カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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買い物と旅立ち

 流石に普段通り食べるのはどうかと思って、俺がワニのマスクを脱いだ瞬間からラーメンバトルが始まるのは想定外でした。だいぶ美味かったんだが食った気がしないのは何故だ?

 

 フェードアウトした二人を除いて、オダマキ夫妻、ポケモン達が食休みをしている。

 

「キョウヘイさんは、休日は何をしてらっしゃるので?」

 

 先程からミツコさんに色々と質問されているのだが、俺は何かしたのだろうか? ……娘預ける人間だし色々と聞くのは当たり前か。今まで接点なかったもんな。ハルカがどういう風に伝えているのかが気にならなくもないが、藪蛇を出す必要もないだろう。うむ。

 

「街中をポケモンと散歩したり、トレーニングをしたり、勉強をしたりですね。大体午前中にトレーニングや散歩、午後に勉強や趣味をしています」

 

 こう言うと好青年みたいに聞こえるかもしれんが、俺がやっているとみんな二度見してくるんだぜ。まぁ、マスク被った大男がポケモンと一緒にトレーニングしている様はインパクト十分だろう。狙ってやっているのだから間違いない。

 

「トレーニングですか。だから筋肉質な体をしていらっしゃるのですね」

 

「昔の名残のようなものですよ。それに体を動かせるのは楽しいですから」

 

 病院のトレーニングは定期的で、決められた通りにしかできなかったのがつまらなかったんだよなぁ。景色も変わらんランニングとかどうかと思うんだ。

 

「そうですか……そういえば小物を作るのも得意とお聞きしましたが?」

 

「本職さんには敵いませんがね、今はこんなものを彫っています」

 

 そう言って今彫っている最中のトーテムポールを見せる。トーテムポールはこの前より少し進み、御神木様の下にいる大賀の葉の部分を掘り終えた状態だ。色は最後に塗ろうと思っている。

 

「あら、とてもお上手ですのね」

 

「おお、綺麗にできてるなぁ」

 

「色々あって手持無沙汰になってから彫刻刀で色々と彫っていたら、こんな体格をしているのに指先もそれなりに器用になれました」

 

病室内じゃあの前科のせいで彫刻刀持ち込めなかったから、雑学の本とルービックキューブが友達だったけどね……寂しくなんてないやい!

 

「キョウヘイ君がそんなに多趣味だとは思わなかったよ」

 

 うーむ、多趣味とは違う気がする。

 

「ハハハ……ここまで趣味が増えたのはここ数年でですけれどね。他に面白そうなネタはないかと本ばかり読んでいた時期もありましたよ。そのせいで一時は体力が少し落ちましたし」

 

「でも今はポケモンと持久走をして勝つぐらいには元気だよね。あの検査結果からは考えられないんだけどなぁ」

 

 競技によってだが、ポケモン相手に善戦できる程度には体力に自信はある。でもそこまで珍しい感じではない。少なくとも調べた感じ、ポケモンの訓練に混ざっている人も結構居るみたいだし。

 

「……俺もオダマキ博士の体力は凄いと思いますよ」

 

 ボソリと一言。あの状態からすぐにこっちに来る事が出来るとか尊敬するよ。俺なら凍るね。間違いない。

 

「ん? 何か言ったかい?」

 

「いえ、よく食べるなと」

 

 最初は俺も大食いに参加していたのだが、3杯食べた時点で満腹になった。

 

 そんな感じの軽い会話をして今日の食事会が終わり、その場で解散になった。思いの外時間が残っているな。帰ったらトーテムポールの続きでも作るか。

 

「御神木様も大賀も満腹か?」

 

「スボォ」

 

「クギュ」

 

 満腹でご満悦のようだ。意外な発見だが、大賀(ハスボー)は意外と良く食べるようだ。御神木様(テッシード)の方が少食……と言うべきなのか判断に困るが、麺抜きで5種類のスープを飲み比べしていた。

 

 今更だが、草ポケモンって塩分調整はどうしているんだろう。塩分を摂らないと体調に異変を来すとは聞いているが……そこはやっぱり生物ベースなのだろうか?

 

   ◇  ◇  ◇

 

 あの宴から2日、挨拶回りをしたり研究所の前で自転車を改造したり色々やったが、これで準備は完了だ。今日一日は休日にして明日から旅になる。基本的には、アクア団やマグマ団(奴ら)が襲撃でもしていない限り、基本的にのんびりとした旅になるだろう。

 

 送った血液サンプルなどの検査結果が出るまでは、それなりに時間がかかると聞いている。ようやく手掛かりが手に入るかもしれないのだ。焦ったところで仕方がない。今は何が目的か分からないカイオーガ探しはまだ先送りでいい筈だ。身体について調べる為に行動した結果、カイオーガが目覚めて街を滅茶苦茶にしましたでは話にならない。

 

「キョウヘイ先生! これでいい?」

 

 ハルカの声に引かれて視線を向ける。マウンテンバイクの拡張が終わったらしい。

 

「うーん……よし、ボルトでしっかり止まっているな。これでマウンテンバイクのハンドルや後ろに荷物を付けられるようになる。この手のものは自分で出来るように勉強だな」

 

 マウンテンバイクの荷台に荷物を括りつけられるように拡張する。これでハルカや俺の負荷が減るようになっただろう。これで多少旅が楽になるな。ミシロタウンからトウカシティまではそこまで距離がないから、夜はゆっくりポケモンセンターで寝ることを加味しても、自転車なら一日ぐらいと考えていいはずだ。その分荷物が少し減らせるかね?

 

「ご指導お願いします!」

 

 いい返事だな。努力できる娘は伸びるぞ!

 

「そういえば、ハルカは挨拶回りをもう終わらせたのか?」

 

 交友関係とか聞いてなかったけど地雷じゃないよね? お兄さん心配です。

 

「もう終わったよ。あとはお父さんにプレゼント買おうかなと思っているぐらいかな?」

 

「プレゼントか……俺もお世話になっているし買い物に付いて行っていいか?」

 

「いいけど、そのフクロウのマスクは外してね」

 

 しょうがないなぁハルカちゃんは。マスクをリュックの中にしまうが俺は諦めんぞ!

 

「何買いに行くんだ?」

 

 ネクタイは着けんだろうし家具は大きすぎる。無難にハンカチやタオル、菓子折りかね? 資金援助受ける側が高いもの送るとか、生活保護受けている人間がフェラーリ買うようなものだ。

 

「新しいカメラを贈ろうかなと思っているの。お金は貯めていたし問題なし!」

 

 おおう、マジか……俺だけ何も持っていかないというのはマズイだろう。すぐさま掌を回す。俺もはっちゃけて高いお菓子でも買うかな。酒はさっきの感じから除外しておいた方が良さそうだ。臨機応変って大切だよな。

 

「よし、カメラから先に買いに行くか」

 

「自転車のテストも兼ねてだね! 気合入ってきた!」

 

 自転車に乗りハルカを追いかけるがなかなか快適だな。2段ギアだったのを3段ギアに変更しただけはある。人の多い道をスイスイと進むこと10分。小脇の道に入ると小さなカメラ屋さんにたどり着いた。見た目綺麗だとは言えないが、商品をよく見るとしっかりと手入れされているのが伺える。

 

「ここか?」

 

「うん! 質がいい物を揃えているの」

 

 よくそんな情報まで持っているな。どこから仕入れてきているんだ? その情報。

 

「おお、一眼レフのカメラかっけぇ!」

 

 ハルカがニ○ンに似たカメラをまじまじと見ているが……少し顔をしかめている。思っていたものではないのか、それとも予算オーバーなのか。

 

「少し出そうか?」

 

「ううん……大丈夫。お父さんへのプレゼントはわたしのお金で買いたいから」

 

 芯があるようで何よりだ。こういうところは好感が持てる。

 

「そうか……先に店を出ているな」

 

 あまり横から口を出さなくてもいいだろう。ふと向かいの店を見ると、膝ぐらいまであるロング丈の見事なシングルトレンチコートが売っている。目に止まったからにはしっかりと確認せねばなるまい。先日のあのスーツのように。

 

 店の中は閑散としているが嫌な雰囲気ではない。しっとりとしたBGMが流れている。

 

 トレンチコートに近寄って手触りを確かめるとかなり丈夫な作りだった。しっかりと防水もしてあるようだ。あんまり服持っていないから買おうかね。奥にあるバンダナもいいなぁ……旅に出た記念にハルカに買ってやるか。

 

 ジーパン2枚とトレンチコート、白いラインの入った緑のバンダナをその場で買い、バンダナは包んで貰った。自転車の横を見ると、既にハルカが待っていた。

 

「遅いですよ先生! レディを待たせるのはどうかと思います」

 

「スマンスマン。これあげるから許してくれ」

 

 そう言って緑のバンダナの入った包みを渡す。

 

「これは?」

 

「旅に出る記念かな。開けるのは部屋に帰ってからにしてくれ」

 

 その場でのプレゼントの批評は心にダメージを食らうから後で開けてね。

 

「わかった。気になるけど帰ってから開けることにする」

 

「うむ……時にハルカさんよ、おいしいお菓子屋の情報なんて持っていませんかねぇ?」

 

 俺はそんな情報持っていないのよ。情弱やのう。

 

「お母さんがよく行くお店なら知ってるよ。付いて来て」

 

 また街中を走る中、馬のマスクを装着して完全変態を遂げる。これがないと、偶に俺だと認識して貰えないときがあるのだ。ここまで浸透すれば、印象操作は完璧だと言っていいだろう。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 さて、出発の朝だ。思いの外晴れてくれたのがありがたいな。これで気分良く旅に出れる。ハルカはいつもの赤いバンダナではなく俺が昨日プレゼントした緑のバンダナを頭に着けている。気に入って貰えたようで何より。

 

 ここは101番道路、どうせならとオダマキ博士も街の外まで付いて来ていた。恐らくこの後に来るポケモンも目当ての一つなのだろう。

 

 そして残念ながら、ジョシュウさんとミツコさんは留守番らしく手紙をハルカに渡していた。顔をしかめているあたり、大方気をつけるべき事柄でも書かれているのだろう。

 

 そんなハルカを尻目に俺は速やかに馬のマスクからキリンのマスクに変更しポケモンを呼ぶ。軽く呼ぶだけで9匹ものジグザグマたちが前に出てきた。餌付けの力パナいな。

 

「来たか……この袋を主に届けたいんだ。主を呼んでくれないか?」

 

 ジグザグマたちは少し協議した後に2匹ほどが森に奥に帰っていった。恐らく呼びに行ってくれたのだろう。5分ほど待つとあのマッスグマが森の奥から現れる。威圧感は相変わらずだが、ここまで何度も会うと、慣れのせいかあまり緊張してこない。オダマキ博士やハルカは、初めて食らうプレッシャーに目を丸くして固まっている。

 

 オダマキ博士は写真を撮ろうと思っていたのだろうけれど、体が動かないっぽいな。

 

「私たちは本日からこの地を出て旅に出ます。今まであの場所を使わせていただき、ありがとうございました!」

 

 頭を下げ、作っておいた特製ポケモンフーズやポロックの入った袋を渡す。本ポケに直接だとアレなので、手下のジグザグマに渡しておく。するとそのジグザグマから技マシンを貰った。相手がいるのに確認するのもどうかと思うし、後で確認しよう。名刺でもないし。

 

「ありがとうございます!」

 

 礼を言うとそのまま主たちは森に帰っていった。まさか技マシンを貰えるとは思わなかったぜ。余韻に浸る前にキリンのマスクから馬のマスクに戻す。

 

「……凄かったね」

 

 ハルカが呟くように言った言葉に、オダマキ博士が頷いている。

 

「あのポケモンがこの101番道路の主だ。オダマキ博士も運が良ければまた会えるかもしれませんよ」

 

「……そうだね。こうして新しい発見があると心が躍る!」

 

 結局写真を撮ることができなかったみたいだが、主を自分の目で直接見たせいかテンションが上がっているようだ。そんなオダマキ博士を尻目に貰ったわざマシンを見ると№27【おんがえし】が記録されていた。これはありがたいですな。助け合いって素晴らしいね。

 

「ではオダマキ博士、行ってまいります!」

 

「お父さん! 行ってくるねー!」

 

「頑張ってこいよー!」

 

 勢いよく自転車を踏み込んで道を進めてゆく。流れてゆく景色と風がとても心地いい。軽い丘を越えて、小さな森林を抜けると草原が広がっていた。

 

 風を割るようにハルカと縦に並んで、インカムで話しながら進んでいく。

 

「コトキタウンまではどれぐらいだっけ?」

 

「だいたい3時間も自転車で進めば着くって聞いている。道中キツくなったら言ってくれ。こういう舗装されていない道は、慣れてないと力みすぎて足首を痛めやすいんだ」

 

「うん!」

 

 なんか俺がお父さん化してきている気がしなくもないが、まぁいいか。預かってる側だしな。

 

「キョウヘイ先生ってフルフェイスのマスク被っているのに全然息切れ起こさないよね」

 

「鍛えてるからな。ハルカもトレーニングに参加させるつもりだから覚悟しておくようにな」

 

 森や山岳、洞窟や海底なんて秘境も回るんだ、体力がなければ話にならんだろう。

 

「これでも、同じ年の子より鍛えてると思うんだけどなぁ」

 

「山登る訓練とかはしていないだろ? その辺はトウカシティのレンジャーハウスで教えを受ける予定だからな」

 

 もうすでに先方に電話で話を通していたりする。考えてはいたのだがオダマキ博士の方から提案されるとは思っていなかった。

 

「……わたしポケモンレンジャーになるの?」

 

「資格を手に入れられるまではいかないだろうな。触りをやって心得と山や森の動き方を学ぶんだ。トウカの森は地滑りの影響で、地図がほとんど意味をなしていない状態だという話を少し前に聞いた。俺やハルカみたいな森歩き初心者が、いきなり凸るのは危険すぎるだろ?」

 

 普通の山岳の踏破方法ならともかく、ポケモンが彷徨いている森の踏破方法なんて親父から教わっとらんからな。

 

 それに巨木が道を塞ぐぐらいだ。内部が凄まじいことになっているのを想像するのは難くない。調査が進んでいると思いたいがどうなんだろうな?

 

 ……鍛えるといえば、将来何になりたいか聞かないと鍛える方向も定まらないな。

 

「そういえばハルカって将来何になりたいんだ?」

 

 トレーナーか、ブリーダーか、はたまたコーディネーターか。普通の職業にはならないだろうなぁ。

 

「お嫁さん!」

 

「そういうボケは俺の特権だ。なりたいものがあるなら早めに言ってくれよ? その夢の経験になりそうなところに連れて行ってやろう」

 

 いや、まぁ、本気で花嫁修業したいのなら、温泉街のフエンタウンにある宿にぶち込んで修業させるが。人生経験の豊富な人も多いだろうし、可愛がってもらえるはずだ。

 

「むぅ、お嫁さんが一番なんだけれど……今のところはこれといった目標はないかも? 強いて言えばお父さんの研究ぐらい!」

 

 今をときめく乙女がやりたいことが研究か……親子2代でフィールドワーク中心になりそうだな。ジョシュウさんの心労もマッハだろう。

 

「そうか。フィールドワーク中心になりそうだし、ポケモンに気づかれにくくなるような訓練をしようか」

 

 レンジャー系技能が一番近いな。予定より長くするか? ……森の状況次第では考えておこう。

 

 会話をしながら色々と計画を練っていると、コトキタウンが見えてきた。あまり長く寄るつもりもないから、軽い休憩と飲み物を買うぐらいかね。

 

 街に入り人通りを抜けると、日陰のある小さな公園を見つけたためそこで休憩をする。自転車があると楽でいいですな。

 

「今のところ問題はないか?」

 

「大丈夫かも!」

 

「それはどっちだ」

 

 ここまでテンプレ。こんな会話研究所で何度もやったぞ。

 

「じゃあこのままトウカシティに向かって構わんね?」

 

「いいよ! どんどん進んじゃ……わらび餅!」

 

 ハルカがわらび餅の屋台を見つけ、突貫しに行ってしまった……もう少し日陰で休憩した後にトウカシティに直接向かうことにするか。

 

 


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