ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第八話 お姫様の願望

千枝のシャドウを倒した翌日。真と陽介は学校の教室で話していた。まだ千枝はやってきていない。

 

「里中のやつ、大丈夫かな? 昨日は色々ありすぎたし、元気になってりゃいいけど……」

 

「里中なら大丈夫だろう。自分のシャドウをきちんと受け入れられたんだからな」

 

「そうだけど……」

 

陽介の言葉に真が返すと陽介はそうだけど、と言いながらしかしやはりどこか心配そうな表情を見せる。と教室のドアが開いて千枝が教室に入り、真達を見つけるとすぐ彼らの方に歩き寄っていく。

 

「おはよー」

 

「よ、よう」

「よく眠れたか?」

 

「うん、結局朝まで爆睡……」

 

千枝の言葉に陽介が慌てたように返し、真が尋ねると千枝はあっさりそう言い、それから二人の顔を交互に見ると照れくさそうに頭をかいた。

 

「その、昨日は色々ありがと……」

 

「「?」」

 

千枝の言葉に二人は不思議そうな表情を見せる、と千枝は照れくさそうに口を開いた。

 

「なんか、恥ずかしいっていうかさ。よく考えたら、二人には本音とか、全部見られちゃったわけだし……あ、命さんにもだよね……」

 

「気にすんな」

 

千枝の言葉に陽介がそう声をかける、と千枝はその陽介の方を向いた。

 

「たしか、花村もあたしみたいになったんだよね? 花村ん時はどんなだったわけ?」

 

「え? あー、何ていうか……」

 

千枝の問い掛けに陽介は何とも気まずそうな表情になる。

 

「そういや、お前ん時は、何もなかったよな?」

 

「話を摩り替えるな」

 

陽介はさらっと話の矛先を真に向けるが真はツッコミを返し、その後に少し考える。

 

「だがそういえばそうだな……あの時は夢中だったと言うか、記憶が曖昧だな……」

 

真は考え込み始めるが、そこにまた千枝が声を出す。

 

「椎宮君のことはともかくさ。とにかく今は雪子を助けるのが一番重要だよね。あたしもやるから。仲間はずれとか、絶対無しだよ?」

 

「当たり前だ」

「当然。頼りにしている」

 

千枝の言葉に陽介と真がそう返す。と予鈴が鳴り、それに陽介が「まだトイレ行ってねえよ」と言って慌てて教室を出て行った。

 

「ね、あのさ。えっと……あ、ありがとね。助けてくれて……」

 

陽介が居なくなった事を確認してから千枝が真に話し掛ける。

 

「花村も、頼れるんだけどさ……けど、椎宮君ってやっぱり不思議っていうか、なんか、頼れそうな気がするんだよね……」

 

千枝の言葉の中に彼女からの感謝の気持ちが伝わり、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“戦車”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

真の脳裏にまた響いてくる言葉。それを聞いた後、彼はふと思い出したように言葉を口にする。

 

「そういえば里中。連絡先を教えてくれ」

 

「えっ!?……あ、うん。そっか、必要だもんね、これから……なんでも、電話してよ」

 

真のストレートな言葉に千枝は驚いたように声を漏らした後納得したように頷いてそう言い、二人は携帯電話の番号を交換する。

 

「雨が降ったら、その後の霧に注意……だったよね。その前に、絶対助け出そう!」

 

「ああ。だが無理はするな」

 

「もっちろん! 雪子を悲しませるわけにはいかないもんね!……昨日、命さんに諭されるまで気にも止めてなかったけど……でもこれから気をつけるよ」

 

千枝の言葉に真が返すと彼女はまた頷き、昨日の命の剣幕や言葉を思い出したのかそう呟いた後にまた元気に頷いた。その後に陽介も教室に戻ってきて、本鈴と共に皆席に着席する。

 

「ハロー! グッドアフタヌーン、エヴリワン! 体育教師の近藤だ!」

 

それから午後まで時間が過ぎて次の授業は英語、しかし教室に入ってきた教師はジャージを着ており、明らかに体育の教師だ。というか自分で体育教師と名乗っている。

 

「人がいなくてな、俺が英語を担当する。大丈夫大丈夫、こう見えても海外旅行経験あるんだぞ! 一週間も旅行したら充分、充分! ツアーだったけどな、ははは!」

 

(……)

 

その言葉に一途の不安を感じてしまう真なのであった。

 

それからそんな一途の不安を感じてしまった英語の授業も無事終了し、時間は放課後まで過ぎていく。真は教科書等を鞄に詰め込むと隣の席の千枝と帰る準備を終えた後どこか落ち着かなさそうに教室の後ろに立っている陽介を交互に見て、まず隣の席の千枝に話しかけた。

 

「里中、どうする?」

 

「ん~……今日、テレビ行く?」

 

「いや、分からない。命先輩にも予定を聞いてみる必要があるし、なにより物資がな。傷薬とか買い込んどかないと……やっぱ往復ってのがきつい」

 

「ああ、そうだな……」

 

真の言葉に千枝がそう聞き返すと真は小さく首を横に振って返し、そこに陽介が会話に入って真の意見に賛成する。テレビの中の世界にある雪子がいる古城、雪子を助けるためにはあそこに潜むシャドウと戦いながら城を上っていくのだがそれがどこまであるか想像もつかない上に、テレビから出るには一度古城を一階まで下りて出て行かなければならない。

昨日千枝を助けた後城から出て行く時は幸いシャドウと出くわさなかったからよかったが、毎回そう上手くいくとは到底思えないし上まで上がっていくと同時に下りていくための負担が増してしまう。陽介はそれを考えたのか頭を押さえて苦しそうな表情を見せる。

 

「せめて下りる手段さえどうにかなればまだ楽なんだけどな……」

 

「まあ、ないものねだりしてもしょうがない……何か手段を考えてみよう。とりあえず俺は薬買いに行くよ、テレビに行く時は電話する」

 

「ああ、んじゃ商店街に四六商店ってあるから行ってみなよ。品揃え豊富だよ、おばさんいい人だし……あたし、悪いけどもうちょっと残るから。なんか動きたくない気分っていうか……あ、でもテレビ行く時は連絡してね。すぐ飛んでくから!」

 

「俺も残るわ。ちょっと考えたいことあるし……あぁ、でも里中と同じくテレビ行く時は電話してくれ。すぐに行く」

 

「ああ」

 

陽介の言葉に真は首を横に振って答えた後、そう言って鞄を持ち上げる。それに千枝と陽介がそう返すと真は頷いて教室を出て行った。

 

それから真は商店街にやってくると千枝が言っていた四六商店を探し始める。

 

「ありがとうございました」

 

とまた聞き覚えのある声が聞こえ、真は声の方を見る。[四六商店]と書かれた看板がある店から命が出てきていた。

 

「先輩!」

 

「あ、真君! ちょうど良かった……これを見て」

 

真の言葉に命は反応し、ちょうど良かったと漏らすと真剣な目つきでエコバッグの中から一つの玉を取り出す。と真は驚いたように目を開いた。

 

「これってクマが渡してきた、地返しの玉!?」

 

命の手にあったのは昨日雪子のいる古城に入ろうとした直前クマが渡してきた、曰く「戦えないほどに傷ついちゃった人に力を与えてくれる玉」という地返しの玉。ちなみにあと白桃の実とソウルドロップというもの――使い方はそれぞれ白桃の実は「食べれば元気が出るし、磨り潰して傷口に塗れば傷が少し早く治る」といういわば劣化版傷薬。ソウルドロップは「齧ればすっきりして気力回復!」という、気力つまり精神力を使うペルソナを操るには必須といえるものだ――も受け取っている。真の言葉に命はうんと頷いて四六商店を見た。

 

「この店に売ってたから気になって店主に聞いてみたんだ、クマ君の説明も込みでね……店主によるとそういう言い伝えがあるっていうだけで、まあお守りみたいなものらしいんだけど……ああ、それともう一個気になるものがあるんだ」

 

命はそう言い、地返しの玉を袋の中に戻すとまた別のものを取り出す。今度はなんていうか、手のひらサイズのカエルの置物とでも言えばいいだろうか? とりあえずそんなものだ。というか妙にリアルで金色のメッキ製だが着色してしまえば本物と言えば騙される人間も出るかもしれない。

 

「……これは?」

 

「カエレール」

 

「……カ、カエルとの洒落?」

 

「知らないよ。まあこっちも気になって聞いてみたんだけど、やっぱりお守りなんだって。道に迷わなくするとか、帰りたい場所に帰れるようになるとか」

 

「やっぱ帰るとカエルの洒落じゃないですか」

 

命の説明に真は目を閉じどこか呆れた様子でまたツッコミを入れた。

 

「まあ、この際名前の由来はどうでもいいよ……ちょっと気になってね。もしかしたらこれ、あっちで使えるかもしれないんだ」

 

「……分かりました。じゃあテレビに、ですね?」

 

「もちろん」

 

命の真剣な目つきでの言葉に真が感づいたように尋ね返すと命もうんと頷いて返し、二人は携帯を取り出す。

 

「俺が里中に連絡取ります」

 

「じゃ、僕は花村君だね」

 

二人はそう言って学校に残っているはずの二人に連絡を取り、ジュネスのいつものフードコートで集合と言う旨を伝えると電話を切って、二人もジュネスに向けて歩いていった。

 

 

 

「全員揃ったね?」

 

「ああ……先輩、そこで飯買ってるけど」

 

「……」

 

一足先に待っていた千枝が尋ねると真が頷いた後言いにくそうにカウンターで軽食を注文している命を指差し、それに陽介が閉口すると命がハンバーガーとフライドポテトのセットを四人分持ってやってきた。

 

「お待たせー。やーここのハンバーガーとかって安いね」

 

「あ、ま、毎度ありがとうございます……」

 

「でもワイルダック・バーガーの新作セットやフニャフニャポテトも捨てがたいな~」

 

命の能天気な言葉に陽介は癖かつい頭を下げてしまい、命は両手が塞がっていながら器用に口で自分の分のポテトを口で銜え取りぽりぽりと齧る。

 

「ってそうじゃなくって! 命さん! これからテレビの中に行くってのに何を暢気な!!」

 

「暢気ってわけじゃないよ」

 

それを見た千枝があーもーっといわんばかりに声を上げると命は真剣な目つきで千枝を見、それに千枝は昨日を思い出したかびくりとなる。と次の瞬間命は柔和に笑った。

 

「そんなびびらなくっても。ただピリピリし過ぎだよ。そりゃ天城さんっていう一人の人間の命がかかっているんだから暢気になりすぎても困るけど、焦りは平静を乱し平静を乱すと冷静な判断が出来なくなる。冷静な判断が出来ないのは実戦において命取りだからね。まずは全員リラックスするんだ」

 

命はそう言うとハンバーガーとポテトをテーブルに置く。

 

「というわけでこれは僕の奢り、全員これを食べて落ち着くこと。ああ、ドリンクは自分で買ってきてね」

 

「「「は、はい……」」」

 

命はそう言って席に着くと自分のハンバーガーとポテトを食べ始め、懐から盆ジュースを取り出すと平然と飲み始める。それを見た残り三人もそれぞれ自分の好きなドリンクを注文し、持ってきてから命の持ってきたハンバーガーとポテトを食べ始めた。

 

 

 

「よし、全員食べ終えたね?」

 

「はい。あぁ、なんかタイミング置いたら少し落ち着いたかも……」

 

「よし。んじゃちょっと出鼻くじかれちまったけど、行くか!」

 

「ああ」

 

命の言葉に千枝はふぅと息を吐きながら呟き、次に陽介が言うと真もああと頷いた。そして四人はプレートとかを片付け、空き缶をゴミ箱に捨てると家電売り場へと行き、周りに人がいないことを確認してからテレビの中に入っていった。

 

 

 

「みんな遅いクマー! 今日は来てくれないかと思って泣きそうになってたクマ」

 

「あはは、ごめんごめん。でもクマ君、悪いけど急いでるんだ」

 

「え? あ、そっか。迷い込んだオンナノコを助けに行くクマ! クマがお城に案内するぞ!」

 

クマの言葉にまさか飯食ってましたとも言えないため命は誤魔化し笑いを零した後話をそらし、それにクマは思い出したように言うとうんと大きく頷くと彼らを古城へと案内していった。

 

「雪子……椎宮君、急ごう!」

 

「あ、ああ。そうなんだが……先輩」

 

「うん……皆、一つ実験してみたいことがあるんだ」

 

「「実験?」」

 

千枝は心配そうにそう言うが真は今日ここに来ることに決めた理由を思いながら命を呼び、命も頷いてそう言う。それに陽介と千枝が反応すると真が頷いた。

 

「ああ。上手くいけばこれからの探索が楽になるかもしれない」

 

「だから、まず僕と真君だけでこの中に入る。皆はここで待ってて」

 

「「「えっ!?」」」

 

真の言葉に続いて命がそう言い、それに陽介と千枝、クマが声を漏らした。

 

「い、いや、それ危険じゃねえっすか!?」

 

「そ、そうですよ!」

 

「別に深入りするつもりはないよ。この城の一階の適等なところが実験場所。シャドウと戦うつもりはないし、逃げ回るには人数が少ない方が身動きが取りやすい。それにいざとなった時にも一人くらいならよほどじゃない限り僕で守りきれる。だから三人はここで待ってて……いいね?」

 

陽介と千枝が慌てたように言うが命はさらっとそう返し、最後に念を押すように陽介達をじろりとした目で睨みつける。それに陽介、千枝、クマがこくこくこくと細かく何度も頷くと真がはぁと息を吐いた。

 

「先輩、リーダーは俺なんですが……」

 

「あ、ごめんごめん。つい……じゃ、そういうわけで行ってくるよ」

 

真の言葉に命はけらけらと笑い、ひらひらと手を振って真と共に古城の中に入っていった。

 

 

 

 

 

「イザナギ!」

「オルフェウス!」

 

それから二人はなるべく戦闘を避けつつ、でも逃げ切れない場合のみ戦っていく。そして適当な部屋に辿り着くと命が荷物を探った。

 

「じゃあ真君、使ってみて」

 

そう言って彼が取り出したのはカエレール。それを真は真剣な表情で受け取った。

 

「はい。って、俺が?」

 

「僕はこれをここからの脱出アイテムとして使用できると考えたんだ。でも、もし脱出できるのが使用者一人だった場合、僕が使用して君一人取り残されるよりは君が使用して僕一人取り残された方がマシだからね。万一またカエレールを使用する前にシャドウから強襲を受けた時、生き残る確率的な意味でね」

 

「なるほど……」

 

真はカエレールを受け取った後に気づいたように問いかけるが、命はそう自分の考えをすらすらと述べていく。それに真は納得したように頷くとカエレールを握り締めた。ここから帰る、そのためにイメージするのは自分達を待つ陽介達がいる古城前。帰るのは自分と命の二人、それらを鮮明にイメージした瞬間。真はカエレールを掲げて見上げるように上を向く。

 

「転移、城門前!」

 

真がそう叫んだ時、二人を不思議な光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

「うおおっ!?」

「のああっ!?」

「クマァッ!?」

 

真と命の耳に突然そんな声が聞こえ、同時に二人を覆っていた光が消え去る。その目の前には陽介、千枝、クマが目を丸くして立っていた。

 

「つ、槌宮!?」

「み、命さん!?」

「センセイ!? センパイ!?」

 

「ここは……城の前?」

「どうやら実験成功みたいだね」

 

驚きの声を上げている三人をよそにきょろきょろと辺りを見回して真が呟くと命もうんと頷く。

 

「え? あの、ちょっ、どうなってんすか!?」

「い、いきなり光が入り口の前に集まったと思ったら弾け飛んで、そう思ったら二人が!?」

 

陽介と千枝はパニックになっているのかまくしたてており、命は真に目をやると真も頷き、彼らを治めるとカエレールを取り出して説明をしていった。

 

「……えぇーっとつまり? 四六商店で売ってたカエレールっつう道具を使ってみたらここに戻ってこれた、と?」

「うっそー、信じらんない……だってそれ、昔から売られてるなんの変哲もないお守りだよ? うちにも二、三個あるし……」

 

説明を聞いた陽介と千枝は信じられないと漏らし、真と命もまあそうだよなぁと苦笑いを見せる。とクマがウムムと唸った。

 

「ウムム、もしかしたらそういうイメージの力かもしれないクマ」

 

「「「「イメージ?」」」」

 

クマの言葉に四人の声が重なる。それにクマはうんと頷いた。

 

「この世界はテレビの中の人にとって現実になるって何回も言ってるクマね? もしかしたら、そのカエレールっていうものに込められたイメージが現実になるのかもしれないクマ」

 

「カエレールは帰りたい場所に帰ることが出来るようになるお守り、そのイメージがこの古城の中からここに“帰る”力になってるってことか?」

 

「多分、そうだと思うクマ」

 

クマの予測に陽介が腕組みしながら返すとクマは大きく頷く。それに千枝もふ~んと呟き、続けて陽介は一つ頷いた。

 

「まあなんにせよ。学校で考えてた下りる手段がどうにかなっただけありがてえよな。俺、命さんから連絡来るまでシャドウに会わず帰る方法を考えてたんだけど、思いついたのが手近な窓叩き割って飛び降りるくらいだったからな」

 

「ず、ずいぶん荒っぽいね……」

 

陽介があははと苦笑しながら言い、そのとんでもない手段に命も頬を引きつかせた。と陽介の言葉に真も頷く。

 

「ああ、とりあえず帰る手段は確保できた。これなら上に向かうことに全力を注げる。皆、行くぞ!」

 

真の激励の言葉に残るメンバーが「おー」や「クマー」など、思い思いの言葉で返し、メンバーは再び古城に入っていった。

 

 

 

 

 

「なんだよ、これ……」

 

「え?」

 

古城に入って少し歩き、最初に口を開いたのは陽介。それに千枝が声を漏らすと真が振り返った。

 

「花村もそう思うか? さっき入った時先輩は平然としてるから俺の気のせいかと思ってたんだが……」

 

「え? 椎宮君も? どうしたってのよ?」

 

「……昨日と通路が変わってんだよ」

 

真の言葉に千枝が首を傾げると陽介は静かな、しかし重い口調で言った。千枝は昨日眼鏡をかけてなかった上にそもそも道順を覚えるほどの余裕がなかったからだろうが、真と陽介は絨毯などの家具こそそのままだが道だけが変わっていることに違和感を隠せていなかった。

 

「まあ僕の場合は……里中さんには話してなかったけど二年前の戦いで所謂シャドウの巣とも言えるような場所が似たようなものだったからね。このくらいは予想の範囲内だったよ」

 

「へ?」

 

「ああ、後で説明すっから」

 

命の言葉に千枝が首を傾げると陽介がそう言い、クマに道順を覚えるのを任せると彼らは階段を探していく。とはいってもついさっき真と命が行った先は除外されるため割と簡単に階段が見つかり、彼らは上に上がっていき、二階へとやってくる。

 

「ここは昨日と変わんねえみたいだな。つっても、あるのはこの閉まってるでかい扉ぐらいだけど」

 

陽介は目の前にある重厚な扉を見ながらそっちの方に歩いていく、とクマが首を傾げた。

 

「あれれっ? 扉の向こう、誰かいるみたいだクマ……」

 

「まさか、雪子!?」

 

クマの言葉に千枝が反応し、彼らは扉を開けると中に入っていった。その扉の奥はやはり昨日と変わらぬ大広間。そこにドレスに身を包んだ、背中を向けているからこそ分かる黒髪を長く伸ばした何者かがいた。

 

「雪子?……」

 

「天城! 無事か!?」

 

千枝が声を漏らし、陽介が声をかけながら五人は走り寄る。しかし雪子と思しき者は彼らに背を向けたままだった。

 

「やっと見つけたのに……雪子、何か変……」

 

不安げに千枝が声を漏らした直後、どこからともなく雪子と思しき者へとスポットライトが当たる。

 

[うふふ……ふふ、あはははは!]

 

それと同時に雪子と思しき者は突然笑い出し、振り向いて真達を見ると驚いた表情を見せた。

 

[あらぁ? サプライズゲスト? どんな風に絡んでくれるの? んふふ、盛り上がって参りましたっ!]

 

そういう雪子と思しき者はまるで番組のリポーターのよう。と、命は相手の瞳が金色に光っており、雪子本人ではないと直感する。

 

[さてさて、私は引き続き、王子様探し! 一体どこに居るのでしょう? こう広いと、期待も高まる反面、なっかなか見つかりませんね~! あ、それとも、この霧でかくれんぼ? よ~し、捕まえちゃうぞ!]

 

身体をくねらせるような動作をしながらハイテンションでそう言う、雪子と思しき者。それは付き合いの長い千枝はともかくまだ知り合って数日程度の真や命すらも本人じゃないと思わせるようなものだった。

 

[ではでは、さらに少し奥まで、突撃~!]

 

そして雪子と思しき者がどういうと同時。

 

――ヤラセなし!雪子姫、白馬の王子様さがし!――

 

まるで空中に投影されたかのように、そんな文字が浮かび上がった。それと同時に辺りから歓声まで響き渡る。

 

「な……何だよ、コレ!?」

 

「雪子じゃない……あんた……誰!?」

 

[うふふ、なーに言ってるの? 私は雪子……雪子は私]

 

「違う! あんた、まさか……本物の雪子はどこ!?」

 

歓声に陽介が驚いたように辺りを見回し、千枝が声を漏らすと雪子と思しき者はそう言い、それに千枝はまた叫んだ後相手の正体を見切ったかのように続けて叫ぶ。と辺りから今度はざわざわという声が聞こえてきた。

 

「なんだ、この声……」

 

「シャドウが騒ぎ出したクマ!」

 

[それじゃ、再突撃、行ってきます! うふ、王子様、首を洗って待ってろヨ!]

 

陽介の言葉にクマが返した後、雪子と思しき者――雪子のシャドウはそう言うと彼らに背を向けて走り去っていく。

 

「あ、待って!」

 

「里中! 止まれ!!」

 

それを見た千枝がつい追いかけようとするが真が瞬時に叫び、千枝も昨日のことを思い出したのか足を止めて振り返る。

 

「今の雪子、どういうことなの!? まさか、あれ……」

 

「そうクマね……たぶん、もう一人のあの子クマ」

 

「俺らん時と同じってか……」

 

「でも、デタラメに騒いでいた訳じゃないクマ。本物のユキチャンは何かを見せたがってる……それをハッキリ感じるクマ」

 

千枝の問いかけにクマが答え、陽介が腕組みをして呟くとクマはそう続け、少し考える様子を見せる。

 

「なんていうか……このお城そのものが、あの子に関係してるっていうか……想像してたより、結構キケンな感じクマ!」

 

「雪子……」

 

クマの最後の言葉を聞いた千枝は心配そうに振り返り、今にも走り出しそうになる。が深呼吸するとその踏み出しそうになった足を止め、それを後ろで見ていた命も真達が誰一人気づかぬ内に自身のこめかみに構えていた召喚銃を下ろす。

 

「……よく出来ました。もし走り出したら足止めにオルフェウスにアギを命じていたところだったよ……順平の二の舞にさせるわけにはいかないからね……」

 

「はい。心配なんだけど、あたし一人先走って、椎宮君達や後で雪子に迷惑かけちゃうわけにはいかないから……」

 

「よし、なら皆一緒に急ごう!」

 

命の笑顔でのしかしその目は心配そうな眼差しをしていながらの言葉に千枝も落ち着くよう深呼吸しながら返し、次に真がそう言うと今度は五人揃って走っていった。

 

そして階段から上の階層に上がっていった時、突然どこからともなく声が聞こえてきた。

 

[うふふ……ふふふ……もうすぐ王子様が私を迎えに来てくれます。ふふ……私はいつまでもお待ちしています……いつまでも、いつまでも……]

 

「ふむー、声は聞こえてくるけど……この辺りはセンセイ達とシャドウの気配しかないクマ。シャドウの動きに気をつけて進むクマ!」

 

雪子らしき声を聞いた後クマが言い、彼らは了解と頷く。そして警戒しながら城内を歩いていると命がベルトの右側に装填しているダーツを一本引き抜く。

 

「いたよ!」

 

命の言葉と同時に彼らも身を引き締める。現れたのは今までよく見かけていた虚言のアブルリーと冷静のベーシェ、そして見覚えのない、カンテラを持ったカラスのシャドウだ。

 

「俺がアブルリーを倒すから花村と里中はベーシェを! カラスは先輩、お願いします!」

 

真はすぐに指示を出すと全員が頷き、命は空中を旋回しているカラス目掛けてダーツの矢を二、三本投げ、それがお腹にある仮面のような部位に刺さるとカラスはひゅるるるると墜落、命もそれ目掛けてジャンプしながら腰の片手剣の柄に手をやり、すれ違い様の居合い斬りでカラスを斬り倒した。

 

「くらいやがれ! ガル!!」

 

一方陽介は何度も戦ってきたおかげで弱点が分かっているためかその弱点を突こうとジライヤを召喚し、疾風攻撃魔法ガルを放つが、その攻撃をベーシェはかわす。しかしその先には千枝がカードを具現させながら待ち構えていた。

 

「いけ、トモエ!」

 

千枝はカードを足で蹴り砕き、自らの人格の鎧(ペルソナ)を呼び出す。そのペルソナ――トモエは薙刀を振るいベーシェを一刀両断に斬り裂いた。

 

「イザナギ! ジオ!!」

 

真もイザナギの落とす雷でアブルリーを消滅させる。とまた彼の目の前で数枚のカードが動き出し、真はその内の一枚を取る。それには三日月のような頭をして袋を持っている小人の絵が描かれていた。

 

「……ザントマン」

 

彼はその名を悟り、静かに呟いた。

 

その後、彼らは階段を見つけてまた一つ階層を進めた。

 

[いらっしゃいませ――]

 

と、彼らが次の階層に足を踏み入れると同時にまたどこからともなく雪子らしき声が聞こえてくる。

 

[本日は天城屋旅館にお越しいただき誠にありがとうございます。こちらがお部屋でございます。何か御用がございましたらいつでもお申し付けください]

 

とても礼儀正しい、洗練されたような声。しかしその声はどこか機械じみたというか義務感で言っているような印象を与える。

 

「この声は、何を言ってるクマ? ここは旅館じゃなくてどう見てもお城だクマ」

 

「ってか、ここって雪子の心から生まれたんだよね? なのに洋風のお城って……なんか違和感があるって言うか……」

 

「あ~、そりゃ俺も分かるわ。なんつーか天城って、和っていうイメージなんだよな。大和撫子っつーの? おしとやかみたいなさ」

 

「……だからこそ、か?」

 

声を聞いたクマの不思議そうな声に続き、千枝と陽介がそう話し合う。と真が考えるように少し黙った後そう呟いた。

 

「「え?」」

 

「俺の推測だが、天城はそういうイメージに反発心を少なからず持っていた。それがこの城に表れているとしたら……」

 

「なるほどね……案外ありえるかも。勝手なイメージ押し付けられるのって結構辛いものだよ?……僕も色々あったしね……」

 

真の推測を聞いた命はそれに賛成するように頷き、どこか遠い目で呟く。それに陽介と千枝は訳が分からないままつい黙り込んでしまった。

 

「まあ、そんな心の推測やってる暇があったら足を進めるよ。はい急いだ急いだ!」

 

しかし命はすぐ話を切り上げさせ、真達もそれに頷くと足を進め、シャドウ達を戦いながら階段を見つけて五階まで上がる。

 

「どこにいるクマね……」

 

[うふふ……ふふふ……]

 

クマが呟いた直後また声が聞こえ、それにクマがはっとした表情を見せる。

 

「感じるクマ! あの子の気配クマ! きっとこの階にいるに違いないクマ!」

 

「雪子!」

 

「急ごう!」

 

クマの言葉を聞いた千枝が一番に反応し、真もそう言って走り出す。

 

[まぁ! そこにいらっしゃるのはもしかして……]

 

しかし少し足を進めると突然そんな声が聞こえ、真達はつい足を止めてしまう。

 

[もしかして王子様でしょうか? 私は囚われの身です。どうか私を助けてください。うふふ……王子様ならきっと……きっと、どんな困難な道のりも乗り越え私を解き放ってくれるはず……私、お待ちしてます……]

 

雪子らしき声はそう述べていく。

 

[ふふふ……]

 

最後に一つ、そう笑い声を零して声は聞こえなくなった。

 

「なんか変な雰囲気クマ……気をつけるクマ]

 

声を聞いたクマはそう呟き、彼らに気をつけるよう警告する。と口元に手をやっていた命が口を開いた。

 

「ごめん、少し考え事をしたいんだ。悪いけどしばらく前線を任せていいかな?」

 

「え? あ、はい。分かりました」

 

「ごめん……クマ君、悪いけどシャドウが真君達で抑えきれなくなったら教えて」

 

「わ、分かったクマ」

 

命の言葉に真は頷き、命はもう一度謝った後クマの近くまで歩き寄るとクマにそう言い、クマもこくんと頷く。それから命はクマの後ろを歩きながら思考を始めた。

 

(昨日聞いた天城さんの声の中にあった“何の価値もない”という自己否定や里中さんへの依存的な台詞、今までの話を組み合わせて考えると天城さんは囚われのお姫様……待ち望むものは自分を連れ出してくれる王子様。こういった傾向を持つ症候群を平賀先輩や山岸から聞いたことがある。たしか、たしかこれは……)

 

命は高校時代に自分と絆を結んだ、当時管弦楽部長平賀慶介や共にシャドウと戦った仲間である山岸風花から聞いた話を必死に記憶をたどって思い出していた。

 

(……シンデレラコンプレックス!!!)

 

そして彼はその症候群の名を心中で叫ぶ。シンデレラコンプレックス、まあ一言で言ってしまえば童話のシンデレラのようなもの。辛い現実から王子様が助けてくれる、という依存的願望を指摘したものだ。

まあただかっこいい王子に憧れるだけなら何も問題はないというか多分女の子なら一度くらい夢に見るだろう。がシンデレラコンプレックスを持つものはその願望が強く、他人に依存してしまい自主性を見失ってしまう可能性を持つ。そう命は聞いたことがあるが、数年前の断片的な知識ではここまでが精一杯だった。そもそも平賀は医者を志しているといっても精神科医は専門外のはず、山岸は家こそ医者の家系だが本人は現在自分が好きな機械工学の道を進んでいる。この話すら文化部活動中の単なる雑談の一部を覚えていたに過ぎないものだ。

 

(この場合、王子様っていうのは里中さんを指すはず……つまり里中さんを上まで連れて行けって天城さんのシャドウは言いたいのか?……いや、何か違和感が……)

 

「命先輩!」

 

命は相手の心理状態を予測し、対応策を考え始めるがその瞬間真から声がかかり、彼の意識が呼び戻される。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ。この扉の先に天城の気配があるそうで。花村と里中は行くって」

 

「あ、あぁ。分かった。ちょうどこっちも思考が一段落したし、戦線復帰するよ」

 

命の問いに真はそう言い、命が頷いて返すと今度は陽介が問いかけた。

 

「つーか命さん、何考えてたんですか?」

 

「んー。まあちょっとした推測みたいなもの?」

 

「そうっすか」

 

陽介の問いには命は悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言い、陽介は頭をかきながら返した。

 

「よし。じゃあいくよ!」

 

そして最後に千枝がそう言い、五人はその部屋の扉を開けて中に飛び込む。

 

[うふふ……]

 

「雪子!……じゃない!」

 

一番に部屋に飛び込んだ千枝はその部屋にいた雪子のシャドウを見て一瞬本物の雪子と見間違えるが直後気づいたように悔しそうな声を漏らす。

 

「もう一人の天城さん! あなたの望みは里中さんを連れてくることか!? なら、早く天城さんを返してもらう!」

 

千枝の次に口を開いた命に残る四人がえっというような声を漏らす。しかし雪子のシャドウはそれらの言葉を聞いていないかのように薄く笑みを見せ、同時にその隣に馬に乗った騎士のようなシャドウが姿を現す。

 

[王子様なら、こんな衛兵に負けるはずなんてありませんよね?]

 

「お、襲ってくるクマー!」

 

雪子のシャドウが言ったと同時、騎士のシャドウから威圧感が発され始めクマが叫ぶと同時に真達も武器を構えた。

 

[グオオォォォッ!]

 

騎士のシャドウ――征服の騎士は命目掛けて突進し、左手に持つランスで命を串刺しにしようと突き出す。が命は納刀していた剣の柄に手をやると居合いのように引き抜いてランスの側面に当て、自身より右へとランスを受け流す。

 

「イザナギ! ラクンダ!!」

 

その隙に真がイザナギに相手の防御能力を下げさせる補助スキルラクンダを指示し、その発された光の球を受けた征服の騎士の防御能力が下がる。

 

「ジライヤ! ガル!」

「トモエ! 串刺し!」

 

そこに陽介のペルソナジライヤの放つ疾風と千枝のペルソナトモエの薙刀による串刺しのごとき突きの連続攻撃が決まり、命も剣を納刀してから銃をこめかみに当てる。

 

「オルフェウス、タルンダ!!」

 

命がそう叫んで召喚したペルソナオルフェウスが竪琴を鳴らし、さっきイザナギが放ったものと似たような光の球が征服の騎士から力を奪っていく。が征服の騎士は暴れる馬を操るような動作をしながらランスを振り上げ、直後奪われたはずの力を取り戻していく。

 

「タルカジャか、厄介な真似を!」

 

「先輩、もっかいタルンダで補助を! 里中、たしかトモエの使えるスキルにタルカジャがあったよな? 俺に頼む!」

 

「了解」

「オッケー!」

「俺が時間を稼ぐぜ!」

 

相手が使用したスキルを予測した命が言うと真はすぐ作戦を立てて指示、それを受けた二人が頷くと陽介が二本の鉈を手に征服の騎士に向かっていく。

 

「タルンダ!」

「タルカジャ!」

 

オルフェウスが竪琴を鳴らして征服の騎士から力を奪い、トモエが仲間を鼓舞する舞のように薙刀を振り回し、真に力を与えていく。

 

「ペルソナチェンジ、ピクシー! ジオ!!」

 

真はペルソナを魔術師のピクシーへと切り替えて征服の騎士目掛けて落雷を放つ。そのスキル自体はイザナギが使用するものと同じだが魔術師であるピクシーの魔力はイザナギよりも上、つまり魔術スキルであるジオの威力はピクシーの方が上ということだ。

 

「どりゃあっ!!」

 

そしてピクシーのジオを援護に陽介が二本の鉈で連続斬りをくらわし、素早くバックステップを踏んで征服の騎士のランスのリーチ外まで逃げる。

 

[ハイヤーッ!!]

 

しかし征服の騎士はランスを振り回し、声を上げる。と陽介の正面に黒い方陣が浮かび上がった。

 

「なんだこりゃ!?」

 

「花村君! 逃げろ!!」

 

「え?」

 

見たことない術に陽介が声を上げるとその術を見た命が悲鳴のような声をあげ、それに陽介が声を漏らした瞬間、方陣が黒い光を発する。

 

「が、あっ……」

 

陽介は突然自分の身体から力が抜ける感覚を覚え、膝をつくとそのまま倒れこむ。それを見た千枝が目を見開いた。

 

「花村!!!」

 

「闇属性下級スキル、ムドだ! その能力は対象の相手を呪殺する……まさか成功するなんて運が悪い……」

 

「そんな!」

 

「里中さん! 今ならまだ間に合う! 地返しの玉を持って花村君を助けるんだ!!」

 

「は、はい!」

 

命の悲鳴の後千枝が声をあげ、命は咄嗟に指示。千枝は頷くと支給された地返しの玉を持って陽介の方に走る。しかし陽介にトドメを刺すつもりか征服の騎士もまた倒れている彼の方向けて動いていた。

 

「ザントマン! ブリンパ!!」

 

しかし直後そんな声が聞こえ、謎の音波が征服の騎士を襲う。しかし征服の騎士は何事もなかったかのように音波の方を見た。

 

「失敗か! だが花村の元へはいかせん!」

 

そこでは新たなペルソナザントマンを従えた真が刀を手に征服の騎士を挑発しており、征服の騎士も騎士らしくその挑戦を受けたように真の方を向いた。

 

「アギ!!」

 

[グゥッ!?]

 

しかし直後その横っ面を炎が襲い、命が真の横に立つ。

 

「先輩、騎士道精神っていうのを……」

 

「相手はシャドウだよ? 勝つために最善を尽くすのがリーダーさ」

 

真がジト目で命を見ながら呟くと命はしれっとそう言い、真も「それもそうか」と呟いた。

 

「さあいくよ、オルフェウス! アギ!!」

 

「イザナギ! スラッシュ!!」

 

直後命のペルソナオルフェウスが竪琴をかき鳴らして火炎を撒き散らし、真のペルソナイザナギが刀を構えて征服の騎士に斬りかかる。それからオルフェウスの炎を援護にイザナギは征服の騎士との斬り合いを演じ始める。

 

一方千枝、彼女は倒れている陽介に走り寄るとその胸の上に地返しの玉を押し付ける。

 

「花村! お願い、起きて!!」

 

千枝は目を閉じて必死にお願いする、と地返しの玉が光を放ち、その光が陽介の中に入っていくと地返しの玉は役目を果たし終えたかのように砕け散った。

 

「っ……俺は……」

 

「花村! 大丈夫!?」

 

「お、おう……」

 

陽介がゆっくりと目を覚まし、起き上がると千枝は声をかける。それに陽介は頷いた後、現在壮絶な斬り合いを演じているイザナギ達を見る。

 

「そうだ、椎宮達を助けねえと……」

 

「うん!」

 

陽介の言葉に千枝も頷き、二人の背後にペルソナが出現した。

 

「くぅっ!」

 

そしてイザナギVS征服の騎士。真は苦しげな声を漏らしていた。オルフェウスの援護があるとはいえやはり刀とランスではリーチが段違い、苦戦を強いられていた。

 

「つっ!」

 

イザナギの刀が征服の騎士が振るったランスに弾かれ、征服の騎士のランスの毒々しいオーラがまとわれる。

 

「マカジャマ!」

 

しかしランスが突き出される直前、そんな声と共に緑色の光が征服の騎士を包み込み、そう思うと征服の騎士のランスを覆っていた毒々しいオーラが消えていき、さらにランスのスピードも下がる。

 

「今だ! 椎宮!!」

 

「ああ! チェンジ!」

 

援護してくれた陽介の言葉に真が叫んで返し、イザナギがカードに戻っていく。そして真はそのカードを砕いた。

 

「ザントマン! 脳天落とし!!」

 

そう叫ぶと共に小人が征服の騎士の脳天に一撃を叩き込み、征服の騎士はふらふらとふらつく。

 

「オルフェウス! アギ!!」

「トモエ! ブフ!!」

 

そして真のオルフェウスが放った炎と千枝のトモエが放った氷の弾丸が征服の騎士を貫き、その連発魔術攻撃がトドメとなって征服の騎士は黒い霧と化して消滅していった。

 

 

 

[うふふ……]

 

征服の騎士を倒した後、そんな笑い声が聞こえてくる。そこでようやく気づいたがいつの間にか雪子のシャドウの姿が部屋から消えていた。

 

[あなたが本当の王子様ならきっとまたお会いできるでしょう。私は所詮、囚われの身……ここから出ることなど叶わないのだから……]

 

聞こえてくる声、それはまたうふふという笑い声を最後に消えていき、真はクマから「気配が消えたクマ」という言葉を聞いてようやく気を抜き、命の方を向いた。

 

「先輩、戦う前に言ってた天城のシャドウの目的ってどういうことですか?」

 

戦いの余韻もつかの間、真が命に尋ねてくる。

 

「ああ、この部屋に入る直前まで思考していたのはそれだよ。天城さんがこの城を生み出している心の状態には恐らくシンデレラコンプレックスが関係してるんだ」

 

「シ、シンデレラコンプレックス?」

 

命の言葉に千枝が不思議そうな声を漏らす、と真が口を開いた。

 

「聞いたことがあります。一言で言ってしまえば女の子の“王子様が自分を助けてくれる”という心理状態を示すものだって」

 

「天城が、それを……あ、言われてみりゃあ。つまり、その助けてくれる王子様が里中ってことですか!?」

 

真の説明の後陽介が言い、命はそれに首肯を示す。

 

「王子様、里中さんが相手の目的だと思ったんだけど……」

 

「……先輩、里中が王子だなんてありえません!」

 

命の呟きの後真が気づいたような表情で漏らし、千枝もうんうんと頷く。

 

「そうだよ! 私女だもん!」

 

「性別的な問題じゃない。二階で最初に天城のシャドウを見つけた時あいつはこう言っていました。“私は引き続き、王子様探し! 一体どこに居るのでしょう? こう広いと、期待も高まる反面、なっかなか見つかりませんね~!”っと」

 

真は妙に上手い雪子のシャドウの物真似まで行い、それに陽介が頬を引きつかせる。

 

「……椎宮、わざわざ口調まで真似しなくていいと思うぞ?」

 

「あ、悪い。あの時は単に霧で里中の姿が見えてなかったと考えたとしても直後天城のシャドウは里中と会話した。もう一人の天城であるあいつがそれで里中と気づかないのは不自然だし仮に気づいたとしても、あいつはその後王子様探しを続けるという発言をしていたはずです」

 

「……言われてみればたしかに。ってことは僕の推測は的外れってことなのか?……」

 

真と命はそう会話をしていく、と千枝がふらついた。

 

「う……我慢してたけどやっぱ、もう限界……」

 

「はぁ、俺もだ。さっきので全力使い果たした……」

 

千枝に続いて陽介も膝を折って座り込みながら言い、残る二人は顔を見合わせる。

 

「二人も疲れてるんじゃもう撤退するべきですかね?」

 

「まあ、退きどころとしては正しい判断だよ……文字通り、鍵も見つけたしね」

 

真の問いかけに命もそう返し、一旦かがみ込むと何か拾い上げた。

 

「それは?」

 

「ガラスの鍵。シンデレラのガラスの靴の代わりかな? 真君、君が預かっててよ」

 

「……分かりました」

 

真の問いに命は拾い上げたガラスの鍵を右手で弄びながら返し、ぽいっと真に向けて投げる。それに真も頷いてガラスの鍵を受け取った。

 

「さて、じゃあ帰るよ」

 

次に命はカエレールを取り出して上に掲げ、ここにいる全員をこの古城の入り口前まで移動させる光景をイメージする。

 

「転移、城門前!」

 

そしてそう叫ぶと共に、この城の一階での実験と同じように彼らを光が包み込んだ。




≪後書き≫
えー今回は雪子姫の城探索編中ボスまでとちょっとしたアイテム使用俺理論です。マヨナカテレビが人のイメージが反映される世界っていうんならなんの変哲のないアイテムもその人々の持つイメージの力を発揮したっておかしくはないだろ! という単純明快すぎる理論です。なおカエレールがカエルなのは作中での真のツッコミ通りふと考えたカエルと帰るの駄洒落です。と言ってもこれ以後形状についての言及というか別にカエルの形である必要はないというね……カエレールがカエルの形だっていう設定を忘れないよう気をつけないと……。
あ、ちなみに真達がカエレールを使用した時の台詞とポーズのイメージは“ソードアート・オンライン”の転移結晶です。転移で一番に思いついてしまったので。しかもP4主人公が使っているポーズ付きで。
あと、作中にてシンデレラコンプレックスについて若干説明がありますが……僕こういうのは聞いたことあるものをwikiとかで大雑把に調べると言うとんでもなく付け焼刃な知識なのでもし間違えてたら指摘してください……まあそんな深く言ってませんけど。シンデレラコンプレックスの概要ってこんなもんですよね?
さて次回は雪子のシャドウとの戦いとなります。それでは。

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