ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

53 / 63
第五十二話 深まる謎と運命との絆

10月11日の朝、天城屋旅館のとある個室。命は目を覚ますと共に異常に気付く。というのも自分が寝ていた布団で自分が隅に追いやられている上に、そこの掛け布団が不自然に盛り上がっているのだ。そしてその隣の布団は掛け布団が蹴っ飛ばされたように部屋の隅に飛んでいる上にその布団には誰も居ない。

 

「結生、人の布団に潜り込むなって何度も言ってるだろ?」

 

そう言い、自分とは反対側の布団の端を掴み、ばさりとめくり上げる。

 

「……おい」

 

思わず冷めた目でツッコミを入れてしまう。何故か、いや、朝目が覚めたら妹が半裸で布団に潜り込んでいたらツッコむのも仕方がないだろう。まあ、半裸というか寝巻に使っていた浴衣の帯が緩んで上半身部分がはだけてしまっている。という方が正しいだろう。なお辛うじて下半身は無事というかお気に入りらしい純白のパンツが見えているという場合によってはギリギリアウトな光景に加え、なんとブラジャーをつけずに寝ているため豊満な胸がさらけ出されている。そんな状態で男性の布団に入り込むなど、もはや襲ってくださいと言っているようなものだ。

 

「はぁ~……」

 

そう考え、思わず呆れ切ったため息を漏らしてしまう。

 

「ふに~、えへへへ……」

 

しかし結生はそんな兄の呆れを露知らず、幸せそうな寝顔を見せていた。口元からよだれが垂れており少々だらしない格好は御愛嬌だ。そんな寝顔はとても愛らしく、豊満なバストとは対照的にきゅっとしまったウェストに、いつの間にかさらにはだけていた浴衣からちらりと除くヒップは芸術的な曲線を描いている。道理をへし曲げて無理を押し通しているようなスタイルは親友のゆかりをして「恨めしい」と呟くほど。その魅力は月光館学園時代に校内のアイドルを飛び越えて可憐な天使の称号を得るほどである。

 

「ほんと、可愛いなぁ」

 

命はくすくすと笑い、頭をこそこそと撫でる。と、結生はくすぐったそうに身じろぎ、豊満な胸がプリンのようにぷるぷると柔らかく揺れる。そこらの男性ならそれだけで理性が切れて襲い掛かるだろうが、あいにく命はそこらの男性ではなく彼の実兄だ。そんな愚は侵さない。

 

(流石に、もう僕達も大人だしね。あんな過ちはもう出来ないよ)

 

中学時代、ちょっと荒んで二人きりの世界に閉じこもっていた時の事を思い出し、兄妹揃ってゆかりにはとても言えない黒歴史を考えながら命はそう呟く。

 

「結生、起きろ。そろそろ寒くなってきたのにそんな格好だと風邪引くぞ」

 

命は自分からは背後にあたる方向で寝てるゆかりを起こさないよう気遣いながら結生を起こそうと彼女の頭をかくんかくんと揺らす。しかし結生は目を覚ます様子も見せずにぐうぐう寝息を立て、逆に寒いので暖を取ろうとしているのか命にすり寄る。それに命は呆れたようにまたもため息を吐いた。

 

「おはようございます。命さ――」

 

「!?」

 

その時部屋の出入り口のふすまをからからと開けながら雪子が挨拶をする。が、彼女の言葉は途中で止まり、命もぎょっとした顔を見せる。雪子の目線から言えば、現在命と結生は同じ布団で眠っている、そして命は布団で隠れて見えないものの、結生の方はすっかりほぼ全裸の状態である。

 

「え、あの、その……」

 

「ストップ天城さん、まずは落ち着こう。これは結生がだね――」

「あ、いや、えっと、あの、お邪魔しましたというか、その、な、仲のいいご兄妹だとは思ってたんですが」

「――へいストップ天城さん! 君は絶対何か勘違いをしていらっしゃる! そういうのは中学時代に卒業してるから!」

 

硬直の後、言葉を絞り出そうとしている雪子に命は落ち着こうと説得、だが雪子は顔を真っ赤にしながら何かもごもごと呟いており、それを聞いた命が必死に彼女を押しとどめる。なおパニックになっているのかなんかやばそうな事柄を口に出していた。

 

「にへへへへ、お兄ちゃんだいすき~」

 

「結生もこんな時にややこしくなる寝言を言わないで!?」

 

すると結生は寝ぼけているのか命に抱き付き、甘えるように頬ずりをする。その時彼女の豊満な胸がむにゅんむにゅんと命の身体に当たり、押し潰される。ぶっちゃけエロい雰囲気を見せていた。恐らく完二辺りならその光景を見ただけで鼻血を吹いて気絶していただろう。

 

「えーっと、その……お、お邪魔しました~」

 

「ゆかりヘルプミー! 君の恋人と親友がなんかえらい勘違いに巻き込まれてるから起きてプリーズ!! 結生もいい加減起きろ元はといえばお前のせいなんだー!!」

 

そっとふすまを閉じ部屋を去ろうとする雪子を見た命はこのまま雪子を帰したら大変な勘違いでえらいことになると直感、大声を張り上げてゆかりと結生を起こそうと試みる。

それからその大声で目を覚ましたゆかりは目の前で命がほぼ全裸の結生に抱き付かれている光景にパニックを起こして彼をぶん殴るというアクシデントが起きた後、二人が起きてからゆかりと結生が雪子を説得。なんとか事なきを得る結果になった。

 

 

 

 

 

「おっはよー椎宮君!」

 

「ああ、里中。おはよう」

 

さて時間は過ぎて登校の時間帯。真が校門をくぐったところで千枝が後ろから彼に挨拶し、相手が足を止めたためそのまま追いつく。

 

「やー、昨日はお疲れっした! あんな風にステージ上がったの初めてだよ」

 

からからと笑いながら千枝はそう話し、続けて苦笑しながら「りせちゃんとか、仕事ん時、いつもあんな感じだったわけだよね? あたしには無理だわー」と呟いた後、さらにげんなりした表情を見せる。

 

「……そして今週から、そんな余韻をぶち壊す中間テストだね……はぁ」

 

「今度は解答欄を書き間違えるなよ?」

 

「分かってますってば……あ、そだ。ねえねえ、今日の放課後、みんなで勉強会しようよ!」

 

げんなりした表情の千枝をからかうように言う真に、千枝はこの前の期末テストを思い出しながら頬を膨らませ、続けて名案を思い付いたようにそう言う。「困った時はお互いさまって言うじゃん? やっぱホラ、助け合いの心が大事だって!」ということだ。

 

「ああ、うん、助け合い?」

 

「うんうん、助け合い」

 

真の言葉に千枝はこくこくと頷き、二人の間に静寂が走る。その後千枝がぺこりと頭を下げた。

 

「ハイ。あたしが一方的に助けてもらう側です」

 

「正直でよろしい」

 

「お願い! 人助けと思ってさ! みんなには、あたしから声かけとくから!」

 

潔く自分の不利を認める千枝に真は返し、千枝が必死に両手を合わせながらお願いすると真はふふっと笑った。

 

「もちろん構わない。先輩達には俺から声かけとくよ。結生先輩も岳羽先輩も、成績優秀だったんだ」

 

「マジで! 頼りになるわー!」

 

命に続く頼りになる先輩である結生とゆかりに千枝はひゃっほいと飛び跳ね、二人は雑談しながら教室に歩みを進めていった。

 

それから時間が過ぎて放課後。真達はフードコートへとやってくる。と、雨が降っている時に使っている屋根付きの席には既に先客がおり、しかし知り合いのため千枝が手を振る。

 

「菜々子ちゃん、クマくん」

 

「やぁ、ごきげんようクマ」

 

千枝の呼びかけにクマが気取ったように返し、菜々子が「ごきげんようクマ」と続く。

 

「楽しそうだね」

 

にこにこ笑顔の菜々子とクマを見て雪子がそう言った。

 

「ちーす」

 

「あ、勢揃い」

 

と、完二とりせと直斗の一年生トリオも合流。

 

「やっほー皆、遅くなってごめんね」

 

そこに命達もやってきた。

 

「あれ、この子は誰?」

 

と、ゆかりが初対面の菜々子を見て首を傾げ、真が「ああ」と言って菜々子を指した。

 

「俺の従兄妹の菜々子です。菜々子、こっちは俺の先輩の命さんとゆかりさんと結生さん」

 

「堂島菜々子です。はじめまして!」

 

真が紹介し、菜々子が席を立ってぺこっと頭を下げながら元気に挨拶する。

 

「……真君、なんだいこの可愛い子。うちにちょうだい」

 

「ダメです」

 

それを見た結生が真顔でそんな事を言い、真が彼女を睨みながら答える。そんな戦いに気づいていない菜々子は「すごいいっぱい!」とたくさんの人に嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「みんな、ゾロゾロと何しに来たクマ?」

 

「試験勉強!」

 

教科書ノート参考書などを机に並べる真達を見たクマが不思議そうに首を傾げると陽介がそう叫び、「こういう時ばっかりはクマがうらやましいぜ」と机に突っ伏して頭を押さえる。なお結生はすっかり菜々子にメロメロになってフードコートのアイスを買い与えていたりしていた。

 

「昨日、ここでライブやったとかウソみたいだもんなー……」

 

「楽しかったよね。お客さん、あんなに盛り上がってくれるなんて思わなかったし。ね、嘆いてないで、まずは加法定理の所から始めよ?」

 

「うおぅ……さっそく数学かい……」

 

陽介の言葉に雪子は同意した後、そう続け、千枝が唸る。

 

「私達は三角比の所だよね。面積を求めなさいってやつ」

 

「あぁ? サンカクの面積は……アレだよ。あー、テーヘン×高さ×2だろ?」

 

りせの言葉に完二が答えるが、話題にするべき部分が間違っている上に計算式まで間違っていた。

 

「……よかったら、教えましょうか?」

 

無言になっていた直斗が申し出、それに完二がやや慌てた様子を見せる。

 

「お!? お前やっぱりデキる子か? なら、俺にもひとつ……」

 

「あ、いえ……二年の教科は流石に分かりませんよ」

 

陽介の言葉に直斗が首を横に振ると、陽介が「んだよー、意外と役立たずだな~」と悪戯っぽい笑顔で答える。

 

「や、役立たずっていうなっ!!」

 

「へへ、分かってきた。ナオトくんのイジり方、だんだん分かってきた」

 

その言葉に直斗が反応すると、陽介は悪戯っぽい笑顔で笑いながらそう呟き、「怒るとカワイイじゃん」と評する。

 

「な、何言ってるんですかっ!!」

 

それを聞いた直斗が顔を赤くしてぷいっとそっぽを向く。

 

「俺もやーめた、ガラじゃねえや……勉強するより、“おっとっと”だぜ」

 

「あ、私も食べるー。潜水艦探しするー」

 

「潜水艦は俺のだっつの!」

 

完二もおっとっとを取り出しながらそう呟き、それにりせが賛同するとふたりで潜水艦の取り合いに発展する。

 

「ハァ……も、ダメだな今日は……」

 

それを見た陽介が呟いたその時、スパーンというキレのいい音と「いでっ!?」「たっ!?」という完二とりせの悲鳴が響いた。

 

「真面目にしなさいっ!!」

 

そして続く一喝の主はゆかり。彼女はどこから持ってきたのかハリセンを握っており、それで二人の頭をはたいたのは容易に予想できた。

 

「みんなー。ゆかりをマジギレさせたら怖いよー」

「あたしや順平、もう結構な回数しばかれてるしー」

 

命と結生が経験者なのか顔を青くしながら警告を発する。経験者なのか真もうんうんと同意していた。

 

「さ、さー! 試験勉強始めようぜー!」

 

身の危険を感じた陽介がいち早くそう言ってペンを手に取り、全員が変な緊張感の中ペンを握った。

それから命が二年生組の、ゆかりが一年生組の勉強を見ながら試験勉強は進んでいく。なお結生は勉強の邪魔にならないようクマと菜々子と一緒に雑談をしていた。

 

「クマさん、自分がだれか分からないんだって。へんなの」

 

そんな中、菜々子の口から出たその話題に全員の手が止まった。

 

「……こっちの生活は、本当に楽しいクマ。だけど、そう感じるほど、自分が何なのか気になっちゃって……」

 

インターネットで調べたり、マンガやテレビを見たり、この前は図書館にも言ったがなかなかクマの事は分からない。とクマは語る。

 

「ま、そりゃそうだ」

 

そもそもテレビの中という不可思議な世界からやってきた存在だ。インターネットやテレビ、図書館という常識的な情報源からクマの正体を探ろうというのは土台無理な話である。

 

「けどクマ、イメージはある」

 

「いめーじ?」

 

だがそう続けるクマに、雪子が呆けた声を出した。千枝も「おっと初めて聞くかも、アンタの推測」と続けた。

 

「クマが住んでたのはあっちの世界。あっちの世界がクマの現実だった……でも、あそこは多分、こっちの人達の頭の中から生まれた世界かもって思う……クマは、シャドウがいっぱいのあそこで、何かきっと特別な存在だったんだと思う……」

 

「特別な存在?」

 

「けど、その頃の事、たぶん忘れたかなんかしたクマね……キオクソーシツってやつ。こないだ本で読んだもん」

 

クマはそう自らの推測を述べる。が、大事なところは分からないのか記憶喪失と締めた。

 

「確かに……向こうの世界の成り立ちには、人間の思考が関係している節がありますね」

 

「そうだね。入った人達の深層心理によって世界が広がっている。そんなイメージがある」

 

直斗の言葉に命が賛同、雪子や完二をはじめ誘拐されテレビに放り込まれた人の心の中で思っていることが反映され、シャドウが跋扈するダンジョンが出来上がっている。そんなイメージだ。と賛同の理由を語る。

 

「はい。もっとも、あんな世界に対して推理も何もないですが……そんな世界に元から居たという時点で、クマくんの特殊性に関しても頷けます」

 

直斗はそこまで考え、何か納得したように頷くとクマの方を向く。

 

「君があの世界で特別な存在であることは、状況的には間違いないと思う。それを何も知らないというなら、確かに記憶がどこかで途切れているのかも……今ある一番古い記憶は、いつのものですか?」

 

直斗の質問にクマは「んーと」と考える様子を少し見せた。

 

「けっこー前ね。気づいたらあそこに住んでて……騒がしくなってきたから、たまたま出会ったセンセイ達に、ヨーソローって頼んで……」

 

「そうか……ずっと向こうじゃ日時の感覚がハッキリしないのか……」

 

「あー。俺達も最初の時はよく分かんなかったもんな」

 

「結構時間が経ってて驚いたよね」

 

しかしクマの証言はぼんやりとしており、直斗がその想定をしていなかったのか困ったように呟くと陽介と千枝もそれに賛同した。

 

「……」

 

「わ、そうだよ。この話題、菜々子ちゃん置き去りじゃん!」

「ごめん菜々子ちゃん、ポカンとさせちゃったね……」

 

話についていけてない菜々子がぽかんとしているのに気づいた千枝が驚いたように叫び、雪子が謝る。

 

「……ねー。クマさん、きっと王様だよ」

 

と、菜々子は無邪気な笑みを浮かべてそう言った。

 

「王様はね、わるい人のノロイで、森の中にひとりだったって、本でよんだ。クマさんも、そーだったんでしょ?」

 

「王様……そう言われると、そんな気も……」

 

「クマさんが、王様……うぷぷっ、似合うかも。マントとか……」

 

菜々子の無邪気な言葉にクマが頷き、それを聞いた雪子がツボに入って笑い始める。

 

「雪子さ……最近もう誰の前でも爆笑スイッチ入るよね……」

 

「クマの王様話は……やめようぜ……」

 

千枝が呆れたように呟くと、その横で完二が顔を青くし陽介がそれを不思議に思う。だがクマは続けて「本当に王様だった、他にも王様がいて、皆で~」という辺りで千枝が「それクラブの話!?」と悲鳴のような声を上げる。

 

「や、やめなさい菜々子ちゃんの前でっ!!」

 

千枝が必死にクマを止め、それから皆は菜々子と一緒に飲み物を買いに席を立つ。その間に席を取られないようにと真とクマが番に残った。

 

「クマ、ほんとに王様なのかな?」

 

「そうかもな」

 

「むっふふ! 王様だったら毎日チッスクマ~!」

 

クマの言葉に真が穏やかに笑いながら言うと、クマは変にニヤつく。

 

「センセイと一緒なら、見つかる気がほんのりしてるクマよ」

 

表情を改めたクマの言葉に、真はクマからの厚い信頼を感じ取る。

 

「お兄ちゃーん、クマさーん。メロンソーダでいいー?」

 

「ああ、それで構わない」

「構わないクマー!」

 

菜々子の呼びかけに二人で答え、戻って来てからも試験勉強や雑談で時間が過ぎていく。

 

「ジュネス、楽しかったね」

 

そして帰り道、菜々子は楽しそうな笑顔でそう言ったのであった。

 

その翌日、10月12日。真は試験勉強の息抜きに商店街を散歩していた。最近は原付で一気に走り抜けているが、たまには自らの足で辺りの景色を眺めながらの散歩もオツというものだ。というか下校途中のため原付なんて乗れるはずがない。

 

「ん?」

 

すると、真は何か視線を感じる。その視線の先にいるのは黒服の男性、サングラスをかけており人相はうかがい知れないが、値踏みするような視線は確かに彼から向けられていた。

 

「失礼ながら、何かご用でしょうか?」

 

「あ、ああ。失礼……」

 

黒服の男性に声をかけると、相手は一言「失礼」と返す。だが何か少し考える様子を見せた。

 

「ルミノール反応についてはご存知ですか?」

 

「は? いきなりなんですか?……ルミノール反応って刑事ドラマとかでよく見る、血痕がここにあるから殺されたのはここだ~とか、血のついた形跡のある凶器を持っているそれが君が犯人である証拠だ。っていうあれの事でしょうか?」

 

「ええ。ルミノール反応の詳細について、御存じでしょうか?」

 

「……ルミノール反応はルミノールが過酸化水素によって酸化される際に、青色の発光を生じる反応のことで、その反応の触媒として血液、正確には血液中のヘモグロビンに含まれるヘムという鉄原子をもつ物質が使われて反応が起きる。この原理を利用して血痕の捜査に利用されている。以上でよろしいでしょうか?」

 

唐突に繰り出された質問に真はよどみなく答える。

 

「DNA鑑定に使用する体の部位は?」

 

「身体的特徴や遺伝病などの遺伝情報を持たない部分、DNAの塩基配列そのものではなく、4塩基を1単位とする繰り返し数をもつ部位。と記憶しています」

 

「メールアドレスを確実に入手する方法は? 足跡から推察できる10の項目とは?」

 

「いや、なんなんですか一体……」

 

突然質問責めにされるが、真はそれらにすらすらと答えていく。

 

「なるほど、なるほど……君は実に面白い人のようだ」

 

一通り質問が終わって満足したのか、男はフフフと笑みを漏らす。

 

「君、直斗様……あ、いや……し、白鐘直斗という探偵のことを知ってますね?」

 

「ああ。俺の仲間だ」

 

「ええ、君が知っているということを私は知っていますよ」

 

最後の質問にも真は正直に答え、しかし男性は裏を取っているかのように答えを返し、懐から一枚のカードを取り出した。

 

「これを渡してください。渡せば分かるはずです」

 

表も裏も白紙らしく、真は不思議そうな顔を見せる。その隙に男は「頼みましたよ」という一言だけ残して足早に去っていった。

 

「……」

 

怪しい相手だが、相手は直斗を指名している。ならば何を置いてもまず直斗に報告しておくべきだろう。真はそう考えて携帯を取り出すと先日聞き出しておいた直斗の携帯のアドレスへとかける。

 

[はい、もしもし? 先輩ですか?]

 

発信し、プルルルルという電子音が僅かに続いた後、直斗の潜めた声が聞こえてくる。

 

[すみません。今図書室なので、急ぎでなければ後でかけ直させてもらっても……]

 

どうやら図書室で試験勉強の真っ最中だったらしい。

 

「いや、もしかしたら急ぎになるかもしれない……すまないが、なるべく人のいない静かなところに来てもらえないか?」

 

[……分かりました。では鮫川の土手で落ち合いましょう]

 

真の真剣な声に、直斗は何かを感じ取ったのかこちらも冷静な声になり、二人は会話を終えると電話を切る。

それから場所は鮫川の土手へと移り、真は先ほど渡された真っ白なカードを直斗に渡す。

 

「渡せば分かる、って……一体、何のことだ?……すみません、このカードを渡された時について、状況をお聞きしたいのですが」

 

直斗は真が受けた伝言である「渡せば分かる」の意味を考え、それから真に質問をしたいと尋ねる。

 

「あなたにこれを渡したのは、どんな人でしたか?」

 

「黒服にサングラスをかけていた、言ってはなんだが怪しい男だ。俺と白鐘に接点がある事を知っているらしい」

 

「サングラス……こんな町でそんなものをしていたら目立つでしょうに……」

 

真から証言を得た直斗はわざわざ目立つ格好をしていた事を不審に思う。

 

「そうまでしても顔を見られたくなかった……ということか?」

 

「同感です」

 

真の推理に直斗も同意を見せ、さらに彼女は「その人はきっと、あなたのことをよく知っている」と続ける。このカードが何なのかは分からないが、素性も知れない相手に託すはずがないから。ということだ。

 

「でも、こんな小さな町です。僕の住所なんてすぐに調べられるはず……何故、わざわざあなたに託したのか……そこが、気になります」

 

そう呟いて直斗は推理を開始する。しかし今の事件の関係者なのか、あるいは他の事件の関係者なのかさえ分からず、さらに狙いが直斗個人であるならば可能性はいくらでもある。情報が少ない今では推理のとっかかりさえ見つけられなかった。

 

「あ、カードは僕が預かります。恐らくその男は、まだこの町にいるでしょう。これ以上、あなたを巻き込むわけにはいかない」

 

「そういうわけにはいかない」

 

「え?……いえ、その、心配……してくれるのはありがたい、ですけど……」

 

直斗は真っ白なカードを手元に手繰り寄せながら、これ以上真を巻き込むわけにはいかないと言う。だが真はその言葉を聞き入れず、それに直斗は慌てたように呟いた後、うつむく。

 

「すみません、僕、人の気持ちに疎いみたいで……前、花村さんにも言われました」

 

直斗はそう言ってから顔を上げる。

 

「このカードの件は、調べてあなたに報告します。だから……心配、しないでください。その……あなたはリーダーとして色々抱えているから」

 

どうやら直斗なりに気を遣っているらしく、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“運命”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。

 

「せっかく来たので、もう少し話をしてもいいでしょうか? 少し聞きたかったことがあるんですが……」

 

直斗は二人きりの機会を逃すことなく会話のチャンスを作り、二人は今までの事件について話し合いをした後、家に帰っていくのであった。




《後書き》
お久しぶりです、二か月ぶりの投稿です。
今回は初っ端から思いついてしまったギャグに始まってストーリーを進めていきました。命×結生のギャグに関してはマジで思いついたとしか言いようがないというかなんというかです。なんかごめんなさい。(苦笑)
次回辺りにちょっとオリジナルの展開を挟もうかどうか迷っているところです。諸事情あって新卒で就いていた仕事を辞め、幸運にも新たな職場を見つけて忙しいこの時期に無謀にも新連載始めちゃったし、さらに更新速度が遅くなってしまうかもしれませんが気長にお付き合いいただければ嬉しいです。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。