ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四十七話 深まる絆。永劫と魔術師

9月18日、日曜日。真は商店街を訪れていた。

 

「あ、来た。遅いよ。ね、どっか行こ。記憶、一緒に探してくれるんでしょ?」

 

彼が訪ねようとしていた相手――マリーが言う。以前マリーとした約束、彼女の記憶を取り戻す手伝い。真は今日それをしに来たのだ。

 

「そうだな。行くか」

 

「うん、行こ! 早く思い出したいよ」

 

マリーは待ちきれない様子を見せており、真はひとまず落ち着ける場所でマリーの話を聞くことにした。

 

それからやってくるのは鮫川の河原。

 

「でさ、記憶の事だけど、どうすればいいの?」

 

「そうだな……手がかりは何かないのか?」

 

「ううん、ないよ」

 

マリーの問いかけに対し真は何か手がかりがないかと尋ねる。それにマリーはないよ、と答えた後「前も言ったけど」と言って唯一の手がかりだという古い竹櫛を取り出す。

 

「これだけは最初から持ってたの……何かの役に立つかな?」

 

「……どこかで売っていれば、何か分かるかもしれないな」

 

真は竹櫛を見ながらそう言うが、マリーは以前調べたのか「ジュネスで見たのと違う、こんなのなかった」と答える。

 

「何かもっと古い感じ……そういうのあるお店、知ってる?」

 

「……古い竹櫛……服飾雑貨」

 

マリーの問いかけに真は目を閉じ、考え始める。

 

「巽屋」

 

「たつみや?」

 

「完二の家だ。古い染物屋をしているから、もしかしたら何か分かるかもしれない」

 

「オッサンち? ふーん……ちょっと意外。とりあえず行こ。商店街の方……だっけ?」

 

真から説明を受け、マリーは竹櫛をバッグにしまうと歩き出した。

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

巽屋に辿り着き、真が挨拶をしながら店に入る。

 

「うーす、らっしゃい……って、先輩じゃねえスか」

「きゃー先輩、偶然! あ、マリーちゃんも一緒なんだ」

 

店番らしい完二と、何か駄弁っていたりせが挨拶を返す。

 

「え……てか何、まさか二人してデートとか……」

 

「いや、ちょっと用事があるんだ」

 

男女二人きりという光景から気づいたりせが慌てたように言うが真はそれを否定、マリーもうんと頷いて返すとりせは安心したように「ビックリしちゃった」と返した後、完二を小突く。

 

「ほら完二、先輩が用事だって!」

 

「用事……って、俺にッスか?」

 

「ああ、マリー」

 

完二は首を傾げながら真に問いかけ、真もマリーに促すとマリーはバッグから竹櫛を取り出した。

 

「これ……何か分かる? なんでもいいの、知ってる事教えて」

 

マリーの言葉に完二は「いきなりなんだよ」とぼやきながらどれどれと呟いて竹櫛を見る。

 

「なんだこりゃ……えてぇ古ぃな。櫛だっつー事は分かるけどよ……」

 

完二が櫛だというのに対しりせは「これ櫛なの?」と驚いた声を出す。使いづらそうな形、と評価した。

 

「で、どうすんスか? コレの出所が分かりゃいーんスかね?」

 

「ああ。分かるか?」

 

「や、オレにゃ全然分かんねーっスけど……」

 

完二が確認を取り、真が出来るかと尋ねるが完二は首を横に振って全く分からんと返した後、店の奥の方を向いて「お袋! ちっと来てくれよ!」と母親に呼びかける。

 

「あ、そっか。完二のお母さんなら何か分かるかも……」

 

「はいはい、聞こえてますよ。そんなに大声で呼ばなくても……」

 

完二の母親はのんびりとした口調で出てくると真を見て「お久しぶりね」と挨拶。マリーを見て「その子も完二のお友達?」と挨拶した。

 

「この櫛の事。なんか分かるかつってよ。お袋、何か分かんねーか?」

 

完二の促しに彼の母親はどれどれとマリーの竹櫛を観察する。

 

「これは……相当古い物ねぇ」

 

完二の母親は一見してそう言い、こういうのはちょっと置いてないわねと言う。

 

「何か分かる? なんでもいいの」

 

マリーはどこか必死さを見せながら尋ね、完二の母親は「こんな形は初めて見たから、日用品ではなさそうだ」と鑑定。お店ではなく美術館や博物館で訊いた方がいいかもしれない。と話す。それにマリーだけでなく真、完二やりせも頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

「博物館?……えっと、それって珍しいって事?」

 

りせが尋ねると、完二の母親は珍しいかどうかは分からないけど、その辺で売っているようなものではないと言う。それを聞いた完二が「売ってねえならどこにあんだよ。ババァ、ちったあ他にも分かんねえのかよ」と言うが、それを聞いた彼の母が「ババァはやめなさいって言ってるでしょ!」と一喝すると彼は焦ったように沈黙。

 

「ごめんなさいね、お役に立てなくて。でも、本当に見たことがないのよ」

 

「……私、なんでそんなの持ってるんだろう……こういうの、誰かに貰ったりする?」

 

完二の母親の申し訳なさそうな謝罪を受け、マリーは何故自分がそんなものを持っているのか不思議に思った後、もう一度彼女に問う。それに完二の母親はどうかしら、と呟いた。

 

「櫛ってね、贈り物には向いてないのよ」

 

「……どういう意味ですか?」

 

その言葉を受けた真が尋ね、完二の母親は「櫛という文字には“苦”や“死”が入っており縁起が悪く、別れを招く力がある、なんて言われている」と説明。しかし同時に「私みたいな古い人の慣習だから、若い人は気にしないかもしれないけど」と朗らかに笑った。りせもそうなんだ、と呟いていると客が完二の母親を呼び、完二の母親も「ちょっとお待ちくださいな」と返した後完二に真達を頼み、真達にもちょっとお話をしてくるけどゆっくりしていてねと言い残して歩いていった。

 

「“苦”や“死”……か。んなモン、人に送ったりしねーよな」

 

「“別れを招く”って言ってたよ? 櫛って、結構縁起が悪いのね……」

 

完二とりせの言葉を聞き、マリーはうつむく。

 

「別れ?……」

 

そしてぽつりとつぶやき、ん~、と声を漏らす。しかし眉をしかめているその様子は具合が悪そうに見え、りせと完二が心配そうに「具合でも悪い?」「なんなら座って休め」とマリーに促した。

 

「何か思い出したか?」

 

「わかんない、でも……何か……気になったの」

 

真が尋ねるが、マリーはそう呟くのみ。そしてやがて首を横に振ると「消えちゃった。思い出せない」と呟き、頭をかく。

 

「何か……フワッて。もう少しで分かりそうだったのに……」

 

マリーは悔しそうに呟く。

 

「……思い出せねーって、お前。その櫛の事、覚えてねえのかよ?」

 

「え? どういう事? それ、マリーちゃんの櫛なんじゃ……」

 

完二がマリーの言葉の違和感に気づき、りせも問いかけるが、マリーは気にしないでと答える。それに二人が不思議そうに首を傾げるが、マリーは構うことなく竹櫛をもう一度見る。

 

「これ、普通の櫛じゃないんだ。はくぶつかん? びじゅつかん? また調べたら、何か思い出すかも。キミも協力してね」

 

「もちろんだ」

 

マリーは真から協力を取り付けると、疲れたから今日は帰る。また今度続きをしようと言って店を出て行く。

 

「……何スか、アイツ」

「マリーちゃんって、ちょっと不思議だよね……」

 

「すまない。これはマリーの問題なんだ……俺から口外するわけにはいかない」

 

完二とりせが不思議そうに呟き、真が申し訳なさそうに言う。

 

「いいッスよ。気にしないでください」

「うん。ほら先輩、マリーちゃん行っちゃうよ!」

 

「ああ、すまない」

 

りせが促し、真はもう一度二人にそう言ってから店を出て行く。そしてマリーをベルベットルームに送ってから、彼も家に帰っていった。

 

その翌日、6月19日の月曜日。休日である今日、真はジュネスのフードコートへとやってきていた。彼は昨日と同じくマリーの記憶を取り戻す手伝いをしようとしたのだがマリーは何か考えているような様子を見せながら「気が乗らないからパス」と却下。

肝心のマリーがそう言っているのに無理に連れ出すわけにもいかないため、真はベルベットルームを抜け出してそこらを散歩していた時に偶然出会った陽介にここに誘われたのだ。

 

「さーて、今日は何食う?」

 

陽介は元気に笑いながら言い、「またウルトラヤングセットに挑戦すっか?」と冗談交じりに続ける。

 

「ちょっと花村!!」

 

と、そんな聞き覚えのある高圧的な声が聞こえ、陽介は真に向けて「悪い」と呟いて頭を下げると席を立ち、声の方を向く。

 

「今日は何すか?」

 

「なんでカズミが休めてウチらはダメなわけ?」

 

「……は?」

 

派手な女子生徒の言葉に陽介は呆けた声を出した。

 

「前にアンタに言ったじゃん! ウチら、土日はバイト入れないって!」

「だから断ったら、やっぱクビとか言われて! 超意味分かんないんだけど!」

 

派手な女子生徒と高圧的な女子生徒は以前陽介に「土日はバイトに入れないからどうにかしろ」と迫っていた二人で、どうやらそれを通そうとしたらクビになりそうになり、再び陽介に文句を言いに来たらしい。

 

「や、俺は一応、チーフに伝えましたけど……それよか先輩ら……最近、無断欠勤とかしてないすか?」

 

その二人の訴えに対し陽介は一応チーフに伝えた。と返した後、二人が最近無断欠勤している事を指摘する。

 

「あ、あれはたまたま忘れてて……てゆーか、それ今、関係ないでしょ! どうしてくれんのよ、デートあんだけど!」

 

「カズミだけ休めるとかさぁ、ヒイキしすぎだっつの!」

 

派手な女子生徒は陽介の無断欠勤の指摘に一瞬詰まった後、開き直ったように高圧的な女子生徒と共に陽介を責める。

 

「つーかアンタさぁ、早紀のこともヒイキしてたよね?」

 

「……え?」

 

「ゴマかしてもムダだからね! みんな知ってんだから! アンタが早紀のこと好きで特別扱いしてたことくらい!」

 

「……」

 

派手な女子生徒の言葉に陽介は一瞬黙る。

 

「小西先輩のことは、関係ないんじゃないですか?」

 

「あるに決まってんじゃん!!」

 

陽介の言葉に派手な女子生徒は喚き、「どうせ他の従業員にもヒイキさせるよう言っていたんだ」「店長の息子だからって何やってもいいのか」と、高圧的な女子生徒はさらに「早紀が死んだら今度はカズミ。言っておくがあの子は彼氏がいるぞ」と勝手な勘違いで陽介を責める。「早紀だってイヤがっていた、そういうのが分からないなんてマジウザすぎ」と言った後、さらには早紀のことまで悪く言い始めた。

 

「……二人とも、一度落ち着いてください。小西先輩が可哀想です」

 

「真……」

 

流石に見かねた真が二人を落ち着かせようとする。

 

「な、何よ! アンタ別に早紀のこと知らないでしょ? すっこんでてよ!」

 

「そっちがすっこんでろ!!」

 

高圧的な女子生徒の言葉に対し鋭く怒号が響く。その主は陽介だった。

 

「アンタらに小西先輩の何が分かんだよ!! あの人はな、アンタらみたいな中途半端な気持ちで仕事してなかったよ! 適当に見えても、真面目だったよ! 口は悪いけど優しかったよ!! 俺のこと嫌い? 知ってんだよそんなの! もういねーよ! 置いてかれたんだよ!……放っとけよ」

 

「陽介……」

 

陽介はどこか泣きそうな様子で怒鳴る。その様子に、ある意味早紀の本音にも近い言葉を共に聞いていた真も声を漏らす。

 

「騒がしいけど、どうかした?」

 

「先輩!」

 

そこにやってくるのは命。今回は非番なのかジュネスエプロンは身に着けておらず、その後ろにはゆかりと結生も連れられていた。二人とも状況が分かってないのか不思議そうな表情を見せているが、命は陽介が怒鳴ってる相手を見て察した顔を見せる。

 

「「あ、命さぁん」」

 

と、女子生徒二人はこの前のように猫なで声で命に話しかける。

 

「あのですねぇ、私達土日は大事な用事があるからどうしても入れないって言ったのに、クビだとか言われるんですよぉ」

「しかもカズミだけ休めるとかぁ、これってヒイキですよねぇ? 花村君、店長の息子だからってヒイキはよくないですよねぇ?」

 

「……は?」

 

二人の言葉に命がぴくり、と目じりを動かした。

 

「当たり前じゃん。君達最近無断欠勤多いし、仕事もテキトーだしさ。いい加減こっちや先輩もフォローしきれなくなってきたよ。っつーか、僕の方がバイト歴では後輩だけど正直、君達二人よりは仕事が出来るって思ってるよ?」

 

「「……え?」」

 

命の言葉に二人の目が点になる。

 

「その点だけで言えばカズミさんはね。仕事のペースは遅いけど、やる事はちゃんと終わらせてるし、遅刻はあっても連絡はちゃんとしてるみたいだし無断欠勤なんて当然ないし。毎日ちゃんとやってくれれば評価はつくし、それなら上の方も多少シフトを融通しようって気にもなるよ」

 

「「なっ……」」

 

「それを、どのツラ下げて花村君がヒイキだって? 冗談もほどほどにしてほしいな」

 

命は二人を睨みつけながらそう言っており、真はあっちゃーと声を漏らす。

 

「話はよく分かんないけどさ。つまり仕事ちゃんとやってない癖に休みだけは取ろうとして、しかもそれが通らなかったから花村君に八つ当たりしてるってこと? で、あわよくば休みを取ろうって?」

「うわ、サイッテー」

 

結生とゆかりもそう言ってジト目を向ける。

 

「なっ、んですって!?」

「大体あんたら何よ!? 命さんにそんなくっついて、何様よ!?」

 

「……お兄ちゃん、またやった?」

 

「記憶にありません」

 

女子生徒二人の言葉に結生は呆れたようにまた女の子を引っかけたのかと尋ねる。が、命は肩をすくめながらそう返しており、結生も分かっていたのか「だよね」と返すのみ。

 

「とにかく。無断欠勤だのサボりだのやっといて休みだけしっかり取ろうだなんて甘いのよ! バイトとはいえ自分の仕事には責任持ちなさい!!」

 

そしてゆかりが腰に手を当てて一喝。なお結生と命は横で拍手して「ぃよっ、よく言った! 流石ゆかりっち!」なんて囃し立てている。

 

「な、んですってぇっ!!」

 

と、逆上したのか高圧的な女子生徒がゆかり目掛けて手を振り上げ、彼女をはたこうとする。

 

「おっと」

 

が、その腕を命が取る。

 

「言っとくけどさ」

 

そして彼の左目、そして髪で隠れている右目からも鋭い視線が飛ぶ。力を込めて腕を握りしめているのか、高圧的な女子生徒は「いだだだだ!」と悲鳴を上げていた。

 

「俺の最愛の彼女に手ぇ出したら……潰すぞ?」

 

「「か、の、じょ?……」」

 

その言葉を聞いた女子生徒二人が固まる。それぞれ「ウソでしょ、そんな」「でも、だって」とか何かブツブツと呟いている。

 

「そ、そういえば、命さんは喧嘩別れでここに来たって噂が――」

「は? 何よそれ? あたしと命君が喧嘩?」

「まあ、そんなのしょっちゅうっていうか、ぶっちゃけお兄ちゃんが悪いのをゆかりっちが毎度説教してるだけだし。そんな事でいちいち家出なんてしてらんないよね?」

「結生が言うな。ゆかりに迷惑かけてるのはお前だろ」

 

女子生徒の言葉にゆかりが呆けた声を出すと結生が言い、命が結生に注意するとゆかりは「どっちもよ!」とツッコミを入れる。

 

「話が逸れたけど。二人とも、結局どうするの?」

 

「……フンッ」

「いこ」

 

命の言葉に女子生徒二人は命を睨みつけ、歩き去っていく。

 

「……ごめんね、花村君。勝手に話に割り込んで、なんか余計に話がややこしくなっちゃって」

「あ、俺もすまない。元はと言えば俺が話をこじらせたようなもんだし……」

 

命が陽介に謝ると我に返った真も謝罪。しかし陽介は「いいっすよ」と哀しげに笑いながら返した。

 

「それより真、ありがとな。さっきあの人に言ってくれたの、嬉しかったよ」

 

陽介はそう言い、しかしやはり早紀という痛いところを突かれたのは悲しかったのかずずっと鼻を鳴らす。

 

「あぁ~……イヤだけど、イヤだけど親父んとこ行ってくる……あの二人、このまま辞めちゃうだろうし……報告して、謝んねーとな……」

 

陽介はそう呟いて大きくため息をつく。

 

「あー、えっと。その事で花村君を探してたんだけどさ……ジュネスってまだバイト募集してたよね?」

 

「え? あ、はい……え? まさか……」

 

命の質問に陽介はまだバイト募集は閉め切っていなかったはずだと記憶を辿り、肯定。その後気づいたようにゆかりと結生を見ると、二人は微笑しながら記入済みの履歴書を封筒から取り出した。

 

「この二人を、ジュネスのバイトに紹介してほしいんだけど。仕事ぶりは、まだ半年程度の新米が言っても説得力はないだろうけど。僕が保証するよ」

 

「……はい! アポなしはやばいかもですけど、すぐ親父に相談してきます!」

 

陽介は信頼できる相手が保証するという新たな戦力に一瞬顔をほころばせ、しかしやはり一緒にバイトしてきた仲間が自分のせいで辞めてしまうという事もあって複雑な表情を見せながらその場を去っていった。




《後書き》
さて、久しぶりのペルソナ小説更新。
今回は日常回というかマリーちゃん&陽介のコミュでした。陽介の方には命も乱入しましたけど、でもってゆかりと結生もジュネスバイトに入る可能性が出ましたとさ。
さて次回はどうしようかな。まあ、後書きで話すような事も少ないですし今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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