「どうも、私が変なおじさんです」
先程バニーさんに待ってもらっている間に、買っておいたワニのリアルな被り物を被りながらの一言。これでつかみはバッチリだ。
「あ、これ差し入れです。皆さんでお食べになってください」
バニーさんに差し入れを渡す。
「あ、ありがとうございます…………これうちの船で売ってるホエルオーの涙じゃないですか」
この船の名物でもあるホエルオーの涙は、カスタードクリームをカステラ生地で包み、涙滴型に整えたもので、個人的にブームになっているお菓子だ。若干お値段が高いのだがそれだけの価値があると思える美味しさでもある。
「さて、呼ばれたということはアクア団に関して何かしらの動きでもあったんですか?」
ダイゴさんはどう出るかね? 所詮1トレーナーで不審者な俺をここに呼ぶ理由はなんだ? …………まぁ手紙関係だろうな。よし、バッチこい。
「そのまま話すんだね…………この手紙の件で君をここに呼ばさせてもらったんだが、それよりも不思議なことがわかってね? ……立ち話もなんだし、先に椅子に座らないかい?」
手紙以外? 他に何かやったっけ? …………うーんカジノで御神木様と焼肉しようとして止められたぐらいしか記憶にないぞ?
「何から聞くべきか……質問が多すぎるのも困りものだな。まず最初の質問だ。どうして君は僕がアクア団やマグマ団を追ってるって知っていたんだい?」
ダイゴさんの目が細くなりこちらを見ている。別に探られても痛くないから問題ないがね。
「状況証拠からですよ?」
「ふむ、どうしてそんな風に考えたんだい?」
「まず、いつもならこういったイベントに参加しないダイゴさんが、今回に限って何故か参加している」
この時点で理由がありますよと言っているようなものだ。
「でもそれはいつも趣味の石集めに興じているだけだよ? ポケモンリーグからせっつかれただけかもしれないじゃないか。それだけじゃないよね?」
「次に、アクア団がこの場所にいるのを知ったとき、アクア団の奴らはダイゴさんを妙に警戒してました」
少なくとも最初の質問から考えて、追っているのは確定だし接触もしているのだろう。
「なるほど。でもチャンピオンを恐れているだけかもしれないよね?」
「確かにそうですね。あともう一つあるんです。最後に、質問に質問で返して悪いのですが、あなたは石や宝石、珠にはお詳しいはずですよね? 趣味なのですから」
「そうだね。それなり以上に知識はあるつもりだ」
「あなたなら趣味とチャンピオンという立場から【あいいろのたま】と【べにいろのたま】を知っていると思ったからです」
こちらの持つカードを1枚切る。さて、どう反応する?
「むッ!! …………なぜそれのことを? 君はイッシュ地方にいたのだろう?」
「まぁ、細かいことはいいじゃないですか。俺が珠にまつわる伝説を知っていても別に今回のことには関係ありませんよ。それに、本当はあなたがアクア団やマグマ団を追っているのを知らなくても、なにも問題なかったんですよね」
「ん? …………あぁ」
「ご察しの通り、犯罪集団がいるのだから通報するのは当たり前なんですよ。しかもその場にはこのホウエン地方最強のあなたがいるのですから。これであなたが動けばよし。もし動かなければ、代わりに警備に送れば警備は動かざるをえない。最悪その情報をテレビ局とポケモンリーグに送って、私が被っているかもしれない損害の補填をすればいい」
そうなればきっとマスコミは面白いように煽ってくれるだろう。視聴率確保の為に過激な報道を好むからなぁ。
「なるほど…………確かに当たり前ではあるな。傍目八目だったよ」
「いえいえ。で、呼ばれた理由はこれだけですか?」
「まさか、次の質問だ。君はマグマ団やアクア団の活動理由を知っているかい?」
うーむ、また判断しづらい質問だな。単なる興味か?
「両方ともある程度は知っていますよ。ほかの場所で活動している時でも、大声で叫んでいるらしいじゃないですか。マグマ団は陸地を【皆】という不特定多数の為に広げようとしている。アクア団は地球の海を広げることで【新たな生物が生まれ育つ場所】を作る、でしたっけ?」
「重要な単語が抜けているね。どうやって陸や海を増やすか知らないのかい?」
「残念ながら、今は片方しか知りませんね」
ここで全て知っていると答えたら面倒なことになる。文献はあまり残っていなかったはずだ。他地方の俺が知っているなど胡散臭くて仕方がない。
「へぇ!! どっちを知っているんだ?」
「カイオーガの方、つまりアクア団が何をやりたいかを、ある程度正確に知っています」
「どうして知っているんだ? やはり繋がりがあったのか?」
「もしそうだったら、今ここにいませんよ」
「…………それもそうか。スマンな最近あいつらのせいでイライラしているようで少し声が大きくなりやすい。大目に見て欲しい」
「構いませんよ。なんで知っているか、でしたっけ? それは俺がこいつを持っているからです」
そう言って、バックパックから【あいいろのたま】を取り出しダイゴさんに見せる。
「……は? え、これは…………なぜ、これがこんなところに……?」
一瞬、ダイゴさんの口がぽかんと開きっぱなしになっていた。イケメンのこういった姿はなかなかレアではなかろうか?
「私もわかりませんよ。なにせ朝起きたらあったのですから」
ホント、なんで俺のところに来たんだろうなコレ。こっちに持ってきた訳でもないのにまたあったし。本当に訳がわからない。ダイゴさんが見ている中で、リュックの中に【あいいろのたま】をしまう。
「こちらへ渡して貰うことは?」
ぶっちゃけソレが出来るのならベストだよね。
「私としてはその方がいいと思うのですが、たぶん無意味ですね。コレ、遠い自室に置いてきたはずなのに、いつの間にかリュックの中にありましたし」
ダイゴさんが訝しげな目で見てくるが、いつの間にか戻ってきていたのは本当だし仕方がない。嘘は言っていないはずだ。それでもじっと見つめられていると、何やら不思議とむず痒いような気分になってくる。まるで頭の中を覗かれているような……そんな不思議な覇気があるな。
そんなカリスマのあるダイゴさんだが、これ以上無言を続けても無意味と感じ取ったのか、一度大きなため息をついた。
「……はぁ。訳がわからない、いったいどういう事なんだ…………なんだか頭がパンクしそうだよ、僕は」
アルセウス君がやりましたって言ったら全て丸く収まらないかねぇ? 収まらないか。あとそこは、本当に回収が無意味なのか一度実験するべきじゃないの?
「とりあえず最後の質問だ――――君は航海5日目までどこに居たんだ?」
ゲッ!! ここでその質問が出るか。そこを突かれるときついなぁ。どう誤魔化すかな。正直に答えるか?
「俺もよくわかっていません。家で寝ていたはずが、気がついたらチケットを持ってベッドの中で眠ってました」
ここで異世界人だなんて言っても、頭がイっちゃってる人の言動としか思えんもんな。まぁ、それはそれで構わないのだけれども。どの道、後々には自称異世界人で通すつもりだし。今でもそういう目で見られているが気にしない。
ただ、それでゴリ押すべきなのは今ではないと思う。
「へぇ、不思議なこともあるものだな」
「まったく、同感ですね」
「で? 本当のところは?」
「正直、俺もよくわかっていないので答えようがありませんね」
どうやっても説明できんよ。そんな目で見ないでくださいダイゴさん。その、なんだ、照れる。
「無言で頬を染めるのは止めてもらいたいんだが」
これは失礼。
「それで、俺の扱いはどうなるんで? 軟禁みたいにするなら飯を大量に持ってきて欲しいんですが」
「いろいろとツッコミたかったけどそうだね…………君は軟禁ではなく倉庫区域入口の2ブロック前でアクア団の足止めをしてもらいたい」
む? 俺を参加させるメリットはなんだ? 人員不足はないだろし質が足りていないということもないだろう。さっきの経歴明らか様に不審人物だぞ。
「色々と考えてるみたいだけれどね、簡単に言うと警備員は客の護衛で動かせない」
「それだけですか?」
まさかとは思いながら聞き返す。
「いいや、次に僕たちは絶対に守らなければならない場所が2箇所ある。1箇所目は大型荷物などを入れている倉庫区域、2箇所目は艦長室や船のブリッジのある区画、この2箇所だ。地理的に僕一人ではカバーしきれない」
「それは俺以外の腕のいいトレーナーでもいいはずでは。むしろ、その方が裏も取れているから安全でしょう?」
「最後に、君のコロシアムでの戦い方を見せてもらったんだけど、アレは明らかに何か意図を持って【ステルスロック】を使用してるね? その辺で君に興味がわいた。まるで狭い室内戦を想定しているかのような感じだったよ。フィールドはそんなに狭くないはずなのにね」
おお、流石チャンピオン。よく見ているなぁ。
「それに、恐らくだけれども、君に防衛してもらう倉庫区画には練度の高い戦闘員は行かないと思うよ?」
「それはまたどうして?」
倉庫区画に奴らが欲しいモノがないのか?
「手紙には少し間違いがあってね、君は古代ポケモンの化石かなにかだと書いたがこの船にそんなものは乗っていないんだ」
「じゃあ、いったいなにが目的で?」
「船長室に遺跡で見つかった古代にいたポケモンの資料がある。おそらくカイオーガなどの超古代ポケモンなどの情報も含まれている物だ。そして、どこにソレがあるか程度の情報も流出しているだろう」
「なるほど、そういうことですか」
つぶやきが口から漏れる。だから倉庫に来るであろう人員は、荷物持ちと突破用の戦闘員しかいないと考えたのか。
「船の大きさの関係で、外からは入ってこれないだろうから、必然的に内から外へ出る形になるはずだ」
ふむ。内部潜入できる人員なんて限られるだろう。
「そうなると、相手は少数精鋭になるのでは?」
「少数精鋭というか……まだまだ幹部以外はドングリの背比べだからね。バッジ0の人とあまり変わらないから、荷物持ちとしてしか使えないだろうね」
ああ、まだそんな感じなのか。となると幹部の一人が潜入で、もう一人が逃走用の船の運転兼護衛かね?
「なら俺と同じですね。俺もまだバッジ0ですし」
「君はバッジ0なのはトレーナーカード確認した時に知っていたけど、バッジ2つの相手にも勝てているのだから自信を持っていいと思うよ」
「相性の差もありますけどね? 相棒の耐性がものすごく多いので力押ししやすいんですよ」
「それを上手く扱うのは君の指示だ」
こんな歯の浮きそうなセリフ、素で言っているんだろうな。
「まぁ、確かに少数精鋭モドキなら相手にするのは問題ありませんね」
「だから倉庫区域は頼んだよ? 僕も早めに倒して合流するつもりだから」
◇ ◇ ◇
「色々と予定が前倒しになっちまったな」
「クギュウ」
「いやはや、拙ったなぁ…………」
「ク?」
不思議そうな顔をする御神木様を撫でながら先ほどの会話について思い出す。さっきダイゴさんは【少数精鋭というか……まだまだ幹部以外はドングリの背比べだからね。バッジ0の人とあまり変わらないから、荷物持ちとしてしか使えないだろうね】と言っていた。
つまり組織としては、まだそれなりに新しい部類ということになる。なんで他の地方の人間が知っているのかという理由が嘘っぽく見えてしまったし活動内容を知らない可能性もあったのか。これはやっちまったかなぁ。
まぁ、過ぎちまったことだから気にしないでおいたほうがいいか。ダイゴさんが聞いていなかった可能性もワンチャンあるし…………きっとワンチャンあるし。めげずに行こう。うん。
このワニの精巧な被り物にもあんまり触れてくれなかったしなぁ。
よし、気晴らしにバトルで金稼ごうか!
「御神木様! ポケモンバトルで鬱憤を晴らしに行こうじゃないか!」
「クギュ!!」
前と同じようにラグビーボールのように御神木様を抱え、アリーナへ向かう。
ワニの被り物はMGS3のアレによく似たものです。