駄文ですがよろしくお願いしますm(_ _)m
盛重は全身全霊の力を込めて突きを入れるが、雪斎はそれを杖でそらしたり躱したりして盛重の槍は中々当たらなかった。
盛重は肩で息をしながら、尚も体勢を崩さずに構えをとる。
雪斎はあれだけ動いて構えを乱さない盛重に少しばかり感心したのか、ニヤリと笑いかけた。
「大したものだ。あれだけ動いて構えを乱さぬとはな。………しかしなぁ」
雪斎は目にも留まらぬ早さで盛重との間合いを詰めると、杖で突きを入れていきた。
「なっ!? 早……」
雪斎が放った突きは見事に盛重の鳩尾に命中した。たまらず、腹を抱えて膝をつく盛重。
「お主の槍は単純だ。そんな腕では我らのような歴戦の武者には通用せぬわ!!」
雪斎は盛重の顎に思い切り杖を振り上げた。
衝撃で飛ばされた盛重は、やっとの思いで立ち上がるとキッと雪斎を睨みつけた。
「……まるで獣だな。獲物に対して見せる山犬の目じゃ」
雪斎がふんと鼻を鳴らすと、トドメとばかりに杖を突きの体勢に持ってくると先ほどと同じ鋭い突きを盛重に放った。
盛重はその突きを槍で打ち払うと、杖はボキッと音を立てて折れた。
雪斎は予想外の出来事に驚いたのか少々動きが鈍くなった。盛重は待っていましたとばかりに槍を雪斎の胸に目掛けて突きを放った。
「甘いわ小僧!!」
「がっ!? 蹴りだと……」
盛重が反撃に出る前に雪斎は更に前に出て盛重の胸に蹴りをかまして盛重を仰け反られせた。
雪斎はすぐに盛重に組討ちにかかった。
上を取られた盛重はしまったと歯噛みしたが、後悔しても仕方が無い事である。
盛重は槍で打ち払おうと動かすが、雪斎はその腕を掴んで槍を奪い取った。
雪斎は両足で盛重の両腕を抑えて動かせなくすると槍を構えた。
「……くそったれ」
「惜しいな。もう少し時が経てば名将になれたのかもしれぬのにな。だが、これで終いじゃ!!」
『信秀様……申し訳ありませぬ』
盛重が心で信秀に謝罪して死を待っていると、中々痛みを感じない……
あれ?と思い目を開けると、瞬間何処からか鬨の声が上がった。
「雪斎!! 織田軍じゃ! どうやら松平の小童め、失敗したようじゃ!!」
「何とっ!? 致し方あるまい…だがこいつだけでも!!」
雪斎は槍を盛重の胸に突き立てようと槍を振り下ろした。
盛重は強引に片足の抑えを引き剥がすと、右腕だけで槍を受け止めた。
「……しぶとい奴め」
「生憎、尾張の人間は諦めが悪いんでね」
雪斎が渾身の力で槍を押すが、盛重は最初は押されていたが徐々に右腕だけでそれを押し返し始めた。
「な、何という馬鹿力じゃ……」
「ぐぅ……がぁあぁああ!!」
「ぬぉ!?」
盛重はようやく強引に槍を押し返すと、雪斎の抑えを振りほどいた。更に体勢を崩した雪斎の顔に思い切り殴りつけた。
吹き飛ぶ雪斎に、ハハハと笑う盛重。
「どうだぁ! クソ坊主が調子にのってるからそうなるんだぜ!」
「おのれぇ! よくも雪斎を!」
泰能が腰から太刀を引き抜いて馬上から盛重を切り捨てようとするが、盛重はすぐに槍を拾い泰能の太刀を躱すと馬に向かって突きを放った。
たまらず馬が悲鳴をあげて馬体を上げると、泰能も馬上から落馬した。
「おのれぇ……小童が!!」
「やめよ泰能! もう時間がない! 早く撤退するぞ!!」
「……くそっ。お主、佐久間盛重とか申したな! 決して忘れぬからな」
そう言い残すと泰能達は馬に乗って走り去っていった。
盛重は遠くなっていく今川の軍師達を見ながら、自分の未熟さを思い知った。
遠くに織田木瓜の旗が見える。恐らく信秀様が兵を率いて来てくれたのだろう。
「俺もまだまだだな……もっともっと強くならねばな」
盛重は急に体が重くなるのを感じると、ドサリと地面に突っ伏した。
そして目の前がだんだん暗くなっていった。
目が覚めると、見慣れた天井が見えた。軋む床に木の香りが強い、間違いないあの城だ。
御器所城、盛重の領地の城である。城と言っても信秀様や平手殿のような立派な城ではなく、低い丘の上に作られた空堀と土塁が最低限あるだけの城で、どちらかと言えば砦と言った方が正しいかもしれない。
現在は盛重がこの城の城主と言う事になっている。
「おっ! やっとお目覚めになられましたな義兄上」
この細顔で目鼻の整った顔立ち、そしていつもニコニコと笑顔を絶やさない、間違いない自分と同じ佐久間一族の佐久間信盛である。年は盛重より2つ下の十六で、この年で佐久間家を当主である。
信盛の父が流行り病に侵され急死した事により、まだ十六の信盛が家督を継ぐことになったのである。信盛は2つ年上の盛重を実の兄のように慕っており、何時も義兄上と呼んでくる。
盛重はまだ痛む体を起こすと、頭を振りながら信盛に尋ねた。
「……信盛か。どの位寝ていた?」
「今日で三日目でござる。義兄上、随分活躍なされたとのお話でしたが?」
「……誰がそんな事を?」
「六殿や万千代殿です。どうやら他の若い武将たちも義兄上の事を噂しているらしいですよ? まぁ、元凶は殿なんですがねぇ……」
「そうか、内容は聞かないことにするよ」
「そうそう義兄上、実は義兄上に仕官したいと申す者がいましたよ?」
「仕官? 俺にか?」
「えぇ……それにおなごでございますよ」
「何? おなごだと?」
信盛はコクリと頷くと手を叩いた。すると、奥の襖が開かれた。
そこには確かに艶のある黒髪を後ろに一本に束ねた巫女のような見目麗しいおなごがそこにはいた。いたのだが……盛重ははて?と首を傾げた。
「もしやと思うが……噂の姫武将とやらではあるまいな?」
「そのまさかでござる。この者、先日の義兄上の武勇伝に心を打たれたらしく、是非とも義兄上に仕えたいとの事で」
「そ、そうか。それは……どうなのだろう」
ふむと盛重は悩んだ。何しろ唯でさえ怖がられているのに、鬼とまで言われていた盛重はあまり女性と話す機会がないので少し気恥ずかしいのである。
それを知っている信盛は、ははぁと意地の悪い笑みを見せた。
「義兄上、幾らおなごに縁がないからと言って手を出してはいけませんよ?」
「なっ!? 何を言う信盛! お、俺がそんな事をする男だと思うのかっ!?」
「冗談ですって義兄上。そんなに動揺しなくても」
二人がギャアギャアと騒いでると恐る恐る先程からいた巫女?が話しかけてきた。
「あ、あの~私は仕官できるのでしょうか?」
「ん? あぁ、少ない俸禄でよければ歓迎しよう」
その言葉を聞くと巫女?はパァ~と表情を明るくすると有難き幸せと頭を下げた。
「この命、佐久間盛重様にお預けいたしまする。め、命令とあらば……そのお相手も」
「やめてくれ。部下を無理やり襲ったとあっては周りの目もこれまで以上に冷たくなるし、何より自分で悲しくなってくる。そうだ、お前名前は?」
あ……と緊張で名乗ることを忘れていたのかカァ~と顔を赤く染めると、慌てて名乗り始めた。
「も、申し遅れました! わ、私は奥田直政と申します!!」
「奥田……聞いたことのないな。信盛、知ってるか?」
「尾張には心当たりはありませぬなぁ。他国のものか?」
「はい、美濃の生まれにございます」
「美濃と言えば斉藤家の国ではないか。何故、斉藤家に仕官しないのだ?」
「最初はそうしようと思いました。ですが、父上が一度尾張を見てこいと言われたので、初めは見物がてらに来たのですがここに来てから盛重様の武勇伝を聞いてるうちに盛重様にお仕えしたく参上仕りました」
「ん、そうか。まぁ頑張ってくれ」
「はい!」
盛重の軽い返事に動揺したのは信盛である。
「ちょ、義兄上! そんなことで良いのですか!? もし敵の間者だったら如何するのです?」
「そんときはその時だ。たたっ斬れば良い話だろ?」
盛重の殺気に怖気づく二人。
盛重は冗談だと笑うと、イタタと体を押さえながら再び横になった。
苦痛に少し顔を歪めると、やれやれと言った顔で信盛が薬を持ってきた。
「義兄上、薬ですぞ。折角なので、直政殿が義兄上に飲ませてあげなされ」
「えっ!? わ、私がですかっ!?」
「えぇ、男からやられるよりやはり女子に看病してもらった方が義兄上も喜びますので」
「信盛っ!」
「おっと、それでは私は仕事がありますのでこれにて。直政殿、後はお頼み申します」
「は、はい! お任せ下さい!」
クスクスと笑いながら信盛が出て行くと、ヤル気全開にした直政が隣に座った。
その後、無事に薬を飲んで安静していると直政が精のつくものを作ってきますねと言って何処かに言ってしまった。
盛重は庭を見ながらこれから大変になりそうだなと今後の事を案じたが、再び眠気が襲ってきたので身を委ねる事にした。
姫武将が登場しましたね~(^^)
意見を下さった方々有り難うございます!!
早速、一人使わせていただきました。年代的に少し早いですが、そちらはフィクションと言うことでよろしくお願いしますm(_ _)m
次回は和気あいあいとしたものを書きたいですね~('∀`)