不定期更新になりますがよろしくお願いします。
織田信秀率いる織田軍と雪斎率いる今川軍の戦は瞬く間に周辺諸国に知れ渡った。
伊勢国の北畠氏、美濃国の斉藤氏、甲斐国の武田氏などが尾張に進行してくるのではないかと信秀はしばらくの間落ち着かない状況に陥っていた。さらに、外部だけではなく内部にも敵はいた。名目上の尾張守護の座にいる斯波氏、そして尾張下四郡の守護代の織田信友、尾張上四郡の守護代の織田信安がこの機に信秀の弱体化を図っていたのである。
しかし、信秀も負けていなかった。盛重が重傷を負って尾張に引いた後、すぐに三河に侵攻し安祥城を攻略して、自軍が衰えていないことを示していた。さらには朝廷に多額の銭を送り、三河守に任じられていた。これで三河攻略の大義名分が出来たわけである。そして、信秀はこれからどうするべきか重臣たちを那古屋城に呼び寄せ評定を開こうとしていた。
佐久間盛重がいる御器所城にもその使者が訪れた。その使者は信秀の右腕でもある平手政秀であった。
「盛重、体の具合は大事ないか?」
「はっ。まだちと痛みまするが大事ありません。しかし、平手殿自ら使者として参られるとは恐悦至極に存じまする」
「そうかしこまらなくてもよい。殿が那古屋城で評定を開くそうだ。お主にも召集がかかっている。殿からお主の様子を見てこいと言われたのでな。見に来た次第じゃ」
「左様でございましたか。先の戦は大変な失敗をしてしまい、お詫びのしようもございませぬ」
「何を言う。お主があそこで踏ん張っていたからこそあの戦は勝てはせなんだが、負けてもいなかったのじゃ。他の者では到底敵わなかったであろうよ」
盛重がしかし…と黙り込むと、政秀もやれやれと目の前の白湯を飲み干した。
「それ程までに気負うておるのなら、今まで以上に強くなり、今まで以上の功を立てよ。それこそが殿に対しての償いじゃ。死んでいった者たちに対してものう」
「…はっ。この佐久間盛重、今まで以上の忠勤に励みまする」
「うむ。それでよい」
政秀は満足そうな笑みを浮かべると、白湯が無くなったことに気付いた。盛重もそれに気付き、白湯のおかわりを呼ぶと奥田直政が入ってきた。眉目秀麗な若い娘が入ってきたことに政秀は口をあんぐりと開けて固まっていた。
「どうぞ白湯でございます」
「う、うむ。失礼だが名はなんと申す?」
「私は奥田直政と申します。つい最近に盛重様に取り立ててもらいました」
それを聞くと政秀はニヤリと笑って盛重に視線をずらした。
「盛重、お主も隅に置けぬ男じゃのう。このような別嬪さんを家臣に取り立てるとは、ようやくお主にも春が来たということなのかのう」
「政秀殿、揶揄わんでくだされ。信盛からも同じような事を言われておりますので」
「何じゃ。からかいがいのない奴じゃの。ま、とにかく直政殿。盛重の事よろしくお願いしますぞ」
「は、はい!命にかけてもお守り申し上げます!」
「うむ。それでは盛重、わしは他にも回らないといかんのでな。お主も三日以内に登城せよ」
「はっ」
政秀はそういうと使者として御器所城を後にした。盛重は政秀を見送るとすぐに支度にかかった。
とはいえ、いまだに戦の傷が治っていないので着替えも直政に手伝ってもらっていた。
「はぁ、情けない……」
「?? 何がでございますか?」
「女子に着替えを手伝ってもらっていることだ」
「仕方ないではございませぬか。盛重様はまだ怪我人なのですから」
「しかしなぁ。俺はまだ嫁も貰っていない身だ。こう女子と二人きりの状況はあまりよろしくないんだが」
「ご安心ください。夫婦か愛人なのではないかと勘違いされるだけです」
「それがよろしくない事なんだよ」
はぁと盛重が溜息をつくと、ガシャンと何やら割れた音が聞こえた。音の方へ顔を向けると顔を赤くした万千代が立っていた。
「も、盛重様……。そのお方は一体……」
「ま、万千代か……こいつは最近入った」
「不潔です!!」
「何でっ!?まだ何も言ってないぞ!!」
盛重は逃げる万千代を追いかけようとするが、雪斎にやられた傷が痛み始めた。
「あだだだだだだ!!」
「盛重様! 大丈夫ですか?」
「だから言ったろ。よろしくないって」
「はい……ですが、まだ子供ではありませんか。子供に知られたところで……」
「あいつらをなめるな直政。万千代はまだしも、これが吉法師に知られでもしたら大変なことになる」
これを知った吉法師の顔が盛重の頭の中に浮かんだ。間違いなく厄介な事になると確信できた。
「と、とりあえず城に向かうぞ。評定は三日後だ。怪我人の俺でも、三日目の朝には着く。行くぞ」
「はい!」
盛重はその日の夕方に信盛と直政を連れ、那古屋城へと向かった。
久し振りの投稿でしたので駄文だと思いますが、温かい目で見てください。