ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第五十五話 文化祭準備

10月25日。今日は朝から雨の予報で実際に登校途中に雨が降り始め、真は差した傘を片手に通学路を歩いていた。

 

「おはようございます、椎宮さん」

 

「ああ、白鐘。おはよう」

 

その途中で直斗に出会い、互いに挨拶を交わして共に通学路を歩く。と、直斗がアンニュイな様子で息を吐いた。

 

「雨……嫌ですね」

 

言葉少なく直斗は呟く。「今は誰も失踪していないが、それでも何か落ち着かない」ということだ。

 

「わ、悪い、入れてくれっ!!」

 

すると慌てた様子の陽介が駆け寄り、強引に真の傘に入る。

 

「お、俺も頼んます!」

 

「こっちはもう満員だよ! お前、直斗に入れてもらえ!」

 

続けて完二が駆け寄るが真の傘は満員、陽介が苦言を漏らす。

 

「どうぞ、巽君。そのままでは風邪を引きますよ」

 

「なっ!……俺とコイツが一緒の傘だぁ? じょ、冗談じゃねえ! そんな事したら、その、つまり……あ、あ、“相合傘”じゃねえか!」

 

完二を迎え入れようと傘を高くする直斗。しかしそれに対し完二は照れ、その理由を聞いた陽介が呆れた視線を完二に向ける。

 

「相合傘って、お前……ガキじゃあるまいし……」

 

「うっせ! つーか花村先輩がどいてくださいよ!」

 

「……ムチャクチャ言ってんな、コイツ」

 

完二は自分が真の傘に入るから陽介はどけと言い始め、陽介は呆れつつも「ま、別にいいけどさ」と続けて直斗の傘に入ろうと彼女に声をかける。しかしそこで完二が「ふざけた事言ってんじゃねえぞ!」と声を荒げ、それを聞いた陽介が「お前どうしたいんだよ!?」とツッコミを入れた。

 

「あの、僕は別にどちらでも……」

 

「……しょうがない。陽介、傘持ってくれ」

 

「へ? お、おう」

 

困った様子の直斗に真は呆れたようにため息をつくと陽介に傘を押し付ける。それに陽介が困惑した様子で受け取ると真が直斗の傘に入った。

 

「「え!?」」

 

「このままアホな言い合いしてたら遅刻する。陽介と完二が一緒の傘なら文句はあるまい」

 

「なるほど、第三の選択ですね……予想外でしたが、僕は構いませんよ」

 

男性二人の呆けた声に真はそう返し、直斗は感心した様子でうんうんと頷く。

 

「……くそ、しゃーねぇな。花村先輩、一緒に入ってってやるよ」

 

「偉そうに言うなよ!」

 

陽介と完二はまだコントを続けつつ、四人二組で雨の中歩き始める。

 

「そういえば、先輩。前のカードの件ですが……」

 

すると直斗が陽介と完二に聞こえないように真に声をかける。実際に雨音でかき消されているのか二人には聞こえていない様子だ。

 

「やはり、何も書いていない。ただの真っ白なカードです」

 

直斗はそう結論から告げる。ただ、紙の厚さの割りに手触りが少し硬いというかゴワゴワしている。と補足を入れた。

 

「文面がない以上、心当たりといっても浮かびませんね。恐らく、イタズラでしょう。お手を煩わせてすみませんでした」

 

「つまらない話だったな」

 

「あははっ。確かに、この先を期待しそうですが」

 

直斗の出した結論に真が苦笑すると直斗も子供っぽく笑う。

 

「ですが、この前の脅迫状の件もあります。下手に抱え込むべき事情が増えなかったのはむしろありがたいでしょう」

 

だが次に直斗は真剣な目つきで続け、その言葉には真も同意する。

 

「え、と……その、報告は以上です」

 

どこか歯切れの悪い様子で直斗は口をつぐむ。

 

「……何かあったのか? 雨の日だからとか関係なさそうな気がするんだが」

 

そんな彼女の様子に真は何か勘付いたのか静かに直斗に問いかける。と、直斗は苦笑を漏らした。

 

「隠し事は得意なつもりだったんですが、まだまだでしょうかね……昨日の事なんですが……」

 

真の心配そうな言葉に対し直斗はそう話し始める。昨日、少し用事があって遅くなっていた時に薬師寺という、彼女の祖父の秘書をしている人から電話があったのだが、その内容は白鐘の本家に何者かが侵入したらしく、自分の部屋が荒らされていたようだが何か盗られたものに心当たりはないか。というもの。さらに祖父の持ち物からも直斗に関するものがいくつか消えたそうだ。

 

「そちらの方は何とも言えませんが、僕は無くして困るものはないので……」

 

「イタズラと断じていたカードと同時期にお前を狙ったらしい泥棒……偶然と思えないのは最近が最近だからか?」

 

「ええ、そこなんですよね……」

 

直斗の説明を受け、真がそう呟くと直斗も同意するように頷く。と、彼女は少し置いて慌てたような声を出した。

 

「と、ともかく。僕の事はあまり気にしないでください。僕もあなたも、今は他にやることがあるはず……あなたに心配されると、その……どうしていいのか……」

 

そう言う直斗は珍しく落ち着かない様子を見せていた。

 

それから時間が過ぎて夜中。陽介は自宅の自室で合コン喫茶の責任者として必要なものを考えていた。内装に関しては安っぽいが折り紙で作った小さな輪を繋ぎ合わせるというありがちな飾りやジュネスの100均で売っているようなテーブルクロスなどの用品で間に合わせられる。というか予算を考えると安く済ませられるところは安く済ませないと確実に予算オーバーしてしまう。あと考えなければならないのは一応喫茶という体裁のためのメニューというところだろう。

 

(ま、そこもジュースやクッキーでも買ってくれば形にはなるか……)

 

流石に全部買って済ませるわけにもいかないから、明日辺りにでもお菓子作りが出来たりちょっとつまめる軽食を作れる奴はいないか聞くとしよう。と陽介は考えるとそれらを書いていたノートを閉じ、鞄の中に放り込む。

 

「ヨースケーヨースケー」

 

「ん? なんだよクマ」

 

すると現在花村家に居候をしているクマが彼の部屋に入ってくる。

 

「ここに書かれている文化祭って何クマか?」

 

そう尋ねてくるクマの手に持たれているプリント用紙に陽介は視線を向ける。それには[八十神高校文化祭]と大きく書かれており、どうやら学校で配られ親に渡しておいた文化祭のチラシをクマが見つけたらしい。と納得した陽介は文化祭について簡単に説明。それを興味深く聞いたクマは、プリントに書かれてある項目を指差して「これは何クマか?」と、さらに質問を重ねる。クマが指差しているのは“ミス八高・コンテスト!!”という項目だ。

 

「あぁミスコンな。ま、一言で言っちまえば、うちの学校で一番可愛い子は誰かってのを決めるんだよ」

 

「なんと! そのミスコンにユキチャン達は出るクマか!?」

 

「いや、出ねえだろ」

 

可愛い子を決めるという説明にふんふんと頷きやや興奮気味のクマが続けて尋ねるが、どこか冷めた様子の陽介が答えると、クマはガーンという擬音がつきそうなほどに残念そうな顔をし、がくりと膝をついた。

 

「そ、そんなぁ!……そんなのもったいないクマー! ユキチャンは美麗だしチエチャンは華麗だし、これがミスコンに出なくって何がミスコンクマかー!」

 

「もったいないっつってもよお……」

 

芝居がかった大袈裟な動作で膝をついた後、今度は背中を床につけて手足をじたばたという分かりやすいというより古臭い子供の駄々をこねる行動をするクマに陽介は呆れ顔を見せる。それからクマは疲れたのか手足を止め、もう一度チラシを見直す。すると彼はピーン、と天啓を感じたように目を見開くとがばっと起き上がった。

 

「ヨースケ! ココ! ココに他薦でも参加を受け付けるって書いてあるクマ!!」

 

「ん、どれどれ……へー。他薦も受け付けるのか……」

 

目をキラキラさせてそう言うクマに陽介はチラシを確認。確かにそんな文言が書かれており、しかも“学校外からの参加も受け付けます”という文言が書かれていることを見つける。

 

「いや、もうこれミス八高じゃねえだろ……」

 

学外から参加してミス八高ってのもおかしいだろとツッコミを入れる陽介。

 

「ヨースケ! つまりヨースケが言えばユキチャン達がミスコンに出場してくれるんだよね!?」

 

「ま、そういう事になるけどよ……」

 

クマはキラキラとした目で陽介に迫り、陽介も困った顔を見せるがやがて根負けしたように頷いた。

 

「へいへい分かった分かった。推薦するって」

 

どうせ嫌なら勝手に辞退すんだろ。と、鬱陶しいクマをどかしながら陽介はミスコン他薦用紙――チラシの裏に印刷されていた――を書き始める。推薦するのは里中千枝に天城雪子をはじめとした自称特別捜査隊のメンバー。最後に推薦主である自分の名前を書いて用紙は準備完了だ。

 

「じゃ、これを明日提出すっからな」

 

「ありがとーヨースケー! これでユキチャン達の水着審査が見られるクマー!」

 

わーいわーいと万歳をするクマに対し、陽介はミスコン自体を知らなかったくせに一体どこでそんな知識をつけてくるんだよ。とクマの台詞に頭を抱える。が、そこで彼は何か気づいたようにチラシを裏返し、もう一度ミスコンの項目を確認した。

 

「……クマ、ミスコンに水着審査はねえぞ?」

 

「なんですとぉ~!?」

 

その言葉にクマが驚いた様子でチラシを奪い取り確認する。ミスコンは所謂ステージ上に上がってのアピールのみ。水着審査の文字はない。その事実に愕然としたクマは、ガックリと項垂れるが、そこである一文に目が留まった。それは“ミス八高・女装大会!! 優勝賞品『ミス八高・コンテスト!!審査員権』”。

 

「ヨースケ! これ! これにクマは出れるクマか!?」

 

「は、はぁ!?」

 

その一文に気付いたクマが、凄い勢いで陽介に迫り、あまりの剣幕に圧倒された陽介はクマが指している項目を確認。“ミス八高・女装大会!!”という一文を確認、さらに悲鳴を上げた。

 

「はぁぁっ!? お前、女装大会に出る気かよ!?……こ、これも学校外からの参加は受け付けてるみたいだけど……」

 

「クマなら優勝間違いなしクマ!」

 

驚く陽介に、クマは自信たっぷりに優勝間違いなしと言い切る。

 

「ま、確かにお前、見た目は良いからな……それ以前に参加者が居ないと思うけどな」

 

クマ一人しか参加者がいなければクマの優勝は決まりだろう。どうせ自分は関係ないしクマが出たいというならわざわざ止めもするまいと、若干面倒くさく感じながら、同じように女装大会へのクマの推薦を書く。そして「明日提出するけど、絶対に後悔すんなよ」と何度も念押し。クマが「分かってるクマー!」と答えて上機嫌で部屋を出ていくのを確認して、陽介は鞄の中に件のチラシを放り込むとさっさと床についたのであった。

 

騒動が起きるのは、それから二日後だった。

10月27日。昼休み。真と完二は陽介に呼ばれて――というか本人も千枝に頼まれたらしい――屋上へとやってきていた。

 

「どーいうことか、説明してほしいんだけどっ!?」

 

「な、何がだよ!?」

 

「ミスコン! 勝手にあたしらの名前書いたでしょ!?」

 

千枝の怒号に陽介が怯むと千枝は畳みかけるようにミスコンに勝手に参加させた事を問い詰める。朝、掲示板の前に人だかりが出来ているのを真も見たのだが、どうやら内容は八高のミスコンに千枝、雪子、りせ、直斗が参加している。という事らしい。なお教諭の柏木典子とクラスメイトの大谷花子も参加のようだ。

 

「な、なんで疑いが俺一択なんだよ!?」

 

「ねえ、椎宮君、完二君……心当たりはある?」

 

たった一人責められている陽介が反撃し、それに対して雪子が他に疑わしいと言える真と完二に問う。二人は無言で首を横に振った。

 

「ほら、二人は知らないって」

 

「いやいやいやおかしいだろ!?」

 

雪子はその反応だけであっさり二人を容疑者から外す。それに陽介は悲鳴を上げた。

 

「里中先輩、天城先輩。遅くなりました」

 

すると屋上に直斗が入ってきた。気のせいか普段から冷静な声がさらに重く、冷たい雰囲気を見せている。

 

「どうだった?」

 

「柏木先生からコピーを貰ってきました」

 

雪子の問いかけに直斗はそう返し、陽介の元まで歩き寄ると彼に一枚の紙を突きつける。

 

「この、“ミス八高・コンテスト!!”参加者推薦用紙ですが。僕達四人の名前と共に、推薦者の欄に花村陽介、と先輩の名前が書かれています」

 

「あ、いや……い、嫌なら辞退すればいいだろ? ネタで済むわけだし」

 

「それが出来ないから怒ってんだっつの!」

 

物的証拠を突きつけられた陽介は顔を青くしながら、推薦した時に思っていた「嫌なら辞退すればいい」と提案するが千枝はさらに怒号を上げる。

 

「今年は主催の柏木の仕切りで、申請されたら他薦でも強制なのよ!」

 

「マジ? そっか……そういう細かいレギュレーションは見落としたかも……」

 

千枝の怒声に陽介は思わず口を滑らせ、屋上が沈黙に包まれる。

 

「やっぱオマエじゃんか!!!」

 

「やっべ……」

 

「花村先輩……もしかしたら花村先輩の名を騙った何者かの犯行かもしれないと信じたかったんですが……」

 

千枝の怒号に陽介は口を押さえ、直斗は冷たい目で陽介を見る。同時に雪子と千枝は陽介に文句をマシンガンの如く連射し始めた。

 

「ねえ、先輩達はさ、私達に出て欲しい?」

 

「そ、そりゃーまーな」

 

りせの問いかけに陽介が素直に答える。

 

「だって天城とか、地味に学校中で人気じゃん? その上、“アイドル”に“探偵王子”だぜ? こんな注目ヒロインが全員不参加じゃ、ミスコンあり得ないって!」

 

「あたしは関係ないじゃん!」

 

陽介の言葉に千枝が頭から湯気が出てそうなほどに顔を真っ赤にして巻き込まれたことを怒る。

 

「……悪かったぁね、関係なくて!!」

 

「ぐふぁっ!?」

 

直後、自分一人だけ特に人気がないと暗に言われている事に逆ギレし、陽介を八つ当たり気味に蹴り飛ばすのであった。

 

「いや、朝に少し聞いたが。里中は意外と隠れファンが多いらしいぞ。一条も――」

 

真はうっかり口を滑らせそうになり、その様子に千枝が首を傾げる。

 

「ふえ? 一条君がどうかしたの?」

 

「――いや、なんでもない。とにかく、里中も人気がある。それだけは確かだ」

 

不思議そうな表情をする千枝に対し真はそう断言。いざ人気があると言われると恥ずかしいのか、千枝は頭をかきながら「そ、そんな照れるな~」とにへへ、と笑いながら呟いていた。

 

「な、完二も出て欲しいよな?」

 

「あ?……んなん、興味ねえスよ、俺……」

 

陽介の言葉に、話を振られた完二は興味なさそうに呟くが、その時ちらりと直斗に視線を向けてしまい、直斗が不思議そうに首を傾げると慌てて顔を逆方向に逸らす。

 

「……タツミくんは、ぜひナオトくんに出て欲しいってさ」

 

「なっ……い、言ってねえよ!」

 

その様子に陽介はにやつきながら返し、完二が怒号で返すが、彼は構うことなく真の方を見た。

 

「で、真はどうなんだ? つか、出て欲しいよな?」

 

「あまり無理に、とは言えないが……個人的には出て欲しいかな」

 

陽介の言葉に真は照れたように笑いながら答える。まさか真が敵に回るとは、と千枝と雪子が固まった。

 

「あ、いや……謎が深まった事件しかり脅迫状しかり、最近色々暗い事が多いからな。祭りで思いっきり騒いで空気を変えたいってだけだ。里中や天城は華があるからな。もちろん久慈川と白鐘もだが」

 

下心なくそう答える真に、千枝と雪子が照れたようにうつむく。

 

「期待してくれてる人がいるなら、久々に頑張っちゃおうかな。事務所とかは、この際ムシで」

 

するとりせがミスコン参加に前向きな発言をする。それを聞いた陽介が話に乗っかって「クマも楽しみにしてるぜ。つか、俺に全員の推薦プッシュしたのあいつだし」と話した。

 

「クマ公もグルか……」

「あのクマ、燃やしちゃおうか……」

 

それを聞いた千枝と雪子が不穏な言葉を口にする。

 

「困ったことになりましたね……断れないのが確定なら、もう議論に意味はないですが……」

 

そこで直斗が困った様子で呟いた。男装をしている直斗からすれば自分がミスコンのステージに上がるだけでも場違いな気がしているようだ。

 

「なんとか学校側と……」

 

「も……問題、ねぇんじゃ……ねえか?」

 

どうにか交渉をしようかと考える直斗にそう完二が声をかけた。

 

「て、てか出ろ! いいから!」

 

だがその完二はどこかテンパっており、陽介が「いつにも増してオーバーヒート気味」とその様子を称した。

 

「なによ完二、回りくどい事言ってないで、気になるなら言えばいいのに。じゃあ、ミスコンは私達四人とも参加でOK?」

 

「な、何を言ってるんですか!?」

 

りせはあっさり四人ともミスコン参加決定とまとめ、その言葉に直斗が慌て出す。

 

「その……頼む、出てくれ」

 

だが直斗に向けて完二が深く頭を下げた。

 

「その時に、だな。俺の、疑惑が、完全に晴れるってえか……頼む!! 俺を男にしてくれ!!」

 

「疑惑?……何の話?」

 

完二の言葉に直斗は困惑気な表情をするが、完二が「いいから出ろ! テメエ名探偵だろうが!」と叫び、直斗は「探偵関係あるの!?」とむしろ困惑を深めていた。

 

「……分かったわよ」

 

千枝がため息交じりに渋々参加を受け入れる。

 

「その代わり、対価はきっちり払ってもらうからね!」

 

「お、おう……ジュネスのビフテキセットくらいなら奢るけど……」

 

「あ、そういうの今回はいいわ」

 

「え!? お、お前が肉につられないなんて……」

 

「肉よりいい事を思いついたからね~」

 

千枝の言葉に陽介はいつものように肉で手を打とうとするが、千枝がそれをそっけなく断ると陽介は驚いた表情を見せる。それに対し千枝はきしし、と悪戯っぽい笑みを陽介のみならず真や完二にも向けていた。

 

それから翌日10月28日、朝。真と陽介は最終段階として合コン喫茶のメニューについて話し合いながら登校していた。

 

「んじゃあ、軽食については取り分けが出来るサラダとかで……」

 

「ああ。あらかじめ盛り付けてラップをかけて、クーラーボックスか何かに保存しておけば事足りるだろう。一応切らした時のためにレシピなどのメモも用意しておく」

 

「結局真に頼りっきりだな、悪い」

 

結局軽食に関しては調理経験があると共に比較的知識が豊富な真が全権を任されてしまい、真は材料を簡単に盛り付けるレベルのサラダを提案。保存方法も考えていた。そして彼らが校門をくぐったその時だった。

 

「な、なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁっ!!??」

 

校内から突然聞こえてきたのは完二の悲鳴。真と陽介は顔を見合わせると走り出した。

 

「完二! どうした!?」

「な、何かあったのか!?」

 

「つっ、椎宮先輩! 花村先輩! これを見てください!」

 

真と陽介の呼び声に完二は掲示板を指差す。そこに目立つよう書かれているのは“ミス八高・女装大会!!”という文字だ。

 

「ああ、女装大会にクマの名前が書かれてるって事か? あいつがどうしても出たいっつうからよ。どうせあいつしかいねえんだし、消化試合消化試合」

 

「そ、それだけじゃねえんスよ!」

 

クマを推薦した陽介は完二の驚愕の理由を察したようにそう話すが完二は首を横に振って返す。

 

「なんだよ、他に参加者いるの? ハハ、誰だよ、んな物好きは」

 

まさかどっかずれているクマ以外に女装大会なんて恥さらしの場に出る人間がいるとは思っていない陽介は笑いながら掲示板を確認する。

 

「えー、なになに……“花村陽介”……俺だーッ!?」

 

「それだけじゃねんスよ! ほら、下!」

 

「なっ!? “巽完二”!? しかも“椎宮真”!?」

 

「はぁっ!?」

 

陽介の言葉に真も驚いて掲示板に駆け寄る。そこには確かに自分の名前が書かれていた。そしていつの間にか集まっていた登校途中の生徒が掲示板を確認するなり「花村、期待してるぜ」と呼びかけたり、女子生徒が「結構多いねー。去年二人とかじゃなかった?」「他薦でも強制らしーじゃん? 誰かが推薦しちゃったんじゃん?」と話すがその中で「意外と自薦だったりして」という言葉が出たり「それ割と真顔でキモイ」と話していたりしている。

 

「誰かが、推薦?……」

 

陽介がその中の一言に反応し、眉間にしわを寄せてそこに手を当てる。

 

「あいつらだ……やりやがったな……」

 

そう呟き、陽介は「行くぞ!」と号令をかけると三人は二年二組へと走り、教室のドアを開ける。そこでは千枝と雪子がクラスメイトの女子と談笑している姿があった。

 

「おいっ、里中!」

 

「ん? あ、おはよー。早いね」

 

「早いね。じゃ、ねーよ! どーいう事か説明してもらおうか!?」

 

「何が?」

 

陽介が血相を変えて千枝に詰問するが、千枝はきょとんとした顔を見せる。なお談笑していたクラスメイトの女子は血相を変えた陽介にびっくりした後、話の腰を折られたせいかその場を離れていた。

 

「何が? じゃねーよ!! 女装大会! 俺らの名前、書いただろ!」

 

「あー、アレか。人数が増えて、柏木先生も喜んでるそうだよ」

 

その怒号にも近い言葉に千枝が暢気に答える。

 

「おっまえ、女装だぞ!? 女装!!」

 

「先にやったのはアンタだろ!!」

 

陽介の言葉に対し、千枝は「先に許可も取らず出たくもないミスコンに参加させられたのはこっちだ。これでおあいこだ」と主張する。それ自体は正論のため陽介も言い返せず、弱々しい声で「それとこれとは、違うだろうよぉ」と漏らすのが精一杯だった。

 

「大丈夫」

 

すると、雪子が自信満々に頷いた。

 

「すっごく綺麗にしてあげる。ね?」

 

「そういうこと言ってんじゃねーの!」

 

しかしその返答は女装大会への参加が前提となっており、陽介が悲鳴を上げると完二も「男にはプライドってもんがあるんスよ!」と続く。

 

「頑張らせてもらおう」

 

「うっお!? マジかよお前!?」

 

だが続く真は参加に前向きな姿勢を見せ、陽介と完二がびっくりして彼の方を見る。すると真は肩をすくめた。

 

「元はと言えば当事者に許可を取らずミスコンに出したのは確かだからな。こっちも同じことされても文句は言えない」

 

「いや、俺と先輩は完全にとばっちりじゃねえスか?」

 

「参加を促した。という意味で言うなら同罪だ」

 

真の言葉に完二がツッコむと、止めるのではなく参加を促した時点で同罪と真は答え、次に顔に手を当てる。

 

「……というか、そうとでも思ってないと流石にやってられない」

 

「「な、なんかごめん……」」

 

結局開き直っているだけの様子の真に陽介と千枝が思わず謝罪の言葉を口に出した。

 

「はぁ……まあ、とりあえず。名前が推薦されたら強制参加だ。たかが祭りの一イベント、こうなったら下手にあがかないで開き直った方がマシだ」

 

「そうそう。文句があるなら柏木センセに言いに行って」

 

「か、柏木が聞き入れるわけねえじゃんか……」

 

真は諦観の念を持って、祭りなんだからと開き直る事に決め、千枝が文句があるなら柏木先生に直談判してねと続く。それに陽介も強敵に対し頭を抱えて無言になった。

 

「あ、諦めるなんて先輩らしくねえっスよ! 俺、ほんっと嫌っスからね!」

 

「完二君、出席日数とか大丈夫?」

 

諦めずに抵抗しようとする完二だが、雪子の何気ない一言に硬直する。

 

「あまり、先生をがっかりさせない方が、いいと思う」

 

「先輩……さらっと怖いスね……」

 

真顔でサラリと脅迫めいた事を言ってくる雪子に対して、完二がうつむいてそう呟いた。雪子も千枝程表に出していないだけで、それほどまでに今回の事を怒っている様子である。

 

「プロデュースはあたし達に任せてもらっていいしね。りせちゃんもいんだからさ。キレイになんないワケないし」

 

「……絶対、キレイになるんだろうな……」

 

「保証する」

 

千枝の言葉に、何か気になったのか完二が問うと雪子が真剣な顔で頷く。

 

「……ちょっ、お前何出る気になってんだよ!?」

 

「出るからには、咲くしかないっしょ!」

 

陽介の言葉に対し、完二は男らしくガッツポーズを取って宣言する。

 

「そーいう男らしさ、やめてくれよ! 俺は絶対――」

「サボったら柏木、怒るだろうな……来年は完二君と授業受けてたりして」

 

今度は陽介が抵抗しようとするが、今度は千枝がサラリと脅迫。完二はまだしも自分のクラス担任であり、陽介は硬直した。

 

「陽介」

 

すると真が陽介の肩にポンと手を置く。

 

「いいから出ろ」

 

一トーン落とした脅しの言葉。それは「自分達が出るのに元凶であるお前だけ逃げるのは許さん」と語っており、陽介はがくりと肩を落とす。

 

「ど……どうしてこんな事になったんだ……」

 

陽介の口から漏れ出る言葉。その小さな声は誰にも届かずに霧散するのであった。




《後書き》
お久しぶりです。今回は割と早めに投稿できました。
今回は文化祭準備編。最初に原作にあったイベントついでに直斗コミュを進めさせましたけど、大部分がミスコン及び女装大会で潰れました。
さて次回はお待ちかねの文化祭です。色々オリジナルを考えておりますので長くなりそうで、いざとなれば前編後編に分ける事も視野に入れています……下手したら無駄に長く書く癖がある自分のこと、ミスコンと女装大会で一話潰す可能性さえある……短くまとめる能力が欲しい。(汗)
今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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