戦い続けてはや2日、本日は航海9日目。おそらくあと2日はコロシアムに
先ほど、たんぱんこぞうの使うジグザグマとグラエナをしばきあげたところで、
「お、これはまさか…………とうとう覚えたか!」
ということは先ほどレベル9に到達したのだろう。望んでいた【のろい】をついに覚えることができたようだ。これでアクア団を追い返す、あるいは挟撃する手段が完成できた。
「行ってこいスバメ!」
「スバッ! スババッ!」
相手のラストはスバメ。【ステルスロック】直撃で体力3/4スタートだ。防御が1段階上がり、【やどりぎのタネ】で回復している御神木様を止められるとは思えん。勝ったな!
「スバメ、【つばさでうつ】攻撃!」
「スババババ!」
上空から羽を広げ、落下するように一気にこちらへ突っ込んでくる。
飛行タイプ王道の攻撃方法だな。だが、昨日オオスバメに負けた時に何度もやられたから対策はできているぞい!
「【ころがる】で正面から叩き落とすんだ!」
「クギュ!」
勢いに乗り始めるまで少し時間がかかるが、飛行タイプに弱点の岩タイプで応戦する。ついでに特性:鉄の棘で追加の接触ダメージだ。
流石にオオスバメ相手には体格差で吹き飛ばされたが、攻撃が1段階上昇してるし、スバメならばそのまま押しつぶせるはず。あの時は棘のスパイクありでも吹き飛ばされるとは、思いもしなかったよ。
「クギュギュギュギュッ!」
「スバババッ!?」
攻撃はぶつかり合って、互いにダメージもなく軌道がズレる。初撃は少し拮抗したが、転がるはターンが経過するごとに威力が上がる技だ。2撃目はこちらが勝つだろうし3撃も当てればそのまま勝てるだろう。相手はどう出るかね?
「もう一度【つばさでうつ】攻撃!」
「スバッ!」
ほう、また突っ込むのか。面白い。
「こっちも正面から立ち受けよう。【ころがる】!」
「クギュ!」
勢いの増した御神木様が、真正面からぶつかったスバメを転がり潰し、そのままUターンしてスバメの周りを転がっている。傍から見ているとどこぞの大岩が転がってくる映画を思い出す光景だ。
「スバメ、戦闘不能。よってこの勝負、キョウヘイの勝ち!」
終了宣言により御神木様が帰ってくる――――――【ころがる】を維持したままで。
「ちょっ、待って、止まってくr」
「クギュ?」
そのままの勢いで押しつぶされる。いったい、俺が何をしたというのだ……いや、普段やらかしているな、うん。
「勝負ありがとうなー!」
元気に手を振る短パン小僧を尻目に、微妙に元気の有り余っている御神木様に連れられ、フィールドから出て行く。
とりあえず食事をさせて落ち着かせよう。新しい技を覚えて、精神が高揚しているのだろう。わからなくもないな。
この状態の御神木様をスマホのアプリで撮ると
No.597 テッシード(御神木) ♀ 生意気な性格 色違い
体力 31
攻撃 31
防御 31
特攻 11
特防 31
素早さ 00
覚えている技
たいあたり
やどりぎのタネ
タネばくだん
ステルスロック
ころがる
こうそくスピン
のろい
めでたく【のろい】が追加されている。疑惑にあったレベルが表示されないというのは確定だろう。努力値も怪しいが実数値が見えん限りどうしようもないな。パソコンがあればアップデートできそうなのだが。便利なんだか不便なんだかわからんなコイツは。
◇ ◇ ◇
バイキングについたらウェイターの人に声をかけられた。どうやら探していたものが手に入ったらしい。
「本当に…………これ…………なんですか?」
目の前に、リンゴの芯にしか見えない道具がテーブルの皿の上に置かれている。
「ええ……これが上位トレーナーがよく使っている道具……【たべのこし】です」
【たべのこし】、通称残飯。ポケモンに持たせると、ターンごとに回復する便利アイテムで、手持ちが御神木様以外にいない俺の生命線になりうるモノだ。ポケモン金銀で初登場し、ポケモンの健康面や衛生面が不安になるとネタにされながらも愛されている道具でもある。いくら食べても減らない食べ残し…………本当にコレ持たせて大丈夫なのだろうか?
「探していただいてありがとうございました」
「いえいえ、むしろこれでよければいいのですが…………」
うちの美食家である御神木様に渡して反応を見る。
「御神木様~。これ、気に入ってくれるかな?」
「クギュ」
御神木様は【たべのこし】をつついたあと頭の上に乗っけた。そういえば手とかないけどどうやって持つのだろうか?
「クッ!!」
気に入ったらしい。よくわからんが背中に張り付いたような感じになっている。
見た目は先ほど述べたとおりリンゴの芯にしか見えない。とてもシュールである。ウェイターにチップを渡し、お礼を言う。
「お気に召していただけましたようでなによりです」
そう言ってウェイターは去っていった。
目的のほとんどは終わってしまったが残る日数どうしようかね? レベル上げすぎて言うこと聞いてくれなくなっても困るし、欲しかった食べ残しは手に入れた……カジノ行っちゃう? 行っちまうか、カジノ。
景品にわざマシンのいくつかが置いてあったはずだし、御神木様という幸運の元がいるのだからきっとそれなりに稼げそうな気もする……これ完全にアウトな考えや!! ハマらないように気をつけねばなるまい。
目の前で、小さな鉄球に引っ付いて動かなくなっている御神木様を眺めていると、ふと天啓が降りてくる。そうだ、ダイゴさんともう一度接触しよう。でもどこの部屋にいるのかわからない。俺の天啓は役に立たないらしい。
「なぁ御神木様、どこか行きたい場所あるか? レストラン以外でだ」
レストラン以外、ここ重要だ。言わなきゃきっとハシゴする羽目になる。
「クー……………………クギュ!」
えらく長考していたが考えは纏まったのだろう。鉄球を食べきり、移動し始める御神木様を慌てて追いかける。
どこに興味を持ったのだろうか?
◇ ◇ ◇
やって来ましたカジノ! 結局カジノかよとも思ったが、御神木様が行きたいと行動でお示しになられたのだ。これで俺がカジノにハマっても仕方がないよね? 僕は悪くない。
いろいろなモノがあるがまずはコインケースとコインを買おう。コインを拾うのはマナー違反である。売り場にてコインケースを買おうと値段を見る。5万円となかなかいいお値段をしているが完全に予算オーバーである。
コインは全地方共通のものらしく、コインケースごとどこの場所でも使えるらしい。ちなみに防水性のようだ。無駄に高機能なことに残りのコインの枚数が表示されたり、指定した枚数のコインを出せるようにもなっているらしい。他にものがないので仕方なくそのコインケースとコイン50枚を買う。思いの外重たくはないが、9999枚コインを入れたら持てなくなりそうだ。ゲームの主人公この状態で走り回ってたのか、凄まじいな。なおコインは換金できないっぽい。
「御神木様、最初になにからやるよ?」
後についていくとスロットの列を抜ける途中で止まる。ここがいいのだろうか?
「ここでやるのか?」
「クッ!!」
見た目は基本的なスロットと同じで1枚入れたら横三列、2枚で横三列と左斜め一列、3枚で横三列と左斜め一列と右斜め一列が絵柄を揃える場所になる。
狙うはコイン6000枚のわざマシン群、№13の冷凍ビーム、№24の10万ボルト、№35の火炎放射だ。
この3つは何が何でも取りたい。万能過ぎるからな。
3枚入れてスロットを回す。絵柄がグルグル回るが目押しできない速度ではない。まずは7を揃えるためにタイミングを計る。
「ここだ!」
左ボタンを押すと、思っていたタイミングよりも少しズレたタイミングでスロットが止まった。一番上の列で止めようと思っていたが一番下の列になってしまった。2つ分ズレるのか、タイミングが地味にキツイな。
次に右のボタンを目押しすると今度は真ん中の列で止まった。こっちは1つズレるらしい。全部同じズレじゃないようだ。
最後に真ん中のボタンを目押しするとその場で止まり、一番上の列に7がある。それぞれのズレ幅を体で覚える必要があるな。
2度目の挑戦であっさり揃ってしまってちょっと拍子抜けしてしまった。なんだ、簡単じゃないか。300枚のコインが一斉に流れ出てくる。これは勝ったな! 風呂入ってこよう。
◇ ◇ ◇
だいたい3時間が経過した。
まぁ世の中そんなに上手くいかないよね。手元がすっかり寂しくなってしまった。
わざマシンは、全部あのスロットで稼がせていただいたから揃ってはいるんだよ。その後ポーカーやブラックジャックにまで手を出したら7000枚あったコインが130枚になってしまった。
まぁこれでも最初に買った分より多いけれど、寂しく感じてしまう。
「だから御神木様、これで遊ぼうぜ!」
連れてきたのはルーレットコーナー。巨大な円盤が置いてあり、回転する円盤に球を投げ入れ、落ちる場所を当てるゲームだ。アメリカンスタイルらしく0と00があり、38区分だ。
ゲームの手順としては、最初にディーラーがベルを1回鳴らし、ベットの開始を知らせてから、好きなところに賭ける。ディーラーが玉を円盤の回転方向と反対方向に回るように入れたら、追加でベットやベットの変更を行う。少し経ったらベットの終了をディーラーが宣言する。最後にボールがポケットに落ち、ディーラーが外れたチップを回収し、的中したベットに対して配当を行う。だいたいこんな流れだ。Wiki大先生もそんな風に言っていた気がする。
ここは機械で玉を入れるらしい。ここはインサイドベットしか行えないらしくその代わり通常よりも倍率が高いようだ。倍率は1目賭けで54倍、2目賭けで27倍と賭ける場所が多くなるほど倍率が減ってゆく。ここは最大6目賭けだ。さっそくコインをチップに変換する。
まずは30枚賭けよう。
「さてどこに賭ける?」
紙に番号を書き込み御神木様に見せると10、11、12の3つを指した。つまり3目賭けだ。倍率は18倍である。それぞれの場所に10コインチップを置く。
この当たるかどうかの時間がなんとも楽しいものだ。中毒にならんように真面目に気をつけなければならん。
ベットの終了がディーラーによって宣言される。さぁどうなるよ。
「16番の赤です!」
バニーのお姉さんが高らかに宣言する。外れてしまったのは残念だがまだ100枚残っている。まだだ、まだ終わらんよ。
「すいません、この100コインチップを10コインチップ10枚に変えてください」
バニーさんに頼んでチップを細かくする。さて、次はどこに賭けるか。そんなことを考えていると、さっきチップを細かくしてくれたバニーさんに呼び止められた
「小野原恭平様でいらっしゃいますか? ダイゴ様がお呼びになっています。ご案内いたしますので一緒に行っていただけませんでしょうか?」
まさかのタイミングである。もう動くのかよダイゴさん。さっきはネタで凸るかとか考えていたのに自分の方が混乱させられるとは……ダイゴさん、恐ろしい子!!
「わかりました。御神木様を連れてくるので少し待っていてください」
御神木様を回収しに向かうと異様な光景が広がっていた。何故か御神木様の前にチップの山があるのだ。え? なにがあったの?
隣の席にいたマダムに話を聞くことにする。
「すみません、何があったんですか?」
「ああ、このテッシードちゃんの飼い主かい? さっきチップを少しあげたらこの子が大当たりさせてね。久しぶりに大笑いさせてもらったよ」
おおう、うちの御神木様はやはり何か持っているらしい。食べ残しのことじゃないよ?
運を上げたいとおっしゃっていたので、チップを貰ったお礼に御利益があると言って、御神木様のボディー磨きのときに抜けた棘の中で一番色の濃いものを渡す。名は体を表すというのを改めて感じたよ。
チップをコインに全部変換してコインケースの中に入れると4420枚になった。もともとの手持ちが100だから…………80枚も貰ったのか!? あれで恩返しになるのだろうか? 少し悩みながらバニーさんと合流する。
「どうしたんですか?」
「相棒の凄さというのを痛感させられまして」
「はぁ……?」
不思議そうな顔をするバニーさんと一緒に船長室へ向かう。いったいこんな不審者を連れて行ってどうするのだろうか?
後日談だが棘を渡したマダムは、のちにポケモンコンテストで優勝したとポケモンセンターの新聞で見かけた。