カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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眠りの森の霊木

 垂れ幕の向こうでまだ寝ているであろうハルカを起こすために、向こうに大賀(ハスボー)を送り出す。ひんやりしている大賀が顔近くに触れたら起きるだろう。

 

 現在時刻は04:00。ポケナビのバイブレーション機能を目覚まし替わりに代用することによって、あまり音を出さずに起きることができた。これは今後も使用していこう。

 

 前回の経験で、この時間帯には見張りが少なくなっていることを知っている。少々眠いが、目を覚ます為に下から水を汲んで顔を洗おうか。

 

 ばしゃばしゃと洗っているとハルカが起きたらしく「ひゃっこい!!」とか言って騒いでいる。大賀の体温にびっくりしたんだろうな。

 

 顔を洗った水を表に捨てるついでに辺りを見回す。外はまだまだ暗く、霧も出ていて見えづらいが、移動する分には困らないだろう。

 

「キョウヘイ先生おはようございます」

 

 ハルカはまだ眠たいらしく目をしょぼしょぼさせている。昨日は寝るのが少しばかり遅くなった上に、起きるのがこんな時間なのだから仕方がないわな。

 

「おはよう。目ぇ覚ます為に顔でも洗ってきんしゃい」

 

「わかりました~」

 

 間延びしている返事を返し、ハルカはノロノロと桶を下ろし始めた。あいつ桶と一緒に落ちたりしないよな……心配である。

 

 さて、今日は最奥部にあるであろう何かを確認する予定だが……ポケモンが隠したがるものがわからない以上、何が出てきてもおかしくはないと言えるだろう。例えば何体かのキノココが合体して、巨大キノココになってるとかそんな感じのがいるかもしれない……夢が広がりますなぁ。

 

 ポケモン達とむっしゃむっしゃ木の実を食べながら考えていると、ハルカが準備を終えたのかこちらにやってきた。

 

「お待たせ。干し肉とか残ってる?」

 

「あるな……【ひのこ】使うときは周りに気をつけて使ってくれよ? いくら生草だからって火に強いわけじゃないんだから」

 

「わかってる。土の場所の上で軽く炙るだけです!」

 

 土の上で干し肉を炙り、かじりついているハルカ。肉の焼ける匂いが軽く香ってくるのがわかる。

 

「うい……朝飯食い終わったら片付けと身体の汗を拭って、それから出発だ」

 

「……身体拭うのってここの水で?」

 

「アルコールを浸した布でもいいぞ」

 

 そう言ってアルコールに漬けた布が入っている袋を見せる。肉の匂いでバレたりしたら面倒だしな。ハルカもそれをわかっているのか、少し迷った後に布を選択したようだ。

 

「垂れ幕の奥で拭うといい。俺は表で水を被って汗を流してくる」

 

「よくあんなに冷たい水を、朝から被れるね」

 

 そこまで冷たいか? むしろこれからの時期的にかなり楽しんで浴びれるのだが。

 

「まぁ、慣れだな。冷たさも井戸水とかと似たようなものだろ」

 

「風邪引かないようにね」

 

 軽口を叩き合いながら準備を終えて、中を掃除した後に洞窟を出発する。キレイにする意識が大切です。なんだか洞窟の中で生活するのに少し慣れた気がするな。

 

 網代笠(キノココ)を先頭に俺たち一行は北へ向かって森の中を進み始める。

 

 時刻は04:45。まだまだ森の中は暗く、空から降ってくる濃い緑色の胞子が森を少しだけ照らしながら積もってゆく。光量自体はとても微妙だ。また、軽く積もった胞子のせいで足跡が残るという致命的なことが起きそうでお兄さんちょっと怖いです。

 

「この胞子ってなんで薄く光ってるんだろうな?」

 

 上からふわふわと降り注ぐ胞子を見ながら、ふと思ったことを口にする。ルシフェリン(蛍などの発光成分)でも混ざってるのかね?

 

「さぁ? ……まず、コレって本当に【キノコのほうし】なのかもわかりませんし」

 

「【キノコのほうし】であることは確定だろう。吸ったら眠たくなる胞子なんてアレぐらいだろうし……まさか【ねむりごな】ってことはないはずだ。キノココやキノガッサは覚えないはずだし」

 

 覚えないよな? ……うん、覚えなかったはず。

 

「そっか。こんなに綺麗なのに吸ったら眠っちゃうのが残念に感じるかな」

 

「瓶にでも掬って観察すればいいんじゃないか? ……キノコ生えてきそうだけど」

 

 ちっちゃいキノコがわさわさ生える気がする。

 

「ずっとこんな感じだったら瓶に入れて飾っても可愛いのになぁ……」

 

 ぱっと見、ケサランパサランを小さくして緑色にしたみたいだから、その意見もわからなくもない。

 

「キノッ!」

 

 雑談をしながら歩いていると網代笠が何かを発見したらしい。その場で俺とハルカはしゃがんで網代笠の指示を待つ。こういう時はトレーナーが下手に慌てて指示を出すより、現場の意見に従ったほうがいいだろう。やはり高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にするに限るな。

 

「コッコ」

 

 どうやら少し迂回して進むようだ。双眼鏡でさっきまで歩いていた道の先を確認すると、キノガッサが3匹ほど屯っているのが見えた。

 

「あれには勝てんな」

 

「流石にキツすぎますね」

 

 ハルカも顔はガスマスクで見えないが雰囲気が真面目モードになったらしい。俺も気持ちを入れ直すか。

 

 隠れながら地図を見て、歩き続けること45分、ようやく網代笠を捕まえた場所の入口付近にたどり着いた。道中、木々の多い場所を通ってみたが、思いのほか歩きづらく普通の草道の倍は時間がかかってしまった。これから通る時はそのことも念頭に入れておいたほうがいいだろう。

 

「さて、ここからは俺たちにとっては未知の領域だ。気を貼り直すように」

 

「わたしにとっては、この森の中自体が資料でしか見ていないからほぼ未知の領域でしたけどね……やっぱり資料と実際にわたしが生で見るのとでは情報量が違いますね。現場の貴重な体験です」

 

「せやな……まぁそれはともかく、ここからは念を重ねて大賀に【しろいきり】を出してもらう」

 

 視認されることは少なくなるだろう。ボールから大賀を出し、白い霧によって隠密度を上げる。その後、大賀にお礼を言って飴ちゃんを渡してからボールに戻した。

 

「昨日も思ったけど、よくあんな霧の中で網代笠は他のポケモンを見つけられるね」

 

 先頭を歩いている網代笠に目を向けると、濃くなってきた霧を気にもせずに辺りを見回して、キノココなどを発見している。

 

「意図せずに特性の重要性がわかる感じになったな。ハルカもよく覚えておくといい。ポケモンの持つ特性っていうのは、そのポケモンの生き抜く知恵みたいなものだ。また、特性によっては特定の技が効かないなど、バトルの際に有利な状況を作ることもできる。だから、どんなポケモンがどういう特性を持っているのかを覚えると、勝率がぐっと上がるぞ」

 

 特性の一つでバトルの流れが変わるだなんてよくある事だ。

 

「ついでに言うと、ハルカのアチャモみたいに通常の特性でない特性のことを、隠れ特性と言うんだ。とても貴重で、通常の個体よりも強いことが多いらしい。その分ロケット団みたいな犯罪組織にも狙われやすくなるから、育てる際には十分注意しないといけない」

 

「勉強内容がどんどん増えていってる気がする……」

 

 声色が震えているぞ? だがこれはあくまで基礎知識なのである。

 

「それにな、網代笠みたいにバトル以外でも活躍する特性もあるから、仲間の特性をより深く理解することが相互理解の道の一歩……でもあるっぽい」

 

「……ここまで自信満々に言ってたのに最後にぽいって……キョウヘイ先生は本当に頭の愉快な先生ですよね」

 

「そんなに褒めるなよ。木には登らんぞ」

 

 後で飴ちゃんなら出せるがな。意外とポケモン達に人気です。

 

「代わりに筋トレ付き合ってくださいよ。流石にポケモンたちの体力には、わたしはついて行けなかったので」

 

 子犬っぽいガーディとか、遊びに関しちゃ体力オバケだもんな。

 

「街に着いたらな」

 

「キノコッコ」

 

 また何かを発見したらしく、横の木々の生い茂る場所に隠れる。すると、今まで通っていた道をキノココの大群が通って行った。あの物量と戦ったらフルボッコにされるな。

 

 大群に遭わないようにするために、方位磁石を頼りに霧の中、特に木の生い茂っている場所を通る。今までの比ではないぐらいに警戒度が高くなっているようで、監視1グループにキノガッサが2匹はいる感じだ。この森どれだけキノガッサがいるんだ?

 

 前から思っていたが、そもそも【キノコのほうし】覚えてる奴多すぎないか? キノココをLv45~54まで育てて、尚且つずっと進化させないでおかなければいけないんだぞ? ポケモンの生態的に進化をしないという選択を取るモノは少ないはずだ。なんで森に充満させることができるほどの数がいるんだ……特異群体とでも名称しておくか。

 

 これは最近の異常気象が関係してるのかねぇ? それとも……うーむ。

 

「……ウ…イ先生? キョウヘイ先生? 大丈夫?」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。問題ない」

 

 いつの間にかキノココの群れは移動し終わっていたようだ。また思考が散り始めたな。あまりよろしくない傾向だ。酒に逃げたくなる。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「無問題だ……ほら、網代笠が先に進めないって批難の目を向けてるから早めに進むぞ」

 

 もう日が出始めているからな。早めに進まなければ。

 

 そのまま隠れながら進むこと1時間、木々の間から光が差し込む場所を発見した。おそらくこの辺りに何かがあるはずだ。この空間を見渡すと、奥にはジェネラル・シャーマンの木のような大木が静かだが圧倒的な存在感を出していた。霊木とはこういうものを指すのだろう。

 

「おお、森の入口よりも幻想的かも!」

 

 日光を軽く反射する胞子がとても綺麗だな。感銘を受けたのかハルカは足を止め、パシャパシャと辺りを撮影している。こうやって見ていると、やはり年頃の娘なんだなと再認識できる。俺が14歳のときなんて只の弄れたガキだったもんなぁ……

 

「キノコ!」

 

 網代笠が先導してどこかに連れて行こうとしている……前言撤回、あの巨大な霊木の下に向かっているのだろう。ハルカも置いて行かれていることに気がついたのか、慌ててこちらに走ってきた。

 

「置いてかないでよ!」

 

「いや、真剣に写真撮ってたから邪魔しちゃ悪いかなと思ってな」

 

「一声かけてくれれば切り替えますよ」

 

 そんな歳から大人っぽく振舞わなくてもいいと思うんだがねぇ……振り回される苦労を知ってる分かね?

 

「今度からは善処するようにしよう」

 

 そんなやりとりをしながら網代笠の後をついていくと、巨大な霊木の下に到着した。遠くからではわからなかったが、裏に回ると地下への入口が口を開けていた。どうやらこの木の下には空洞があるようだ。まるでダンジョン……というか地下鉄の入口だな。

 

 そして何よりも重要なことはコレが石材で作られており、あからさまに人工物であることが伺えることだ。

 

 内部は光る苔が壁や天井、足場にまで生えているせいか空洞の中は緑色の豆電球をつけたような明るさになっている。

 

 石材でできた階段を降り、奥の空洞に入ると、中央には何か石像のようなものが設置されていた。大体5m四方の、石材でできた空間だ。4本ある折れた石柱が目を引くな。外から胞子が入ってこないのを確認してからガスマスクを外す。少々かび臭いがそこまで酷くもない。無視できる範疇だろう。

 

「こんなところが……」

 

 思わず口から声が漏れる。おそらくあの洞窟の地底湖と似たようなものなのだろう。ここは元々遺跡の上に森があったのか。それとも森に飲み込まれたのか。すぐ横にあった壁の軽く張り付いた苔を削り、石材を確認する。多少ひび割れてはいるがとてもしっかりとした作りになっていることが伺えた。これなら入ってすぐに崩落してくるようなことは無いだろう。

 

 昔といえども、とても高度な技術を持っていたのがわかる。

 

「これ歴史的な発見じゃないか?」

 

 ちょっと想像していたものとは異なったがテンションの上がり方が凄まじい。ここならカイオーガやグラードンに関する情報があるかもしれない。

 

「キョウヘイ先生、この石像ってキノココを模して作ったんですかね?」

 

「ん? ちょっと待ってくれ」

 

 中央に設置されている石像を確認すると、確かにキノココに見える。ただ、少し荒削りであり、磨いて造ったような感じではない。しっかりと写真を撮っておかなければ。軽く触ると、小さな痛みと共にピリっと電流のようなモノが走った気がした。棘にでも刺さったのだろうか。

 

「確かキノココだな……この空間を作った人達が作ったにしては荒すぎるな。これはマジでもしかするかもしれん」

 

「心当たりがあるんですか?」

 

 今脳内で知っているのか雷電!? とか流れた。

 

「うむ。まず情報の整理だが、ハルカは道中で薄い桃色で尻尾のあるポケモンを見たんだよな?」

 

 かなり重要な情報である。

 

「うん。確かに見たわ! なんかうねうねしてたけど」

 

 うねうね……まぁ、ベールに覆われていて、光を屈折していたのならば、それもありえるのかもしれない。

 

「……とあるポケモンがな? ポケモンアイランドという無人島で特殊な行動をしていたんだ。そのポケモンは薄い桃色で尻尾があり、自由自在に姿を消すことが出来るらしい。姿を消す途中ではグニャグニャ蠢いているように見えるらしい」

 

「……そのポケモンの名前は? 特殊な行動って何をしていたの?」

 

 ……アーティスト活動かな?

 

「ポケモンの名前は――ミュウ。幻のポケモンの1匹であり、歴史上数人しか直接接触したことのある者はいないと言われている。このミュウは、ポケモンアイランドでポケモンの形をしたオブジェ――『しるし』を作っていたらしい」

 

 ただ、これにも諸説あるらしく、幼少期の見えない友達というのはミュウなのではないか? という意見もある。

 

 ちなみにミュウがなんで『しるし』を作るのかは誰も知らない。もしかすると、気が向いたから程度の可能性だってある。

 

「そんなポケモンがいるんだ……じゃあ最初に言った時すぐに信じなかったのは幻のポケモンだったからなの?」

 

「まぁな。ピッピとかプリン辺りを最初に考えたんだがどうにもハルカの目撃情報に微妙に合わない。こんなところに居た形跡でもなければ与太話で流されるようなもんだ」

 

 見つけることが出来たってことは清らかな心を持っているってことなのか? ……暴食もポケモンから見たら問題ない部類なのかね。

 

「なるほど……で、これがその『しるし』だというわけですか?」

 

「恐らくね。これがキノココ達にとってのお宝なのかもしれんな」

 

 友好の証みたいな感じか? それとも別の理由があるのだろうか。

 

「ちょっと思っていたお宝と違うかも……」

 

「キノココ達が貴金属集めていても色々と問題になっただろ?」

 

 換金とかできるものならいいけれど、できないタイプだとなぁ……扱いに困る。いや、まぁコレは凄いものではあるんだよ? うん。俺達では換金はできないけど。確実に調査名目で研究材料行きだろうなぁ。

 

「そうだけどさ……こう、ロマン的にね?」

 

「これも十分以上にロマン力高いと思うぞ」

 

 なんてったって古代+幻だぜ? ロマンだろ。

 

 部屋の中で、他に何かないか探してみるが特に見つかりそうにない。

 

「そっちは何か見つかったか?」

 

「んー……ん? あ! あった!」

 

 ハルカが見つけたものを掲げている。

 

「金の玉!」

 

「よかったな。お小遣いとしてそいつはあげようじゃないか」

 

 俺としては古い石版みたいなのを見つけて欲しいんだがな。

 

「キョウヘイ先生! また文字っぽいのあった!」

 

 でかしたぞ! あとで俺特製の飴ちゃんを10個あげよう。やっぱり俺よりこういうモノを探す能力はハルカの方が高いみたいだな。着眼点が違うのだろうか?

 

 ハルカが文字らしいモノを見つけた石柱をペンライトなどを使って重点的に調べ、苔などを剥ぐ。そこには絵は無く文字らしいものが彫り込まれていた。これも写真に写す。残念なのは、折れた部分にも何かしら書かれていたらしく、一部文字が切れてしまっていることだろう。

 

 結局、石柱の文字以外に部屋を探し終えて見つけたのは、金の玉1つと青い欠片1つだった。青い欠片は124番水道にある民家で水の石と交換してもらえるはずだ。場所的にリーフの石があっても良さそうだったんだがなぁ。

 

「さて、そろそろケツ捲って逃げるぞ」

 

 これ以上時間をかけると逃げられなくなりそうだ。ガスマスクを被り直し、装備を再確認する。忘れ物は無いな。

 

「よし、直ぐに森を脱出する」

 

 なんとなく、この場所にこれ以上居座ると危ない気がする。なにより探し物を終えたあととか、何かしらイベントが起きるという定番に巻き込まれそうで怖い。

 

 また網代笠を先頭にして、今度は眠りの森の出口がある西に向かって進むことにしよう。また来た道を戻るより早く着くはずだ。

 

「こういう時って何か起こるのが定番ですよね!」

 

「そういうこと言うと本当に起こりそうだからやめてくれませんかねぇ」

 

 外に出て西に進もうとした瞬間に、目の前に5匹のキノココの群れを見つけた。見つけてしまったし見つかってしまった。こちらに向かって走ってくるキノココ隊列の中央には、肩で風を切っているキノココが居り、おそらくアレがリーダー格なのだろう。

 

「ハルカ! 俺たちから見て右側の2匹を頼む。俺は残りの3匹を叩く!」

 

「わかったかも!」

 

 ここに来て戦闘である。父さん、フラグは本当にあったんだ。

 

 すぐさまボールから御神木様(テッシード)、大賀、網代笠を出し、バトルを開始する。制限時間は20~40秒ぐらいか? 余裕はあまり無いな。向こうは順番になんて空気ではなさそうだ。

 

 フィールドは草混じりの足場の悪い地面。雑木が複数あるがそこまで邪魔にはならない程度、視界を覆うものはそれぐらいか。

 

「敵キノココを左から順に1、2、3と呼称する! 大賀は【れいとうビーム】で3の右側から攻撃。その後そのまま付近の地面を凍らせて氷壁を造ってくれ! 網代笠は1に向かって左側から【たいあたり】! 御神木様は2に向かって【メタルクロー】!」

 

「スボボボボ!」

 

 飛び跳ねながら【れいとうビーム】を放つ大賀。

 

 キノココ3の右横から【れいとうビーム】が迫り、左に跳んで避けたために隊列の間に氷の壁が生成される。敵を右と左に分断することに成功した。あとは詰み将棋だ。

 

「キノコッコ!」

 

 キノココ1に向かって網代笠が左側から【たいあたり】をしている間に、キノココ2が御神木様に【たいあたり】を仕掛けてくる。だが、射線は通った!

 

「キノッ! ……コッコ?」

 

「クギュルルルルゥ!!」

 

 キノココ2の【たいあたり】は御神木様に直撃したがビクともせずに、そのまま【メタルクロー】を振り下ろしてキノココ2を弾き飛ばす。

 

「キノッ!?」

 

 その奥で網代笠の【たいあたり】を食らっていたキノココ1を巻き込んで、戦闘不能にさせた。仲良くころがって行くといい。流石御神木様! 俺がやりたいことを察してくれるのが凄くありがたい。街に着いたらしっかりボディを磨かせて頂きます。

 

 予定ではキノココ3も巻き込むつもりだったのだがうまい具合に避けやがった。アレは他の個体よりも強いな。伊達に隊列の中央で肩で風切って無かったか。

 

「キノコッ!」

 

 恐らく【メガドレイン】だろうか? 大賀から緑色の光が溢れ出て、キノココ3に吸い取られてゆく。だが大賀にはそこまでダメージが無いようだ。

 

「このまま押しつぶす! 御神木様は【メタルクロー】! 大賀は【れいとうビーム】! 網代笠は【きあいパンチ】!」

 

   ◇  ◇  ◇

 

「敵キノココを左から順に1、2、3と呼称する! 大賀は【れいとうビーム】で3の右側から攻撃。その後そのまま付近の地面を凍らせて氷壁を造ってくれ! 網代笠は1に向かって左側から【たいあたり】! 御神木様は2に向かって【メタルクロー】!」

 

 左側に氷壁が生成される。分断ってこうやって行うのか。

 

 キョウヘイ先生が動き出したから、わたしもしっかり戦わないと! 初めてのダブルバトルだけどあまり緊張はしていないかな。

 

「アチャモ! ガーディ! 出てらっしゃい!」

 

「チャモッ!」

 

「グゥゥ……ガウッ!」

 

 ガーディが低く唸り吠える。たしかこれでガーディの特性:威嚇が決まったはず!

 

 氷壁を壊さないようにするために炎タイプの技は使わない方がいいのかな? 縦にキノココ達が並んでいるうちに倒してしまいたいな。

 

「アチャモは近い方に【おんがえし】! ガーディは遠い方に【インファイト】!」

 

「バウッ!!」

 

 それなりにあった距離を一気に詰め寄り、後方にいたキノココに対して頭や前足を使ったインファイトでダメージを与えるが、それでもまだキノココは倒れない。

 

「うそ!? あれで倒れないの!」

 

 思わず声が出る。あのキノココ強い!

 

「キノォ!」

 

 ガーディはキノココの【たいあたり】を食らって、わたしの下まで弾き飛ばされる。思いのほか体力を削られてしまったらしい。威嚇がなかったら危なかったかも! これ以上【インファイト】でガーディの防御力を減らすことは止めた方がいいかも。

 

「チャモチャモォ!」

 

 続いて攻撃したアチャモの【おんがえし】が前方にいたキノココに直撃する。

 

「キノコッ!?」

 

 攻撃のせいで足がもつれたのか、キノココはその場に転ぶ。足場が悪いのが味方になった! 隙だらけだ。

 

「今だ!! アチャモはもう一度前方のキノココに【おんがえし】! ガーディも同じキノココに【かみつく】!」

 

 同時攻撃によってようやく前方のキノココを倒すことが出来た。残りは1匹、後方にいたキノココだけだ。

 

「キノッ!」

 

 キノココの【たいあたり】がアチャモに向かってゆくのが見え、その瞬間にどこかで見た指示を出した。

 

「アチャモ! 後ろに跳んで避けて!」

 

「アチャ!」

 

 少しだけ当たったけど後ろに引いたことでダメージを減らせたようだ。動画を見て勉強をした甲斐があった!

 

「止めの【おんがえし】と【かみつく】!」

 

 この辺りでキョウヘイ先生以外で初めて苦戦したかも……野生でも強いポケモンがいるんだなぁ。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 ハルカ達のバトルも終わったらしい。ガーディに近づいておいしい水を飲ませようとするが、距離を取られてしまう。まだ俺は苦手ですか。しょうがないからハルカにおいしい水を渡す。

 

「思いのほか苦戦してたな」

 

「弱点の【ひのこ】が使えなかったのが苦戦した原因かな。あとガーディの【インファイト】で攻撃したのに倒せなかったのが予想外だった」

 

「今回苦戦した原因である弱点技の使用不可の厳しさは身にしみて理解できたと思う。力押し以外にも戦術を覚えないとな」

 

「わかりました! ところであの氷壁はどうするの?」

 

「アレか……御神木様、【メタルクロー】で破壊してもらえるか? それが終わったらとっとと逃げよう」

 

 細かく砕けば溶ける時間も少なくて済むだろう。氷を破壊している間に大賀をボールに戻す。早めに進まないと増援が来そうだな。

 

 急いで先に進むとしよう。

 

 


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