ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第五十話 新たな真実。探偵少女の仲間入り

「初めに、チャイムが鳴ったんです」

 

10月6日の放課後。いつものジュネスのフードコートに集まった自称特別捜査隊は今回の被害者である直斗から話を聞いていた。

 

「ところが、玄関に出ても誰も居なくて……不審に思っていたら、急に後ろから腕が回って、何かで口を塞がれたんです。それからすぐに、袋のようなものを被せられて、恐らく担いで運ばれました」

 

「よくそんな覚えてるね」

 

直斗の詳細な説明にりせが驚いたように返す。同じく実際に誘拐された身だが自分は手掛かりに繋がる事は何も覚えていなかった、それは完二も雪子も同じであり、言葉には出してないものの二人も直斗の正確な証言に目を丸くしている。

 

「意識を奪うために薬物を使ったようですが、完全には意識を失わずに済んだので」

 

りせの言葉に対し直斗はそう説明。「想像していた手口と近かったし、心の準備が出来ていた」と付け加えた。

 

「それに、少しでも情報を得ておきたくて必死でしたから」

 

「さっすが、メイタンテーね」

 

直斗の覚悟をクマが賞賛するが完二は「冷静すぎんだろ」と、自らを囮にしている事は褒められたことじゃない。というような様子でツッコんだ。

 

「ちなみに白鐘さん、犯人の顔を見たりはしなかった?」

 

「……いえ。すみません」

 

命の問いかけに直斗は申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「ですが、手際や体格から言って、犯人は男だと思います」

 

しかし続けて冷静に推理を行い、「会話や合図らしい声が一切なかったため単独犯だと思われる」と付け加えた。

 

「ただ、ここから先がどうもよく分からない……」

 

だがそこで直斗の言葉が濁る。

 

「一度身体に衝撃があって、恐らく僕はその時に、テレビの中へ落とされたんだと思いますが……」

 

袋を被せられて担がれて、テレビの中へ落とされた。この一連の流れがものの数分だったような感じがする。と直斗は話す。

 

「捕まった直後にテレビにって事? あ、道端にテレビがあったとか!?」

 

「流石にねえだろ」

 

直斗の証言を聞いた千枝のどこかずれた言葉に陽介がツッコミを入れる。

 

「そこ辺りからの記憶は、流石にあやふやなんですが……」

 

「そうか……ありがとう」

 

直斗の証言が終わり、真は証言をしてくれたことにお礼を言う。

 

「それにしても大胆な犯人だねー。真正面からチャイムをピンポーンだなんて」

 

「うん。大胆っていうか、無謀っていうか……」

 

結生が驚いたような困惑したような様子で呟き、ゆかりも腕組みをしながら考える。

 

「でも、確か完二君の時もそうだったんだよね? 私はよく覚えてないんだけど……」

 

「あー……言われてみりゃ俺の時も誰か来たような気がすんな」

 

雪子の確認に完二が頷き、陽介も「どういう神経してんだよ……」と犯人の豪胆な犯行に対してぼやく。

 

「“よく覚えてない”という、皆さんの証言の理由が、ようやく分かりました」

 

そんな中で直斗は冷静に、合点がいったように頷く。「常識を超えた異常な体験にテレビの中での心身の消耗、混乱をきたして当然だ」と彼女は言う。

 

「ただ、状況を見ると、僕と皆さんの失踪体験は、真似る必要のない所までよく似ている……恐らく、犯人は同一人物と見て間違いないでしょう」

 

「って事は、結生さんが前に言ってたように、モロキンを殺した久保って子は模倣犯だったって事?」

 

直斗の推理と判断を聞いた千枝が確認を取るように聞くと、直斗は「自分はその推理を聞いていませんし、本筋が証明できない内は厳密には確定しませんが」と前置きをして話す。

 

「久保はやはり、諸岡さんを殺したに過ぎません。真犯人の手口を真似ただけの“模倣犯”です」

 

「道理で、モロキンの時だけ例外だらけだと思ったぜ」

 

直斗の言葉に陽介がぼやく。

 

「しかし、そうなると一つ謎が残るんです……久保は何故、“あの世界”を知っているのか」

 

「って、言われてみりゃそうだよな。そもそもあいつテレビに入れねえのに、どうしてテレビの世界に?……」

 

続けての直斗の言葉に再び陽介が首を捻る。

 

「……スケープゴート」

 

それに答えるよう、だが今にも消え入るような声で呟くように言葉を発したのはゆかりだった。

 

「真犯人からすればさ、自分から罪を被ってくれるなんて願ったりじゃない?」

 

「でもゆかりっち、それならなんで久保氏がテレビに放り込まれて殺されかけるの?」

 

「……口封じとか? 真犯人からすれば久保が犯人だって事になれば、その後どうなろうが構わないんじゃない? 罪を償う為の自殺、とか思わせる。とかさ」

 

ゆかりの言葉に結生が反論、ゆかりは僅かに詰まった後にそう返す。しかしその眉間にはやけに皺が寄っていた。

 

「ゆかり、無理はしなくていいから」

 

「……うん」

 

命が何か助け船のように言い、ゆかりはこくりと頷くと黙り込む。

 

「世間で騒がれている異常な遺体状況も“向こう側ゆえ”なんでしょう」

 

ゆかりが黙った後、入れ替わるように再び直斗が話し始める。「テレビの中でシャドウに殺された遺体を、そのシャドウに襲われるというリスクを冒して運び出し、現実世界で誰かに目撃されるというさらなるリスクを冒してまで霧の日にぶら下げるなんてするよりも、あの遺体状況は向こう側で起きる異常現象の一つと考えるべき。その方が自然だ」と彼女は推理した。

 

「全ては本人から直に聴取できれば早いんですが……」

 

直斗はそう呟くが、続けて「生憎僕は、捜査からは外された身です」と悔しそうに語る。その上で「警察がこんな話にまともに取り合うとも思えない」と、テレビに放り込まれる前、修学旅行時に酔っ払っていた雪子が話していた真実を戯言と受け取っていた事を思い出しながら続ける。

 

「ていうか、犯人が別に居るって自体、認めないんだろうな……」

 

それに同意するようにりせが呟いた。彼女曰く「記者会見をやった事をひっくり返すのは重たいこと」らしく、その言葉を受けた直斗も頷いた。

 

「僕が捜査から外された最大の理由も、その可能性を訴えたからだと思います」

 

警察としても逮捕してしまった容疑者を易々とは覆す事は無いだろう。ましてや逮捕した相手は少年。その上、今回の逮捕で事件を終わりにしたいと警察内部は考えている。と直斗は語った。

 

「犯人は他にいるかもって可能性、消えてないのに!?」

「クソが……んなこったろうと思ったぜ。ま、ハナから信用しちゃいねえがな」

 

直斗の証言に千枝が驚きの声を上げ、同時に完二が悪態をつく。

 

「けどさ、直斗お前……現場でそんだけガッツリ冷静だったなら、もうちょっと、こうさ……取り押さえろとまでは言わないけど……外出たら後ろからって、名探偵的に、どうよ……」

 

「い、いや……」

 

陽介も苦笑いしながら直斗にそう言い、その指摘に直斗は言いよどむと頬を赤く染めながらうつむく。

 

「正直言うと、その……結構、怖くて……」

 

そう言い、ごめんなさいと直斗は謝る。

 

「仕方ないよ。私達だって抵抗できなかったのに、下級生の、それも女の子だよ?」

 

「ああ。話を聞いているとつい忘れてしまいそうになる」

 

それを雪子と真がフォローした。

 

「それにしても」

 

と、命がくすっと笑って直斗を見る。

 

「な、なんですか?」

 

「いや、冷静沈着に見えて結構可愛いとこあるよね。飛んでる“お嬢様”っていうかさ」

 

命の評価に直斗は顔を真っ赤にし、「とにかく!」と誤魔化すように声を張り上げる。

 

「真犯人はこれからも犯行を続けると見て間違いないでしょう……次の動きがあるまで、今は様子を見るしかありませんが……」

 

今はこちらから手出しする方法がない事を直斗は浮かない表情で呟いた後、決意を込めた目で真達を見る。

 

「もう、仕事でも他人事でもありません。僕は、僕らが狙われた事の真実を知りたい」

 

そう言って、彼女は一度真達をゆっくりと見る。

 

「僕にも、協力させてください」

 

「もちろんだ」

 

直斗の協力の申し出を真は即答で受け入れ、直斗は「ありがとうございます」とお礼を言う。

 

「改めて、宜しくお願いします。リーダー」

 

「リーダーはやめてくれ」

 

だが続けての彼女の言葉に真は苦笑を返した。

 

「では、早速で恐縮なのですが……これからテレビの世界に行く。という事は可能でしょうか?」

 

そして直斗はすぐさまそう切り出す。改めてテレビの中の世界やペルソナという能力について確認したいらしく、探偵という、自分達よりも観察眼が鍛えられている彼女が見ればまた何かが分かるかもしれないと考えた真達もそれを了承する。

 

「ふっふっふ。空気の読めるボク、この展開読んでたのよね~」

 

と、クマがそう言って直斗にメガネを渡し、説明もそこそこに真達はテレビの世界へと向かった。

 

「……ここがテレビの世界。話には聞きましたが、霧が酷いですね……」

 

直斗はまず裸眼でテレビの世界を見回し、視界を覆う霧に顔をしかめた後メガネをかけ、その前後の違いにほうと感嘆の声を出し、スタジオの柱やら何やらを注意深く確認する。

 

「ふむ……普通の柱と比べて変わったところはない……これは、何も知らなければ現実世界だと思っても不思議ではないですね。この世界は一体……」

 

直斗は呟き、またふむと声を漏らす。

 

「……とりあえず、他にも確認してみたいですね」

 

「よし。適当な場所に行ってみよう……この前行った直斗の秘密基地でいいか?」

 

直斗の要望に真が頷き、この前の秘密基地でいいかと確認を取ると直斗はびくぅっと身体を震わせる。

 

「い、いや、その……」

 

「あそこの敵は厄介だし、テレビの世界を調査するなら別の場所の方が手ごろなんじゃない? 白鐘さんはまだ戦い慣れてないんだし」

 

かーっと顔を赤くしながら声を漏らす直斗。どうやら流石に恥ずかしいらしく、それを察したのか命が助け舟を出す。

 

「そうか。なら天城の……」

 

「いっ、いや、そのっ、も、もうあそこ調べる事なんてないんじゃないかなぁーあはは……」

 

天然なのか真は雪子姫の城に行こうとするが、雪子がそれを拒否。

 

「……ゲームダンジョンでいいんじゃね? 久保の」

 

なんか話が進みそうにないというかあと二回ほど同じ話題でループしそうな気がしたのか、陽介がこの場にいない久保美津雄の生み出したゲームダンジョンを候補に挙げたのであった。

 

 

 

 

 

[先輩、久保が居た場所に強力なシャドウ反応があるよ!]

 

直斗を伴ってゲームダンジョンに入った時、己のペルソナであるヒミコでダンジョン内部を調べていたりせからそう報告が入る。

 

[事件とは関係なさそうだけど……]

 

「まあ、せっかくだし。白鐘さんの様子を見ながらあわよくば倒しとこうか」

 

「そうですね」

 

りせの報告を聞いた命と真が方針を決め、直斗は「よろしくお願いします」と言って武器として渡された銃を握りしめる。

 

「ま、そう緊張しないで。私達がついてるから心配ないって」

 

「は、はい……」

 

やや緊張した様子を感じ取ったのか、結生が薙刀をくるくる弄びながら直斗に声をかけ、直斗はこくこくと頷いて返す。

 

「ん~、こんな緊張してるって感じの女の子……可愛いなぁ」

 

「へ?」

 

その時、突然結生の雰囲気が変わり、直斗は妖艶な笑みを浮かべぺろりと口元で舌なめずりしている結生を見て呆けた声を出す。

 

「そいっ!」

 

「はぐっ……」

 

だがゆかりが結生の背後から首筋に手刀を入れ、がくりっと倒れ込みそうになった彼女の首根っこを掴む。

 

「ごめん直斗君、気にしないで」

 

「は、はぁ……」

 

ぺこりと頭を下げて謝るゆかりに直斗は呆けた声でそう漏らすしかなかったのであった。

 

[敵三体発見! その先の角から来るよ!!]

 

瞬間りせからの通信が聞こえ、その時すぐに真達の雰囲気が変わる。そしてりせの言っていた通りダンジョンの曲がり角から、何も知らなければ不意打ちをくらうタイミングで三体のシャドウ――依存のバザルト、狂気のキュプロクス、正義の剣が姿を現す。

 

「よっしゃ、いくぜ!」

 

一番に完二が武器である盾を手に突進、正義の剣が振り下ろす剣を盾で受け止め、そのまま押し返すと盾を鈍器のように振り回し、正義の剣を吹き飛ばす。

 

「どーんっ!」

 

次に千枝が自慢の蹴りで、押し潰そうと向かってくる依存のバザルトを蹴り飛ばす。

 

「お願い、コノハナサクヤ!」

 

さらに雪子がカードを扇子で砕いてペルソナを召喚。炎をまき散らして狂気のキュプロクスをダウンさせる。

 

[今だよ、直斗君!]

 

「は、はい!」

 

りせが合図を送り、直斗は集中。それと共に彼女の目の前にカードが現れ、直斗はカードに銃口を向ける。

 

「来い、スクナヒコナ!」

 

引き金を引き、放たれた銃弾がカードを破壊。それと共に小柄な体躯に似合わぬ長大な刃の剣を握った虫顔の人間――彼女の心の鎧(ペルソナ)であるスクナヒコナが召喚される。

 

「メギドラ!」

 

直斗が命じると共にスクナヒコナが剣を振るい、上空に光が集中。その光から突然光線が地面に落とされ、その衝撃波が三体のシャドウを薙ぎ払い消滅させる。

 

「すごっ!?」

「マジか、一瞬じゃねえか……」

 

千枝が声を上げ、陽介もぽかんとする。

それからダンジョンを進みつつ直斗のペルソナの能力を確認していき、スクナヒコナが得意とするのは万能属性と闇、光属性のスキル。さらに炎と風のスキルもやや使える他、物理系のスキルまで揃えている。という何事もそつなくこなせる直斗らしいペルソナと言える。

 

「でも万能属性、闇属性、光属性のスキルは強力な分精神的な消耗も激しいから。そこはうまく使い分けていかないとね……」

 

「き、気をつけます」

 

命は剛毅蟲を殴り飛ばしながら直斗に注意を行ない、直斗も先達の言葉だからか素直に注意を受け入れる。

そのまま彼らは以前久保を捕まえにやってきたダンジョンの最奥地へと到着。硬く閉じられている巨大な扉の前に立った。

 

「……準備はいいな?」

 

先頭に立つ真が確認を取り、残る全員がこくりと頷くと真もこくんと頷いて返し、扉に手を当てる。以前やってきた時は封印されていた扉、しかし今回は少し押すだけで簡単に開いていき、真達はその中に足を進めていった。

 

[ファイトだよ、先輩!]

 

りせの応援が最上階のコロッセオに響く。その中央に立つのは中世どころか近代をも超えた近未来的な存在である人型ロボット。巨大な体躯に見合う巨大な剣を持つ姿は圧巻と言えるだろう。そのロボットはコロッセオに入ってきた真達に気づくと頭部を一網打尽にされないよう散開し一人になっていた真の方に向ける。

 

「くっ!?」

 

その口から放たれる淀んだ吐息に真が怯んだ隙にロボットは剣を握らぬ左手を真に向ける。と、その左手から闇の力が放たれ、真の目の前に呪殺の陣が敷かれる。

 

「イザナギッ!」

 

咄嗟に闇属性に耐性を持つイザナギを呼び出して呪殺攻撃を無効化する。だがいきなり呪殺を狙ってくる相手に真は冷や汗をかいた。

 

「キントキドウジ、マハタルカジャクマ!」

 

「ジライヤ、パワースラッシュ!」

「トモエ、黒点撃!」

 

クマがペルソナの力を増強させるスキルを使うと共に左右から陽介と千枝がペルソナを召喚、ジライヤが光を纏う手裏剣を投げつけ、トモエが光を纏った足で一点に力を集中した蹴りを入れる。だがロボットはそれに堪える様子を見せず、剣を振るって二体のペルソナを追い払った。

 

[そいつ、物理に耐性あるみたいだよ!]

 

「だったらこいつでどうだ! タケミカズチ、ジオダイン!!」

「コノハナサクヤ、アギダイン!!」

 

りせがすぐさま分析、完二と雪子がペルソナに魔法攻撃の指示を出し、巨大な落雷と爆発がロボットを撃つ。だがロボットは負けじと剣を掲げた。

 

「エウリュディケ、パラダイムシフト! フレイム! マハタルンダ!!」

「パールヴァティ、マハラクカジャ!!」

 

剣を振り下ろすと共に無数に広がる不可視の斬撃。だが結生がその斬撃の威力を鈍らせ、さらに命が展開を命じた青い障壁が仲間を守る。だが単純な物理攻撃は通じないと判断したのかロボットから淀んだ空気が発生、辺りを包み込む。

 

「何か来る! 全員警戒しろ!」

 

真は先ほど受けた呪殺攻撃のような何かを警戒、全員に呼びかける。その時ロボットが剣を振り下ろすと青い衝撃波が無数に発生、真達を斬り刻んでいく。

 

「……?」

 

だが思ったよりもダメージはなく、真は怪訝な目を見せた。しかし彼は身体を斬られると共に何か別の何かを斬られたような錯覚を同時に感じる。

 

「アアアァァァァッ!!!」

 

「!?」

 

突如聞こえてきた絶叫と殺気、真は咄嗟にそっちに剣を構え、同時に構えた剣に二本の短剣が当たる。

 

「陽介!? どうしたんだ!?」

 

襲ってきたのは陽介。真が必死に呼びかけるが陽介は力の限り短剣を押して真を斬ろうとしている。よく見るとその目は正気を失っているように光がない。

 

「雪子、どうしたの!? 目を覚まして!?」

 

「お、おいクマ!? テメエ何金ばらまいてんだ!?」

 

しかも他にも正気を失っているメンバーがいるのか雪子はドス黒い笑みを浮かべて説得を試みている千枝に攻撃を仕掛け、クマはあやしい踊りをしながら金をばら撒き完二がクマに呼びかけながらばら撒かれるお金を拾い集めていた。

 

[み、皆混乱してるよ!?]

 

「くそ! 先輩、まずは状態異常の回復を!」

 

りせが全員の状態を分析、陽介、雪子、クマが混乱していることを見抜き、真が命に呼びかける。

 

「命くん、命くぅん……」

「お兄ちゃぁん……」

 

「ゆ、ゆかり! 結生! 正気に戻るんだ!?」

 

「……そっとしておこう」

 

だがゆかりと結生も混乱して何故か命に甘えており、だがやばい色香に命が悲鳴を上げる。それを見た真は何も見なかったことにした。だが三人も混乱状態で戦線はガタガタの上にロボットはまた剣を構え、追撃の様子を見せていた。

 

「先輩! 僕が時間を稼ぎます!」

 

「白鐘!? くそ、完二! この際お金は後回しだ! 白鐘を援護しろ!!」

 

「っ……ウッス!」

 

と、直斗がロボット向けて銃を撃ちながら突進、真はそれを見てすぐにクマがばら撒いた金を拾い集めている完二に直斗の援護を支持し、完二は金を捨てるという行為に躊躇しつつも直斗に何かあってからでは遅いと男らしく金を投げ捨ててロボットの方に走る。

 

「アアアァァァァッ!!」

 

「ちっ!」

 

混乱している陽介は一旦バックステップで距離を取った後、絶叫しながら再び突進。その勢いを込めて左手の短剣を突き出すが真はそれをサイドステップを踏んでかわし、しかし陽介は右手に持つ逆手に握りを変えた短剣で回避した真を狙い、だが真はそれを刀で防ぐ。そこから真と陽介の痛烈な剣劇が開始された。

 

「アアアァァァァッ!!」

 

「正気にっ――」

 

互いに数メートル程度の距離から陽介が短剣を振り上げて突進、真も中段の構えから突進する。

 

「――戻れっ!!!」

 

そして陽介の振り下ろした短剣と真が横に薙ぐ刀が交差、二人は突進の勢いのまま距離を取る。

 

「ぐはっ……」

 

その後、僅かなタイミングを置いて倒れたのは陽介。真はそれをちらりと確認した後、峰を向けていた刀を背中の鞘に収めて右手に精神を集中。ペルソナカードを具現する。

 

「ラファエル、アムリタ!」

 

カードを握る要領で砕き、召喚するのは大天使ラファエル。彼が剣を掲げて気合を入れた声を発すると共に癒しの光が降り注ぎ、混乱していたメンバーを正気に戻していく。

 

「タケミカズチ、ミリオンシュート!!」

 

一方完二はタケミカズチを召喚、闘気の矢を放ってロボットに連続攻撃を仕掛ける。さらにロボットの頭上に光が集中。

 

「メギドラ!!」

 

直斗の声と共に光線がロボットの頭上から地上を貫き、そこにスクナヒコナが剣を手に突進する。

 

「五月雨斬り!!」

 

小柄な体躯を生かしたスピーディな剣技、それを受けたロボットは闘気の矢による援護も手伝い、バランスを崩してダウンする。

 

「敵は総崩れです! 仕掛けましょう!!」

 

「皆、行くぞ!!」

 

直斗が合図をかけ、真の号令で千枝や雪子達も一斉にロボットに総攻撃を仕掛ける。

 

「これで……終わりですっ!!」

 

総攻撃の締めに直斗が銃を構えて引き金を引き、銃弾を放つ。その銃弾がロボットの頭部を貫き、ついに限界になったのかロボットは真っ黒な影となって消滅していった。

 

「これが、シャドウとの戦い……なるほど、これは……なかなか興味深いですね」

 

直斗は今まで体験した事のない戦いにやや高揚気味の笑みを見せつつ、安全装置を確認してから銃をホルダーにしまう。

 

「それにしても厄介な敵だったねー。ロボットなのにこっちを状態異常にしてくるなんてさ、もっとこう真正面からかかってこいっての!」

 

「ご、ごめんね、迷惑かけて……」

 

「ごめんなさいクマ……」

 

千枝は剣を持ち明らかな肉弾戦型ロボットのくせして状態異常に陥れるという戦法の敵に憮然とした様子を見せ、混乱してまともに戦えていなかった雪子とクマがそれを謝罪する。

 

「あ、あああぁぁぁぁぅ、あ、あたし命君にあんなこと……」

「よ、よしよし……」

 

同じく混乱していたゆかりは顔を湯気が出そうなほど真っ赤にして、やや脱げている制服を着直す余裕もないほどにオーバーヒートし、結生がそれを苦笑気味になだめる。だが彼女も彼女で恥ずかしい記憶は残っているのか顔が真っ赤だった。なお命はその横で真っ青な顔をしつつ「危なかった、なんとか理性を保てた……」と呟いている。

 

「ふう……」

 

真は息を吐きつつ、ふとコロッセオを見回す。と、奥の方に何か置かれていることに気づき、奥へと足を進める。

 

「……骸骨か」

 

何かと思ったがドット絵で表現されている骸骨。だがその骸骨に一本の剣が突き刺さっており、真はなんとなくその剣の柄を握りしめると力を入れて引っ張る。と、あまり抵抗もなくその剣は引き抜かれた。

 

「……強そうだな」

 

青銅色と言えばいいだろう色をした柄の両刃の剣。その形はどこかのRPGの勇者の剣にも思え、真は気に入ったのか剣をそのまま持って仲間達の元に戻る。そしてクマがばら撒いたお金を全て回収し終えてから、真達はテレビの世界を後にした。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

翌日10月7日の昼休み。教室で駄弁っている真達四人の耳に入る礼儀正しい挨拶の声、その聞き覚えのある声に四人が出入り口の方を見るとそこには直斗が立っており、彼女はそのまますたすたと迷いのない足取りで真達の元に歩み寄る。

 

「今日の放課後、時間ありますか?」

 

「何か、事件?」

 

いきなりそう問うてくる直斗に千枝が不思議そうに聞き返す。が、直斗は「いえ」と首を軽く横に振って返す。

 

「実は、クマくんを医者に診せてみたいんです」

 

直斗の言葉に雪子が「獣医さん?」と真顔で聞き返し、直斗は困った様子を見せながら「一応、人間用のです」と返す。

 

「空いているなら、今日の放課後、精密検査を受けられるように手配しましたから」

 

直斗曰く、クマが何者なのかまずは普通に医者に診てもらうのもいいかもしれない。それにテレビの世界を覆う霧やペルソナという人知を超えた現象や力が身体に何か影響を蓄積をしていないか。それを診てもらった方がいいかもしれない。という事だ。

 

「えー、影響? こ、怖い事サラッというなよ……」

 

「だが、その発想はなかったな……」

 

陽介が嫌そうな声を出し、しかし真は直斗の提案に感心したように頷く。

 

「巽くんや久慈川さん。それと命さん達の分も頼んであります。当日に事後承諾になってしまい申し訳ありませんが、空けておくようにお願いします」

 

「ああ、分かった。先輩達には俺から伝えておくよ」

 

「よろしくお願いします。では、失礼します」

 

直斗の提案を了解した真に対し直斗は一礼、教室の出入り口で「失礼しました」と一言挨拶を述べて教室を出て行く。最後まで礼儀正しい振る舞いを見せていた。

 

「なんていうか……ホントに高校生? なんかすごい手際いいんだけど……」

 

それを見送った後、千枝がぽかんとした様子で呟いた。

 

それから時間が過ぎて放課後。真達は直斗に紹介された病院で精密検査を受けた。

 

「フツーの健康診断だったな……」

 

検査を終えた後、陽介がそう感想を述べる。精密検査と言われてはいたもののやった事は通常の健康診断に少々する事が増えただけ、完二は「すっげー機械に乗って回されたりすんの、ちっと期待したんスけどね」とやや残念がっており、りせも「受けた意味あったのかな?」と検査担当の医者が不思議そうな顔をしていたのを思い出す。

 

「あ、戻ってきた」

 

雪子の言葉と共に、検査が長引いていたらしいクマと付き添いの直斗が戻ってきて「お待たせしました」と挨拶する。

 

「クマのこと、何か分かったか?」

 

「分かりましたよ……」

 

陽介の言葉に直斗が頷く、しかしその顔はやや困惑気味のものだった。

 

「分からないって事が」

 

そして彼女はそう続けた。

 

「どういう事かな?」

 

「レントゲンを撮ってもらったんですが、映りませんでした」

 

命の問いかけに直斗はそう答える。何度撮っても結果は同じで、見た目の様子や触診では異常はないらしく、最終的には機械がおかしいかもしれないのでまだ心配なら別の病院に行く事を勧められたらしい。

 

「逆に迷惑をかけたかもしれませんね……」

 

「やっぱり、普通と違うんだね……」

 

直斗の呟きの横で雪子は改めてクマが普通の生物とは違う事を認識。しかしそのクマは頬に手を当てて「クマ、奥の奥まで見られちゃった」と照れたように顔を横に振り、千枝が「だから見えてねーっつの」とツッコミを入れる。

 

「まー、異常はねえって事なんスよね」

 

しかしクマの正体を探るという当初の目的こそ達成できなかったものの、霧やペルソナが身体に影響を及ぼしている可能性は今のところない。という結果に完二はうんうんと頷き、しかしその次に腕を組む。

 

「けど、こいつもそうスけど、実際なんなんスかね。ペルソナとか、シャドウとか……」

 

「そういや、前に図書館やらネットで調べてみたぜ? ペルソナってのは、なんつーか別の人格……みたいな意味だろ? 関連ワードで、シャドウってのもあった気がするけど……」

 

「シャドウは、シャドウ……人間から出るもの、だと思う……」

 

完二の疑問の声に陽介がそう言うと、クマがやや曖昧そうな口調で続ける。

 

「……お兄ちゃん、もしかして話してないの?」

 

「……そういえばちらっとは話したけど、ちゃんとした説明まではしてなかったっけ」

 

「あんたねぇ……」

 

と、結生が訝しげな様子で命に尋ね、命がぽんと手を打つとゆかりが呆れた様子で呟く。

 

「……あくまであたし達の知ってる知識になるから、真君達やマヨナカテレビに適応できるかまでは分からないんだけど……そもそもとしてペルソナとシャドウっていうのは根本的には同一の存在なの。自らの心の中に抑圧された感情、それがシャドウであり、そのシャドウを制御する事でペルソナになる」

 

「ペルソナになる……そっか、倒したシャドウがペルソナになったもんね」

 

ゆかりの言葉を受けた千枝が自分達の経験を思い出して納得したように頷く。

 

「まあ、自分の心から生まれる存在。その意味で言えばペルソナもシャドウも同じなんだ。そしてペルソナとは人が外側の物事と向き合った時、表に出てくる“人格”。簡単に説明しちゃうと人と接する時とかに無意識に出てくる表層人格、それが固有のペルソナとなるんだ……だから僕や真君みたいな存在は色々と例外なんだけど」

 

ゆかりに続いて命が話す。と、完二はその説明で頭がこんがらがったのか「むむむ」と唸り声を上げた後、頭をがしがしとかく。

 

「まあ、細けえ事ぁいい……何モンだろうと、邪魔すんならぶっ潰すだけだぜ」

 

「でも、相変わらず不思議だよね。影時間も消えたのになんでシャドウがいるのかとか、そのシャドウが跋扈してるマヨナカテレビってなんなんだろ?」

 

「そこは僕も不思議に思ってるよ……こっちが必死こいて封印したってのに」

 

「……必死こいた結果、死にかけてちゃ世話ないわよ……バカ」

 

完二の言葉の後に結生が呟き、命がため息をつくとゆかりが頬を膨らませる。

 

「ごめんね、ゆかり。もう君を悲しませるような事はしないから……」

 

「信じらんない」

 

謝る命と頬を膨らませたままぷいっと顔を背けるゆかり。なんかイチャイチャ空間を展開し始めた。

 

「なーんか、自分自身の事なのに、分かんない事ばっかりね」

 

イチャイチャ空間に目を細めつつ、りせは話を元に戻そうとそう呟く。

 

「分かる事もあるクマよー」

 

それにクマが明るく返し、もっとイカしたデータを色々持ってんの。と続けるとどこからともなく何枚かの資料を取り出した。

 

「今のご時世、情報開示って大事ですよね。という事で、みんなの検査結果、ドッキドキ大発表クマーッ!」

 

「なっ!? じょ、冗談じゃないっての! 返してよ!!」

 

どうやらクマが取り出した資料は検査結果らしく、それを知った千枝が血相を変えてクマから資料を奪い取ろうとするが、クマはそれをひらりひらりとかわしながら検査結果を確認。ほほーっと感心したような声を出す。

 

「よし……どーせ発表するならな……スリーサイズ行け!」

 

「はぁ!? バッッッカじゃないの!?」

 

その様子を見ていた陽介がクマをけしかけ、その提案に千枝が怒号を上げ、雪子が目付きを鋭くして陽介を睨み付ける。

 

「私は別にいいけど? とっくにプロフ出てるし」

 

ただりせは既に正式なプロフィールが事務所から出ているためか涼しい顔をしており、本当にスリーサイズが公表されそうな空気になった雪子が慌て出すとりせはにまにま笑いながら「男の子にはウケると思うけどなー」と返す。

 

「それに、胸はこのくらい控えめの方が、和服は着やすいと思うし」

 

「な、なっ……」

 

りせの言葉に雪子は顔を真っ赤に染め上げる。

 

「っと、そっか、直斗君もか」

 

そこでりせは直斗に気づいたのか直斗の検査結果をクマに見せてもらう。

 

「……こ、これ……ホント? え、計り間違えてない?」

 

「そこまでだ」

 

絶句した様子のりせがそう言ったところで真がクマとりせの手から検査結果を回収。中身が見ないよう注意しながら直斗に手渡した。

 

「白鐘、処分してきてくれ」

 

「は、はい!」

 

真からの指示を受けた直斗は足早にその場を去っていき、真は陽介を睨む。

 

「えーっと……まあ、みんな健康で何よりだな!」

 

陽介は汗をだらだらと流しながら誤魔化すように言葉を紡ぐ。

 

「はぁ……次はないぞ? っつか、万一岳羽先輩と結生先輩のそういうのばらしてみろ、俺達命はないぞ?」

 

真がそう言ってちらりと見るのは未だにイチャイチャ空間に入っている命とゆかり。命は幸い気づいていないようだが陽介もそこでようやく彼の怒りを買う可能性があった事を把握、「すんませんでしたー!」と絶叫して頭を下げる。

 

 

 

 

 

「……センセイ。結局、映んなかったクマね……クマの正体……なんなのかな……」

 

陽介達が先に移動した後で、クマが真に向けてポツリと呟く。さっきは明るく振る舞っていたが、レントゲンに映らなかった事をクマなりに気にしていたようだ。

 

「一緒に探そう」

 

「うん……ありがとう、センセイ……」

 

落ち込んだ様子のクマに真がそう返すと、クマは嬉しそうに頷いて感謝の眼差しで真を見つめる。

 

「おーい、置いてくぞー」

 

その時陽介の声が聞こえ、真とクマは共に仲間の元に歩いて行ったのであった。




《後書き》
お久しぶりです。やっとこさ話が進みました。今回は正式な直斗の仲間入り及び彼女の戦闘場面、でもって病院でのイベントってとこですね。
次回はペルソナ4G新規イベントを予定しております。これは原作準拠で行くかアニメ式で行くか悩む羽目になりそうだ……。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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