桶狭間の鬼佐久間   作:昌信

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どうも昌信です。
駄文ですがよろしくお願いします。


吉法師の本音

「やぁ! たぁ!」

 

 吉法師達が盛重の屋敷に来るようになってから早くも一週間。

 盛重の屋敷では朝から六の元気な声が響いていた。

 六の掛け声で目が覚めた盛重は、眠い目をこすりながら外へと足を向けた。

 

「せい! ……はぁ、やっぱり上手くいかないなぁ」

 

「そうですねぇ。盛重様はあんなに軽く丸太を真っ二つにするのですが」

 

「あんな奴と比べちゃダメよ六。あいつは妖怪よ。妖怪」

 

 六と万千代が修行する中、吉法師は横になって団子を食べていた。

 万千代がやれやれと言った顔で吉法師に注意する。

 

「姫様、信秀様からも言われているでしょう? 武芸を磨いてこその武家であると」

 

「え~遊んでいた方が楽しいもん」

 

「はぁ、それでは盛重様に怒られますよ?」

 

「へ~んだ。あんな奴これっぽちも怖くはないわよ。今に見てなさい。いつか痛い目見せてやるんだから」

 

「ほぉ、具体的にどんな事をするんだ?」

 

「聞いて驚きなさい。実は玄関の前に落とし穴を掘っておいたの。かなり深く掘っておいたから当分は出てこれないわよ」

 

「へぇ……道理で玄関の前に隠しきれてない落とし穴があると思ったよ」

 

「………え?」

 

 吉法師の後ろには吉法師が落とし穴を隠す為に使った木の板を持った盛重が立っていた。

 その顔は明らかに怒っていた。吉法師は驚いて後ずさる。

 

「げっ!? 盛重!?」

 

「吉法師! 来客があったらどうするつもりだ! それに朝から団子を食わない! それとちゃんと万千代達と一緒に訓練をしろ!」

 

 盛重がガミガミと怒ると、吉法師がうるさそうに顔を背ける。

 それにプチンと盛重の中で何かが切れた。

 

「よぉく分かった。とりあえずお前は後回しだ。六、槍を使いたいのか?」

 

「は、はい! 私も盛重様のように強くなりたくて」

 

「ははは、嬉しい事を言ってくれる。よしお前らよく見ていろ。もちろん吉法師もな」

 

 顔を背けているままの吉法師がチラチラこちらを見ていることを確認してから、盛重は笑いながら槍を腰を低くして構えた。

 

「いいか? 槍は決して腕の力だけで振るう物ではない。槍は全身の力を込めて放つから最大限の力を放つ事ができる。腰を低く落として、自分の腰を中心として円を描くように槍を振るう!」

 

 盛重が放った一撃は丸太を粉々に砕き、丸太の半分だけがその場に残った。

 それを見た三人は唖然とする。

 

「いつ見てもすごいなぁ。私も何時か出来るかな?」

 

「出来るとも。毎日欠かさず訓練していればな」

 

「本当!?」

 

「本当だとも」

 

 盛重の言葉にパァと表情を明るくする二人。それに対して吉法師は笑っていなかった。

 それを盛重は見逃さなかった。

 盛重は二人に訓練を続けるように言うと、そっと吉法師の後ろに座った。

 

「どうした? 何か城で嫌な事でもあったのか?」

 

「……別に」

 

「土田御前様に何か言われたか?」

 

「……母上はどうして私の事を疎ましく思うのかな? 私が可愛くないのかな?」

 

「……成る程なぁ。また何か言われたのか」

 

 吉法師の母である土田御前様は、吉法師のこの腕白ぶりを嫌いなのは名古屋城下では有名な話であった。ましてや、盛重は重臣の位についている。その噂は城下の者たちより詳しく知っていた。

 だからこそ吉法師には同情をしていたし、誰もが吉法師の弟である勘十郎様に期待をかけるなか盛重や平手殿達だけは吉法師に目をかけていた。

 しかし吉法師様はまだ幼い……相当の心労がたまっている筈だ。だから外に出て鬱憤を晴らしているのだろうと盛重は思っていた。

 

「そんな事はない。土田御前様がお前の事を嫌いなわけ無いだろう?」

 

 我ながら嘘が下手だと思った。土田御前様の吉法師嫌いは誰もが知っていることだからである。

 盛重の作り笑いを吉法師が見ると、吉法師はふふふと笑い始めた。

 

「な、何が可笑しいんだ?」

 

「だ、だって変な顔なんだもの」

 

 腹を抱えて笑う吉法師を見ながら盛重は、そんなに変な顔をしているのか?と万千代達に尋ねる。

 すると二人とも腹を抱えて笑い出した。

 

「お、おいおい……お前らまで」

 

「ご、ごめんなさい盛重様。ど、どうしても可笑しくて」

 

「ど、同感です。嘘が下手にも程があります。八十点」

 

 朝餉の支度をしている家人までもがクスクスと笑い出す。

 そんなに変な顔なのかと盛重は少し落ち込んだ。

 

「……でもありがとう。盛重に話したら少し楽になった」

 

「そうか。それは良かった」

 

 盛重は家人から水を受け取るとそれを一気に飲み干す。

 中からいい香りがする。どうやら朝餉の仕度が出来たらしい。

 

「お~い、お前ら飯だぞ~!」

 

「「はぁい!」」

 

 元気な二人の返事を聞き、改めて吉法師を見る。

 

「まぁなんだ。ここにいる間は城の事は忘れろ。たまになら遊びに行くのは多めに見てやるから」

 

 盛重の言葉に吉法師は目をパチクリすると、俯きながら目を擦った。

 

「遊びに行っていいの?」

 

「正し、俺も同行するがな」

 

「え~何でよ!」

 

「仮にも吉法師は信秀様の嫡子。お前に何かあったら俺は信秀様に顔向け出来んからな」

 

「……分かったわよ。じゃあ明日遊びに行くからね」

 

「はいはい、その代わりちゃんと修行もするんだぞ? あと学問もな」

 

「さぁてと、ご飯ご飯~♪」

 

「おい! 待て吉法師! はぁ、まったく……」

 

 朝餉に向かう吉法師の背を見ながら、盛重は自分の体が汗で汚れている事に気付く。

 汗を落としてから食うかと盛重は井戸へと向かった。

 

 汗を井戸水で洗い落とし体を拭き終わると、盛重は玄関に向かう。

 盛重が欠伸をしながら玄関に向かうと途中、視界が真っ暗になった。

 

「……ん?」

 

 周りが真っ暗、しかも妙に湿っている。落とし穴に嵌ったのである。どうやら別の場所にも落とし穴を掘っていたらしい。用意周到なことである。

 盛重はフッと笑うと、大声で叫んだ。

 

「吉法師ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 その声は屋敷中に響き渡った。

 これは後日談だが、この後盛重は家人達に助けられ無事に落とし穴から脱出した。

 もちろん、吉法師は今までに無いほどこっぴどく怒られたと言う……

 




次回もよろしくお願いします。

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