ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第六十一話 真犯人発覚。父親の決意

遼太郎が警察署に真宛ての脅迫状を持っていったのとほぼ同時刻、ジュネスの食料品売り場。陽介はクマと一緒に棚卸をしていた。

その際「なんで俺まで棚卸してんだよ」という愚痴にクマが「クマがあんま稼がないからしょーがないでしょ?」とどこで覚えたのか分からない台詞を言い、陽介にツッコまれるというショートコントが行われていたのは余談である。

 

「あーも、何で俺がお前養ってんだよ……ハァ……こんなん買ってやんなきゃよかったぜ……」

 

陽介はそう言いながら、ズボンのポケットに手を入れると何かを取り出してクマに手渡す。

 

「ほらこれ、持っとけ。お前用の携帯」

 

「おお……IT時代!」

 

「無いとこっちが心配だしな。つっても、子供用の安っちーやつだけど」

 

陽介はクマにいざという時の連絡手段を持たせるつもりらしく、子供用の安物のようだがクマは感動したように「ありがとヨースケ」と涙ぐんでいた。

 

「使い方はー、このマークの押して……」

 

陽介はクマに携帯の使い方を教えようとするが、口で教えるより実演した方が早い事に気づいて自分の携帯を取り出す。そのままいつものように真の携帯にかけようとアドレス帳から検索した。

 

「っと、でも真は体調崩してるし、起こしたら悪いな。完二辺りにでもかけるか」

 

しかしかけようとする寸前、真は体調を崩して寝てるはずである事を思い出す。と、クマがお菓子を入れたカゴを持ち上げた。

 

「ナナチャンとこ、遊びに行く! 遊ぶ約束、たくさんしたからね!」

 

「行かねーよ、てかお菓子戻せ」

 

クマの言葉に陽介は冷静にツッコミを入れ、「もう晩飯時回ってるだろ。今度にしろ」と続ける。

 

「……あーそっか、でもあいつ体調崩してんだよな。ってことは今日の晩飯って……」

 

「晩ご飯、差し入れに行ってみるとか! ねえねえねえねえ!」

 

「あーも、わーかったよ、しょうがねーな……」

 

「オッケークマ!?」

 

陽介は晩飯時回ってるとまで言うと真が体調を崩してるって事は食事を作る人もいないのではないかと思い当たる。真が来るまでは遼太郎が惣菜を買ってきてどうにかしていたそうだが、少なくとも今日はジュネスに遼太郎が来ていた様子はない。

彼がそこまで考えるとクマが晩ご飯の差し入れにいくのはどうかと提案し、陽介に押し押しで迫る。陽介もそれがうっとおしくなったか分かったよと答え、クマも目を輝かせた。

 

「イェスッ! ヨースケ、おっとなー! クマ、その心遣いにキュンってした」

 

「じゃ、ちょっと待ってろ。電話してみるから……携帯にかけるより家電の方がいいよな」

 

騒ぐクマを横に陽介は真の携帯ではなく彼が居候をしている堂島家へと電話をかけた。

 

[……もしもし]

 

「あ、菜々子ちゃん? お兄ちゃんは? 寝てる?」

 

[うん……]

 

「そっか。晩飯まだなら、俺達差し入れに行こうと思ってんだけど。あ、堂島さん……お父さん帰ってきてる?」

 

晩飯の差し入れなら菜々子よりもいるなら保護者の遼太郎に了解を取るべきだと判断した陽介は菜々子に遼太郎が帰っているかと尋ねる。

 

[ううん。さっき帰ってきたんだけどね、わすれものしちゃったって、またいっちゃった]

 

「あーそっか」

 

菜々子はそう正直に陽介に話し、陽介もそっかと頷きながら、忘れ物ならすぐ帰ってくるだろうし差し入れは三人分だなと思考の片隅で考える。

 

[そういえばね、お兄ちゃんとおはなしして、へんなてがみをもってった]

 

「変な手紙?」

 

すると菜々子が気になる事を言い残し、陽介が気になったようにその言葉を繰り返す。と、クマが「いいかげん、クマに代わりんしゃい!」と叫んで携帯を奪い取ると「こんばんは、あなたのクマクマー」と菜々子に話しかける。

 

「また一緒にジュース飲んだり、お菓子食べるクマよ」

 

「変な手紙……」

 

クマが菜々子と話している横で陽介は考え始め、はっとした顔になった。

 

「まさか、あの“脅迫状”!? 二通目が来たって事か!?」

 

そう声をあげ、陽介はクマから携帯を奪い取る。

 

「わ、悪い菜々子ちゃん。用事を思い出したから、切るから。お兄ちゃんによろしくな!」

 

そしてそう言い、すぐに電話を切って別のアドレスに電話をかける。

 

「ちょっとヨースケー、楽しく話してたのに何クマかー?」

 

「クマ、今この電話命さんに繋がってる! 脅迫状の二通目が届いた可能性があるって命さんに教えてやってくれ! 俺は俺とお前の早退手続きをチーフに頼んでくる!」

 

「わ、分かったクマ!」

 

ぶーぶーと文句を言うクマに陽介は真剣な表情で言い、クマがこくんと頷くと携帯をクマに押し付けて事務室に走っていく。クマも相手が電話に出るのを確認すると「センパイクマか!?」と通話を開始した。

 

 

 

 

 

時間が過ぎて深夜。大雨が降り、雷も鳴り響く外。直斗はレインコートを着込み、自分用の原付を駆って走っていた。そのサイドミラー横には自作した携帯電話ホルダーが取り付けられており、そこに置かれている携帯電話は千枝と通話が繋がっている。

 

[さっきマヨナカテレビに映ってたの、菜々子ちゃんじゃない!? どうして菜々子ちゃんが!……テレビに出たりしてないのに!]

 

「いいえ……出てたんですよ……菜々子ちゃんも。視覚的にじゃなく……“言葉”の中に」

 

千枝の慌てたような声に対し、直斗は焦りつつも冷静さを失うまいと頑張っているような声色でそう答える。

 

[えっ!?]

 

「政治家が学校訪問に来たこと、何度かニュースで流れましたよね? そこで、彼は自分と話した一人の生徒について、毎度特別にコメントを出して称えたんです。その子は匿名のまま、知名度だけ上がっていった……それが菜々子ちゃんだったんです!」

 

直斗はそう説明。「興味に反応した新聞が今日の夕刊に写真と実名インタビューを大きく出してます」と補足する。

 

「それに、狭い田舎町だ……もっと前から風の噂に知っていた人も多いでしょう」

 

[そんな……]

 

“メディアにある程度ハッキリ取り上げられ、急に知名度を得た地元民”。それが彼らが予測したテレビの中に入れられる人間の共通点。

匿名とはいえメディアに取り上げられたことに間違いはなく、そして今日の夕刊で匿名だった報道が実名に変わった。これにより菜々子は地元で急激に知名度を上げたことになる。つまり、これでテレビの中に入れられる条件を満たした。

 

「もっと早く気づけばよかった……」

 

絵で出ていないものはテレビに出ていないと思い込んでいた。探偵にあるまじき先入観にとらわれた未熟な自分に直斗が後悔に満ちた顔を見せる。

 

[ど、どうしよう……今は椎宮君が家にいるけど……]

 

「ええ。万全の状態ならまだしも、今彼は体調を崩している。下手をすれば返り討ちにあう可能性もあります……とにかく、僕が先輩の家に行って、お二人の無事を確かめます!」

 

[分かった、あたしもすぐ行く! 雪子とりせちゃんにも連絡しとくから!]

 

「はい、お願いします!」

 

直斗と千枝は話を終えると電話を切り、直斗は原付のスピードを法定速度ギリギリまで上げる。雨で何度かスリップしそうになるがなんとか持ちこたえ、直斗は堂島家へと辿り着いた。

玄関のドアは開いている。それをさっと確認した直斗は原付を降りてエンジンを切り携帯電話をホルダーから取り外すがそれ以上の時間は惜しく、原付のスタンドを立てることなく原付を倒してヘルメットをかぶったまま堂島家に飛び込んだ。

 

「菜々子ちゃん! 先輩! ご無事ですか!?」

 

声を張り上げるが反応はなく、直斗は靴を履いたまま玄関口から上がる。居間の方に人気はなく、直斗は真の自室である二階へと上がった。

 

「先輩!……いない!?」

 

しかし部屋に真の姿がない。ベッドは布団が少々荒れているがこれくらいなら起き上がった程度とみなしていい、それ以外は部屋の中に変わった様子は見受けられなかった。

 

(先輩は部屋を自分で出ていったのか?)

 

冷静に考えつつ直斗は階段を下り、居間を改めて確認。こちらも荒らされた形跡はなく、次に直斗は玄関を確認した。

 

(鍵をこじ開けた形跡はない……元々鍵が開いていたのか? いや、でもたしか……)

 

今の内に少しでも情報を収集し、推測を始める直斗。すると彼女の携帯電話が鳴り始めた。

 

「もしもし?」

 

[もしもし、直斗か!? 里中からお前が真の家に向かったって聞いたんだけど!?]

 

「花村先輩、ダメです! 菜々子ちゃんも、先輩も見当たりません!」

 

[マジかよ!? でも、菜々子ちゃんはともかくなんで真まで……ど、堂島さん!?]

 

電話相手――陽介が突然変な声を上げる。その時電話口から聞こえる声が変わった。

 

[白鐘! 俺だ!]

 

「堂島さん! 今、堂島さんの家にいます。扉が開いていて、家の中には誰もいません!」

 

[くそ、どうして菜々子が……とにかく電話じゃ埒があかない! お前も署に来い! こっちで詳しい話を聞かせてくれ!]

 

「はい!」

 

陽介から代わった電話相手――遼太郎から指示を受け、直斗も頷くと堂島家を飛び出す。

 

「直斗君!」

「どうだった!?」

「菜々子ちゃんと先輩は!? 無事!?」

 

そこに同じく原付に乗った雪子、千枝、りせが到着した。

 

「ダメです、家には誰もいません! 警察署に花村先輩が堂島さんと一緒にいます。僕達も急ぎましょう!」

 

直斗がそう言うと雪子達も頷き、直斗が原付を立て直して乗り、エンジンをかけると彼女達は直斗を先頭に警察署まで走っていった。

 

 

 

 

「とにかく今は説明してるヒマはない! 至急国道沿いに検問を張ってくれ!」

 

[えと、は、はい……一応、関係各所に連絡はしておきますが……]

 

稲羽市警察署。取り調べなどに使うのだろう一室で陽介と完二、クマ。そしてクマから連絡が来た命とゆかり、結生が揃っている中、遼太郎が交通課に誘拐事件の発生と検問の要請を行っているが、どうして誘拐と判断したのかと尋ねられると答えられなくなってしまい、電話相手の太田なる交通課の職員がそう言うと電話が切れる。

 

「さ、殺人との関係って言っても、証明できないし……署内すっかり解決ムードですから……」

 

遼太郎の隣に立つ足立が困ったように遼太郎に言う。遼太郎は検問要請の中で「例の殺人事件とも繋がっているかもしれない」と言ってしまい、それを聞いた太田からは「事件の犯人、挙がったじゃないですか」と訝し気な様子を見せられてしまっていた。

 

「堂島さん!」

 

「白鐘!」

 

するとそこに直斗を始め女性陣が入る。足立が「ちょ、なんでこんなに集まってくんのさ!?」と悲鳴を上げた。

 

「よし。白鐘さん、堂島氏の家の状況から何か分かったことを教えて! 今は当てがない、とにかく少しでも情報が欲しい!」

 

「うん。一回冷静に状況を整理しよう」

 

命がすぐさま直斗に発言を頼み、結生も状況を整理しようと提案する。

 

「はい。まず、今回の失踪は、これまでと同じ犯人による誘拐とみて間違いないでしょう」

 

直斗はまず最初に今回の失踪、誘拐事件がこれまでと同一犯であると断言する。

 

「堂島さんの家は玄関の鍵が開いていました。しかも鍵には“こじ開けられた痕跡”が無かった……」

 

「おい、そいつぁおかしいぞ。俺は真から脅迫状を預かって市原さんに鑑識をお願いしに来たんだが、その時家を出る前に菜々子が玄関の鍵をかけた事を確かに確認している」

 

直斗の発言に、遼太郎がそう矛盾点をツッコむ。鍵は確かにかかっていた。しかし、こじ開けられた痕跡はなかった。

 

「菜々子ちゃんが……自分で開けたってこと?」

 

その矛盾を解決する答えを千枝が呟き、直斗も頷く。

 

「僕らの時と同じだ。犯人は忍び込んだんじゃなく、堂々と玄関から現れたんです……呼び鈴を押して」

 

その発言に雪子と完二が反応。雪子が「私達の時と、同じ……」と呟く。なお足立は「私達の時?」と呆けた顔を見せていた。

 

「でも、お二人の時とは事情が違う」

 

だが直斗はそう話を続ける。以前、文化祭の打ち上げで天城屋旅館に泊まった時に直斗は菜々子から話を聞いていた。“一人の時は知らない人が来ても、玄関は開けない”と。

当時厳密には家には真がいたが、体調を崩して寝込んでいる彼はいないもの、実質は菜々子一人だったと考えても支障はないだろう。

 

「ああ。それは俺も昔から言い聞かせていた……だが、ってこたぁ犯人は……菜々子の知り合いだったってことか?」

 

遼太郎も直斗の発言を肯定、彼女の証言をもとに犯人像を絞り込もうとする。

 

「堂島さん、誰か思い当たりませんか? 菜々子ちゃんの知り合いでなくとも、例えば堂島さんの知り合いの中で菜々子ちゃんとも顔見知り、とか」

 

「やー、それはないと思うなぁ。堂島さん、署内で割と孤立してるし……あだっ!」

 

「いらん事を言うな」

 

直斗の質問に足立が余計な口を挟み、遼太郎から拳骨をくらう羽目になる。が、続けて遼太郎はむぅと重く息を吐いた。

 

「しかしそうだな……市原さんもここ数年菜々子とは会ってないし、顔見知りと言えば組んでるこいつぐらいのもんだろ」

 

「も、もちろん、僕はずっとここにいたけどね!?」

 

結局足立の言葉に反論は出来ず、自分と菜々子の共通する知り合いといえば足立ぐらいだと証言。足立が慌てたように署内にいたと自身のアリバイを証言した。

 

「菜々子ちゃんの知り合いってだけじゃ、絞り込めそうにないわね」

 

「そうですね……なら、切り口を変えてみましょう」

 

ゆかりが腕組みをして呟くと、直斗は切り口を変えようと言う。

 

「確かな事実として、犯人はかなり大型のテレビを使用しているはずです」

 

直斗はそもそもとして犯行に使われているテレビ、それも人が入れるほどに大型なものを使用しているはずだと話す。なお足立は「は……テレビ? なんで?」とまたも呆けた声を出している。

 

「誘拐の現場はバラバラなのに、テレビが使われるのはいずれも誘拐の直後。玄関先でと言ってもいいでしょう」

 

「つまり、犯人はテレビを携えて“移動している”可能性があるってわけか……って事は、“車”が犯行現場ってことか?」

 

現役刑事ゆえに遼太郎が直斗の言葉を待たずして推理を進める。

 

「犯行のスムーズさから見て、恐らくセダンではないある程度大きな車でしょう」

 

直斗はそこまで推理しつつ、しかしおかしい点を述べる。それは「多くは白昼堂々の犯行のはずなのに、不審者の目撃情報が全くない」こと。

 

「顔見知りで、車で移動……でも、見えない車?」

 

「偶然、誰も見なかっただけ……は、流石にあり得ないよね。これだけ繰り返してるわけだし……」

 

「見えない車って……そんなのある? 一体何?」

 

千枝とりせと雪子が首を捻る。

 

「顔見知り、車で移動……見えない車、偶然ではない……」

 

遼太郎も今までの証言で何かが引っかかったのか、うつむいて発言の内容を繰り返す。

 

「待てよ、見えない……違う。見えていても怪しまれない……」

 

そこまで呟いた時、彼は何かに気づいたように顔を上げた。

 

「そうか、宅配便の車だ!」

 

遼太郎が声を上げると同時に完二もはっとした顔になる。

 

「思い出した! 先輩らに誰か来たようなっつったけど。確かに来たッスよ、宅配! 宅配のトラック!」

 

「宅配のトラックなら、どこの家の前に止まってたって“不審”じゃない」

 

「ああ。見えないんじゃない。怪しまれていなかったから気にもとめられてなかったんだ」

 

完二が叫び、りせが呟くと陽介も頷く。

 

「そうか、ローカルな業者なら配達員が毎度同じで“顔見知り”……しかも菜々子ちゃんが留守番してる時にだけ会ってたから、僕らは知らない。堂島さん、心当たりは――」

「ああ、ちょっと待ってろ!!」

 

直斗が再び心当たりを尋ねようとした瞬間、遼太郎は部屋を飛び出していく。そして数分と経たずして戻ってきた。

 

「足立、どけ!」

 

「うわっとと!? 堂島さん、それって“一から洗い直す”って集めてた、山野アナ殺しの資料!?」

 

「ああ。お前達、これを見ろ」

 

足立をどかして資料をテーブルの上に置き、全員をテーブル周りに集合させる。

 

「これは……参考人ですか?」

 

「ああ。その内の一人が“運送業”となっているんだ」

 

直斗が資料を確認、遼太郎がそう告げると全員が遼太郎の指す資料に注目。直斗がそれを読みあげた。

 

「前職解雇の後、家業を継ぎ“運送業”……前職、“議員秘書”! 生田目太郎!!」

 

「演歌歌手の旦那か!」

 

陽介が声を上げる。第一の被害者山野真由美の不倫相手であり、演歌歌手柊みすずの旦那の生田目太郎。ここで第一の犠牲者の参考人と今回の菜々子の誘拐犯が繋がった。

 

「今は職業が一致しただけですが、行く当てを絞るだけなら充分だ」

 

「ああ。住所もここからすぐだ。足立、出るぞ!」

 

「は、はいっ!?」

 

直斗の言葉に遼太郎も頷き、相方である足立に出るぞと告げる。しかし足立は声をひっくり返していた。

 

「結生、お前も堂島氏と一緒の車に乗って。いざという時に僕達と連携を取るための連絡係になってくれ」

 

「了解!」

 

命の指示に結生が敬礼を取る。

 

「僕と堂島氏、ゆかりで先行する。皆は後からついて来て、君達の法定速度に合わせてたら間に合わないかもしれない!」

 

「分かりました!」

 

ちゃっかり命が指示を出し、遼太郎は足立を引っ張って車に搭乗、結生も後ろの席に座ってシートベルトを締め、バイクツーリング用のインカムを準備して命達と通信を繋げる。

 

「お兄ちゃん、こっちは準備オッケーだよ」

 

[うん。行くよ!]

 

「俺が先頭を行く。お前達は後からついて来い!」

 

「ってか堂島さん、一般人を連れていくって……」

 

結生が準備オッケーを伝えると命も了解を示し、遼太郎が先頭を行くと指示すると足立が至極正論を言うが無視される。そしてその言葉通り遼太郎を先頭に命、ゆかりが後を追う形で走り出した。

 

「俺達も行くぞ!」

 

その後を追いかけるように陽介達が原付を走らせる。しかしやはりスピードは段違い、あっという間に置いて行かれる結果になっていた。

 

 

 

 

 

「いなば急便……堂島さん、あれ! 生田目の実家の運送業の屋号じゃ!?」

 

「ああ……そこのトラック! 止まれ!!」

 

生田目の実家に向かう途中。いなば急便と書かれたトラックを発見した足立がそう叫び、堂島も頷くとトラックに向けて止まれと大声で呼びかける。しかしその瞬間、トラックは速度を落とすどころかまるで逃げるかのように速度を上げていった。

 

「チッ。おい足立、利武さん、しっかり掴まってろ!」

 

「え、堂島さん!? うおわっ!?」

「きゃっ!?」

 

遼太郎はそういうや否やアクセルを踏み込んでスピードアップ、いきなり揺れた車内に足立と結生は悲鳴を上げた。

後ろを走る命とゆかりも追いかけるが、生田目が乗っているだろうトラックは速度違反に信号無視と道交法違反で確実に罰則をくらうような行為を繰り返して逃げ続け、遼太郎も流石のドライビングテクニックでそれを追う壮絶なカーチェイスがスタートする。

 

「ど、堂島さぁん! このまま暴走続けてたら危険ですよぉ!?」

 

「だがどうしろってんだ!? あいつが菜々子をさらったのは間違いねえんだ!」

 

足立が悲鳴交じりに遼太郎に呼びかけ、だが遼太郎も熱くなってるのか怒鳴り返すと「待ってろ菜々子、今助けてやるからな」とトラックの荷台を見つめながら呼びかけるように呟く。

 

[……仕方ありません。僕が先回りして挟み撃ちにします。神社の先にT字路があったはずです、そこに上手く追い込んでください!]

 

と、命がインカムを通じてそう言い、遼太郎から離れて別の道へと向かう。相談している暇はなく、遼太郎もなし崩しにそれを認め、トラックを命の言う通りT字路へと追い込もうと走る。そして稲羽市の商店街を暴走、丸久豆腐店の前を通り過ぎた辺りでインカムに再び通信が入った。

 

[こちら命です! T字路に到着しました! トラックは自分が止めますから堂島氏は事故に巻き込まれないようスピードを徐々に落としてください!]

 

「と、止めるって、あの子何するつもりなんですかぁ!?」

 

「分からんが、確かにこのままだと危険だ! 今はあいつを信じるしかねえだろ!」

 

命の言葉に足立はまたもや悲鳴を上げる。このまま事故を起こせば電柱やポストに当たっての物損事故で終わるなら不幸中の幸い。しかし民家に激突すれば物だけではなく人、それも全く関係ない他人に被害が及びかねない。遼太郎も苦渋の決断でブレーキを踏み、車のスピードを落としていく。

 

 

 

 

 

「ひぃ、ひいぃっ……」

 

一方、いなば急便のトラックに乗っている男性――生田目太郎。彼は恐怖の声を上げながら猛スピードで神社の前を通り過ぎる。あまりの恐慌状態に既に後ろから追う車がないことにさえ彼は気づいていなかった。

 

「っ!?」

 

生田目は気づく。彼が行こうとする先のT字路にはバイクを停車させ、バイクにまたがった青年が立っている。いや、ただ立っているだけではない。彼はトラックに向けて拳銃を構えていた。

 

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!!」

 

青年の叫び声が響き、同時に生田目はありえないほどの恐怖を感じる。このままでは自分は殺される、死に誘われる、という恐怖。同時にガァンと銃声のような、それでいてガラスが割れるような音が聞こえ、生田目は「ひいぃぃっ!」と悲鳴を上げるとサイドブレーキを上げ、一気にブレーキを踏み込んでハンドルを右に回す。しかしその瞬間タイヤがスリップし、トラックはぐるんと大きくスピンした。

 

「くっ!!」

 

銃を構えていた青年――命も咄嗟にバイクを走らせ、その場を離脱。同時にトラックが先ほどまで命がいた地点の後ろにあった壁に激突、その勢いで停止した。命のバイクは急発進からの急ブレーキでざざざっと滑りながら停止、急ブレーキとはいえ安全第一の停止を行ったためトラックからは大分離れてしまったがすぐUターンをかけてトラックの元へと戻った。

 

 

 

 

 

「おい……なんだあれ、煙出てんぞ!?」

 

自転車で最後尾を走る完二が声をあげ、その大声に気づいた全員が原付を止めて完二が指差す方を見る。そこには確かに明らかに異常な煙がもくもくと出ていた。

 

「事故!?……」

 

「もしかして……嫌な予感がします! 煙の方を調べてみましょう!」

 

陽介が煙から連想したのか声をあげ、直斗が指示を飛ばす。それを全員が了解して煙の方、丁度小西酒店の辺りくらいだろう地点に走っていった。

 

「あ、堂島さん!」

 

「お前達、速かったな!」

 

陽介が声をあげ、遼太郎もはっとした顔になって呼びかける。

 

「うわ、ひどい事故!?」

 

「皆、生田目氏を探して! この辺にいるかもしれない!」

 

千枝が壁に激突しているトラック――煙もそれから出ていた――を見て悲鳴を上げ、そこに命から指示が飛ぶと全員が引き締まった表情になって辺りを見回す。

 

「白鐘、お前は俺と一緒に現場検証を頼む! 今は雨が止んでるが、また振りだしたら保存どころじゃない。一刻を争うぞ! 足立、お前は生田目探しの応援を呼べ!」

 

「分かりました!」

「りょ、了解っす!」

 

遼太郎からも指示が飛び、直斗は頷いていつも持ち歩いているのだろう現場検証用らしき手袋を着用しながら遼太郎の元に走り、足立は携帯電話を取り出して応援を要請し始める。陽介や千枝達も辺りを見回しながらトラックへと近づき、トラックの中を見た千枝が「あっ!」と叫んでトラックの荷台を指差す。

 

「見て、ほんとにテレビあるっ!」

 

「おう。このくらいのサイズなら俺達も、完二だって入りそうだな……」

 

千枝が叫び、陽介もトラックの荷台に不自然に置かれていた巨大な薄型テレビを見てこくりと頷く。

 

「はい。それと、運転席に日記帳がありました。多分生田目が書いたものでしょう」

 

するとトラックの運転席から出てきた直斗がそう言い、日記帳を開く。

 

「“僕は、新世界の存在を知った。なら僕は、人を救わなければならない”」

 

「“救う”だぁ? んだそりゃ?」

 

直斗が読み上げた一文に完二が呆けた声を出す。直斗も訝し気な表情を見せながらページをめくり、そこではっとした顔になった。

 

「これは!……被害者たちの現住所!」

 

山野真由美、小西早紀、と被害者を読みあげていく。さらに天城雪子、巽完二、久慈川りせ。未遂で助かって世に出なかった三件目以降の被害者もちゃんと書かれている事を直斗は確認、そこで彼女は顔を上げる。

 

「そして、諸岡先生の住所は書いてない」

 

「すごい……そりゃ決まりだよ!」

 

直斗の言葉を聞いた足立が声を上げる。直斗はさらにページをめくった。

 

「最後の日付は今日だ……“こんな小さな子が映ってしまうなんて。この子だけは、絶対に救ってあげなくては”」

 

「それ……菜々子ちゃん!?」

 

直斗が読み上げた内容に千枝が叫ぶ。直斗はさらに一ページめくった。

 

「“なんとか入れてあげる事が出来た。最近、警察が騒がしい……この日記も、恐らくこれが最後になるだろう。やれるだけの事はやった……”」

 

「間違いない……今までも全部同じ手口でやったんだ。宅配の振りして、堂々と玄関から来て、すぐ荷台のテレビに放り込んで……犯人は生田目だ!」

 

さらに直斗が読み上げた内容を聞いた陽介が犯人は生田目だと断じる。

 

「菜々子ちゃん追っかけないと!! ここにテレビあるんだし……」

 

「ま、待って待って、変なトコに繋がってたら危険クマよ!」

 

そう叫び、千枝が荷台のテレビに突っ込もうとする。しかしそれをテレビの中の世界に一番詳しいクマが止めた。

 

「明日は霧じゃないみたいだし、いつものやり方で、明日から行った方がいいクマ!」

 

「けどよっ!」

 

「私達が失敗したら、誰が菜々子ちゃんを助けるの!?」

 

クマの言葉に一刻を争うというように完二が反論しようとするが、それにりせがいち早く反論する。

 

「菜々子ちゃんの救出は明日以降、最優先で。生田目の行方は警察に任せましょう」

 

そして直斗がその場の結論を述べる。それから学生の彼らが真夜中うろついているのを応援に来る警察に見られたら厄介な事になるため、残りは遼太郎と足立に任せて彼らは家に帰っていった。

 

それから翌日の日曜日。ジュネスのフードコートに自称特別捜査隊メンバーは勢揃いをしていた。その全員の表情からいつも以上の気迫を感じる。

 

「菜々子ちゃん、向こうにいるんだよな?」

 

陽介の確認に、先ほどテレビの世界に入って中を確認したクマが「間違いないクマ」と頷く。

 

「生田目は警察が追っているはずですから、僕達は菜々子ちゃん救出だけを考えましょう」

 

直斗が方針を口にすると千枝が「あたしらにしか、できないもんね」とやる気満々に言い、りせも「ていうか、私達がやらなきゃ」と続く。

 

「途中で何度も無理かもって思ったけど、とうとう犯人まで辿り着けた。ここまで来て菜々子ちゃんを犠牲になんて、絶対させない!」

 

「ああ……いよいよシメだ……やってやろーぜ、俺らの力でよッ!」

 

雪子と完二が声をあげ、それに全員が同じ思いを共有しているように頷く。

 

「クマ、ナナチャンと約束したクマよ! また遊ぼうって……だいじょぶだからって……クマ、約束したクマよ!」

 

クマの言葉に結生がこくり、と小さく頷いた。

 

「うん。ちゃんと助け出せるよ」

 

「それに、堂島さんのためにもね」

 

「ああ。僕達は、とにかく“今やれることをやるだけ”だ。そしてこれは、“僕達にしかできない”」

 

結生、ゆかり、命がそう締める。

 

「大丈夫、こんだけ気合入ってんだから、結果はついてくるって!」

 

「やり方は今まで通りだ。なんも変わらない」

 

千枝と陽介もそう言う。やるべきことは次の霧の日までに菜々子ちゃんを見つけて取り戻す。いつも通り、焦らず慎重に行くだけだ。そう言い、互いに顔を見合わせるとこくんと頷く。そしてテレビの中に行こうと席を立った。

 

「おう、ここにいたか」

 

『!?』

 

そこに突然聞こえてきた声に全員が驚いて声の方を見る。そこには遼太郎が立っていた。

 

「ど、堂島さん!? なんでここに、生田目を追いかけてるんじゃ……」

 

「そっちは足立に任せてきた」

 

陽介が慌てたように尋ねると、遼太郎は静かにそう言う。

 

「頼む……俺も一緒に連れていってくれ」

 

そして彼は深く頭を下げ、そう自称特別捜査隊へと願い出ていた。

 

「菜々子は……俺の、生き甲斐だ……あいつを失くしちまったら……生きてる意味なんかない……」

 

遼太郎は噛みしめるように、苦しげに、そう声を吐き出す。

 

「あの子は……今この瞬間も……怖い思いして……助けを待ってる……もし菜々子に何かあったら……俺ぁヤツを……生田目を絶対に許さないッ!」

 

ぎゅうっと握り締めた拳は、菜々子を危険に晒している生田目への怒りと同時に、偉そうに父親面をしていて娘一人守れなかった己の無力を悔いているのだろう。

 

「だが、お前達には菜々子を救う力がある……それと同じ力を俺も持っている今……黙って待っているなんて出来ない!」

 

遼太郎は顔を上げる。その目には静かな、それでいて強く熱い思いが宿っている。

 

「頼む! 俺も一緒に連れていってくれ!!」

 

そして彼は再び頭を下げた。

 

「……分かりました」

 

「ちょ、命さん!?」

 

それを命が了承。陽介が慌てたように声を出す。

 

「気持ちは分かるよ。家族が危険に晒されていて、でも自分に何も出来ない無力感はね……」

 

そう言う命の横で結生も寂しげな目を見せながら小さく頷いた。

 

「幸い武器なら真君が使ってたものがあるし。堂島氏は刑事だ、剣の心得くらいはあるでしょう?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「ペルソナもあるし、護身が出来ればそれで充分です。ただし無茶はしないでくださいね」

 

「……感謝する」

 

命が決めてしまえば陽介達も反論は出来ず、遼太郎を仲間に入れて改めて彼らはテレビの中へと入っていった。




皆様お久しぶりです。本当にお久しぶりです。
ここまでは数ヶ月前から書けていたんですが、次回以降の天上楽土での戦闘シーンが上手く仕上がらなくてストック状態になってました。
そして今日で今年も終わりとなりますし、今年書けていた分は今年の内に投稿してしまおうと思い後先考えずに投稿いたします。

次回は天上楽土編。先ほど申し上げた通りここからが難産中です。今回の堂島さんペルソナ覚醒というオリジナルに応じた展開やこの後の伏線などを含めたオリジナル展開をここで一気に仕上げなきゃいけないので……。
投稿が大分遅れることになるかもしれませんが、気長にお付き合いいただければ幸いです。

では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。
そして、よいお年を。それでは。

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