起きたらマさん、鉄血入り   作:Reppu

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お盆は休むぞ投稿。


82.軍事的優位を取った状況での交渉は、譲歩してはならない

以前の世界でも思ったのだけれど、停戦交渉って超面倒だよね。

 

「火星における統治領の完全放棄!?そんな話が呑める訳ないだろう!!」

 

「しかも現首脳陣を全て公職から追放だと?こんな要求が本当に通るとお思いか!?」

 

妥協点を模索するはずなのに、全拒否で微塵も話が進みません。ところでたかがPMCの顔役風情がこんな場所になんで呼び出されているんですかね?中世かな?

 

「困りましたね、こちらとしては随分と譲歩しているつもりなのですが?」

 

此方へ頻りに視線を送りながら、ラスカー・アレジ氏がそう口を開く。そうだぞー、そっちのMSはほぼ殲滅したからな。ここから再開となると、通常戦力だけでこっちを相手にする事になる。ついでに言えば降伏勧告を蹴られるから、こちらとしても手加減が出来なくなるんだが。

 

「と、とにかくもう少し内容を検討頂けませんでしょうか、これでは国民を納得させることも出来ません」

 

頻りに額の汗を拭きながらオセアニア連邦の交渉担当者がそう口にする。同意するように他の経済圏の交渉役も頷いた。黙っていても良いのだが、あんまり長引かせたくないんだよな。遠征先じゃ欠食児童を食わせるだけでも大変なんだよ。

 

「交渉が決裂した場合の事は当然考えているのだろうね?」

 

腕を組んだまま、俺はそう口を開く。

 

「こちらからの降伏勧告を蹴るのだから、当然攻撃は再開させてもらう。この程度では降伏できないと言うならば仕方がない。もう少し各国の民衆に戦争を直接味わって頂くとしよう。ああ、それと今後そちらからの降伏は認めない。既に何度か偽装降伏でこちらに被害が出ていてね?明確な条約が無い以上、ルール違反だなどと騒ぐつもりはないが、部隊保全の為にも君達からの降伏は全てそういう物だと判断させてもらう。当然これは民間人にも適用させてもらうよ」

 

俺の言葉に顔を青くする交渉役達。おいおい、まさか俺が部下を殺されてヘラヘラ笑っているとでも思ったのかい?舐めてんじゃねえぞ。

 

「そ、そんな事をギャラルホルンが許すわけが!」

 

苦し気にそう反論するアフリカユニオンの交渉担当者を俺は鼻で笑ってやる。

 

「寝ぼけるな。民間人に被害が出ない程度の内容では降伏出来ぬと、戦争の継続を望んでいるのはどちらかな?こちらはそちらの都合に付き合ってやっているに過ぎん。そもそもこの戦争はそちらから仕掛けてきているのだという事を忘れるな」

 

大義もへったくれもない戦争を仕掛けてきたんだぞ?お前達の言葉を借りるなら、それこそ生半可に許すなどアーブラウ側の国民が納得する訳がないだろう。

 

「し、しかしこれでは我が経済圏の独立が…」

 

馬鹿かよ。

 

「手前勝手に戦争を吹っかけて来るような連中が自主独立?そんなものを交戦国が認めると本気で思っているのかね?そういう寝言は戦争に勝ってから言いたまえ」

 

「わ、我が経済圏はアーブラウから宣戦布告された立場です!同列に扱われる謂れはありません」

 

おっとオセアニア連邦君裏切ったー。はっはっは、SAUとアフリカユニオンの交渉担当者がすげえ目で睨んでるぞ。だがこのマ、容赦せん。

 

「友人は良く選ぶべきでしたな?」

 

そう言って俺は持っていたタブレットを操作し、録音された音声を再生する。その内容はアーブラウに対するSAU・アフリカユニオンの武力侵攻を黙認、アーブラウへの支援を行わない代わりに係争地を譲渡する旨について確認を行っているものだった。

 

「ね、捏造だ!」

 

聞くにつれ顔をみるみる青くしていったオセアニア連邦の交渉担当者が叫ぶ。言うと思った。

 

「そう言われるのは承知していましたとも。ですからちゃんと第三者機関に内容の精査と解析をお願いしております」

 

ギャラルホルンの監査局っていうんだけどね。お願いしたら喜んで協力してくれたぜ。

 

「先に言っておくが、ここが妥協できる最低ラインだ。呑めないと言うのは別に構わんが、これよりも条件が好転する可能性はあり得ないぞ?戦争が長引くだけこちらの負担も増えるのだ。国民を納得させるにはより多くの代償を支払わせる義務が指導者にはある」

 

勝算があったのだろうが、自分から手を出したのは失敗だったな。せめて経済封鎖なりなんなりでアーブラウの暴発を誘うべきだった。そうしたら俺達が巻き込まれる事も無かったから、彼らの思ったような戦争が出来ただろう。尤も歴史にもしもは存在しないので、彼らには現実を受け止めて貰うのだが。

 

「暫し、お待ち頂きたい」

 

そう発言するSAUの交渉担当者にラスカー氏が頷くと、同じくアフリカユニオンとオセアニア連邦の交渉担当者も中座する。それを見送ったラスカー氏は困った顔でこちらを見てきた。

 

「少し、強気すぎではありませんか?」

 

彼はアーブラウ内において蒔苗氏の後継者と目されている男だ。以前の事件の際も蒔苗氏復帰の為に色々と骨を折ってくれた。だがまだ覚悟が少しばかり足りていないな。

 

「これでも随分譲歩していますよ。本来ならば自治権と軍事力の放棄を言い渡したい所です」

 

絶対認めないだろうから言わんけど。

 

「それでは、独立国家ではなくなってしまう…」

 

呻くように言うラスカー氏に俺は冷めた目で口を開いた。

 

「先ほども言ったが、その自主独立とやらのおかげで貴方達は戦争に突入し、我々は巻き込まれたわけだが。それでも彼らの自由を保障したいと言うなら好きにすればいい。だが次の戦争ごっこは地球人だけでやれ、我々を巻き込むな。それから今回の報酬が払えないなどと言う寝言を抜かせばどうなるかはよく考えておくんだな」

 

火星の割譲はこっちの報酬なんだ、絶対に妥協してやらん。まあ現状を考えれば、この位までなら連中も頷けるだろう。何せ各経済圏は火星との取引における関税を大幅に緩和させられている。カルタ嬢が圏外圏における不平等条約による経済格差が治安悪化に繋がっている旨の報告を、繰り返しギャラルホルンに送っていたからだ。ここにイオク君とマクギリス君が乗っかる事で、地球における世論を操作してくれた。経済的に余裕があれば、次は体面を気にするのはどこの世界でも一緒という訳だ。問題は関税を緩和したのに、アーブラウの様に積極的な投資をしなかったから、ハーフメタル等の価格が落ちず、それでいて食料生産なども低調であるために火星の経済が改善していない事だ。火星をちゃんとした市場にするのが宗主国としての立場を失った各経済圏が執るべき手段だと思うのだが、そう簡単にはいかないらしい。なんせ搾取の時代が長かったからなぁ。

 

「…火星を独立させたとして、地球の支援無しに上手くいくとは思えませんが」

 

当然だな。支援者の有無で独立の難易度が変わるなんて経験済みだよ。だが、ちょっとばかし君達は火星を虐め過ぎたんだ。

 

「無論地球の協力があればよりスムーズに事は運ぶだろう。火星は地球の植民地ではなく、重要なパートナーとして人類は再び発展の時代を迎えるだろうな。だがね、それは別に火星だけでも出来ないわけじゃない」

 

火星における人口の大半を占めているのが所謂貧困層だ。真面に就学も出来ず、単純な肉体労働で酷使される、あるいはその仕事すら手に入れられずに浮浪者となってしまう人々。そんな彼らに必要なのはまず衣・食・住である。既に農業や畜産については研究成果も出ていて、値崩れを防ぐために売り物にせず廃棄している食料も多く存在する。アーブラウ領内だけでも農産物は爆発的に生産量を増加させているんだ、短期間で農耕地を開墾するノウハウも蓄積している以上、食料面での経済制裁は怖くない。そこさえクリアしてしまえば、後は娯楽や情報といったプラスアルファになるわけだが、そんなものを望めるのは火星人でもごく一部の特権階級だけだ。仮に彼らが独立に反対したとして、起こりうる未来は良くて追放、最悪独立に燃える革命家による粛清だろう。

 

「地球人が締め付けすぎた代償だね。大半の火星人は食うものに困らず、眠る場所があれば満足出来てしまうんだよ」

 

植民地にするにしても、娯楽や嗜好品に手を出せる程度の余裕は与えておくべきだったな。そうすれば、それらを失ってまで独立したい、今の生活から抜け出したいなんて思う人間は出てこなかっただろう。そして同時に地球側は火星を切り離せない理由がある。

 

「対して地球圏はどうかな?今後経済規模を火星抜きに発展させるならば、木星は火星の影響が強すぎる以上、残っているのは地球周辺、となればコロニー建造が主になるだろうが、大量のコロニー建造に必要となるハーフメタルを一体何処から手に入れるつもりかね?」

 

無論地球や資源衛星、崩壊した月からもハーフメタルは産出する。だがそれは火星と比べれば遥かに少なく、加えて鉱脈自体の分布もまばらだから採算が取りづらいのだ。大した装備も必要なしに露天掘りが出来る火星とは訳が違う。

 

「おまけにあの練度だ。万一が起きた時の経済損失は馬鹿にならんだろうな?」

 

そう、それに加えてハーフメタルはその性質上、至近にMAが埋没していても掘り起こすまで発見できないという厄介な問題がある。無論起動させてしまっても最終的にギャラルホルンが処理するだろうが、それまでの損害が無視できる訳がない。訓練をしているとは言っても兵士の練度はお粗末だし、機体についても大半はフレックグレイズや旧式機だ。まあMSに関してはウチも似たり寄ったりだが、阿頼耶識システムのおかげでパイロットの技量は雲泥の差だ。しかも曲がりなりにもMAとの実戦経験者まで居るのだからはっきり言って比較にすらならない。そのことはラスカー氏も理解できているらしく、苦々しい顔になる。

 

「何、どちらにせよそれはこの戦争ごっこが終わってからの話だ。先ずはこの交渉を成功させるとしようじゃないかね」

 

俺の言葉にラスカー氏は再び溜息を吐く。

 

「とても彼らが要求を呑むとは思えませんが?」

 

「それについては現状を正しく認識させるしかないだろうな」

 

ああ、やっぱり馬鹿を相手に戦争なんてするもんじゃない。俺がそう考えていると、中座していた面々が会議室に戻ってくる。その顔は一様に暗くなっている。これはあれだな、全部拒否しろとか言われたな。

 

「…本国に、確認を取りましたが、アーブラウの提示する要求はとてもではないが承諾しかねる、と」

 

意を決した表情でそう告げて来るSAU交渉担当者。そうか、それなら仕方がない。

 

「どこがいい?」

 

「は?」

 

間の抜けた声を出す目の前の男に笑いながら聞いてやる。

 

「君達の意見は良く解った。だから選ばせてあげよう。何処が良い?」

 

「その、失礼ですが、何処とは?」

 

震え気味の声でそう問うてくるアフリカユニオンの交渉担当者に対して、俺は親切に答えてやる。

 

「吹き飛ばす都市を選ばせてやると言っている。選べないと言うなら、こちらで勝手に決めさせてもらうが?」

 

「馬鹿な、不可能だ!その様な戦力など!?」

 

うん、そんな戦力は流石に持っていないね。けどさぁ。俺はゆっくりと人差し指を天井へと向ける。その意図を理解できず怪訝な顔をする面々に俺は笑いながら言い放つ。

 

「お忘れかな?君達の頭の上にはコロニーが浮かんでいて、それは現在我々の支配下にある。一つや二つ地球に落としてやっても我々は何も困らないぞ?」

 

「こ、コロニー落としだと!?」

 

「そんな暴虐が許されると思っているのか!?」

 

思っているとも。

 

「貴国らとの交戦規定に、大質量兵器による地上攻撃を規制する内容は含まれていなかったと記憶しているが?恨むなら杜撰な交戦規定のまま開戦に踏み切った自身の無能を恨みたまえ」

 

なんせダインスレイヴは禁止されているがコロニーを地球に落とすなという国際条約も無いからな。まあとは言え俺も鬼ではない。

 

「取りあえず1発ずつだ。さ、何処に落とすかね?」

 

言いながら俺はゆっくりと立ち上がり、壁に掛けられていた地図を見る。その地図は俺の知っている地図に酷似していて、オーストラリア大陸に見慣れた円が刻まれている。つまりこの世界でも恐らくコロニー落としは最低でも1回は行われているのだ。ならばその威力が如何程のものかも理解できている筈だ。当然、都市を狙って落としたところで、被害がその程度に収まらない事も含めて。

 

「わ、わが国は、わが国はアーブラウの要求を受け入れ、降伏致します!」

 

一番最初にそう叫んだのはオセアニア連邦の交渉担当者だった。そらそうだろうな、経済圏の中で、最も海洋からの影響を受けやすいのがオセアニア連邦だ。何処に落とされても、津波という二次被害で多くの沿岸都市に多大な被害が発生する。沿岸部に人口密集地を持つかの国では、それこそ再起不能な被害が出る可能性が高い。俺はにこやかに頷くと口を開く。

 

「ふむ、一発余るな」

 

「ブラフだ!その様なことが簡単に出来る訳がない!!」

 

SAUの交渉担当者が立ち上がり、震えた指先で俺を指す。だが、その言葉に応じたのはラスカー氏だった。

 

「…確かに簡単ではありません。ですが彼の言葉は紛れもない事実だ。既にそれぞれのコロニーから住民の疎開が行われています。まさか、このような事の為だったとは」

 

顔を手で覆いながら呻くラスカー氏を見て、正しくそれが実施されている事を理解し、全員が絶句する。だがそんな事は考慮してやらん。

 

「地図から自国の都市が幾つか消えれば、流石に国民も納得できるだろう。まあその後の寒冷化やら何やらでもっと死ぬかもしれんが、そこは君達の国の問題だ、上手くやりたまえ。質問は以上かな?では、選びたまえ」

 

そう言って俺は地図を拳で叩いて見せた。




コロニー落としはジオン軍人の嗜み(悪い文化

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