サンドウィッチとコーヒー   作:虚人

1 / 19
原作の流れも戦闘もなくてもよくね?みたいなノリで始めたこの作品。
まあ、こんなもの作る奴もいるんだなって感じで見ていただけると幸いです。


開店前の

 ビルの非常階段をのぼり、桜木雄哉は周りを見渡す。土曜日の朝ということで普段なら通勤のサラリーマンやら、通学生やらであふれるであろう駅前も人がまばらだ。

 桜木は少しずり落ちた眼鏡をかけなおし再び階段をのぼる。朝というのに気温は高く、じんわりと汗がにじむ。

 

「夏かねー……」

 

 先日梅雨が明けたばかりで時期的にはもう少し先になるが、そう思ってしまうのも仕方がないくらいに今日は暑かった。

 階段をのぼりきり、手で日差しを遮るようにかかげる。それと同じくして風が吹き、草の香りが鼻孔をくすぐった。

 ビルの屋上は緑に覆われ、色とりどりの花が咲き、そしてその中心に彼の目的地「喫茶店 D.C.」がある。

 桜木は一度大きく深呼吸をし、足を踏み出す。この時間帯はバイト子はまだ来ない。ゆっくり休むことの出来る数少ない時間だ。

 店に近づくといつもと違うことに気が付く。店の前のベンチに誰か座っているのだ。あー、そうか。気づかれない程度に歩みを速めその人物に近づく。相手もこちらに気が付いたようでベンチから腰をあげた。

 

「遅いぞ!ユーヤ」

 

 腰に手を当て、頬を膨らませ、怒りをアピールするその姿にまったく逆の印象を受け、桜木は苦笑いを浮かべる。

 

「いやいや、ごめんね。普段この時間は僕一人だからすっかり忘れていたよ」

 

「まったく……。私も暇では無いんですよ」

 

 そう言いつつも毎週きちんとシフトを入れ、誰よりも早く来る彼女は仕事熱心なのだろうか。

 

「まあまあ、そんな膨れてないで中に入ろう」

 

 扉の鍵を解き、彼女を招くように開く。ふん、と鼻を鳴らしながら素直に店のなかに入る彼女。相変わらずだ。

 

「あー、すまないが窓を開けてくれないか?」

 

「全部?」

 

「そうそう。換気しないと」

 

「了解です」

 

 言われた通りこなすあたり、やはり仕事熱心なのだろう。そんなこと考えつつ桜木はオーナールームに入る。

 荷物を置き、シフト表に目をやる。予定ではあと三人来るはずだが、それもまだ来ないだろう。取り敢えず、掃除をしてから考えよう。

 部屋を出ると既に彼女がモップをかけ始めていた。流石だ。そんな姿を眺めつつ自分は布巾を片手にテーブル拭きに取り掛かる。

 

「そういえば」

 

「うん、どうしたの?」

 

「今日は誰が来るん……ですか?」

 

「みんなだよ。恵理子と麻美ちゃんと、あとは敬二」

 

「なるほど……」

 

 自分で聞いておいての随分素っ気無い反応に肩をすくめる。ここに来てから変わらずだが、どうもコミュニケーションに難がある気がする。気のせいだろうか。

 適当にテーブル拭きを終え、桜木はコーヒーを沸かす為にキッチンに向かう。喫茶店のオーナーである桜木であるが、コーヒーに関してはもっぱら専門の子に任せているためそこまで上等とは言えない。とはいえ、そんじょそこらの一般人に負けることはないと自負していたりもする。謂所の負けず嫌いだ。

 

「いい香りですね」

 

「もうすぐ出来るから、そこに座ってて」

 

「わかった」

 

「ん?」

 

「わ、わかりました」

 

 慌てて言い直し、そそくさと座る彼女。どうもまだ敬語に慣れないようだ。正直な話、桜木としてはどちらでも構合わないのだが、彼女の保護者からそこら辺の教育、矯正をお願いされているのだ。

 

「とと、こんなものかな」

 

 カップにコーヒーを入れ、片方に軽くミルクを注ぎ持っていく。

 

「おまたせ、ミルク入りでよかったよね」

 

「Danke schÖn. あ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 受け取ったカップを両手で包むように抱える姿に微笑みを浮かべつつ隣に腰を下ろす。現在の時刻は七時過ぎ、準備時間を考えるとあと少しのゆとりはある。

 

「あ、あの」

 

「うん?」

 

「今日は何をすればよろしいのですか?」

 

 ああ。そういえば、この子は決まったことを任せてなかったな。新人ということで色々やらしていたことを思い出し、桜木は考える。だが、すぐに子供っぽい笑みを浮かべた。

 

「どこがいい?」

 

「え、あ……。わ、私は、フロア以外でしたらどこでも」

 

「あー、接客苦手だったね、ラウラちゃんは」

 

「す、すみません」

 

 声を尻すぼみにし、彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒは小さな体をさらに小さくした。

 ラウラの詳しい事は知らないが、留学生で特殊な環境で育ったのだと聞いている。まあ、その発信源たる保護者の女性も同じく随分と変わった存在だったと記憶している。いつも眉間に皺を寄せていた彼女を思い出し、くつくつと桜木は笑った。

 

「ユーヤ?」

 

「おっと、悪いね。ちょっと思い出し笑いをね」

 

「はあ、そうですか」

 

「うんうん、それで今日の場所だったね。どうしても接客はいや?」

 

「はい、どうもああいった笑顔を振りまくのに抵抗が……」

 

 確かに思い浮かばないな、と密かに思う。それと同時にもったいなくも思う。ラウラはゲルマンの血で人形の様に可愛らしい容姿だ。現状でも欠点らしい欠点のない彼女に笑顔があれば……。まあ、それをおいても評判は悪くない。決して言いはしないが、彼女の接客もある種受けはある。

 

「じゃあ、しょうがないね。今日は僕と一緒に厨房だ。包丁は得意だったよね」

 

「はい!ナイフで慣れています!」

 

「え、ナイフ?」

 

「い、いえ、なんでも」

 

 カランカラン

 軽快に扉の鈴が鳴り、勢いよく人が入ってきた。

 

「おっはようございます!店長!」

 

「うん、おはよう麻美ちゃん」

 

 元気よく挨拶する飯田麻美に桜木はにこやかに返し、その陰でほっと肩をおろすラウラ。

 そんなラウラに麻美は気づき大げさに声をあげる。

 

「あらら、ラウちゃんじゃん!おはよう!はやいね、どったの?」

 

「ああ、おはよう麻美。私はいつもこの時間にいるだろ」

 

「そだっけ?まあいいや。それより着替えよ!」

 

「あ、おい!」

 

 麻美は嵐の様な勢いでラウラを連れて更衣室にはしっていった。それを見送った桜木は残されたカップを取り、流しに置く。

 

「朝から騒がしいわね」

 

「いつものことやろ」

 

「恵美子に敬二。来てたのか」

 

 いつのまにか入口近くに立っていた二人に声をかける。どうやら、麻美と一緒に来ていたようだ。

 

「ああ、今日は五人か?」

 

「そそ、だからとっと開店準備!」

 

「はいはいっと」

 

「りょーかい」

 

 それぞれ更衣室とオーナールームに行く二人を見送り、桜木は冷蔵庫を確認する。昨夜入れたばかりだから数も種類も問題ない。下準備にかかる料理の食材を出し、取り敢えず並べる。今日は二人がかりだから捗ると予想し、いつもより多めだ。

 食材を出していると、ふっと影がかかった。何事かと思い顔を上げると制服に着替えたラウラがのぞいていた。

 

「ユーヤ、皆揃った……です」

 

「はいよ、りょーかい。ありがと。今行くよ」

 

 持っていた段ボールをおろし、フロアに向かう。フロアには他の三人が待機しており、後ろに着いて来ていたラウラがそこに加わる。

 桜木は四人の前に立ち全員を一度見渡す。

 

「よーし、全員いるね。それじゃ今日の割り振り!敬二はフロアと会計」

 

「うっす」

 

「麻美ちゃんはいつもどおりフロア」 

 

「はーい」

 

「恵美子はプラスでコーヒー」

 

「ん」

 

「ラウラちゃんは厨房」

 

「はい!」

 

「よし!じゃあ今日もぼちぼち頑張りましょう!!」

 

 それぞれの返事を聞き、桜木は高らかに宣言する。

 

 

 知る人ぞ知る「喫茶店 D.C.」今日もぐだっと開店する。




テキトーの始まりです(笑)
文字数は安定しませんが、これぐらいで行こうと思います。
因みに、登場人物の容姿説明はしませんのでご想像におまかせします。

これからちょくちょくお邪魔しますので、宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。