10月29日。今日は八十神高校の文化祭、今日明日と晴れの文化祭日和である。
二年二組の出し物、合コン喫茶。机を三つずつ二組で向かい合わせにし、その上に赤色の布をテーブルクロスのようにかけて花瓶と花などの飾りでそれなりに形になるように飾られている。しかし、客は誰一人来ていない。
「ご、合コンやってまーす……」
雪子が恥ずかしそうに客引きをするが、彼女自身「恥ずかしいな、これ」と呟いており、どこか哀愁を誘う。というかそもそも人通りがない。
「見てってもらうには、サクラが必要かな」
「サクラ?」
クラス委員の男子がそう呟き、陽介が聞き返すとクラス委員の男子は「俺らでサクラをやる」と説明。陽介が「寒くね?」とツッコミを入れるが、クラス委員の男子は「客が来ないと始まらないし」と若干やけになっていた。
「けど、ここにいるの五人で奇数だし……」
「やっほー、皆。様子を見に来たよ」
人数が合わないと言おうとする陽介だが、そこに命が顔を出した。
「すげータイミング……ってあれ? ゆかりさんと結生さんは?」
「二人は別行動。結生が出店でご飯食べてるからゆかりはそれについてる」
狙ったようなタイミングでやってきた命に千枝は驚いた後、彼の恋人と妹がいない事を不思議に思うと命はそう説明をした。とりあえずこれで偶数にはなったものの、陽介は困ったように腕を組む。
「でも、男4の女2だろ?」
「お前ら、どーせ明日、女装すんだろ? どっちか女の席に座れ」
「女装?」
「あ、あーいや、なんでもないっすよ、あはは……」
陽介の言葉にクラス委員の男子がそう言うと命が首を傾げ、陽介が慌てて誤魔化しに入る。
「……」
その隙に真がさっさと男子の席へと座り、命も訳が分からない様子ながら真の隣の席に座る。
「じゃ、花村。お前女役な」
「ま、マジかよ……」
クラス委員の男子がそう命じ、陽介は肩を落としながらも反論することなく女子の席に座る。
「じゃ、始め」
そしてクラス委員の男子がそう宣言。しかし場は沈黙に包まれていた。
「えーっと……はじめて、いいよ?」
そう言い直すが、やはり沈黙に包まれる場。その重い沈黙に包まれながら、クラス委員の男子は「開始、シテクレ」と言うがやっぱり誰も喋らない。
「……というより、これ何?」
やっと喋ったのは命だが部外者のためそもそも状況を理解していなかった。
「ご、合コンの真似っす……」
陽介が頭を抱えながら答えるが、女性役のため「合コンですわよ、おほほほー」と言い直した。
「いやいーよ言葉遣いは……あ、命さん。合コンの経験とかないんですか?」
「ないよ、そんなの。多分結生とゆかりも」
千枝が本物の合コンについて教えてもらえれば少しは感覚掴めるんじゃないかと、経験ありそうな命に尋ねるが命は即座に経験がないと否定する。さらに結生とゆかりもないと逃げ道を塞ぐ。なお結生に関しては人生共に歩んできた双子だからそういう事があれば分かる、ゆかりに関しては自分と付き合うまでむしろ男子に対して壁を作っていたことによる推測である。
「えーっと、ご趣味は? とか?」
「先輩、それ多分お見合いとかそういうのです」
ボケる命に真がツッコミを入れた。
「しゅ、趣味はえっと、格闘全般でっす。見る方メインね……あはは……」
とりあえず命の質問に答える千枝だが、「うわ、すげー恥ずかしい」と呟く。
「わ、私は、ええと……シャ、シャドウ倒したり?」
「それ趣味じゃねーだろ!」
雪子が変な墓穴を掘り、クラス委員の男子がきょとんとした表情を見せると陽介がツッコミを入れる。
「えーとじゃあ、こっちから質問するね!」
次に千枝が女性陣から質問をしようとするが、改めて考えて沈黙すると「無いな」と結論を出した。
「す、好きな女の子のタイプは?」
「おお、直球……」
咄嗟に雪子が質問を出し、陽介も直球の質問に驚く。
「えーと……か、かわいい子?」
雪子に質問されて舞い上がったのか、クラス委員の男子が声を裏返しながら答えるが「うわ、何か寒いな」と自分で呟き、照れるクラス委員の男子に陽介は「今更……」とツッコミを入れながら呆れる。
「ゆかりと結生」
「ピンポイントですねあんたは!?」
続けて恋人馬鹿&シスコンの命の返答に全力でツッコミを入れた。
「可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは。とか言った方がいい?」
「やめてください、いやマジで。なんか色んな意味で洒落にならない気が……」
さらに続けてボケる命に陽介は頭を抱えながら答えた後、真を見る。
「んで、真。後はお前だけだぞ」
「そうだな……特に考えたことはないけど……優しい子とかか?」
無難な受け答え。だが陽介は「俺も俺も! 守ってあげたくなるっつーか」と女性役である事を忘れて同意する。
「じゃあ、陽介がこの中で気になる異性は?」
「えー、みんなカッコいいけどー、やっぱりぃ、頼りになるのは椎宮――」
お返しに真が陽介に質問。それに陽介は裏声を使ったどこかギャルっぽい声色で返答。
「――ってアホかっ!! 素人にノリつっこみさすなっ!!」
だが最後まで貫くのは無理だったか素に戻ってツッコミを入れる。
「はぁ……」
千枝がため息をつくと、命も苦笑。残るメンバーはがくりとうなだれた。
「お兄ちゃーん。真君とこにいるみたいだけど……」
「喫茶店、みたいだね? 盛り上がって――」
そこに結生とゆかりが登場。様子を見に来たらしい二人は人気のない重い沈黙に包まれている教室内を眺めまわして黙り込む。
「――ないね」
「……じゃ、じゃあ、また!」
沈黙に耐えきれなかったか、二人は静かに後ずさると足早にその場を立ち去っていった。
「合コン喫茶、失敗だな……」
「シミュレーションをしておくべきだったな」
陽介と真が大きくため息をつき、そう結論を呟くのであった。
合コン喫茶の爆死確定後、真は陽介に合コン喫茶を任せると一年の教室へと遊びにやってきていた。
「……なんだこれ?」
だがそこで真がぼやく。出し物なのは間違いない、だが二組のはずの松永が三組に出入りしてそこの生徒と打ち合わせをしていたり一組のはずの直斗が二組で出し物の案内をしている。
「あ、先輩!」
「あ、久慈川……なあ、これどういう事なんだ?」
すると背後から何者かが真に声をかけ、真は振り返るとその相手――久慈川りせに声をかける。彼女は肩に看板らしきものを担いでおり、どうやら客引きから帰ってきたようだ。そう考えつつ真は一年のカオス状態を質問する。
「え?……ああ、これこれ」
りせは一瞬首を傾げつつもすぐに納得いったように頷くと看板を見せる。
「……一年生合同? 駄菓子ゲーセン雑貨なんでもござれ?」
「一年生の中で出し物の意見が分かれすぎちゃってね。じゃあいっそ三つのクラスで共通して意見の多かった三つに絞ってそれぞれやりたいとこでやっちゃえばいいんじゃない? って結論になったの」
随分とフリーダムな結論だった。
「それで、一組が駄菓子屋で二組がゲーセン、三組が雑貨屋やってるの。先輩も見ていってね。じゃ、私これから接客のシフトだから。またね~」
「あ、ああ……」
りせはそう言うと、彼女のメインの持ち場は駄菓子屋なのか一組に入って「たっだいまー。客引きこうた~いっ、接客入りまーっす」と明るい声で呼びかける。その時男性の声で「うおおぉぉぉっ!」と盛り上がった声が聞こえてくる。
「……そっとしておこう」
今すぐ入ったらりせ目当ての客に巻き込まれそうだと真は判断。二組のゲームセンターに後ろのドアから入る。
「いらっしゃいませ……あ、先輩。こんにちは」
「ゲームセンターか。白鐘のイメージとは合わないけど、意外だな?」
「ああ、聞いたんですか? 駄菓子屋や雑貨屋はどうもイメージが湧かなくって……それに僕は頭脳系ゲーム部門という事になっていますから」
後ろのドアからすぐの所にいた直斗に挨拶。真が直斗とゲーセンに繋がりがない事からここを選んだのを意外だと言うが、直斗は照れくさそうに頬をかきながら説明する。確かにゲーセンそのものと直斗のイメージはあまり結びつかないがなるほど、頭を使う系のゲームという意味なら直斗はぴったりだ。
「なるほど。じゃあ少し遊んでいくか」
「あ、言い忘れてました。先輩、どうせならポイント稼ぎでもしてみませんか?」
「ポイント稼ぎ?」
真が納得したように頷き、遊んでいこうかと呟くと直斗はそう補足説明を入れる。曰く「このゲームセンターでは専用のポイントを賭けて勝負する事が出来、賭けたポイントと、スコア系のゲームならスコアに、タイムアタック系のゲームならタイムに、対戦系のゲームなら勝率に応じてポイントをゲットする事が出来、そのポイントを使用して一組の駄菓子屋や三組の雑貨屋で買い物もできる」ということらしい。ここでも一年生合同というのを生かしていた。
「もちろん強制ではありません。無料でゲームをする事も可能ですが、その場合特典などは一切つきません。また集めたポイントを現金に換金する事もできませんのでそこはご注意ください。まあ、詳しい事はそちらにポイント交換所があるのでそこでご質問をお願いします」
そう言って直斗は教室の前入り口を指差す。
「……ども」
そこには尚紀が「ポイント交換所」という看板がでかでか飾られている席で座っていた。どうやら彼がその係らしく、真は直斗に「サンキュ」と返してから尚紀の方に歩いていく。と尚紀はぺこりと頭を下げた。
「こんちわ」
「ああ。とりあえず白鐘の方からざっくりと説明は聞いたよ」
「はい。ポイントは基本十円十ポイント単位です。十ポイントチケットが十枚溜まったとか百ポイントチケットが十枚溜まったとかでかさばって邪魔になったら持ってきてください。両替しますんで。逆に百ポイントチケットを十ポイントチケット十枚へ~みたいな両替も可能っす……まあ、万単位になったらチケットは用意できてないですけど……あ、それとチケットをお金に換金って事も出来ないんで気をつけてください。何回かそういうトラブルあったんで。あと、ポイントが使えるのは学園祭の間だけですから……えーと、そんくらいかな? 何か質問は? まあこの教室中に説明と注意用の張り紙貼ってるんで、最悪それ見てもらえば大体分かりますけど」
尚紀はボソボソとした声ながら淀みなく説明。教室の入り口やそこら中に貼っている張り紙を指しながら質問はないかと尋ねるが、真は「大丈夫だ」と頷く。
「大丈夫だ、ありがとう。とりあえず百ポイント頼む」
「はい。んじゃ百円になります。十ポイントチケット十枚でいいですか?」
「サンキュ」
真は百円支払って百ポイントチケット――折り紙を半分に切ってマジックで「10P」と書いている簡単なものだ――を十枚手に入れ、踵を返すと直斗のいる席へと戻りながらチケットを確認する。
「なんというか、簡単なもんだな。すぐ偽造できそうだぞ」
「わざわざそんな事する人もいないでしょう? それに、対策はしています」
真の言葉に直斗はチケット偽造の手間とここの商品の入手可能になるというのが釣り合っていないと答え、しかしきっちり対策はしていると続けた。
「裏返してみてください」
「裏? ってなんだこれ、ハンコが押されているな?」
直斗の指示通り裏返したチケットには大きく、しかし中身は繊細な模様が描かれたハンコが押されていた。
「偽造対策のために僕が考案し、巽君に作ってもらいました。もちろん解析方法は全クラスに周知させています。と言っても透明な紙に同じハンコを押していて、重ねて透かさせるだけですけど」
「お前ら本気出しすぎだろ……」
不正は許さない探偵魂が垣間見え、真は苦笑をするが同時に偽札ならぬ偽チケットの偽造の心配もないと一安心する。
「じゃ、やるか」
「はい。じゃあ何で勝負しますか? 簡単なものでよろしければあっちむいてホイからありますけど?」
「もうちょっと知的に勝負しようか?」
「そうですか。あ、これ対戦内容のメニューと簡単なレートになります」
直斗は学園祭の空気のせいか冗談を言う余裕を見せており、真も苦笑を返すと直斗はふふっと笑った後に対戦メニューを提示する。
「トランプゲームか……んじゃ手始めにポーカーでもやるか」
「了解しました。ああ、今回は簡易的なルールで行います。ルールは所謂クローズド・ポーカーで行いますが、勝敗は手役の強弱のみで判定、引き分けについてはノーペア同士の場合はディーラーつまり僕の勝利としますが、それ以外の手役で引き分けの場合は全てプレイヤー、先輩の勝利となり、勝利した場合はプレイヤーの手役に応じたポイントをゲットできます。もちろんプレイヤーが敗北した場合は賭けたポイントは没収となります」
「要するに例えばワンペア同士でも数字の大小による勝敗判定は行わないって事か」
「はい。その場合は先輩の勝利、ノーペアの場合を除き引き分けは全て先輩の勝利として扱われますから、積極的な行動をお勧めしますよ?」
今までの時間の間に何度かトランプゲームをしていたのだろう。シャッフルをする直斗はやけに手慣れており、その顔も普段の探偵らしい冷静さの中に狡猾さを秘めているように見える。
「ああ、ポーカーの手役と強弱を覚えてないのなら、こちらに一覧を用意していますからどうぞご覧ください」
「ゲーム中に視線で相手の手役を推測しようとでも思ってるのか? そんな手に引っかかるか。手役くらいは覚えてる、しまっていいぞ」
「流石先輩」
早速場外攻撃を仕掛けてきた直斗だが真は引っかからずに片づけるよう言い、直斗はくすくすと笑う。やはり強かさが普段の直斗よりも増していた。
「では、さっそく」
「ああ。10ポイントで頼む」
真が10ポイントのチケットを一枚テーブルに置き、直斗も承諾すると流れるようにトランプを互いに五枚ずつ配り、残った山札を二人の間にとんと置く。それを合図に真は自分の手札を確認した。
(ハートの2、ダイヤの8、クラブの5、クラブの2、ハートの4か)
とりあえずハートとクラブの2同士でワンペアは達成している。真は何か揃えば御の字、程度に考えてハートの4とクラブの5を捨てた。
「二枚捨てて二枚引く」
「では僕も」
互いに二枚ずつ捨てて二枚カードを引き、真は手札を確認。代わりに来たのはスペードの7とダイヤの3、結果はハートとクラブの2のワンペアのままだ。
「さて、勝負しますか? 下りますか?」
「最初なのに下りるというのも味気ないだろ? 俺はワンペアだ。そっちは?」
直斗の確認に対し真は勝負を宣言。自分の手札を見せると、直斗はふふっと笑った。
「残念。僕はノーカードでした。先輩の勝ちですね、ワンペアでの勝利だから……10ポイント差し上げますね」
直斗の手札はスペードの5、クラブの4、ダイヤの10、ハートの1、ダイヤの8。確かに一つも役が揃っていなかった。
「さて、続けますか?」
「ああ。この二十ポイントを賭ける」
「了解しました」
真は机に乗せたままの合計20ポイントチケットを賭けると示し、直斗も頷くとカードを回収。再びよくシャッフルする。そして配られたカードを真は確認、再び真と直斗のポーカー勝負が幕を開けた。
「……ふう。この辺にしておくか」
「ええ。楽しいゲームでした」
数回のゲームの後、真が席を立つと直斗も息をつく。いつの間にか観客も集まっており、特にゲームセンター担当の生徒は「白鐘と渡り合った、だと……」と絶句していた。
「では、合計五十ポイントのチケットを差し上げますね」
「サンキュ。じゃあな」
「はい」
勝利し敗北しを繰り返し、最終的には真が五十ポイント分勝利に終わる。真は五十ポイントチケットを受け取ると挨拶をして二組を出ていった。そのまま隣の三組へと足を運ぶ。
「お、先輩。らっしゃいッス」
「完二、お前は雑貨屋か」
「ええまあ。俺元々三組だし、ならここでいいかなってよ」
店番をしているらしい完二は笑いながらそう答える。雑貨屋らしくラインナップは色々揃っているが、行っているのは女子がメインなのだろうか。ぬいぐるみやアクセサリーのような女物が多い様に思え、一応男向けのキーホルダーなどの小物も置かれてはいるが女物がメインになっているように見える。
「あ、先輩。いらっしゃいませ!」
「よ、松永」
と、真の文化部の後輩である松永綾音が挨拶をしてきた。真も軽く右手を上げて挨拶を返す。
「あの、先輩。あの編みぐるみですけど凄いんですよ! なんと巽君が作ったんです!」
「でっ!? おい松永声がでけえ! それは秘密だっつっただろうが!?」
「あっ!? ご、ごめんなさい!!」
「あーいや、まあ先輩ならいいんだけどよ……」
松永は完二の前に並ぶ凝ったあみぐるみを指しながら興奮したように言うが、それを聞いた完二が慌てたように叫ぶと松永は慌てて頭を下げ、完二も真なら知っていることだからと松永を許す。それから完二は注意深く周りを見回すが、他のクラスメイトもお客さんも接客や商品に夢中でどうやら松永の声は聞こえてないらしく、彼はほっと安堵の息をついた。
「完二、お前……」
「ええ、まあ。この前あのガキにかっこいいって言われてから……まだ吹っ切れたとか、そういうんじゃないんスけど、こういうのも悪くねえっつうか……松永は雑貨屋の希望だったし、先輩の後輩みたいだったんで、相談したんスよ。編みぐるみを置けねえかって……」
「それで、委員長に相談をして、クラスの皆には私の知り合いが作ってくれた、ということにして置く事にしたんです」
「や、やっぱまだその、知ってる奴には恥ずかしいっつーかよ……」
松永は委員長に事情を話した上でメイドイン完二なのは内緒にして彼の作った編みぐるみを商品に追加したらしく、完二は照れくさそうに笑いながらそう言う。しかし自分が作ったという事は内緒ではあるが自分の作品をこうやって出している事が進歩だな、と真は考えた。
「っつーか、あのガキにまた纏わりつかれてよ、今度は母親に頼まれたとかでネコだの犬だのピンク色のワニだのを作ってくれとかお願いされたんすよ。お金払うからとかよ……なんか変な事になっちまったぜ」
完二は苦笑交じりながらも嬉しそうに笑いながらそう言っていた。
「巽くーん。こっちの段ボール箱運んでくれなーい?」
「おう! んじゃ先輩、また後で。松永、ちっとでいいからここ頼んだぞ」
「ああ」
「はい!」
すると入り口近くで段ボールを引きずっていた女子が完二を呼び、完二も快い返事をすると真に「また後で」と挨拶。松永に僅かな時間ながら店番を頼むと女子の方に走っていき重そうな段ボールを軽々と持ち上げ運び始めた。
「完二も大分馴染んでるんだな」
「はい。まだ他のクラスとはそこまでっていうわけでもないんですが、三組の中では力仕事とかで頼りにされてるそうですよ」
真が思わずそう呟くと松永がこくりと頷き、笑顔でそう返したのであった。
すると教室の外、一組の方から何かざわざわという物音が聞こえ始める。
「どうしたんでしょう?」
「俺が見てこよう」
「あ、はい」
首を傾げる松永に真はそう言い残し、教室を出ると一組の方へと歩いていく。
「なぁなぁいいでしょ、りせちー。ちょっと文化祭を案内してくれてもさー」
「一緒に遊ぼうぜ、りせちー」
「仕事中ですから」
一組を覗き込んだ真に目に映るのはどうにも柄の悪い様子の他校生がりせを誘い、りせがそれをあしらっている光景。実家である豆腐屋の手伝いをしている時にもそういう事はあるのかやけに手慣れていた。しかし相手の方もしつこく誘い、だがりせも淡々とあしらうのみ。それが繰り返され、ついに他校生は我慢の限界になったのかりせの腕を掴んだ。
「いいから来いって言ってるんだよ!」
「きゃっ!?」
怒号を上げる他校生の男子にりせが悲鳴を上げる。
「そこまでだ」
それを見た瞬間、真は二人の間に割り込むと他校生の腕を掴む。
「な、なんだよテメエ!」
「くじ……りせは俺の仲間だ。乱暴は許さん」
「先輩……」
普段名字呼びだがここは名前呼びにした方がなんかそれっぽい、という感じのノリでりせを守るため他校生の不良を睨みつける真。それにりせが感激したように声を漏らした。
「うっせえんだよ! テメエふざけてんなら――」
「先輩! 何があったんスか!?」
怒号を上げる他校生の不良だが、それは乱入してくる完二の声によってかき消される。
「た、巽完二……」
「先輩。一応近藤先生を呼んでくるように言っておきました」
「ああ、ありがとう。白鐘」
完二の登場に怯む他校生。さらに後ろから直斗が呼びかけると「ぐぅ!」と唸った。
「くそ、行くぞ!」
「お、覚えてろ!」
完二がいる上に教師に捕まったら面倒と思ったか、すぐに教室を出て行き逃げ出す他校生の不良。それから少し遅れてやってきた近藤先生に一組のメンバーが事情を説明し始める。
「助けてくれて、ありがとね。先輩」
「ああ」
にこっと微笑んでりせはお礼を言い、それに真はそう返す。
「お礼に、ここの駄菓子半額にしたげる! どんどん買ってって!」
「はは……」
10円、20円のものを半額にしたところであまり痛手はないんじゃないか、と素人ながらに考えて真はりせの提案に苦笑。それから直斗のところで稼いだ70ポイント分のチケットを差し出した。
「じゃあ、これで適当に見繕ってくれ」
「了解しました!」
真からの注文にりせは満面の笑顔で頷いてぴしっとおふざけの敬礼を取ると駄菓子を適当に選別していく。
「せんぱーい。特別サービスに一つだけすっぱい三つのぶどう入れてあげようかー?」
「ああ、頼む」
そんな流れがありつつ、りせは70ポイント分の半額の駄菓子+αを真に渡す。
「ありがとうございましたっ!」
「ああ、サンキュ」
ビニール袋を手に笑顔を添えて真に渡し、真もビニール袋を受け取ると一礼して教室を出る。
「じゃあ、頑張れよ」
「うん!」
「僕達のところにもまた来てください」
「んじゃ、また後で!」
一年生にそう別れの挨拶をし、彼は教室を出ていくと、せめて駄菓子でも差し入れてやろうと思いながら自分達のクラス、合コン喫茶へと戻っていった。
《後書き》
お久しぶりです。全然流れが思いつかず、ぐだぐだしていたら遅くなりました。
今回は文化祭の一日目。合コン喫茶に完二ではなく命を放り込みました。通常文化祭って数日に分けてやる場合、一日目は学内で学校外参加者は二日目からというのが多いそうですがここは一日目から校外参加オッケーという設定でいきますのでご了承ください。ついでに一年生部分は完全オリジナルでちょいと考えてみました。完二のコミュついでにさりげなく進められたし。
次回はミスコンや女装大会を予定しております。ですが、ちょっと後述の理由により軽く心折れてるのでまた大分遅れる事になりそうです。また長くお待たせする事になりそうですが、どうぞご容赦くださいませ。
で、心が折れた理由ですが。
不注意でP4Gの本作品資料用周回データを消してしまって、幸いその直前の資料用周回データである修学旅行編直前部分のデータがあるから今そこからやり直してるところです。どうにか今回の文化祭部分は骨組みは書き上がってますので、あとオリジナル部分さえ書ければ投稿可能ですが、それ以降、つまりサブイベハロウィン部分及び11月分からは周回データを進めていかないとどうにもって感じです。
そのためしばらくこの作品の更新は遅れる事になりそうです。ただでさえ遅れ気味なのに申し訳ありません……またあの長くややこしい直斗ダンジョンをクリアせねばならんのか……そしてコミュとかクエストとか諸々もやり直し……。
無論、エタる気はありません。気長にお待ちいただければありがたいです。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。