ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第五十四話 法王との真実の絆、家族の絆

10月22日。真は一人八十神高校への道を歩いていた。しかし彼の周辺の空気は重く、何かピリピリとしている。そのため通学中の生徒もやや真から距離を取っていた。

 

「お、おはようございます。先輩」

 

「あ、白鐘か……おはよう」

 

「何やらピリピリしていますが、昨日の事が原因ですか?……あまり気にしすぎるのもいけないと思います。そうやって気を張り詰めさせ、疲労させるのが狙いかもしれません」

 

「ああ、分かってる……白鐘、今日の放課後に屋上に集まるよう、完二と久慈川に言っておいてくれないか?」

 

「……分かりました」

 

声をかけてきた直斗に真は挨拶を返した後、放課後の集合を一年生組に伝えるようお願い。直斗もそれを了承すると二人は歩みを進めていった。

 

それから午後へと時間が過ぎ、ホームルームの時間となる。

 

「えー、知っての通り来週末の土日は文化祭です。そして知っての通り、ウチのクラスの出し物が決まってません。もー、みんなやる気ないでしょー?」

 

「今出てる案から決めちゃうから、各自一票を投票してくださーい」

 

クラス委員男子が呆れたように言うと、女子クラス委員がそう言い、「読み上げまーす」と言って現在クラスから出ている案を読みあげていく。だが休憩所、ビデオ上映室、自習室と、要するに準備もやる事もほとんどない案だ。男子生徒の一人が「要はどれも“なんもしない”って事じゃん」と呆れた様子で呟く。だがまた別の男子生徒が「ま、楽なのがいいんじゃん?」とも言っていた。

 

「最後、えっと……ご、“合コン喫茶”!?」

 

『はぁ!?』

 

クラス委員女子は最後の案を見て驚いた声を上げ、その内容に教室内からも驚きの声が上がる。

 

「おいおい、誰だ提案したの? 里中あたり?」

 

「違うっての!! 何を根拠に言ってんのよ!?」

 

しかしただ一人笑っている陽介は軽口を叩いており、千枝がツッコミを返す。だがこっちも特に驚いていなかった雪子は「合コン喫茶って……何?」とそもそも内容がピンときていない様子を見せていた。

 

「知らんけど……まあ誰も投票しないでしょ」

 

「そうそう、あくまでネタネタ。一個キワモノ混ぜとくのってお約束じゃん?」

 

「アンタかよ!?」

「陽介……」

 

千枝の言葉に陽介も同意、だがそれは彼がこの企画を提案したという自白に他ならず千枝は怒鳴り声でツッコミを入れ、真が呆れた顔を見せる。それからクラス委員二人が投票用紙を回していく。投票用紙と言うものの全くの白紙で、先ほど出された四つの案のどれか一つを記入して提出する形らしく全員が投票用紙に記入をして提出する。

 

「それじゃ、開票しまーす」

 

クラス委員女子が開票を宣言し、クラス委員男子が記入済の投票用紙を読み上げる。

 

「一票目、合コン喫茶。二票目、合コン……喫茶……あ、あれ? まじで?」

 

なんだか嫌な予感がする。とこの瞬間教室内の意見が一致した。

 

「三票目、ビデオ上映室。四票目……合コン喫茶」

 

合コン喫茶、合コン喫茶、自習室、合コン喫茶。と開票が進んでいく。そして全ての開票が終了した結果第一位は合コン喫茶。それも残る三つの案の票を足してもギリギリ競り勝つ完全勝利だ。

 

「ちょ、一位って……どうすんだよ!」

 

「オマエのせいだろっ!!」

 

慌てた陽介に千枝が怒鳴る。だが彼女は「入れた連中もどこまで本気なんだか。自分らでやるって分かってんのかな」とぼやいていた。すると雪子が振り返る。

 

「私、合コンって行った事ないから、ちょっとだけ、興味あったっていうか……」

 

投票者の一人がここにいた。だが「誰も投票しなかったら可哀想でしょ」という労いも見せており、そんな雪子に千枝は「犯人は花村だけどね」と呆れている。

 

「は、犯人とか言うな! 一位って事は、世論だろ、一応!」

 

陽介の言葉の次にクラス委員男子が「民主主義らしく、多数決で合コン喫茶に決まりました!」とどこかやけになった様子で言う。だが彼も「これってフィーリングカップルみたいな感じなのか?」と呟いており、内容を掴み切れていないようだった。

 

「ていうか、ほんとに大丈夫か? みんな、ちゃんと手伝えよー?」

 

クラス委員男子の言葉に、女子生徒の一人が「ていうか、先生達OKすんの?」と呟き、「柏木なら意外とすんじゃね?」と男子生徒の一人が答える。

 

「柏木先生は、例の二大コンテストの準備で忙しいってさ。だからクラスの出し物は生徒に一任だって」

 

その言葉に「うっわ、メンドくてブン投げただけじゃん!」と女子生徒が言い、「ご、合コン喫茶ってこれ……客、来るのか?」と男子生徒の一人が心配そうに呟く。さらには「てか、合コン喫茶ってぶっちゃけ何なの? 入れたけど」と他人事な声まで聞こえてきた。

 

「どうなっちゃうの……」

 

不安しかない教室内に千枝がそんな声を漏らす。

 

「陽介」

 

「お、おう、なんだよ?」

 

「言い出しっぺの法則。というものを知っているか?」

 

「……なにそれ?」

 

真は陽介を睨み、重い口調で言う。

 

「要するにだ……言った本人が責任を持ってやれ」

 

そう言って真は席を立ち、前に行く。そして突然真が前に出てきた事に驚いているクラス委員二人を放っといてチョークを持つと黒板にでかでかと「2-2 文化祭出し物合コン喫茶 責任者 花村陽介」という文字を書く。

 

「ちょ、あ、相棒!?」

 

「これはフォローしきれない。企画者のお前が責任を持って陣頭指揮を取れ」

 

悲鳴を上げる陽介を真は睨んで黙殺。バン、と黒板を叩く。「異論は認めん」という威圧が読み取れ、陽介は滅多に怒らない真が本気に近いレベルで怒っている事を察するとこくこくこくと静かに頷く。

 

「せめてもの情けだ。お前がきちんと指揮を執るのなら、その手助けには全力を尽くそう」

 

「お、おう……」

 

真は席に戻る時わざわざ陽介とすれ違うコースで動き、彼とすれ違いざまにぽんと肩に手を置いて言葉を残して席につく。陽介もその言葉にこくん、と一つ頷くと崩れ落ちるように席についたのであった。

 

それから時間は放課後に移り、真は朝直斗に指示を出した通り自称特別捜査隊八十神高校メンバー全員を屋上に集めていた。そして真は彼らに今日の朝、いや、昨日の夜から考えていた事を告白。

 

『……』

 

それを聞いた全員が呆けた顔を見せた。

 

「ま、待って待って! いや、えっと……ごめん、話についてけない!?」

 

一番に口を開いたのは千枝だが、彼の告白についていけていない。

 

「ま、待てよ相棒! お前、本気なのか!?……()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて!?」

 

この中では一番付き合いの長い陽介さえも真の提案、堂島遼太郎に自分達が調べているテレビの中の世界を教える。という事に驚きを隠せていなかった。

 

「本気だ」

 

「いや、でも先輩! 警察じゃ犯人をとっ捕まえらんねえから俺達でやってきたんじゃねえスか!? そりゃ堂島さんは信頼できっかもしんねえけど……」

 

陽介の焦った声での言葉を真は静かに首肯。しかし完二が反論する。下手な事を言い出してしまえば逆に監視をつけられ、身動きが取れなくなる可能性がある。昨日直斗が話した懸念、直斗もそれを忘れていないのか無言で彼を見つめていた。

 

[それについては、昨日真君から相談を受けたよ]

 

すると真の携帯電話からそんな声がする。スピーカーホンで皆に聞こえるようにしている、命の声だ。

 

[正直言って、僕は反対だったよ。堂島氏は実直な警察官だ。間違いなく信頼に値する……だけどそれとこれとは話が別だ。信頼できるからと言って安易にあの世界の存在を明かすわけにはいかない]

 

「ほら! 命さんだってこう言ってるじゃん! 考え直してよ!」

 

[里中さん……僕は、反対()()()って言ったんだよ?]

 

「……え?」

 

命の言葉を使い、千枝が真の説得を開始。しかしそれを遮るように命はそう続け、千枝の説得の言葉が止まる。

 

[私達も一緒に聞いてたんだけどね……うん、これは勝てないわ]

[そーそー。これは無理無理、理論理屈じゃ絶対に論破できないよ]

 

そこにゆかりと結生の声が聞こえてきた。

 

「……昨日、皆と相談した後に考えていたんだ。本当に、俺に出来ないことはないか……」

 

そして真は静かに語り出す。

 

「そう考えていた中で菜々子を見て、思ったんだ……これがイタズラではなく犯人からの警告だとしたら、犯人は少なくとも俺の家を知っている。今は脅迫状で終わっているが、これから先菜々子に……家族に被害が出ないとも限らない」

 

真はそこまで言うと頭を下げた。

 

「すまん。俺の自分勝手だとは分かっている……だが、もし菜々子に危険が迫るかもと考えたら……」

 

「……そうか、そうだよな……」

 

真の言葉を聞き、一番に陽介が頷いた。

 

「そうだね。警告が続いていけば、今度は家族がどうこうっていう可能性もあるんだ……」

 

「そうなったら、うちのババアや先輩らの両親はともかく一番危険なのは確かに菜々子ちゃんか」

 

「うん。まだ子供だもんね……抵抗しようにも大人の男性相手じゃきついかも……」

 

「確かに。そうなると警戒の意味合いを兼ねて堂島さんに話をしておくのも一つの手か」

 

「っていうか……菜々子ちゃんを引き合いに出されたらあたしらじゃ敵わないよ」

 

続けて雪子、完二、りせ、直斗、千枝も次々に納得の姿勢を見せた。

 

「……ありがとう」

 

「いいって事よ! だけど実際問題、堂島さんにはどうやって説明する気なんだ? 流石に言葉だけで信じてもらえるような次元じゃねえぞ? それこそ嘘っぱち並べ立てられて誤魔化されているって考えちまうのは直斗が証明してるぜ?」

 

真のお礼に陽介がにっと笑いながら返した後、遼太郎にテレビの中の世界を教える。という方向で話を進める。雪子が酔った(場酔い)勢いとはいえ修学旅行中に直斗に真実を明かした時、そう思うのも無理はないが直斗はむしろからかっていると思い込んでしまった前例を持ち出すと真はこくり、と頷いた。

 

「百聞は一見に如かず、だ」

 

「……それってつまり、堂島さんを実際にテレビの中に連れていく、ってこと?」

 

「ああ」

 

真の言葉に千枝が確認するように質問をすると真はこくり、と頷く。

 

「待って! そんな事をしたら堂島さんのシャドウが出てきちゃうかも……」

 

「んなの、俺らがついていって今まで通りボコっちまえば済む事ッスよ!」

 

そこに雪子が警告を発し、だが完二が拳を握りしめながら続ける。

 

「ちょっと待ちなさいよ完二! それはダメ!!」

 

しかしそれをりせが押しとどめた。

 

「なんだよテメエ、じゃあ堂島さんが危なくなってもいいってのか!?」

 

「そんな事言ってない! だけど……私達がついていったら、堂島さん、私達に聞かれたくない事全部聞かれちゃうかもしれないのよ!」

 

「僕も久慈川さんに賛成です。今までは救出のための不可抗力と考えても……本来ならばあまり不特定多数の人間に聞かれたくない事でしょう」

 

なんだかんだ言って遼太郎を心配している様子の完二に対し、りせは遼太郎の身体ではなく精神的な面で彼を心配する様子を見せる。自分達はまだ子供、世間の綺麗な部分だけを見て充分生きていける世界の住人。しかし遼太郎は大人でありしかも警官、世間の汚い部分を否応なく見せられ、その中で生きていかなければいけない世界の住人だ。一回り以上真達の年上である事もあり、今まで心の中で抑えこんでいた負の側面、シャドウとして具現するかもしれないものは彼らの比ではないだろう。アイドルとして大人の世界を少しでも知るりせがそう反論、探偵として警察社会の一端に身を置く直斗もそれに賛成した。

 

「そこは俺に任せてくれ。あらかじめそうなる可能性が高い事を教えておくし、俺が一人で叔父さんの護衛につく。万一シャドウが暴走しても皆が来るまでは持ちこたえられるはずだ……久慈川」

 

「オッケー。話が聞こえず、かつ危なくなったらすぐ援護に行けるようなとこで待機して、でかいシャドウ反応を察知したらすぐ向かうようにすればいいんだね!」

 

「って事は、余計なシャドウがいないとこ……先輩の生み出した商店街が一番いいと思うぜ?」

 

真の指示を受け、りせが皆まで言うなというように指示の内容を予測し口にすると、陽介が余計な戦闘にならないよう小西早紀の心の闇が生み出した異様な商店街を使えばいいと続ける。

 

「っと。んじゃあクマに堂島さん用のメガネ作ってもらわなきゃな、俺から伝えとくよ」

 

「では、準備が出来たら僕に連絡をください。事件について重要な情報を見つけた、という体で堂島さんに相談を持ち掛けてみます」

 

「二人とも、頼む。白鐘、なるべく堂島さん以外に話が広がらないように気をつけてくれ」

 

「了解しました。細心の注意を払います」

 

陽介は気を利かせてクマに遼太郎用のメガネを作ってもらうと言い、真は直斗に追加の指示を出しておく。遼太郎に教える事は決定したもののむやみやたらに広めるわけにもいかない、それは直斗も重々承知しているのか彼女も真剣な表情で頷いていた。そしてその場が解散、陽介は千枝達に「先に戻っててくれ」と伝えるとクマに連絡を取ろうと携帯を取り出す。

 

「陽介」

 

「お、なんだよ真?」

 

すると真がどこかすまなそうな表情をしながら陽介に声をかけ、陽介も首を傾げて返す。

 

「すまん」

 

「……は? え、なに? 俺なんかお前に謝られるような事あったっけ?」

 

唐突に謝られてきた事に陽介は慌て出し、携帯を取り落しそうになって余計に慌てる。

 

「いや……お前に合コン喫茶の責任者を押し付けたことだ……この相談が無茶だという事が分かってて、だがどうにかして説得しなければ、と思っていたらピリピリしてしまって、つい……すまなかった」

 

「あー……いや、まあ。しゃあねえよ。俺も言い出しっぺだしさ、なんとかやってみる」

 

真は頭をかきながら申し訳なさそうに謝罪を繰り返し、陽介も自分の蒔いた種だと苦笑する。

 

「その代わり、しっかり手伝ってもらうからな?」

 

「ああ」

 

そして陽介はにっと笑いながら手伝いを頼み、真も穏やかな笑みを浮かべて了承する。それから陽介はクマに連絡を取るために電話をかけ、真は陽介に任せて屋上を出ていった。

 

それから少し時間が過ぎて10月24日。真は登校途中で会った直斗と原付免許の話(直斗も偶然、真達と同じ夏ごろに免許を取ったらしい)をしていた。

 

「お、真に直斗! うーっす!」

 

「ああ、陽介」

「花村先輩、おはようございます」

 

そこに陽介が追いつき、真と直斗が挨拶を返す。

 

「よう、事件の話か?」

 

「いや、雑談だ。白鐘も原付の免許を持っているらしい」

 

「探偵として足が必要だったので。久慈川さんに聞いたところ、花村先輩と椎宮先輩も夏頃に取ったそうですね。同じ頃に僕も取ったんですよ」

 

「へー、そいつぁ偶然だな……ああ、じゃあ冬にスキーとか行かないかって話になってんだよ。直斗も行こうぜ」

 

「はい」

 

陽介も加わって雑談に花が咲く。

 

「っと、それどころじゃなかった」

 

だがその次の瞬間、陽介の目が真剣なものへと変わる。

 

「堂島さん用のメガネが完成した。もちろん、ちゃんと見せてもらったぜ。鼻メガネじゃねえことは確認済みだ」

 

流石に遼太郎に鼻メガネなんて渡したら話をする前に怒られる事は想像に難くない。そこはしっかり確認を取っていた。だがそこをよく知らない直斗は「鼻メガネ?」と不思議そうな表情を見せる。

 

「まあ、いいから。とりあえず直斗、頼むぞ」

 

「分かりました。今日の放課後、堂島さんにジュネスまで来てもらうようにします」

 

「先輩達にも声をかけておこう」

 

真、陽介、直斗の三人で話を進めつつ、彼らは学校に向かっていった。

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

それから昼頃。遼太郎は食後の一服を喫煙室で取りながら、ふと考える。つい先ほど直斗から連絡があり、捜査から外された後も独力で事件のおかしい点の調査を行っていた。と語る彼女はこう述べたのだ。

 

(事件について重要な情報を発見した、か)

 

署内では解決したものとして扱われている八十稲羽逆さ吊り連続殺人事件。その事件をひっくり返す情報。電話では言えない事なのか、夕方ジュネスまで来てくださいと遼太郎は頼まれていた。何も人通りの多いジュネスでなくとも署で話を聞こうとしたものの、どうしてもジュネスでないと駄目。と食い下がられてしまい、もしやジュネスで何か物証を発見したのかもしれない。と遼太郎は考えるとそれを了解したのだ。

 

(しかし……解せんな)

 

だが彼は刑事としての推理力でおかしい点を考える。ジュネスに来てくれ。というのはジュネスでそう簡単に動かす事の出来ない物証があった。という言い訳にしては大分苦しいが考えられない事もない。

 

(俺一人で、それも誰にも内緒で来てくれ。か……)

 

捜査上では相棒である足立にさえ秘密にして来てくれ。と直斗は言っていた。そこがどうしても解せない。捜査である以上、相棒である足立を連れていくのは当然の話。しかし直斗は「堂島さん一人でないといけない」と繰り返し強くお願いしていた。それに根負けし、今日の夕方七時にジュネスの家電売り場で待ち合わせ、という事になったのだ。

 

(……まあいい、行けば分かる事だ。あいつの事だ、イタズラという事もないだろう)

 

遼太郎は直斗を探偵として信頼している様子を見せながら煙草を喫煙室の灰皿に押し付けて火を消し、喫煙室を出ていった。

 

それから時間が過ぎて午後七時。遼太郎は早目に仕事を切り上げると言われた通り一人でジュネスへとやってきていた。もっとも、直斗が、彼女のいう事が正しければ犯人と思しきグループに拘束されている可能性がある。そのため予防線は張っていた。

 

(真に[今日の十二時までに俺から連絡がなければ明日、警察に連絡しろ]という電話は留守電にだがしておいた……警察に内緒にしろ。と言われたが、家族に内緒にしろ。とは言われていないからな)

 

直斗のお願いを逆手に取り、悪知恵を働かせている。遼太郎は真が来てからこういう融通が利くようになったものだ。と自ら苦笑し、ジュネスの家電売り場へとやってくる。

 

「堂島刑事、お待ちしておりました」

 

そこには直斗が静かに立っていた。いや、その横に青い髪の長身男性も立っている。

 

「君は、利武君?」

 

「こんにちは」

 

予想だにしないその相手に遼太郎はぎょっとなる、が直後すぐに頭を働かせた。

 

「直斗、もしかしてお前のいう証拠、というのは彼が証人である。ということなのか? だったら都合のいい時に彼を連れて署まで――」

「いえ、違います……証人、というのはある意味当たらずとも遠からずですが」

「――?」

 

どうにも直斗の言葉の意味が分からない。と遼太郎は首を傾げる。

 

「お兄ちゃん、人払い完了したよ」

 

「!?」

 

すると背後から突然そんな声が聞こえ、遼太郎は驚いたように振り向く。

 

「あ、こんにちは初めまして。堂島さん。真君からお話は伺ってます」

 

そこには赤色の髪をポニーテール風にしどことなく命に似た顔立ちをした、ジュネスの制服を着た女性が立っていた。

 

「というか、家電売り場ほとんど人いなかったから人払いも何もないんだけどね……」

 

その横では同じくジュネスの制服を着た、茶髪をショートにした気の強そうな女性がため息をついている。

 

「き、君達は?」

 

「僕の妹と彼女です。まあ紹介は後に……丁度、今日のメインも到着したようですし」

 

「メイン?」

 

遼太郎がぽかんとした様子で問うと命が説明、その最後の言葉に遼太郎はまた不思議そうに尋ねる。

 

「叔父さん、お待たせしました」

 

「真!?」

 

そこに姿を現したのは遼太郎の甥にして家族――椎宮真だった。その姿に遼太郎はぎょっとした顔を見せた後、表情を険しくさせる。

 

「なんのつもりだ? 事件の重要な情報を見つけた、と連絡を受けたからここまで来たんだ。イタズラだったらただじゃすまさんぞ?」

 

「そんなつもりはありません。俺は……俺達は事件の重要な情報を、この事件の真実へと至る鍵をこの手に持っています」

 

「俺、達?」

 

遼太郎の重い声にも動じずに真は静かに、だが力強くそう言いきり家電売り場の一番巨大なテレビへとゆっくり歩み寄る。そして右手を静かにそのテレビへと近づけた。

 

「なっ!?」

 

もう何度目の驚きになったか分からない。しかし遼太郎は驚きを隠せていなかった。硬い何の変哲もないテレビの画面、それに真が触れた瞬間まるで水面のように波紋が走ったのだ。それだけではない。まるで水の中に手を入れていっているかのように真の手が、腕がテレビへと吸い込まれていく。

 

「こ、これは……一体、なんのトリックだ?」

 

「堂島さん、手を」

 

驚愕に固まっている遼太郎に直斗が手を差し出すよう促し、遼太郎は呆けたままその声に反応して直斗の手を取る。

 

「さあ、真実に向かって出発」

 

「うお!?」

 

そしてその背中を命が押し、そこで遼太郎は我に返る。

 

「じゃ、私達は持ち場に戻るね~」

「後はよろしく」

 

「い、いや、待て! これは一体どういう事なんだ!?」

 

結生とゆかりがばいばいと手を振り、遼太郎が慌てたように声を上げる。だが直斗が手を引き命が背を押し、遼太郎は先に入っていく真の後を追うように、驚愕が続いているため無理もないが自分の身体がテレビへと入っていくことに疑問を持つ余裕すらなく、テレビの中に吸い込まれていった。

 

「こ……ここは、どこなんだ!?」

 

テレビの中に入った遼太郎が開口一番声を上げる。霧に包まれた不可思議な場所、明らかにジュネスではない。かと言って地元八十稲羽でもない。そんな場所に突然やってきては狼狽するのも無理はない。

 

「待ってましたよ、堂島さん」

 

まるで当然のように彼を待っていた陽介達に疑問を持つ余裕すらなく、陽介は遼太郎の前に歩き寄ると手に持っていた物を遼太郎へと差し出した。

 

「堂島さん、これをかけてください」

 

「っ、これは……メガネか?」

 

陽介に渡されたメガネ――ほとんど真のものと同じでフレームが濃い茶色になっている程度しか違いはない――を遼太郎は訝し気な顔を見せながらかける。だがその時また「なぁっ!?」と声を上げた。

 

「深い霧が、まるでないようだ……って、お前達、なんでこんな所にいるんだ!?」

 

霧がなくなって辺りを見通せるようになってやっと、遼太郎は自称特別捜査隊メンバーがいる事に気づく。

 

「このメガネは理屈こそ不明なんですが、このテレビの中を覆う霧を見えなくさせる効果があるんです。そして、この世界を俺達はマヨナカテレビ、と呼んでいます」

 

「マヨナカ……テレビ……」

 

真の説明、この世界の名前を遼太郎は反芻。それから真は語り始めた。四月、自分がこの町に来た時から起きている殺人事件、それはこの世界で起きているものなのだと。このマヨナカテレビの中に潜む存在――シャドウ、それを打倒できる唯一の力――ペルソナについて。陽介達がペルソナの説明に入ったところでそれぞれのペルソナを召喚するなど説明のフォローも行う。

 

「……テレビの中に広がる世界、マヨナカテレビ、抑圧された自我が表に出た存在シャドウにそれを制御する事で生まれるペルソナ。テレビに放り込まれた人間は俺達の世界で霧が濃くなる日、つまりこっちの世界で霧が晴れたらシャドウに殺される……山野真由美アナと小西早紀は間に合わず殺されてしまったが天城雪子、巽完二、久慈川りせ、白鐘直斗は誘拐されてテレビに落とされたのを真達が助けてきた……」

 

遼太郎は一気に提示された情報を噛み砕くように繰り返し、頭を押さえる。

 

「ダメだ、頭が痛くなってきた……」

 

「だ、大丈夫ですか、叔父さん?」

 

「無茶を言うな。お前達みたいな柔軟な子供と違ってこっちは偏屈な大人なんだ。こんな訳の分からん事をいきなりまくしたてられて理解しきれるわけないだろう……」

 

頭を押さえる遼太郎を真は心配するが、遼太郎は呆れたようにため息をついてそう答える。

 

「まあ、こんな物証を目の前に持ち出されたら信じる以外はねえがな」

 

そして遼太郎はこの不可思議な世界を見回す、再びため息をつく。

 

「んで、なんだっけか……お前達はそのペルソナ? とかいう奴を使ってシャドウ? とかいうもんと戦ってる。って認識でいいのか?」

 

「はい。俺や先輩はちょっと経緯が違いますが、陽介達は抑圧された自我であるシャドウを受け入れる事でペルソナを得ているんです」

 

「僕に関しては真君達とはまた別の観点によるペルソナ入手になるんですが……そこまで説明してたら余計混乱しちゃうんで、今は置いといてください」

 

遼太郎はとりあえず必要最低限の情報確認を行う事に決め、真と命が補足を行う。

 

「え~と、そんでもって……マヨナカテレビに放り込まれた人間の心によって、この世界は広がっている?」

 

「あ、そこに関しては実際に見てもらった方が早いと思うっす。商店街に移動しようぜ」

 

「商店街? 店もあるのか?」

 

情報確認を続ける遼太郎だが、そこは見てもらった方が早いと言う陽介に従って移動開始、しかし商店街という言葉から遼太郎はそんな誤解をしていた。

 

「……おい、本当に商店街じゃねえか……」

 

そして彼は頬を引きつかせる。自分がずっと見てきていた商店街、正にそのものの風景が広がっているのだ。しかし赤と黒が混ざり合ったような配色が不気味さを掻き立てている。

 

「そして、この世界に住むシャドウという化け物とお前達は戦っている」

 

「はい……叔父さん、この世界を知らせてから事後承諾っていうのもおかしいんですが……俺達と一緒に戦ってください!」

 

「……事後承諾も何も、こんな世界を知られてないと何を馬鹿な事を言ってるんだ。と一蹴していたよ」

 

真の真剣な言葉に遼太郎は苦笑する。

 

「この世界が現在犯人に繋がる唯一の道なんだろ? なら望むところだ!」

 

そして彼はこくりと頷いて返した。

 

「ありがとう、叔父さん」

 

「じゃあ、相棒。俺達はここで待ってるから」

「危なくなったらすぐ探知するから、任せといて!」

 

真がお礼を言った辺りで神社前に到着。この辺で待つという事をあらかじめ決めていたため真と遼太郎を除いて足を止め、二人だけで先に進んでいく。目的地は陽介のシャドウが出現した場所――小西酒店だ。

 

「叔父さん、さっき説明しましたけど……シャドウというのはその人間が抑圧している感情が自我を持ち現れた姿……つまり、その本人が心のどこかで思っていることの表れなんです。いや、その隠したい負の側面が性質悪く暴走してしまっている。と言った方が正しい」

 

「ふむ……」

 

「そしてシャドウは宿主に否定される事で暴走する」

 

真はこの先起きるだろう事を遼太郎に説明する。

 

「だから叔父さん。何があろうとも、絶対に、シャドウを……もう一人の自分を否定しないでください。どれだけ認めたくない事であろうとも、それは必ず叔父さんが心のどこかで思ってしまっている事。それが膨らんでしまったものなんですから」

 

「……分かった」

 

真の言葉に遼太郎は静かに頷く。しかしその表情はこわばっており、流石の彼も未体験かつ常識離れしたことに緊張を隠せていなかった。そして二人は小西酒店へと足を踏み入れる。陽介のシャドウとの戦いから全く足を踏み入れていないここは陽介のシャドウが巻き起こした暴風や真と命の奮闘によって内装がボロボロになり、割れた酒瓶などが辺りに散乱していたままの状態だった。

 

「……本当に、小西さんとこの店と同じなんだな……」

 

遼太郎はどこか驚いた様子で店内を眺めまわす。真は小西酒店の内装を現実世界で見たことはないがどうやら内装もそっくりのようだ。

 

「叔父さん、シャドウがどこから来るか分かりません。気をつけてください」

 

「お、おう」

 

真の言葉に遼太郎はこくりと頷き、真剣な表情になって辺りを警戒し始める。

 

[ふ、くくくくく]

 

するとそこに遼太郎の笑い声が聞こえてくる。

 

「なっ!?……お、俺……だと?……」

 

遼太郎も絶句する。店の真ん中、いつの間にかそこに立っていたのは金色の瞳を輝かせる遼太郎――彼のシャドウだった。遼太郎のシャドウは相手を嘲笑するような笑みを浮かべ、遼太郎に敵意の視線を向けていた。

 

[犯人に繋がる道なら協力する? よく言ったものだ……そこまでして、お前は菜々子から逃げたいんだな]

 

「な!?」

 

遼太郎のシャドウの言葉に、遼太郎は愕然とする。菜々子、我が子から逃げたい。遼太郎の心から生み出された、と先ほど教えられた存在はそう言っているのだ。

 

[そうだろう? ひき逃げにあった千里の無念を晴らす、そう言って菜々子から遠ざかり、無駄な捜査を繰り返している]

 

「な、何を馬鹿な! 俺は――」

[――ああ、ひき逃げと言えば……菜々子を迎えに行っていた千里はその時どう思っていたんだろうなぁ。ひき逃げにあい、たった一人で倒れて、痛かっただろうなぁ]

 

遼太郎の反論を遮り、遼太郎のシャドウは嘲笑しながらそう続ける。

 

「目撃者もなく、発見は遅れに遅れ、見つかった時はもう手遅れ。一人寂しく命が消えて行き、身体が冷たくなっていく。その時千里は何を思っていたんだろうなぁ……自分がどうして死んでしまうのかという嘆きか、愛する家族を遺して逝ってしまう事への謝罪の気持ちか、それとも――]

 

遼太郎はそこまで言うと、ニタァと笑みを歪ませて遼太郎を真っ直ぐに見つめる。

 

[――菜々子を迎えに行くことがなければ、私は死ななかったのに。という怒りか]

 

「っ!!??」

 

その言葉に遼太郎は言葉を失う。

 

「ば、馬鹿を言うな! 千里がそんな事を思うはずがない!!」

 

[ああ、そうだな。あの優しい千里がそんな事を考えるはずがないな。すまない]

 

遼太郎の反論を、遼太郎のシャドウはやけに素直に聞き入れ、謝罪するとぺこりと頭を下げる。

 

[だが、お前はどうだろうな?]

 

しかし頭を上げた時、遼太郎のシャドウは再び相手を嘲笑する笑みを浮かべていた。

 

[思っているんだろう? 菜々子を見るたびに、菜々子から千里の面影を見つけるごとに、犯人を捕まえられないっていうやりきれなさを、自分の無力感を……現実を突きつけられている事を]

 

「や、やめろ!」

 

[いや、違う。菜々子さえいなければ千里は死ななかった。そうだ、菜々子さえいなければ、千里は今も俺の隣で笑っていてくれていた]

 

「ち、違う!」

 

遼太郎のシャドウの叫びを、遼太郎は怯えた表情で否定する。

 

[違わないさ。お前は菜々子を疎ましく思っている、だから真に菜々子を押し付けて菜々子から離れる。もうこれ以上追いようのない事件を追い続けて、菜々子を置いてけぼりにしている。今度はこの事件を利用して菜々子から離れようって寸法かな?]

 

「で、でたらめを言うな!!」

 

[でたらめじゃないさ。だって俺は、お前なんだからな!]

 

「違う!!!」

 

遼太郎のシャドウの言葉を、遼太郎は強く否定する。

 

「お前なんか――」

 

そしてその口から禁句の否定が飛び出ようとした。

 

「叔父さん!!!」

「――っ!?」

 

直前、真が声を張り上げてそれを封じる。

 

「落ち着いてください、叔父さん……どんなことがあろうとも、俺は絶対に叔父さんを否定しない。いや、菜々子も、きっと叔父さんを……お父さんを否定したりしません」

 

真はいつの間にか取り出した一枚の写真を見せる。それは菜々子から渡された一枚の写真、堂島家三人の笑顔の瞬間を切り取った色あせない思い出の証。真と菜々子の真の絆の証だ。

 

「……ああ、そうだな」

 

その写真を見て遼太郎も落ち着いたのか、ふぅと息を吐く。そして今度は彼がゆっくりと、しかししっかりと己のシャドウの目を真っ直ぐに見た。

 

「確かにそうだ」

 

[!]

 

こくり、と大きく頷き、遼太郎は己のシャドウの言葉を肯定する。

 

「確かに、菜々子がいなければ千里が死なずにすんだかもしれない。今も俺の隣で笑っていたかもしれない。そう思わなかったと言えば嘘になる……」

 

今まで己が抑えこんでいた思いを吐き出す。それは今まで見てこなかった自分への懺悔の言葉。

 

「だが、今なら断言できる。菜々子がいなければ、少なくとも今の俺は笑顔になれていない。菜々子から千里の面影を見つける度に辛くなったこともある。それでも、あの子がいてくれただけで、どれほど救われて来たか分からない。いくら千里が隣で笑いかけてくれていても、菜々子がいなければ、俺は笑顔になれない自信がある」

 

遼太郎はそこまで言うと真に笑みを向ける。

 

「ありがとうよ、真。お前に菜々子を押し付けていた。俺なんかより、お前の方がずっと菜々子の“家族”だ。そう思い込んでしまっていた。だが、もう逃げない」

 

遼太郎はそう言い、再び己のシャドウと真っ直ぐ相対する。

 

「俺はお前だ。お前は、菜々子と向き合って、また大切な存在を失う事を恐れ……千里を、仇討ちを言い訳に事件へと逃げ続けていた。臆病な俺自身だ」

 

その言葉に遼太郎のシャドウの口元から嘲笑の笑みが消え、代わりに穏やかな笑みが浮かぶ。

 

「俺はもう逃げない。刑事として、父親として……家族として。俺は菜々子と向き合う」

 

その言葉を聞いた遼太郎のシャドウは満足げに頷くと目を閉じ、同時にその姿が光に包まれる。直後、遼太郎の目の前に一体の存在が姿を現す。それは遼太郎の心の海より現れた存在、もう一人の自分であるシャドウを受け入れる事で生まれ変わった事を証明する存在――ペルソナ。茶色の髪を伸ばして目元を隠し、しかし辛うじて見える口元には慈愛の笑みが浮かんでいる。純白の衣服に身を包んだ姿はまるで天女のよう。その姿を遼太郎は静かに見上げていた。

 

「……カミムスビ」

 

遼太郎が静かに呟く。するとカミムスビは静かに頷いてタロットカードとなり、遼太郎の前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅴ]、法王を意味する数字が書かれていた。そのカードは遼太郎の目の前まで落ちると光の粒子となって彼を包み込んだ。

 

「叔父さん」

 

「真……これが……」

 

「はい。これがペルソナです」

 

真の言葉に遼太郎は静かに「そうか」と呟く。

 

「真……ありがとうな」

 

遼太郎は唐突に真にお礼を言う。

 

「逃げるのも、悔やむのも、ここでもう全部、仕舞いだ。俺はもう二度と、大切なものを失くさない。絶対に……絶対にだ」

 

その表情からは強い決意が感じ取れる。

 

「これは……お前が教えてくれた強さだな……ありがとな」

 

二人はしばらく無言の時間を過ごしてから、小西酒店を後にしていった。

 

「真! 堂島さん!」

 

神社前で待っていた陽介が一番に二人が戻ってきた事に気づき、大きく手を振る。すると今まで探知に気を張っていたらしいりせがはっとしたようにヒミコの召喚を解除する。

 

「大きなシャドウの反応がなかった……っていう事はもしかして……」

 

「ああ。叔父さんはシャドウを否定する事なく受け入れる事が出来たんだ」

 

「す、すごっ!」

「やっぱり、大人ですね」

 

りせがもしかしてと言うと真は彼女の言葉を皆まで聞かずにそう答え、それを聞いた千枝と雪子が遼太郎を尊敬の目で見る。

 

「いや、真に止めてもらわなきゃ危なかった……」

 

しかし遼太郎はふっと笑ってそう答える。

 

「しかし……この世界が殺人事件が起きていたとはな……って事は久保の奴は……」

 

「はい。恐らく彼は模倣犯、というのが僕達の間の推理です。彼はそもそもこの世界を知っていたのかすら怪しい。それに久保の逮捕後、僕が誘拐された事がその証拠になります」

 

遼太郎の言葉に直斗がそう答え、遼太郎は渋い顔をしながら「なんてこった」と声を漏らす。

 

「捜査は初めからやり直しって事か……」

 

頭をかきながら遼太郎はそう呟き、ふぅと息を吐くと真達を見る。

 

「とにかく、捜査の洗い直しは俺の方でやっておく。お前達はマヨナカテレビの方を確認して、何かあれば俺にも報告するんだ」

 

「や、やめさせないんすか!?」

 

遼太郎の言葉に陽介は、彼が自分達がこんな危険な事に首を突っ込んでいることを黙認する、と言っているにも等しい事を驚く。と、遼太郎はふっと笑った。

 

「本音を言うならやめさせたいさ。だがどうしても人手が足りん。足立や署の連中をこんな訳の分からん事に巻き込むわけにもいかないからな。それに、万が一次の被害者がテレビに放り込まれたりしたら、お前達じゃないと助けられない。そうだろ?」

 

「はい」

 

遼太郎は最初に本音を言いつつ、マヨナカテレビの世界に精通している真達の手助けが必要だと語る。

 

「だが、決して無理だけはするな。被害者の命も大事だが、お前達の命も同じくらいに大事なんだからな」

 

『はい!』

 

遼太郎の締めに真達は大きく頷いて返し、それから彼らはマヨナカテレビの世界から出ていく。

 

「……こんな大人数が出入りしてるのに、誰も気づかないものなんだな」

 

テレビから出終えた後、遼太郎がため息交じりに呟くと真達も何とも言えない表情になる。しかし彼は「まあ騒ぎになるよりはマシか」と無理矢理自分を納得させていた。

 

「じゃあ、とりあえず今は次のマヨナカテレビまで待とう」

 

「分かった。そっちは任せたぞ」

 

真が今後の方針を決めると遼太郎も了解する。真達は今まで通りマヨナカテレビの確認と調査、遼太郎は警察という立場を利用しての捜査。と互いの方針を決定した。そして今回は解散、真も遼太郎が仕事を終えているなら一緒に帰ろうかと声をかけようとする。

 

「真、先に帰っててくれ」

 

「え?」

 

「少し、野暮用を思い出してな」

 

「はい、分かりました?」

 

遼太郎は真に先に帰るよう促し、真は首を傾げながらも終わらせなければならない仕事でも思い出したのか程度に考えて彼の言う通りひと足先に帰路へとついたのであった。

 

それから夜。遼太郎は帰って来て早々何故か真と菜々子を真の部屋に追いやり、菜々子は「どうしたんだろうね?」と首を傾げ、真も「さあ?」と首を傾げていた。

 

「おーい、二人とも。ちょっと降りてきなさい!」

 

と、階下から遼太郎の声が聞こえてきた。

 

「むこう行ってろって言ったのに?」

 

「とりあえず降りてみよう」

 

菜々子がまたも首を傾げ、真も一緒に階段を下りて居間に向かう。

 

「ケーキ!? 丸いのだ!!」

 

居間を見て一番に菜々子が驚いたように声を上げる。テーブルの上にはホールケーキが用意されており、菜々子は遼太郎に「きょう、なんのおいわい!?」と尋ねる。

 

「あー、えっとだな……今日は“家族”の大事な日なんだ」

 

「だいじな日?」

 

遼太郎の妙に歯切れの悪い言葉に菜々子は首を傾げる。それに遼太郎は「そうだ」と頷いて菜々子と真を交互に見る。

 

「お前と、コイツと、俺が、“家族”になる記念日だ」

 

「……いままでは?」

 

遼太郎の言葉に菜々子が単刀直入に純粋な言葉で聞き返すと遼太郎は口ごもる。

 

「と、とにかくな、ちゃんと、“家族”になる記念日なんだ」

 

誤魔化すようにそう言い、菜々子は「ふぅん」とよく分かってないような様子を見せつつも嬉しそうに笑い、「よくわかんないけど、でも、なんかうれしいね!」と表現する。

 

「よし、じゃあ食おうか」

 

「うん!」

 

遼太郎がそう言うと菜々子は我慢できないようにたたっと走って座り、三人でケーキを囲んで楽しい時間を過ごす。そしてケーキを食べ終えた頃、遼太郎はフォークを置いてまた何かを切り出す。

 

「それとな、外の様子見てきたんだが。後で少し、散歩に出よう……三人で、行っときたい場所があるんだ」

 

「ほんと! おさんぽ!?」

 

「ああ。さ、準備してきなさい」

 

「はーい!」

 

遼太郎の言葉に菜々子は目を輝かせ、嬉しそうに散歩の準備へと行く。

 

「あー、その……なんだ。妙な事に付き合わせて、その……悪かったな」

 

「いえ、楽しかったです」

 

「そうか……優しいな、お前は」

 

遼太郎の申し訳なさそうな言葉に対し真が楽しかったと伝えると、遼太郎も嬉しそうな様子を見せる。

 

「どうも、こんなことでもしないとケジメがつけられないと思ってな……それに、菜々子にもちゃんと知っておいて欲しかった。俺が、ちゃんと家族として、あの子を大切に想ってるって事を」

 

遼太郎は己の中で一つのケジメをつけるために今回のイベントを企画したらしい。真はその心意気を理解すると共に家族という絆が深まった事を嬉しく思う。するとそこで遼太郎は「それとな」と一拍置いて真にマグカップを差し出した。

 

「これは?」

 

「俺と菜々子が使ってるのと同じヤツさ。これはお前専用。後で名前書いといてやるからな」

 

「いや、名前はちょっと……」

 

遼太郎の言葉に真はこの年になって名前はちょっとと恥ずかしそうに漏らすが、遼太郎は笑いながら「書いとかないと間違うだろ」と返し、「菜々子のも俺のも、底にちゃんと書いてあるぞ?」と答える。その笑顔は心の底から楽しそうなものだ。

 

「俺達は、家族だ」

 

遼太郎は真剣な表情で切り出す。

 

「だから、お前のカップも、菜々子のカップも、いつでも俺が満タンにしてやる……忘れるんじゃないぞ」

 

「……はい」

 

その言葉に真も微笑を浮かべて首肯。

 

「お父さん、じゅんびできたー?」

 

「ああ、そろそろ出ようか」

 

「行こ、お兄ちゃん!」

 

準備が終わってやってきた菜々子も一緒に、三人で散歩に出かけた。

やってきたのは鮫川の河川敷。菜々子は「よるだとこわいけど、お父さんとお兄ちゃんといっしょで、たのしーね!」とはしゃいでいた。

 

「はしゃいで落ちるなよ」

 

遼太郎も笑いながら菜々子に釘を刺す。と、菜々子は首を傾げながら「どうしてここに来たの?」と遼太郎に聞いた。

 

「お前、ずっと来たいって行ってたろ?」

 

それに対し遼太郎はそう答え、「そのうち三人で、天気のいい日に弁当でも持ってこような」と続けると菜々子は「やったー!」と万歳する。それから菜々子はもっと川の近くに行ってみたいと笑顔で言い、遼太郎が足元に気をつけろよ、と注意しながらもいいぞと言うと嬉しそうに川の方に走っていく。

 

「あの子のあんな顔……久しぶりに見た気がするな」

 

微笑んでそう呟いた次に、遼太郎は真剣な表情で真の方を向く。

 

「俺は……これからも千里を轢いた犯人を追う」

 

決意を込めた表情でそう言う遼太郎は、それは自分がまた菜々子から逃げるための免罪符にするためではない。と言う。

 

「俺が……刑事(デカ)だからだ」

 

悪を許さない国の正義、警察。その誇りであり職務、そんな簡単で当たり前の事すら自分はいつの間にか忘れてしまっていた。と彼は真に語る。

 

「大切な事は皆、お前が思い出させてくれた。本当に、感謝してる」

 

「はい」

 

遼太郎の決意と感謝を聞いた真は嬉しそうに頷く。

 

「この町はなぁ、俺の町だ。菜々子やお前のいる、俺の居場所だ。だから俺はこれからもここを守って生きていく。デカとして……父親として、な」

 

清々しく笑いながら、遼太郎はそう言った。

 

 

        我は汝……汝は我……

 

      汝、ついに真実を絆を得たり……

 

 

    真実の絆、それは即ち、まことの目なり

 

 

      今こそ、汝には見ゆるべし。

    “法王”の究極の力、“コウリュウ”の

       汝の内に目覚めん事を……

 

 

そんな時、真にそんな声が聞こえ、それと共に自らの中に何か強大な力が生まれるのを感じる。

 

 

「待てコラー!!」

 

と、土手からそんな叫び声と「しつけーんだよ!!」という声が聞こえてきた。

 

「なんだぁ?」

 

遼太郎はいきなりの声にそう漏らした後、土手に見える相手が顔見知りなのか「どうした!」と呼びかける。と、土手から警官が降りてきた。

 

「堂島刑事……す、すいません、お休み中……」

 

「んなこたぁ、気にすんな。それよりあいつら、なんだ?」

 

「あ、あの、カツアゲグループです。最近、ウワサになってる……」

 

警官からの話を聞いた遼太郎は呆れた様子で「しょっぱい真似しやがって」とぼやく。

 

「お父さん、行くの?」

 

「……おう」

 

遼太郎の言葉を聞いて戻ってきたらしい菜々子が尋ねると、遼太郎は一つ頷いた後、娘を安心させる父親の笑顔を菜々子に見せる。

 

「悪いヤツらを捕まえるのが、俺の……いや、お父さんの、仕事だからな」

 

そう言い、遼太郎は真に向けて「菜々子を頼む」と言う。

 

「任せて下さい」

 

「そうこなくちゃな」

 

真の言葉に遼太郎は満面の笑みで頷いた。

 

「お父さん、きをつけてね?」

 

「ふ、俺を誰だと思ってる。泣く子も黙る、稲羽署の堂島だぞ? だから、お前達は安心して先帰って寝てろ」

 

菜々子が心配そうに声をかけると、遼太郎は菜々子の頭の上に手を置いて安心させるようにそう言う。そして彼は警官と共に階段を駆け上がり、

 

「おるぁああ! 待てこのクソガキ共ー!!」

 

カツアゲグループ目掛けて怒号を上げ、追跡を始めた。

 

「お父さん、がんばれー!!」

 

菜々子は父に声援を送り、次に「かっこいい」と父親を評する。

 

「さき、おうちかえろ? かえって、オフロわかして……あと、いっしょにやしょく作ろ!」

 

「ああ、そうだな」

 

二人は遼太郎の夜食メニューを考えながら、一緒に家に帰っていくのであった。




《後書き》
陽介「えーそれでは、2013年ゴールデンウイーク、特別捜査隊交流会を開始しまーす!」

時は2013年。八十稲羽の霧の事件から二年の月日が経ち、真は大学一年生となってからも長期休暇中はたびたび八十稲羽へと遊びに来て絆を結んだ仲間達と共に過ごしていた。

真「ふう……」

そしてその帰り道。真は息を吐きながら足を止め、ふとある店に目をやる。個人経営らしい電気屋、その店頭には古ぼけた、しかし真くらいなら普通に入れそうな大きなテレビが置かれている。

真「……」

霧の中の殺人事件、仲間と追う真実。P-1グランプリやマヨナカステージ。それを思い出し、彼はふとテレビに手を当てる。

真「!?」

すると彼の手がテレビに吸い込まれる。しかもただ吸い込まれただけではない。まるで何者かに引っ張られたかのように彼の身体は一気にテレビへと引き込まれる。それに気づく者は誰もいなかった。

真「……ここは?」

気がついた時、辺りの光景は様変わりしていた。空襲でも受けたかのように建物が崩れ落ち、火の手が周囲から上がっている。現実ではありえない光景だ。

真「俺は確か、テレビに……という事は、ここはテレビの中なのか!?」

現実であり得ない光景、しかしテレビの中なら分からない。そもそも自分はテレビにまるで引き込まれるように吸い込まれたのを覚えている。だがその時、彼の耳に僅かながら、燃える樹が立てるパチパチ、崩れた建物の破片が崩れ落ちるガラガラ、という中にキンキンッという音を彼は聞いた。それは自分達もテレビの中で戦う時に聞いた、武者シャドウと斬り合いになった時の金属同士が当たる独特の音だ。

真「!」

つまり、誰かが戦っている。何かがいる。そう考えた真は音の方に走り出した。その先にいるのは二人の少女、一人は大きな盾を持ち、泥のような何かと必死で戦っている。もう一人は腰を抜かしたようにへたり込み、ガクガクと震えていた。

真「シャドウ!?」

???「えっ!?」
?????「い、生き残り!?」

思わず声を上げてしまい、それに反応した二人の少女が振り返る。

????「モラッタ!」

???「きゃあっ!?」

その隙をついた泥のような何かが盾を持った少女を吹き飛ばす。明らかにピンチ、しかしあの泥のような何かは生身で相手できる存在ではない。そう真は直感、同時に彼は力を解放する。人を超える力……心より出でる力を。瞬間、真の目の前に現れた青いカード。それに描かれるのは愚者、刻まれるのは0の数字。かつての戦いの中見続けたその青いカードを真は躊躇することなく掴み取る。

真「ペルソナァッ!!!」

そしてそのカードを握り砕くと同時、彼の心の海より彼の心の鎧(ペルソナ)――イザナギが姿を現した。


真がいるのは2015年、冬木市。

マシュ「なんの触媒もなく、いえ儀式すら行わずにサーヴァントを召喚した?……」
オルガマリー「あなた何者なの!? ほんっと何者なの!?」
ロマン[テ、テレビに放り込まれたんじゃないのか?……え、何言ってるの?]

人理継続保障機関フィニス・カルデア、そこの職員だと名乗る者達から2016年以降の歴史が消えたという話を聞き、真は決意する。

真「自分がここにいるのも何かの縁だ。俺も戦おう、未来を取り戻すために。共に真実を見つけよう」

マシュ「はい……よろしくお願いします! 先輩!」

2016年以降の歴史を取り戻すために、そして何故自分がここにいるのか、その真実を見つけるために。彼の新たな運命を辿る戦いが今始まるのであった。


――P4G×FGO――
――連載未定――

――――――――――――――――――――

えー、ぜんっりょくで申し訳ありませんでしたぁっ!!!(土下座パート2)
最近FGOにはまっている中で唐突に思いついてしまった小説の予告編風です。なお連載未定と書いてますが前のP3&P4inギャルゲーの例の通り書く予定はありません。強いて言うならこれは「ペルソナ4~アルカナの示す道~」の後日談という設定になるのでやるとしてもこれが終わってからです。その時に俺のFGO熱がまだ燃えていたらやるかもしれません。(ちなみに現在第三章進行中。そしてネロ様万歳)
と言っても、やるとしたら色々考えなきゃなんない設定山積みなんだよなぁ。ペルソナとサーヴァントの違いに関してはなんとでもなるけど、真をどうやってマスターに仕立て上げるか(魔力経路的な意味で)とかサーヴァントと契約するにあたってどういう扱いにするかとかコミュニティをどうするかとかオルガマリー所長をどうやって助けるかとか。まあそこは連載決定してから考えるとしよう。

さて後書きに戻って今回はほぼオリジナル。堂島遼太郎仲間入りの巻きです。彼のシャドウとの対話は法王コミュ及び正義コミュの遼太郎との絡み部分を参考に作り上げました。ちょいとこれから先にオリジナル展開を色々考えてましてこれはその一環です。
次回はえーと……文化祭辺りか。まあ正確には文化祭準備ってとこだろうけど、ここも色々弄りがいがありそうですね。フフフ。(悪い笑み)
今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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