桶狭間の鬼佐久間   作:昌信

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こんにちは! 昌信っていいます。今回が初投稿です。
駄文ですが暖かい目で見てもらえると嬉しいです。


尾張一の堅物

「ここで終わるわけには参らぬなぁ……」

 

 信秀様から頂いた『傾城』を地面に突き刺して、やっと立ち上がると周りには今川の兵達が蟻のように群がっていた。

 味方は皆討ち死にしたか逃げたようだ。それでも、尾張に名を響かせた鬼佐久間は吼えた。

 

「今川の雑兵共! 我こそは尾張にその人ありと呼ばれた。佐久間大学允盛重ぞ!! 死ぬ覚悟があるなら懸かってまいれ!!」

 

 盛重は一人で槍を振り回し暴れまわった。雑兵の一人の頭を砕き、返す刃で一人を突き刺し、そのまま兵達の中へ突き刺した奴を放り投げた。

 その鬼気に今川の兵達がどよめいた。盛重はその隙を見逃さず包囲を突破する。

 

 ―――――――この丸根砦だけでも守らねば……

 

 盛重は駆ける。ここで自分が死ねば、今川軍が尾張に雪崩れ込むからである。

 

「きっと……あの悪餓鬼共の援軍が来る筈だ」

 

 盛重はそう言うと、若い時に世話していた幼い姫達の事を思い出していた。

 これは尾張にその人ありと呼ばれた佐久間大学允盛重のお話である。

 

 

 

 

 ――――――――尾張国 名古屋城にて

 

 名古屋城の廊下をドンドンと礼節の欠片も無い足音が鳴り響いている。

 今年で十八になる佐久間盛重はこの音を不快に思いつつも、広間にて織田家当主である織田信秀を待っていた。

 隣に控える同じ家老の林秀貞が申し訳なさそうに耳打ちする。

 

「申し訳ありませぬ盛重殿。この音は恐らく吉法師様の足音でしょう。某と平手殿が世話をしているのですがどうも言う事を聞いてもらえなくて、某も頭が痛いところなのです」

 

 成る程、噂の大うつけの姫様か。

 しかし、この気に入らぬ狸爺の参った表情を拝めるとはその点では大うつけ様には感謝さねばなるまい。

 クククと笑う盛重を何がそんなに可笑しいのかと林殿が瓜が熟れたように真っ赤な顔をした。

 それがまた面白くて、また吹いてしまった。

 

「いやこれは失礼仕った。名古屋城の一番家老である林殿をここまで困らせるとは、いやはや姫様も相当の悪戯好きですな。父君によう似ておられる」

 

「他人事のように言わんでくだされ。此度、信秀様が盛重殿をお呼びになったのも姫様の事についてなのですぞ」

 

「………それは、困りましたな」

 

 盛重は子供の相手は嫌いではないが、噂ではかなり腕白姫との事だったので世話役はなりたくないと思っていた。すると、襖が無造作に勢い良く開かれた。二人はそれを聞くとすぐに頭を下げた。

 

「面を上げい。二人とも」

 

 顔を上げるとそこには、何時もどおりに豪快そうに笑う信秀様がそこにいた。

 

「盛重! よう来た!」

 

「はっ! 信秀様の命とあらば何処までも参りまする」

 

「ハハハ、相変わらず堅いのう。それでは女子はよりつかぬであろう?」

 

「某の女子の話など後でよろしいでしょう? して、此度は如何な命を?」

 

「はぁ、まったく堅い! 堅いのう! まぁよい、入って参れ」

 

 信秀の合図で入ってきたのは、腰に瓢箪を縄でぶら下げ、着物を着崩している童が入ってきた。

 それを見た林殿が慌てふためく。

 

「ひ、姫様!! 何と言う格好を! 早く着替えを!」

 

「うるさい爺。父上、私に何か用?」

 

 童の後を追って、駆けつけてきたのは名古屋城の二番家老である平手政秀殿であった。

 一部始終を見ていた平手殿は顔を真っ青にすると、素早く腹をだして懐から懐剣を取り出した。

 

「申し訳ありませぬ!! 殿に林殿!! 姫様のご無礼、この平手の切腹でお許しを!」

 

 俺は平手殿が懐剣を刺すよりもっと早く、平手殿の懐に抜き手を入れる。

 平手殿は膝から崩れ落ちた。それを見ていた信秀様は、愉快そうに笑い始めた。

 

「殿! 笑い事では済みませぬぞ! 危うく平手殿が腹を切る所でござった!」

 

 信秀様は「なぁに何時もの事だ」とまだ腹を抱えて笑っていた。

 林殿はフラフラと腰が抜けたように倒れていた。

 それを見た童………と言うより、この子が信秀様の姫である吉法師様なのであろう。

 吉法師様は、信秀様と供に笑っていた。

 

 ――――――――某が止めなかったら平手殿は本当に死んでいたのだぞ

 

 盛重は拳を震わせながら、笑っている吉法師を睨みながら立ち上がるとズカズカと笑っている少女の前に立った。それを驚いたように林殿と信秀様は見る。

 

「何よ……何か文句あんの?」

 

 不機嫌そうな表情をする吉法師に俺は無言で吉法師の頭に拳骨をお見舞いした。

 たまらず吉法師が頭を抑えて転げまわった。

 それを見た林殿は慌てふためいている反面、信秀様は最初は驚いていたがその後は満足そうに笑い始めた。

 

「あと少し遅かったら平手殿が死んでいたのたぞ! それなのに貴様は何故笑っていられるのだ! この大うつけが!」

 

「よ、よくもやってくれたわね……あ、あんたなんか打ち首よ! 打ち首にしてやるんだから!」

 

「も、盛重殿!? は、早く侘びをいれなされ! 冗談ではすみませぬぞ!」

 

 俺は林殿の声を無視して、今度は吉法師の両足を持ち上げると、そのままグルグルと回し始めた。

 

「ひやぁぁぁぁあ!! 目が回るぅ~!?」

 

「はははは!! やはりお主を呼んで正解じゃったわ!!」

 

 その言葉に俺は動きを止めた。目が回った吉法師を床に下ろすと、すぐに姿勢を正して信秀様の前に座りなおした。

 

「正解とは? 如何なる意に?」

 

「いや実はのう。暫く平手と林には、重要な任務があるのだ。そこで、お主に世話役を頼みたくてな」

 

「………それなら他に適任者がいられるでしょう。某の従兄弟の信盛が適任かと」

 

「いやいや、その信盛がお主を推薦したんじゃよ。まぁ、実の所わしもお主が適任じゃと思うとる」

 

 あの野郎……と俺は従兄弟にあたる佐久間信盛に後で仕返しに行こうと思った。

 それを見た信秀様が、また笑い始める。

 

「何が可笑しいので?」

 

「いや、これからのお主の事を考えるとのう。ついな……」

 

「はぁ……分かりました。吉法師様の世話役しかと承りました」

 

「そうか! やってくれるか! いやぁ助かる。他の重臣は複雑な表情の後、次の日に具合が悪くなってしまってのう。いやぁ、本当にお主に頼んで良かった」

 

 ………騙された。

 昔からこの人には騙されてばかりだ。

 俺が溜め息を吐いていると林殿と何時の間にか復活していた平手殿に肩を叩かれた。

 二人の目から頑張れよと言う思いがいやと言う程伝わった。

 

「では、明日からお主の屋敷に向かわせる故、屋敷で待っているように」

 

「は? ははっ!!」

 

 

 

 

 

 ―――――――――翌日

 

「父上から言われたから仕方なく来てやったわよ! 感謝しなさいよね!」

 

「姫様ぁ、盛重殿に失礼ですよぉ」

 

「全くです。二十点」

 

 盛重の前にいるのは、三人の童。一人はまぁ、吉法師で他の二人は……誰だ?

 

「えぇと……君達は?」

 

「あれ? 聞いていませんでした? 本日から盛重様からあらゆる事を教わるようにと信秀様から命じられてきました。私が万千代と申します。それでこっちの活発そうなのが……」

 

「六って言います! よろしくお願いします!」

 

「そ、そうかそうかぁ。殿の命でねぇ……とりあえず、中に入ってくつろいでな」

 

「「「はぁい」」」

 

 屋敷に走って入っていく三人を見た後、盛重はフッと笑って道場に入って木製の槍を手にとった。

 そして目を見開いてその言葉を言った。

 

「また騙されたぁぁぁぁぁ!!」

 

 槍は虚しく空を切るばかりであった。

 




次回はほのぼの系にしたいと思います。

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