ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四十六話 少年探偵の真実

[正体不明ノ侵入者、機密区画ニ進入……警戒レベル、レッド。施設内ノ警戒ヲ更ニ強化。侵入者ヲ排除セヨ!]

 

探索二日目。幹部用認証キーを使って更に先の階層に進んだ時、そんな機械音声が鳴り響くアラームと共に聞こえてくる。さらにその命令に従うように新たにシャドウが姿を現してきた。人間から見れば両手用の剣であろう大剣を片手で振るう怪力とそれに見合う巨体を持つ均衡の巨人、黒い戦車そのままな姿の邪悪の砲座、そして近未来的な秘密基地には似合わない中世の騎士のようなシャドウ――地獄の騎士だ。

 

「君達……邪魔だよ!」

 

結生が声を張り上げ、召喚器をこめかみに押し当てる。

 

[ハイヤーッ!!]

 

だがそれよりも早く地獄の騎士が槍を振るい、その槍の軌跡が毒々しい緑色の衝撃波を放って結生達を襲う。

 

「ぐっ!?」

 

咄嗟に全員身をひるがえして衝撃波を避けるが、その時真と命は地獄の騎士に守られている均衡の巨人と邪悪の砲座が何か力を溜めている様子に気づく。

 

[っ! 後ろの二体から高エネルギー反応!!]

 

「チャージとコンセントレイトか!?」

「全員防御しろ!!」

 

直後りせが二人の予感が的中していることを分析し、命は二体のシャドウが使っているであろうスキルを経験から分析、真も即座に指示を飛ばす。が、その指示を飛ばすのとほぼ同時に均衡の巨人が剣を振り下ろして無数の不可視の斬撃を、邪悪の砲座がその砲身から無数の竜巻を放つ。

 

「デカラビア、テトラカーン!」

「リリス、マカラカーン!」

 

防御が間に合わないと判断した二人は咄嗟にペルソナを召喚。二体のペルソナが作り出した壁がその不可視の斬撃と無数の竜巻を跳ね返す。

 

「今よ!」

 

「お、おう! タケミカズチ! マハジオンガ!!」

「ジライヤ、パワースラッシュ!!」

 

ゆかりが叫び、一番に反応した完二と陽介がタケミカズチとジライヤを召喚。斬撃と竜巻が飛び交う障壁の後ろから落雷を落とし、光を宿した手裏剣を邪悪の騎士目掛けて投げつける。と、電撃属性が弱点だったのか均衡の巨人と邪悪の砲座がダウン、手裏剣がクリティカルヒットしたのか地獄の騎士も崩れ落ちる。

 

「今ならボコれる! やっとくよ!」

 

敵全員がダウンし、結生が薙刀をひゅんと回転させて持ち替えながら声を張り上げ、千枝と雪子も「おー!」と右手を挙げてノリノリの様子を見せる。

 

「薙刀の錆にしてやる!」

「観念しろー!」

「消えてしまいなさい!」

 

「お、俺達も行くぞ!」

 

そして女性三人が我先にと突っ込み、陽介達もやや遅れて後に続く。そして総攻撃が止むと三体のシャドウは全て無に還る。

 

「く、大分手強くなってきたな……」

 

「そうだね。一体が前衛で防御し、その隙に後衛が力を溜めて大きな攻撃。連携が取れていた……僕達が反射系スキルを持ってなかったらもっと苦戦してたかも」

 

テトラカーン、マカラカーンという相手の一部攻撃を反射するスキルを使った真と命はやや疲労めいたため息を漏らす。ただでさえ消耗の激しいスキルを無理矢理範囲を広げて使用、その負担は通常の数倍は軽くあるはずだ。

 

「長期戦になったら不利だ。急ぐぞ!」

 

真はここで手間取ると消耗が激しくなると判断して急いで進む事を提案。他のメンバーもその案を否定する理由はなく、一行は一気にその階層を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

[侵入者ヲ阻止セヨ! 侵入者ヲ阻止セヨ!]

 

「言葉が変わった?」

 

先に進む階段を下りた時、また機械音声が流れてくるがその内容が排除せよから阻止せよに変わっており、その違和感に真が気づく。

 

[直斗君の気配、近い!]

 

続けてりせの歓声にも近い声が聞こえてきた。

 

「もうちょっとだね。気合入れるよ!」

 

「ウッス!」

 

命の言葉に完二が大きく頷いて返し、彼らはシャドウを完全に消滅させるまでとはいかずとも弱点を的確に狙ってダウンさせ、その隙を突いて逃げるという手段でなるべく消耗を少なくしながら基地内を駆け回る。

 

「あった! 階段だ!」

 

陽介が指差す先にあるのは確かに階段。もうすぐ直斗のいる場所に着けるはず、と彼らは頷きあった。

 

[侵入者発見]

[侵入者発見]

[侵入者発見]

 

「……え?」

 

が、その時そんな機械音声が聞こえてきたと思うと階段の前に突然赤色の装甲をした、肩に正義の文字が刻まれている巨大なロボットが三体現れる。

 

「あいつは、あの時に戦ったロボット!?」

 

「あれに比べれば小さいけど……量産型ってところかな?」

 

真が驚きの声をあげ、命は冷静に分析する。

 

「クソがっ! あいつがやべえかもしれねえって時に! どきやがれ!!」

 

完二が怒号を上げ、武器である盾を構えると真達も次々と武器を構える。

 

「……真君、皆……ここは僕達に任せて先に行くんだ」

 

が、彼らより数歩前に命、結生、ゆかりのS.E.E.S.メンバーが立つ。

 

「先輩!?」

 

「巽君の言う通り、ここで時間を割いていたら白鐘君が危険かもしれない。ここは僕達が引き受けるから皆は白鐘君の救出に急ぐんだ」

 

「で、でもいくら大先輩でもこいつら相手じゃ……」

 

「そうですよ! 前は一体相手に全員がかりでも苦戦してたのに……」

 

真の言葉に対し命がそう言い、しかし完二と雪子が反論する。

 

「別に倒すってわけでもないんだし。たかが量産型でしょ? あれよりスペックは落ちてるだろうし、隙突いて階段飛びこみゃへーきへーき」

 

「そうそう。心配してる暇があるんならその心配を白鐘君に向けてあげなさいよ」

 

だが結生とゆかりも譲らず、真は少し黙る。

 

「分かりました」

 

「相棒!?」

 

真は命達の提案を了承。それに陽介が声を上げるが、真は首を横に振る。

 

「こう言った後の先輩達は頑固だからな。押し問答をしても言い負かされるのがオチだ……なら、押し問答する時間を使って俺達は先を急ぐ。でも先輩……無茶はしないでくださいね?」

 

「分かってるよ。ゆかりもいるんだしね」

 

真の念押しに対して命は苦笑。それから真達自称特別捜査隊メンバーが階段向けて走り出し、だがロボット――圧倒の巨兵もそれを阻止しようと動く。

 

「そうはいくか!」

「エウリュディケ、パラダイムシフト! ウィンド! マハスクカジャ!!」

「イシス! マハガルダイン!!」

 

だが命が自称特別捜査隊メンバーに向けて剣を振り上げていた圧倒の巨兵目掛けて飛び蹴りをくらわせ、結生がエウリュディケを召喚、全員の機動力をアップ。さらにゆかりが無数の巨大な竜巻を起こして巨兵達の動きを封じ、真達が階段を降りていくのを援護する。

シャドウ達は階層が変わると追う事が出来ず、しかし残った三人だけは通さないというのか階段の前に立ちはだかった。

 

「蹴った手ごたえからして、耐久力はこの前の奴と比べたらあまり高くないみたいだね」

 

「でもまあまあ動きは早かったし……耐久力を犠牲にスピードを上げたタイプかな?」

 

命と結生は冷静に圧倒の巨兵を分析。しかしそうする暇を与えないというように圧倒の巨兵の一体が近づいて剣を振り下ろし、二人は俊敏にそれをかわすものの、その剣は床を打ち砕いた。

 

「力もあるね……まともにくらったらやばそう」

 

「こりゃ、隙を突いて逃げるって線は無理そうだ……そんな考えで戦ってたら押し切られる」

 

結生は苦虫を噛み潰したような表情で呟き、命も作戦の変更を考えながら召喚器を抜き、くるくると手で弄びながら精神を集中する。

 

「作戦変更! こいつらぶっ潰す気でいくよ!!」

 

「「了解!!」」

 

(リーダー)の指示に二人も頷き、三人は召喚器を構える。

 

「「「ペルソナ!!!」」」

 

そして同時に引き金が引かれて彼らの心の海からペルソナが呼び出され、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

[この先! 直斗君がいるよ!]

 

一方階段を下りた真達はりせからの言葉を聞き、目の前の巨大な扉を見る。

 

「うおおおぉぉぉぉ!! 開きやがれえええぇぇぇっ!!!」

 

完二が先頭を走ってもはやぶん殴る勢いで扉に触れ、扉がガコンッと音を立てて開いていくと一行は一気に飛び込んでいった。

 

「直斗ッ!!」

 

完二が血相を変えて飛び込み、救助対象者の名を呼ぶ。

 

「待ちくたびれましたよ」

 

が、それに返すのはパニックや動揺などない。むしろ冷静沈着な声だった。

 

「……この子の相手をするのに、ほとほと参っていたところです」

 

そしてまるで我儘を言う子供のお守りをしていたかのようにそう続け、真達の方に歩こうとする。

 

[やだぁ! やだ、やだ、行かないで!!]

 

するとそんな癇癪を起こした子供のような泣き声が聞こえてくる。その声の主はもう一人の直斗。目から涙を流しており、ぶかぶかの白衣を着ているがそれがさらに大人に見せようとしているかのような子供っぽさを強調している。

 

「君と話しても無意味だ……僕はもう帰らないと……」

 

[なぁんで? なんで僕だけ置いてくの!? どぉしていつも僕だけひとりぼっちなのっ!?]

 

寂しい、寂しいと泣き喚く直斗のシャドウ。それが直斗の一面であると知っている雪子が「直斗君……」と声を漏らした。

 

「僕と同じ顔……まるで僕だとでも言いたげだね」

 

直斗はふぅ、と気だるげな息を吐いてシャドウの核心を突く。

 

「でも君と僕とじゃ――」

[何を誤魔化してんだい? 僕は、お前だよ]

 

冷静な直斗の言葉を遮り、直斗のシャドウが言う。それは先ほどまでの癇癪を起こしている我儘な子供のような声ではなく、相手を容赦なく抉る鋭い声になっていた。

 

[子供の仕草は“ふり”じゃない……お前の真実だ。だってみんな、お前に言うだろ?……“子供のくせに、子供のくせに”ってさ]

 

直斗のシャドウは話す。いくら事件を解決しても、必死に考えても、子供というだけで誰も本心では認めない。周りが認めているのは直斗の“頭”だけである。と。

 

[“名探偵”扱いは、それが欲しい間だけ……用が済んだら“子供は帰れ”だ。世の中の二枚舌に、お前はなす術もない……独りぼっちの、ただの子供だ]

 

「……」

 

直斗のシャドウの容赦ない指摘に、反論が出来ないのか直斗はつい黙り込んでしまう。

 

[僕、大人になりたい……]

 

と、直斗のシャドウは再び子供のような泣き声をあげながらそう言った。

 

[今すぐ、大人の男になりたい……僕の事を、ちゃんと認めて欲しい……僕は……居ていい意味が欲しい……]

 

「やめろ……自分の存在する意味なんて、自分で考えられる……」

 

[フッ……無理だって言ってるだろ?]

 

直斗のシャドウの子供のような泣き声に直斗は反論。だがその瞬間直斗のシャドウは再び態度を豹変させた。

 

[今現に子供である事実をどうする?]

 

「や、やめろ!」

 

[本心じゃ憧れてるだろ? 強くてカッコイイ、小説の探偵みたいな、大人の男にさ。それは裏を返せば、心の底で自分を子供と思ってるって事だ]

 

直斗のシャドウの指摘を直斗は声を荒げて止めようとするが、直斗のシャドウは怯まずに淡々と抉るように指摘をしながら一歩、また一歩と直斗に近づく。

 

「っ……」

 

[認めろよ……お前は所詮子供さ……自分じゃどうしようもない]

 

怯えたように表情を歪める直斗に、直斗のシャドウは直斗に顔を近づけ、どうしようもない現実を指摘する。

 

[さあ……そろそろ診察は終わりだ……人体改造手術に移ろうか]

 

直斗のシャドウは顔を歪めて笑い、直斗の手を取ってこの部屋の中央にある巨大な手術台を指し示す。だがそれには両手両足を拘束する手枷と足枷、さらには巨大な丸鋸やドリルなど、手術台というよりむしろ拷問台や処刑台と言った方が近い雰囲気を見せている。

 

[いいだろ……白鐘“直斗”くん?]

 

「やめろ!!」

 

不気味な笑顔を見せる直斗のシャドウの手を払いのけ、直斗は叫ぶ。

 

[白鐘“ナオト”……男らしくてカッコイイ名前だよな? けど、事実は変えられない。性別の壁はなお、越えられない]

 

直斗のシャドウの言葉に違和感を感じた真が「え?」と声を漏らす。

 

[そもそもオトコじゃないのに、強い大人の男になんて、なれる訳ないだろ?]

 

「え、ちょ……あいつ今、スゲーこと口走ったぞ!?」

「お……男じゃねえだと!?」

 

直斗のシャドウが放った真実に陽介が叫び、完二も絶句する。

 

「……だ、駄々をこねてるつもりはない……それじゃ、何も解決しない……」

 

[ふ、ふ……あはは! あっははははは!!]

 

直斗の言葉を聞いた直斗のシャドウが突如、大爆笑する。

 

[その言葉はお前が言われたんじゃないか。“駄々をこねていても、何も解決しないよ、ナオトくん”ってさ!]

 

爆笑で歪んだ笑みをそのままに嫌味たらしく直斗向けて言う直斗のシャドウ。

 

[お前泣いてたよな。自分の口から言うなんて、何を守ろうとしてるんだ?]

 

「なっ……に、を?」

 

自分を傷つけた言葉を自分の口から言った事を直斗のシャドウは嘲笑する。

 

[いいんだ。もう無理しなくていい。そのための“人体改造手術”だ。駄々をこねたまま、一歩も動けずにいる……僕にはその気持ちが良く分かる……]

 

直斗のシャドウは憐れむような、それでいて見下すような視線を見せながら直斗に話す。

 

[僕は、お前なんだよ……]

 

「違うっ!!」

 

直斗のシャドウの言葉を否定する直斗。

 

「だめっ!!!」

 

「いや、いい!」

 

このままでは危ない、と千枝がそれを遮ろうとする。が、それを完二が阻止した。

 

「ちゃんと吐きだしゃいいんだ」

 

完二はそう言って直斗のシャドウを睨みつける。

 

「俺らはアイツを倒して、ケツ持ってやりゃいい!……じゃねえとアイツ……直斗のやつ、苦しいまんまだろ」

 

[フフ……あははははっ!! 言うよね、偉そうに!!]

 

完二の言葉に直斗のシャドウが笑う。が、次の瞬間その視線に殺意が入り混じった。

 

[いいよ、来なよ……僕はキミみたいに、粗暴で情に流されるタイプが一番嫌いだ!!]

 

直斗のシャドウがそう叫んだ瞬間、直斗のシャドウを黒い影が取り囲み始めた。

 

「よし、とにかく話は後だ!」

 

[来るよっ!!]

 

りせが叫ぶと共に、直斗のシャドウを取り囲んだ影は球体状になって空中に浮遊。そしてその影が弾け飛んだ時、そこには身体の左半身が機械で構成された直斗の異形の姿があった。両手には一昔前のSF映画で出てくるような光線銃を持っており、背に飛行機の主翼を生やしている。正に改造人間(サイボーグ)とでも言うような風貌だ。

 

[我は影……真なる我……なに? 君らも自分にうんざりしてる人? いいよ……なら、特別手術を始めよっか]

 

「いいぜ、来やがれ! 俺がガッチリケツ持ちしてやっからよ!!」

 

直斗のシャドウの言葉に完二も叫び、何がなんだか分からない様子で固まっている直斗を見る。

 

「直斗! オメェはどっかに隠れてろ!」

 

「!」

 

完二の声を聞いて我に返ったように直斗ははっとなると踵を返す。

 

[おっと、患者がいなくなったら困っちゃうね]

 

だが直斗のシャドウがそう言った瞬間、直斗のシャドウ曰く手術台から手枷と足枷が台とワイヤーで繋がった状態で射出。直斗の両手両足を捕らえると彼女を手術台へと固定する。

 

「う、動けない……」

 

「テメエ、直斗を離しやがれ!!」

 

直斗が捕まったのを見た完二が怒号を上げてタケミカズチを召喚。ジオダインで攻撃を仕掛けるが、直斗のシャドウはそれを空を飛んで回避する。

 

「ジライヤ、パワースラッシュ!」

「ニーズホッグ、ブフダイン!」

 

続けてジライヤが手裏剣を投げ、ニーズホッグが巨大な氷塊を放つが、直斗のシャドウはそれらも俊敏に動いて回避した。

 

「だったらクマ君! 援護して!!」

 

「了解クマ! キントキドウジ、マハブフーラクマ!!」

 

千枝が叫ぶとクマも了解し、キントキドウジが質より量とばかりに放った氷の弾丸で弾幕を張り、直斗のシャドウの動きを止める。

 

「よっし、いくよトモエ!!」

 

動きを封じたのを見た千枝がトモエを召喚する。

 

[遅い!!]

 

が、その前に直斗のシャドウは右手の光線銃を千枝に向け、緑色のこれまた一昔前のSF漫画で超音波をイメージしたような円状の光線を放つ。

 

「つっ!?」

 

それを受けた瞬間、トモエが消え去った。

 

[千枝先輩! ペルソナが封じられてるよ!]

 

りせが千枝の様子を分析し、叫ぶ。

 

「千枝! 回復して! コノハナサクヤ、アギダイン!!」

 

雪子が千枝に回復を薦め、その間の時間稼ぎにとアギダインを放つ。それは攻撃を放った直後、動けなくなっている直斗のシャドウに直撃するが、直後直斗のシャドウは何事もなかったかのように爆炎の中から姿を現す。

 

[あいつ、火炎に耐性持ってる!?]

 

「そんな!?」

 

りせが分析すると雪子が悲鳴を上げる。主な攻撃手段が炎属性の魔法に特化している雪子に取っては相性の悪い相手のようだ。

 

[さあ、今度はこっちから攻めさせてもらうよ!]

 

直斗のシャドウが叫び、左手の銃を完二に向けると赤・緑・青の三色の光が螺旋状になって完二を貫く。

 

「くっ!? へ、何だこんなもん! 痛くもかゆくも……!?」

 

避けきれず光線を受けてしまった完二だが、ダメージはないのか不敵に笑う。だがその直後、彼の様子が変化した。

 

[くらえっ!!]

 

直後直斗のシャドウは完二目掛けて突進。様子がおかしい完二は防御しようとするが、その防御はあっさりと破られ突進攻撃をほとんどもろにくらってしまう。

 

「お、おいどうしたんだよ完二!?」

 

「ち、力が入らねえ……それに、身体がすげえ重いッス……」

 

陽介がカバーに入りながら完二に異常を問い、それに対し完二はそう呟く。だがそれだけではなく、打たれ強さが売りの完二にしてはダメージが大きかった。

 

[っ!? 完二の攻撃力・防御力・機動力全部低下!? もしかしてさっきの光線のせい!?]

 

りせは完二の普段の平均的な戦闘力と現在の戦闘力を数値化し、その差を比較して仰天。さっきの光線が完二の戦闘力を奪ったのかと考える。

 

「なら相殺するんだ!」

 

「オッケー任せろ! ジライヤ、マハスクカジャ!!」

「キントキドウジ、マハラクカジャクマ!!」

「うっしゃ! タケミカズチ、マハタルカジャ!!」

 

真からの指示を受け、陽介、クマ、完二がそれぞれ仲間の戦闘力向上、つまりステータスアップスキルを使用。全ての力を下げられていた完二はこれで相殺し、真達は反撃開始と意気込む。

 

[甘いね]

 

だが直斗のシャドウはそれを嘲笑、左手の光線銃をぶんっと無造作に払うようにしながら光線を放ち、まるで光のシャワーのような光線を受けた真達から、さっき支援を受けたことで上昇した力が消え去っていく。

 

「な、なにこれ!?」

 

「このスキル、もしかしてデカジャか!? ステータス上昇打ち消されちまった!?」

 

千枝が声を上げると陽介は自分も使うスキルであるためかスキルの正体を看破。驚きに叫ぶ。

 

[ペルソナ封じ、相手ステータスダウン、さらにはこっちのステータス上昇打ち消し……何アイツ、今までのシャドウとは全く違う!?]

 

こっちを状態異常に陥れてくるシャドウも存在はしていた。だが直斗のシャドウはそれを見事に使いこなしてこっちを封殺。戦いを常に優位に進めている。

 

「流石は白鐘から生まれたシャドウ、頭脳戦はお手の物という事か……」

 

真も今までとは一味も二味も違う強敵に歯噛みしていた。

 

[ほらほらどうしたの?]

 

直斗のシャドウは嘲笑しているような声色で右手の光線銃から電撃を放つ。その一撃はジオダインと同等の威力、まともにくらってはまずいと全員回避に専念するのが精一杯、特に電撃が弱点の陽介とクマは必死に回避している。

 

「先輩方! 俺の後ろに集まってください! 俺が身体張って守ります!! 俺の後ろから攻撃を!」

 

電撃に耐性を持つタケミカズチを有する完二が壁役になると言い、現状それが一番と判断したか全員が完二の後ろに一塊になり、完二はタケミカズチを壁にして電撃を受け止める。

 

[フフフ、単細胞相手は楽でいいよ]

 

が、直斗のシャドウは身体を張って皆を守る完二を嘲笑。機械である左目からピンク色の超音波をイメージしたような円状の光線を放つ。

 

『うあああぁぁぁぁっ!!!』

 

[先輩! 皆!]

 

完二を盾にするために一塊になっていた真達はその光線をかわすことが出来ず浴びてしまう。りせの悲鳴が響いた。

 

「く……なんだ、身体がいう事を聞かない……」

 

「な、なにこれ?……肘や膝がなんだか、痛い?……」

 

「こ、腰が、腰が痛いクマー……」

 

光線を浴びた真はダメージは全くないのに身体に力が入らず、刀を杖にしてなんとか倒れる事を防ぐ。その後ろで雪子も身体の節々を押さえながら呟き、クマは腰を押さえながらゴロゴロと転がる。

 

[ふ、ふっふ。もう終わり?]

 

「よ、よせ……」

 

[ん?]

 

全滅近い状態の自称特別捜査隊メンバーを見た直斗のシャドウは彼らを嘲笑。しかしその時、そんな弱々しい声が聞こえてきた。

 

「これ以上、人を傷つけるな……」

 

直斗だ。彼女は弱々しい声ながらも己のシャドウに抗議をしながら、彼らを助けられないかと脱出のためもがく。が、直斗のシャドウは彼女の横に立つと光線銃を彼女に向ける。

 

[ほら、ダメだよ。患者はじっとしてなきゃ。ちゃんと身体に穴空けらんないだろ?]

 

「く……」

 

光線銃を向けられた直斗は何も言えなくなる。

 

「や、やべえ……」

「直斗君……」

 

身体がガクガクと震えながらも、陽介と千枝が立ち上がる。このままでは直斗が危険だ、助けないと。と二人は思い、ペルソナカードを具現する。

 

「ジライヤ!」

「トモエ!」

 

短刀と蹴りがペルソナカードを砕き、ペルソナを具現させる。

 

「「……?」」

 

が、そこで二人の行動が止まった。

 

「えっと……何すんだっけ?」

 

「え、あ、あれ?……思い出せない……」

 

ペルソナを呼び出すまでは覚えていた。だが、自分は何故ペルソナを呼び出したのか。その目的が思い出せず、ペルソナも消え去った。

 

[ふふ……さあ、そろそろ始めようか……お前に新しい人生をプレゼントしてやるよ]

 

直斗のシャドウがそう言うと同時、手術台に着けられている丸ノコやドリルが回転を始める。

 

「ふざけんじゃねえっ!!!」

 

[っ!!??]

 

が、その時そんな怒号が聞こえ、直斗のシャドウは咄嗟にその場を飛び退く。

 

「タケミカズチ、ミリオンシュート!!!」

 

放たれる闘気の矢、それは直斗のシャドウにこそ当たらなかったが丸ノコとドリルを粉砕、直斗を間一髪助ける。

 

[なに、馬鹿な!? お前達の内面は老化してるはず……身体能力の大幅な低下、軽度の記憶障害も誘発しているはずなのに……]

 

「へっ、俺はバカだからよぉ。物覚えなんざ元々良くねえ。だけど、今回一つだけぜってぇに忘れねえもんがある」

 

直斗のシャドウはさっきの陽介や千枝のように記憶障害になっていない完二を見て焦り、それに対し完二はやはり老化による身体能力低下が効いているのか身体を震わせながらも力強く宣言する。

 

直斗(こいつ)はぜってぇに守る!!!」

 

[ちっ……だけど、君の弱点も分析済み! これで終わりだ!!」

 

完二の言葉に直斗のシャドウは舌打ちを叩いて右手の光線銃を構える。と、その光線銃から竜巻が放たれる。ガルダイン。タケミカズチの弱点である風属性スキルだ。しかし完二は引かない、直斗は必ず守る。己の決めた信念を貫き通すため、敢えて弱点の攻撃だろうとこの身で受け止めると。

 

「「よく言った。巽完二」」

 

が、そんな男女の声が聞こえてきたと思ったその時、直斗の前に立つ完二のさらに前に、二人の男女が立ちはだかった。

 

「受け止めろ、アトロポス!」

「エウリュディケ、パラダイムシフト、ウィンド!」

 

そして二人が叫んだ時、風が二体のペルソナによって防がれた。

 

「……だ、大先輩!」

 

「遅くなったね」

「皆も、もう大丈夫だよ!」

 

完二が叫び、命と結生がそう返すと完二もはっとしたように振り返る。

 

「イシス、お願い! アムリタ!!」

 

ゆかりが己のペルソナ――イシスに願い、イシスも浄化の光を降り注がせる。

 

「いきりたつううぅぅぅ!!」

「すばらしいいいぃぃぃ!!」

 

身体の調子が戻ったクマと陽介が歓声を上げる。

 

「みなぎってきたぜ!!」

 

さらに真も拳をぐっと握り締めて叫んだ。

 

[チッ、厄介な蝿が増えたね……]

 

直斗のシャドウはそう呟いて再び右手の光線銃から電撃を発射。

 

「「うひゃあっ!?」」

 

「あばばばばば!!??」

 

「「あ、ごめん……弱点だったからつい……」」

 

命と結生は咄嗟に飛び退くがその後ろにいた完二は不意打ちの形で電撃をくらってしまい、兄妹は声を合わせて完二に謝る。

 

「来い、デカラビア! メギドラ!!」

 

後ろにいた真がデカラビアを呼び出し、万能の力を持つ光線を直斗のシャドウ目掛けて撃ち込む。

 

[くそ! くらえ、ランダマイザ!!]

 

万能の光線をかわしながら直斗のシャドウは左手の光線銃を真に向けた。

 

「同じ手はくらわねえぜ! くらえ、ガルダイン!!」

 

[くぅっ!?]

 

しかしその銃から光線が放たれる前に陽介が竜巻を起こして直斗のシャドウを煽り、空中で強風をもろにくらった直斗のシャドウは飛行機の翼のフラップを操って姿勢制御を行う。

 

「お返しよ! トモエ、黒点撃!!」

 

[づあっ!!??]

 

だが若干崩れたバランスを立て直すのに生じた隙を見逃さず懐に入ったトモエが強烈な蹴りを叩き込み、直斗のシャドウを蹴り飛ばす。

 

[く、この、だったらもう一度……]

 

直斗のシャドウは生身の右半身の表情を歪ませながら呟き、左半身の機械の目にピンク色の光を溜める。そしてピンク色の円状の光線を再び放った。

 

「おわ、やべっ!」

「先輩! あの光を浴びないでください!」

 

くらったら厄介な攻撃に陽介が悲鳴を上げ、真は攻撃の詳細を知らないだろう命達に呼びかけ、自称特別捜査隊メンバー全員がわあわあ声を上げて回避に走る。

 

「なるほど……あの目から光線を撃ってるわけね……」

 

と、ゆかりはそう呟いて背中の矢筒から矢を一本抜いて弓に番え、矢を引き絞る。

 

「ふっ!」

 

狙いを定め、精神を集中して矢を放つ。それはシュンッと風切音を立てて飛び、

 

[ぐあっ!?]

 

吸い込まれるように直斗のシャドウの左目に突き刺さる。と、直斗のシャドウの左目からバチバチと火花が飛び、光線が消えていった。

 

[く、このっ……よくもやってくれたな!]

 

直斗のシャドウは右半身の目を怒りに歪ませて右手の光線銃をゆかりに向ける。

 

[くらえ、ジオダイン!!]

 

ゆかりの弱点を分析したのか、あるいはただの偶然か。だが彼女を狙うのはイシスの弱点である電撃の攻撃。それを見たゆかりがしまったとばかりに目を見開く。

 

「岳羽先輩!」

 

が、その前に真が立ちはだかり、電撃を防ぐ。デカラビアの守りによりその攻撃は完全に防がれる。

 

「来い、ホルス」

 

ガシャァンとガラスの割れるような音が鳴り響き、命はエジプト神話の天空神を呼び出すとその背中に乗り込み、さらに結生も続くとホルスは急上昇。

 

「「おらあああぁぁぁぁっ!!!」」

 

主の心に従い、ホルスは直斗のシャドウ目掛けて猛突進。

 

「「誰の女に手ェ出しとんじゃコラアアアァァァァッ!!!」」

 

[ふぐわっ!!??]

 

そして突進に合わせて命の拳と結生の薙刀が直斗のシャドウの顔面に突き刺さった。

 

「見た?」

 

「うん」

 

「そ、空飛んでる大型シャドウを自分からぶん殴りに行ったぞ……」

 

千枝、雪子、陽介がひくひくと頬を引きつかせる。

 

「皆! 先輩を援護だ!!」

 

しかしこの兄妹の奇行に慣れているのか真とゆかりは呆然とする事なく真は援護を指示、ゆかりは既に弓を構えてホルスを駆る命と空中戦を繰り広げている直斗のシャドウを睨んでいた。それを見て陽介達も頷いてペルソナを召喚、

 

「ジライヤ、マハスクカジャ!」

「トモエ、ブフ!」

「コノハナサクヤ、アギダイン!」

「キントキドウジ、マハタルカジャクマ!」

「イシス、ガルダイン!」

 

ジライヤが機動力アップの支援を行い、トモエは薙刀を振るって氷の衝撃波を飛ばし、コノハナサクヤが炎の弾丸を放ち、イシスが猛竜巻を起こす。さらにクマが攻撃力のアップによる支援も忘れない。

 

「ホルス! 急上昇!!」

 

[く、ぐあああぁぁぁぁっ!!]

 

陽介達の攻撃に気づいた命はホルスに上昇を命じ、同時に結生も薙刀を振るって直斗のシャドウを牽制、ホルスの移動を助ける。そしてホルスという壁が消えた次の瞬間陽介達の放った攻撃が直斗のシャドウに直撃した。

 

「今だ! ホルス、ブフダイン!」

 

圧倒的な隙を見逃さずに命が指示、ホルスが冷気を放つと直斗のシャドウの背にある主翼の片方が突如氷に包まれる。氷の重量の他、フラップが動かなくなったことによりバランスが崩れる。

 

「エウリュディケ、ギガンフィスト!!」

 

[ぐあああぁぁぁぁっ!!!」

 

続けて結生がエウリュディケを召喚して指示、エウリュディケが腕を振り下ろすと不可視の衝撃が上から下へと振り下ろされ、バランスを崩した直斗のシャドウを地面へと叩き落とす。

 

「いくぞ、完二!」

 

「ウッス!」

 

真が合図を出し、完二もばしっと右の拳で左の手の平を叩いて気合を入れ直す。真は懐から六本の赤い剣が描かれているカードを取り出すとそれを上空に掲げる。

 

「スキルカード、発動!!!」

 

叫び、イザナギが光に包まれる。

 

「ジオダイン!!!」

 

イザナギが右手を掲げ、巨大な雷が上空に作られ、落雷が起きる。だがその落雷が狙うのは直斗のシャドウではない。

 

「タケミカズチ、剣を掲げろ!!」

 

完二の言葉に従い、タケミカズチは雷の形をした剣を掲げる。その剣にジオダインの落雷が直撃、剣が帯電する。タケミカズチはその剣を両手で握り締め、くるくると錐揉みしながら落下する直斗のシャドウを見る。

 

「いけ、タケミカズチ!!」

 

帯電する剣を握りしめ、タケミカズチは直斗のシャドウ目掛けて突進。その剣が雷とは別に光を帯びる。

 

「マッドアサルト!!!」

 

[ぐ、あ……]

 

雷と光を帯びた剣の一撃がトドメとなったか、直斗のシャドウは小さな苦しげな声を漏らすとげその全身がまるで焦げていくかのように黒く染まりあがる。そう思うと影が霧散し、消滅していった。

 

 

 

 

 

「……全部、知られてしまいましたね」

 

「直斗君、女の子だったんだね……」

 

直斗のシャドウが倒れると同時に直斗を拘束していた枷も解かれ、直斗はふぅとため息をついてそう呟く。それに千枝も意外そうに呟いた。それから直斗は自身のシャドウを見ると、その前に立つ。

 

「幼い頃に両親を事故で亡くしたぼくは、祖父に引き取られました」

 

直斗は祖父に引き取られた後、友達を作るのが下手で祖父の書斎で推理小説ばかり読んで過ごしていたと語る。

 

[将来の夢は、カッコイイ……ハードボイルドな、大人の探偵……]

 

直斗のシャドウもまるで子供が夢を語るような無邪気な声質でそう語る。

その言葉に直斗も頷き、自身の仕事に誇りを持つ両親や祖父を見て、自身も将来はその仕事を継ぐのだと疑っていなかった。それを普通は窮屈と思うかもしれないが、自分に拒む気持ちはなく、むしろ憧れていたと語る。

 

「その辺も受け継いだものかもしれません」

 

直斗はそう言い、微笑を浮かべる。

 

「祖父はきっと……いつも独りでいる僕の夢を、叶えてくれようとしたんだと思います」

 

その微笑を消して直斗は続ける。祖父に持ち込まれた相談事を内緒で手伝う内に、気付いた頃には少年探偵という肩書きが付いていた事。初めは嬉しかった。でも上手く行く事ばかりではなかった、と直斗はやや暗い表情で呟く。

 

「“子供のくせに”って……言ってたね」

 

「事件解決に協力しても、喜ばれるばかりじゃありませんでした……僕が“子供”だって事自体が気に障っていた人も少なくなかったし……」

 

千枝の言葉に直斗は首肯し、返答。自身が子供である事は時間が解決するかも知れない。しかし“女”である事実は変えようがない。

 

「女でいるの……嫌い?」

 

雪子が尋ねる、女でいるのが嫌だから男の子の格好をしているのかと。それを直斗は首肯し、自嘲気味な表情を見せる。

 

「僕の望む、“カッコイイ探偵”というのと、合わないんですよ……」

 

自嘲気味の表情で直斗は語る。警察は男社会であり、軽視される理由が増えると誰にも必要とされなくなると、直斗は自重と共に不安気な言葉を吐露した。

 

「んなのは思い込みだ」

 

が、完二がそれを思い込みだと否定する。

 

「ね……ほんとは、分かってるんだよね?」

「本当に求めていること、それは“大人になる事”でも、“男になる事”でもない」

 

ゆかりと結生が尋ねる。

 

「ええ……」

 

それに直斗は頷いた後、再び己のシャドウに向き直る。

 

「ごめん……僕は知らないフリをして、君というコドモを閉じ込めてきた。君はいつだって、僕の中にいた」

 

シャドウ、己の中の子供の部分に謝罪した後、その存在を認める。

 

「僕は君で……君は僕だ」

 

直斗の言葉を聞いたもう一人の直斗は子供らしい、無邪気な笑顔を直斗に向ける。その笑みに直斗も微笑みを返した。

 

「僕が望むべきは……いや、望んでいるのは、大人の男になる事じゃない。ありのままの君を、受け入れる事だ……」

 

優しく笑いながらそう宣言する直斗。その言葉を受けたもう一人の直斗が頷くとその姿が光に包まれる。直後、直斗の目の前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。とても小さい身体、その右手には長いビームサーベルを握る昆虫のような顔をした人間。それを直斗は黙って見上げていた。

 

「……スクナヒコナ」

 

彼女がそう呼ぶと同時、スクナヒコナはタロットカードとなって直斗の前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅹ]、運命を意味する数字が書かれていた。そのカードは直斗の目の前まで落ちると光の粒子となって彼女を包み込んだ。

 

「それにしても、ズルいですよ……こんな事、ずっと隠していたなんて……」

 

直斗は隠されていた秘密を暴いた探偵のような笑顔を真達に向ける。

 

「これじゃ、警察の手に負えないわけだ……」

 

「直斗!」

 

しかしそこまで言うのが限界のように彼女は崩れ落ち、完二が声を上げて駆け寄ると彼女を抱き上げる。

 

「でも……これで、分かりました……事件はまだ……終わってない……」

 

「ああ。お前がそれを証明したんだ」

 

「とにかく、詳しい話は後だ。早く外に出よう」

 

直斗は疲労困憊ながらも事件は終わってない事を確信し、真が直斗のおかげだと賞賛。しかし直斗への負担を考えた陽介が詳しい話はテレビから出てからにしようと言い、直斗は完二が背負って一行はその場を後にした。

 

「おい……おい!」

 

テレビを出てから完二が呼びかける。その直斗は肩で息をしており、かなり辛そうな様子だ。

 

「まったく……身体張っちゃって……」

 

「でも、直斗君が証明してくれた……犯人はまだ捕まってないって」

 

「うん。結生の推理もあくまでペルソナ使いでないとテレビに入れない。そう仮定しての状況証拠だけだ」

 

「でも、これは完璧です……“テレビに人を放り込んでいる犯人は捕まっていない”。“久保美津雄は模倣犯だった”」

 

千枝と雪子が話すのに続けて命が言い、真がこれで分かった二つの真実を話すと陽介達もこくりと頷く。

 

「ったく……キバりすぎなんだよ、テメェは」

 

「信じてました。来てくれるんじゃないかって……」

 

完二の呆れた言葉に対し、直斗はそう告白。でもまさかこんな大事とは思ってなかった。と続けた。

 

「ったく、テメェはバカだ。どこも天才じゃねぇ」

 

直斗の言葉に驚いた完二はふんっと顔を背けて悪態をつく。

 

「……世話……かけさせやがって」

 

が、そんな事をぼそりと呟き、それを聞きつけたりせがニヤニヤと笑った。

 

「なーんだ、完二。やっぱり心配しまくりじゃない」

 

「うるせえ、チャカすな」

 

りせのニヤニヤ笑いでの言葉に完二が苦虫を噛み潰したような表情で返す。

 

「私、送ってく。一人じゃ帰れそうにないし」

 

「ん、なら巽君も一緒にお願いできるかな? 女の子二人、しかも一人はかなり消耗してるのは危ないし」

 

「ん、あ、はい。分かりました」

 

雪子が送っていくと申し出ると命は完二にも同行を指示、完二もやはり心配なのか二つ返事で引き受けた。

 

「へいき……です、ひとりで……」

 

しかし直斗はそれを断りながら立ち上がろうとする。が、足元がふらついており、立ち上がる事すら出来ずにまた膝をついた。

 

「明らかに無理でしょ!? オトナはなんでも一人で出来るって思わないの!」

 

「おう。おら、掴まれ」

 

空元気にもなってない直斗の様子にりせが呆れたように注意、完二が直斗に手を差し伸べ、直斗も渋々その手を取ると完二は直斗を立たせようとぐいっと引っ張る。

 

「う、わっ!?」

 

「うおっと!?」

 

が、その力は直斗からしたら予想以上に強かったのか、直斗は悲鳴を上げるとそのままの勢いで完二の胸板に顔面ダイブする。

 

「うわ、ちょっと完二! 加減しなさい!」

 

「う、うっせーな! 悪かったよ! おい直斗、大丈夫か?」

 

「あ、は、はい……」

 

りせが疲れている直斗に負担かけてどうするんだと完二を非難、完二も直斗に大丈夫かと声をかけ、直斗もこくりと頷いて顔を上げる。

 

「あの、ごめんなさい……」

 

「!?」

 

本人は無自覚だろうが、疲労から絶え絶えになっている息にやや上気した頬、そして潤んだ瞳。それに完二はびっくりしたようにのけ反った。

 

「巽君?」

 

「う、うるせ! なんでもねえよ!」

 

「わっ!?」

 

小首を傾げる直斗に完二はそう叫んで返すとなんと直斗を肩に担ぎ上げる。

 

「お、下ろして! 下ろしてください!」

 

「るせっ! ろくに歩けねえんだから大人しくしやがれ!!」

 

ばたばたと暴れる直斗と平然と担ぎながら怒鳴って歩いていく完二。

 

「わ、完二君待って!」

 

雪子が大慌てでその後を追い、真達も後は雪子と完二に任せて解散した。

 

 

 

 

 

「あ、おかえり~! おっじゃましてま~す!」

 

夜、家に帰ってきた真を出迎えたのはそんな抜けた声だった。

 

「足立さん。いらっしゃい」

 

「悪いな、今日は早上がりで……」

「ほらほらぁ、座んなよ~」

 

抜けた声の主――足立に真はいらっしゃいと声をかけ、遼太郎が連絡もなしに足立を連れてきた事を詫びていると足立は座るよう促す。顔が真っ赤で不自然にゆらゆら揺れており、テーブルには缶ビールが散乱していることから恐らく酔ってるのだろう事が予想できる。

 

「白鐘君、見つかったんだよねー。って、知ってるっけ。白鐘君」

 

足立は笑いながらそう話す。曰く、自分達に黙って居なくなっていたがさっき見つかったという報告を受けた。という事だ。

 

「どうやら、お前がこの前話してた時には行方不明になっていたそうだ……心配かけたな」

 

「おっさわがせだよね、まったくさー」

 

「安心しました」

 

遼太郎と足立が話し、真は適当に話を合わせる。

 

「でも白鐘君、なんで居なくなったんですかね~?」

 

足立は酔っ払いのテンションで話題を続け、ちょっと気難しそうだし捜査から外れたから拗ねて家出でもしたのかなと話す。だが居なくなったと聞いた時はびっくりしたが無事に見つかってよかった。もし第四の誘拐殺人なんて事になったら色々ご破算になるところだった。

 

「足立」

 

「でも犯人の少年、諸岡さん殺し以外には証拠出ないっすね~。これ、立件までいけんのかなぁ?」

 

足立はそう話すと遼太郎の“カン”の通り、真犯人が別に居るかも知れないと呟く。

 

「何遍言わせんだ! ペラペラ喋んな!」

 

流石に喋り過ぎと判断した遼太郎が足立を一喝。遼太郎の言葉に足立は硬直すると「すみません」と素直に謝った。

 

「とにかく!」

 

遼太郎は話の流れを変えるように大声を出すと真を見る。

 

「お前は事件なんて気にせず、学生らしく勉強でもしてろ。でないと……」

 

遼太郎はそこまで言うと、菜々子をちらりと見て彼女を気にする風を見せる。

 

「……ハァ……俺ぁもう寝る」

 

そしてそう言い残すと寝室に去っていった。

 

「ごめ~ん、空気悪くしちゃったね!」

 

足立は酔っ払ったまま謝り、しかし遼太郎の心配も分かるなと続ける。

 

「事件のことは、僕ら警察に任せて欲しいな。何かあった時、マズイの分かるでしょ?」

 

君達が巻き込まれでもしたら、こっちはとても心配する事になってしまう。と足立は話す。

 

「こわいこと、まだおきる?」

 

と、菜々子が心配そうな顔で足立に問いかけ、足立は慌てた様子で「大丈夫だから!」と返した。

 

「安心しろ。何か起きても、叔父さん達がすぐになんとかしてくれるさ」

 

「そ、そうそう! 犯人は捕まったんだし、もう怖い事起きないよ。ね、大丈夫だよ~?」

 

真が菜々子を安心させるように言うと足立もおどけたように菜々子を安心させる。

 

「と、とにかく、お父さん、心配性っていうかさ。おにーさんに、任せてよ! こうみえても、署内イチの頭脳派なんだから! って、難しい言葉使っちゃったな……わかったかな?」

 

足立は調子に乗ったような、おどけたようにそう言った後、立ち上がる。

 

「さ、さて、堂島さん引けちゃったし……僕もおイトマかな……じゃあね!」

 

「おやすみなさい、足立さん」

 

足立はそう言って帰っていき、真も彼に挨拶を返すと立ち上がる。

 

「ずのうは、ってなに?」

 

「頭がいいって事だ」

 

「ふうん……じゃあ、大丈夫だよね?」

 

と、菜々子がさっきの足立の言葉で分からない事があったのか真に尋ね、真が菜々子の質問に答えると、菜々子はそう言ったきり黙ってしまう。やや晴れない空気のまま、事件の夜は過ぎていった。




《後書き》
今回で直斗編終了。ちなみに僕は完直派ですので、今回思いっきり要素詰め込ませたつもりです。
さて次回は……そろそろ日常編でも入れようかな? まあ、また後で考えるとしますか。
では今回後書きで話すような事も少ないですし今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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