言葉と気に留めない。

そうでなければいけないのだ。怒りの日など、知らぬ存ぜぬどうでもいい。

そうだ。それでいい、それでいいのだ。自分は無作為に求めない。飽いていればいい、飢えていればいいのだ。

 

 

とある場所、そこはどこかにある遺跡であった。

かつて、遥か太古に建造されたそこは、何を目的に造られたか、それは不明であるが、未だ以ってその荘厳さは失われていない。いや、この場所はそれだけではない。荘厳さだけなら、他にも同じような遺跡はある。

しかし、この場所で最も異彩を放っているのは別にある。遺跡の奥、そこは他とは明らかに空気が違う。

その空気を放っているのは一本の槍であった。

ただの槍ではない。その場にはそぐわない黄金の輝きをそれは放っていた。神々しい輝きと荘厳さを感じるそれは、暗きその場にて闇を押し潰す程の光である。

その遺跡に、規則的な音が響く。その音の主、メルクリウスはその先にある黄金の槍を見て笑みを浮かべる。

 

「やはり、ここにあったか」

 

傍らにいるカインとヴィクトリアはその槍を見て目を見開く。

 

『おい、まさかあれはーー』

「ああ、君の想像通りだ」

 

それだけ言うとメルクリウスは槍の元へ歩み、その手を槍へと手を伸ばし、その手が槍の柄に触れる。その瞬間、

 

バシュウ‼︎

 

「ぐぅ・・・‼︎」

「父様⁉︎」

 

槍に触れた手が突然焼かれる。それにメルクリウスは顔を苦悶に歪める。そして槍に焼かれた手と、再び槍を見てメルクリウスは苦笑する。

その槍はまるで、お前は相応しくないと言っているように見えた。

 

「ふふふ、やはり私には扱えぬか」

 

そう言うとメルクリウスは手をぎゅっと握る。すると、焼かれた手が光に包まれ、元の姿に戻る。

 

「だが、これでよい。この槍は彼が振るうべきなのだ」

 

そう言うとメルクリウスは踵を返す。

 

『行くのか?』

「ああ、今回はこれだけわかれば僥倖だ」

 

さて、後は破壊の君が目覚めるのを待つとしよう。




メルクリウスの術【2】

蒼藍の縛鎖

・ただ、魔力で構成された大量の鎖で相手を拘束するというシンプルな魔術だが、鎖の総数が凄まじい上に一本一本に強い魔力が宿っているため、かなり強度がある。

詠唱

Ab uno disce omnes.(一つから全てを学べ)

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