『神速』の男   作:星月

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無性に書きたくて書きました。
多分原作でもやると思っていたネタです。


東京都代表

「お、来たな二人とも」

「時間通りに来るなんて関心関心」

「あ、主将(キャプテン)。監督も。ちわっす」

「こんにちは」

 

 誠凛高校の屋上。

 昼休みの時間に解放され、生徒達の憩いの場ともなるこの場所に、主将である日向・監督であるリコに呼び出された火神と黒子が訪れていた。

 待っていた二人はどちらも機嫌がよさそうに、笑顔のまま彼らを迎えた。それを見て、てっきり何か練習のことで話があるのではないかと考えていた火神たちは内心ほっとしたのだが、それは彼らが知ることはないだろう。

 

「どうしたんですか、僕達二人だけを呼ぶなんて。何かあったんですか?」

「ふふふ。それがね、昨日こんな手紙が誠凛(うち)に来ていたのよ。二人宛にね」

「見てみろ。それを今見せようと思ってお前らを呼んだんだ」

「俺ら二人あてに? 一体何のやつだよ。……ですか?」

 

 未だなれない敬語で返事を返し、火神はリコより一枚のプリントを受けとった。黒子も同様にそのプリントを受け取り、一通り目を通す。

 

「えっと――国民体育大会、バスケットボール競技少年男子。東京都代表メンバー? え、これってまさか……」

「そうよ。誠凛からはあなた達二人、さらに日向君が東京都の代表に選ばれたのよ」

 

 書かれている内容を読み上げ、聞き返した火神を納得させるよう、リコは満足げに答えた。

 そう、これは彼らが東京都の代表メンバーに選出したということを知らせるものだった。

 

「……本当ですか」

「ああ。それだけ俺達の実力が認めてもらえたってことだ」

 

 信じられない、と語る黒子を後押しするように日向は笑みを見せた。

 誠凛高校は昨年同様、決勝リーグで残念ながら敗退を喫してしまったものの、予選リーグでは正邦に続き秀徳という東京が誇る三大王者の二校を打ち破り、あのキセキの世代とも互角以上に渡り合った。それらの戦果を挙げた彼らに、国体という大きな舞台で戦う機会(チャンス)が与えられたのだ。

 

「国体、か。……ん? てことは当然、他の高校のところからも選ばれてんだよな? ……ですよね?」

「ああ。それについてはプリントに記されているとおりだ。もっと下の方を見てみろ。……今年の東京都最強メンバー達をな」

 

 日向に言われるがまま、視線をプリントの真ん中以降へと目を向ける。

 そこには火神、黒子、日向を含めた12人の選手、そして彼らを指揮する監督、チームを支えるマネージャーの名前が記されていた。

 

 

4.今吉翔一   (桐皇3年/180cm/PG)

5.大坪泰介   (秀徳3年/198cm/C)

6.岩村努    (正邦3年/187cm/C)

7.若松孝輔   (桐皇2年/193cm/C)

8.日向順平   (誠凛2年/178cm/SG)

9.花宮真    (霧崎第一2年/179cm/PG)

10.青峰大輝   (桐皇1年/192cm/PF)

11.白瀧要    (桐皇1年/179cm/SF)

12.緑間真太郎  (秀徳1年/195cm/SG)

13.火神大我   (誠凛1年/190cm/PF)

14.高尾和成   (秀徳1年/176cm/PG)

15.黒子テツヤ  (誠凛1年/168cm/SF)

 

監督:原澤克徳  (桐皇)

マネージャー:桃井さつき (桐皇1年)

 

 

「青峰に白瀧! それに、緑間もいやがる!」

 

 記されている名簿の中にかつて激闘を繰り広げた好敵手(ライバル)の名前を見つけ、火神は声を荒げた。1年とはいえども、レギュラーとして確かな力を高校でも示した彼らだ。選ばれるのはむしろ当然のことだろう。

 

「見知った方々で固められていますね。秀徳に桐皇の選手達。……泉真館高校から選出されていないのが気になりますが」

「あそこは元から個人の能力ではなく、全体の――チームの総合能力で戦っていたところだからな。個々の戦力ならば他から抜擢した方が良いって考えだろうよ」

「なるほど。確かにそういう意味ならばこのチーム編成も納得です」

 

 三大王者の一角であり、決勝リーグでも戦った泉真館から一人も選手が出ていないという疑問が浮かんだ黒子であったものの、日向の答えに納得した。この戦いは各チームから主戦力である選手がそれぞれ派遣され、戦うものだ。ならば大切なのは個人の実力が第一となってしまう。ゆえに個人の実力が高いメンバー構成となっているのだろう。

 

「おそらく今年は今までのメンバーと比べても、最強と言ってもおかしくない面子よ。あなた達も気合を入れなさい!」

「当然! あいつらに遅れをとったりはしねえ!」

「……はい。こんなにも早くまた彼らと共に戦えるとは思っていませんでしたが、彼ら以上に頼もしい人はいませんから。精一杯がんばります」

 

 監督からの激励も受け、より闘志を燃やした二人。誠凛の代表としても、東京の代表としても負けるわけにはいかない。ついこの間まで敵であった者達との共闘に胸を膨らませながら、彼らは教室へと戻っていった。

 

「国体か。キセキの世代と同じチームってのは少し気にくわねーが、たしかにあいつらの実力は本物だ。そんなやつらと組むってのも……悪くねえかもな」

「ええ。この戦いで、彼らも何か変わるかもしれません」

「はっ、そうかよ。まあ何にせよ俺らだけ活躍できませんでしたじゃ話になんねー。……絶対に勝つぞ、黒子!」

「……はい、火神君」

 

 意気込みをそれぞれ語り、廊下で二人は思いを確かめるように拳をあわせた。

 かつての敵たちと、全国の猛者たちを相手に戦う。……これほど心躍ることはない。火神も黒子も、試合が待ち遠しいといわんばかりに闘志をむき出しにした。

 

 

――――

 

 

「しっかし、まさか俺まで選ばれるなんてな」

「日向君は主将でしょ。むしろ1年だけ選ばれて他が選ばれないなんてそれこそ情けない話よ」

「……たしかにそれも一理あるな」

 

 未だに信じられないものの、自分の力を認めてもらえたことが嬉しいと言わんばかりに、日向は微笑した。

 誠凛からは三人、二年生は自分一人だけ。ならば自分が後輩二人をサポートし、他のメンバーの分まで戦うだけだ。

 

「でも良かったの日向君? 鉄平のことは話さなくて……」

「……良いんだよ。まだあいつらは知らなくていいことだ」

 

 そんな中、リコが日向の意思を再確認するように問いかけた。……日向は少し悩む姿を見せたが、すぐにそれでいいのだと返した。

 実は誠凛のセンター、木吉鉄平にも選抜の話は来ていたのだ。今年のインターハイ予選への参加は間に合わなかったものの、去年の活躍や彼が持っている知名度。それは誰の目からみても理想的なものであり無視できるものではなかった。だが、その話は木吉や日向が何度も議論した結果、拒否することになった。。

 

「木吉は退院してからまだ日が浅い。ブランクがあるだろうし、他の選手との交流の問題もある。……それに監督もわかっているだろ?」

「……うん。今回のメンバーの中にはあの男もいるからね」

「……ああ。あいつを今の木吉と会わせるわけにはいかねーからな」

 

 日向は視線をプリントへと移し、一人の選手の名前を見て止めた。

 名前を見るだけでも腹ただしいのか、途端に彼の表情が曇る。怒りがにじみ出てきた。

 

「――花宮真。俺は絶対にお前を許さない!」

 

 誰かに向けたわけではない。しかしその言葉を自分の心に刻み込むように日向は力強く、できるだけ怒りをこめて言い放った。リコもそれに気を悪くすることなく、むしろそんな彼を心配するように見つめた。

 ――霧崎第一高校二年、花宮真。木吉と並び、『無冠の五将』と呼ばれている実力者である。そして去年の予選決勝で誠凛と戦い――木吉を潰した男だ。

 

 

 誠凛高校バスケ部。

 日向順平、火神大我、黒子テツヤ。

 以上の三名、東京都代表メンバー入り。


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