ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第六十話 永劫との恋情、第二の脅迫状

11月1日、放課後。真は学校の帰り道に商店街を散歩していた。

 

「あ……」

 

すると突然そんな消え入りそうな声が聞こえ、真は声の方を向く。

 

「マリー」

 

「ん……」

 

消え入りそうな声を出した相手――マリーに真が声をかける。と、マリーは少し気まずそうに目を逸らした後、ゆっくりと真の方に歩き寄る。

 

「あのね……この前、ごめん……なさい」

 

「気にするな」

 

「……誰もいないトコで話したい」

 

「分かった」

 

マリーは以前真に酷い事を言った事を謝り、彼女の希望する静かな場所に移動しようと真がマリーの手を引いて歩き出す。それから二人は高台まで上がってきた。

 

「……ホントはね、怖いの。何も覚えてないから……私って、全部借りもの……全部……あの部屋から、ただ借りてるだけ」

 

マリーはそう呟き、落ち込んだようにうつむく。

 

「借りてる物返したら、私には何も残らない……マリーって名前も、この姿も、この声も……いつか消えてなくなっちゃう……そんな気がするの」

 

そこまで話し、マリーは真を見る。

 

「だからさ……せめて記憶、思い出せたらって、思った。でも……何も分かんなくて。そういうの、凄く怖い……」

 

そう言ってマリーは真に背中を向け、不安になったのか真はマリーの近くまで歩き寄る。

 

「私の記憶なんて、ホントは何処にもないのかもね……」

 

「マリー……顔を上げてみろ」

 

マリーの不安そうな言葉に対して真はそう促し、マリーは顔を上げる。

 

「綺麗……」

 

そこに広がるのは高台に臨む八十稲羽の景色だ。

 

「ね……ここってあそこ? ビーフーテーキー? 串のヤツ。あれ食べてから来たトコ」

 

「ああ」

 

「やっぱ懐かしい……なんでだろ、私ずっと昔からこの景色、知ってた気がするの」

 

マリーの質問に真は柔和に微笑みながら頷き、マリーは懐かしそうにそう呟く。

 

「ね、あの時楽しかった。また連れてってよ……ね?」

 

「覚えてるじゃないか」

 

「ばか、きらい、さいあく。当たり前じゃん、そんなの覚えて……」

 

マリーの言葉に真がイタズラっぽく微笑みながら返すとマリーは頬を膨らませて悪態をつく。だがその言葉は途中で止まり、彼女ははっとした顔になっていた。

 

「そっか……これ、“記憶”だ。キミと作った、私の記憶……」

 

「他にもあるだろ? 皆と行った海水浴、俺との夏祭り、それにジュネスでの演奏」

 

「うん……覚えてる。はは、バカみたい……何か……凄いね」

 

真の言葉にマリーは笑い、何かを思い出すように目を伏せる。それからマリーは真に向き直した。

 

「ね、これからも増やせるかな? 私の記憶……」

 

「ああ、協力するよ」

 

「バカ……当然だよ」

 

マリーの言葉に対し、真が頷くと彼女は頬を赤く染めながらそう答える。

 

「キミがいなきゃ作れないよ……」

 

消え入りそうな声でぼそりと呟くマリー。それから彼女はうんと頷いた。

 

「……焦らなくていいよね。記憶がなくったって、作っちゃえばいいんだ。はは、ありがと……ごめん、嬉しいや」

 

笑顔でそう言うマリーは元気を取り戻したらしく、真は彼女との仲が深まった気がする。と考える。

 

「でもさ、やっぱりキミって変人」

 

するとマリーが相変わらず失礼な事を真へと言った。

 

「忙しいくせに、ずっと私の世話、焼いてるよ……なんで、そんな事するの?……なんで?」

 

マリーはそう、潤んだ目で真へと問いかけ、真も何故自分がマリーの世話を焼いていたのかと考える。最初はマーガレットに押し付けられ、困っている人を見捨てるわけにもいかないから彼女の相談に乗っていた。だが記憶がないという彼女は様々なものに無邪気な反応を見せており、たまに我儘も言うがそれさえも受け入れてしまっていた。それはなんでなのか、と、真は考え、マリーの笑顔を思い出すと結論が出たのか微笑んだ。

 

「好きだから」

 

「嘘だよ、そんなの……言葉だけじゃ、信じらんない」

 

真はマリーにそう気持ちを伝える。だがマリーは顔を真っ赤にしながら、ぷい、とそっぽを向いてそう返す。

 

「……仕方がないな」

 

そう呟き、真はマリーに近づくと彼女を優しく抱きしめる。

 

「……驚かせないでよ、バカ。嫌いだよ、キミのそういうトコ……ホント、嫌い……嫌い……だったのに」

 

マリーの鼓動が真へと伝わってくる。

 

「……また増えたね……記憶」

 

と、マリーは顔を上げ、真に向けて微笑みかける。

 

「ね、もうちょっとこうしてて。私が……忘れないように。いいでしょ?」

 

「ああ」

 

マリーの言葉に頷き、真はマリーを優しくしかし強く抱きしめる。高台で抱き合うその姿を太陽が照らし出していた。

 

 

 

 

 

それから翌日。登校している真に「せ~んぱいっ」と声をかけてりせが駆け寄ってくる。

 

「おはよ、先輩」

 

「ああ、おはよう」

 

りせの明るい笑顔での挨拶に真も微笑を浮かべ、返す。するとりせはさらに楽しそうに微笑んだ。

 

「先週は楽しかったね。文化祭に、みんなでお泊まり!」

 

彼女は嬉しそうに「私、そういう体験もうないだろうって思ってた」と語る。

 

「あ、けど予報見た? 週末からまた天気崩れ出すみたい」

 

だが切り替えはしっかりしており、天気が崩れ出すからマヨナカテレビは要チェックだと真に言う。

 

「しばらく晴れ続きだったからな……意外なものが映るかもしれないな」

 

「うん。世間は解決ムードだけど、真犯人、まだ捕まってないんだもんね」

 

互いに事件解決への思いを共有し、二人は学校へと歩みを進めていく。

 

「あ、ところで先輩。今日暇?」

 

「特に予定はないが……」

 

「じゃあさ。沖奈市で今見たい映画やってるんだけど、一緒に見に行かない? ローマの有休って言って、有休中に偶然出会った主人公と王女との騒動を描いたラブストーリーなの!」

 

「ああ、えっと……」

 

つい昨日マリーとのラブロマンス的なイベントをこなした次の日にというのはどうかなぁと真は己の良心と戦う。

 

「ね、いいでしょ? 一人で映画って寂しいし」

 

「……分かった」

 

しかし直後、りせから笑顔での誘いを受けるとまあ友達と遊ぶだけだし、いいか。と真は自分を納得させて了承するのであった。

 

そしてその日の放課後。一旦帰って私服に着替えた後、真とりせは原付で沖奈市までやってくると映画館30frameでイチオシ映画、ローマの有休のチケットを二人分買い、映画館に入る。美しいローマの街で繰り広げられる優雅なロマンスはラブストーリー系の映画に特に興味のなかった真でも胸がときめくような出来だった、

 

「う~ん、さいこー!」

 

映画が終わり、りせが満面の笑顔でそう叫ぶ。

 

「名作のリメイクって原作に及ばない事が多いけど、これはよかったかも!……ローマかぁ。ヨーロッパの町って、なんかもうただカメラ回してるだけで絵になるよね……」

 

「ただ単に俺達が見慣れてないからじゃないのか?」

 

「……先輩夢がないなー」

 

うっとりとした顔のりせに真がふとそう呟くと、りせは途端にジト目に頬を膨らませながらそう呟く。それに真も苦笑を浮かべた。

 

「変な事言ったな。悪かった」

 

「別にいいよ。それより一緒に来てくれてありがと、やっぱこういうラブストーリーを一人で見るって居心地悪いから」

 

そういえば映画を見ていたのはやけに男女の二人組が多かったような気がする、と真は今更ながら思い返した。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

「そうだな」

 

しかしそこの真意を考える前にりせが帰ろうと言い、真も頷くと二人は原付の駐輪場へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

それから数日過ぎて11月4日になる。

 

「っくしゅ!」

 

教室内で突然真がくしゃみを出し、咄嗟に手で口を押さえる。

 

「だ、大丈夫? 風邪?」

 

「いや、ただくしゃみが出ただけだと思うが……」

 

隣の席の千枝が心配そうに声をかけると、真は偶然じゃないかと答える。

 

「そうかもしれないけど、無理すんなよ?」

 

「うん。椎宮君、色々頑張ってるし。知らない内に疲れが溜まってるのかも」

 

「ああ、すまない……へ、っくしゅ!」

 

陽介と雪子が心配そうに声をかけ、真もそれに頷いて返すのであった。

それから時間が過ぎて放課後になり、真は陽介達から無言で「体調悪いかもしれないんだからとっとと帰れ」の視線を受け、下手したらまた事件が起きた時のためのマヨナカテレビ探索用の資材調達さえも肩代わりされそうになったため、今日は部活もないので観念してそのまま家へと直帰する事にした。

 

「お父さん、おそいな……」

 

夜中に時間が移り、外が雨の中、テレビを見ていた菜々子がふと呟く。すると突然玄関からぴんぽーんとインターホンの音が聞こえてくる。

 

「お父さん、カギ忘れちゃったのかな?」

 

防犯のため普段から玄関には鍵をかけるようにしている堂島家。菜々子は玄関に向かうと鍵を開け、応対。するとすぐに戻ってきた。その表情は浮かないものだ。

 

「ハイタツの人だった。高橋さんちどこですかって……」

 

残念そうにそう呟いた直後、今度は家の電話が鳴り始める。すぐ近くに立っていた菜々子がすぐに電話を取った。

 

「もしもし、ドウジマです。あっ、お父さん!」

 

電話相手は遼太郎らしく、菜々子の顔がぱっと明るくなる。

 

「うん……分かった。うん、お兄ちゃんがいるし。菜々子は大丈夫だよ。お仕事頑張ってね、ばいばーい」

 

菜々子は少し残念そうな顔になりつつも父親に頑張ってねとエールを送り、電話を切る。

 

「お父さん、あした帰ってくるって」

 

「そっか」

 

菜々子からそう聞き、真もこくりと頷く。

 

「っくしゅ!!」

 

直後また真の口からくしゃみが出た。

 

「お兄ちゃん、寒いの?」

 

「ああ、いや……そうかもな」

 

菜々子が心配そうに声をかけ、真が苦笑しながらそれを肯定する。

 

「コタツ、出そっか? さむかったら出しなさいって、お父さん言ってた。あったかいよ!」

 

「分かった」

 

菜々子は寒いならコタツを出そうと言い、真も頷くと立ち上がり、菜々子に教えられて押し入れからコタツを出すと卓袱台があったところにコタツを置き直し、コタツに入る。

 

「スイッチ、入れるよ」

 

菜々子は嬉しそうに言ってコタツのスイッチを入れる。しかしコタツに何の反応もなく、カチカチと何度かスイッチを入れ直すがうんともすんとも言わなかった。

 

「つかない。こわれてるね」

 

「今度、新しいのを買いに行こうか」

 

しゅんと、がっかりした様子の菜々子に真がそう尋ねる。すると彼女の顔はすぐにぱっと明るくなった。

 

「え、買うの? ジュネス? やったー! こんどのお休みの日、ジュネス行こ!」

 

「ああ。約束だ」

 

明るい表情で無邪気に喜ぶ菜々子に真も微笑んで頷いた。

 

 

 

 

 

「……」

 

稲羽市警察署。遼太郎は先ほど家に電話をかけた後、喫煙室で煙草を一服し終えて喫煙室を後にする。

 

「おう、遼太郎」

 

「市原さん」

 

喫煙室前、突然彼を呼び止めた男性――遼太郎よりも一回りは年上だろう、皺が少々目立つが穏やかそうな壮年という印象だ――に遼太郎が言葉を返す。

 

「丁度よかった。今お前さんを呼びに行こうとしてたとこだったよ」

 

からからと笑う壮年の男性――市原。相手の緊張をほぐすような笑いだが、これでいてかなりの切れ者である彼を知る遼太郎もはははと笑いを返す。と市原は真剣な表情になり、声を潜めた。

 

「少し前に頼まれた鑑識の件だが、結果が出たぞ」

 

「本当ですか!?」

 

彼の言葉に遼太郎もそう聞き返す。真とマヨナカテレビの件で協力を決めた少し後、彼から実は脅迫状を送られていた事を聞き、市原に個人的に鑑識を依頼していたのだ。表向きの理由としては「消印も何もなしに送られてきた脅迫状で、もしも家に何か危害を加えようとしているとしたら菜々子が心配だ。何か手がかりを見つけられないだろうか」というもの。市原もそれこそ彼女が生まれた頃から知っている菜々子(なおここ数年会っておらず、菜々子からは覚えられているかも怪しい)には少々甘いところがあるため「仕事が空いている時でよければな」と快諾していた。

 

「結果から伝えるとだな。封筒と手紙から検出された指紋からは、前もってお前さんから提出されたもの以上の指紋は出てこなかったな」

 

「そうですか……」

 

市原の言葉に遼太郎も気落ちした様子で呟く。提出された指紋、それは自分以外に真と菜々子、あとは彼が封筒や手紙を見せたという陽介達いつもの学生メンバーのものだ。すると市原は呆れたようにため息をついた。

 

「というよりもだ。受け取ったっつうお前さんの甥っ子は何を考えてるんだ? 脅迫状を不特定多数に回し読みさせて。まあ、イタズラだと思うのもしょうがねえかもだがな」

 

「す、すみません……」

 

市原の注意に遼太郎が頭を下げる。あらかじめ陽介達の指紋が出るだろう事を説明する際に「受け取った甥がイタズラだと思って笑い話の種に友達に見せて回ったそう」と言い訳していた。市原はまったくと悪態をついて腕を組み、ふんと鼻を鳴らすと再び真剣な顔を見せる。

 

「まあ、鑑識の立場から言わせてもらえば。お前さんの甥っ子やその友達によるイタズラって線を除けば……この手紙を送った人間は相当どころじゃなく用心深いって事だ」

 

パソコンを使っているため筆跡からの特定は不可能。使用しているインクや手紙、封筒の用紙も近所の文具店で売っているような珍しくもない品。出所を探ることも難しい、というのが市原鑑識官の見解だった。その上髪の毛などの物的証拠も一切残していない事も彼がその結論を出す裏付けとなっている。

 

「とりあえず。俺から言えるこたぁ菜々子ちゃんや甥っ子の周囲に気をつけて安全を第一に考えろ、って事ぐらいだな。無論、お前さん自身もだが」

 

「ええ。わざわざありがとうございます」

 

市原の結論に遼太郎もわざわざ鑑識に時間を取ってくれた彼にお礼を述べる。

 

「なぁに、お前さんとはひよっこの頃からの付き合いだからな。これぐらいの我儘は聞いてやるよ……何より、お前さんが()()()()よりも優先してくれって言ったからな」

 

市原はニヤリ、と笑ってそう告げる。あの事件、それは遼太郎の妻である千里のひき逃げ事件。市原にはこの事件についても協力をお願いしていたが、今回はそれの鑑識よりも今回の脅迫状の鑑識を優先するよう遼太郎はお願いしていた。

 

「お前さんがあの事件を血眼になって追いかけてるのを俺ぁよく知ってる。それを後回しにしてでも、ってのが嬉しかったわけよ」

 

「ええ……もちろん、あの事件を追いかける事を諦めたわけではありません。俺は刑事(デカ)としてあの事件を追う。だけど、それを理由に菜々子から逃げる事はもうやめました。俺は父親として、菜々子と向き合う。そう決めましたから」

 

「ふっ……いい目をしてんぜ、遼太郎。さ、仕事に戻んな。俺ぁ一服してから戻るからよ」

 

「はい」

 

市原はふっと笑うと喫煙室に消え、遼太郎ももう一度市原にぺこりと礼をすると部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

視点が変わり、時間が過ぎて真夜中。真は自室で、外で雨が降っているのを確認してからカーテンを締めテレビの前に立つ。そして少し待つと電源の点いていないテレビがざざざ、という雑音と共に映り始める。真はその砂嵐の中に人影を見つけた。

 

(……いつにも増して不鮮明だ。性別の見分けすらつかない……)

 

しかし人影はいつにも増して不鮮明。普段なら背格好から性別の見分けくらいはつくのだが今回はそれすら出来なかった。これといった手がかりを入手する事も出来ずにテレビは消えていく。真は無言で立っていた後、携帯電話を取り出すとある番号にかける。

 

[おい真、お前体調悪いんなら無理すんなって言ったろ?]

 

「マヨナカテレビを確認するぐらいの余力はある。それより陽介、テレビは見たよな?」

 

電話の相手――陽介は開口一番呆れたように、しかし真を心配した様子でそう注意し、対する真はマヨナカテレビの確認ぐらいは出来ると言い返してから本題に入る。

 

[ああ、エラいボンヤリしてたけど、今確かに人映ったよな?]

 

陽介は人が映ったと情報を共有。悔しそうに、また事件起きちまうのかと呟く。

 

[とにかく、明日集まれるか? 今日のはいくらなんでもボンヤリ過ぎて推理も何もない。心当たりとか情報交換しねえと話が進みそうにないぜ?]

 

「ああ、分かった。また明日な」

 

明日集まろうという事に決め、真は電話を切ると今日はもう眠りについた。

 

 

 

 

 

それから翌日、11月5日の放課後。あいにく今日は終日雨の予報で少なくとも今は雨は土砂降り。屋上で話し合いをするには向かない天気であり、そもそも命達も会議に参加するには屋上は不適当。全員揃ってジュネスのフードコートに集まっていた。だがその中に真の姿はない。

 

「にしても相棒……余力はあるとか言っといて朝起きたら学校休むほどの高熱はねえだろ……」

 

「あはは……」

 

「でも、椎宮君も脅迫状やら何やらで負担はかかってたんだし。仕方ないよ」

 

「まーな。俺も真を責めるつもりはねえよ……」

 

陽介は今朝「すまん、風邪引いたみたい」のメールを受けて椎宮真本日欠席の旨を学校に伝えたが、体調悪いなら無理するなと警告したにも関わらず完全に体調を崩した彼に呆れた様子を見せる。千枝もそんな彼に苦笑を見せ、雪子も苦笑しつつ彼を擁護。陽介も真を責める気はないと言って話を打ち切った。

 

「さて、会議を始めようぜ。まず全員、マヨナカテレビは見たよな?」

 

全ての前提となるテレビを見たか、とまず陽介は確認する。

 

「マヨナカテレビ……皆さんに言われて、僕も見てみました。探偵業の僕が、まさかこんな“迷信”に目を凝らす日が来るとは……驚きです。人影……確かに映りましたね」

 

マヨナカテレビ初体験の直斗が、現実主義であるべき探偵の自分が、根拠が解明されていない迷信に目を凝らすとは思わなかったと困惑の様子を見せる。

 

「あれ、誰だか分かったって人、居る?」

 

「流石に無理っしょ、画面あんなザラザラじゃ」

 

陽介が確認するように誰か分かった人はいるかと尋ねると、完二が不鮮明過ぎて分からないだろと返答。

 

「誰か、最近テレビに出て地元で有名になった人は?」

 

次に発言するのは雪子。テレビに映った人が何者か直接分からなくとも、映るには一定の理由があるのも分かっている。そこから逆算して誰が映ったのかを突き止めるというわけだ。

 

「すぐには思い当たりませんね……」

 

それに直斗が口元に手を当てて考え込む様子を見せながらそう前置き。その上で「政治家が一人、霧からくる風説を鎮めるために稲羽市に来た」というニュースがあったことを告げる。

 

「ですが、可能性は低いでしょう。第一、すぐに中央に帰りましたし」

 

しかし地元の人間ではない上にすぐ中央に帰った事から可能性は低いと結論付ける。

 

「むむむ……」

 

「ん? どうした?」

 

するとクマが声を漏らし、陽介がどうかしたかと声をかけた。

 

「そう言やお前、昨日は売り場のベッドで爆眠した罪で、深夜棚卸しの刑だったっけか」

 

と、陽介は思い出したようにそう呟き、マヨナカテレビを売り場のテレビでちゃんとチェックしたのか尋ねる。そんな陽介の質問にクマは憤慨、ちゃんと確認したと反論する。

 

「クマが見るに……映った人、体格、細っこくなかった?」

 

「いやー、あんだけボンヤリで体格も何もないっしょ? 気のせいだって。もしくは寝オチか」

 

クマの言葉に千枝は呆れた様子でそう返し、それよりもとテレビの中に人はいないか確認する。

 

「それはナシ。まだ誰も来てないよ?」

 

「もう一晩、様子見るしか無いかも」

 

千枝の質問にクマが首を横に振り、結生がそう呟く。

 

「そうね。幸い、この雨は今日も夜まで降り続くみたいだし。今夜も忘れずにチェック、それしかないわ」

 

結生の言葉にゆかりも賛同。現状ではこれ以上進める事も出来ないためそれを最終結論として今回の話し合いは終了となった。

 

「さてと、真君にはどうする?」

 

「あー、寝てたら電話で起こしても悪いし。後で俺が“今夜もマヨナカテレビを見る事になったけど、お前は無理せず寝てろ”とでもメールしときます」

 

「お願いね」

 

命が真への連絡を考えると陽介が後でメールしときますと返答、命も異存はないのかお願いと返した。

 

「あ、じゃあ皆で先輩の家にお見舞いに行かない?」

 

「や、起こしでもしたら悪いっしょ? あんま気を遣わせるのもどうかと思うしさ」

 

りせは真を元気づけるためお見舞いを提案、しかし千枝が真を起こしたら悪いしと反論した。

 

「まあ、今日一日様子を見て、明日も体調が悪そうだったらにしよ」

 

「はーい」

 

結生が折衷案を考え、りせもそれに同意。そしてこの場は解散となった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

時間が過ぎて夜。遼太郎は仕事が一段落し、家に帰っていた。

 

「しかしコタツが壊れてたとはなぁ……最近は気候も変だし、真も体調を崩したみたいだからな……真が元気になったら皆で買いに行くとするか」

 

遼太郎は真からメールでコタツが壊れていたこと、菜々子がジュネスに買いに行くのを楽しみにしてること、そして自分が体調を崩して今日は学校を休んでいることを伝えられ、最近の不安定な気候で自分や菜々子まで体調を崩す前に新しいものを買おうと決めながら家の門をくぐる。

 

「ん?」

 

と、遼太郎はポストに郵便が来ているのに気づき、ポストから一通の封筒を取り出す。近所の文具店で売っているような変哲もない無地の封筒、宛名は「椎宮真サマ」とパソコンで印字されている。しかし差出人の名前や住所はなく、さらに消印や切手もない不審な封筒だ。

 

「こいつぁ、まさか……」

 

ほんの昨日、全く同じ不審な封筒の話になった。そこにこれと遼太郎は表情を変え、家に入っていった。

 

「お父さん、おかえりなさーい!」

 

「ああ、ただいま。菜々子……真はどうしてる?」

 

「えと、お兄ちゃんはへやでねてるよ。さっきね、菜々子がおみずかえてあげた!」

 

「そうか。えらいぞ、菜々子。俺はちょっと真と話があるから。あいつが元気になったら、皆でコタツ買いに行こうな」

 

「うん!」

 

遼太郎は菜々子とそう話し、コタツを買いに行くと直接約束。嬉しそうに笑う菜々子の頭を撫でると二階の真の部屋へと向かった。

 

「真、起きてるか?」

 

「ああ、叔父さん。お帰りなさい」

 

部屋に入り、綺麗に片づけられている部屋の奥のベッドで横になっている真に声をかける。それに真は返答し、右手で今は額に乗っけられている濡れタオルを押さえながら起き上がろうとするが、遼太郎は「そのままでいい」と制してベッド脇へと足を運び、彼を寝かせる。

 

「調子の悪いところにすまないが、お前宛の手紙だ。おそらく、前に届いたヤツと同じ物だと思うが……」

 

予想が的中する可能性は高いとはいえ一応真宛ての手紙であり、遼太郎が勝手に中身を検めるわけにもいかない。真は遼太郎から受け取った封筒を開け、中身を確認した。

 

「!?」

 

中身の手紙には以前のものと同じく、パソコンで打った文字でたった一文だけが印刷されている。

 

コンドコソ ヤメナイト ダイジナヒトガ イレラレテ コロサレルヨ

 

それは遼太郎の予想通り、二通目の脅迫状だった。

 

「叔父さん、この前と同じ脅迫状です」

 

「やっぱりか……真、念のため聞くが心当たりはあるか?」

 

「……いえ。今日は一日中家にいましたが、流石にずっと寝てたら……」

 

「そう、だな……すまん。この手紙、鑑識に出してもいいか? あまり期待はできんが……」

 

「はい、お願いします」

 

遼太郎は一応真に心当たりがないかと尋ね、学校を休んで一日家にいたものの寝ていたため分からないと答える真に謝ると、二通目の脅迫状を鑑識に出すことを提案。一通目の脅迫状の鑑識結果からあまり期待はできないものの、やらないよりはマシだという彼に真も同意した。

 

「じゃあ、行ってくる。お前は休んで万一に備えてくれ……そうさせないよう、努力はするが」

 

「はい」

 

遼太郎は立ち上がると部屋を出て行き、真も目を閉じると今自分に出来る事である、一刻も早く体調を万全にし、犯人を捕まえられる状態にするため眠りについた。

 

 

 

「菜々子、お父さん忘れ物をしちまった。少し取りに行ってくるから留守番、よろしくな。俺が出たらすぐに家の鍵を全部かけるんだ、いいな?」

 

「うん!」

 

鑑識に持っていくための方便として遼太郎は忘れ物をしたと理由をつけ、菜々子に戸締りをしっかりするように伝える。と、菜々子は遼太郎が右手に持っている手紙に気づいた。

 

「あれ、お父さん。それなに?」

 

「え? ああ、いや、これはなんでもない。じゃあ菜々子、頼んだぞ」

 

菜々子の質問を遼太郎は適当にはぐらかし、家を出る。それから菜々子がちゃんと家の鍵をかけた事を確認すると彼は車に乗り込みながら携帯で電話をかけた。

 

[おう、どうしたよ遼太郎]

 

「市原さん。まだ署に残ってますか?」

 

[ああ、どうした?]

 

「また脅迫状が届きました……期待はできないかもしれませんが……」

 

[分かった。すぐ持って来い、準備をして待ってる]

 

「ありがとうございます」

 

全て言わずとも理解してくれる市原に感謝しつつ、遼太郎は車を出すと稲羽署へと急ぎ車を飛ばしていった。




皆様お久しぶりです。三ヶ月も空けてしまって申し訳ありませんでした。

平行連載してる別作品の執筆もありましたが、本作は特にここから先オリジナル展開満載で原作との整合性を取るため色々考え込んでたので大分遅れました。
どうにか天上楽土に入るまでは書き上がりましたがそこから先が現在難航中。そこに至るまでもここはどうか、ここは大丈夫か、と色々気になるところがありまして。とりあえず今回はここまでなら大丈夫と思える部分までの投稿を行います。
つっても今回は基本がコミュとストーリーをちょいと進めた他はオリジナル展開ですからね。原作では名前だけの登場だった市原さんがオリキャラと化して登場しました。たしか堂島さんから名前が出ただけで作中に登場はしていなかったはず……まあ、何か間違いがあったら申し訳ないですけどお目こぼしくださいませ。(汗)
とりあえず堂島さんが敬語を使ってる事と個人的趣味で、堂島さんより年上の老獪でちょっとお節介ななおじさんキャラになりました。(笑)

さて、今回の最初はコミュニティ編、マリーと恋人になりました。やっとメインヒロインとくっつけられました……けどこの先でちゃんと絡めるのやら。いえ、一番絡むあのメインイベントが待っているから問題ないとは思いますのですけども。
あとはちょっとりせとも絡みます。サブヒロインですので。いやぁ、この先が楽しみだ。(黒笑み)……楽しみだ、となればいいなぁ……。

ここから先もまたお待たせする事になるかもしれませんが、気長にお待ちいただければありがたいです。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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