ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四話 テレビの世界、異様な商店街

「ふわ……んっ」

 

四月十五日の朝。真は起き上がると一つ欠伸を漏らして伸びをする。昨日の身体のだるさは綺麗に取れており、真は起き上がると学生服に着替えて一階へと降りる。

 

「起きたか、それじゃあな」

 

と真が降りていくのとほぼ同時、遼太郎は真に一つ挨拶を交わしたのみで家を出て行ってしまった。

 

「お父さん、なにかようじみたい。デンワきて行っちゃった」

 

「そうか……よし、とりあえずご飯にしよう。オムレツ作ってやるから」

 

「……うん」

 

心配そうな菜々子を喜ばせようと思ったのか真はそう言うが、菜々子の心配そうな表情を消すには至らなかった。

それから真は雨のため傘を差して学校に向かう、とサイレンの音が耳に入ってきた。

 

(叔父さんが呼ばれたって言ってたし、何か事件か?……)

 

真は足を止めてそう考えるが、それは今考えててもしょうがないと判断したのかすぐにまた歩き出した。

その日の午後、急に全校集会が入り、生徒達は体育館へと集合する。そこで女生徒が何か噂話をしていたが千枝は携帯電話を閉じると呟いた。

 

「雪子、午後から来るって言ってたのに……」

 

千枝はそう呟いてから振り返る。

 

「なんだろ、急に全校集会なんて……ってあれ、花村どしたの?」

 

「ん? いや、別に」

 

千枝の言葉に陽介は少し浮かない表情で呟く。その直後女性の声が前のマイクから聞こえてきた。

 

「えー、みなさん静かに。これから全校集会を始めます。ではまず校長先生の方からお話があります」

 

女教師がそう言い、それから白いひげが特徴的な校長先生がマイクの前に立つ。

 

「今日は皆さんに……悲しいお知らせがあります。三年三組の小西早紀さんが……亡くなりました」

 

その言葉と共に体育館内がざわざわとなり始める。

 

「な、亡くなった!?……」

「「……」」

 

千枝が驚きの声を漏らし、陽介は悲しそうな苦しそうな表情をし、真は驚いたように眉をひそめる。

 

「小西さんは今朝早く、遺体で発見されました。小西さんが何故亡くなったのか、警察の方々が捜査してくださっています。協力を求められた時は我が校の生徒として、節度ある姿勢で応じてください」

 

校長先生がそう話すが、体育館内はざわざわに覆われ始めていた。

 

「えー、静かに、静かに……それから、先生方からは、いじめなどの事実はないと聞いています。くれぐれも、軽い気持ちで街頭取材などを受けたりしないように……」

 

「遺体で発見って、そんな……」

 

「……」

 

校長先生の言葉も聞こえてない様子で千枝と陽介はそれぞれ呟き、ショックを隠せない表情を見せる。

そして校長先生の話が終わった後、彼らが教室に戻っていると女子生徒の噂話が耳に入ってきた。

 

「ちょービビったよねー。死体、山野アナん時と同じだったんでしょ?」

 

「前はアンテナだったのが、今回は電柱らしいじゃん。連続殺人ってことだよね、これって……」

 

「死因は正体不明の毒物とか、誰かが言ってた」

 

「正体不明って、そりゃちょっとドラマの見過ぎだって」

 

「そういえば、例の夜中のテレビで、早紀に似てる子が映ったらしーよ。超苦しがってたとかってー、怖くない?」

 

「ハハ、そっちこそ絶対夢だって。今マスコミとかめっちゃ来てるし、取材でも受けて影響されたんじゃん?」

 

女子二人はそう言いたいことを言うとすたすたと歩き去っていく。とそれを見た千枝が少し目を吊りあがらせた。

 

「ったく、他人事で好き勝手言ってるよ」

 

「他人事だよ。今はまだ、な……」

 

千枝の言葉に真はふぅと息を漏らしながら呟く、と後ろの方から陽介が声をかけてきた。

 

「なあお前ら、昨日、あの夜中のテレビ、見たか?」

 

「……いや、昨日は少し具合が悪くなって、帰ったらほぼすぐに寝た」

「あのさ、花村までこんな時に何言ってんの!?」

 

花村の言葉に真は何か感じ取ったのか首を横に振って素直に返し、千枝は怒った様子で問い詰める。

 

「いいから聞けって! 俺……どうしても気になって見たんだよ」

 

陽介はそういうと一旦言葉を切り、あたりに聞こえないように声を潜めた。

 

「映ってたの、あれ小西先輩だと思う」

 

「えっ!?」

「どういうことだ?」

 

陽介の言葉に千枝が驚きの声を漏らし、真が尋ね返す。

 

「見間違いなんかじゃない……先輩、なんか苦しそうに、もがいているみたいに見えた……それで、そのまま画面から消えちまった……」

 

「なによそれ……」

 

「先輩の遺体、最初に死んだ山野アナと似たような状態だったって話だろ?……覚えてるか? “山野アナが運命の相手だ”とか騒いでた奴いたよな?」

 

「……確かに。確か里中が、隣のクラスの誰かがそう言っていた、と言っていたのを覚えている」

 

「う、うん、そういえばそんなこと言ったかも……」

 

陽介の確認するような言葉に真は少し考えた後こくんと頷き、千枝に促すと彼女もこくんと頷いた。

 

「俺、思ったんだ。もしかするとさ……山野アナも死ぬ前に、あのマヨナカテレビってのに、映ってたんじゃないかなって……」

 

「どういうこと?」

 

陽介の言葉に千枝が声を漏らす、と陽介の言葉を聞き思考状態に入っていた真が口を開いた。

 

「花村、お前はまさかあのテレビに映った人は死ぬ。と言いたいのか?」

 

「いや、そこまでは言い切らないけど……ただ偶然にしちゃなんていうか、引っかかるっていうかさ……」

 

真の言葉に陽介は首を横に振って返した後そう続け、また彼らに確認するように口を開いた。

 

「それと、向こうで会った“クマ”が言ってたろ? “危ない”とか“霧が晴れる前に帰れ”とか……」

 

「そうだ、確か“誰かが人を放り込む”とも言っていた」

 

「ああ。それにポスターの貼ってあったあの部屋、事件と何か関係ある感じだったろ? これってなんかこう、繫がってないか? もしかしたら、先輩や山野アナが死んだのって、あの世界と関係あるんじゃないのか!?」

 

陽介の言葉に真が思い出したように返し、陽介はまたああと頷いてそう続けた後真の方を見た。

 

「なあ、俺の言ってること……どう思う?」

 

「……正直に言えば馬鹿らしいが……あの妙な世界を見ている身としては否定しきれないな」

 

「ああ。もし繫がりがあるなら、先輩と山野アナもあの世界に入ったってことかもしれない。あっちで何かあったってんなら、あのポスターの部屋があった説明もつく。もしそうなら、先輩に関係する場所だって探せばあるかもしれない」

 

陽介の言葉に真は首を横に振って返すものの続けて肩をすくめてそう言い、それに陽介が頷いて続けるとまさかといわんばかりの表情で千枝が口を開いた。

 

「花村、あんたまさか……」

 

「ああ。俺、もう一度行こうと思う……確かめたいんだ」

 

「よ、よしなよ……事件のことは警察に任せた方がいいって!」

 

「無駄だ」

 

陽介の言葉に千枝がそう返すと直後真が続け、それに千枝が頷いた。

 

「そ、そうだよ! 椎宮君の言うとおりだよ!」

 

「里中、逆だ。俺は里中の意見に無駄だと言ったんだ」

 

「えっ!?」

 

千枝の言葉に真は静かな声で返し、それに千枝は驚いた様子の声を漏らす。それを見た真はふぅと息を吐いた。

 

「テレビに映った人が死ぬだの、テレビに入るだの警察に言ってどうなる? イタズラとか頭がおかしいとか思われるのがオチだ」

 

「そ、それは……」

 

「全部俺の見当違いならそれでもいい……ただ、先輩がなんで死ななきゃなんなかったか、自分でちゃんと知っときたいんだ」

 

「花村……」

 

真の意見に千枝は声を失い、陽介が続けると彼女はそう声を漏らす。

 

「こんだけ色んなもの見て、気づいちまって、なのに放っとくなんて、出来ねーよ……」

 

陽介はそう言って真を見る。

 

「悪ィ……けど頼むよ。準備して、ジュネスで待ってっからさ……」

 

陽介はそう言って走り去っていき、それを千枝は見送った後心配そうな顔で真の方を向く。

 

「気持ちは分かんなくもないけど、あんなとこまた入ったら、無事に出られる保証ないじゃん……どうする?」

 

千枝はそう言って真の顔を見た。

 

「行くしかないな。ああいうのは止めようとしたって無駄だ」

 

「ま、まじで?……」

 

真の返答に千枝は唖然としたように返し、学校玄関を見る。

 

「とりあえず、ジュネスに行こう。花村、放っとけないよ……」

 

「ああ」

 

千枝の言葉に真も頷き、二人は走って学校を出て行った。

 

 

 

 

 

ジュネス二階家電売り場、例のテレビの前で陽介は長いロープを身体に巻きつけ、ゴルフクラブを手に待っていた。かなり怪しい姿だが幸いにして周りに人影は無い。

 

「来てくれたのか!」

 

「バカを止めに来たの! ねえ、マジやめなって、危ないよ……」

 

「ああ……けど、一度は帰ってきたろ? あん時と同じ場所から入れば、またあのクマに会えるかもしれない」

 

「そんなの、なんも保証ないじゃんよ!」

 

陽介の言葉に対し千枝は必死で説得を試みるが、陽介は真剣な目で千枝を見た。

 

「けど、他の奴らみたいに他人事って顔で盛り上がってらんない」

 

「そう、だけど……」

 

陽介の言葉に千枝は沈黙、それから陽介は今度は真を見る。

 

「お前はどうする? このまま、放っとけるのか?」

 

「放っとけないが、向こうで何が起きるかは分からない。反対している千枝を連れて行くのは反対だ」

 

「ああ。俺とお前だけでいい」

 

陽介の言葉に真が返すと陽介は頷き、それから千枝を見る。

 

「心配すんなって、ちゃんと考えはあるんだ。里中は、これ頼む」

 

そう言って陽介は千枝にロープを渡した。

 

「え? なにそれ、ロープ?」

 

「俺ら、これ巻いたまま中入るから、お前端っこ持ってここで待っててくれ」

 

「な、なにそれ? 命綱ってこと? ちょ、ちょっと待ってよ……」

 

陽介の言葉に千枝は困惑した様子で声を出すが、今度は陽介は真に右手に持っているゴルフクラブと懐から出した傷薬を差し出す。

 

「椎宮。お前にはこれ、渡しとく」

 

それを真は迷い無く受け取った。

 

「ないよりいいかと思ってさ」

 

「ありがとよ……だが、連れて行くにあたって一つ条件がある」

 

「な、なんだよいまさら!?」

 

真の突然の言葉に陽介は声を上げる、と彼はニヤリと微笑んだ。

 

「この調査が終わった後、俺と里中に何か奢れ。俺は手間賃、里中は心配賃だ」

 

つまり遠まわしに、この調査で死ぬことは許さない。そう真は言っていた。それに陽介はふっと笑う。

 

「オッケー、約束するよ……よし、じゃあ行こうぜ。ぐずぐずしててもしょうがないからな」

 

「ああ」

 

陽介の言葉に真は頷き、二人はテレビの方に向かう。

 

「ちょ、ちょっと待ってってば!」

 

それを見た千枝がぎょっとなって止めようとするが二人は止まらず、真はテレビに手を入れる。

 

「やあ、皆お揃いでピクニック?」

 

「「「!?」」」

 

そこに聞こえてきたそんな声。それに三人はぎょっとした顔で声の方を向く。そこには真の前の学校での先輩利武命――黒シャツと前を開けた青色のライダースジャケットに黒ジーンズの出で立ちだ――が立っていた。

 

「せ、先輩!?」

 

「またあの世界に行こうっての?」

 

真の驚いたような声に対し命は冷静に聞き返す、と千枝が思いついたように口を開いた。

 

「あ、そ、そうだ! お願いします命さん! 命さんからもこのバカ二人に言ってやってください!」

 

「無駄だよ。僕も一緒に行こうと思ってたからね、いやーぎりぎりセーフ。行かれた後じゃもうどうにもなんないからね」

 

「ええぇっ!?」

 

しかし千枝の言葉を命はにっこり笑顔で却下、千枝はまた驚いた様子で声を上げる。と命は荒事には向いてなさそうな華奢な手をぽきぽきと鳴らした。

 

「安心して、僕はこれでも腕っ節には自信があるんだ。もし何かあったら二人をぶん殴って連れて逃げてくるから」

 

「……言っとくけど、事実だぞ? 自慢じゃないけど俺先輩に喧嘩で勝てたこと、一度もねえんだ……」

 

「で、でも、危ないですよ!」

 

「心配ないって。さ、行くよ真君、花村君」

 

命の言葉に真がため息混じりに返し、千枝がまた説得を試みるが命はあっさりそう言って二人をテレビの方に押す。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「大丈夫、任せておいて」

 

それに千枝が声を上げるが、命は千枝の方を向くとにこりと穏やかな、しかし見るもの全てを安心させるような笑顔を浮かべて左目を閉じパチンとウインクする。それに千枝は思わず固まってしまい、気づいた時には既に彼らはテレビに入ってしまっていた。ようやく我に返った千枝はくいくいとロープを引っ張るが、少しするとスポンとロープがテレビから抜けてしまう。

 

「ほらぁ、やっぱり無理じゃん……もう、どうしよう……」

 

それを見た千枝は膝をつき、今にも泣きそうな表情でそう呟いた。

 

 

 

 

 

「いっててて……」

 

「ここは……」

 

陽介が声を漏らし、真が立ち上がりながら呟く。と陽介がにっと笑った。

 

「見ろよ、前と同じ場所じゃないか! ちゃんと場所と場所で繫がってんだ!」

 

「キ、キミたち、なんでまた来たクマ!?」

 

陽介の言葉の直後聞こえてきた声、そして霧の中からクマがやってくる。

 

「こんにちは、クマ君。また失礼します」

 

「あ、は、はい……ってあーっ! わーかった! 犯人はチミタチだクマ!」

 

命の礼儀正しいお辞儀にクマもつられたようにお辞儀を返すが、その直後クマは怒った様子でそう続ける。

 

「っておい今なんつった!? 犯人!?」

 

クマの言葉に陽介が声を上げる、とクマは彼らに背中を向けた。

 

「最近、誰かがこの中に人を放り込んでる気配がするクマ。そのせいで、こっちの世界はどんどんおかしくなってきてるクマ……」

 

クマはそこまで言うと振り返る。

 

「キミたちはココに来れる……他人に無理矢理入れられた感じじゃないクマ。よって、一番怪しいのはキミたちクマ! キミたちこそ、ココへ人を入れてるヤツに違いないクマアァァ!!」

 

「うん、確かに現在の時点で一番怪しいと言われても反論は出来ないね。真君」

 

「ちょっ、俺に振らないでくださいよ! ってかクマ! お前も勝手に決めるな!」

 

クマのびしっという感じで左手を突き出してくるのに対し命は腕を組んでうんうんと頷いた後真に話を振り、それに真はツッコミを入れた後クマ向けて声を上げる。

 

「そうだ! それになんだそりゃ!? 人を入れる!? こんなトコに放り込まれたら出れずに死んじまうかもしれねーだろ! そんな危ねーことするワケ……」

 

「おい、まさか……」

 

陽介の言葉は途中で途切れ、真も声を漏らす。そして陽介がまた口を開いた。

 

「おい、待てよ。さっきの人を放り込んでるって話、まさか先輩や山野アナのことか? その誰かってのが、二人をここに放り込んだってことか!? なあ椎宮、命さん、どう思う?」

 

「……きっとそうだ」

「確かに、そう考えれば……」

 

陽介の言葉に真と命は頷いて返す。それから陽介はまたクマを見た。

 

「もしも、こいつの話がホントだとしたら……誰かがハナから殺す気で、人をここに放り込んでる……ってこともありえないか? だとしたら……」

 

陽介はそう考えを纏め始めるが、クマはじたんだを踏んで声を上げる。

 

「ゴチャゴチャうるさいクマねー! キミらは何しに来たクマ!? ココは一方通行! 入ったら出られないの! クマが出してあげないと出らんないの味わったでしょーが!」

 

「うるせー! 関係ねーだろ! お前の力なんて借りなくてもな、見ろ、今日はちゃんと命綱――」

「が切れてるよ、花村君」

「――え?……おああっ!?」

 

クマの言葉に陽介が怒鳴り返し、自慢げにそう言おうとするが命がさらっとツッコミ、陽介はその言葉に固まった後切れたロープの片端を見て声を上げた。

 

「テ、テメー! 調べが済んだらこっから俺らを出してもらうからな!」

 

「ムッキー! 調べたいのはこっちクマよ! クマ、ずっとココに住んでるけど、こんな騒がしいこと今までなかったクマ! 証拠あるクマか!? 放り込んでるのキミらじゃないって証拠!」

 

「証拠!? そんなの急に言われても……」

 

陽介は一瞬で意見を変え、それにクマが返した後そう尋ねると真は困ったように声を漏らす。

 

「ほら、やっぱりキミらクマ!」

 

「違うって言ってんだろ!? てか、お前に証明してやる義理はねえっての! それよりこっちの質問に答えてもらうぞ! 偶然来たこの前と違って今回はマジなんだ! いーか、俺らの世界じゃ人が死んでんだよ。霧が出るたびに死体があがってる。知ってること話せ! ぜってーココとなんか関係があるはずだ!」

 

「霧が出るたびに死体?……そっちで霧が出る日はこっちだと霧が晴れるクマよ。霧が晴れるとシャドウが暴れるからすごく危ないクマ」

 

「「シャドウ?……」」

 

クマの説明に真と陽介は不思議そうな声を漏らし、命はまさかといわんばかりの表情を見せる。

 

「はっはーん、そういうことクマか……」

 

「はぁ!? 一人で納得してんなコラ! 俺らんとこが霧だとこっちは晴れ? シャドウが暴れる?」

 

「そうなると危ないから、早く帰れって言ったんだクマ! さあ、質問は終わりクマ。キミらが犯人なのは分かってるクマ! 今すぐやめてもらうクマ!」

 

「だから違うって言ってんだろ!? いい加減キレそーだぜ……なんで人の話聞かねえんだテメエは!」

 

陽介の怒声にクマはびくりとなったように声を漏らす。

 

「は、犯人かも……って言ってるだけクマよ? ただ、確認してるだけ……」

 

「はぁ? 強気か弱気かどっちなんだよ? どうも調子狂うなこのクマ……」

 

クマは突然弱気になってそう呟き、それに陽介は困ったように声を漏らす、と次は真が口を開いた。

 

「ところで、ここは何なんだ? まるでテレビのスタジオみたいなんだが……ここで何か撮っているのか?」

 

「お、おい! もしかしてあのおかしな番組、ここで撮影されてんのか!?」

 

真の言葉を聞いた陽介が気づいたように声を上げる。と今度はクマが首を傾げるように身体を傾けた。

 

「おかしなバングミ? サツエイ? なんのことクマ?」

 

「あぁ、つまり放り込まれた人間を誰か別の人間が撮っているんじゃないかって言ってるんだ」

 

「? 分かんないこというクマね……ココは元々こういう世界クマ。誰かが何かをトルとか、そんなのないクマよ」

 

「どういうことだ?」

 

クマの言葉に命が補足するが、クマは不思議そうな表情でそういうのみ。その次には真が尋ねるとクマは真の方を向いた。

 

「ココにはクマとシャドウしかいないクマ! 前にも言ったクマよ!」

 

「あのな、こっちはお前もシャドウだかも、どっちも何者か分かんねーんだよ! っていうか、俺らに証拠だ何だ言う前に、お前がそもそも一番怪しいじゃねーか! お前こそ実は犯人なんじゃねーのか!?」

 

クマの言葉に陽介は声をあげ、クマに近寄る。

 

「大体なんだよそのフザけたカッコ! いい加減正体見せやがれっ!!」

 

そしてそう叫ぶや否やクマの頭をがしっと掴み、ぐぐぐっと上に引っ張る。すると少しの抵抗の後あっさりぽんっという音を立ててクマの頭が外れた。

 

「うおあっ!?」

「なっ!?」

「これは……」

 

陽介、真、命はそれぞれ反応を見せる。着ぐるみの中はからっぽ、例えるなら某錬金術漫画の鎧の弟君状態なのだ。

 

「な、なんなんだよお前……中身がねぇ……」

 

陽介は唖然とした様子で呟くとクマの胴体は頭を被りなおし、悲しそうな表情を見せる。

 

「クマが犯人だなんて、そんなことするはずないクマ……クマはただ、ココに住んでるだけ……ただココで、静かに暮らしたいだけ……クマ」

 

「……そうだね。怪しいからとはいえいきなりやりすぎたよ。花村君の無礼を僕から詫びるよ、ごめんね、クマ君」

 

「み、命さん!?」

 

クマの悲しそうな言葉に命は少し考えた後頭を下げ、陽介が驚いた様子を見せる。とクマがまた口を開いた。

 

「キミ達が犯人じゃないって、信じてもいいクマよ? でもその代わり、本物の犯人を探し出して、こんなことを止めさせて欲しいクマ……約束してくれないなら、こっちにも考えがあるクマ」

 

「考え?」

 

クマの言葉に陽介が声を漏らす、その時クマがまた言った。

 

「ココから出してあーげない」

 

「なっ!? テ、テメー!」

 

「このままじゃクマの住むココ、めちゃくちゃになっちゃうクマ。そしたらクマは……ヨヨヨヨ……」

 

クマの言葉に陽介が声を荒げ、クマはそう呟くと泣き始める。

 

「な、何急に泣いてんだよ。あーもう、ホント調子狂うぜ……」

 

陽介は困った様子で頭を抱える、と真が口を開いた。

 

「分かった。犯人を捜すことを約束しよう」

 

「お、おい椎宮!?」

 

「しょうがないね。選択の余地ないし、僕も真君に協力するよ」

 

「命さんまで!?」

 

真の言葉に陽介が声をあげ、命が続くと陽介はまた声を上げる。とクマは嬉しそうに微笑んだ。

 

「よ、良かったクマ~」

 

「くそ、出さないとかって足元見やがって……けど、いろいろ知りたくて来たのは間違いない。今んとこ、なんもワカンネーしな。俺達で犯人を捜せか、望むところだ。その約束、乗ってやるよ」

 

クマの言葉に陽介ははぁっとため息をついた後そう言い、自分を指差す。

 

「俺は花村陽介、一応名乗っとくぞ」

 

「俺は椎宮真だ」

 

「改めて、僕は利武命」

 

陽介に続いて真と命も名を名乗る。

 

「お前、名前はなんてんだ?」

 

「クマ」

 

陽介の問いにクマはさらっと名乗る、と陽介は頭に手をやった。

 

「まんまだな、おい……けど犯人捜すって、どうすりゃいいんだ?」

 

「それはクマにも分からんクマ。でも、この前の人間が入り込んだ場所は分かるクマ」

 

陽介の言葉にクマはそう返し、その言葉に陽介が反応する。

 

「この前の人間って、もしかして小西先輩のことか!?」

 

「この前、ココで消えた人間クマ」

 

「もしかしたら何か手がかりがあるかもしれない。クマ君、案内を頼めるかな?」

 

「まかしときんさい! あ、その前に。三人とも、これをかけるクマ」

 

陽介の言葉にクマが頷き、命が続けるとクマは大きく頷いた後思い出したように三つの眼鏡を取り出して三人に一つずつ手渡す。陽介のものはレンズが四角でフレームはオレンジ色、レンズの縁が太い印象のもの。真は同じくレンズが四角でフレームは黒セルというもの。命は真の眼鏡と同じでフレームの色が青以外違いはなかった。

 

「なんだよ、この眼鏡……」

 

陽介はそう呟きながら眼鏡をかけ、真と命も同じように眼鏡をかける。と三人は驚いたように目を丸くした。さっきまでは霧で少し先も見えなかったのに眼鏡をかけるとまるで霧がないみたいによく見通せている。

 

「うお、すっげえ……この間と視界が全然違う。かけてると濃い霧がまるでないみたいだ……」

 

「どういう理屈になってるんだろ……」

 

陽介が驚いたように呟き、命が不思議そうに眼鏡をいじる。

 

「霧の中を進むのに、きっと役立つクマ。まあ、クマはココに長いこといるから、頼りにしてくれクマ!……あ、でもクマに出来るのは案内だけだから、自分の身は自分で守ってほしいクマ」

 

「頼りにならねーじゃんか! ワケわかんないの、相手に出来ないからな! 武器は持ってきたけど、その……雰囲気出しみてーなとこあんだろ! 来たばっかの俺らより、危ないならお前がなんとかしろよ!?」

 

「ムリムリ、筋肉ないもん。クマは少し離れた所からキミたちに状況を伝えるクマよ。分かったクマ?」

 

「……」

 

陽介とクマはそう会話をし、ふと何を思ったのか真は軽く、ポンッという程度にクマを押す。

 

「や、やめれー」

 

とクマは一瞬で倒れもがき始めた。なんというか、甲羅を下に倒れた亀とでも言えばイメージは伝わるだろうか?

 

「ま、まじか……こいつショボすぎるぞ」

 

思わず陽介も呆然とした様子で呟く。

 

「こんな弱いのと犯人捜すなんて約束しちまったのか?……」

 

「あはは。まあなんとかなるよ」

 

陽介は頭を抱えており、対照的に命はあっけらかんとした表情で笑っていた。その間にもがいているクマを真が助け起こし、三人はクマの案内について歩いていく。

 

 

 

 

 

それから彼らがやってきた場所、それを陽介は驚いた様子で見回していた。真も唖然として目を見開いているし、命も何か考える様子で辺りを見回している。

 

「な、なんだよここ……町の商店街にそっくりじゃんか……一体どうなってんだ!?」

 

「最近おかしな場所が出現しだしたクマよ。いろいろ騒がしくなって困ってるクマ」

 

陽介の言葉に、彼らより後ろ、そして数メートル離れた位置にいるクマが呟く。と陽介が振り返り腕を組んで彼に向け声を発した。

 

「ところでお前、なんでそんな離れたとこにいんだよ?……いざとなったら逃げる気じゃないだろうな?」

 

「そ、そんなことないクマよ! ただ、あんまり近くにいたらキミたちの活躍の邪魔になるから……」

 

陽介の言葉にクマは誤魔化すようにそう言い、それに陽介はふ~んと声を漏らして辺りを見回す。

 

「しっかし、どの辺まで続いてるんだ? てか、町のいろんな場所の中でなんでここなんだ?」

 

「なんでって言われても、ココに居る者にとってココは現実クマ」

 

「ハァ……相変わらずよく分かんねーなぁ……」

 

クマの言葉に陽介はそう声を漏らし、それから道の先を見た。

 

「けど、ここがウチの商店街ならこの先は確か小西先輩の……」

 

陽介はそういうや否や走り出し、残る三人も慌ててその後を追う。陽介が立ち止まったのはある店の前だった。

 

「やっぱり……ココ、先輩んちの酒屋だ。先輩、ここで消えたってことなのか? 一体何が……」

 

陽介はそう言って酒屋に入ろうとする、とクマがびくりとした様子で叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと待つクマ! そ、そこにいるクマ!」

 

「どうした? クマ」

「いるって、何がだよ?」

 

クマの言葉に真と陽介が同時に尋ねる、と命がびくりと身体を震わせた。

 

(こ、この感じ!?)

「……シャドウ。やっぱり、襲ってきたクマ!」

 

命が身を震わせたのと同時、クマは声を上げた。

 

「陽介! 下がれっ!!」

 

直後命の凛とした声が響き、陽介は慌ててその場を離れ命の横まで戻る。その直後酒屋の中から青い仮面をつけた何かが泥のように茶色い身体が胴体と手を模して真達の前に立つ。

 

(臆病のマーヤ……シャドウという名称からまさかと思ってたけど、なんで影時間が消えた今シャドウが……)

 

命は自分の記憶の中から敵――シャドウのデータを手繰り寄せ、身構える。臆病のマーヤ自体はただの雑魚、二年のブランクがあるとはいえ命に倒せない相手ではない。だが今彼の近くには三人の非戦闘能力者がいる。彼らを守りながらとなるとその難易度は桁違いに跳ね上がる。

 

「何!?」

 

すると突然シャドウが宙に浮かび、茶色い身体が球を作り出す。そしてその球が太い紫と細い黒の縞々模様の身体を作り、巨大な口とその中から長い舌を伸ばした。

 

(な、なんだこいつ!? まさかシャドウが進化したのか!?)

 

命は心中驚きながらも表面は冷静さを崩さず分析を始める。しかし敵が未知数の存在となったせいで相手の出方を伺う必要があった。命は相手の動きを見つつ、ライダースジャケットの下に隠している召喚銃に手をやる。

 

「……ん?」

 

しかし次の瞬間、彼は何か自分とシャドウとは別の何かの反応に直感で気づいた。

 

 

 

 

 

(な、なんだこいつら……これがシャドウ、なのか?)

 

命が相手を分析しているのとほぼ同時、真も目の前の異形の存在――シャドウを見ていた。すると彼の頭に何かの声が響く。

 

[我は汝、汝は我……]

 

(な、なんだ?……)

 

[汝、双眸を見開きて、今こそ発せよ!]

 

聞こえてきた声。その直後、彼は自分の右手にタロットカードが握られているのに気づく。

 

「これは……」

 

真はそれを驚いた様子で眺める、と彼は突然ニヤリ、と笑みを漏らす。ドクンと彼の心臓が強い鼓動を立て、彼の中から何かザワザワとした感覚が現れ始めた。

 

「ペ、ル、ソ……ナ!」

 

そう叫び、彼はカードを握り潰しカードはまるでガラス片のように砕け散る。その直後、彼の背後から鉄仮面のような顔に鉢巻を巻き、黒長い学ランのような服に身を包んだ。そして長い刀を持った存在が姿を現す。

 

(ペ、ペルソナだって!? まさか真君、ペルソナ能力に目覚めたの!?)

 

その存在――ペルソナを見た命は驚きを隠せないように目を丸くする。

 

[[ウェオオオォォォッ!!]]

 

「しまった!?」

 

命は真がペルソナを発言したことに驚いてしまい、反応が遅れる。

 

「イザナギ!! スラッシュ!」

 

しかしシャドウが命達に近づく前に真が叫び、ペルソナ――イザナギが手に持った刀でシャドウの一体を斬り裂き、シャドウは消滅。それを見たもう一体のシャドウは敵を真に変更、すると真はそれを見越していたかのようにゴルフクラブを振り上げ、力の限りシャドウに叩きつけた。その一撃にシャドウが怯む。

 

「ジオ!」

 

直後真が命じ、イザナギから発された落雷がシャドウを撃ち砕き消滅させた。二体のシャドウ、それは真の力の前に一瞬にして無へと帰した。と陽介が真に走り寄る。

 

「すっげ、なんだよ今の!? ペルソナって言ったよなッ!? な、アレ、どういう……てか、一体何したんだよっ!?」

 

「いや、俺も何がなんだか……」

 

「なぁ、俺も出せたりすんのか?」

 

「わ、分からない……というより正直俺も説明が欲しいくらいで……」

 

興奮している陽介に対し真は困った様子で呟く、とクマがそこに歩いてきた。

 

「落ち着け、ヨースケ。センセイが困ってらっしゃるクマ!」

 

「セ、センセイ?」

「センセイって……俺のことか?」

 

「いやはや、センセイは凄いクマねッ! クマはまったくもって感動した!」

 

「あ、あぁ……そりゃ、どうも?」

 

「こんな凄い力を隠してたなんて……シャドウが怯えてたのも分かるクマ! もしかして、この世界に入ってこれたのも、センセイの力クマか?」

 

「……確証はないが、恐らく」

 

クマの言葉に真はやはりどこか困惑気味の表情と声質でそう返すのが精一杯だった。

 

「ふむーっ! やっぱりそうクマか! こら、スゴイクマねー……な、ヨースケもそう思うだろ?」

 

「何、急に俺だけタメ口になってんだ! チョーシ乗んなっ!」

 

「まあまあ落ち着きなよ花村君」

 

クマは真には普段通りだがいきなり陽介にはタメ口に変化しており、陽介がクマを突き飛ばすと命が苦笑気味にそう言う。

 

「さてと、それじゃこの店を調べてみようか?」

 

「あ、ああ。そうっすね。よし、捜査再開! 頑張っていこうぜ!」

 

命の続けての言葉に陽介も頷き、気合を入れるようにそう叫んで再度店の前に立つ。

 

「にしても、ここで一体先輩に何があったんだろうな?」

 

「それを調査するのが今回の目的、なんだろ?」

 

陽介の言葉に真はふっと笑ってそう言い、命もそうそうと頷く。が彼は直後何かに気づいたように顔を上げた。

 

「どうしました、先輩?」

 

「しっ!……皆、耳を澄ませて」

 

命の行動を不思議に思ったのか尋ねてくる真に命は人差し指を口に当てて静かにするよう促し、さらに耳を澄ますように言う。と辺りから聞き覚えのない何者かの声が聞こえてきた。

 

[ジュネスなんて潰れればいいのに……]

[ジュネスのせいで……]

 

「な、なんだよこれ……」

 

どこからともなく聞こえてくる声。それに陽介が声を漏らす。

 

[そういえば小西さんちの早紀ちゃん、ジュネスでバイトしてるんですってよ]

[まあ……お家が大変だって時に……ねぇ]

[ジュネスのせいでこのところ、売り上げもよくないっていうし]

 

「や、やめろよ……」

 

[娘さんがジュネスで働いてるなんて、ご主人も苦労するわねぇ]

[困った子よねぇ……]

 

「おい……おい、クマ!」

 

聞こえてきた声は推測するに早紀のことを指している。陽介は我慢できずにクマを呼んだ。

 

「ここは、ここにいる者にとっての現実だとか言ってたよな!? それ、ここに迷い込んだ先輩にとっても現実って意味なのか?」

 

「……クマは、こっち側のことしか分からない」

 

陽介の言葉にクマは首を横に振って返す、と陽介はキッとした表情で酒屋の方を見た。

 

「……上等だよ。一体何がどうなってるのか、俺達で確かめてやる!」

 

「ああ。行こう!」

 

陽介の言葉に真も頷き、彼らは酒屋の中に突入。しかしその中でもまだざわざわとした声は聞こえていた。

 

「くそっ、またか……」

 

陽介が呟く、と男性の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

[何度言えば分かるんだ、早紀!?]

 

「こ、これ……先輩の親父さんの声か!?」

 

[お前が近所からどう言われてるか、知らないわけじゃないだろ!? 代々続いたこの店の長女として、恥ずかしくないのか!?]

 

聞こえてきたのはどうやら早紀の父の声らしい。陽介の驚いた声の後も早紀の父のものらしい声は続いていた。

 

[金か!? それとも男か!? よりにもよって、あんな店でバイトなんかしやがって!]

 

「なんだよ、これ……バイト楽しそうだったし、俺にはこんなこと、一言も……」

 

早紀の父の声に陽介は苦虫を噛み潰したような表情を見せた後拳を握り締めた。

 

「こんなのがホントに、先輩の現実だってのかよ!?」

 

そして我慢できないように声を荒げる、と真がテーブルの上に散らばっているものに気づいた。

 

「あれは……」

 

それを見た真はテーブルに走り寄り、一緒にテーブルに近づいた命がその散らばっているもの――写真を掴み取る。

 

「写真……」

 

「あっそれ、前にバイト仲間とジュネスで撮った写真じゃんか……な、なんでこんなとこ……」

 

命が取った写真を覗き込んだ陽介がそう声を漏らす。写真には笑顔の早紀と、その隣に陽介が写っていた。

 

[ずっと、言えなかった……]

 

「!?」

 

そこに聞こえてきた女性の声、それに誰よりも速くそして強く、陽介が反応する。

 

「この声、先輩!?」

 

[私、ずっと花ちゃんのこと……]

 

「え? お……俺のこと?……」

 

早紀らしき声、それから陽介のことを指す言葉が出て、陽介は驚いたように声を漏らす。

 

[……ウザいと思ってた]

 

しかし直後聞こえてきた言葉に陽介は信じられないといわんばかりに目を見開いた。

 

「仲良くしてたの、店長の息子だから都合いいってだけだったのに……勘違いして、盛り上がって……ほんと、ウザい]

 

「ウ、ウザい?……」

 

[ジュネスなんてどうだっていい、あんなののせいで潰れそうなウチの店も、怒鳴る親も、好き勝手言う近所の人も……全部、無くなればいい]

 

「ウ、ウソだよ……こんなのさ……」

 

早紀の声として出てくる言葉、それに陽介は愕然とし、さらに泣きそうな声を漏らした。

 

「先輩は、そんな人じゃねえだろ!?」

 

そしてまた我慢出来ずに叫び声を上げた、その時だった。

 

[悲しいなぁ、可哀想だなぁ、俺……]

 

突然聞こえてきた声、()()()()()()にそこにいた全員が驚いた様子で声を向く。

 

[てか、何もかもウザいと思ってんのは自分の方だっつーの、あはは……]

 

そこには陽介が座り込んで自嘲気味の表情でそう声を漏らしていた。

 

「あ、あれ? ヨースケが二人、クマ?……」

 

思わずクマがそう呟いてしまう。そこに座っているのは確かに陽介、しかしその表情は自嘲に歪んでおり、さらに瞳が金色に怪しく輝いていた。

 

「お、お前、誰だ!? お、俺はそんなこと、思ってない……」

 

[ん~?]

 

陽介が陽介らしき存在に駆け寄って問いかける。と陽介らしき存在はくっくっと笑いならのっそりと立ち上がると我慢しきれないようにその整った顔を歪めて笑い出した。

 

[アハハ、よく言うぜ。いつまでそうやってカッコつけてる気だよ。商店街もジュネスも全部ウゼーんだろ! そもそも田舎暮らしがウゼーんだよな!?]

 

「な、何言ってる? 違う、俺は……」

 

[お前は孤立すんのが怖いから上手く取り繕ってヘラヘラしてんだよ。一人は寂しいもんなあ、みんなに囲まれてたいもんなあ]

 

陽介らしき存在の言葉に陽介は反論しようとするがその前に陽介らしき存在はそうまくし立てる。そしてまたニヤリとその表情を歪めて笑った。

 

[小西先輩のためにこの世界を調べに来ただぁ? お前がここに興味を持ったホントの理由は……]

 

「や、やめろ!!」

 

陽介らしき存在の言葉に陽介は必死で叫ぶ、と陽介らしき存在は心底おかしそうに陽介を指差して笑い出した。

 

[ははは! 何焦ってんだ!? 俺には全部、お見通しなんだよ。だって俺は……お前なんだからな!]

 

陽介らしき存在はそう言い、ニヤリと口元を歪める。そしてその口から陽介が止めたがってたであろう言葉を発した。

 

[お前は単に、この場所にワクワクしてたんだ! ド田舎暮らしにはうんざりしてるもんな! 何か面白いモンがあるんじゃないか……ここにきたワケなんて、要はそれだけだろ!?]

 

「違う……やめろ、やめてくれ!……」

 

陽介らしき存在の言葉に陽介は力ない声でやめろと言う、が陽介らしき存在は止まらなかった。

 

[カッコつけやがってよ……あわよくばヒーローになれるって思ったんだよなぁ? 大好きな先輩が死んだって言う、らしい口実もあるしさぁ……]

 

「違う!!」

 

陽介らしき存在の最後の言葉に陽介は声を荒げる。

 

「お前、なんなんだ! 誰なんだよ!?」

 

[くくく……言ったろ? 俺は、お前……お前の“影”。全部、お見通しだってなぁ!]

 

「影……そうか! こいつは花村君のシャドウ!」

 

「シャドウ!? あれが!?……いや、先輩、なんでそんなことを……」

 

陽介の言葉に陽介らしき存在はそう告げる。とそれを聞いてようやく陽介らしき存在の正体を見抜いた命が陽介らしき存在――陽介のシャドウを指差して声を上げ、それを聞いた真は前半シャドウという存在に対する驚きの、後半何故そんなことを命が知っているのかという驚きの声を出した。すると陽介は首をぶんぶんと横に振る。

 

「ふ……ざけんなっ! お前なんか知らない!」

 

そして陽介は自身のシャドウを睨みつけて叫んだ。

 

「お前なんか……俺じゃない!!!」

 

[ふふふふふ、あっはっはっはっはっは!……ああそうさ、俺は俺だ。もうお前なんかじゃない]

 

陽介がそう叫んだ瞬間陽介のシャドウは高笑いをしながらそう言う、と彼を黒い影が取り囲み始めた。

 

「あ、あああ、あああああ……」

 

陽介は震えながら声を漏らす。そして黒い影の中から巨大な何か――カエルのようなものに乗り、というか下半身がカエルのようなものになっている、黒い身体で手が異様に巨大な人間――異形の存在――シャドウが姿を現した。そして陽介のシャドウはその巨大な手を振り上げ、腰を抜かしたように倒れこんでいる陽介目掛けて振り下ろす。

 

「花村君っ!」

 

と間一髪命が飛び込んで陽介を抱えながら離脱、陽介のシャドウが振り下ろした手は地面に激突。しかしその手はコンクリートで出来ていると思われる――テレビの中の世界のものがどんな物質で構成されているのか分からないが少なくともかなり硬いと推測できる――床を砕いており、生身の人間が無防備に受けたら間違いなく命はないことを容易に知らしめた。

 

「先輩、クマ、下がって!」

 

真はそれを見ると自分がやるしかないと前に立ち、ゴルフクラブを握り締めて剣道の時と同じく正眼に構えた。

 

[我は影、真なる我……]

 

陽介のシャドウはその本体と思われる人間部分がゆらゆらと揺れながら声を出していた。

 

[退屈なものは全部ブッ壊す……まずは、お前からだ!!!]

 

陽介のシャドウは巨大な手で真を指差し、それを見た真は右手に精神を集中。それがイザナギを呼び出すペルソナカードを作り出した。

 

「イザナ――」

[遅ぇよ!!]

 

しかし真がそれを砕き己の人格の鎧(ペルソナ)を呼び出そうとする前に陽介のシャドウの声が響き、陽介のシャドウはまるでアニメや漫画の忍者が忍術を使う時のようなポーズを取った。

 

[いつまで耐えられるかな? 忘却の風!]

 

陽介のシャドウがそう叫んだ瞬間真目掛けて吹き荒れる風、それが真を吹っ飛ばした。

 

「ぐはぁっ!!」

 

真は酒屋の壁に叩きつけられ、苦しそうな声を漏らす。

 

「イザナギの弱点は疾風か!」

 

「ク、クマ? センパイ?」

 

ペルソナを使っているにしては凄まじいダメージ、それを見た命は瞬時にそう予測を組み立て、それを聞いたクマは声を漏らす。と命はクマの後ろに陽介を置く。

 

「クマ君、花村君を任せたよ」

 

「セ、センパイはどうするクマ!?」

 

「もちろん。あのシャドウをぶっ倒す。安心してよ、これでもシャドウとの戦いには慣れてるからさ」

 

「ク、クマ?」

 

命の言葉にクマが尋ねると命はにこりと綺麗な微笑を見せてそう返す。その言葉にクマはきょとんとした表情を見せ、命はそれを見ることなく真のそばに駆け寄った。

 

「真君! 大丈夫?」

 

「せ、先輩! 危険です、離れてください! いや、俺が囮になるから花村とクマを連れて逃げて!」

 

無防備に駆け寄ってきた命に真が慌てたようにまくしたてる、と陽介のシャドウがにやぁっと微笑んだ。

 

[ほう、面白ぇ……てめえもブッ壊してやらぁ!!]

 

そう叫び、陽介のシャドウは命目掛けて突進。それに対し命は立ち上がると真に背を向けて陽介のシャドウの方を向き、無防備に立ち尽くす。

 

「先輩、逃げてぇー!!!」

 

「真君。ペルソナ使いは、シャドウと戦う力を持つのは、君だけじゃないんだよ?」

 

真の必死の叫びに対し命は彼に背中を向けたままそう言うのみ。そして彼はライダースジャケットの中から銃を取り出し、自らのこめかみに突きつける。

 

「せ、先輩!?」

 

「ペ……」

 

凶器を取り出しただけでなくそれを(シャドウ)ではなく自分に突きつける。その行動に真が声を漏らした。すると命の口から言葉が紡ぎ出される。

 

「ル……ソ……ナ!」

 

その最後の言葉が紡ぎ出されると同時、引き金が引かれる。ガシャァンというガラスの割れるような音が響き、彼の内部から何かが現れる。それは白髪が命と同じ髪型を取っており、作り物のような身体に巨大な竪琴を持っている。

 

「ペ、ペルソナ?」

 

「そう。これが僕のペルソナ、幽玄の奏者……オルフェウス! いけ、アギ!」

 

[ぐあああぁぁぁぁっ!!]

 

真が唖然とした様子で呟くと命は頼もしげに微笑んでペルソナ――オルフェウスを見上げ、そして指示を出す。それを聞いたオルフェウスが竪琴をかき鳴らし、それから発された炎が陽介のシャドウを襲う。それから命は呆れた様子で真を見る。

 

「真君、いつまで呆けて倒れてんの?」

 

「え? あ、はい!」

 

命の言葉を聞いた真は慌てて立ち上がり、ゴルフクラブを構えなおす。それを見ながら命が口を開いた。

 

「あくまで予測の範囲だけど、あのシャドウは疾風属性の魔法を使うみたいだ。そして君のペルソナ、イザナギはその疾風属性を弱点としているらしい。あいつの風攻撃が来たら僕、あるいはオルフェウスの後ろに隠れて」

 

「で、でもそれじゃ先輩が!」

 

「もちろん、僕は防御重視で行く。ゴルフクラブ程度とはいえ武器持ってるんだから君が攻めてくれないと、丸腰は流石にやだよ」

 

「う……」

 

「今回僕は君の盾となる。だから君は僕の剣として戦ってくれ」

 

命のデータ分析と指示を聞いた真が声を上げると命は反論が来る前にふざけ半分の口調でそう言い、その言葉に真は声を失う。そして命はにこりと微笑んで作戦を言い、それを聞いた真は少し考えた後力強く頷いた。

 

「……了解!」

 

「オッケー! じゃあ僕は盾に、君は剣に。そしてオルフェウスとイザナギは魔術と肉弾戦の混合だ!」

 

「おうっ! 来い、イザナギ!!」

 

[テメエらぁ、木っ端微塵にブッ壊してやる!!!]

 

命の最終作戦を聞いた真が声を上げてイザナギを呼び出し、ようやくアギの炎を消し去った陽介のシャドウは苛立った様子で声を荒げた。




≪後書き≫
う~む、これどっちが主人公になるのか分かんなくなってきたな。ストーリーは真を追う視点、でもペルソナ関係や戦闘関係になると命の視点が主になってくる……一応ペルソナを知る先駆者だからペルソナ関係は命も説明出来ちゃうっていうか基礎知識がある分説明させやすいんだよなぁ……。
ま、それはそれとして今回はようやく陽介のシャドウとの戦い前。一応本格的な戦闘入りは次回にしておきます……とりあえず陽介のシャドウとの戦いに命とオルフェウスを介入されるからどう書くかしっかり考えないと……ぶっちゃけ、ペルソナ使えるんだから命も介入しないと不自然という理由から彼も闘いに入れただけでどう戦わせるかほとんど決めてないんで……あと彼の過去というかS.E.E.S.もどういう風に真達に説明させるかとか色々考えることは山積みなので。そういう点を考えて次回VS陽介シャドウを書いていきたいと思ってます。
それではまた次回。なお感想はいつも大歓迎で受け付けておりますのでお気軽にどうぞ! それでは。

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