カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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カナズミシティと火傷のトラウマ

 風呂に入ったあとに服をギリースーツから普通の服に着替え、気分一転ようやく新しい街ですよ、猿渡さん!

 

 今、俺はカナズミシティのポケモンセンター2階にあるトレーナー用の個室に居る。色彩は他のポケモンセンターと同じように白を基調としているが、柱やカーテンなど所々に緑色のアクセントが入っており爽やかな感じになっていて目に優しい。空いている窓から入って来る風がとても心地よいな……

 

「で? キョウヘイ先生はいったい何をしているんですか?」

 

「これはですね、由緒正しい土下座の上位互換である土下寝というものでしてね……」

 

 更に最上級として土下埋まりというものもあるが、流石にポケモンセンター2階の室内で埋まるのはちょっと無理があるかなって……

 

「正座」

 

 声色がとてもはっきりしていらっしゃる。

 

「……御尊顔を拝してもよろしいのでs「正座」アッハイ」

 

 顔を上げ正座の体勢をとり、視線が正面からぶつかり合う。ハルカ様の表情が真顔なのでとても怖いです……笑ってもいいのよ?

 

「そのフクロウのマスクも外しなさい」

 

「これはですね……僕の精神の安定剤でし「外しなさい」アッハイ」

 

 着けていたフクロウのマスクも剥がされ目の前で畳まれる。今僕の心は真っ裸です。

 

「……悪いことをしたという自覚はあると?」

 

「あー……周りを巻き込みかけたことは反省しております」

 

 ギャラドスとバトルを開始してすぐに縦横無尽に暴れ始めたので、ギャラドスを中心とする周囲にステルスロックを撒いたのだが……暴れた際に刺さったステルスロックの痛みからか余計に暴れ回って木々などを巻き込んでしまい、改めてポケモンの恐ろしさを認識した結果となった。あの木がバタバタなぎ倒される光景は怪獣映画を生で見たようなものだろう。

 

 ちなみに、最終的にギャラドスはステルスロックで自爆した結果となる。

 

 この話をするとハルカの表情がちょっとムッとした表情になった。顔がわたし怒っていますと物語っている。

 

「それもですけど! それ以上に言うことがあるでしょう!」

 

「無茶をしてすみませんでした!」

 

 深々と頭を下げる。

 

「……よろしい。まったく、なんであんな無茶なことするんですか」

 

「水上での戦闘は無理だと思いまして……移動距離が稼げる方法を考えたらああなりました」

 

 御神木様、網代笠は泳げんから論外。大賀では戦闘は出来るかもしれないが俺が余波を食らってしまう。次に岸に着くか橋を登るかだが、橋に登った場合橋が破壊される場合があったから岸に行くしかなかったのだ。こういう時に波乗りを覚えているポケモンがいれば何とかなったのだろうか。

 

「もう少し体を大事にしてください! 心配したんですからね……」

 

 反省はしています。

 

「もうあんまり無茶はしないよ。痛いの嫌だしな……肩もはめ治してもらったし、しっかり包帯も巻いたから体はもう問題ないと思うよ」

 

 そう言ってハルカの前で握力が復活した左手をグッパーグッパーと開いたり閉じたりする。ただ、完治したわけではないからあまり左肩には負荷をかけないようにって注意されたが。

 

 早めにジムに行こうと言うと、この人は……みたいな顔された。呆れられているのも理解るし生き急いでるみたいに見えるが仕方ないね。さっき色々と引っかかる情報がニュースで流れていたのだ。情報収集も含めて早めに行動を起こしたい。

 

「ねぇ? 聞きづらいこと聞いてもいい?」

 

 少し他所に飛んでいた思考を慌ててたぐり寄せる。

 

「ん……なんだ?」

 

「少し前から思っていたけれど、キョウヘイ先生って他人に触られるの苦手なの? えーと……エニシダさん…でしたっけ? あの人に手を握られてから表情がぎこちなくなっていたし。ジョーイさんに触られる前にいいからテーピングだ! とか言って自分で巻いちゃおうとするし……」

 

「ん~? なんと言うかね……昔……治療の為に触診とか受けていたんだけどさ……触れられた部分が火傷みたいになる時期があってさ。それ以来ちょっとトラウマ気味と言いますか……」

 

 俺に触ると火傷するぜ? ――俺がな! というのを地で行ってたのだ。軽いトラウマにもなりますよ。酷い時には爛れるんだぜ?

 

 あの時は温かい食べ物もアウトだったなぁ……そっちはすぐに大丈夫になったが。場の空気が変わったことを感じ、改めてフクロウのマスクを被りなおす。

 

「……その時の平熱は?」

 

「平熱は8℃。冷蔵室よりちょっとだけ温かかったらしい」

 

 夏場でも俺が居るだけで部屋が冷えたそうだ。そんな自覚はなかったが。

 

「今よりも低かったの!?」

 

「体温が上がってきたのは結構最近なのですよ」

 

 大学内では手袋をして過ごしていました。ちょっと部屋の空気が重くなり始めたのでこの辺りで切り上げるか。

 

「まぁ、そんなこんなで覚悟を決める前に人肌に触れるのはちょっとキツいかな……なんでかは分からないが、ポケモン相手だとそんなこともないんだが」

 

 そう言って近くのベッドに転がっていた網代笠を引き寄せて撫でる。くすぐったそうにしているが構わん、そのまま撫でくり回す。最初に出会ったポケモンが、鉱物っぽい御神木様だったのというのも関係しているのかもしれないな。

 

「ココ~」

 

「ここか? ここがええのんか?」

 

 肌触りがサラサラしていて触り心地がよい。

 

「少しずつだが克服はできていると思うし、旅を続けていればなんとかなるんじゃないかなぁ……とね」

 

「……よし! キョウヘイ先生、わたしもそのトラウマの克服に協力します!」

 

 ふんすっと胸を張って発言するハルカ。

 

「えっ?」

 

 何言ってるのこの娘。アチャモはワカシャモに進化したが、ハルカもハルカで何か斜め上に進化してしまったらしい。

 

「えっ? ってなんですか! えっ? って!」

 

「いや、人に触れられないトラウマを14歳の女の子に手伝わせて克服するってなんか犯罪っぽいし」

 

 噂されたらアレだし……それに文面的にも絵面的にもアウトじゃね? ジュンサーさん来ちゃうよ? 臭い飯表を振る羽目になるよ? 完全に逮捕エンドだよ?

 

   ◇  ◇  ◇

 

 ハルカ嬢をなだめた後にトウカシティのポケモンセンターに自転車の輸送を頼み、手に入れたポケモンの生態情報をパソコンでオダマキ博士の研究所に送る。レポートなどは追って送る予定だ。

 

 今はとりあえず明日カナズミジムでジムバトルできるか確認をするために、先にジムに向かっている。

 

 カナズミシティの町並みは石畳の綺麗な地面の上に街頭や噴水が見られ、町の整備が行き届いていることがよく分かる。流石は西の大都市だ。人通りも多く、先程から色々な人とすれ違っている。祭りかと見間違えるほどの華やかさだ。まだ夕方ですらないんだがなぁ……

 

 露店もいくつか出店しており、塾帰りに少し買ってつまんで帰る子供も多く、先ほど横をすり抜けた子供も焼きそばを買って食べていた。焼かれたソースの香りが胃に攻撃を仕掛けてくる。

 

 じゅるり……焼きそばの匂いって暴力的だよな。

 

「――聞いてる? もう一度言いますけど、わたしがいつも食べ物に釣られると思わないように!」

 

「わかったから早くそのたい焼きを食べ終えなさいな」

 

 軽く文句を付けるハルカは、たい焼きを食べながら歩いている。ハルカはつぶ餡よりこし餡が好きなようです。まぁどっちも既に2個ずつ食べているがね。

 

 俺もカスタードたい焼きを貰い、食べ歩きながらカナズミジムへ向かうと、何やらジム前で慌ただしく人が行き来しているのが見える。何かあったのだろうか?

 

 とりあえず指示をしている職員っぽい人に話しかけてみる。

 

「すみません、明日ジムに挑戦できるか聞きに来たのですが、何かあったのでしょうか?」

 

「トレーナーか?……すまないが明日から4日ほどカナズミジムは臨時休業だ」

 

「臨時休業?」

 

「トウカの森の事態を重く見たポケモン協会からトウカの森への攻略隊の派遣要請が届いてな。ウチのジムとトウカジム、一部のエリートトレーナーが明日からトウカの森を攻略するんだ」

 

 トウカジムも動けるようになったのか。今度ジム挑戦がてら顔を出しに行こう。

 

「あー……では挑戦するなら4~5日後ということになりそうですね」

 

「そうだな。こちらとしては5日後に来てもらえれば確実に挑戦を受けられると思う」

 

「わかりました。情報ありがとうございます」

 

 とりあえず一度ポケモンセンターに戻るとするか。

 

「…………キョウヘイ先生」

 

「どうした?」

 

 たい焼きが足りなかったか? 

 

「なんでここの人はフクロウのマスクを被っている人間に対して平然と話したり、ひと目でトレーナーだって見抜けるの?」

 

「そういう街なんじゃない?」

 

 さっきピエロっぽい人もいたし、マスク被ってる人もいるだろうさ。

 

「あと、今までずっと気になっていたんだけれど、どうやってマスクを着けたままたい焼き食べてるの?」

 

「どうやってって……普通に口で食べているが?」

 

 何を当たり前なことを。

 

「さっきからチラチラ見ていたのに、気がついたら減ってたんだけど」

 

「見られながら食べるって恥ずかしいな」

 

 そんなうわー……って顔するのやめてもらえませんか?

 

「しょうがないにゃあ……まず手に持つだろ」

 

 袋から一つたい焼きを取り出す。たい焼きはまだまだ温かいようだ。

 

「うん」

 

「口に持っていくだろ」

 

 フクロウのマスクに付いている口にたい焼きを持っていく。

 

「うん」

 

「食べるだろ」

 

 そこからたい焼きを食べる。頭から大体1/4ぐらいを美味しくいただく。おっ、つぶ餡か。

 

「うん……うん? 今どうやってその小さな嘴の中を通ったの!? 齧ったようにも見えなかったし!」

 

「マスクマン検定3級の試験内容を他人にばらすわけには……」

 

 拡散されたら怖いし。資格剥奪とかちょっと……

 

「なにその資格。そんなむちゃくちゃな技術で3級とか……」

 

「1級になると目玉や心臓が飛び出せるほどの不死身パワーを手に入れられるようになるらしい」

 

「……それマスク必要なの?」

 

「当たり前だろう。ただマスクが本体になるデメリットが生じるが些細なことだ。何も問題はない」

 

「問題しかないじゃない!」

 

 軽くふざけ合いながらポケモンセンターに戻ってきた。

 

「さて、とりあえず俺はこれからパソコンや新聞で情報収集をするつもりだけどハルカはどうする?」

 

「お父さんへのレポートを書いたあとは動画を見たりして勉強しようかな……」

 

「うい。飯食いに行く時は呼んでくれ」

 

「わかったかも~」

 

 そう言ってハルカは2階に戻って行った。それを見送ったあとにフリーのパソコン付きの個室へ向かい、使用中の札を表に出してから気になった情報を片端から調べてゆく。

 

 この二日でどれだけ俺の知る世界(ゲームのストーリー)から逸脱したのだろうか? ただでさえ色々と変化があるのだ。場合によっては進もうと思っていたルートを変更しなければならない。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 部屋に入ってすぐにワカシャモとガーディが遊び始めた。進化をして少し落ち着いたかなと思っていたけれど、本質はあんまり変化していないのかもしれない。

 

 テーブルに向かって座り、お父さんに送るトウカの森のレポートを書きながら先ほどの会話を思い出す。

 

 なんだか色々と不思議で無茶をする人、生き急いでいるようにも見える人……それが今のわたしの感想だ。普段はマスクを付けながらヘラヘラしているくせに真面目な話にはしっかりと真面目に返してくれている……と思う。少なくとも勉強やポケモンに対しては真面目なようだ。よく夜に作戦会議や技の使い方について話し合っているのを見かけている。

 

 ただ、トラウマ克服を手伝うと言った時に、何言ってるんだこの娘みたいな感じで流されたのはちょっとイラっとしたかな……しかし、これでキョウヘイ先生ロリコン説は否定できるのではないだろうか? ある意味安心できるかも? 用心棒としてはそれなりに働いてくれそうではあるかな。

 

 いや、単に触れられないから性欲が激減しているだけとかもありうるか?

 

 それにしても人肌がトラウマか……でも確かに触れられたら火傷するって理解して(わかって)しまったら、人に触れたいとは思わなくなるかもしれない。しかもその状態だと温かいご飯が食べれなかったらしいから私にとっては酷い拷問にしか聞こえないかな……キョウヘイ先生はよく耐えれたなと思う。冷たい病院食ってどんな感じだったのだろうか。

 

 以前、疑問に感じていたキョウヘイ先生の冷たさ対する耐性の高さはこの辺りが原因なのかも知れない。自分とほぼ同じ温度なのだ。わたしが体温より少し低いぬるま湯に入ってそれほど冷たいと感じないのと同じような感じかな? その分熱に弱いとかありそうだ。

 

 ……そういえば前に暑さに弱いって言っていたし、111番道路の砂漠とかハジツゲタウンに行ったとき大変かもしれない。最悪機能しないかも? 

 

 今は道中でかなり働いてもらっているが早めにわたしも慣れないとなぁ……

 

 次にレポートに書き込む内容を考え少し手を止める。壁画や文字、石で作られた部屋……どれもわたしの知識ではそれ程深く書けそうにない。大まかなことや気になったところを書いて写真が現像出来次第追加でいいかな。

 

 気になったところ……古い文字やあのしるしかな? 壁画についてはキョウヘイ先生が考察していたし……ただ、わたしにはあの壁画の上部が欠けて穴が空いているように見えた。つまりわたし達が入って来た入口部分は本来入口じゃなかったのではないだろうか? そんな気がするのだ。

 

 ……うん、一応これも書いておこうかな。

 

 文字についてはやっぱり所々崩れているな程度にしかわからなかった。専門家の意見を求むとだけ書き込んでおく。

 

 最後にあのしるしについて。アレはよく対象のポケモンを観察していなければ作れないものだと思う。キョウヘイ先生は造りが荒いと言っていたがどうなのだろう? それにあのしるしには……何か……そう! 何か足りないような気がするのだけれど……何が足りないのかわからないなぁ……

 

 あとは……ん、レポート用紙が切れた。まだ使ってないのはあったかな?

 

 ゴソゴソとレポート用紙を探すが見つからない……いつの間にか使い切っていたらしい。

 

 時間は…もう18:37か。そろそろキョウヘイ先生も誘って晩御飯を食べに行こうかな? ついでにレポート用紙も買えばいいか。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 うーむ……

 

 今まで調べていなかったことまで調べてみたが色々と起きているなぁ。出るわ出るわ厄ネタっぽいモノの数々。

 

 ダイゴさん達によるムロシティにあったアクア団のアジトの攻撃、キンセツシティ周辺で発生している黒い雷及びニューキンセツの買収、小規模だがかなりの頻度を誇る地震、様々な異常気象、極めつけは――――カナシダトンネルが開通しているという点であろう。

 

 このカナシダトンネルはホウエン地方の東西繋ぐ交通手段の確保のために、長年に渡ってたくさんの人と最新の機械、ポケモンの力によって掘り進まれてきた。ここまではゲームの世界と同じだったが、ここでは複数の企業などによってそのまま開通までこぎつけたようだ。

 

 しかし開通はしたものの、辺りのポケモンに悪影響を与える事がわかった状態でなお工事を進めたことで、その複数の企業に対して周辺住民などが不買運動を行っていたことが記事になっていた。

 

 また、その中の2社が元々はカントー地方に本社が有り、一時期だがシルフカンパニーの子会社でもあったらしい。事件直前に合併し、事件後すぐに独立をしているが……どうなんだろうかね? まぁここまで怪しいと警察が探りを入れているか。というよりも普通こんなにすぐに合併、独立ってできるのか?

 

 ……まぁいいや。要はカナシダトンネルを通って、そのままシダケタウン経由でキンセツシティに向かうのも選択肢としては有りになっているということだ。

 

 どうしようかね、これは……個人的にはキンセツシティ周辺で起きている黒い雷に興味がある。この雷が発生すると周辺で電気ポケモンが大量発生するらしい。これが本当ならば電気タイプのポケモンを手に入れるチャンスではありそうだ。

 

 チャンスではありそうなののだが……やはり何かしらの嫌な予感がする。この黒い雷を発生させているのは新種のポケモンなのではないかという噂が立っているようだ。

 

 オカルトチックだがここはポケモンがいる世界。何が起きていても不思議ではない分、こういう噂が回りきるのが早いらしい。一部のトレーナーが張り切って調査しているようだ。

 

 あと今考えておくべきことは……ダイゴさん達によるアクア団のアジト攻撃ぐらいか。アジトが複数あるのは想定外だったなぁ……あいつらはシロアリか何かか。文面を見る限りそれなりに設備が整っていたらしく、最近までそこを中心に活動をしていたのかもしれない。あとでダイゴさんに連絡を入れてみるのも手か?

 

 そういえば、眠りの森事件のせいでアクア団(やつら)がデボン社の社員を襲うことがなかったようだが、あの時の行動を鑑みるに他の方法で書類とかを狙ってそうだな……何事も起こらなきゃいいのだが。もうちょいマトモで感心できるようなニュースはないものか。

 

 メモ書きを行いながら情報をまとめていると後ろの扉がノックされる。

 

「入ってまーす」

 

「わかってる。キョウヘイ先生! そろそろ晩ご飯食べに行こう!」

 

「時間は……もうそんな時間か……よし、食いに行くか!」

 

 いつの間にか結構時間が経っていたらしい。

 

 今までの考察や情報などをまとめたスクラップファイルに、今日新たに書き記したメモを入れ晩飯に向かう。食べ放題のだけどなんだかハルカの食べっぷりだけで腹一杯になれる気がする……気のせいだろうか?

 

 


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