ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第七話 英雄と友達と……

天城雪子がテレビの中に入れられてしまい、その影響によってか出来てしまった古城。そこを調べにやってきた真と命、陽介にクマ、そして雪子が心配だから一緒に行くと言ってついてきた千枝。その千枝が心配心からか独断専行してしまい、残る四人も古城に乗り込んだ。

古城の中は床がチェス盤のような模様になっており、それを除くと絨毯もカーテンも赤一色で彩られていた。

 

「チエチャンは、まだそんなに遠くには行ってないクマ」

 

「あいつ、ひとりで先走りやがって……くそっ、行こうぜ!」

 

「うん……でも、下手に動いてシャドウから不意打ちをくらうと危険だ。焦ったらいけないよ」

 

少し離れた所から周囲を探るクマからの情報に、陽介がもどかしげに話すと命も頷きつつ二年前の戦いを思い出しながら続けた。すると彼らより離れた後ろを走っているクマが口を開く。

 

「クマがサポートするクマ! クマはシャドウの匂いを感じられるし、攻撃もなるべく覚えるよう頑張るクマ!」

 

「ああ、心強い。頼む」

 

「分かったクマ。シャドウがセンセイ達に気付いて凶暴になってるクマ。シャドウより先にこちらから攻撃を仕掛けるクマ!」

 

「ああ、分かった……っと、そう言ったそばからシャドウ発見!」

 

クマと真はそう話しつつ、真がそう叫ぶとたしかに道の先からこの前真が戦ったシャドウ――虚栄のアブルリーが三体近づいてくる。それを見た陽介も頷いた。

 

「よし、ペルソ――」

「待った!」

 

しかしペルソナを召喚しようとするのを命が制し、陽介がずっこけると命はベルトからダーツの矢を一本引き抜いて振りかぶり、三体いる虚栄のアブルリーの内真ん中の一体目掛けて投擲。

 

[キイイィィィッ!?]

 

それがシャドウの長い舌に突き刺さって虚栄のアブルリーが悲鳴を上げると、ダーツの投擲を終えた直後走り出した命の、走った勢いを利用したドロップキックが虚栄のアブルリーを吹っ飛ばして消滅させる。それを見た陽介は目を丸くした。

 

「すげぇっ!?」

 

「ペルソナの召喚は体力や精神力を消耗するんだ。常に召喚し続けてたらすぐバテちゃうから、ここぞという時に召喚! それ以外では武器を使って肉弾戦をした方がいい!」

 

「ええっ!? つったって俺らこんなの相手に戦ったことないっすよ! わー二体こっち来た!?」

 

陽介の驚きの叫び声に対し命はそう説明、しかしその言葉に陽介はまた声を上げた後、命を後回しにするつもりか真と陽介の方に一体ずつ突進してくる虚栄のアブルリーを見て悲鳴を上げる。と命がまた口を開いた。

 

「大丈夫! ペルソナは召喚せずともその主に力を与えてくれる! その程度の敵にペルソナ抜きで互角に戦えないんじゃこれから先、ずっと僕の足手まといだよ!」

 

「……やるぞ、花村!」

「……ああ! そこまで言われちゃ黙ってられねえっ!」

 

命の挑発のようなハッパに真はにやりと笑って背負っていた模造刀を引き抜き、陽介も右手の鉈を虚栄のアブルリーに突きつけて叫び声を上げた。

虚栄のアブルリーの一体がその挑発に乗ったかスピードを上げて陽介に突進、それに陽介は覚悟を決めた表情で右手の鉈を前に突き出し、左手の鉈は後ろに引いて姿勢を低く取っていた。

 

(……あれ!?)

 

すると陽介は自分の感覚の変化に気づく。虚栄のアブルリーの動きがまるでテレビのスロー映像を見ているかのように遅く見え、さらに自分の身体がとても軽く感じる。

 

(これが、ペルソナの力なのか!?)

 

その感覚に陽介は驚愕を覚えつつ、虚栄のアブルリーが長い舌で舐めるように攻撃してくるのをゆっくりと見ていた。

 

「遅いっ!!」

 

陽介はそれをギリギリまで引きつけてかわし、虚栄のアブルリーの舌が空振り勢い余って上に振り上げられたのを見た瞬間今度は自分の番だと言わんばかりに虚栄のアブルリーの懐に入り込むと右手を振り上げて一気に振り下ろし、鉈で虚栄のアブルリーを斬り裂くと続けて引いていた左手を振り上げて追撃、トドメと言わんばかりに思いっきり身体を捻って勢いをつけ、右手の鉈を振り上げて斬り裂く。その連続攻撃に虚栄のアブルリーは耐えきれず消滅した。

 

「よしっ!」

 

それに陽介は嬉しそうに両手を握りしめ、歓喜の声を上げた。

 

一方真も、自分の中からあふれ出る力に笑みを浮かべていた。

 

(花村のシャドウと戦っていた時も感じていたが、力があふれてくる……)

 

真は笑みを浮かべながら心の中で呟き、模造刀を振り上げると目の前の突進してくる虚栄のアブルリー目掛けて突進、それを見た虚栄のアブルリーも舌を振り上げた。

 

「ふんっ!!」

 

[ギイイィィィッ!?]

 

しかし真は模造刀を振り下ろし、その舌を押し返しつつ斬るという荒技を見せる。

 

「はぁっ!」

 

次に剣道で言うならば胴を薙ぐような一閃、そして刃を返すと刀を両手で握りしめ、右下に構える。

 

「たあぁぁっ!!」

 

トドメといわんばかりに声を上げ、刀を振り上げて虚栄のアブルリーを真っ二つに斬り裂く。その一撃に虚栄のアブルリーは真っ二つになり消滅していった。それと同時に陽介が相手していた虚栄のアブルリーも消滅していく。

 

「お見事! まあ、初めての戦闘ならこんなもんだね」

 

命がぱちぱちと拍手しながら誉めるのを聞くと陽介は照れたようにはにかみ、真も嬉しそうに微笑む。と彼の視界に変なカードが動き出し、真はそれを見るとイゴールの言葉を思い出した。

 

(これが俺の可能性の芽?……)

 

動き回るカード。真はその内の一枚に手を伸ばし、そのカードを掴み取る。掴み取ったカードには所謂妖精のような絵が描かれていた。

 

「ピクシー……」

 

「おい、椎宮? ぼーっとしてどうしたんだ?」

 

真がそう呟いていると突然陽介が声をかけ、彼ははっとしたように我に返った。

 

「どうしたんだよ?」

 

「あ、ああ、いや……なんでもない」

 

陽介が首を傾げながら問いかけてくるのに真は少し考える様子を見せた後静かに首を横に振って返した。

 

「クマ君、里中さんのいる場所は分かる?」

 

「ん~……それは分かんないクマ。あ、でもチエチャンはセンセイやセンパイ達と違ってペルソナが使えないから、シャドウ達は見向きもしてないクマ」

 

「そうか。なら里中が襲われる心配はいらねえよな?」

 

「だが、いつまでも安全って保証はない。出来るだけ急いで探さないとな」

 

命の言葉にクマが首を横に振り、続けてそう言うとそれを聞いた陽介が返すと真が続ける。それに命がうんと頷いた。

 

「確かにそうだね……よし。君達のシャドウ戦闘経験も必要だし、クマ君は里中さんを探すのに集中して、君達は二人一組でシャドウを相手して。君達が戦闘に集中できる程度に僕が残るシャドウを倒していくから。ああ、念のために言っておくけど、常にペルソナの召喚はダメとは言ったけど状況に応じて使い分けるんだよ? 状況を見極められずシャドウに返り討ちにあうとか一番笑えないんだから」

 

「「は、はい!」」

「はいクマ!」

 

命の言葉に三人は頷き、それからクマは気合を入れて鼻をクンクンし始めたり辺りを頑張ってきょろきょろ見回したり、彼らより少し先行して千枝を探し始め、真と陽介は二人一組でシャドウの相手をし始める。

 

「敵二体か。一体は見たことないやつだな……」

「よし、一回ペルソナを練習してみようぜ。魚っぽいのは任せろ!」

 

真が模造刀を構えながら呟くと陽介がそう叫び、同時に彼の頭上から青く輝くカードがゆっくりと降下。陽介はそれを鉈を逆手に持って掬い上げるように砕く。それと共に回転しながら姿を現す陽介の人格の鎧(ペルソナ)ジライヤ。それが印を組むと同時に陽介が叫ぶ。

 

「ジライヤ、ガルッ!!」

 

陽介の叫びと同時に疾風が巻き起こり、巻物で構成された魚のようなシャドウ――冷静のベーシェがその風に巻き込まれて霧散する。それを見た真も自身の右手にペルソナカードを具現させた。

 

「イザナギ! ジオ!」

 

真の言葉とともにイザナギが吼え、発された雷が虚言のアブルリーを貫き消滅させる。

 

「よしっ。えーっと命さんは……って!?」

 

「え?……なにっ!?」

 

陽介はガッツポーズを一つ取った後命を探し、彼を見つけると絶句し真も彼の向いている方を見ると絶句する。命は虚言のアブルリーをナックルをはめた拳で殴り飛ばす、ここまではいい。しかしその背後からは冷静のベーシェが回転しながら突進してきているのだ。

 

「み、命さん! 後ろ後ろーっ!!」

「間に合うかっ!?」

 

陽介が声をあげ、真がイザナギを召喚しようとする。しかし冷静のベーシェと命、そして真達の距離を考えるととても真達からの攻撃は間に合わない。すると命はゆっくりと腰の片手剣に手をやる。

――次の瞬間だった。命の背後を取っていたはずのシャドウは霧散し、命はそのシャドウを正面に見据えつつ片手で剣を振り切っていた。

 

「な、なんだ!? なにやったんだ今の!?」

「い、居合い斬り?……」

 

陽介が困惑の声をあげ、真が驚いたように声を漏らす。と命が余裕綽々の状態で二人の方に近寄ってくる。

 

「心配してくれてありがとう。でも、この辺の雑魚くらいならよっぽど大群で来られるか気を抜かなければ僕は問題ないよ。それより君達は自分のことを心配してね?」

 

「「は、はい!」」

 

「セ、センセー! センパーイ! 階段を見つけたクマー! チエチャン、上に行ったのかもー!」

 

命の言葉に真と陽介が背筋を伸ばしながら答え、その後にクマの呼び声が聞こえてくる。それを聞いた真が一番に反応した。

 

「先輩、花村、行こう!」

 

「おう!」

「オッケー」

 

「クマ! 案内してくれ!」

 

「任せてクマ!」

 

真の言葉に陽介と命が頷き、真がクマにそう言うとクマもうんと頷いて走り出す。しかしまたシャドウがその道を塞いでいき、それを見た命は苦虫を噛み潰したような表情を見せて召喚銃を構える。

 

「邪魔だなぁもう! 無駄な敵は倒さず正面突破、行くよ!」

「「はい!!」」

 

命の指示に真と陽介も頷き、命がこめかみに召喚銃を押し付けるのと同時に真と陽介もペルソナカードを具現させる。

 

「「「ペルソナァッ!!!」」」

 

その叫びと共に命の召喚銃の引き金が引かれ、真がカードを握り砕き、陽介がカードを掬い上げるように破壊する。そして辺りに炎、雷、風が舞い踊り、シャドウ達を撃破あるいは牽制しつつ四人は一気に走っていき、曲がり角を駆使してどうにかシャドウ達を撒いてから階段まで辿り着く。

 

「ふひぃ~あっぶね~……」

「ああ」

 

「皆、無事?」

 

「あ、はい。俺は大丈夫……あ」

 

陽介が安堵の息を吐き、真も頷くと命が無事か尋ねてくる。それに陽介が返した後、彼は命が僅かに傷を負っているのに気づいた。

 

「命さん、怪我してますよ?」

 

「ん? ああ、さっき倒しきれなかった奴の攻撃がかすったみたいだね。真君、傷薬か何か――」

「あー大丈夫っすよ。それくらい俺に任してください!」

 

陽介の指摘に真は指摘された場所を確認しながら呟き、真に治療道具がないか聞こうとするがそこに陽介が割って入り、ペルソナカードを具現させて鉈で砕き、ジライヤを召喚する。

 

「ジライヤ! ディア!!」

 

ジライヤが印を組むと共にあふれ出る暖かな光、それが命を包み込むと共に彼の負っていた傷が癒えていった。それに命は感心したように頷いて陽介を見る。

 

「回復術か。物理攻撃も出来て魔法も出来て、器用だね。これは頼りになるよ」

 

「へへっ、ありがとうございます。俺に任しといてください!」

 

命に褒められた陽介が鼻の下をこすって嬉しそうに返す、その時だった。

 

[赤が似合うねって……]

 

突然城内に声が響き渡り、それに陽介が驚いたように顔を上げる。

 

「この声……天城!?」

 

[私、雪子って名前が嫌いだった……雪なんて、冷たくて、すぐ溶けちゃう……儚くて、意味のないもの……でも私にはピッタリよね……旅館の跡継ぎって以外に価値の無い私には……]

 

どこからともなく聞こえてくる声。その言葉の中には自嘲の感情が読み取れた。

 

「これ……天城の、心の声か? たしか、小西先輩の時も聞こえた……]

 

「そして多分、この場所はユキコって人の影響で、こんな風になったクマ」

 

[だけど、千枝だけが言ってくれた。雪子には赤が似合うねって……千枝だけが……私に意味をくれた……]

 

陽介が気づいたように言い、クマがそう続けると雪子らしき声がまた続いていく。

 

[千枝は、明るくて強くて、なんでも出来て……私に無いものを全部持ってる……私なんて、私なんて、千枝に比べたら……千枝は私を守ってくれる……何の価値もない私を……私、そんな死角なんてないのに……優しい千枝……]

 

「……急ごう。天城もそうだが、里中が心配だ」

 

「ああ、急ごうぜ!」

 

そこまで言うと雪子らしき声は聞こえなくなり、真の言葉に陽介も頷くと四人はまさか階段でシャドウが待ち伏せなんてしていないか慎重に確認しながら上がっていき、その階段の先にある重厚な扉を見るとクマがキッとした表情を見せた。

 

「やっぱし、チエチャンはこの部屋の中に隠れているクマ!」

 

「急ごう!」

 

クマの言葉に真はそう言い、陽介、命と力を合わせて扉を開くとその中に飛び込んでいった。

 

「無事か、里中! っ!?」

 

一番に部屋に飛び込みながら一番に声を上げるのは陽介、しかし彼は続けて絶句し、真と命も部屋に入るとはっとした表情を見せる。その部屋――一階下が廊下と小部屋で構成された場所とすればこの部屋は大広間という感じに見える――では二人の千枝が相対していたのだ。しかもその一人の方の瞳は金色、千枝のシャドウが具現していた。その口元には薄っすらと笑みが浮かんでいるが目は全く笑っておらず、笑みもどことなく歪んで見えた。すると千枝のシャドウは突然声を荒げる。

 

[あたしの方が、あたしの方が……あたしの方が! ずっと上じゃない!!]

 

「違う! あ、あたし、そんなこと!」

 

千枝のシャドウの言葉に千枝が叫ぶ、と真が口を開いた。

 

「里中を守るぞ!」

 

「お、おう!」

 

「ま、待って!」

 

真の言葉に陽介が頷き、クマも一緒に三人は走り出す。とそれに気づいた千枝は振り返るとぎょっとした目を見せ、動揺したように首を横に振る。

 

「い、いや、こないで、見ないでぇ!!」

 

「里中、落ち着け!」

 

「違う……違う、こんなのあたしじゃない!」

 

「バ、バカ! それ以上言うな!」

 

千枝の言葉に陽介が落ち着かせようとしたりとにかく禁句を言わせないように叫ぶ、と千枝のシャドウがまた口を開いた。

 

[ふふ……そうだよねぇ。一人じゃ何にも出来ないのは本当はあたし。人としても、女としても、本当は勝ててない。どうしようもない、あたし……でもあたしは、あの雪子に頼られてるの]

 

千枝のシャドウはそこまで言うとまたふふっと歪んだ笑みを見せる。

 

[ふふ、だから雪子はトモダチ……手放せない……雪子が大事……]

 

「そんなっ……あたしは、ちゃんと、雪子を……」

 

[うふふ……今まで通り、見ないフリであたしを抑え付けるんだ?……けど、ここでは違うよ。いずれその時が来たら、残るのは……あたし。いいよね? あたしも、アンタなんだから!』

 

「黙れ!! アンタなんか……」

 

うろたえている千枝に対し千枝のシャドウはそう言い切る、と千枝が平常心を失ったように声をあげ、それに陽介が反応する。

 

「駄目だ、里中!!」

「アンタなんか、あたしじゃない!!!」

 

しかし一歩遅れて千枝の拒絶の言葉が飛び出した。

 

[うふふ、うふ、ふ、きゃーっはっはっは!!]

 

それを聞いた千枝のシャドウは高笑いをはじめ、直後黒い何かが千枝のシャドウの周囲に集まっていくと衝撃が走り、千枝が吹き飛ばされる。

 

「っと! クマ君! 里中さんを連れて後ろに!」

 

「わ、分かったクマ!」

 

それを後ろにいた命が支え、千枝をその場に寝かせてクマに指示を出し、クマもそれに頷きながら走っていく。

さっきまで千枝のシャドウがいた場所にいる異形は現在それぞれを肩車で支えている三名の女生徒の上に彼女らを椅子のように座っている黄色いボンテージをまとった人型となっていた。女生徒の首には鎖が着けられており、その先端は本体である人型の右手に握られている。さらに人型の左手には鞭が握られており、長い黒髪はまるで触手のように蠢いていた。

 

「来るよ!」

 

命が拳を構えながら叫び、真と陽介も頷いてそれぞれの武器を構える。

 

[我は影……真なる我……なにアンタら? ホンモノさんを庇い立てする気? だったら、痛い目見てもらっちゃうよ!]

 

「うるせえ! 大人しくしやがれ! 里中……ちっとの辛抱だからな……」

 

[さぁて……そんな簡単にいくかしら!?]

 

千枝のシャドウの言葉に陽介が叫び、次に千枝に向けてそう呟くと千枝のシャドウはそう声を荒げた。その声を合図に真と命がペルソナを呼び出すためそれぞれカードを砕き、こめかみを召喚銃で撃ち抜く。

 

「イザナギ! ラクンダ!!」

「オルフェウス! タルンダ!!」

 

[グッ!?]

 

イザナギが吼え、オルフェウスが竪琴を鳴らすと共に千枝のシャドウを光が包み込む。それに続いて陽介が自身のカードを掬うように砕いた。

 

「ジライヤ! ガル!!」

 

[きゃあっ!?]

 

疾風を受けた千枝のシャドウは悲鳴を上げて体勢を崩し、それを見た陽介が真に目を向ける。

 

「チャンスだ! ぼこぼこにすっぞ!」

 

「おう!」

「剣の錆にしてやる!」

 

陽介の号令に真が頷き、命も剣を抜いて三人は千枝のシャドウ目掛けて突進。一気に武器を振るって攻撃していくがその攻撃を千枝のシャドウは耐え抜き、体勢を立て直した。

 

[フンッ、痛い目見ないと分かんないようね!]

 

千枝のシャドウは鼻を鳴らし、鞭をぱちんっと地面に叩きつける。

 

[泣き喚け! マハジオ!!]

 

「くっ!?」

「「ぐああぁぁぁっ!!!」」

 

その叫び声と同時に小さな雷――下級雷属性魔法ジオが大量に降り注ぎ、真はそれをどうにかかわすが陽介と命はかわし切れずに電撃をくらい、体勢を崩す。

 

[キャハハ、ダサ、目がマジじゃん! けど……まだまだこっからだよ!! ほぉーら!!]

 

「がはぁっ、う……」

 

千枝のシャドウは高笑いをしながらそう叫び、異形の蠢く黒髪が無数の刃と化して陽介に襲い掛かる。体勢を崩した陽介はかわす事が出来ずに全ての攻撃を受けて気絶してしまった。

 

「うわわ、強烈クマ! 大丈夫クマ?」

 

「くっ……真君! 僕が前衛に出るから花村君をなんとか起こして!」

 

「ど、どうにかって……」

 

クマが後ろから心配そうな声を出し、命はなんとか立ち上がると真に指示を飛ばした後ダーツを投げて千枝のシャドウに牽制を始める。それを聞いた真は困ったように呟いて陽介の方に走り寄る。

 

「……とにかく、起きろ!」

 

「ぐふぉっ!?」

 

とりあえず蹴りを叩き込んでみる、と陽介は情けない悲鳴と共に意識を覚醒させた。

 

「て、てめっ!? 何すんだよ!?」

 

「悪い。だがとりあえず傷を治さないとな」

 

「あ、ああ……ジライヤ、ディアを――」

「いや、花村はガルで先輩の援護を頼む。お前の傷は俺が治しておく」

 

陽介の言葉に真は手短に謝った後そう続け、それに陽介はジライヤに下級治癒魔術ディアを指示しようとするが真がそう返し、それに陽介は目を丸くした。

 

「え? でもイザナギって……」

 

「ああ。イザナギじゃ無理だ」

 

陽介の言葉に真は頷いて返し、次ににやりと笑みを見せる。

 

「だが、ピクシーならたやすい」

 

そう言うと共に彼の手にペルソナカードが具現。しかしそれに描かれている絵はイザナギではなく妖精の絵だった。そして真はそのカードを握り砕く。

 

「ピクシー! ディア!!」

 

真がカードを砕くと同時に姿を現すのは物語に出てくる小妖精(ピクシー)。妖精は暖かな光で陽介を包み込むとさきほどの雷と追撃で出来た傷を完全に塞いで見せた。

 

「おぉ、すっげー……ってか一体なんなんだこれ!? ペルソナが二体!?」

 

「詳しくは後で説明する。それより援護を!」

 

「お、おう、そうだな。ジライヤ! ガル!」

 

「いくぞ、イザナギ!」

 

陽介は驚いたように声を漏らした後真に問いかけ、それに真が返すと陽介は頷いてジライヤを召喚。その言葉と共にジライヤが印を組み、千枝のシャドウ目掛けて疾風を放つが、その風はいつの間にか千枝のシャドウが張っていた緑色の障壁に威力を弱められてしまう。その後に真もイザナギを召喚して千枝の影の方に向かっていった。

 

「イザナギ! スラッシュ!!」

「オルフェウス! 突進!!」

 

真の指示と共にイザナギが刀で、命の指示と共にオルフェウスが竪琴で千枝のシャドウを斬り、殴りつける。

 

[グッ……アンタらバカじゃないの!? なんでそこまでしてホンモン庇うの!? あんな薄汚い女!!]

 

「友達だからだ!!」

 

千枝のシャドウの言葉に真が強く言い返しながら模造刀で斬りつける。とその次にジライヤの手裏剣が追撃を行い、さらにペルソナの力によって得た速さで陽介が千枝のシャドウに突進、二本の鉈で斬りつけながら叫ぶ。

 

「そういうこった! それに薄汚い女って、里中の一面しか見てないてめえがそんなこと言う権利なんざねえ!! 第一、お前だってその里中の一面だろうがっ!!」

 

[分かったようなことを……]

 

陽介の言葉に千枝のシャドウは歯軋りをしているような声で呟き、陽介を蔑んだ目で見る。と真が何かに感づいたように陽介と命の方を見た。

 

「花村! 先輩! 防御!!」

 

「「!!」」

 

その言葉に咄嗟に陽介と命は身をかがめて防御体勢を取る。

 

[泣き喚けっ! マハジオ!!]

 

直後千枝のシャドウが放つ無数の電撃。しかし陽介と命は防御していたおかげで先ほどのように体勢を崩すにはいたらなかった。

 

「イザナギ! ラクンダ!!」

 

真が先ほどの技で千枝のシャドウから防御能力を奪い、さらに千枝のシャドウを覆っていた緑色の障壁が消えていく。それを見た命が陽介の方を見た。

 

「花村君っ!」

 

「はいっ!」

 

命の呼び声に陽介が叫び返し、彼の前に魔術師のペルソナカードが具現する。

 

「行っけぇ! ジライヤァッ!!」

 

陽介はそう叫び己の人格の鎧(ペルソナ)を具現、千枝のシャドウに鉈を突きつけた。

 

「ガル!!!」

 

そしてそう叫び、直後ジライヤの放った疾風が竜巻となり千枝のシャドウを呑み込んだ。

 

[嫌ぁ……]

 

その一撃がトドメとなり、千枝のシャドウは弱々しく声を漏らすと以前陽介のシャドウが倒れた時と同じように真っ黒となり、力なく倒れていった。

 

 

 

 

 

「う……」

 

千枝のシャドウが倒れた少し後、気絶していた千枝がうめき声を漏らして意識を取り戻す。

 

「里中、大丈夫か!?」

 

それを見た陽介が走り寄って彼女の手を取り、立ち上がらせる。

 

「さっきのは……」

 

千枝はそう声を漏らして立ち上がった後、自分の目の前にいるもう一人の千枝を見る。しかしもう一人の千枝は無言で立ち尽くしていた。

 

「何よ……急に黙っちゃって……勝手な事ばっかり……」

 

「よせ、里中」

 

「だ、だって……」

 

さっきまで色々言ってきたのに急に黙り込んでいるもう一人の千枝に千枝が文句を言うがそれを陽介がいさめ、千枝は声を漏らす。と真が次に口を開いた。

 

「分かっている。あれが千枝の全てじゃない……みんな、一緒だ」

 

「みんな?……」

 

「椎宮の言うとおりだ。俺もあったんだ、同じような事。だから解るし……その……誰だってさ、あるって、こういう一面……」

 

真と陽介の言葉に千枝は俯き、少し考えてると踵を返して自らのシャドウの目の前まで歩いていき、その金色の目から目を逸らさずに口を開いた。

 

「アンタは……あたしの中にいたもう一人のあたし……って事ね……ずっと見ない振りしてきた、どーしようもない、あたし……」

 

千枝はそこまで言うと可笑しそうに笑った後、快活な笑みを見せた。

 

「でも、あたしはアンタで、アンタはあたし、なんだよね……」

 

その言葉にもう一人の千枝が頷くとその姿が光に包まれる。直後、千枝の前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。フルフェイスヘルメットを被って黄色いタイツのようなものに身を包み、その手には両端が刃となっている薙刀を持っている。どこか勇ましい武人のような雰囲気をまとわせるペルソナを千枝は黙って見上げていた。

 

「……トモエ」

 

彼女がそう呼ぶと同時、トモエはタロットカードとなって千枝の前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅶ]、戦車を意味する数字が書かれていた。そのカードは千枝の目の前まで落ちると光の粒子となって彼女を包み込んだ。

 

「あ……あたし……その、あんなだけど……でも、雪子の事、好きなのは嘘じゃないから……」

 

「バーカ。そんなの、分かってるっつの」

 

千枝の困惑気味の言葉に陽介がおどけたように笑って返し、それに千枝も安心したように微笑んだ。と思ったら突然彼女は崩れ落ちるように膝をつく。

 

「さ、里中!?」

 

「ヘーキ……ちょっと、疲れただけ……」

 

「ヘーキ、じゃねーだろどう見ても……それに多分、お前……俺達と同じ力、使えるようになってるはずだ」

 

「え?……」

 

陽介の慌てたような声に千枝はそう返すが、陽介はどことなく呆れたように返した後そう続ける。それに千枝が声を漏らした後、陽介は真と命を見た。

 

「なあ、どうする?」

 

「一度戻って体勢を立て直そう」

「僕もそれに賛成」

 

「そうだな。里中を休ませないと」

 

陽介の問いに真と命が返すと陽介も頷く、と千枝が陽介を睨みつけた。

 

「か、勝手に決めないでよ! あたし、まだ……行けるんだから……」

 

三人の言葉に反発するように千枝はそう言って立ち上がろうとするが身体に力が入らないのか上手く立ち上がる事が出来ておらず、そんな千枝の前にクマが慌てて回り込み、命もその横に立つ。

 

「無理しちゃイヤクマ!」

 

「落ち着くんだ里中さん。別に君を邪魔に思ってるわけじゃない。君はペルソナ能力を得た、つまり立派な戦力になっているからこそ一旦戻って休息を取ってもらう必要があるんだよ」

 

「でも、でも雪子はまだこの中にいるんでしょ!? あたし、さっきのが雪子の本心なら、あたし……伝えなきゃいけないことがある。あたし、雪子が思ってるほど強くない! 雪子がいてくれたから……二人一緒だったから大丈夫だっただけで、ホントは……」

 

「……なら、それを伝えるためにも、まずキミが元気になるクマ!」

 

クマの懇願に続いての命の説得に千枝が慌てたようにまくしたてるとクマがそう言い、その次に真が口を開いた。

 

「ああ。天城は普通の人間だ。ココに居る影は普通の人間を襲うことはない……そうなんだよな、クマ?」

 

「そうクマ。襲うのはココの霧が晴れる日クマ」

 

「……それまでは、天城は無事だってことだな?」

 

「まず、間違いないクマ」

 

真の言葉に続いてクマが言い、陽介が確認を取るとクマはこくんと頷く。と千枝は首を傾げた。

 

「どういうこと?」

 

「どうやら俺らの世界と、霧の晴れる日が逆さらしい。ここが晴れる日……俺らにとっては霧が出る日に、被害者は影に殺される」

 

「つまり一旦外に戻っても街に霧が出るまでは天城は安全だ。天気予報でもたしかしばらく雨の予報はなかったはずだ。霧は大体雨の後に出るんだよな?」

 

「ああ。大丈夫だって、戻ったらすぐ、天気予報をチェックしよう」

 

千枝の言葉に陽介と真が交互に話していく。と千枝は我慢できないように無理矢理立ち上がった。

 

「でも……だからって……やっぱり、ここまで来て引き返せないよ! 雪子が居るのに! 一人で……怖い思いしてるの――」

 

「「!?」」

 

千枝の言葉が途中で途切れ、真と陽介も目を見開く。千枝の言葉が途切れた理由、それは命が彼女の頬を平手で叩いたせいだ。

 

「ちょっ、何を――」

「確か言ったはずだよな、千枝? 僕達の指示に従うことがここに連れてくる条件だと」

「――っ」

 

怒ったような千枝の言葉を遮り、命は冷たい瞳と冷たい声で尋ねる。無邪気な笑みを見せたり飄々とした彼の顔しかほとんど知らない千枝はその威圧感に言葉が止まり、僅かに口をぱくぱくさせた後また口を開いた。

 

「で、でも、雪子はこうしてる間にも……」

 

「なら、その雪子がいる場所までどれだけ進めば辿り着くんだ?」

 

「え?」

 

「そこまで進む際に現れる敵、シャドウの対策は? 消費アイテムの配分と使用ペースは? お前のペルソナを使っての真達との連携は?」

 

「う……」

 

命は淡々と千枝に言葉を突きつけていき、千枝は言葉を失う。そして命はトドメの言葉を発した。

 

「それとも、お前は無理をしてお前が命を落とし僕達が雪子を助けた時に『雪子を助ける為に千枝が死んだ』と言わせ、雪子に『自分のせいで親友が死んだ』という重荷を一生背負わせたいのか?」

 

「!?」

 

トドメの言葉に千枝の表情が驚愕の色に染まり、命はその目の睨みに力を込めた。

 

「シャドウとの戦いはゲームじゃないんだ! 下手をしたら命を落とす! それも分からずただ無策に突き進むのはもはや無謀以前の問題だ!!……」

 

「せ、先輩?」

 

命は言い終えると同時に細かく震え始め、真が後ろから声をかける。

 

「……もう、嫌なんだ……」

 

そこに漏れる命の声、それはさっき千枝に対して淡々と突きつけていた声と比べて弱々しく、震えていた。

 

「僕達もペルソナを手に入れてすぐ、強大なシャドウと戦う事になった。その時仲間の一人が僕への嫉妬と反発で勝手に単独特攻しちゃったんだ……僕は止めるべきだったのに、止めきれなかった……そして追いついた時、その人はシャドウの大群に囲まれてたんだ」

 

「「「っ!?」」」

 

その言葉に真、陽介、千枝が息を呑む。

 

「なんとか援護が追いついたからよかったけど、もし追いつかなかったら、順平が死んじゃってたらって考えたら今でも怖いし、僕はこの力を持ってもなお何人も助けられなかった人を見てきた……だからお願い」

 

命はそこまで言うと千枝を弱々しい光の宿った目で見、その両腕を掴んで頭を下げた。

 

「冷静になって、無謀な特攻なんて止めて……お願いだから、後生だから……」

 

「……」

 

心の底から怖がり、心配している言葉に千枝も黙り込んでうつむく、

 

「……分かりました」

 

千枝は力なく項垂れて呟き、真と陽介の方を見る。

 

「二人も、一人で突っ走ってごめんね?」

 

「……次から気をつけてくれたら構わない」

「気にしてねえよ。天城は必ず俺達で助ける……だろ?」

 

「……うん!」

 

千枝の言葉に真と陽介はそう返し、それに千枝は微笑んで頷いた。

 

 

それから彼らは一旦入り口広場へと戻ってくる、と千枝がぐったりした様子で頭を下げた。

 

「なんか……この前、入った時より疲れた……頭もガンガンするし……花村達、平気なの?」

 

「俺達は眼鏡があるから平気だが……」

 

「あ、そか。お前、眼鏡してないな」

 

千枝の言葉に真がそう言うと陽介が気づいたようにぽんと手を打つ、とそれを聞いた千枝が彼らの顔をまじまじと見た。

 

「あ……そういえば眼鏡してんね。目、悪かったっけ?」

 

「お前……どんだけテンパってたんだよ……」

 

そのずれた回答に陽介が呆れたように声を漏らし、真も僅かに苦笑した後クマの方を向いた。

 

「クマ、里中の分の眼鏡はあるか?」

 

「じゃんじゃじゃ~ん。チエチャンにも用意してあるクマ。はい、チエチャンの」

 

真の言葉にクマはそう言って眼鏡を手渡し、千枝もそれをもらうと恐る恐る眼鏡をかける、と驚いたように目を丸くした。

 

「うわっ、何これすっげー! 霧が全然無いみたい!」

 

「あるなら、早く出してやれっつの」

 

「でも里中さんが飛び出していったし、渡すタイミングがあったかは怪しいよね」

 

千枝の驚愕の声の後陽介がクマに文句を言い、それに命が苦笑しながら返す。と千枝はそれを聞いてない様子でうんうんと頷いた。

 

「なるほど、そう言う事なんだ。モヤモヤん中、どやって進むのかと思ったよ。ね、これ貰ってもいい?」

 

「モチのロンクマ!」

 

千枝の問い掛けにクマが嬉しそうに返事を返す。そして千枝はまたうんっと勇ましく頷いた。

 

「今日のところは、仕方ないけど……でもこれで、リベンジ出来そう! 二人とも、勝手に行ったりしないでよ!?」

 

「お前がそれ言う?」

 

「……うっ」

 

千枝の言葉に陽介が腕組みをして返し、千枝はうっと言葉を失う。思いっきり独断専行した千枝の言える立場ではなかった。

 

「それじゃ全員の取り決めにしよう。絶対に一人で行かない」

 

真の言葉に三人は頷く。シャドウとの実戦もそうだがさっきの命の言葉からもこの戦いは常に命の危険と隣り合わせ、一人で行ったらもしもの事もある。

 

「じゃあ、これからは学校の放課後や学校のない日もなるべくここに来るようにしよう……それで、命さん。お願いがあるんすけど……」

 

陽介はそう言った後に命の方を向く。

 

「俺達のリーダーをお願いしていいっすか?」

 

「え?」

 

「この中なら命さんが一番強いし、経験もある……お願いできませんか?」

 

陽介の言葉に命は目をつぶって少し考える様子を見せ、目を開いた。

 

「悪いけど、断るよ」

 

そう言ってから命は真の方を見る。

 

「代わりに僕は真君を推薦する」

 

「えっ!?」

 

その言葉に真は驚いたように声を上げた。

 

「い、いや、先輩をさしおいてそんな……」

 

「押し付けるつもりはない。でも、真君にはセンスがある。君ならやっていけるよ。それに、僕がリーダーを引き受けたとしても、僕じゃ綿密に連絡を取り合うのが難しい。その点真君なら同じ学校だからすぐ花村君達と連絡することが出来るからね」

 

真の言葉に命はそう返し、真はなるほどと頷いた。

 

「ああ、大丈夫だよ。僕も皆をしっかりサポートする。そうだね、ご意見番やアドバイザーと言おうか」

 

「あたしも賛成。椎宮君って熱く見えるけど冷静だし、なんか安心」

 

「そうだな、俺も助けるよ。あれだ、頭良い人でリーダーの右腕っぽいポジション、参謀的な?」

 

命の言葉に続いて千枝と真がそう言い、それを聞いた真は少し黙った後小さく頷いた。

 

「分かった。リーダーの役目、承らせてもらう」

 

真がそう言った瞬間、彼の頭の中に声が響いてきた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“愚者”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

 

コミュニティの声。それに真は黙って頷いた。

 

(コミュニティ、こいつは個人だけでなく団体とも繫がるのか……)

 

「よし、とにかく今日は休んで、明日からに備えようぜ。まずは天気予報の確認、忘れんなよ? 雨が続くとヤバイからな」

 

真がそう考えていると陽介がそう言い、残るメンバーも頷く。と命がクマの方を向いた。

 

「ところでクマ君。僕達の持ってきている武器だけど、ここに置いていっていいかな? 毎回人目を盗んで持ってくるより安心だから」

 

「あ、それいいな。クマ、お願いできるか?」

 

「分かったクマ! クマに任しときんしゃい!」

 

命の言葉に陽介が続けるとクマはえっへんと胸を張って返す。

それから彼らはテレビの外に出ると完全に疲れきっている千枝を命がバイクで送っていくことにし、真と陽介も家に帰っていく。

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい」

 

堂島家に戻り、真が声を出すと菜々子が挨拶を返す。それに真は僅かに笑みをほころばせた後家に上がって袋を台所をテーブルに置いた。

 

「菜々子ちゃん、今から約束通りハンバーグを作るから。待っててね?」

 

「ほんと! やったー!」

 

真の言葉に菜々子は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、真はまた一つ微笑んだ後ハンバーグを作り始めた。

 

 

 

 

 

そして彼がハンバーグを焼いている時、突然家の電話が鳴り始め、菜々子がそれに出る。

 

「はいもしもし……はい、はい……おにいちゃん、でんわー。男の人、たんにんだって」

 

「担任、ってえと諸岡教諭?……はいはい」

 

菜々子の言葉に真は不思議そうな表情で返すと火を少し弱くして菜々子に渡された受話器を耳に当てる。

 

「もしもし? 電話代わりました」

 

[あーもしもし、ワシだ。諸岡だ。えー、転校生の貴様にワシが直々に用意していたものがある。あー、貴様の家に届ける予定だったが、事情があって行けなくなってしまった。えー、ここはどこだ? ここはあれか……]

 

電話の相手である諸岡はそこまで言うと一旦言葉を途切れさせた。

 

[あー、ワシは今商店街のガソリンスタンドの前にいる。分かったな。速やかに取りに来い!]

 

「い、今から!?」

 

諸岡は言うこと言うと電話を切り、真は驚いたように声を漏らすが聞こえてくるのはツー、ツーという電子音のみ。真は受話器を置くと困ったように現在ハンバーグを焼いているフライパンを見る。ちなみにフライパンの大きさの関係上焼くのは一個ずつで今は自分の分を焼いている。

 

「ただいまー」

 

「あ、お父さん」

 

と、ちょうど遼太郎が帰り菜々子が呟く。と真はフライパンの火を切ってフライパンに蓋をすると彼に近寄った。

 

「叔父さん」

 

「ん?」

 

「すいませんがちょっと担任の諸岡先生が渡したいものがあるとかで呼び出されたので。行ってきます」

 

「お、おう?」

 

真の説明に遼太郎は首を傾げつつ頷き、真は靴を履き始めながら続けた。

 

「あと、ハンバーグ焼いてる途中なのでフライパンには触らないでください。続きは帰ってからやります」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ急ぐんで。すぐ戻ります!」

 

真の続けての言葉に遼太郎が頷くと真はすぐ家を出て行った。

 

それから真は商店街までやってくる。

 

「えーっと、ガソリンスタンドって言ってたよな……」

 

真はそう声を漏らしながら歩いていくが、男性の声が聞こえてきた。

 

「ですから、僕は里中さんの知人であって……」

 

「なんだ? てかこの声……」

 

その言葉に真は首を傾げ、ちょうど声の方でもあるガソリンスタンドの方に走っていく。とそのガソリンスタンド前では彼を呼び出した諸岡が男性と何か話をしていた。

 

「諸岡教諭? と……命先輩!?」

 

「あ、真君」

「む、来たか! 意外に速かったな。む、お前はこいつと知り合いなのか?」

 

諸岡と話していた男性は命、それに真が驚いたように声を上げると命は声を出し、諸岡も真に声をかけた後命を指差しながら尋ねる。

 

「あー、前の高校の先輩です。今は大学生、でしたよね?」

 

「まあ休学中……っていうか許可貰って特別状態っていうか……説明が難しいな……」

 

諸岡の問いに真は返した後命に話を振り、それに命は困ったように声を漏らす。と諸岡が頭をかいた。

 

「まあいい、椎宮。貴様のために用意した我が校指定のジャージだ! ほら、受けとれい!」

 

そう言って彼が突き出してきたのは言葉通りジャージ。つい真は受け取ってしまった。

 

「よし、受け取ったらサッサと帰れ! ワシはこいつに、我がクラスの女学生を連れまわしていた事を問いたださんといかんのだ!」

 

「はい……そういえば先輩、里中さんって……」

 

「あーほら、あの後。里中さん疲れて気分が悪いっていうから一度静かなとこで休ませてたんだよ。で、流石に暗くなる前に家に送っていって、ご両親にお礼って食事を、悪いと思ったんだけど押し負けてご馳走になってから帰ってたらこの諸岡氏が里中さんを無理矢理連れまわしてたとかっていちゃもんを……」

 

「なぁ~にがいちゃもんだ!? 貴様、都会から来たといい気になっとるんじゃなかろうな!? ここは貴様がいたようなイカガワシイ街とは――」

「諸岡教諭」

「諸岡氏」

 

諸岡の口からそんな言葉が飛び出した直後、真と命の声が重なり、デジャヴに諸岡はぎくりとなる。そして命は静かな印象を与える瞳で諸岡を見据えた。

 

「諸岡氏、あなたはたしか先ほど学校では倫理を担当なさっているとおっしゃっておりましたね?」

「教諭、前にもお聞きしたと思いますがもう一度お聞かせ願いたい」

 

「そ、そうだが、な、なんだ?」

 

二人の言葉に諸岡は微妙に汗を流しながら尋ね返す。それから二人の言葉が重なった。

 

「「先入観と偏見でものを言い、他人の人権を踏みにじることが教諭に取っての倫理なのでしょうか?」」

 

「ぐうぅっ!?」

 

それは転校初日、真が言い放ったものと全く同じ。それに諸岡はまた声を漏らした。そして命は何か譲れないものを宿したような瞳のまま、自らの心臓の上を指す。

 

「僕は気分の悪いという知人を介抱し家まで送り届けただけです。諸岡氏のおっしゃるような行為は一切行っていないと僕は僕の信念においてお約束いたします。なんなら後日、証明として里中さんとそのご家族にお話を聞いてはいかがでしょう? もちろん僕も同席いたします」

 

「む……分かった。椎宮に免じてここは貴様を信じてやろう……」

 

命の言葉を聞いた諸岡は押し負けしぶしぶと言った様子でそう呟き、街の中に去っていく。それを見てから命はふぅと息を吐いた。

 

「やー危なかった。助かったよ真君」

 

「は、はい……」

 

「じゃ、僕も帰るから」

 

「あ、じゃあまた」

 

命の飄々とした言葉に真はこくこくと頷き、命がバイクで夜の闇の中に消えていくのを見届けてから真も学校指定用ジャージを抱えて家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

「……はい、これで全員分っと。じゃあ菜々子ちゃん、いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「美味そうだな。いただきます」

 

晩御飯が出来たため堂島家も夕食になり、三人は食事の挨拶をして食べ始める。

 

「む、美味いな。お前、料理出来るんだな……」

 

「ほら、親父と母さん共働きだから」

 

「ああ……」

 

遼太郎の言葉に真が返し、それに遼太郎は納得したように頷いた後気づいたように真を見た。

 

「そういえばこれの材料費はお前が出したのか?」

 

「はい、もちろん」

 

「そうか……後でレシート見せろ。払う」

 

「えっ!? いやいいですよ、これタイムセールの、そんな出費じゃないですし……」

 

「それぐらいさせろ。こんな美味い飯を作ってもらうだけじゃなく材料費まで出させてるんじゃ俺の立場がない」

 

遼太郎の言葉に真が何を当然のことをとばかりのイントネーションで返すと遼太郎はそう言い、それに真は驚いたように返すが遼太郎は真剣な目つきで言い、真は頭をかいた。

 

「……はい。じゃあお願いします」

 

「おう。それでいい……おっと、そうだった」

 

真の言葉に遼太郎は嬉しそうに微笑み、ハンバーグをまた一口二口口に運び、咀嚼して飲み込んだ後思い出したようにまた口を開いた。

 

「お前、さっきは担任からジャージを受け取るために呼び出されたからいいし、都会じゃ夜中の外出もよくあることなんだろう。だがここは田舎で、俺はお前を姉貴から預かってる身だ……分かるな? これ以後、理由のない夜間外出は禁じる」

 

「……分かりました。別に理由なく夜中外うろつく趣味もないですし」

 

「よし……しっかし、ジャージを渡すだけとは。そんなもん学校でいくらでも渡せるだろうに……まあ、この騒ぎだ。皆浮き足立ってんだろうなぁ……」

 

遼太郎の言葉に真は少し考えた後頷き、それに遼太郎は満足そうに頷くと少し声を漏らしてからまたハンバーグを食べ始めた。そんな感じで今日の堂島家の一日は過ぎていく。




≪後書き≫
さて今回はVS雑魚シャドウとVS千枝のシャドウ。命は拳(打撃)、片手剣(斬撃)、ダーツ(貫通)というP3戦闘システムでいう三つの物理属性を使い分けられると言う設定です。まあ今作ではダーツは単なる飛び道具ですけど……弓と迷ったんですけどね、接近戦が主ということで携帯性重視と考えオリジナルのダーツを考えてみました。ついでに片手剣は基本的に抜刀術が主体ともなります。
そんでその後に命はその経験からシャドウの危険性を千枝達に諭しますが……ほんとこの小説真と命とどっちが主人公になってんだろ?……っていうか命かなり余裕がねえよなぁしょうがないけど……。
さて、次は一気に雪子を助けに行かせるか、それとも少し間をおいてコミュ活動を書いてみるか……ま、ちょいと考えてみましょうかね。それでは~。

で、ゴールデン追加イベントの学校指定ジャージを受け取るイベントを忘れてたので色々と追加してみました。ゴールデン原作において諸岡先生が家まで来れなくなった理由はモブ女生徒を捕まえたからですが、敢えて命を捕まえさせてみました。さて、そういや命も遼太郎と顔合わせさせといた方がいいかなぁ……。

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