ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

6 / 63
第五話 VS陽介の影

テレビの中という異様な世界、そこにあった異様な雰囲気の漂う八十稲羽商店街、そこに存在していた異様なコニシ酒店。その異様だらけの中に存在する店の中にはやはり異様な光景が広がっていた。内装は少々、というかかなり散らかっていることを除けば普通の酒店とあまり相違ない。

しかしそこには迷彩柄のカエルを下半身にした、赤いマフラーを巻き手が異常なほどに巨大で身体が真っ黒な人間。陽介という少年のシャドウとそれに対峙する少年と青年――色素の薄い銀色の髪をした少年はゴルフクラブを手にその後ろには鉄仮面に鉢巻きを巻いて長ランを纏い刀を持った何かを従えている。もう一人は青い髪を右目を隠すように伸ばしており、右手に銃を持ち後ろには白髪が青年と同じ髪型を取った作り物のような身体に巨大な竪琴を持っている何かを従えている――が睨み合っていた。

 

[ブッ壊れろぉ!]

 

「オルフェウス! タルンダ!」

 

陽介のシャドウが巨大な右手を振り上げると青年――命が自身の従える存在――オルフェウスに指示を出し、それを聞いたオルフェウスが竪琴をかき鳴らすと不思議な力が陽介のシャドウを襲う。

 

[な、なんだ? 力が入らねえ……ちくしょう!]

 

「はああぁぁぁっ……」

 

陽介のシャドウは困惑したように呟いた後力の入ってない右腕を振り下ろす、それを見た命も気合を入れてジャンプ、下げていた右手を一気に突き出した。

 

「せいっ!!!」

 

[うおっ!?]

 

気合一撃、そういうかごとく正拳が力の入っていない陽介のシャドウの右手を打ち返す。それを見ながら命は後ろの仲間に声をかけた。

 

「真君!」

 

「はい! イザナギ、ジオ!!」

 

命の言葉を聞いた彼の元後輩――真は自身が従える存在――イザナギに先ほどの命と同じように指示を送りながら自身もゴルフクラブを手に陽介のシャドウに突進した。イザナギが吼え、同時に落雷が陽介のシャドウを襲う。

 

[グオオオォォォォッ!]

 

「おぉぉりゃあぁあっ!!」

 

陽介のシャドウが苦しそうな悲鳴をあげ、直後真の振り下ろしたゴルフクラブがシャドウの本体であろう上半身の人型部分に激突した。

 

[がぁっ! この、クソがぁっ!!]

 

しかし中途半端な打撃が逆に相手の意識を覚醒させてしまったのか陽介のシャドウはイラついた様子で真を睨みつけ、巨大な左手を振り回して相手を振り払う。

 

「そぉいっ!」

 

[がっ!?]

 

と直後今度は背後からガンガンッと立て続けに二回の衝撃が襲い、陽介のシャドウは振り返る。そこには何かを投げたらしいポーズを取っている命が立っており、その横には数本空きのある酒のケースがあった。そして現在陽介のシャドウからアルコールの匂いが漂っている。

 

[てめえ、まさか!?]

 

「考えてみれば武器なんてそこら辺に転がってるんだよね。あ、ところでシャドウ君。ちょっと聞いときたいんだけどさ……」

 

陽介のシャドウの声に命はへらへらと笑いながらそう言い、次に意味ありげに問いかけながらニヤリと微笑み、一旦言葉を切って息を吸う。

 

「……お酒って燃えるって知ってる?」

 

[!? ギャアアアァァァァッ!!!]

 

命の言葉に陽介のシャドウがぎょっとした表情を見せた次の瞬間陽介のシャドウを炎が包み込む。オルフェウスの使用できる魔法――炎属性魔法アギの炎が陽介のシャドウにかかっていた酒に引火、一気に燃え上がったのだ。

 

「イザナギ! ジオ!!」

 

[グオアアァッ!!!]

 

そこにイザナギが落雷――電撃属性魔法ジオを放ち、陽介のシャドウはさらに苦しげな声を漏らす。

 

[グゥッ、チックショッ!]

 

陽介のシャドウは必死に身体を振り回し巨大な手で炎を払うように消す、がその消し終わった瞬間真はゴルフクラブを、命はそこら辺に転がっていた空き瓶を手にジャンプして陽介のシャドウに殴りかかる。

 

[ッ! クソォッ!!]

 

しかし陽介のシャドウはどうにかその連続攻撃を両手を広げて受け止め、ゴルフクラブは勢いのせいかぐにゃりと曲がり、空き瓶は衝撃に耐え切れず砕け散る。と命は何かを感じ取り、地面に着地すると叫んだ。

 

「攻撃来るよ! 合流!」

 

「はいっ!」

 

命の言葉に真はそう返すと二人は走って合流し、命が前に立って両腕をクロスし身構える。直後陽介のシャドウはアニメや漫画の忍者が忍術を使う時のようなポーズを取った。

 

[消えろぉっ! 忘却の風ッ!!]

 

「ぐううぅぅぅっ!!」

 

吹き荒れる烈風を命はふんばって耐え、その風が消えた瞬間イザナギが動き出す。

 

「イザナギ! ジオ!」

「オルフェウス! 突進!」

 

イザナギの落とした雷が陽介のシャドウを撃ち、続けてオルフェウスが陽介のシャドウ目掛けて突進しその勢いを込めて竪琴でぶん殴る。

 

[ガ、ハッ……]

 

雷に貫かれ、竪琴でぶん殴られた陽介のシャドウは限界が近いのかぐらりとふらつく。

 

「真君、トドメを!」

 

「はい! イザナギ、スラッシュ!!」

 

命の言葉に真は頷いてイザナギに追撃を指示、それを聞いたイザナギは小さく頷くと地面を蹴って飛ぶように陽介のシャドウに突進。

 

[フッ、フザケンナアアアァァァァッ!!!]

 

それを見た陽介のシャドウは声を上げるが、イザナギは突進の威力を込めて刀を横薙ぎに振りぬく。その一撃がトドメになったか、陽介のシャドウは断末魔の悲鳴を上げるとその全身がまるで焦げていくかのように黒く染まりあがり、どしゃっと倒れこんだ。

 

「お、終わった……のか?」

 

倒れた陽介のシャドウを見ながら真は心配そうに呟く。今にもまた動きだしはしないか、そう考えると目を離すなんてとても出来なかった。するとその肩にぽんっと手が置かれる。

 

「……ご苦労様、真君。まあ実戦初めてにしては結構イイ線いってたと思うよ。召喚の仕方に違いこそあるけどゆかりや順平も最初はペルソナの召喚に苦労してたしね」

 

「あ……え?……」

 

命の言葉に真は変な声を漏らして命の方を見る。今さっき彼は妙なことを言っていた。

 

「実戦、初めて? 召喚の仕方? そ、それにゆかりや順平って、岳羽先輩にいお――」

「ヨースケ!」

 

真の呆けたような声が終わる前にクマの声が響く。さっきの戦いの最中気絶していたらしい陽介が目を覚ましたらしく、彼は頭を押さえながら立ち上がった。

 

「う……俺は、一体?……」

 

陽介は立ち上がると驚いたように目を見開く。彼の前にもう人間とカエルが重なり合ったような異形の存在はいない。しかし、そこにはまた金色の瞳をした花村陽介のシャドウが無表情のまま立っていた。

 

「お前は……お、お前は、俺じゃ……俺じゃ、ない」

 

[……]

 

陽介は力なく首を横に振りながら呟き、それに陽介のシャドウは気のせいか悲しそうに眉を歪ませる。

 

「あれは元々、ヨースケの中に居たものクマ。ヨースケが認めなかったら、さっきみたいに暴走するしかないクマよ……」

 

「でも、でもよ……」

 

そこにクマが陽介に悲しげな声でそう言い、しかし陽介はそう呟く。と真が彼に近寄った。

 

「勇気を持て。それだって、花村のらしさだ」

 

「椎宮……」

 

「そうそう。それに誰だって同じようなものさ。人には誰しも裏表がある。僕は結構交友関係が広いって自負してるけどさ、人には見せたくない裏が全くない人間なんて僕は今まで会った事ないよ」

 

「命さん……」

 

真の言葉に続けて命もそう言い、それに陽介は声を漏らした後困ったように頭をかく。

 

「ちくしょう……ムズいな、自分と向き合うって」

 

彼はそう言うと自らのシャドウの目の前まで歩いていき、その金色の目から目を逸らさずに口を開いた。

 

「わかってたんだ。でも、みっともねーし、どーしよーもなくて……認めたくなかった」

 

陽介はそう言い、そして目の前の自分自身へと右手を差し出した。

 

「お前は俺で、俺はお前か……全部、ひっくるめて俺だってことだよな」

 

その言葉に彼は頷き、気のせいか僅かに微笑むとその姿が光に包まれる。直後、陽介の前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。白いツナギに身を包み、赤いマフラーは爽やかな風にたなびいている。どこかさっき真と命が戦ったシャドウを思わせる意匠も残していた。その姿を陽介は微笑を浮かべて見上げる。

 

「……ジライヤ」

 

彼がその名を呼ぶと同時、ジライヤはタロットカードとなって陽介の目の前へとゆっくり降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅰ]、魔術師を意味する数字が書かれていた。そのカードは陽介の目の前まで落ちると光の粒子となって陽介を包み込んだ。

 

「これが俺のペルソナ……」

 

陽介はそう呟いた後、何かに気づいたように声を出した。

 

「さっき聞こえた先輩の声……」

 

そう呟いた後、彼は三人の方を振り向く。

 

「あれも、先輩が心のどっかで押さえ込んでたものなのかな?……はは、ずっとウザいと思ってた、か……」

 

陽介はそう呟くとがくっと伏せた。

 

「これ以上ねーってくらい、盛大にフラれたぜ。ったく、みっともねー……」

 

「花村……」

 

陽介の言葉に真がなんとも言えない表情で呟く。その次に命が口を開いた。

 

「そうとは限らないんじゃないかな?」

 

「「え?」」

 

命の言葉に真と陽介が声を漏らす。

 

「これはあくまで僕の推測だけどさ。その小西さんもシャドウを見たんだよね? そして、シャドウは自身が否定されたことで襲い掛かる」

 

「……え? まさか、先輩は俺のことをウザがってるシャドウを……否定、した? ってことはつまり……」

 

「まあさっきの花村君みたく事実そう思ってて、でも認めたくないから否定したって可能性もあるけどね?」

 

「ぐあ……」

 

尊の言葉に陽介は希望を見つけたように顔を上げるが命はさらっとそう続け、それを聞いた陽介はぐあっと声を漏らして倒れた。

 

「あ、トドメさされた……」

「クマ……」

 

それを見た真とクマはそう呟いた。と、陽介は顔を上げて起き上がる。

 

「ま、まあとにかく。椎宮、命さん。二人がいて助かったよ。ありがとな」

 

「ああ」

「どういたしまして」

 

その言葉に真と命が頷く。それから陽介はクマを見た。

 

「なあ、クマ……さっき命さんが言ってたけど、先輩はここでもう一人の自分に殺されたのか? さっき俺に起きたみたいに……」

 

「多分そうだと思うクマ。ココにいるシャドウも、元は人間から生まれたものクマ。でも霧が晴れると皆暴走する。さっきみたいに意志のある強いシャドウを核に大きくなって、宿主を殺してしまうクマ」

 

「……つまり、それが町で霧が出た日にこっちで人が死ぬ原因になるのか……」

 

陽介の言葉にクマが説明を行い、それに真は理解したように呟く。と直後陽介がふらつき、真は膝をついた。

 

「二人とも、大丈夫? 大分疲れてるみたいだけど……あぁ、真君はペルソナを召喚してたし無理もないか」

 

「元々この世界は人間にはちっとも快適じゃないクマ……け、けど、なんでセンパイは平気なのクマ?」

 

「え? ああ、まあね」

 

「そ、そういえば先輩、あなたはなんでペルソナやシャドウについてそんなに詳しいんですか?……」

 

「ああ、まあね……隠しててもしょうがないし、しょうがない。説明するよ」

 

命はクマと真から妙に怪しまれてるような視線を投げかけられ、命は苦笑した後諦めたように続ける。とクマが口を開いた。

 

「もう何も聞こえなくなったし、これ以上ココには何もなさそうクマ」

 

「分かった。じゃあ一旦戻ろうか……クマ君、少し気になることがあるし、いくつか質問していいかな? それが終わった後に僕も説明するよ。僕のこの、ペルソナの力についてね」

 

クマの言葉を聞いた命がそう言い、四人は一旦三人が入ってきたスタジオのような広場へと戻ってくる。

 

「それでセンパイ、聞きたいことってなにクマ?」

 

「ああ、うん。君は確かここが入ってきたものにとって現実になるって言ってたよね?」

 

「クマ」

 

クマの問いかけに対し命は確認を取りそれにクマはこくんと頷く。と陽介が気づいたように口を開いた。

 

「あ、そうか! さっきの商店街と前に見た妙な部屋! あれは死んだ二人がこっちに入った後で、二人にとっての現実になったってことなのか!?」

 

「つまり、山野アナと小西先輩が入ったせいであんな場所が出来てしまった?」

 

「……今までなかったことだから、分からないけど……ココで消えた人たちもきっと、さっきのヨースケみたいになったクマね……」

 

「死んだ二人にも同じことが? どういうことだ?」

 

陽介の言葉に続き、真も述べる。それに対しクマは少し考える様子を見せながらそう言い、それに真が尋ね返す。とクマはまた口を開いた。

 

「ここの霧は時々晴れるクマ。そうなるとシャドウ達はひどく暴れる。クマ、いつも怖くて隠れてるんだけど、最初の時もその次も、人の気配はその時に消えたクマ……」

 

クマの言葉を三人は黙って聞き、最初に陽介が口を開く。

 

「つまりだ……先輩や山野アナはこんなトコに放り込まれて、出られずにさまよって……その内身体からあのシャドウってのが出て、そいつが霧が晴れた時に暴れだして命を……そういうことなんだな?」

 

「……ということは、花村もここの霧が晴れるまでいたらもっと危険な目にあっていた。そういうことか?」

 

「間違いないと思うクマ。それに、さっきはセンセイにセンパイ、クマも側にいたから……」

 

陽介の言葉に続けてまた真が言い、それにクマはこくんと頷く。と陽介はうつむいて拳を握り締めた。

 

「……くそっ! 先輩達、たった一人でこんなところに……なのに誰も、先輩達を……」

 

「花村君……」

 

「あ、でもでも」

 

陽介の苦しそうな声に命が呟き、その次にクマがまた口を開いた。

 

「二人ともここが晴れた日に消えたけど、それまではシャドウに襲われなかったクマ」

 

「でも、さっき僕達は襲われた。シャドウはペルソナ使いにしか倒せない。それを本能的に分かってるのか、探索している僕達を敵とみなしているのか……」

 

「シャドウ達、警戒してたクマ。キケンかもしれない、けどボクらなら戦って救えるかもしれないクマ」

 

クマの言葉に陽介と真はクマの方を見る。

 

「もしまた誰かが放り込まれても、俺達なら助けられるかもしれない。ってことか?」

 

「その人が殺されてしまう前に、さっき花村を助けたように……」

 

「でも、それじゃ堂々巡りだよ?」

 

陽介と真の言葉に命が指摘、それに陽介はああと頷いた。

 

「とにかく、ここに人を入れてる犯人を捕まえて止めさせるしかない……ようやく、少しは状況が分かってきたぜ」

 

陽介は腕を組んでうんうんと頷く。

 

「ねえ、逆に一つ聞いていいクマ?」

 

「どうした?」

 

するとクマが尋ね、真が問う。

 

「シャドウが人から生まれるなら、クマは何から生まれたクマか?」

 

「お前自分の生まれも知らねーのかよ!? そんなこと俺らに分かるわけねーだろ!」

 

「この世界のことならいくつか知ってる……けど、自分のことは、分かんないクマ……ちゅーか今まで考えたことなかった……」

 

クマの言葉に陽介が驚いたように叫ぶとクマは困ったような悲しそうな様子でそう呟く。

 

「まじかよ……つかそんなんじゃ、俺らが何訊いても無駄なはずだよな……」

 

陽介はため息をつきながらそう呟き、それから真は命を見た。

 

「話も一段落したところで、先輩。いいですか?」

 

「ああ、僕の力とこの知識についてだね? まあいいけど。その前に一つ尋ねていいかな?」

 

「「はい?」」

「なにクマ?」

 

真の言葉に命はにこりと微笑んで頷いた後尋ねる。それに三人が首を傾げると彼は用意していたようにその問いを口に出した。

 

「実は一日は二十四時間じゃなかった。なんて言ったら君達は信じるかな?」

 

「はぁ? なんすかそりゃ?」

「……新手の洒落か何かですか?」

 

命の言葉に陽介と真は首を傾げて尋ね返し、クマに至ってはどういうことか理解していない模様。すると命は「まあそうだよね」と可笑しそうに笑った。

 

「真君。桐条美鶴に真田明彦っていう先輩の名前を覚えてるかな?」

 

「あ、はい! 俺達とは入れ替わりでしたけど、噂によく聞いてました。でも、それが何か?」

 

「まあ、まずは最初の問いを片付けようか。一日は二十四時間じゃなかった。十二年前から二年前まではね。その時間には空は緑色になって月が不気味に光り、通常の機器が使用不能になって人は棺桶と化す。僕達はその時間を影時間と呼んでいた」

 

「……え、映画か何かの題材っすか?」

 

命の説明に陽介は頬をヒクヒクさせながら苦笑いで返す。と命はふふっと笑った。

 

「テレビの中の世界だって似たようなものだと思うな。影時間は午前0時から発生する、けど普通の人間には知覚出来ない。さっき言った通り皆棺桶の中でお休みだからね。そんな中に蠢く存在、それがシャドウ。そのシャドウを打ち倒すことが出来る力、それがペルソナ」

 

「「「シャドウ!? ペルソナ!?」」」

 

命の口から出たシャドウとペルソナという言葉、それを聞いた三人が声を上げ、それに命はふっと微笑む。

 

「僕がペルソナとシャドウについて知識を持っていたのはそのためだよ。まあ、若干差異はあるようだけどね。正直最初にシャドウを見た時は驚いたよ、なんで影時間が消えたはずなのにシャドウがいるんだって……」

 

「先輩?」

 

命はそこまで言うと何か考え込む様子を見せ始め、真が問いかけると彼は笑みを漏らす。

 

「あ、ああ、なんでもないよ。ごめんごめん。で、その影時間を調査するためペルソナ能力を持つ者達が集められた。それがさっき言った桐条先輩と真田先輩、僕も含めた十人……ああ、まあ人じゃないのが含まれてるけど、十人。特別課外活動部、通称S.E.E.S.さ」

 

「「「?」」」

 

「気にしないで。まあそういうわけでシャドウと戦って、影時間の秘密を解いて。影時間は消えましたーめでたしめでたし……ってわけ」

 

「大雑把っすね!? もっとこう、色々あったんじゃないんすか!?」

 

「いや、ペルソナやシャドウの説明のためここまでは口を割ったけどこの戦いを詳しく口外するわけにはいかないからね」

 

命はその戦いの内容をさらっと流し、陽介が突っ込むと命は肩をすくめて返した後、続けた。

 

「まあ、僕がペルソナやシャドウについて詳しい理由や実戦経験がある理由はこんなとこだね。流石に二年戦ってないから大分鈍ってるっぽいけど」

 

「そうですか……」

 

命がそこまで言うと真はそう言って陽介と共に疲れきった息を吐き、それを見た命が口を開く。

 

「さて、そろそろ戻った方がいいかな。クマ君、出口お願い」

 

「分かったクマ」

 

命の言葉にクマは頷いてまたとんとんと足踏みをし、出口である三段重ねのアナログテレビを作り出す。とクマは思い出したように口を開いた。

 

「そうだ! これからまた来てくれるんならキミたちは必ず同じ場所から入ってきてほしいクマ」

 

「同じ場所……ジュネスのテレビからってことか?」

 

クマの言葉に真が聞き返し、クマはこくんと頷く。

 

「違うとこから入ると違うとこに出ちゃうクマ。もしそれがクマの行けない場所だったらどうしようもないクマ……以上。分かったんクマ?」

 

「ああ、分かった」

「うん、分かったよ」

 

クマの説明に真と命が頷き、三人はテレビから出て行った。

 

 

 

 

 

それから三人は家電売り場へと戻ってくる。幸いにして店員も客もおらず、唯一いるのは床にへたり込んでいる千枝のみだ。

 

「あ……が、がえっでぎだぁ……」

 

「う、うぉぅ」

 

千枝は涙でぐちゃぐちゃになっている顔で三人を見、それに陽介は声を漏らす。

 

「ど、どうしたんだよ、その顔……」

 

「う……」

 

その言葉に千枝は立ち上がると彼をキッと睨み付けると手に持ったロープを力の限り投げつける。彼女のそんな行動を予想だにしていなかったのだろう。陽介は顔面でそれを受け止めて尻餅をついた。

 

「あがっ」

 

「どうした? じゃないよ! ホントバカ! 最悪! もう信じらんない! アンタら、サイッテー!」

 

陽介が間の抜けた声を出し、千枝は怒りのままに叫んだ後、今度は泣きそうな声を漏らす。

 

「ロープ切れちゃうし、どうしていいか、分かんないし……心配、したんだから……」

 

千枝はそこまで言うと涙の浮かんでいる顔で三人を睨みつけた。

 

「すっげー、心配したんだからね!!!」

 

「あ……」

 

「あーもう、腹立つ!」

 

千枝の言葉に命は声を漏らし、千枝はそう言うと走り去っていく。と陽介は表情を歪めた。

 

「ちょっとだけ、悪いことしたかな?」

 

「ちょっとどころじゃないよ……迂闊だった」

 

陽介の呟きに命が苦虫を噛み潰したような表情で呟く。その顔には自分に対する怒りと情けなさも混在してるように見えた。

 

「僕達は彼女一人に命綱、つまり僕達をこっちの世界に繋げておく役目を任せてた。それが重責過ぎたんだよ。僕達の他にテレビの中の世界を知る人はいない、誰にも頼れない。もし僕達が戻ってこなかったら彼女は止められなかった自分のせいだっていう気持ちを誰にも打ち明けられず一人で抱え込むしかなかったんだよ」

 

「う……」

「……」

 

命の言葉に陽介が声を漏らし、真も情けないように顔を押さえる。それから陽介が苦しげな表情で口を開いた。

 

「……明日、謝ろうぜ」

 

「ああ……」

 

「ごめん。僕の分も謝っておいて……それと、後で僕からもしっかり謝罪するって伝えておいて」

 

「分かりました」

 

陽介の言葉に真も頷き、その次に命が言うと真はこくんと頷いた。それからまた命が口を開く。

 

「まあ、今日のとこはまっすぐ家に帰ってゆっくり寝た方がいいよ。どうやらテレビの中はかなり体力を消耗するみたいだからね」

 

「分かりました。たしかに今日はもうヘトヘトっす、風呂入って寝るわ……今日は、眠れそうな気がする」

 

「ああ。じゃあまた明日、学校でな」

 

命の言葉に陽介は言い、真も頷いて返した後三人は別れて帰っていった。

 

 

その帰り道、河川敷を真が通りがかった時だった。

 

「あれ?……」

 

そんな声が聞こえ、真は声の方を向く。そこにはピンク色の着物を着た天城が雨宿りが休憩所に座っており、真は彼女の方に歩いていき、雪子が座っている長椅子に座る。

 

「あ、この格好驚いた? 家のお使いだったから……」

 

「ああ、里中が言ってたな……あ、そうだ。宿泊客に利武命っているよな?」

 

「えっ? えと、そういうのは教えられない……けど、知ってる人?」

 

真の問いに雪子は慌てたように言った後尋ね返し、真はああと頷いた。

 

「前の高校の先輩。俺がこんな口上手くなった原因の一人」

 

「そうなの? ふふ……あの人、予約日時間違えたみたい。受付で大騒ぎになってたのを覚えてる」

 

「あの先輩が?……へぇ」

 

真と雪子はそう言い合い、一旦話が途切れる。

 

「え、えっと……この町とか、学校にはもう慣れた?」

 

「まあまあかな?」

 

「……よかった。知らない場所に転校してくるって大変なんだろうね。私はこの町から出たことないから、転校ってどんな気分か分からないけど……」

 

「まあ、最初は大変だったが今はもう慣れっこだな。それに友達が増えるから楽しいところもあるぜ、先輩に会えたおかげで口下手な俺もこうして上手く話せるようになったしな」

 

雪子の言葉に真はふざけたような口調でそう言い、雪子はまたくすくすと笑ってからまた尋ねた。

 

「あ、えっと……私、いつも帰り早いし……その、千枝とかとは、どう?」

 

「あぁうん……仲良くやってるよ」

 

雪子の問いに真は困ったように声を漏らし、まさか泣かせちゃいました~などというわけにもいかずそう言葉を濁した。すると雪子はふふっと柔和に微笑んだ。

 

「そう、よかった。千枝ってね、すごく頼りになるの。私、いつも引っ張ってもらってる。去年も同じクラスでね、一緒にサボって遊んだりしたな……」

 

「里中はともかく天城がサボるなんて想像できないな……」

 

「あ、ひどい」

 

雪子は千枝のことを嬉しそうに話し、その言葉に真が呟くと雪子は口を尖らせて責めるような視線を見せて返す。それから気づいたように時計に目を落とす。

 

「あ……そろそろ戻らなきゃ。板長と明日の打ち合わせしないと……」

 

「送っていこうか?」

 

「えっ!?」

 

雪子の言葉を聞いた真がそう申し出る、と雪子は驚いたように声を漏らし、真は頭をかく。

 

「いや、女の一人歩きは危ないだろ? もうすぐ日も暮れそうだし……」

 

「あ、そ、そうだよね! で、でも大丈夫だから!」

 

真の言葉に雪子は顔を赤くしながらそう言い、傘を差そうとする。が動揺してるせいかなかなか上手くいっておらず、真が笑いをかみ殺しているとようやく天城は傘を差し、それを見てから真も立ち上がってワンタッチの傘を開いて休憩所から出る。

 

「んじゃまた明日、学校でな」

 

「う、うん!」

 

そしてそう挨拶し、雪子もこくんと頷くとその場を去っていき、真も家に帰っていった。

 

 

 

 

 

それから真は家で菜々子と共にニュースを見、そこで事件が続くというニュースを聞くと菜々子は心配そうな表情を見せる。とテレビが別の話題に変わった。

 

[鮫川の上流に軒を構える、地元随一の歴史を持つ高級温泉宿、天城屋旅館。源泉かけ流しのラドン泉の露天風呂を備え、遠方からのリピーターも多い高級旅館だ]

 

何かの番組での天城屋旅館の紹介らしい。テレビ画面がマイクを持った現場リポーターのものに変わっている。

 

[えー、事件後、女将が一線を退き、今はこちら、一人娘の雪子さんが代わりを務めています」

 

そう言うと同時、和服姿の雪子がアップで映る。

 

[言ってみれば、現役女子高生女将……といったところでしょうか? なんともこう、惹かれる響きです。お話うかがってみましょう……すみません!]

 

「え? 私……私ですか?」

 

リポーターに突然声をかけられ、雪子は驚いたように声を漏らす。

 

[女子高生で女将、ということですが]

 

「いえあの、私は代役で……」

 

[でも跡継ぐわけでしょ? ていうか和服色っぽいね。男性客多いでしょ?]

 

「えー、や、あの……」

 

リポーターはセクハラまがいの質問に脱線しており、真はチッと舌打ちを叩いた。

 

「……つまんない……あ、おさらあらわなきゃ」

 

菜々子もつまんなそうにそう言い、思い出したように流し台の方に歩いていく。それを見た真もこれ以上セクハラを聞いて気分を害するよりはと皿洗いを手伝うため流しの方に歩いていき、黙々とお皿を洗っていく。

 

「ふたりでおさらあらうと、はやいね」

 

皿洗いを終えた後菜々子はえへへと笑ってそう言い、クイズ番組を見始める。それを見てふっと微笑んでから真は外でまだ降り続いている雨を見た。

 

(今日も雨……マヨナカテレビを見てみないとな)

 

彼はそう考えるとその時間まで部屋で過ごすかと思って菜々子に一つ挨拶をして部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

[……そうか。やはり普通の事件ではなかったか]

 

「ええ」

 

一方天城屋旅館のとある高級客室では命が報告を行っていた。マヨナカテレビは単なる都市伝説ではなかった。そしてシャドウが関係している。という二つの事柄を。

 

「真君もいることだし、それでなくても放っておくわけにはいかない。先輩、この依頼を長期に変更していいですか?」

 

[ああ、こちらからお願いしたいぐらいだ。それと私達もなんとか向かえるようにしよう。ゆかりや風花にも私から連絡を取っておく]

 

命の頼みを聞いた美鶴は頷きそう続ける、と命は首を横に振った。

 

「……いえ、それは必要ありません」

 

[は!?]

 

命の言葉に美鶴は声を上げる、と命はさらに続けた。

 

「すいません。言い直します……絶対来ないでください。来いというフリじゃありません、来るな」

 

[命っ!? お前は何を言ってるんだ!?]

 

「来ないでくれ、絶対に!!……」

 

命の命令のような言葉に美鶴が叫び声を上げると真がさらに叫び声を上げる。幸いにして隣の部屋には宿泊客は今のところいないそうだがもし宿泊客がいたら間違いなく苦情が来るほどの声量。それを考えたわけではないのだが、彼は少し黙ると声を絞り出した。

 

「……分かってますよ。戦力は圧倒的に足りない、合理的に考えたら先輩達にすぐにでも来てもらうべきだって」

 

[だったら!]

 

「でも!! でも先輩は桐条グループがある! ゆかりも、結生も、順平も風花も真田先輩も天田もコロマルもアイギスも、今は普通の生活を送ってるんだ! それを、いまさらこんな危険なとこに放り込まれていいはずがない!!」

 

[だが、それを言ったら君は!]

 

「僕はもう巻き込まれてるからしょうがない! でも、こんなもの関わらずに済むなら関わらない方が絶対いいんだ!!」

 

命はそこまで言うと荒い息を漏らした。声は震えておりどこか泣きそうな雰囲気を見せている。

 

「ああ、分かってる。こんなのただの自分勝手な我侭だ、今ここで皆を呼ばなかったらこの町の人を危険に巻き込んじゃうかもしれない……でも、皆を危険に巻き込むよりマシだ」

 

[……バカが]

 

命の搾り出すような声に美鶴もまた搾り出すような声で返し、心配そうな声で続けた。

 

[だが、せめてアイギスだけでも――]

「アイギスは人間だ!!! アイギスも絶対によこすな!! いや、他の人に漏らすことすらするな!! もし誰かに言ったりしたら、僕はあなたを一生軽蔑します」

 

美鶴のその言葉すら命は怒りに満ちたような声で叫び返し、電話では相手に分からないだろうが怒りに満ちたような目を見せていた。それに対し美鶴は申し訳なさそうな声を漏らしだす。

 

[だが、だがそれでは私は……]

 

「巻き込んだ罪悪感があるっていうんなら、ここでの宿泊経費とかの諸経費全額そちらの負担にしてください。それで充分です」

 

[……分かった。だが、一つ、いや、二つ約束してくれ]

 

「……聞いてから判断します」

 

美鶴の言葉に命はすぐさまそう返し、ようやく折れた美鶴は条件の提示を開始、それに命が返すと美鶴は口を開いた。

 

[まず一つ目……もし状況が君一人の手に負えなくなったらすぐ私達を呼べ。これ以上は手に負えなくなりそうと判断しても同じだ。約束できないというのなら……軽蔑されようと構わん、すぐ全員に連絡を取り、八十稲羽へと向かう]

 

「……分かりました。で、もう一つは?」

 

[こっちは約束というより私の個人的な頼みだ]

 

美鶴の提示した条件の一つを命は承諾、もう一つはと問うがそれに美鶴はそう返した後一つ呼吸をした。

 

[巻き込んだ手前で言える立場ではないだろうが……命は絶対に大事にしてくれ]

 

「…………努力します」

 

懇願するような言葉、それに命はしばらく黙り込んだ後そうとだけ返した。それに美鶴はふぅと息を吐き、また続ける。

 

[それと、こちらは約束とは別物だ。定期報告はきちんとするように]

 

「了解」

 

[それから……]

 

「まだあるんですか?」

 

定期報告やらなにやら言われることがあった命は声を漏らし、美鶴は電話口でふっと笑みを漏らしたような息を吐いたのを命は聞いた。

 

[ゆかりと結生はどうする?]

 

「……絶対言うな」

 

[それはどっちが心配なんだ? いや、どれが、と言った方がいいかな?]

 

美鶴の言葉を聞いた命は息を呑んだ後そう呟き、それに対し美鶴はようやく優位を取り戻したためかくっくっと笑いながら悪戯っぽく問いかける。それを聞いた命は顔を押さえて呟いた。

 

「……ゆかり、結生、そして僕の三人……と返しましょう……ほんと言わないでくださいね?」

 

[自首は早めにすることを薦めるぞ?]

 

命の言葉に美鶴はまたくっくっと笑いながら返した。岳羽ゆかりに利武結生、こんな状況においても命最大の弱点ツートップである。いや、こんな状況だからこそといおうか。

 

「……とりあえず、切りますね」

 

[ああ……最後に、君を大事に思う先輩として言わせてくれ……]

 

命の言葉に美鶴はそう言いだし、一旦言葉を途切れさせると命は電話口で彼女がすーはーと深呼吸しているのを聞く。

 

[死なないでくれ、頼む]

 

「…………また何か分かったら報告します」

 

心の底から懇願するような声、その言葉に命はそうとだけ言うと美鶴がまた何か言おうとする前に電話を切り、すぐに携帯の電源まで落とす。

 

「……」

 

そして彼は携帯をかばんの方に放り投げるとそれは開いていたかばんの口から綺麗に中に入る。それを命はこともなげな目で一瞥してから特に何をするでもなく、雨音を聞きながらふと点いてないテレビの方に目をやった。




…………自分で言うのもなんだが、もうちょっとタイトルセンス捻らないといかんよなぁこれ……まんま過ぎる……。
ま、それはさておいて今回はVS陽介シャドウ。命はタルンダで攻撃力下げた相手の攻撃を素手で殴り返すやら酒を燃やすというトンデモ方法で戦いました……前回最後に「僕は君の盾になるよ(キリッ)」なんて言っといて完全前衛で共に戦ってましたね……一応クエストでテレビの中から持ってきたものは現実世界でもちゃんとそのものとして機能しているのでお酒もアルコールで燃えるだろ的なノリでやらせました。
それから命から二年前の説明ですが、まあ流石に機密情報を無関係な人間に明かすわけにもいかないのでP3の基本設定を若干説明させました。影時間は説明しとかないとP3の説明が成り立たないので。
んで最後に美鶴との定期報告ですがこの通り、命は「仲間を巻き込みたくない」という自分勝手な理屈を押し通して増援を拒みます。ここは最初っから考えてたというか、ここは拒んどかないとP4の皆活躍の場を失いますからね……。
さて次回は雪子姫、どこまで書けるかなっと。ま、それでは~。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。