「……と、いうわけで新しく仲間になったイーブイもとい夕立ちゃんです」
「ブイィ……」
夕立の額や耳の後ろの付け根をグリグリ撫でながら発表する。ここか? ここがええのんか? 気持ちよさそうな顔しやがってコイツめッ!
一昨日より全体的に毛が伸びてきている。やっぱり向こうの生物とは成長速度が異なるようだ。タマゴの中から出てきた時点でそれなり以上に動けていたしなぁ……首座ってるとか言うレベルじゃなかったわ。跳ねまわれるどころか技使えるんだもん。
ただ、イーブイの関節だとかに負荷が掛かって相当体に悪そうだから、当分は技を復習する程度に抑えておこう。実践経験はもうちょっと体が出来てからだな。その間はバトルの見学をさせることも忘れてはいけない……怯えなければという前口上が付くが。
「ああ、結局そうなったんだ」
ポケモンセンターの一室。ちゃぶ台にお茶菓子として置いておいたピクルスをポリポリ食べながら話を進める。そろそろ追加のビン買ったほうがいいかもしれない。流動食用のも貰っては来たが、やはり自分でも持っておくべきだろう。
「うむ。テンカイさんに返そうとしても付いて来ちゃってなぁ……ダイオウホウズキイカマスクが原因かと思ってあのマスク脱いでも結果が変わらなかったし。無理に返そうとすると鼻鳴らすし……」
それでも置いて行こうとするとじっと見つめられるし……泣く子には勝てんよ。
「テンカイさんが『これも何かの縁ですから、この子を旅へ連れて行ってくれませんか』と仰ってな。そこまで言われたら俺も折れるしかないだろう? まぁ、託されたからには責任を持って育てる所存だ」
しっかりとした子に育て上げてみせようじゃないか。撫でるのをやめて膝の上に乗せてやろうとするが、大賀に奪われてしまった。大賀の頭にある蓮の葉の上でちょこんとお座りしている。かわいい。
「……ニックネーム的にどんな育て方をさせるか透けて見えるかも」
「やっぱり? ハルカの予想の通りシャワーズに進化させようと思っているんだ」
「どうしてシャワーズなの? キョウヘイ先生のパーティだと他にも選択肢はあると思うんだけれど……」
「うん、俺も悩んださ。まず先に誰に進化させるかを考えて、リーフィアは除外した。流石にこれ以上草タイプが増えたら炎使いに勝てる気がしないからな。で、次に同じような理由でグレイシア。これも炎や格闘に弱く弱点が被ってしまう」
グレイシアの特殊攻撃力は魅力的だったんだけれどね。飛行タイプにも強くなるし。
「その次に除外したのはブースターだ」
「え? 晴れにしたらキョウヘイ先生達でも戦いやすそうなポケモンだと思うけれど?」
それも考えたんだけれどねぇ……今の手持ちで天候を操るのなら、晴れよりも雨だろう。手持ち的にとても噛み合っていい感じになるのだ。【あまごい】の技マシンとかその辺に落っこちていないかね……あるのって確か捨てられ船だったか? 遠いんだよな……
「やっぱり自分の弱点に対する火力が上がるっていうのはキツいのさ。ついでに火自体が大きくなって避けづらくなるし。さて、話を戻そうか。残りはサンダース、エーフィ、ブラッキーだな。次に外したのはブラッキーで理由は、これ以上特殊受け物理アタッカーを増やしても仕事が被るからだな」
御神木様と仕事がモロ被りだもんなぁ……しかも、サポートなら他の進化系列でもできるし。
「その次はエーフィだ。確かに強力な積み技である【めいそう】を持ち、火力や特殊防御力を底上げできるが、正直今はエスパータイプをそこまで求めていない」
格闘に強くなれるのは魅力的なんだけれど……残りのシャワーズ、サンダースの方がより魅力的だったんです。それに今の俺は、なんとなくだけれどエスパータイプから嫌われているんだよな。みんな最初に【ねんりき】使ってくるし。心を探られなかったのってラーメン屋の時ぐらいじゃないだろうか?
「そして最後にシャワーズにするか、サンダースにするかを選んだ訳だが……決まり手は特性や、夕立が遺伝していた仲間を回復できる【ねがいごと】と言う技だった」
「【ねがいごと】は強力だし、それが決め手になったのはわかるけれど特性? サンダースの特性も電気タイプの攻撃を吸収できる蓄電だからかなり強いと思うのだけれど……」
うん。普通ならかなり使いやすい特性なんだけれどな……
「そう思っていたんだけれどね。ここで計画が破綻! この子は隠れ特性、もとい特殊個体だったのです。網代笠みたいにね。だからサンダースに進化させた場合の特性は蓄電ではなく早足になってしまうんです」
ここでまさかの特性被り。しかもサンダースさん元々早い部類なのにこれ以上早くしても……ねぇ?
「まぁ、最後の一手で未確認の新進化を目指すというのもアリっちゃあアリかもしれないが、責任を持って育てると宣言した以上、不確定なものは俺の信念がそれを許さなかった。そんな紆余曲折を得てシャワーズとなった訳です。それに電気タイプなら最近キンセツシティ周辺に集まっているって聞いたから、黒い雷の調査の最中にでも仲間にできそうだし」
ミツル君もコイル捕まえたって言っていたし。こう、バチコンかませばなんとかなるだろう、きっと。
それはともかく、今回夕立が仲間になったことで俺のパーティーのコンセプトが決定したのだ。雨っぽいパを作ろう! 弱点減るし御神木様や大賀が動きやすいしで一石二鳥だ。カイオーガ調査の時でもこっちの方が都合が良さそうだし。
「……ちなみにどんな技覚えていたの?」
「技がなんと言うか、あの親達あってこの子ありという感じだな。これ向こうで夕立の扱える技を調べた時のメモな」
「ブイ?」
そう言って確認したメモを見せる。その時に、名前に反応した夕立が頭の毛繕いをやめて頭を傾げていた。つぶらな瞳がキュートですな。
№133 イーブイ(NN:夕立) ノーマルタイプ 性別:♀ 特性:危険予知 図太い性格
通常色個体
覚えている技
あまえる
じたばた
のろい
ねがいごと
あくび
みきり
たいあたり
てだすけ
しっぽをふる
バトンタッチ
「うわぁ……」
「戦えるようになったら、そこらの野生ポケモンなんて目じゃないだろうな」
攻撃技は【じたばた】、【たいあたり】しか無いが、このサポート技の山。極めつけは何故か覚えていた【バトンタッチ】。もうこの娘一人でサポート全部出来そうな勢いである。シャワーズになったらこれに【とける】が加わる訳だ。
本当に、既に【バトンタッチ】を覚えていたのは予想外というか、予想のしようがなかった。まぁ、シャワーズに進化させる為の今後の計画が早まるから嬉しい方の予想外だな。
雨を降らせるようになったらもっと面白いことになるだろう。サポートしながらの対物理無敵要塞が完成しそうである。
「ねぇ、この特性:危険予知ってどんな特性なの?」
「ん? ああ、それか。簡単に言うと、対戦相手が効果抜群や一撃必殺となる技を持っているかが分かる能力、もとい勘だな。網代笠が前に立った時だけ警戒態勢を取っていたから間違いないだろう」
御神木様が前に現れても鳴きもしなかったのに、格闘技持ちの網代笠が前に立ったら飛び退いて姿勢低くして警戒するんだもんなぁ……網代笠あの後落ち込んじゃってたし。今は大丈夫のようだが……仲間であるという認識が着いたのかもしれない。【カウンター】持ちの大賀の頭にも素直に乗っかって座っているしな。
「ああ、そういう特性なんだ。面白い特性かも……あ、そういえば前から聞きたかったのだけれど、キョウヘイ先生っていっつもニックネーム付けるけれど理由はあるの?」
「あるぞ。一番の理由としては個の確立をして欲しいからだな。名前、名称というものは明確な個の象徴だ。故に名前があれば自己を決め、他者を判断するようになる。自分でもしっかりと考えて欲しいからこそニックネームを付けている訳だな。そして、俺は多少ネタの入った案は最初の内に出すが、決めるときは絶対に変なものにはしないようにしている」
今回考えたネタ枠だとウナギイヌやロアルドロス、ポンデライオンなんかだな。まぁ、夕立がツッコミできるほどの知識があるわけでは無いので、立案時には夕立の親達から【たいあたり】を食らった……それを望んでいたのは否定しないが。
「名前を付けるというのはとても神聖で大切なものなんだ。こうあって欲しいというのは、付けた者の願望でしかなく、それを押し付けるようになったら重圧にしかならない。例えばだが、ハルカ。もし自分の名前が愛を保つと書いて
この上で名は体を表すとか言われたら……ねぇ?
「確かにそれはちょっと嫌かな」
戦争君とか何考えているんだってレベルだ。俺自身があの事件で名前を変えたから名前の大切さがよくわかるし、こっちに来てから久方ぶりに自分の本当の名前が出せて、どこか安心した面もあった。そして、大切な相手をああいう気持ちにさせるなど以ての外である訳で。
だからこそ、真剣に名前を決めるんだ。なので、数少ない俺の真面目モードの場でもある。
「それに、ずっと種族名というのもどうかなと思ってね。他人から『おい、人間!』って呼ばれ続けるのもアレだし」
その辺については名言を残しているデーモンがいたな。
「なるほど……」
「まぁ、今から急に付ける必要は無いだろうけれどね。少し説教臭くなったが、ハルカがニックネームを付けるとするなら、その重みを知るべきだろうと思ってな。付けられた方は一生まとわりつくことが多いのだから、意味だけでなくソレが他人からどう映るのかも考えてから付けるようにするべきだということを理解してほしい」
「はい! キョウヘイ先生」
「……なんか今久しぶりに戦術や技の説明以外でまともな教師役をやった気がする」
「そう思うなら、普段からマスク被らないでまともな行動をするようにしてよ。今まで黙っていたけれどさ、真面目な話をするのならそのウマのマスクはやめよう? 今さっきの空気ぶち壊しなんだけれど……」
「これ気に入ったんだぜ、取っちゃ嫌だぜ!」
マスクは最早俺の素顔と言っても過言ではないのだ。この間一体化したんだもん。仕方ないよ、うん。
「そのマスク剥ぎますよ?」
「それはちょっと洒落にならないんで勘弁してくれませんかねぇ……おい、待て。なんでお前ら乗り気なんだ」
出会い頭に顔の皮剥ごうとする少女とポケモン達とか怖すぎるでしょう。ジリジリ迫って来るんじゃあない!
「……あ、そういえば結局マグマ団の連中はどうなったの? ニュースだと現行犯逮捕とまでしか載っていなかったけれど」
「昨日の時点であいつらはトレーナー関連の資格剥奪はされていたな。あと、話を聞く限り初犯っぽくなさそうだったから禁固刑数年といったところじゃないか?」
「それだけなの?」
ハルカの顔が少し強張る。わからなくもないが落ち着きなさい。
「ムカつく気持ちもわかるが、実行犯のリーダー格以外そんなもんだ。知っていること洗いざらい吐けば結構スグに釈放されるかもな。ただ、アクア団やマグマ団関連の事件が多くなってきたせいか、特殊犯罪精神鑑定者が出張ってくるかもしれんらしい」
「特……?」
「特殊犯罪精神鑑定者。超高練度のエスパーポケモンによって対象の人物の記憶、感情などを見ることで真実性や責任能力などを確認する特殊な精神鑑定を行う者達だ。簡単に言えば相手の本心を感じ取るポケモンと、それを判断する精神鑑定人と言ったところか」
調べた感じだと仕事を行う際は2人1組で行うらしい。そして――実質的な極刑を行う者達でもある。所謂、執行者だ。
「基本的に人権云々で出張って来ないんだがな……やっぱり、俺達の知らないところで何かしら蠢いているのだろう。普段は極刑の時ぐらいしか動かないはずだし。名前の感じが厨二的心を疼かせなくもないが……人の心なんて俺は仕事でも読みたくはないな」
ドス黒いに決まっている。しかも極刑の際は複数の執行者で相手の精神を完全に破壊するとか……まともな精神でできる仕事ではないだろう。
「まぁ、あいつらは今後の人生を棒に振ったようなものだからな。ハルカはああいう馬鹿な真似するんじゃないぞ」
これ以上、上にほとんど繋がりのない俺が流れを思案しても意味のないことだろう。
「当たり前です」
◇ ◇ ◇
「え? 電気ポケモンが寄り付かなくなった?」
どういうことなの? 昨日あのまま休みにして、調査予定日を一日ズラしたのがいけなかったの? 俺たちが来るまでに取り尽くしちゃったとかか? 俺の間の抜けたような声がポケモンセンターのエントランスに虚しく響いた。朝っぱらだからか、人気がだいぶ少ないような気がする。
「3日前のとても大きな黒い雷が落ちた頃を皮切りに、付近から電気タイプのポケモンが姿を見せなくなったの。そのせいか、以前よりポッポやスバメが多くなってしまって、今は糞が問題になってきているわ」
糞のこびりついた路上の掃除とか大変ですもんね……それにしても、やはりあの黒い雷が関係しているのか。ネットだと噂程度の信ぴょう性しかなかったが……うーむ。
「……そうですか。情報ありがとうございますジョーイさん」
「いいえ、そちらもお仕事頑張ってくださいね」
踵返して2階へ戻る。これは想定外過ぎるでしょう……ちょっと前までフィーバー状態だったじゃないですかやだー。
「ハルカ、問題が発生したぞ!」
「今度は何? また野菜の値段が高騰したの?」
うむ、それも確かに由々しき事態だが…………ハルカ、お前の中では問題=食事関連でしかないのか? 女の子としてそれはどうなんだ?
「それは元々だ。避難所に人が増えているから仕方がないだろう……いや、そうじゃない。そのことじゃあなくてな。電気ポケモンが街の周辺からいなくなってしまったらしい」
「むーん? キンセツシティの周辺って発電所があるせいで電気ポケモンが多いんじゃなかったっけ?」
「そのはずなんだが、黒い雷を放つポケモンを探していた連中が、一昨日歩き回った時に1匹もエンカウントしなかったらしい。3日前の夕方までは普通にでていたはずなのに、だ。という訳で、ハルカ君。昨日休んだ分を今から働くぞ。用意していた耐電スーツは無駄になったが、こいつはまた今度使うことにしよう」
「わかったかも。範囲と時間はどうします?」
お、スイッチが切り替わったらしい。
「そうだな……南と東の生態状況を調べるから、ハルカは北と西を頼む。方法はいつも通りで観測したポケモンの数、色、行動などはメモ帳に書き込んでくれ。後でデータ化するから。期限は……そうだな、簡易データだけでも異常性がわかるだろうから全体で1週間でいいだろう。どっちに4日使うのかは任せる。なお、戦ってみた感想を書くのも許可する。でもあんまりやりすぎるなよ」
あとはジョシュウさんなり、他の研究員なりに来て貰った方が正確なデータが取れるはずだ。それにしても、やっぱり今年は仕事が多すぎる気がするな。
「分かりました」
「あ、服装は全身黒ストッキングとギリースーツなんだがどっちがいい?」
「女の子に全身黒ストッキングを勧めるのはどうかと思いますよ。セクハラですか?」
「ハハッワロス……まて、冗談だ。まともな理由もあるぞ! 使用感として案外動きやすいんだよ、アレ。しかもパッと見で人と認識されないし」
グーはやめなさい。女の子らしくとか言うのならせめてパーにしなさい。
「……ハァ、とりあえず蒸し暑いですがギリースーツにします」
おお、そっちを取ったか。
「なら俺は苦難の道である全身黒タイツを着て行こ「着るのなら現地についてからでお願いします」」
えー。
しょうがないなぁと言ったら部屋を追い出されてしまった。まだ荷物纏めきっていないんですが……先に着替え始めたのだろう。部屋の鍵が開くまで待つか。
一時間ほどかけて準備や移動を終え、まずは南の現場にたどり着いた訳だが……
「人少ないなぁ……」
一昨日から捕まえられなくなったせいか、大体の人が撤退してしまったらしいからこんな感じなのか。ちょこちょこトレーナーが見える程度にしかいない。110番道路に入ってすぐにあるサイクリングロードも閑散としているようだ。普通なら草が生え放題な高架下は通らないのだが、今回は調査なのだ。満遍なく通って行こう。
時々木の実を拾いながら道なりに進むと、スバメを発見した。しゃがみこんでから頭の横につけたカメラの電源をつける。さて、観察を始めよう。色は通常色、動きは地上を歩いているせいかそこまで速くはないな。定期的に嘴で地面をつついているが向こうの鳥と同じように虫でも食べているのだろうか? 解像度がよろしくないからわからんな。
20分ほど眺めていてわかったことがある。一見すると普通に振舞っているように見えるが、定期的に首を上げて空を見ていたり、北東の方角をしきりに見ているようだ。視線の先を眺めると……
「あれは……ニューキンセツか?」
ポツリと言葉が口から漏れた。ここから見えるニューキンセツは入口にガードマンが立っており、発電所としてかはわからないが、とりあえず稼働しているように見えた。
ニューキンセツは俺の知識とは異なり、どこかの企業が買収したとか聞いたが……はて、どこの企業だったか。今度もう一度調べ直そう。
「スバッ!?」
「あ、気付かれた」
頭を出して一緒の方向を眺めていたらスバメに気付かれてしまった。すぐさまスバメが戦闘態勢をとる。さて、誰を出すかな……網代笠を出したいのだけれど、流石にタイプ相性や技的にキツいだろう。
「よし、夕立と大賀出てこい」
「スボッ」
「ブイュ……」
大賀と夕立をボールから出して、眠そうな夕立を抱え上げる。夕立はよく眺めておきなさい、これがポケモンバトルだ。一歩下がり、大賀へ指示をだす。
一気に上空へ飛び立ったスバメが大賀の周りをどんどん加速しながら旋回し始めた。
「大賀、【れいとうビーム】で迎撃しろ!」
「スババババッ!」
スバメが一定速度まで上がったところで翼を大きく広げ、光らせながら突っ込んで来た。おそらく【つばさでうつ】だろうか? この時点でレベル13相当だということがわかった。網代笠だときつい相手だったな、こりゃ。出さなくて正解だった。
「スブッ!」
大賀が突っ込んできたスバメに【れいとうビーム】を当てようとするが、スバメは空中で体を捻ることで【れいとうビーム】を避けて――
「スバァッ!」
「スビッ!?」
――【つばさでうつ】を大賀に叩きつけた。叩きつけられた衝撃でこちらまで転がってくる大賀。それにしてもスバメの動きがすげぇな。あのオオスバメ使いの人を思い出すような動きだ。先程まで眠そうだった夕立も目を皿のようにして静かに眺めている。
「まだいけそうか?」
「スブブゥッ!」
やる気十分なようだ。
「よし、ならもう一度【れいとうビーム】だ! 点で撃つのではなく相手の機動をなぞるように撃て!」
具体的な攻略法を教えて再度挑戦させる。
スバメの方に視線を向けると、先ほど【つばさをうつ】を叩きつけたせいで速度が落ちたのか、また旋回をして速度を上げているようだった。しかし甘いぞ! 聖闘士に同じ技は二度と通用しないというのを知らないのか!
スバメの背後から【れいとうビーム】が迫ってゆく。スバメも必死に上下へ動いたり、速度を上げて振り切ろうとするがスバメの旋回速度より、大賀の首を動かす方が早い!
「スーブゥッ!」
「スバッ!?」
【れいとうビーム】がスバメに追いついて直撃する。大ダメージを与えたようで、態勢を崩したスバメが空から墜落してきた。
「止めの【おんがえし】!」
「スブブブゥ!!」
「ス、スババッ!」
墜落に合わせて走り寄っていた大賀が右腕を構え、血気を送ることで腕を光らせて振り上げるよう振るう。しかし、直前でスバメも【つばさでうつ】を行ったらしく、技同士がぶつかり合った。
ただ、しっかり踏ん張った一撃と、いくらタイプ一致といえど急ごしらえの一撃では威力が違ったらしい。大賀の【おんがえし】が【つばさでうつ】を打ち破り、打ち上げるようにスバメの体が宙を舞った。
「スバーッ!」
覚えていろよとでも言うような声を出してスバメは逃げてゆく。俺達の勝ちだな。
「お疲れ様だ、大賀。いやぁ、この辺りのポケモンは相性的にも練度的にも手強いな」
大賀を撫でながらおいしい水を飲ませてやり、ボールに戻した。
「さて、夕立。これがポケモンバトルだ。本能的に分かっているかもしれないが、こうやって戦いを行うことで自らを高めるんだ。体がしっかりしてきたらお前もこれをやるんだぞ」
「ブイ!」
「いい返事だ!」
前足の付け根をモミモミしてから夕立をボールに戻す。夕立の表情的にポケモンバトルについては怯えより興味の方が強そうな印象だ。いい感じだな。これからもバトルの際は一緒に出して観戦させよう。
「よっし、調査を続けよう」
ちなみに最後のシーン主人公は全身黒タイツです。