「昨日の……直斗君だったよね?」
9月16日、学校が終わった後真達はマヨナカテレビについて話をするためジュネスのフードコートへと集まっていた。もちろん、命と結生、ゆかりも一緒である。
「クマくん、どう? やっぱり……いる?」
「におい、するクマ」
雪子の浮かない顔での呟きに続き、千枝がクマに確認を取ると彼も肯定。
「これじゃ……おんなじだ……今までと、なんも変わってねえ……」
陽介が悔やみ、りせは直斗が「遊びじゃない」と言っていた事を思いだし、以前自分達が直斗に自分達のやっていることを、シャドウとの戦いを知らないとはいえ遊びと言われたことに対し遊びはそっちだと言い返したことを悔やむ。と、完二がばんっとテーブルを叩いて立ち上がった。
「悔やむのは後だ! それより今はとっととテレビに入って、あいつを探さねえと! あのバカが“向こう”でくたばっちまう!」
「そうだね。急ごう!」
完二の言葉に命も同意、真達もこくりと頷いてフードコートを後にし、家電売り場まで移動するとテレビに入っていった。
「ここがテレビの世界……」
「うわー、なんかふっしぎー」
テレビの世界初体験のゆかりと結生――双方クマからメガネを受け取っており、二人とも同じ形のナイロールタイプで、違いはそれぞれフレームがゆかりはピンク、結生がオレンジ色というくらいだ――が不思議そうに辺りを見回している近くでりせがペルソナ――ヒミコを召喚。辺りの探知を行っていた。
「確かに、誰か入ってる。それに、この世界、また少し広くなってる……」
「さすがやね、リセチャン。クマの鼻、そこまではもう全然ムリ」
りせの報告にクマが彼女を賞賛、「肩モミモミしましょか」と言うと陽介が「邪魔すんな」と彼を叱る。するとりせが困ったように表情を歪ませた。
「前と同じ……居るのは分かるけど、場所が見えない……何か、あの子の事もっと分かるもの……手がかりが欲しい。今のままじゃ、どっちに進んでいいか分かんない……」
「クッソ、あいつの事分かんねえ事だらけじゃねえか……」
りせの言葉を聞いた完二が悔しそうに唸る。と、千枝が「いつもの事でしょ!」と元気よく言った。
「焦らず、天気を気にして、いつも通りやろ。必ずうまくやれるって!」
「ああ、そうだな。とりあえず、あいつの居場所掴めそうなものを探そうぜ」
千枝のポジティブな言葉に陽介も同意、まずは直斗の居場所が掴めそうなものを探そうと言う。
「……そっスね。こっちに入ってるこたぁ分かってんだ……なら、こっから出してやるだけッスよね!」
自分の無力さにイラついていた完二もようやく落ち着きを取り戻す。と、ヒミコの召喚を解除したりせが申し訳なさそうに「すぐ見つからなくてごめんね」と彼らに謝る。が、続いて力強い表情を見せた。
「けど、あのコを感じられるような、何かヒントがあれば、絶対見つけてみせるから!」
力強く、決意を込めた瞳でのりせの言葉に真達はこくりと頷き、一度テレビを出ると手分けして直斗の情報を集めに走り出した。
それから真がやってきたのは学校。最近直斗は登校していなかったとはいえこの学校の生徒、何か知っている人がいるかもしれないと彼は判断していた。
「誰かいないか?……」
しかし既に放課後になってから時間が過ぎており、部活をしている生徒を除いてほとんどの生徒は下校している。
「あ、先輩」
「松永」
だがまだ学校に残っていたらしい彼の後輩というか部活仲間の松永綾音、彼女を見つけた真は「ちょっと聞きたいことがあるんだが」と彼女に声をかけ、綾音も「なんですか?」と聞き返す。
「白鐘についてなんだが……なにか知ってる事はないだろうか?」
「白鐘、君……ですか?……いえ、クラスが違うし、お友達が少し白鐘君について話してるくらいで……」
「ああ、そうだよな……すまない。気にしないでくれ」
真の質問に綾音は困ったように首を傾げて申し訳なさそうに答え、真もすまないと一言謝ると頭をかきながらその場を去ろうとする。
「あっ!」
が、その時綾音が何か思い出したような声を出した。
「そういえばいつだったかは忘れちゃいましたけど、前にお母さんに頼まれておつかいに商店街に行った時、白鐘君が警官の人ともめてるのを見たことがあります」
綾音はそう証言。なんでも、学校では物静かな雰囲気だったのにその面影を見せない程に怒っていたのが印象に残っているらしい。だがちらりと見ただけだし、その後すぐにおつかいに戻ってしまったため何故もめていたのかまでは分からないそうだ。
「えっと、ごめんなさい。こんな事で……」
「いや、充分だ。ありがとう」
中途半端な情報に謝る綾音だが真は彼女の頭にぽんと頭を置いてお礼を言うと学校から去る。その道中で携帯を開き、さっき綾音から聞いた情報をメールで特別捜査隊メンバーに送るのも忘れない。
「とりあえず、白鐘ともめていたという警官から話を聞いてみるか……だが、いればいいんだが……」
次に話を聞くべき相手の見当をつけつつも、警官という大雑把な情報だけでその相手を見つけられるだろうか。そんな不安な思いを一瞬頭によぎらせながら、真は商店街までやってくる。
「だからよぉ! 白鐘直斗について聞きてえんだっつうの!!」
「!?」
いきなり聞こえてきた聞き覚えのある大声。真は驚きに硬直した直後、声の方に走り出した。
「お、おい完二、落ち着けって……」
「だけどよ花村先輩! あいつがサツと何かもめてたって話でしょ!? だったらサツをしらみつぶしにあたりゃ早いじゃねえッスか!!」
商店街の北側、小西酒店の前で騒ぎを起こしているのはやはり完二。彼は警官に対し質問をしているようなのだが明らかに威圧的であり、警官の方もイライラした様子で「職務中なんだ。学校が終わったのなら早く帰れ」と言っており、陽介が慌てた様子で完二を落ち着かせようとしているものの一触即発の雰囲気を漂わせていた。
「あ、あの、すみません」
「ん? なんだい?」
慌てて駆け寄り、警官に話しかける真。警官も完二と言い合いをしていたのを差し引いてもイライラを隠していない様子で真を見る。
「失礼しました。俺達、白鐘直斗の友達で……最近学校に来てないから心配しているんです」
「あの子の知り合いか? 確かに最近署でも見ないな。ちょっと前までは、よく夜遅くまで資料を調べてたけどねぇ……納得いかないからって、“あの執着具合は異常”だよ」
そこまで言うと警官は「もう行きなさい。無駄話をしてるほど暇じゃないんだ」と真達を追い払う。
「事件に執着……だからってアイツ、なんでいつも一人で突っ走るんだ……」
「う~ん、納得いかないからって、普通一人で続けるか? まったく」
完二が頭をかきながら、陽介が腕を組みながら呆れた様子で言う。
「警官はまだいるはずだ。聞いてみようぜ」
「そうッスね。手分けして捜しましょう!」
陽介と完二がそう言い、彼らは解散して聞き込みを再開した。
「あ」
商店街を走って警官を探していた真の目に映るのは、報告、連絡をしているらしい二人の警官。
「叔父さん」
「ん? ああ、真か」
その内の一人は彼の叔父――堂島遼太郎。
「あの、すいません。白鐘の事なんですけど……あいつ、最近学校にも来てないそうなんですが。叔父さん達は何か知りませんか?」
「なに!? あいつ、まさか学校にも行かねえで事件について調べてるのか!?」
真の言葉を聞いた遼太郎は驚いたように叫んだ後、「あいつが資料室を使えるようには言っといたが、学校が終わってからにしろって言っただろうが」と呆れたようにぼやく。と、彼と話していた警官が呆れたようにため息を漏らした。
「っていうか、署内は解決ムードなんだから、納得してないからって一人で頑張られてもな……署内では事件は終わった事として扱われてるんだから……」
「おい」
警官の面倒そうな言葉を遼太郎が注意するが、警官は肩をすくめる。
「だって実際もう犯人も捕まってますし、蒸し返されても困るじゃないですか。“そういうところが子供”なんですよ、あの子」
「ああ、まあ無理して肩肘張ってるとこはあるようだがな……」
警官の言葉に遼太郎は腕を組んでそう呟く。
「分かった。あいつを見かけたら俺からも注意しておく。お前はもう気にするな」
(つまり……)
遼太郎は一つ頷くと直斗を見かけたら注意しておくからお前は気にするな、と真に言う。それを聞きながら真は今まで集めた情報を頭の中でまとめる。
(白鐘は事件に対する異常な執着心を持っていた……だがそれに対し、署内では子供扱いされていたらしい)
「おい真? 聞いてんのか?」
「あ、はい。分かりました。じゃ、俺は陽介達と約束があるので、これで」
「おう。あんま遅くなるなよ?」
遼太郎の言葉を受け流しつつ真はその場を後にする。そして携帯を取り出すと「白鐘についての情報ゲット、ジュネス屋上に集合」という文面をメールで送信。自分もジュネスに急いだ。
「先輩! 手がかり掴めたんだね!?」
ずっとテレビの中でヒント無しでも直斗を見つけられないかと試していたりせはテレビの中に真達が入ってくると嬉しそうに言い、「早く教えて! 居場所捜すから!」と急かす。それに対し真も直斗が“子供扱い”されていた事と捜査に対する異常なまでの執着心があった事をりせに伝えた。
「なるほどね……意地だね、完全に」
りせはそれを意地と評する。直斗くんにしては珍しく感情的って事なのかも、とも彼女は言う。
「うん、だいたい感じ分かった。多分行けると思う。すぐペルソナで見つけるから、そしたらついて来て!」
そう言ってりせはヒミコを召喚。直斗の居場所を探り始めた。
「……なんスかね。ここ?」
りせが直斗の居場所を見つけ、彼女に連れられてやってきた場所を見た完二が呆けた声を出す。
やってきた場所には地下シェルターの入り口のようなものがあり、その上部には巨大なパラボラアンテナが建てられている。さらに建造物の側面には金の羽根を広げた不死鳥のマークが描かれていた。
「SFチック……ていうか、あー分かった、特撮の秘密基地っぽくないか?」
「ああ、なるほど。子供の頃に憧れたな」
陽介の言葉に真がうんうんと頷く。
「あれ、シンドいらしいよー、現場。滝とか火の中とか余裕で本人飛び込むらしいし」
「うわー。嫌な事聞いちゃった気がする……」
りせの言葉に何故かゆかりがげんなりとした表情を見せた。
「ま、男のロマンの基礎だな」
「そうね。気持ちは分かるかなー。カンフーと一緒でアクションだしね」
陽介の言葉に千枝が同意、秘密基地って響きもトキメクよねと騒ぐ。子供の頃に天城屋旅館の裏山辺りに作った事があるらしい。しかし仙人に必殺拳を伝授されると言っており、陽介から「それ基地じゃねーだろ」とツッコまれていた。
「でも、考えてみるとこの特撮の秘密基地みたいなところが直斗君の心が出元って事だよね?」
「だとすると、結構カワイイとこあんのかもな」
命の言葉に陽介もクスッと微笑してそう言う。
「グダグダ話してる場合じゃねッスよ! とっとと行きましょう!」
と、完二が気合十分に右の拳を左の手の平にばしっと打ちつけ、それを聞いた命もああと頷いた。
「よし、行こう!」
そう言ってばさっと夏用の上着を脱ぎ捨てて、その下に着こんでいたS.E.E.S.時代の制服姿になる命。ゆかりと結生もそれに倣ってさっきまで着ていた上着を脱ぎ捨てる。ゆかりが着ているのは命と同じくS.E.E.S.時代に着用していたピンク色のカーディガン、そして――
『ぶっ!!!』
自称特別捜査隊メンバーが例外なく結生の格好を見て吹き出し、完二に至っては鼻血まで噴き出している。命とゆかりも口をあんぐりと開けていた。
「ん? どったの?」
だがその視線が集中している結生は全く気にも止めずに持ってきていた鞄から銀色金属製のカチューシャのような形の頭防具と首周りを防御するのだろう同じく銀色金属製の首輪のようなものを着用する。その身体には金属による覆いは必要最小限もない、むしろ両腕を覆う純白の長手袋と両足を覆う純白のロングブーツのそれぞれ肩側と太もも側、そして胸部分以外こそ金属でガードされているがそこ以外は純白のへそだし水着とでも言えばいいだろうか。かなり露出の多い格好になっている。しかも結生の服の上からでは分からなかった豊満な胸がかなり露わになっており、真と陽介は目のやり場に困っている。なお完二は鼻血を吹いてそっぽを向き、クマはりせに目を塞がれていた。
「ちょ、ちょっと結生さん!? な、なんなんですかその格好!?」
「ん? ハイレグアーマーっていう防具だよ? 私の愛用品!」
千枝がツッコミを入れ、結生がドヤ顔で自慢するように胸を張る。
「こんのバカッ!」
「ふぎゃっ!?」
と、その脳天にゆかりの拳骨が突き刺さった。
「ちゃ、ん、と! 美鶴先輩から服届いたはずでしょ!? なんでそっちじゃないの!?」
「う~……だ、だってハイレグアーマーの方が動きやすいし……」
「はっ、そっか。機動力って大事だよね……」
「雪子!?」
ゆかりからのお叱りを受けた結生が頭を押さえながら涙目で訴えると雪子がはっとした表情を見せ、千枝が戦慄する。
「別にいいじゃん! 知らない人見ないし!」
「ダ、メ! ほら見なさい真君達こっち見れないでしょ! 早く着替えなさい!!」
唇を尖らせてぶーぶー文句を言う結生にゆかりが説教。探索に支障が出ると言って彼女を制服に着替えさせることに成功させる。
「さてと……じゃあ改めて。皆、行くぞ!」
仕切り直しといわんばかりに真が呼びかけ、それに陽介達が「おう!」と返すと彼らは一気にシェルターらしき入口へと飛び込んでいった。
《後書き》
今回は繋ぎというか直斗の捜査、ステージ突入は次回からです。
ちなみに結生が平然とハイレグアーマー着てますけど別に彼女は露出狂じゃありませんからね? 本人はただ単に「制服よりハイレグアーマーの方が動きやすいじゃん」「肌とか丸出しで危ない?当たらなければ(もしくはちゃんと硬いとこで受け止めれば)どうという事はないよ」みたいな考え方なだけです。
とりあえず次回は結生とゆかりの実力を書ければいいな。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。