ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第六話 戦いの前に……

四月十五日、夜中。堂島家二階の真の自室。真は外で雨が降っているのを確認するとカーテンを閉め、部屋を外から見えない密室状態にしておいた。

 

「テレビに何か映るだろうか……」

 

真はそう呟いて点けているテレビの前に立つ。テレビには天気予報が映っている。

 

[今日のニュースにもありました稲羽市ですが、今年も頻繁に濃霧が観測されています。実はこれは、ここ数年見られるようになった異常気象で、原因はよく分かっていません。周辺にお住まいの方はご注意ください。今日は、稲羽市の事件について時間を延長してお伝えしました……まもなく午前0時です]

 

ニュースが終わると真はリモコンのスイッチを押してテレビを消す。それから数拍置くと消えているはずのテレビからノイズとノイズ音が発生し始め、テレビに人影が映った。

 

「まただ……どうやら条件さえ揃えば何度でも見られるようだな……」

 

真はそう分析し、テレビに映っている人影を注視する。画面に映っているのは体格から考えて恐らく女性、和服を着ているように見えるが画像が荒いせいで誰なのかという確証までは持てなかった。

 

(……待てよ)

 

真はふとマヨナカテレビの映像に手を触れたらどうなるか、と考え、テレビに手を入れる。がその瞬間テレビの映像は消えてしまい、手を抜いた時にはテレビはいつも通り沈黙を保っていた。

 

「……流石にそう上手い話はないか……」

 

真はそう呟き、明日早速陽介、そして学校が終わった後に命とも連絡を取ろうと考えると明日の備えて眠りにつくため布団に入り、目を閉じた。

 

 

 

 

 

「ようこそ」

 

「!」

 

眠ったはずの自分の耳に届いてきた声、それに真は驚いたように目を開いた。それと同時に彼の視界に移るのは真っ青な車内と自分の向かいに座っている鼻の長い老人と群青色の衣服を身に纏った銀髪の美女。

 

「ご心配めさるな、現実のあなたは眠りについていらっしゃる。私が夢の中にてお呼びたてしたのです」

 

「ここは確か……ベルベットルーム」

 

老人――イゴールの言葉に真は記憶を辿りそう呟く。

 

「再びお目にかかりましたな」

 

「ここは、何かの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋……あなたは日常の中で無意識に目覚めを促され、内なる声の導く定めを選び取った。そして見事、力を覚醒されたのです」

 

「力……ペルソナのことか?」

 

イゴールに続いて美女――マーガレットが言い、その言葉に真が尋ね返す。それにイゴールが深く頷いた。

 

「左様……これをお持ちなさい」

 

その言葉と共に真の右手に群青色の鍵が浮かび上がり、やがて実体を持つ。

 

「今宵からあなたは、このベルベットルームのお客人だ。あなたは力を磨くべき運命にあり、必ずや、私達の手助けが必要となるでしょう」

 

「……」

 

イゴールの言葉に真は眉をひそめる。イゴールの言葉がどうにも何かの押し売りや悪魔との契約のように聞こえてきた。

 

「あなたが支払うべき代価は一つ」

 

その言葉に真はふっと笑みを見せる。どんな無理難題が来る、と考えたその時イゴールは続けた。

 

「“契約”に従い、ご自身の選択に相応の責任を持っていただくことです」

 

「……なに?」

 

イゴールの言葉に真は驚いたような呆けた声を漏らし、僅かに身を前に乗り出した。

 

「それだけか? まさか命でも取られるんじゃないかと思ったんだが……いや待て、そもそも俺は契約なんて……」

 

真はそこまで言うと一つ心当たりのある事柄を思い出し、それを口にした。

 

「まさか、クマと約束した犯人探しか?」

 

「左様」

 

「……分かった。気をつけておく」

 

真の問いにイゴールは小さく頷き、それを聞いた真は一つ頷いて返した。

 

「結構」

 

それにイゴールはもう一度小さく頷き、手を組みなおすとまた口を開いた。

 

「あなたが手に入れられたペルソナ……それは、あなたがあなたの外側の事物に向き合った時に現れる人格。様々な困難と相対するため自らを鎧う、覚悟の仮面……とでも申しましょうか」

 

イゴールはそこまで言うとそのギョロ目で真を一度眺め回す。

 

「しかもあなたのペルソナ能力はワイルド……他者とは違う特別なものだ。空っぽに過ぎないが無限の可能性も宿る。そう……いわば、数字のゼロのようなもの」

 

「特別?……」

 

「そう……まあ、あなたの周りにもう一人存在するのですが……」

 

イゴールの説明に真が声を漏らし、それに対しイゴールは真に聞こえるか聞こえないか程度の声量でそう呟く。それに真が首を傾げた。

 

「え?」

 

「いえ、なんでもございません……ペルソナ能力は心を御する力、心とは絆によって満ちるもの。他者と関わり、絆を育み、貴方だけのコミュニティを築かれるが宜しい。コミュニティの力こそが、ペルソナ能力を伸ばしていくのです」

 

「つまり、人と仲良くなっていけばなっていくほどペルソナはその力を増していく……そう言いたいわけか?」

 

イゴールの言葉に真は自分なりにその言葉を理解し、返す。と次にマーガレットが口を開いた。

 

「コミュニティは単にペルソナを強くするためだけのものではありません。ひいてはそれはお客様を真実の光で照らす、輝かしい道標ともなってゆくでしょう」

 

「……よく意味は分からないが。当然だ、人との交流をただの道具にするつもりはない」

 

マーガレットの言葉に真がそう返す、と次にまたイゴールが口を開いた。

 

「あなたに覚醒した“ワイルド”の力は何処へ向かう事になるのか……ご一緒に、旅をして参りましょう……フフ」

 

イゴールはそこまで言うとまた手を組みなおす。

 

「では、再び見えます時まで……ごきげんよう」

 

そしてイゴールがそう言い終えると共に、真の視界は真っ白に塗りつぶされていった。

 

 

それから目を覚ました次の日、今日は雨も上がって曇り。真が学校へと向かいながら電話をかけていた。

 

「先輩、昨日の夜の……」

 

[マヨナカテレビだよね? 分かってる。僕も見たよ……]

 

電話の相手は命だ。真が命と話していると突然その後ろからチリンチリーンと自転車のベルの音が聞こえてくる。

 

「よっ、おはよーさん」

 

「よお、花村」

[ん? 花村君?]

 

陽介だ。彼は真に追いつくと自転車を止めて片足を地面につけ、周りに聞こえないように声を潜めた。

 

「あ、命さんと電話中だった? ちょうどいいや……昨日の夜中の、見たろ?」

 

「ああ」

[見たよ。女の人っぽかったね……なんか、どこかで見たような気もするんだけど……]

 

陽介の言葉に真が頷き、命も真の電話のスピーカーから肯定の声を出す。それに陽介は考える様子を見せた。

 

「俺も誰だかいまいち分かんなかったけど、あれに映った以上放っとけない。とにかく放課後様子見に行こうぜ。クマからなんか聞けるかもしれないし」

 

「分かった」

[オッケー……本当は僕一人で一刻も早く聞きに行った方がいいんだろうけど、色々やることがあってね。学校が終わったら連絡してよ、それまでには終わらせるよう努力するから……あ、ごめん。旅館の人が来た、切るね]

 

三人は放課後にジュネスに行ってクマに様子を聞きに行くという意見で一致し、直後命は電話を切る。それからまた陽介が考える様子を見せた。

 

「また誰かが放り込まれたんだとしたらやっぱ、マジでいるのかな? 犯人……」

 

「被害者の死ぬ直接的な原因はあの世界かもしれない……だが、だから自分に罪はないと考えるような、あの世界を利用するような真似は許せないな」

 

陽介の言葉に真が頷き、それに陽介もああと頷いた。

 

「だからさ……絶対、俺達で犯人見つけようぜ!」

 

「なに?」

 

「だって警察が捕まえられるか? 人をテレビに入れてる殺人犯なんてさ」

 

「……まあな。分かった、やろう」

 

陽介の提案に真は頷き、陽介もああと頷いた後思い出したように続けた。

 

「そうだ。実は昨日さ、俺んちのテレビで試したら頭突っ込めたんだよ。お前みたいに」

 

「本当か!?」

 

「マジだって……俺が一人でテレビに入れたの、あの力が目覚めたからかもな……ペルソナ、か……命さんが言ってたけど、もしかしたらこの事件を解決するために俺達が授かったもの、なのかもな」

 

「ヒーロー気取りは止めてくれよ?」

 

「分ーかってるって。あ、でもテレビに入るのもペルソナも、全部お前が最初にやってのけたんだよな?」

 

陽介の妙に能天気な言葉に真がたしなめの言葉を口にすると陽介はけらけらと笑って返し、それからそう尋ねると真は肩をすくめた。

 

「ペルソナは先輩達が二年のフライングでな」

 

「それは考えねえの。お前とならさ、犯人見つけてこの事件を解決できるような気がするんだ。ま、よろしく頼むぜ」

 

「……こちらこそ」

 

陽介がそう言って手を差し出し、それに真も同じ手を差し出して握手を返す。その時彼とほのかな絆の芽生えを感じ取り、同時に真の頭に声が響いてきた。

 

 

   我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

 汝、“魔術師”のペルソナを生み出せし時

 

  我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

陽介との絆に呼応するように、心の力が高まるのを真は感じる。

 

(……なるほど。これがコミュニティか……)

 

それに対し真は相手に悟られない程度に笑みを浮かべながらそう呟き、陽介は手を離すと自転車に乗りながら口を開いた。

 

「さてと、学校急ごうぜ!」

 

「ああ」

 

その言葉に真も頷き、二人は学校向けて全速力で走っていった。

 

 

 

 

 

それから教室に着いた頃にちょうど雨が降り出し、二人は教室内でも気兼ねなく話せるような雑談を行っていた。するとガラガラッと扉が勢いよく開き、慌てた様子の里中が教室に入ってくる。彼女は教室内をきょろきょろ見回した後真達の方に走り寄った。

 

「さ、里中! その……き、昨日は……わりぃ、心配さして……」

 

「そんなことより、雪子、まだ来てない?」

 

「天城か? いや、見てないが」

 

陽介の言葉を里中はあっさり切り捨てて尋ね、それに真が首を横に振って返す。と里中は心配そうな声を漏らす。

 

「ウソ、どうしよう……ねえ、あれってやっぱホントなの? その……マヨナカテレビに映った人は向こう側と関係してるってやつ」

 

「ああ、朝にその話とかしててさ。放課後確かめに行こうかって――」

「昨日映ってたの……雪子だと思う」

「「――!?」」

 

里中の問いに陽介が返すと千枝はそう言い、それに二人の顔色が変わる。

 

「あの着物、旅館でよく着てるのと似てるし、この前インタビュー受けた時も着てた。心配だったから夜中にメールしたんだけど返事来なくて……で、でも夕方頃かけた時は今日は学校来るって言ってたから……あ、あたし……」

 

「分かったから、落ち着けって。で、メールの返事はまだないのか?」

 

「うん……」

 

不安げな千枝の言葉に陽介が落ち着くように言い、尋ねると千枝はうんと頷く。その後真が向こうの世界で得た情報をかいつまんで話した。すると千枝の顔色がさらに悪くなる。

 

「そ、それ、どういうこと? まさか雪子……あそこに入れられたってこと!?」

 

「分かんねーけど、そういうことならとにかく天城の無事を確かめんのが先だろ! 里中、天城に電話!」

「ああ、確証はないんだ。まず落ち着け」

 

千枝の言葉に陽介と真が返し、千枝はうんと頷くと雪子の携帯に電話をかける。しかし少しすると電話を切ってまた心配そうな顔で二人を見た。

 

「どうしよ、留守電になってる……で、出ないよ……」

 

「マジかよ、じゃあまさか、天城はあの中に?……」

 

「や、やめてよ! きっと他に何か用事とか……」

 

千枝の言葉に陽介が声を漏らすと千枝は怒鳴り声を上げ、そこに真が気づいたように声を出した。

 

「そうだ! 里中、天城は確か旅館で手伝いをしてると言ってたよな?」

 

「あ、そっか! え、えっと天城屋旅館……」

 

「手伝いって、学校休んでか?」

 

「可能性はゼロじゃない。俺も先輩にメールで聞いてみる」

 

真の言葉に千枝は気づいたように頷いて天城屋旅館のアドレスを探し始め、陽介が首を傾げていると真もそう言って命にメールを打ち始めた。そんな間に千枝も旅館に電話をかける。

 

「雪子……お願い……」

 

千枝は心配そうな声を漏らし、真と陽介も祈るような様子を見せる。

 

「……あ、雪子!? よかったーいたよー!」

 

そう言った瞬間千枝の表情が明るくなり、少しタイミングを置いて真の携帯に命からメールが着信する。

 

「あ、命さんから?」

 

「ああ、いるってさ……一応、テレビに映ったのが天城の可能性があるってメールしておくよ」

 

陽介の問いに真はそう返し、またメールを打っておく。それを送った辺りで千枝も電話を切った。

 

「急に団体さんが入って、手伝わなきゃいけなくなったって。それで、明日もずっと旅館の方にいるって。そ~いや今までも年に一回くらいはこゆことあったっけね~」

 

千枝は心底安心した様子で説明した後少し怒った様子で花村に詰め寄る。

 

「……って花村~、要らない心配しちゃったじゃん! てか全然無事じゃん!」

 

「わ、悪かったって……けど俺らも、そう思いたくなる訳があんだよ」

 

「……どんな?」

 

千枝の言葉に陽介は悪かったと謝った後そう続け、それに千枝は首を傾げて問う。

 

「えっと……俺達、マヨナカテレビに映るのはあっち側にいる人だって思ってたんだ。だってそうだろ? テレビの中にいるからテレビに映っちまう。いかにもありそうじゃん?」

 

「だが天城はこっちにいる……前提条件を間違えているのか、あるいは何か見落としているってことか……」

 

「ああ。とりあえずどういうことか確かめた方がいいかもな。よし、放課後ジュネスに集合しようぜ。俺、準備して先行ってるな」

 

陽介の説明の次に真はそう言い、それに陽介が頷いてそう言ったところでこのクラスの担任である諸岡がやってきたため陽介と千枝は慌てて席に戻っていった。

 

 

 

 

 

それから放課後、彼らはジュネスの家電売り場に集合していた。もちろん命も一緒だ。そして千枝は真から昨日のテレビの世界で起きたことを詳しく説明していく。

 

「ま、まあまあ、俺のイタい体験とかその辺はいいから、な?」

 

「……そんな話、普通絶対信じないよね。実際にあの中、見てなかったら」

 

「まあね」

「全くだぜ。で、とにかく中の様子を知りたいわけなんだけど……」

 

千枝の言葉に命と陽介が頷き、陽介はそう呟いて辺りを見回す。今日に限って客がたくさんやってきていた。

 

「なんで今日に限って……ってそういや今家電セール中だっけか……」

 

「嬉しいような悲しいような、だね」

 

「なんとかクマ君の話、聞けたらいいんだけど……」

 

陽介の言葉に命が笑いながら返し、千枝が呟く。と命が思いついたように皆をいつものテレビの前に集める。

 

「皆、こうやってあくまでこのテレビを下見しているようなフリをして壁を作るんだ。それで、真君が手を突っ込んで呼んでみるってのはどうかな?」

 

「あ、なるほど!」

 

命の言葉に陽介は頷き、真を除く三人で壁を形成。真が手を突っ込み、クマを呼ぶため手招きを行った。

 

「っ!」

 

「ど、どうした!?」

 

「ば、ばか、声でかいって!」

 

と、真は突然手を引っこ抜き、陽介が声を上げ、千枝が声を抑えて陽介を押さえる。そして真の手を見るとぎょっとした目を見せた。

 

「は、歯型ついてんじゃん!? 大丈夫?」

 

「泣けてきた」

 

「いや泣いてないじゃん。も~クマの仕業だなぁ」

 

千枝の言葉に真が白々しく返すと千枝はツッコミを入れた後両手を腰にやっても~と呟く。

 

「おいクマきち! そこにいんでしょ!?」

 

「なになに? コレ、なんの遊び?」

 

千枝が声を潜めて叫ぶとテレビに波紋が広がり、中からクマの声が聞こえてくる。それに陽介が返した。

 

「遊びじゃねっつの! 今、中に誰かの気配はあるのか?」

 

「誰かって誰? クマは今日も一人で寂しん坊だけど? むしろ、寂しんボーイだけど?」

 

「うっさい! けど、誰もいない?……ホントに?」

 

「ウ、ウソなんてつかないクマ! クマの鼻は今日もビンビン物語クマ!」

 

「……分かったよ。ありがとう、クマ君」

 

陽介と千枝とクマの会話の後命がお礼を言い、それを聞くとテレビから波紋が消える。それを見届けてから千枝が口を開いた。

 

「やっぱあたし、雪子に気をつけるよう言ってくる。土日は旅館が忙しいだろうから一人で出歩いたりはしないと思うけど……」

 

「僕もなるべく注意しておくよ。旅館なんて人の出入りがかなり多いけど少なくとも不審な動きを取る人物には気をつけておくよう心がけとく」

 

千枝の言葉の後に現在天城屋旅館に宿泊中の命がそう言い、最後に「流石に追い出されるわけにもいかないから天城さんに四六時中張り付くストーカーみたいな目立つ行動はできないけどね」と締めておく。それに陽介も頷いた。

 

「もしかしたら、今夜のマヨナカテレビでまた何か分かるかもしれない」

 

「ああ。全部勘違いで済むならそれでいいんだが……」

 

陽介の言葉に真が頷き、それに陽介もまた頷いた。

 

「今日見たら電話するわ。携帯の番号、教えてくれ」

 

「ああ」

 

「真君、後で僕の携帯番号を花村君に送って、僕には花村君の携帯番号送ってくれる?」

 

「分かりました」

 

陽介達男三人組はそうやってそれぞれの電番を交換。全員分来た陽介はよしと頷いた。

 

「じゃあ、今夜見るの忘れるなよ?」

 

その言葉に残る三人も頷いて返し、その場は解散した。

 

 

 

 

 

それから夜中まで時間が進み、山野真由美の遺体発見現場では、遼太郎達が更なる手掛かりを見つけるべく捜査を続けていた。しかし、ここ数日の雨のせいもあり、捜査は難航しているのが現状である。

 

「やっぱこれ以上は出なそうっすね。犯人に直接つながる物証は無しか……」

 

透明なビニール傘を差した若い刑事――足立が現場で指揮を執る遼太郎に話し掛ける。それに遼太郎が首を横に振った。

 

「まだ殺しと決まった訳じゃない」

 

「殺しですよ絶対! あんな遺体、事故死な訳ないですって!」

 

「……まあな」

 

遼太郎の言葉に足立が返し、それに遼太郎も頷いた。

何故亡くなったか警察も掴めていない状況で同じ状態の遺体が二つ。殺しであればまず鉄板で同一犯の連続殺人であるということが遼太郎の見解である。事件当初は山野真由美の不倫相手である生田目太郎、そして生田目の妻である柊みすずの三角関係のもつれによるものと見られたが海外公演中の柊みすずのアリバイは固く通話記録も残っている。そもそも愛人問題がメディアに出たのは柊みすず本人が会見で暴露したから。仮に柊みすず本人が犯人だとしてもこれから殺人を犯すのに自身に疑いが向くような発表はしないだろう。

 

「旦那の生田目太郎にしても、いくら揺さぶっても何も出てこないしな。奴ぁここ半年は中央で仕事をしていた。スキャンダルで最近町に戻ってきたらしいが、事件当時は市外の議員事務所に詰めてた。もちろん山野真由美の死んだ日もだ。泊り込みで作業していたと裏が取れてる。おまけに山野の方にも、失踪前後に生天目と接触した形跡は全く無いときてる……」

 

「この事件で騒がれたせいで、生天目のヤツ、秘書をクビになってますからねぇ。生き残った関係者の中じゃ、むしろ一番の被害者じゃないですか?」

 

「ああ、確かにな……」

 

遼太郎の言葉に足立が返し、遼太郎は数度頷いて呟き、数拍おいてからまた口を開く。

 

「しかも二件目の小西早紀……最大の接点は遺体発見者って所だが、口封じとしちゃおかしい。小西の死は一件目が世に出た後だし、それにあの遺体……隠すどころか見て欲しいって風だ。他の繫がりって言や、ガイ者の山野が死の前に滞在した宿の娘と同じ高校……ってくらいか」

 

「ですねぇ……ニュースで見たっすよ、その辺」

 

「な、なにぃ!? 宿の話、もう出てんのか!?」

 

遼太郎の言葉に足立がうんうんと頷く、とその言葉に遼太郎が驚きの声を漏らした後困ったように頭をかく。マスコミの鼻と行動といおうものか。すると足立がうんと頷く。

 

「よっし分かった! やっぱあれじゃないすかね? 遺体の状況に、僕らが見ても分からない、小西早紀だけに分かる何かがあったとか! それを口封じしたかったんですよ、きっと!」

 

「……」

 

足立の推理に遼太郎は沈黙をもって返し、彼に背を向ける。

 

「ともあれ、今はガイ者まわりをしつこく洗うしかねえか……」

 

そこまで言うと彼は顔を上げる。

 

「犯人……町の人間だな」

 

「おっ、出ましたね、刑事の勘!」

 

遼太郎の呟きに足立が楽しそうに口を出し、危機感の無いその様子に遼太郎が足立を睨み付ける。睨まれた足立は自身の失言に気付き、慌てて姿勢を正した。

 

 

 

 

 

一方天城屋旅館、命は事件について考えながら従業員の邪魔にならない程度に旅館内を散歩しつつ怪しい人間がいないかチェックしていた。とりあえず今は少し従業員が忙しそうに走り回っているが怪しい人間はいない、それなのに命の表情は険しかった。

 

(……おかしいな、僕結構歩いてるのに……天城さんが見当たらない……)

 

命はそこまで考えると足を止める。まさかと最悪の予測が頭をよぎる。それを考えると命は辺りを見回して手近な従業員に声をかけた。

 

「あ、あの、すいません。天城雪子さん、見かけませんでしたか?」

 

「え? 雪ちゃんを?……どうしてでしょうか?」

 

命の問いに従業員は僅かなり怪しむ様子を見せながら尋ね返し、それに命は笑みを見せながら言った。

 

「あぁ、僕里中千枝さんの知人で、千枝さんが心配していたと伝えたいのですが……」

 

「ああ、なるほど……そう言われてみれば見当たりませんね……会ったらそれを伝えておきましょうか?」

 

「はい、お願いします」

 

命の言葉に従業員はそう言い、それに命が頷いて返すと従業員は歩き去っていく。その後姿が消えていくのを見届けてから命は頭をかいた。

 

(くそ、嫌な予感がする……)

 

心中でそう呟き、これ以上部屋の外にいたら怪しまれる可能性もあるためか彼は足早に部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

時間が過ぎて午前0時、マヨナカテレビにまたしても映像が映る。

 

「こ~んば~んわ~♪」

 

「……は?」

 

しかしテレビに映ったものに真は目を点にした。

 

「え~っと、今日は私、天城雪子がナンパ、逆ナンに挑戦してみたいと思いま~す」

 

洋風のドレスを着た雪子がマイクを持ってリポーターのように振る舞っている。どこかのバラエティ番組のような構成に、性格が豹変したかのような雪子の立ち居振る舞い。画面に映る雪子が、楽しそうに古城の中へと去って行った姿を最後に映像が終了、テレビは消える。しかし、真の脳はさっきの事態を理解することに時間を要していた。すると突然携帯が鳴り出し、真は我に返ると電話に出た。

 

[お、おい、見たか今の!! 天城だよな、顔本人だったし、つか名乗ってたぜ!! けど言ってること、おかしくなかったか!? しかもなんかバラエティ番組みたいな……なんだこれ、今までのもこうだったのか? どうなってんだ一体……]

 

「落ち着け。花村、天城の番号知ってるか?」

 

[い、いや、知らねえ。そ、そうだ、俺里中に連絡して、里中から天城に連絡してもらう!]

 

「ああ。俺は先輩に連絡を取ってみる!」

 

[頼む! 明日日曜だし、朝一でジュネスに集合するよう伝えてくれ!]

 

「分かった! 切るぞ」

 

真と陽介はお互い僅かなり動揺しつつも冷静に連絡を取り合い、真は陽介との通話を切るとそのまま命に電話をかける。とワンコールで命が出た。

 

「先輩、マヨナカテレビ……」

 

[分かってる。くそ、不覚だった……でも怪しい人なんて見かけなかったし気配も感じなかったのに……]

 

真の言葉を遮って命はそう言い、電話口でも分かるくらいに悔しそうな声を漏らす。

 

[っと、天城さんだよね? さっき従業員に聞いた時、見かけないって言ってたんだ]

 

「やっぱり……とりあえず、花村が明日朝一でジュネスに集合するように伝えてくれって」

 

[分かった。電話切るね]

 

「はい」

 

真と命はとりあえず用件のみを手短に話すと電話を切り、真は明日に備えるためすぐ布団に向かうと眠りについた。

 

 

それから翌朝、早くに目が覚めた真は身支度を調えると居間へと降りる。

 

「あ、おはよ」

 

と居間には既に菜々子が座っており、真は驚いたように彼女の方に近寄った。

 

「おはよう。早起きだね」

 

「お父さん、早おきだったから、いっしょにおきた。かえり、おそいって」

 

「そ、そうか……」

 

菜々子は一人でジュースを飲んでおり、遼太郎は今日も早くから捜査に出掛けたようだ。つまりここで真まで出かけると菜々子は家に一人になってしまう。しかしこれからもしかしたら、いやまず間違いなくテレビの中に行くことになるだろう。そんなところに菜々子を連れて行くわけにもいかない。真は葛藤を始めていた。

 

「出掛けるの?」

 

するとそんな彼の様子に気づいたのか菜々子がそう言い、真は驚いたように菜々子の顔を見る。

 

「るすばん、できるから」

 

菜々子はそう言ってリモコンを使いテレビの電源を入れる。とちょうど天気予報が流れており、今日の稲羽市は快晴だそうだ。

 

「晴れだって。せんたくもの、ほそうっと」

 

「……すまない、菜々子ちゃん。お礼、と言っても変かもしれないけど今晩はハンバーグ作ってあげるよ。じゃあ、行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

真はすまなそうに言った後少し重い足取りで家を出て行き、ジュネスへと向かう。とその途中で命から電話がかかってきた。内容は[ごめん、ちょっと遅れちゃいそう!]とのことだ。

 

ジュネスへと到着した真は待ち合わせ場所のフードコートで陽介と千枝がやってくるのを待つ。それから暫くして陽介が後ろ手に何かを隠し持ってやってきた。

 

「わり、お待たせ。バックヤードから、いーもの見っけてきたから。見てみ、どーすかコレ!」

 

陽介はそう言って隠していたものを真に見せる。右手に持っているのは刀、左手に持っているのは鉈のようだ。それに真は目を細める。

 

「いくらペルソナがあるからって、武器も無しじゃ心許ないからな。ゴルフクラブも折れちまったし」

 

「そ、それ、どうしたんだ?……」

 

「ジュネスのオリジナルブランド、刃はなし。んでお前、どっちにする?」

 

陽介の言葉に真が尋ねると彼はふふ~んと鼻を鳴らして刀と鉈を真の前に突き出し、それに真は心なしか顔を青くしながら首を横に振った。

 

「いや、今はいらない……」

 

「まあそう言うなって、いざって時絶対助かるから!」

 

「そ、そうじゃなくって……今人前だから……」

 

陽介は武器を持って得意げにしており、真は慌てて辺りを見回す。完璧に注目されているがテンションがあがっている陽介は気づいていない。

 

「でもって俺は……あ、意外に両方ってありかもな。こ、こんな感じとか? それともこうか!? 逆にこうとか!」

 

「バ、バカ振り回すな! 早く下ろせってか元あった場所に置いてこい!!」

 

陽介は刀と鉈を振り回し始め、真は慌てて腕を押さえようと立ち上がる。するとそこに巡回中の警官が通りがかり、その光景を目撃する。

 

「挙動不審の少年二人組を発見。刃物を複数所持、至急応援求む」

 

警官は無線で応援を呼び、その声が聞こえた陽介はギクリとして慌てて背後に模造刀を隠す。しかし既に警察官に見つかっているため、意味がない悪あがきだ。

 

「は?……あ、や、ちょっ……」

「ふ、二人組って俺も!?」

 

陽介は慌てたように声を漏らし、真はさっき聞こえてきた言葉を思い出すと声を上げる。

 

「いや、いやいやいや、何でもないっすよ。これ別に、万引きとかじゃなくて……や、疑ってんのはそこじゃねえか……て、てか別に怪しくないっす! あーと俺ら刃物マニアっていうか、あ、それもアブナイ話ですよね、えへへ……」

 

陽介は混乱しているのかそんな事を言い出し、真がため息をつきさてどうするかと考え始めると警官が口を開いた。

 

「とにかく詳しい話は署で聞くから、それ床に置きなさい。手は頭の上! はーやーくー!」

 

その言葉に真は増援がくるんだし無駄な抵抗はそれこそ面倒ごとになるかと諦めて警官の指示に従う、が陽介は言い訳を続けようと刃物二つを前に突き出してぶんぶんと首を横に振った。

 

「や、でもこれは……」

 

「な、な、なんだこのヤロー! やろうっちゅうの!?」

 

しかしそれを抵抗と見なしたのか警官はそう言いだし、真は心中で頭を抱える。まあ絵的に見ても頭を抱えているように見える図なのだが。その直後巡回していた警官が呼んだ応援が現場に到着、彼らは仲良く警察への連行とあいなってしまった。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 

一方ジュネスまで走ってきた千枝は入り口で足を止めると呼吸を整え始める。すると彼女は人だかりを発見し、そっちの方に走っていく。

 

「ちょっとすいませーん……ってえぇっ!?」

 

そしてその人影の注目先――パトカーに乗せられている真と陽介を見ると声を上げ、パトカーが発進すると千枝は慌ててその後を追って走り出すがあっという間に置いてかれてしまう。

 

「ど、どうなってんの?……」

 

「あれ? 里中さん」

 

千枝が呆然として声を漏らす後ろからブオーンとエンジン音が聞こえ、そんな声も聞こえてくる。それに千枝が振り返ると同時にその音を立てていたバイクに乗っている男性――命もヘルメットを外した。なおジャケットを前を閉めて着ており黒い学生服風のズボンを穿き、その背中には中に何か入れてるらしいリュックを背負っている。

 

「どうしたの?」

 

「そ、そそそれが椎宮君と花村が警察に!!」

 

「はぁ?……な、何したんだあの二人……」

 

命の言葉に千枝はさっきの状況を説明、それに命は頭を抱えて呟いた。

 

「知りませんけど、とりあえず警察署まで行かないと!」

 

「あーもーしゃーないな。じゃあ乗って! はいこれ予備のヘルメット! あ、それとこれ代わりに背負ってて」

 

騒ぐ千枝に命はそう言って千枝に予備のヘルメットを投げ渡し、千枝もそれを被り、さらに渡されたリュックを背負うと慌てて命の後ろに乗る。

 

「しっかり背中に掴まっててね!」

 

「は、はい」

 

命はそう言ってバイクを走らせ、千枝はそのスピードに慌てて命の背中にしがみついた。

 

(うわ、思ってたより背中大きいし、結構たくましいかも……)

 

「っと、これガソリン切れかけだから先に補充させてね……あれ? どうしたの?」

 

「わっ!? あ、あー、なんでもないっす!」

 

「ふ~ん……まあいいや。えーっと、たしかガソスタ近くにあったはず……」

 

千枝は命の背中や腕を回したことで分かる腹筋の手触りについそんな事を考えてしまい、命がガソリン残量に気づいてそう言い、気づいたように千枝に問いかけると彼女は慌ててあははと笑い誤魔化す。それに命は首を傾げながらもまあいっかと結論付けるとガソリン補充のためガソリンスタンドを探し始めた。

 

 

 

 

 

「お前、こういうバカをするタイプには見えなかったがな」

 

警察署。ここに連行された真と陽介は偶然いた遼太郎に説教をくらっていた。

 

「今、色々起きてるのは知ってるんだろ? あちこちに警官が配備されてる。ったく……俺が偶然いなきゃ、補導歴がついてたとこだ」

 

「本当に申し訳ありません」

 

遼太郎の注意に真は深く頭を下げる、と陽介が首を横に振った。

 

「つ、椎宮は悪くありません! 俺がジュネスのバックヤードで見つけて、かっこいいからついついいい気になって、椎宮は俺を止めようとしてくれてたんす! だからその、ごめんなさい!! そんで頼んます! 椎宮をあんま怒らないでやってください!」

 

陽介はそう言った後深く頭を下げて謝罪と頼み込みを行い、それに遼太郎は頭をかく。

 

「こっちぁ今、事件で忙しいって言うか……色々とデリケートなんだ。ニュースで知ってるだろ? これっきりにしろよ……じゃあ、帰ってよし」

 

「「すみませんでした!」」

 

遼太郎の言葉に対し二人は最後にもう一度頭を下げてから入り口の方に歩いていき、その途中で聞こえてきた刑事達の会話――雪子が行方不明というものを聞くと彼らは顔を見合わせる。

 

「おっとー……っと、ゴメンね」

 

と、彼らの前にコーヒーを持った若い刑事――足立が現れ、陽介が口を開いた。

 

「あ、あのっ! ちっと訊いてもいいですか? その、天城のやつ……あ、つか天城屋の天城雪子のことなんですけど……もしかして、居なくなったんですか?」

 

「え、あ、うーんとね……言っていいのかなぁ?」

 

陽介の言葉に足立は困ったような声を漏らし、少し考える様子を見せる。

 

「まあ、天城さんと友達なら……特別だよ?」

 

それから足立はそう前置きを入れてから話し始めた。

 

「天城さん、昨日の夕方くらいから急に姿が見えなくなったって、ご家族から。土曜だから旅館の人はキリキリ舞いで、夕方頃は誰も天城さんを見なかったって。あっ、でもまだ事件って決まったわけじゃないから! ただ、失踪した人が霧の日に……なんてのが続いてるから、署内も過敏になってて……あ、君達何か聞いてない? 本人が、例えば辛そうだったりとか」

 

「え?……辛そう?」

 

「ほら、一件目の殺人の前、例の山野アナが天城屋に泊まっててさ。山野アナ、接客態度のことで女将さんに酷い言葉浴びせたみたいなんだよね。で、女将さんがストレスで倒れちゃって。ほら、天城さん、女将さんの娘なわけだし、まあその……色々思うじゃない?」

 

その言葉に二人は?マークを頭の上に浮かべるような顔を見せ、足立は二人に問いかけた。

 

「天城さん、家出とかほのめかしたりしてなかった? じゃないと、何か都合悪いことあって隠れてるとか言ってる奴もいてさ……」

 

「……天城を犯人だと思ってるやつもいる。って言いたいんですか?」

 

足立の言葉に対し真は少しむっとしたような様子で問いかけ、それに足立はぎょっとした様子を見せる。

 

「い、いや、そういう意見もあるってだけで――」

「足立ぃ! 部外者と立ち話してんな! コーヒーまだかよ!?」

「――は、はい! すんません!」

 

足立の言葉を遮って遼太郎の言葉が聞こえ、足立はすぐそれに返すと彼らにすまなそうな顔を見せた。

 

「ごーめん、今のなし! 忘れて!」

 

そしてそういうやいなや彼は走り去っていき、真と陽介も入り口近くまで行くと陽介が口を開いた。

 

「なあ、さっきの刑事、まさか天城のこと……」

 

「あの人がどうとかは分からないが……まずい流れではあるな」

 

陽介の言葉に真は首を横に振ってまずいといいたげな表情で返す。

 

「あっ、いた!」

 

「もう、何やってるのさ?」

 

そこに聞こえてきた千枝の焦った声と命の呆れた声、それに真が苦笑いを零す。

 

「ちょ、ちょっと誤解とアクシデントがありまして……」

 

「それより天城だよ!」

 

「えっ!? もう知ってんの!? 携帯に何度かけても繋がらなくて……家行ってみたら、雪子、ホントに居なくなっちゃってて!……」

 

真の言葉に続いて陽介が言い、それに千枝が声を漏らすと陽介は額を押さえた。

 

「……やっぱ向こうに行くしかないか……それより、警察が妙なこと言ってる。天城が“都合悪いことがあって隠れてる”とか……天城のお袋さん、山野アナにイビられて倒れたらしい。動機があって、しかもモメた直後に山野アナ死んだから……」

 

「何よソレ! 雪子が犯人って流れ!? んなわけないじゃんっ!!」

 

「そんなことは分かってる! だがこのままじゃまずい……とにかく、一刻も早く天城を助けよう」

 

陽介の言葉に千枝がかっとなったように声を上げ、それを真が一喝して返した後そう続ける。それに千枝はうんと頷いた。

 

「あ、そ、そうだよね……えっと、どうしたらいいの?」

 

「警察こんなじゃ、やっぱ俺らが行くしかないだろ」

 

「あたしも行く!」

 

千枝の言葉に陽介が言う、と千枝がそんな事を言い出し、三人は驚いたような目で彼女を見た。

 

「行くからね! 絶対、雪子助けるんだから!」

 

「大丈夫か、お前……けど参ったな、丸腰なんだよ……また何か武器になりそうなもん見つけないと……」

 

「武器?……あたし、知ってるよ!」

 

千枝の言葉に陽介は不安げに返し、それからそう漏らすと千枝はそう言った。

 

「とにかく、一緒に来て!」

 

そういうやいなや千枝は走り出し、残る三人もその後を追って走っていった。

 

それから四人がやってきたのは稲羽中央商店街にある【だいだら.】という店。

 

「ほら、ココ!」

 

「な……何屋?」

 

「一応、工房?……金属製の色んな、刀とか売ってんの」

 

千枝の言葉に陽介が唖然とした様子で尋ね、千枝が疑問系で説明する。まあ、普通店内に所狭しと剣や槍などの武器や鎧などの防具が並べられている店なんて見たことないだろう。真も当然のこと流石に命も驚きに閉口してしまっている。陽介が「なんでこんなとこ知ってる!? まさかカンフー映画の見すぎで!?」とか叫び、それに千枝が「男子が言ってた!」と叫び返してるのを見ながら真は命の方を向いた。

 

「せ、先輩……これ、銃刀法違反にならないんですかね?」

 

「さ、さあ?」

 

真の言葉に命も苦笑いをしながら返して武器を調べる。

 

「まあこの出来なら護身くらいならなんとかなるよ、きっと…(…ここのが使えなかったら最悪桐条先輩に相談して黒沢さんのツテとか……)」

 

命は武器を調べた次に彼らの武装プランを考え始め、その間に千枝は手近な鎧に近づく。

 

「あ、これとか強そう……あ、でも重いかな……」

 

「なあ里中、やっぱ危ねえって……気持ちは分かるけど――」

「分かってない!!」

 

千枝が鎧を見ながらそう言っていると陽介が説得を試みるが、それに対し千枝が叫んで陽介の言葉を遮った。

 

「分かってないよ……雪子、死んじゃうかもしれないんだよ?……あたし、絶対行くから!」

 

千枝はもはや意地になっており、真は困った様子で隣の命を呼んだ。

 

「先輩、どうしましょう?」

 

「あ? え、えーっと。ああ里中さん? そうだね……僕の知識がこっちのシャドウにも当てはまるのなら、シャドウは基本ペルソナ使いしか襲わないはずだし……分かったよ。じゃあ……僕達の後ろにいる、僕達の指示に従う。これを条件にしてなら、まあ荷物持ちとして採用するよ」

 

真の言葉に命は少し考えて二つの条件を提示して荷物持ちとして採用すると伝える。それに千枝はぱぁっと顔を輝かせた。

 

「はい! 任せといてください! 運動神経なら負けません!!」

 

「言っとくけど、戦わせないよ? シャドウはペルソナ使いにしか倒せないんだ。君はあくまでお荷物であることを自覚してよね? 身体を守る防具だけここで準備すること」

 

「う、は、はい……」

 

命は少し辛らつな物言いで千枝に言い、それに千枝はこくんと頷いた。それから命は店主の前に進み出た。

 

「すみません」

 

「あぁ?」

 

その言葉に低い声で返す店主――壮年の男性で禿げ上がった頭に髭と繋がるほどに伸ばしたもみ上げ、それよりも特徴的なのはその顔面にX字を描く派手な刀傷だ。店主の仏頂面もあいまってかなり恐ろしく思える。それに直接の相手になっていない真、陽介、千枝ですら大小違いはあるが僅かなり怯えている様子を見せている。

 

「……ここに置かれているものは商品として販売されているのでしょうか?」

 

「……おう。ここにあるのは全部俺の作ったアートだ。おめえら、さっきから何かぼそぼそ喋ってたが、もしうちのアートを喧嘩に使おうってんなら……」

 

しかし店主の顔に命は全く動じずに尋ね、それに店主は頷いた後その目を鋭く研ぎ澄ませながら尋ね返す。それは普通の相手なら間違いなくすくみあがるものだが命は僅かな恐怖心すら見せず、真剣な目で真っ直ぐに店主の目を見返しさらに不敵な笑みまで浮かべる。

 

「いえ、まさか。ただ……人助けに必要なんです」

 

「人助けか……まあ、嘘じゃあなさそうだな……ふん、買うんなら好きにしろ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

命の言葉を聞いた店主はうんと頷いて返し、それに命は軽く頭を下げて返した。

 

「じゃあ皆、それぞれ武器を探して……僕も、ちょうどよかった」

 

命の言葉に三人は頷いて武器、千枝は防具を探し始める。千枝は防具のみと言われているし真は剣道部時代に使い慣れているという両手剣に決めている。陽介はそんな様子を見て不安になったか命に話しかけた。

 

「あの、命さん、俺どういう武器を……」

 

しかし陽介の言葉は途中で途切れる。命はかなり真剣な目で片手剣を品定め――剣を一本取って鞘から軽く抜いて刃を見、納得いかないように首を傾げると剣を戻し、また別の剣を取っての繰り返し――しており、どうにも声をかけられる雰囲気ではない。と固まっている陽介の後ろから真が話しかけた。

 

「どうした、花村?」

 

「あ、ああ……な、なあ椎宮。俺の武器も見立ててくんね?」

 

「……と言われてもな……あ、この鉈なんてどうだ? ジュネスでも振り回してたろ?」

 

「う~ん……ま、使ってみるか。よし、んじゃせっかくだし二刀流でいくか」

 

真が問いかけると陽介がそう頼み、それに真は困ったように頭をかいた後、ふと目に入ったものを薦めるノリで鉈を薦め、それに陽介も頷いてどうせなら二刀流でいくかと鉈を二本取った。

それからそれぞれ個別で清算していく。武器だけならともかく防具として楔帷子を一人一つ買ったので意外な出費となっている。

 

「ああそうだ。青髪の兄ちゃん、こいつをおまけにやるよ」

 

「竹刀袋?……なるほど、ありがとうございます」

 

店長が渡してきた竹刀袋に命は不思議そうな目を見せるがすぐにその使い道に気づくとお礼を言う。片手剣もこれに入れれば少しは目立たなくなるだろう。と店長はにっと笑った。

 

「それと、もしもっとイカしたもんが欲しかったら素材を持ってこい。言っとくがわしはありきたりなもんは好かん! 出所がわからねぇような代物の方が燃えるからな。そういうものを持ってきてくれれば新しいアートを作ってやる」

 

「……」

 

店長の言葉に命は僅かに驚いた様子を見せた。二年前の戦いの間にもエリザベスの依頼でシャドウの一部を取ってきたりしていた。こっちでもシャドウの一部、素材なら使えるかもしれない。

 

「……覚えておきます」

 

命はにこりと微笑んでただそうとだけ言う。と次に陽介が気づいたように声を出した。

 

「つか、俺らここで武装しちゃったらまた警察連れてかれるよな? かといってジュネスん中、こんな物騒なモン提げて歩けないし……」

 

「制服着ちゃえば良くない? 上から。結構分かんないと思うよ?」

 

「しょうがない。それで行こう……んじゃさ、一旦解散して準備しようぜ。夕方のセール終わんないと店も混んでるし、警察いたら三人一緒じゃ目立つだろ」

 

「分かった。じゃあ後でジュネスのフードコートに集合しよう」

 

高校生三人組もそう話し合うと命が店から出るよう促し、四人は店から出て行った。

 

それから四人は一旦解散ということになり、真と命は同じ方に歩いていく。とだいだら.の隣の単なる道端に突如青い奇妙な扉が出現、それに真はぎょっと目を見開いた。しかし他の人には見えていないのか、誰もその不可思議な扉に意識が向かないらしい。たった一人、その扉の方を見ている命を除いて。

 

「先輩、見えるんですか?」

 

「……いや、真君と同じ光景が見えてるとは思えないね。多分真君、青い扉が見えてるでしょ?」

 

「は、はい」

 

「僕には青いもやもやがぼうっと見える程度なんだ」

 

「そうですか……」

 

二人はそう話し合う。と真の頭に声が響いてきた。

 

「ついに始まりますな……では、しばしお時間を拝借すると致しましょうか……」

 

その言葉に呼応するように契約者の鍵が光を放ち始める。

 

「先輩……」

 

「……行って。君にとって大事なことになるはずだ」

 

真の言葉に命は真剣な目で言い、真ははいと頷くと扉の前に歩き、その扉の鍵穴に鍵をさす。それと共に彼の視界が白い光に覆われていった。

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました」

 

それから気がつくと、そこはベルベットルームの中だった。

 

「あなたに訪れる災難……それは既に、人の命を奪い取りながら迫りつつある……ですが恐れることはございません。あなたは既に抗うための力をお持ちだ……いよいよそのペルソナ、使いこなす時が訪れたようですな……フフ」

 

イゴールはそこまで言うとフフ、と笑みを零し、次にマーガレットが口を開く。

 

「あなたのペルソナ能力はワイルド。それは正しく心を育めば、どんな試練とも戦い得る切り札となる力……私共も、そのためのお力添えをして参ります」

 

「私の役割……それは、新たなペルソナを生み出すこと。お持ちのペルソナカードを複数掛け合わせ、一つの新たな姿へと転生させる。言わば、ペルソナの合体でございます」

 

イゴールはそこまで言うと一旦言葉を置き、続けた。

 

「あなたはお一人で複数のペルソナを持ち、それらを使い分けることが出来るのです。そして敵を倒した時、あなたには見えるはずだ……自分の得た可能性の芽が、手札としてね。時にそれらは、ひどく捉え辛い事もある……しかし、恐れず掴み取るのです。カードを手に入れたなら、ぜひともこちらへお持ちください。しかも、あなたがコミュニティをお持ちなら、ペルソナはさらに強い力を得ることでしょう」

 

イゴールはそこまで言い、言葉をまた一旦置くと念を押すように手を真の方に差し伸べてきた。

 

「あなたの力は、それによって育っていく。よくよく心しておかれるが良いでしょう」

 

(つまり、今俺が持っているコミュニティ、陽介との魔術師のコミュによって魔術師のペルソナを生み出す時、さらに強い力を得るというわけか……)

 

イゴールの説明を真はすぐさま理解し、そう記憶に入れておく。とイゴールがマーガレットの方を向き、マーガレットは右手に持つ分厚い本を真に見えるように立てた。

 

「右手に見えますのはペルソナ全書でございます。お客様がお持ちのペルソナを登録されることで、それをいつでも引き出せる仕組みでございます。ご利用の際は、私にお気軽にお申し付けください」

 

マーガレットはそう説明すると一旦言葉を置いた。

 

「それと、もう一つ……今宵は、あなたの旅をお手伝いさせていただく、新しい住人をご紹介いたします」

 

彼女がそう言うとそこでようやく真は気づく。イゴールの右隣に青い帽子を被った愛想のない少女が座っている。

 

(……ん? どこかで見たような……)

 

真はその姿を見て首を傾げる。がその少女は真の方を見ようともしていなかった。

 

「……マリー?」

 

「分かってる。聞こえてる。よろしく」

 

「あ、ああ……」

 

マーガレットの言葉にマリーと呼ばれた少女はそう単語を三つ並べて挨拶を行う。それに真は頷いた後、マリーの方を見た。

 

「……どこかで会わなかったか?」

 

「……え?」

 

その言葉にマリーは驚いたように真の方を見た。

 

「ああ、そっか。そういえば会ったかも。だから見たことあるんだ。ふーん……」

 

しかしマリーはそうとだけ言うとまたうつむき、代わりにというようにマーガレットが口を開く。

 

「失礼いたしました。こちら、マリーでございます。彼女の魂は未だ幼く……」

「うるさい! 余計なこと言わないでよ!」

「……ご覧の通りでございます。ご無礼があるかもしれませんが、見習いとご理解いただいて、どうかお許しください」

 

「分かった」

 

マーガレットの言葉にマリーが叫んで口を挟み、マーガレットは僅かに困った様子でそう続けると真は彼女の願いに頷いて返す。

 

「マリーが取り扱うのはスキルカードでございます。カードを用いることで、お客様のペルソナに新たな力を与える仕組みでございます。また彼女は、お客様がここではない世界と絆を結ぶための手助けとなるでしょう」

 

「ここではない世界?」

 

「こちらは追ってマリーより、ご連絡させていただきます。ご利用の際は本人にお気軽にお申し付けください」

 

マーガレットのよく分からない言葉に真が声を漏らすとマーガレットはそう続ける。そしてその次にまたイゴールが口を開いた。

 

「フフ、覚えておいでですかな? 以前私は申しました。あなたの運命は節目にあり、謎が解かれねば未来は閉ざされるやも知れない……とね」

 

「ああ、言ってたかな?……で、どういう意味なんだ?」

 

「言葉の通りでございます。戦いに敗れる以外にも終わりはあり得る……ゆめゆめ、お忘れになりませぬよう」

 

「……気をつけておく」

 

イゴールの言葉に真は頷いて返し、イゴールは結構、と頷いた。

 

「次にお目にかかります時は、あなたは自らここを訪れる事になるでしょう。フフ……楽しみでございますな……では、その時まで。ごきげんよう」

 

その言葉を最後にまた真の視界が白く染まっていく。

 

「……あ」

 

「お帰り」

 

気が付くと、真は先ほど現れた扉の前に立っており、彼が声を漏らすとすぐ隣に立っていた命が声をかける。

 

「先輩、俺……」

 

「心ここにあらずって感じにぼーっと突っ立ってたようだったよ。僕がベルベットルームに行ってた時と同じだね」

 

真の言葉に命はさっきの真の状態を説明し、そう続けた後に「まあ僕も自分の状態は結生とかに聞いただけだけど」と付け加えておく。それに真がまさかというような表情で口を開いた。

 

「ってことは先輩も……」

 

「そう。ワイルド能力の説明は受けたかな? 僕もその能力の持ち主さ……と言っても、今は花村君のシャドウとの戦いで見せたオルフェウスしか使えないようだし、ベルベットルームに行けない今じゃはたしてその力が上手く使えるのやら……もしかしたら最悪、足手まといは僕になっちゃうかもね……」

 

真の言葉に命は頷いて説明をし、思案顔で呟く。それに真がなんともいえないような表情を見せると命はふっと微笑んだ。

 

「なんちゃってね。ワイルドが使えなくなっても一年間の戦闘経験は消えないよ。ばっちりアドバイスやサポートしてみせるさ」

 

「はい、お願いします」

 

「じゃ、僕達も一旦解散。遅れないようにね」

 

「はい!」

 

二人はそう言い合うと分かれ道でそれぞれ別れていった。

 

 

 

 

 

 

それから少し時間が過ぎ、メンバーはジュネスフードコート、ついさっき真と陽介が警察に連行される前にいた場所へと集合する。命の服装は変わっていないが高校生組は全員制服着用だ。ついでに真はタイムセールに立ち寄って今晩のハンバーグの材料を買っていたりする。

 

「制服、日曜だから、ちょっと目立つな。もうじきタイムセール終わるから、人も少なくなるはずだ……そろそろ行くか」

 

「ああ……里中、先輩が言ってたことだけど、俺達から離れるなよ?」

 

「……分かってる」

 

陽介の言葉に真は頷いた後千枝に念を押し、千枝もしぶしぶといった感じで頷く。それから彼らはテレビの世界に移動、そこにいるクマを見た千枝は驚いたように目を丸くする。

 

「わ、ホントにあん時のクマ……」

「なにやってんだ、お前?」

 

千枝が驚いた様子で声をあげ、陽介が問う。クマはうんうんと困って唸っているような動作をしているのだ。

 

「見て分からんクマ? 色々考え事してるクマ。それでクマはこんなにクマってるのに……あ、ダジャレ言っちゃった。うぷぷ……」

 

クマは悩んでいると思ったらダジャレを言って自分で笑い出し、陽介ははぁと息を吐くと真が尋ねる。

 

「それで、何か分かったか?」

 

「まあ考えても無駄かもな。お前、中カラッポで脳みそもねえだろうし」

 

真の言葉に続いて陽介がからかうように言う、とクマが陽介の前に走り寄ってだんだんと地団駄を踏んだ。

 

「シッケイな!……けど、たしかにいくら考えてもなーんもワカラヘンがねっ!」

 

「ウッサイよあんたら! くだらないこと言ってる場合っ!? クマきち、昨日ここに誰か来たでしょ!?」

 

「なんと! クマより鼻が利く子がいるクマ!? お名前、何クマ?」

 

「お、お名前?……千枝だけど。それはいいから、その誰かの事を教えてよ!」

 

千枝の言葉にクマは驚いたように声を上げた後名前を尋ね、千枝はとりあえず名乗った後そう続ける。それにクマはうんと頷いた。

 

「たしかに昨日、キミらとお話したちょっと後くらいから、誰かいる感じがしてるクマ」

 

「天城なのか!?」

 

「クマは見てないから分からないけど、気配は向こうの方からするクマ。多分あっちクマ」

 

「あっちね……皆、準備はいい?」

 

クマが一つの方を指差すと千枝が言い、それに三人が頷くと千枝は一人飛び出し、慌てて三人+クマもその後を追いかけていく。それから彼らがしばらく進んでいくとそこには古城が聳え立っていた。

 

「な、何ここ……お城!?」

 

「まさか、昨日の番組に映っていたのはここなのか?」

 

「……クマ君、あの真夜中の不思議な番組は本当に誰かが撮ってるんじゃないんだね?」

 

千枝の言葉の後に真が口元に手をやって呟き、その次に命がクマの方を見て尋ねる。それにクマが首を傾げた。

 

「バングミ?……知らないクマよ。何かの原因で、この世界が見えちゃってるかも知れないクマ。それに、ここにはクマとシャドウしかいないし、ここは初めっからこういう世界クマ!」

 

「初めからこういう世界って、それがよく分かんねえんだっつの!」

 

「じゃあキミ達はキミ達の世界のこと、全部説明できるクマ?」

 

クマの言葉に陽介が声を漏らすとクマは反撃、陽介はうぐっと声を漏らした。

 

「とにかくそのバングミってもののことはクマも見たことがないから分からんクマ」

 

「うん、そう言われてみればそれもそうだよね」

 

「でも、ホントにただこの世界が見えてるだけなの? だってそもそも雪子が最初に例のテレビに映ったの居なくなる前だよ? おかしくない? 大体、あの雪子が逆ナンとかってありえないっつの!」

 

「逆ナン?」

 

クマの言葉に命が頷き、千枝がそう言って最後にイラついたように叫ぶ。とその最後の言葉にクマが声を漏らした。

 

「たしかに、普段の天城が逆ナンなんて絶対言わないよな……あっ!」

 

千枝の言葉に陽介が賛同の声を出し、それから気づいたように声を上げた。

 

「もしかして、前に俺に起こったことと何か関係あるのか!?」

 

陽介の言葉に真と命もはっとしたような表情を見せ、それからクマが口を開いた。

 

「まだ色々と分からないけど、キミたちの話を聞く限りだと……そのバングミっての、その子自身に原因があって生み出されてる……って気がするクマ」

 

「雪子自身が、あの映像を生み出してる?……あーも、どういうこと? ワケ分かんない!」

 

クマの言葉に千枝が声を上げ、真と陽介も考え込む様子を見せる。

 

「下手な考え休むに似たり、だよ。まだ情報が少ない、そんな状態で考えてても答えが出るとは到底思えないよ。まずは落ち着こう」

 

命の言葉に真と陽介は頷いて返す、が千枝は聞いていない様子で古城を見上げた。

 

「ねえ……雪子、このお城の中にいるの?」

 

「聞いてる限り、間違いないクマね。あ、でさ、逆ナンって……」

「ここに雪子が……あたし、先に行くから!」

 

クマの言葉を聞くや否や、千枝はそう言って一人飛び出して城の中へと入って行ってしまう。

 

「お、おい里中! 一人で行くなって!」

 

思わず陽介が声を上げるが千枝は聞く耳持たずに走り去っていく。

 

「……あ! お城の中はシャドウがいっぱいクマ……オンナノコひとりは危ないカモ……」

 

「な、マジかよ! それ先に言えよ! くそ、里中を追うぞ!」

 

「ああ! 先輩、行きましょう!」

 

「うん……まったくあの子は、シャドウをなんだと思ってるんだ!」

 

クマの言葉に陽介が焦ったように言い、真も命に促すと命もうんと頷きどこか怒った様子で返す。と次にクマが真に近寄った。

 

「そだ、センセイ! これを持っていくクマ」

 

「これは?」

 

「クマが一人で集めたクマ」

 

クマが渡してきたものに真が尋ねるとクマはそう言い、それに命が口を開いた。

 

「ありがたく使わせてもらいなよ。でも時間が惜しい、僕もシャドウとの戦い方は実戦で叩き込むから、二人とも覚悟してね?」

 

「「は、はい!」」

 

命はニヤリと不敵な笑みを浮かべながらそう言い、それに真と陽介はびくりとしながら返事をする。

 

「よし、じゃあ行こうか!」

 

命はそう叫ぶと共にばさぁっとジャケットを脱ぐ。とその下には月光館学園の制服が着られており、しかも左腕には[S.E.E.S.]と書かれた腕章があった。

 

「せ、先輩、それは?……」

 

「やっぱシャドウをやりあうならこっちの方が気分が出るからね。送ってもらったんだ。まだ卒業したてだし、違和感ないでしょ?」

 

「え、ええ……まあ」

 

「あと武器もだいだら.で買った剣以外にも持参してたんだ」

 

命のふっと笑いながらの言葉に陽介が頷き、命はそう言うとリュックから所謂オールフィンガーグローブのようなタイプのナックルを取り出して両手につけ、左腰に剣の鞘を装着。さらに良く見るとベルトは改造され、ダーツの矢が装填されている。

 

「さて改めて、行くよ!」

 

「「は、はい!!」」

 

命の改めての号令に二人が声を上げて返し、四人は千枝を追いかけて古城に飛び込んでいった。




やふーっ!!! マリーちゃん登場っ! マリーちゃん登場っ!! マリーちゃん登場っ!!!
……ってなわけで、今回はゴールデンとの差異、マリーちゃん登場も含めたお話です。次回から千枝と雪子姫編ですね。ちなみに命はダンジョン探索時には月光館学園の制服で探索するという設定です……コスプレとか言わないでくださいお願いします……そっちの方がイメージが楽なんです……。

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