魔法少女リリカルなのは Acta est fabula   作:めんどくさがりや

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黄金の片鱗、そして決闘

ーーーー私は、一体なんなのだろうか。

 

 

 

この疑問を抱いたのは、この世界に転生してすぐの事だった。

とある女神にこの世界に転生させられると言われ、最初は無垢な少年のように心が躍っていた。何せ元いた世界とは別の技術があるのだ。

無事転生したがどうやら、自分は地球でなく、ミッドチルダに転生し、さらに自分は原作人物より数年早く転生したようだった。

そこでまあいいと開き直ると、最初の自分はまず自分がどこまで行けるのかと期待した。指定された訓練学校で勉学や訓練に励むようにした。

自分にはどうやら才能があったようで、訓練学校や実家では神童などと呼ばれた。

しかし、訓練学校で過ごしていくうちに、とある事実に気づいた。

どうやら自分は、加減というものが出来ずにいたらしいのだ。

ある対人戦の訓練の際、教官にこう言われた。

 

『もう少し、手加減ってできないか?』

 

それに自分は驚いた。気付かないうちに今まで自分は手加減無しでいたのだから。

仕方ない事と割り切り、手加減しようとしたが、それが出来ずにいたのだ。そこで自分は手加減が出来ない存在であるという事に気付き、逆に何事にも真摯に取り組む事にした。その結果、首席で卒業したが、喜悦も湧かなかった。

ただ、ああこんなものなのかという虚しさがのこった。

それからは管理局に入局して様々な仕事をこなしていくうちに最年少で少将になっていった。しかし、やはり感慨も何も湧かなかったが、その年が丁度物語が始まる時期でもあったのだ。

転生者は自分を含めて四人。もしかしたら彼らは自分を超える強者かもしれない。だから宝物庫の宝具を使い代わりを作ると自分は地球へと降り立った。

そして身分を作り上げて原作人物達の通う学校に入学した。

そして自分へと敵対心を持たせるため道化(ふみだい)を演じて戦った。

しかし、結果は期待したものでなかった為、正直落胆した。それからは彼らが自分と戦える存在になるまで待つ事にしたのだ。所詮は無聊の慰めと思い道化を演じていった。

何も感じず、何も得ず、ただ偽りの自分を演じて流されるのみであった。

 

 

ーーーそして私はあの日、同じく擦り切れていくのみである詐欺師と出会った。

 

 

 

「ラインハルト・エーベルヴァイン。魔導士訓練所を首席で卒業し、異例の早さで少将へと昇進したエリートであり、古代より続く貴族の出でもあるという貴公子殿。

お目にかかれて光栄だ。まさか私が相見える時が来ようとは、世の中何があるか分からないものだ」

「・・・何故それを知っているのかは知らぬが、私は卿が言うような男ではない。それより、先の問いに対する答えを聞いていないぞ」

 

今更この男が何を言おうとどうでもいい。それよりもだ。

 

「卿が私を招いた真意をまだ聞いていない」

「おや、そうであったかな。ではこちらも本題に入るとしよう」

 

そう言うとメルクリウスは改めてこちらを見てくる。

 

「私はあなたに聞かせていただきたい事柄があるのだが、よろしいかな?」

「許そう。何だ?」

 

するとメルクリウスは言う。

 

「あなたは・・・あなたは何故そのような、満たされぬ目をしているのか」

「なに・・・?」

 

瞬間、掴まれたのは胸の内の何だったか。

本質?澱み?分からないし知り得ない。感じた事もないのだから、ただ眉を顰めるだけだろう。

その様を見て、メルクリウスはおおげさに嘆く。

大仰に、演劇の役者にでもなったかの如く痛ましげに視線を伏せる。

鼻に付く仕草で、しかし心の底から感じているかのように、深海の瞳がこちらを見ていた。

 

「上層部の言葉すら場合によっては覆し、その気になれば管理局の勢力を如何様にも崩せる。その若さでそれだけの地位と才気を有する優秀なる黒太子殿。男子たらば誰もがあなたのようになりたいと思うだろう。管理局の一席を担う貴公子殿は、しかし何故か、つまらぬ遊びに落胆した幼子のように鬱屈しているご様子だ」

「・・・・・・」

 

だからその言葉に、驚かなかったと言えば嘘になる。

胸の内を当てられたことにではない。

他者に生じている感想を、本人すら形容できなかった感覚に、そうであると断定できることが、ただ・・・

 

「気になる。あなたは興味深い」

 

詐欺師の声は歌う。得体のしれない怪物へと、人の皮を捨て一枚一枚脱皮するように、ゆっくりと。

 

「その渇き、飢餓の心、何処から来て何処へ行く?あなたは何を求めて惑っている?」

 

当然、それに答える道理はなく。

 

「やはり、卿らは誇大妄想狂のようだな」

 

わざわざ相手取る必要性もない。

 

「卿の娘にも申したが、私は何も求めていない。私の立場もその気になれば誰もが辿れよう」

「おやおや、あなたも難題を仰る」

「難題ではなかろう。私上を持たず、職務を忠実にこなせば誰であろうとある程度の地位には就ける」

 

その理論でいけば、アースラの職員は甘い所があるのだが、自分が言う必要性はないだろう。

 

「さすがと言うべきか。あなたの様な存在を世の貴婦人方は放ってはおきますまい。さぞやお忙しい身にあるのでしょう」

「戯けた事を、女は所詮駄菓子に過ぎん。欲しい時にいくらでも転がっている一つ一つになど、私はいちいち拘らん」

「それは羨ましい限りだ」

 

一片たりともそう思っていない声音でメルクリウスは言う。

それにラインハルトは鼻を鳴らして席を立つ。

 

「話は終わりか?なら、私はこれで失礼する」

「ヴィクトリアを護衛に付けますかな?」

「いらん。自分の身は自分で守れる」

 

そう言うとラインハルトは去っていく。それを見てメルクリウスはにやりと笑う。

 

「ふふふ、これで歌劇は次の舞台へと進むだろう」

 

 

数日後、場所は海上に移る。そこには向かい合う形でなのはとフェイトがデバイスを構えている。

互いのジュエルシードを掛けた決闘。水を差すような無粋な真似はしない。

なのはとフェイトがデバイスを打ち付け合い、すぐさま距離を取るとデバイスを構える。

 

『Photon Lancer』

「ファイア‼︎」

 

フェイトの魔力スフィアから弾速のある攻撃が放たれる。

 

『Divin Shooter』

「シューート‼︎」

 

なのはも魔力スフィアを展開して連写性と追尾性に優れた魔力弾が放たれる。

両者の魔法が激突し、爆発を起こす。

爆炎を利用して再びなのはが魔力弾を放つがフェイトはそれをバルディッシュを鎌状にして切り裂く。

そしてそのまま接近してバルディッシュを振るう。

 

「っ⁉︎」

『Round Shield』

 

それをなのはが桜色の障壁で金色の魔力刃を受け止める。

その間になのはは先ほど落とされなかった魔力弾を操作してフェイトへと放つ。

それをフェイトは振り返りざまに障壁を張り、防ぐ。

その隙になのはは上空へと飛翔して、なのはを見失ったフェイト目掛けて急降下しながらレイジングハートを叩きつける。

 

「やあぁぁぁぁぁっ‼︎」

「くっ‼︎」

 

咄嗟にフェイトがバルディッシュで防ぐと魔力による大爆発が起きる。

 

『Scythe Slash』

 

それを利用してフェイトが斬撃を放つがなのはは紙一重で回避する。

恐ろしいのはなのはの成長速度だ。この短い期間でここまでの戦闘技術と魔法操作を手にするのだ。彼女も天才の部類に入るだろう。

しかし、まだ甘い。

 

「アルカス クルタス エイギアス。疾風なりし天神 今導きのもと撃ちかかれ。バルエル ザルエル ブラウゼル・・・」

 

フェイトが呪文を詠唱し始める。それは見ただけでフェイトが必殺の一撃を叩き込もうとしている事がわかる。

なのははすぐさま回避しようとするが、叶わない。

ライトニングバインドーーそれがなのはを拘束して逃がさない。

 

「フォトンランサーファランクスシフトーーー」

 

フェイトの周囲に計38期のスフィアが放電している。

 

「打ち砕け、ファイア‼︎」

 

号令と共にそれらがなのはに放たれる。

爆煙が晴れ、そこにいたのは無傷でその場に佇むなのはであった。

 

「打ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」

 

攻撃が当たる直前に、なのはは障壁によって防いだのだ。

 

「今度はーーーこっちの番だよ‼︎」

『Divin Buster』

 

瞬間、なのはから桜色の砲撃魔法が放たれる。

それにフェイトも魔力を収束して放つが、なのはの砲撃に飲み込まれる。

咄嗟に障壁を展開して防御し、なんとか防ぎきるがそれだけで終わらない。

 

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション‼︎」

『Starlight Breaker』

 

そして、なのはのレイジングハートの先に凄まじい魔力が収束していく。

フェイトはその魔力の高さをすぐさま感じ取り、距離を取ろうとするが、

 

「ッ‼︎バインド・・・⁉︎」

 

抜け出そうとするが、ビクともしない。そして、

 

「これが私の全力全開‼︎スターライトーーーブレイカー‼︎」

 

なのはの必殺の一撃が放たれる。

 

 

「ふむ、相変わらず興味深い催しだ」

 

そう言いながらメルクリウスは戦っている少女達へと目を向ける。

 

「運命の少女と不屈の少女は互いに心を交わしていき、絆を結ぶ。その輝きは有象無象では引き出せぬ光だ」

 

しかし、黄金の輝きの前ではそれすらも霞む。

 

「さて、君はどう動く?プレシア・テスタロッサ。過去に囚われた虜囚よ」

 

そう言うとメルクリウスは少女達の上空へと目を向ける。その向こうにいる誰かに語りかけるように。

 

「君はこれを人形と呼称しているようだが、果たしてどちらが人形か?過去の妄執に囚われ、可能性に縋り付き、虫の息のまま娘を欲する。憐れだな、私からすれば君の方が人形の如くと断じるがね」

 

そう言うとメルクリウスは再びなのは達に目線を戻す。

 

「さて、どう出るかな?」

 

なのは達の上空には空間が歪みを見せていた。

 

 

『二人とも、そこから離れろ‼︎』

 

クロノからの通信と同時に上空から次元を超えて紫電が降り注ぐ。それがフェイトに向かうかと思われたが、

 

「させるかぁっ‼︎熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)‼︎」

 

祐介が側に立つと七枚の花弁を展開させ、紫電を防ぐ。

 

「ぐぅ・・・‼︎」

 

花弁が三枚散った所で攻撃が止まったが、二撃目の紫電が飛来しようとしていた。

 

「蓮華‼︎」

「任せてくれ」

 

蓮華が手に持つ聖剣から斬撃を放つことで相殺する。しかし、ジュエルシードはいつの間にか奪われていた。

 

『探知成功‼︎プレシア・テスタロッサの居場所、『時の庭園』の座標が特定できました‼︎』

 

そしてそれを水銀の蛇が笑い、物語は着々と歩を進める。


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