カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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帰還とキノココ

「――――方面より雷雲が接近しています。キンセツシティに在住の方々は落雷に注意してお帰りください。この頃キンセツシティ周辺や砂漠では、ごみの量が増えてベトベターやベトベトンが大量発生しているとの情報もあります。ベトベターやベトベトンの通った跡は通電性が高いのでこちらにも注意が必要です」

 

「んあ?」

 

「続いて次のニュースです。今日の午前8時頃、トクサネシティにあるトクサネ宇宙センターで、巨大隕石に関わる情報が……」

 

 目が覚めると見知った天井がそこにあった。服は相変わらずのモリゾースタイルでポケモンセンターの2階の横長の椅子に寝かされていたようだ。ベッドではないのは、この服を着ている状態でベッドに入れるのはためらったのだろう。

 

 うーむ、意識がないときなら問題ないんだがなぁ……それにしても、思っていた程酷い負傷がないな。軽く伸びをして体の凝りを解す。時間は……17:20か。日にちも変わっていないし思っていたよりも早く起きたな。

 

「…………俺も不法投棄された側の一員となってしまったなぁ」

 

 勝負的には微妙だったが、どんな判定になったのだろうか? 辺りを見回しても教えてくれそうな人がいない。当たり前か。これは、届かなかったかな。残念だが、仕方がない。次はもっと上手くやろう。

 

 ボールベルトに目を向けると、空のボールが二つほど装着されていた。御神木様(テッシード)大賀(ハスボー)は、また遊んでいるらしい。

 

 報告前にシャワー浴びるほうがいいかね。スッと立ち上がろうとするが、ぐらりと視界が揺れた。さっきの感想は訂正しよう。やはりいいパンチを貰ったようで、ちょっと膝にダメージが残っている。重い一撃だったからなぁ……これは、明日にも響きそうだ。

 

 元々寝ていた部屋に入るときちんと掃除されていた。ハルカさんありがとう! お礼は後で言うとして、とりあえず替えの服とシャワーセットをいつものバックパックから取り出す。

 

 そのままシャワー室に向かい、いくつかある個室の前に置いてある札を確認する。これを行わないで入るとどこぞのライトノベルのようになるんだ。ちょうど一つ誰も入っていない個室があった。札はしっかり空室になっている。一応軽くノックもしておくか。

 

 ドンドンドンッ!

 

「入ってませんよね!」

 

 …………返事がない。ただの空室のようだ。

 

 札を裏返して使用中にしてから中に入る。個室の中には、脱いだ服を入れる籠がシャワーカーテンに遮られるように置いてあり、シャワーの水が飛ばないようになっている。水垢などが見つからないほどピカピカなので、気分良く使えるのがここのシャワー室の取り柄だ。

 

 ゆっくりとシャワーを堪能した後に私服を着て、最後にいつものワニのマスクを装着する。やはり、これがなければな!

 

「……よし!」

 

 鏡で確認してからシャワー室を出る。乾燥の為に窓を開けておくことを忘れないでおく。この時期は黒カビが生えやすいから掃除が大変だ。業者さんには頭が下がるわ。

 

 下に降りるとハルカがカップスープを飲みながらテレビニュースを眺めていた。ただ周りに人がいないのはなぜなんだ?

 

「よーっす! 寝坊したわ」

 

 挨拶は元気よく、しっかり行いましょう。

 

「遅ようございます。無事不法投棄されていたので回収しておきましたよ」

 

 なんか声が硬いですね。

 

「スマンな…………で? なんで俺は急に縄で縛られ始めているんですかねぇ?」

 

 何故か縄で縛られ始める。そんな趣味に目覚めた覚えは今のところないぞ。あと、なんだかこれ前にも同じようなことがあった気がする。レンジャー訓練で習ったであろうロープ術をしっかり活用できているようで何よりだが、俺何かしたっけ? …………出る前にプリン勝手に食べたぐらいしか浮かばん。

 

「レポートや動画、写真を拝見しました」

 

 あ、これ真面目なお仕事モードや。あの日見た奥さんと同じ感じがする。あかん。

 

「いろいろとツッコミどころのある書き方でしたが、それは置いておきましょう。スイクンとの遭遇、そしてこの壁画…………お話聞かせて貰えますよね?」

 

「い、イエス、マム」

 

 笑顔が怖いですよおぜうさん。

 

 情報漏えいを考えて2階の仮眠室に連行される。傍から見たらプレイの一環に見られそうで怖いです。そこでレポートには書いていなかった細事まで色々と聞かれる羽目になった。

 

「――で、この描かれているポケモンの片方が俺たちの目的のポケモンだ。波で陸地を攻撃して、海を広げている方な」

 

「ん~この太陽と一緒に描かれているポケモンについては何か知らないの?」

 

 む……まぁ聞くよな、普通。

 

「そうだな……絵からして古代人の考えでこのポケモンは晴れ、もしくは太陽を司っているんだろうな。あと両者の中央で起きているのは爆発……おそらく何かしらの攻撃か、水蒸気爆発のようなものなのだろう。で、これが水蒸気爆発だとしたら余程高温状態になった地面にぶつかったからだろうかね」

 

「…………つまり?」

 

「地面……いや、大地を広げているんじゃないか? これでちょうど大地と海で対立した感じになる。まぁあくまで俺の想像だし、オダマキ博士や専門家の人の意見の方が正確だろう」

 

 でもグラードンさん何しているんだろうな? 大雨はよく聞くが、日照りが続いている街の情報なんて出てきていない。まだ起きてないから日照りが出ていないと考えると、大雨の降っている現状、カイオーガは既に起きているってことになっちまうし。単純に雨季と被っているだけだろう。

 

 やっぱり、時期によって能力の強さが変わるとかあるのかね? 氷タイプは冬に、炎タイプは夏に能力上がるとかそういうのありそうだなぁ。うんうん考えていると、情報をまとめた資料を作っていたハルカが少し拗ねた表情になった。

 

「…………ハァ。洞窟での偶発的遭遇と壁画発見とか、本当にキョウヘイ先生は私がいない所でイベント起こすよね」

 

「んなこと言われてもなぁ……まぁ、今後嫌でも巻き込まれることになるだろうから安心しろ」

 

 どうあがいても巻き添えを食らうだろう。ぎりぎりネタに出来る範囲内までなら、たとえ逃げようが巻き込むように立ち回るつもりだ。

 

「期待しておこうかな?」

 

「信じるものは救われるって言うだろ?」

 

 信じる者と書いて儲かるとも言うがね。

 

「キョウヘイ先生の場合、信じて掬われるのは足元ですよ」

 

「おいおい、俺が何をしたって言うんだ」

 

 頼まれた事は基本的にやり遂げてきたというのに。まるで信頼に背いたみたいに言うではないか。

 

「疲れて歩くのが辛いから助けてって頼んだ時! 肩貸して貰えると思っていたら物理的に足元掬われたうえに、土木用の一輪車で輸送したじゃないですか!」

 

「ハハッ! ゲイリー!」

 

 運ぶということに嘘はついていなかったじゃない。それに、肩貸して運ぶっていうのは、俺にとっては結構決心が必要なのよ?

 

「コイツ……」

 

 乙女がしちゃいけない顔になってるぞ。

 

「おこなの? 激おこぷんぷん丸なの? ……まって、まった、まて、やめて! それはダメだろう。暴力系は今時流行らんぞ!」

 

 この娘いったいどこから鞭なんて取り出しやがった! 鞭打ちとか流行らないし、何よりも洒落にならん。拷問で普通に通用するんだぞ!

 

「わたし、対キョウヘイ先生の為に何か学ぶべきだと思ったんですよ。そんな時にふと思い出したんです。映画に出ていた冒険家の人は鞭を持っていたことを」

 

 そんな映画の知識だけで扱うのはどうかと思うのよ。冒険家の人だって困惑するだろう。映画のイメージを押し付けていいのはニンジャと筋肉だけだ!

 

「大丈夫。女レンジャーさんから扱い方を教わったから軽く跡が付くぐらい」

 

「逞しいなぁ、オイ。人に向けての鞭の打ち方を教えられるって時点でおかしくない?」

 

 知ってる女性のほとんどが男前な気がする……男は夢ばっか追って、女が現実見ていることが多いせいかね? 現にポケモン関連でポストについているの女性ばっかりだし。警察とか、ポケモンセンターとか……うーむ。

 

「まぁ待て、まず落ち着いて深呼吸しよう」

 

 背中に冷や汗が流れる。

 

「はい吸ってー」

 

 ハルカがスーっと息を吸う。今の内に縄抜けを行いたいのだが、いかんせんきっちりと要所を踏まえて結ばれている為、なかなか抜けることができないでいる。どこからこんな知識を……あの女レンジャーからの入れ知恵か。この知識をどこで活かす気だったんだ……? 今か。

 

「はい吐いてー」

 

「ハー……そういえば、キョウヘイ先生って縄抜けできるらしいですね?」

 

 なに、バレていただと!? どこから流出した……ジョシュウさんか。あの野郎め。

 

「残念だが抜けられそうにないのよな……飯奢るから、許して――」

 

「――早速行きましょうか」

 

 変わり身早くない? ちょろすぎてお兄ちゃんちょっと心配になるんだけれども。

 

「……なんでだろう。俺には逝くという風にしか聞こえなかったなぁ」

 

 そのままマスクを剥かれ連行されるが、これは戦術的撤退である。断じて圧力に屈したわけではない! 自分の心を奮い立たせよう。まぁ、元々どこかしらで晩飯を奢ろうと考えていたし、そこまでの痛手にはならんか。

 

「あなた達! 戻って来なさい!」

 

 ハルカが、外で金ダライに浮かんでいたポケモン達を呼ぶ。庭先に金ダライが並んでる風景がかなりシュールだ。呼び声に応じて帰ってきたが……なにやら数が多い。

 

「点呼! 1!」

 

「クッ!」

 

「ボッ!」

 

「ココッ!」

 

 ふむ…………む? やっぱり、なんか多い。

 

「キノココ、お前付いて来たのか」

 

「キノコッコ!」

 

 律儀なやつだな。正直諦めていたぞ。

 

「キョウヘイ先生が不法投棄されていたときに、上に乗っかって跳ねていたので一緒に回収しておいたわ」

 

 そうだったのか…………ありがたいな。これで脳内で描いていたアクア団アジト襲撃作戦が現実味を帯びてきた。やらなくていいのならそれに越したことはないが、どんな事でも備えるに限る。

 

「飯食ったらニックネームを決めような」

 

「コッコ!」

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

「やっぱ温かい飯は美味かった」

 

 オムライス美味かったっす。サバイバルで温かいものって、余裕がないと食べれないからなぁ……冷たい飯は連続だと心を荒めるし、テンションも下がる。やはり出来立てというだけで、ほんの少し精神は回復できるものだな。

 

 仮眠室に戻って円形に座る。上座には御神木様が陣取っており、早くマッサージをしろと催促してくる。とりあえず後でみんなをマッサージせねば。だが、今は我慢させておこう。

 

「で、結局この子のニックネームはどうするの?」

 

 キノココを撫でながら聞いてくる。道中で話し合って決めましたよ。

 

「色々と相談したんだけどな、網代笠(あじろがさ)ということになった」

 

「網代笠? なにそれ」

 

「進化後の笠繋がりでな。僧侶やお遍路さんがよく被っている竹や経木なんかを細く削って、縦横に組んだ笠だ」

 

 今の形もなんとなく網代笠に似ているから問題ないだろう。

 

「ああ、アレね」

 

「俺個人としてはエリンギ親分が一押しだったんだがなぁ……」

 

 他の候補としては、キノピオとか、衣笠とか、色々とあったんだけど全部没になってしまった。でもエリンギ親分ガチで強いんやで? 残念だ……痛いから叩かないでくれ。うん。冗談だから。もう考えていないから。案として出した時にも【たいあたり】を食らった。どうにも女の子だったらしい。それに伴ってエリンギの姉御って変えたら、もう一撃【たいあたり】を食らうという悲劇が起きたが。

 

 まぁ、こういうのはネタにはすれども、本気でやるきはない。

 

「…………だから帰り道で【たいあたり】されてたのね」

 

 反省しておりますとも。

 

「まぁ、その際に他に覚えている技や性格を把握できたから無問題だ」

 

 紙に書いてファイリングしておいた。技のコンビネーションを考える際に利用しようと思う。

 

 キノココ(網代笠) ♀ はやあし 意地っ張りな性格

 

 タネマシンガン

 きあいパンチ

 たいあたり

 

 なぜか吸い取るを忘れてるようだが、どういうことなんだろう? そう思っていると仮眠室の扉がノックされた。

 

「キョウヘイさんはいらっしゃいますか?」

 

「はいはい、どうしました?」

 

 頼んでいたギリースーツやガスマスク、フィルター等々が届いたかな? 扉を開けるとあまり話をしたことがない職員さんが来ていた。

 

「通販のお品物が届いております」

 

 下に荷物を受け取りに行く。これで準備の大体ができたかな。

 

「さて、ギリースーツが揃ったから2日後に突入、10~15日かけて森を攻略する」

 

 東ルートは大まかに掴んだからこれぐらいの期間で問題ないだろう。ただ西ルートがどれぐらいかかるかわからないのがなぁ……まぁ無理そうなら戻るかキノガッサ輸送でもされるか。

 

「はーい。じゃあ明日は休み?」

 

「そうだな……俺はレンジャーさんにお礼を言っておこう。そのあとに食料やその他諸々を買ってくるから、必要なものがあれば俺に言うか自分で買ってきてくれ」

 

 これで暗に察してくれるだろう。

 

「ん、了解。お父さんに資料送ったあとは自由時間ね!」

 

「おう……そう言えばそっちの訓練はどうだったんだ?」

 

 連絡入れようにも余裕なかったから聞けなかったんだよな。後日オダマキ博士宛にレポートを送る手筈になっているのでハルカの実感を知っておきたい。

 

「大変だったけど為になったかも? キョウヘイ先生が森に潜ったあとにレンジャーさんたちとポケモンバトルとかもやったんだ! 個人的にかなり手応えと達成感があった!」

 

 おお、なかなか好印象!

 

「楽しかったか?」

 

「うん!」

 

 ならいいか。これならメニューを変えなくてもいいだろう。

 

「楽しめたならよかった。旅しながらでもあの訓練と似たようなことするから、嫌になっていたらどうしようかと思っていたんだ」

 

「え? そっち!?」

 

「当たり前だろ。本当は継続して行いたいが、それも無理そうだから町ごとに行うとオダマキ博士と約束してるんだよ」

 

 まじかー、と言ってダレるハルカ。あの人もなかなかに筋肉マニアだったりする。あの太ももの筋肉はかなり鍛えている証拠だ。

 

「さて、寝るならベッドの上で寝てくれ。そろそろ御神木様たちにボディー磨きやマッサージをする時間なんだ」

 

「え~、せっかく明日休みなんだからまだ寝ない! 今日はボール掘りの続きをやるってさっき決めたんだから」

 

 そう言って道具を取り出し始める。まだ少し危なっかしいが彫刻刀に慣れてはきたのだろう。ハルカが掘り始めたのを確認してから、御神木様のボディ磨きを始める。

 

「この力加減で大丈夫か?」

 

「クギュル!」

 

 いい感じらしい。コンパウンドを買ったのは正解だったな。最近、棘の生え変わりが多くなってきた気がするが……ストックも増えてきたし、棘を使ったモノって何かあるかな。これで何か作れたら記念になるだろうけど。箱ぐらいなら作れそうだ。

 

 次は大賀にマッサージを行う。大賀用にもマッサージオイルを買っておいた。

 

「お客さん凝ってますねー」

 

「すぼぼ……すッ!」

 

 葉の部分以外をマッサージしていく。やはり足がよく凝っているので入念に揉まねば。前よりも葉が大きく、肉厚になってきているようだ。成長を感じさせる。

 

 最後に網代笠、まだマッサージ初心者なので背中などの当たり障りのないところから始める。

 

「む……思っていたより全体的に柔らかいな」

 

 きのこだからだろうか、ふにふにと柔らかめである。

 

「コココッ!」

 

 うむ、マッサージを気に入って貰えたようでなにより。これからよろしく頼むぞ。

 

 マッサージを終えるといつの間にかハルカは布団の中に入っていた。熱中していたせいか、いつの間にかもう夜遅いみたいだ。電気消せないから寝づらかっただろうに。電気を消して布団に入る。ポケモンたちは既にバスケットの中に入って寝る体勢だ。

 

 明日の予定は、買い物する前に102番道路のキルリアに、木彫りのキルリア像とか届けに行かないとな……何も問題が起きなければいいけれど。

 

 


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