ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四十三話 意地と決意

9月11日。修学旅行の翌日、ジュネスのフードコートに真達は集合。命はやや青い顔色で座り、真は苦笑しながら、この場の新顔に顔を向ける。

 

「えーっと、その……八十稲羽にようこそ。岳羽先輩、結生先輩」

 

「うん、ありがとう。真君」

 

真の歓迎の言葉に対し、自らが座る椅子の横に旅行用のバッグを置いた女性――岳羽ゆかりがお礼を言い、その隣に座る女性――利武結生が命を見る。

 

「それで、お兄ちゃんはこの八十稲羽で……ユキちゃんのとこに泊まってるんだね」

 

「そ、そうだけど?」

 

結生のにこにこ笑顔での言葉に命もびくっと肩を跳ね上げてから引きつった笑みを見せながら返し、結生は素早く雪子の方を見る。その余りの速さに雪子も驚いた様子を見せる。

 

「ユキちゃん! この天然タラシに何かされてない!?」

 

「てっ!? そ、そんな、別に何も……」

 

びしっと命を指差しながらの失礼な表現に雪子は驚いた後彼の無実を証言する。

 

「ほ、ほんと? もしかして部屋に呼ばれて押し倒されたりとか……」

 

「こら結生、僕を何だと思ってるの!?」

 

結生の心配そうな声に対し、流石に命が彼女を叱る。

 

「お、おし、たお……」

 

しかし彼女の言葉を聞いた雪子がぼんっと顔を赤くした。

 

「……お兄ちゃん?」

「命君?」

 

「濡れ衣だー!!??」

 

オーバーヒートしたかのように顔を赤くした雪子を見た結生とゆかりがジト目で命を見、命も悲鳴を上げる。

それから激昂状態になったゆかりと結生を見た千枝が真っ青な顔で雪子をガクガク揺さぶって彼女の意識を現実に戻させ、我に返った雪子も大慌てで謝りながら命の無実を証言。その証言を聞き終えた結生は怒りのオーラを消して命を見る。

 

「うん……ユキちゃんがそう言うなら。お兄ちゃんを信じる」

「私も……命君がそんな不貞をしないって信じてるし」

 

怒りのオーラを消した結生とゆかりはそう言い、しかしゆかりは「しないよね?」と命を睨み、命も必死で首を縦に振る。

 

「……こりゃー。確かに浮気出来ねえわな」

 

「結生先輩とゆかり先輩を本気で怒らせたら、先輩の命はないかもしれないからな……まあ、元々先輩はそういうとこすっごく真面目なんだけど」

 

陽介と真もぼそぼそと話し合っていた。

 

「でもまあ、お兄ちゃんが泊まってる場所がユキちゃんとこなら話が早いや。ユキちゃん、今日から私とゆかりっちも同じ部屋に泊まるからよろしくね♪」

 

「「……えっ?」」

 

結生の言葉に命と雪子の声が重なる。と、ゆかりが呆けた表情をした。

 

「え?……美鶴先輩から連絡来てないの?」

 

「……」

 

ゆかりの指摘を聞き、命は携帯電話を取り出すとメールを見る。

 

「……あ、来てた」

 

「そういえば、お母さんから宿泊客の予約の話を聞いたような……」

 

つまりはメールを確認していなかった命のミスであり、雪子も唇に人差し指を当てて虚空を見上げるようなポーズをしながら記憶を思い返していた。

 

「「と、いうわけで」」

 

結生とゆかりが声を合わせてにっこりと微笑む。

 

「もう逃がさないからね? お兄ちゃん」

「もう逃がさないからね? 命君」

 

「イエスマム……」

 

最愛の女性二人の言葉に命は苦笑交じりにそう言い、立ち上がった。

 

「じゃ、二人を天城屋まで案内するから僕達はこれで」

 

「あ、私も一緒に行きます」

 

雪子も一緒に行くと言い、それに合わせて結生とゆかりも立って荷物を持つ。

 

「……そういえば二人ってどうやって来たの?」

 

「美鶴先輩の名前でバイク二台レンタルさせてもらったよ」

 

「買ってやろうかって言われちゃったけど、流石に遠慮したわ」

 

命と結生、ゆかりはそう言い、笑い合いながら雪子と一緒にフードコートを後にした。

 

「……おっかねえ妹さんと彼女さんだなぁ……」

 

「二人とも命先輩の事が心配なだけだ」

 

陽介が頬を引きつかせ、しかし真は二人の本心を見抜いて皆に話す。

 

「しっかし、大先輩方……事件はもう解決したってのに何を調べる気なんスかね?」

 

「うーん……命さんは何か気になる事がある。みたいな事言ってたよね……でもそんな事あったかなぁ?」

 

完二と千枝が腕組みをして首を捻りながら、この三人が八十稲羽に滞在する理由である事件について考える。

 

「ん~……ま、命さん的には納得してないんじゃね? あの人、確か調査頼まれて来てるんだしそこんとこはっきりさせときたいんだろ」

 

結局陽介がそう結論を出して立ち上がり、「俺そろそろシフトの時間だから行くわ」と言う。真達も今回の集まりは突然やってきた結生とゆかりへの挨拶というところが多かったためこれで解散となった。

 

 

 

 

 

「……」

 

夜中、稲羽警察署の資料室。白鐘直斗は修学旅行から戻ってきた翌日、つまり今日の早朝から今回の事件の資料をかき集めてその全てを洗い直していた。

 

「……失踪した人間は全てその前にテレビ報道されている。しかし、諸岡金四郎氏だけはテレビ報道もされておらず、失踪もしていない……」

 

直斗は自分の考えを口に出しつつ次の資料をめくる。

 

「天城雪子、巽完二、久慈川りせ……失踪した後、全く足取りの追えないまま突然発見……その後は何故か椎宮さん達と行動を共にしている」

 

そこまで呟き、直斗は考える。自分も雪子と完二からは警察経由で、りせからは直接接触して証言を聞いたがその全てが「失踪前後の記憶が曖昧で、何があったのか覚えていない」という結果。

 

「……もしや、椎宮さん達が犯人のグループで、天城雪子達を懐柔し自分達に不利益な証言を出さないように監視している?」

 

直斗がそこまでぼそりと呟いた時だった。

 

「ん? おい、まだ誰かいるのか?」

 

「!?」

 

突然聞こえてきた男性の声。それに直斗は驚いたように顔を上げると、資料室の入り口に立っていた男性が驚いたような目を見せた。

 

「お前、まだ残ってたのか? 外はとっくに暗くなってるぞ……」

 

「あ、は、はい。すみません……堂島さん」

 

驚いた後呆れた様子で注意する男性――堂島遼太郎に直斗は慌てて謝罪をし、遼太郎は呆れた様子のまま資料室に入ると直斗が広げている資料を見る。

 

「……例の事件を調べてたのか」

 

「はい……どうにも違和感が拭えなくて」

 

「まあ、気持ちは分からんでもないが。時間が時間だ。今日はもう帰れ……まだ納得出来てないってんなら、また明日お前がここを使えるように俺から言っといてやる。もちろん、学校が終わってからだがな?」

 

「……はい」

 

遼太郎の言葉に直斗は渋々ながら頷く。それから遼太郎が資料の片づけを手伝い、そのまま直斗を家まで送ると申し出て二人は車に乗り、遼太郎の運転で車が走り出した。

 

「……堂島さん。一つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

直斗は運転中の遼太郎に話しかけ、遼太郎も前方を確認しつつ直斗の方を顔を動かさずに目だけでちらりと見、何か話したいことがあるなら言え、と促す。

 

「……あなたの甥である、椎宮真さんの事ですが……彼が今回の事件に関わっている。という可能性はないでしょうか?」

 

「……」

 

直斗の言葉に対し遼太郎は動揺など微塵も見せないまま、前方の信号が赤色のランプを点灯させたため停止線で車を停止させる。

 

「天城雪子、巽完二、久慈川りせ」

 

直斗は三人の名前を出す。警察では今そこまで注目していないが、彼らも謎の失踪をしており、発見された後は真と行動を共にしている事を口にする。

 

「つまり、なんだ? 真が今回の事件に関わっていて、その秘密を握ってるかもしれないだろう三人を監視している。とでも言いてえのか?」

 

「証拠がない推論ですが……この三人も被害者である山野真由美、小西早紀と共通点があるんです」

 

そう直斗が言ったところで信号が青になり、遼太郎はアクセルを踏んで車を発進させる。

 

「まあ、俺も最初は事件にやけに首を突っ込んでるようなあいつを疑った事はある……俺達の仕事はまず、偶然って線を消す事から始まるからな」

 

遼太郎はそう話すが、続けて「ありえねえな」と直斗の言葉を否定した。

 

「……理由をお聞きしても?」

 

「俺も証拠がある。ってわけじゃないがな……あいつはそんな事する奴じゃねえ」

 

遼太郎はそう言い切った。

 

「親戚の欲目だとか言われてもおかしくはねえがな……あいつは昔の姉さんにそっくりだ。不愛想に見えながらも、心には熱い正義感と優しさを持っている。そんな奴が誘拐だの殺人だのに手を貸すはずがないからな」

 

そう言う彼は優しげな微笑みを見せており、直斗も目を閉じる。

 

「……そうかも、しれませんね」

 

そしてそう呟き、目を開けて外を見ると「止めてください」と言う。

 

「ここまでで結構です」

 

「家まで送ってもいいんだが?」

 

「いえ、もう充分近いので。ありがとうございました」

 

家の前までちゃんと車で送るぞと言う遼太郎に対し、直斗は充分近いから構わないと返して下車。遼太郎から「どうにか落ち着いてきてるが、気をつけろよ」という注意を受けてから帰路へとついた。

 

(……流石に犯人もしくはそのグループに属している。という事は無いにしても、椎宮さん達が事件に関係している事は間違いないはず。それにこの事件にはまだ違和感が……)

 

すたすたと帰り道を歩きながら直斗はまだ思考を続ける。と、その時彼の携帯が突然震え出し、直斗は「お爺ちゃんかな?」と呟いて液晶に表示された電話番号を見る。

 

「……もしもし?……いえ、その件は前に……」

 

直斗は電話相手に対しそう話すが、その言葉は途中で途切れてしまう。

 

(待てよ、失踪した人達の共通点は……)

 

直斗は何かを思いつき、僅かに考えた後に改めて電話相手に話しかける。

 

「そのお話、お受けさせてもらってもよろしいでしょうか?……はい。では……はい……では、よろしくお願いします。失礼します」

 

会話を終了して電話を切り、直斗は再び歩き出す。これで事態が何か動くはずだ、という確信に近い考えを持ちながら。

 

翌日9月12日の昼休み。真は食事後の腹ごなしの散歩で校内を歩いており、なんとなく一年生の教室に来た時だった。

 

(……)

 

一年の教室前を歩いている時に変な違和感を感じる。

 

「あ……椎宮先輩」

 

「小西」

 

その時出会ったのはこの事件の被害者小西早紀の弟であり真の友達の小西尚紀。

 

「ちょうどよかった……白鐘、見てないか?」

 

すぐさま切りだす真。変な違和感、教室に直斗を――今までふと見ていたりりせ達から話を聞くところによると周りの喧騒を全く気にせず机で本を読んでばっかりいるらしい――見かけない事。が、尚紀は困ったように頭をかく。

 

「えっと、そう言われても……俺も別のクラスだし……でもそういえば、朝から見かけないような……」

 

転校生とか目立つし、いなかった気がします。と尚紀は証言。真はそうか、と呟く。

 

「白鐘が学校をさぼるとも思えないしな……心配だ」

 

「……えっと、もういいっすか?」

 

「ああ、すまん」

 

急いでいる様子の尚紀に真は一言謝って彼を解放し、尚紀はすたすたと歩みを進めると手近なトイレに入っていった。真もそれを見送った後時間を確認、そろそろ予鈴が鳴る時間のため教室に戻っていった。

 

それからまた時間が過ぎて夜。真は家で菜々子と共にテレビを見ていた。

 

[はい。“報道アイ”の時間です]

 

番組の内容がニュースに代わり、アナウンサーが番組名とその内容、この稲羽市の連続殺人事件、世間的な名称は“逆さ磔・連続殺人事件”を述べる。

 

[解決の陰に、なんと現役高校生の、文字通り少年探偵の活躍があった事、御存じでしょうか。今日は、甘いマスクでも話題をさらいそうな“探偵王子”、白鐘直斗君の特集です]

 

「!?」

 

アナウンサーの言葉と共にテレビに映し出されたのは直斗の姿。それに真は驚いたように目を見開いた。菜々子はそれを不思議そうに見た後、制服が真のものと同じだと指摘する。

 

[まずは、先日の犯人検挙、お疲れ様でした。この事件はかねてから謎が多いとされてきましたが、お手柄でしたね]

 

[手柄と呼べるほどのものじゃありません]

 

アナウンサーの賞賛に対し直斗は静かに返答。先日の諸岡さんの事件については犯人の仕業に間違いないが、事件の全体像を見渡した時に、自分には幾つかの違和感が残る。と話す。

 

[事は三人もの犠牲が出た殺人事件です。小さな違和感でも追求すべきだと僕は思います]

 

[は、はあ……警察会見の内容と、若干異なるようですが……]

 

警察からの公式的な会見とやや異なる直斗の主張にアナウンサーは怪訝な様子を見せながら、次は探偵王子の素顔、と題して直斗君自身の事を聞いていきたいと思います。と話を変える。

 

「おにいちゃんの学校、たんていさんいるんだー」

 

「……」

 

無邪気に喜んでいる菜々子を横にしながら真は考え始める。

 

(白鐘はこういう事をすすんでするタイプには見えなかったが……ん? いや、待てよ……これは……)

 

真は現在テレビに映り、自分のプライベートに関する質問に微妙に話を逸らして深くまで至らない程度に答えている直斗を見る。現在、直斗はテレビに映っている。そして、今まで失踪してきた人の共通点は()()()()()()()()()()()()()()。という事だ。

 

(まさか……囮になるつもりか?)

 

己の中で一つの結論へと辿り着く。

 

「おにいちゃん、おにいちゃんの学校ってすごいんだね! 菜々子も、しょうらいはおにいちゃんの学校行くー」

 

が、そこで菜々子が楽しそうに呼びかけていることに気づき、真も深く考えるのは後にしようとこの思考を頭の片隅に持っていくと、菜々子との団欒を始めるのであった。

 

そしてその翌日9月13日。学校に登校していた真に陽介達が合流する。

 

「ね、昨日のテレビ見た!? 直斗君出てたやつ!」

 

開口一番千枝が言い、陽介は「実際に犯人捕まえたの俺らだけど」と得意気な様子を見せる。雪子は「でも容疑者を見つけたのは警察だし、それに協力してたんだからお手柄は確かだと思うよ」と言う。

 

「けど、意外なんだよねー。彼……テレビとかに出たがるようなタイプじゃないって思ってたんだけど」

 

「ああ、その事だが……」

 

千枝の意外そうな言葉に真が昨日考えていたことを話そうとする。

 

「おはようございます」

 

それを遮る声が聞こえてきた。

 

「白鐘……」

 

「実は、事件の事でお話があって、皆さんを待っていました」

 

直斗の登場に驚く陽介達を気にする風でなく、直斗は「現時点での僕の考えを聞いてもらえますか?」と真達に問いかける。それを真が首肯すると直斗は「最初に」と切り出した。

 

「被害者の共通点ですが、まず殺害の前に必ず誘拐されるという事。狙われるのは、“メディアにある程度ハッキリ取り上げられ、急に知名度を得た地元民”……その辺りが確率的に高いでしょう」

 

直斗が話すのは今回の事件における被害者の共通点。少なくとも被害者の“人物像”はあまり重要視されていないだろうと話す。

 

「この点……皆さんも同じ見解を得てるんじゃありませんか」

 

「……白鐘、もう少し単刀直入に頼めるか?……“お前の言う条件にあてはまる者が、ここに何人か揃っている”と」

 

直斗の言葉に対し真も単刀直入に切り返す。

 

「……ええ、言いたいことはその通りです」

 

真の返しに対し直斗もこくり、と頷いた。今回の事件、二人目の被害者である小西早紀の殺害と三人目の被害者である諸岡金四郎の殺害の間に長いブランクがあった。しかしさっきの条件を踏まえて調べるとそれらしい“失踪”は続いていた。天城雪子、巽完二、久慈川りせ、この三人もテレビで報じられた後に失踪している。

 

「何かの訳で死を免れたのか、自分から目を逸らすため、自身を被害者の一人に見せかけたか……殺された被害者とも何人かは接点もありますし、皆さんの誰かが犯人かと疑った事もあります」

 

「あ、あたしらの誰かが犯人って、そんなワケないでしょ!?」

 

直斗の言葉に千枝が反論。が、直斗は「そういう事もあった」と、過去形であることを強調する。

 

「現時点でまとめ直すなら……今の僕の考えは、それとはまったく逆です」

 

「逆?」

 

直斗の新たな推理に真が興味を持つ。

 

「犯人なんじゃない……恐らく皆さんは、犯人を追いつめる“手段”を持った人達」

 

懐柔ではなく、助けたから仲間が増えていると考えれば全ての辻褄が合う。直斗はそう、真達の秘密の一端に辿り着いた台詞をその口から紡ぎ出す。が、あくまで想像です。と言葉を締めた。

 

「ただそう考えると、やはり三件目……諸岡さん殺しはおかしいんですよ」

 

直斗は右手の指を三本立て、メディアにも出ず、失踪した形跡もない、何より遺体の状況がおかしい。と三つの違和感について話した。特に遺体の状況、二件目までの遺体は今も詳しい死因が不明にも関わらず三件目だけは鈍器による後頭部強打が直接の死因だと分かっている。これは明らかな違和感だ、と。

 

「警察はこの違いに納得のいく答えも持ってないにも関わらず、事件を収束するのに必死です。この上は、何か確証を掴める行動が必要でしょう」

 

「確証を、掴める行動?」

 

直斗の言葉に千枝が不思議そうな顔を見せる。

 

「……だから敢えてテレビに出て、お前自身が定義した条件を満たそう。と考えてるのか?」

 

「って、それってつまり囮って事じゃねえか!?」

 

真の言葉を聞いた完二が叫ぶ。と、直斗は一つ微笑を浮かべた。

 

「まぁ、結果がどうあれ……これで何かが掴めるはずです。それに皆さん、以前僕に興味深い事を言いましたよね」

 

直斗はそう言って、真達の進行方向とは逆方向に歩き出す。

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

「僕は……遊びのつもり、ないですから」

 

「直斗君?……」

 

学校とは逆方向に向かう直斗に陽介が呼びかけるが、直斗はそうとだけ呟く。それに雪子が心配そうな声を出すが直斗は気にせずに歩き去っていった。真達も直斗の事は気になるがこのままでは遅刻してしまうため、学校へと向かっていった。

 

その放課後、真達は屋上に集まって朝、直斗が言い残していた事を考えていた。

 

「直斗の奴……とんでもねえ事しやがったな。まさか囮になる、だなんて……」

 

「で、でも、もう犯人捕まってるでしょ?」

 

陽介が腕組みをしながら呟き、千枝はどこか困惑しながらも既に犯人である久保は捕まってるんだから心配はいらないはずだ、と反論。完二も「そっスよ」と千枝に同意した。

 

「先輩らがビビりすぎなんスよ。直斗の奴が言い残した事もワケ分かんねえし、振り回されたってしゃあねえッスよ」

 

強気にそう言っている完二だが、それはどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

 

「……とりあえず、今は何も起きない事を祈るしかない……里中の言う通り、犯人は捕まってる……はずなんだから……」

 

「そう、だね……」

 

真の言葉を雪子が不安気に同意した。

 

「……あの、さ。事件とは関係ないんだけど」

 

その後、雪子がそう話題を変える。

 

「なんだか最近、ヘンじゃない? 町の雰囲気……みんな、妙に浮かれてるっていうか……他人の話ばっかりして」

 

「そう? 今の始まった事じゃないっしょ。ヤバい事件が解決したんで、不安がなくなった反動じゃん?」

 

雪子の不安な言葉に千枝が首を傾げながらなんでもなさそうに返し、りせも「たまたま“旬”が来てるんでしょ」とあっさり言う。即熱して即冷める。全部お祭りで、流行り廃りにワケなんてない、との事だ。

 

「でも……いくらなんでも、ちょっと変っていうか……なんだか、怖がってるみたい」

 

雪子の言葉に全員が不思議そうな顔を見せ、それに気づいた雪子は「そんな気がしただけ」と慌てて付け加えて謝る。話はこれで終わり、真達は解散して各々帰路について行った。

 

そしてそのまた翌日9月14日の夜、天城屋旅館。命、結生、ゆかりの三人はマヨナカテレビを確認していた。人影が映っているのは確かなのだが画像が荒く、誰なのかは確認できない。

 

「……これがマヨナカテレビ」

 

ゆかりがぼそりと呟く。

 

「これに映った人が失踪する……誘拐されるってお兄ちゃんたちは推理してるんだよね?」

 

「ああ。だけど諸岡教諭の時はそうならなかった……僕はそこが気になってるんだよ」

 

結生と命もそう話し合い、結生は「なるほどねー」と言いながらごろんっと寝っ転がる。そしてごろごろと転がっていると、彼女は部屋に備え付けられている小さなテーブルの上に立てて並べられている、いくつかの本の中のファイルを見つける。

 

「お兄ちゃん、あれって?」

 

「ああ。僕がテレビの中で見たシャドウに関する資料だよ。桐条先輩に送ったやつの控えみたいなものかな」

 

結生の質問に命はそう言い、結生が「見てもいい?」と尋ねると「どうぞ」と返し、結生はファイルを見ていく。

 

「……陽介、シャドウ?」

 

「花村君達のシャドウだよ。僕達と違って皆はテレビの中で自らの負の側面がシャドウとして現出。それを受け入れる事でペルソナに変じたんだ」

 

その資料にはそれぞれのシャドウがどうして暴走をしたのか、どういう特性を示してるのかを僕なりに分析してまとめたんだよ、と命は説明、結生は「へー……」と言いながら資料を読み進めていく。

 

「……美津雄シャドウ。これが犯人のシャドウ……」

 

結生はそう呟き、少し考えると「ん?」と声を漏らす。

 

「お兄ちゃん。そういえば皆ってどうしてテレビの中に入れるの?」

 

「え? いや、僕は知らないけど……なんかいつの間にか」

 

ぼんやりとした把握内容に結生は「真君に聞いた方が早いや」と呟いて真に電話をかける。

 

[え? 俺達がテレビに入れる理由?……そういえばなんでだろ?……あ、でもそういえば陽介が、ペルソナに覚醒した後試してみたらテレビに手を突っ込めたって言ってました]

 

「ペルソナに?……!?」

 

真からの証言を聞いた結生はふむふむと頷いた後、自分の中で線が繋がっていく感覚を覚える。

 

「お兄ちゃん! 確認したいんだけど!! こっちではその人のシャドウが変質したのがペルソナなんだよね!?」

 

「何言ってるの? ペルソナもシャドウも元は同一、己の意思で制御できるかどうかの違いでしょ?」

 

「そういう問題じゃないの!!!」

 

結生は命目掛けて怒鳴り、真に向けて「明日、放課後でいいから急いで皆を集めて!!」と怒鳴るように言うと電話を切る。

 

「ど、どうしたの、結生ちゃん?」

 

「……」

 

結生の焦った様子にゆかりがぽかんとする。それに対し結生は睨むような目つきで命とゆかりを見た。

 

「久保美津雄が()()()()()()証拠を見つけた!」

 

 

 

 

 

「結生大先輩、どういう事ッスか!?」

 

4月15日放課後、自称特別捜査隊全員がフードコートに集合した後、完二が一番初めに叫ぶ。それに対し結生は例のファイルをばんっとテーブルに叩きつけた。

 

「うえっ!? これ俺らのシャドウの絵!?」

「わー! ちょ、ちょっと見ないでー!!」

 

陽介や千枝達は慌て始めるが、結生はそれらを気にせず美津雄のシャドウのページを開いた。

 

「皆に確認取るんだけど……皆は最初はテレビに手を突っ込めなかったんだよね?」

 

「え? そ、そりゃーもちろん」

 

結生の言葉に千枝がこくこくと頷く。次に「で、ペルソナに目覚めた後、突っ込めるようになった」という確認にも彼らは首肯。

 

「つまり、ペルソナに目覚めた事で、テレビに入れる能力を得たとしたら……これはおかしいのよ」

 

「え、と?」

 

結生の言葉にりせが不思議そうな顔を向ける。

 

「……そうか!」

 

一番に真が気づいた。

 

「思い出せ、皆! 俺と命さん達先輩を除いて、皆はシャドウを受け入れたことでペルソナを手に入れたんだ!」

 

「お、おう……って、そういうことか!」

「あっ!」

 

真の言葉を聞いて陽介と雪子が気づいた。

 

「え、ど、どういうことッスか?」

 

「私達はシャドウを受け入れ、シャドウがペルソナになったからテレビに入れるようになった……だけど――」

「――久保はテレビの中でシャドウの自分を出していた……つまり逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

雪子と陽介の説明を受けた千枝が「ちょっ」と声を出す。

 

「そ、それっておかしいじゃん!? じゃあなんで久保はテレビに人を放り込めたの!?」

 

千枝の言葉に真は拳を握りしめる。

 

「……久保はテレビに人を放り込んで殺していた犯人じゃない。諸岡教諭を襲い、テレビの中で殺されたように装った模倣犯だってことだ」

 

「……ってこたぁ……つまり……」

 

真の静かな言葉を聞いた完二が顔を青くし、陽介も唇を震わせながら声を出す。

 

「……真犯人は……テレビに人を放り込んでいた奴は、捕まってねえ!」

 

陽介が叫ぶのと完二が座っていた椅子をガタンという音を立て蹴り飛ばす勢いで立ち上がったのは同時だった。

 

「完二君!?」

「ど、どうしたの!?」

 

「決まってんだろ! このままじゃ直斗の奴が危ねえ!!」

 

雪子と千枝が叫び、完二は怒鳴る勢いでそう言い残すとフードコートを飛び出した。

 

「ちょ、ちょっと完二! あんた直斗君の家の住所とか知ってんの!? ちょっと落ち着きなさいって!」

 

「誰か、白鐘の家の住所知ってる奴はいるか!?」

 

りせが大慌てで後を追い、真が陽介達に確認を取るが、そもそも直斗とそこまで深い付き合いをしていたわけでもないため全員首を横に振る。

 

「っ、こうなったら人海戦術だ!」

 

真も止むを得ないと、全員バラバラに町を探し回って直斗の無事を確認するしかないと決めて指示。全員頷いてフードコートを飛び出した。

それから町中を走り回るが直斗の姿は確認できず、直斗の家がどこにあるのかも分からないまま夕暮れになってしまい、一行は一度ジュネス前に集合していた。

 

「はあ、はあ……ちくしょう!」

 

一番必死に探し回ったのだろう。体力自慢の完二が息を切らしており、悔しそうに声を荒げる。命が顔を上げ、暮れ始めている日を見る。

 

「もう暗くなる……今日は解散しよう」

 

「っ、大先輩! このままじゃ直斗が!!」

 

命の言葉に完二が必死の表情で叫び、彼に掴みかかろうとする。

 

「わわ、落ち着いてよえーと、完二君!」

 

その前に結生が立ちはだかり、完二を落ち着かそうと試みる。

 

「結生大先輩! けど、このままじゃ直斗が“あっち”に放り込まれて……」

 

「でも、今直斗君がどこいるのかも分かんないんだから……」

 

「けどじっとしてるわけにゃ……」

 

完全に平常心を失っている完二を結生は落ち着かせようとするが彼は聞く耳持たず。結生は呆れた様子のため息をついた。

 

「ごめんね」

 

「へ? ぐ……」

 

いきなり出てきた謝罪の言葉に完二が呆けた声を出した直後、打撃音が聞こえたと思うと彼は苦しげな声を出して倒れ込む。その腹には結生の右拳が突き刺さっていた。

 

「真君、悪いけど完二君を送ってってくれない? 結構本気で殴ったからしばらく目を覚まさないと思う」

 

「は、はい……」

 

結生の言葉に真は頬を引きつかせながら頷き、気絶している完二を結生から受け取る。

 

「う、嘘だろ? 完二が一撃でのびてやがる……」

 

「結生先輩、腕っぷしは命先輩と同等だからな」

 

「いやいや~、流石にお兄ちゃんには勝てないって」

 

陽介は疲れていたとはいえ完二を腹パン一発で気絶させた結生に戦慄、真がそう言うと結生はけらけらと笑いながらそう返してみせた。

 

「……直斗が心配だが、今日はこれで解散。マヨナカテレビを確認しよう……話はそれからだ」

 

真がこれからの行動方針を決め、通達。気絶している完二以外の全員が了承してから解散となった。

そして時間が過ぎて夜。真は外で雨が降っているのを確認してからカーテンを締めテレビの前に立つ。そして少し待つと電源の点いていないテレビが映り始めた。

 

「鮮明な映像、やっぱりか……」

 

犯人は捕まった、事件は解決した。と油断していたため今回もまた被害を未然に防ぐことが出来なかった。その事に真は悔しそうな表情を見せる。

 

[皆さん今晩は、“探偵王子”こと、白鐘直斗です]

 

自身の身体より大きな白衣に身を包んだ直斗の姿がマヨナカテレビに登場する。

 

[“世紀の大実験・ゲノムプロジェクト”へようこそ]

 

直斗が挨拶をしたところでカメラが直斗を右側から移すアングルに変わる。が、直斗はくるりと身体を回転させ、カメラの方を向いた。

 

[僕がこれから受けるのは、人体改造手術……禁じられた、素晴らしき秘宝!]

 

興奮したかのように直斗は続ける。今から自分が受ける人体改造手術、それによって自分が全く別の人生を歩み始める。新たな旅立ち、新たな誕生の瞬間。そんな記念日を皆と体験したい。と直斗は語った。

 

[どうぞ、お楽しみにッ!!]

 

そう締めたところでマヨナカテレビは消えてしまった。そしてその直後携帯電話の着信音が聞こえ出し、真は携帯電話の液晶画面に表示される相手の名前を確認する。

 

「完二」

 

どうやらマヨナカテレビが始まる前に目を覚まし、マヨナカテレビを確認したらしい。

 

[あ、もしもし先輩スか!? いま、な、直斗の野郎がっ!! あいつ、やっぱり……クソッ! 俺が、犯人を捕まえたなんていい気になってなけりゃっ!!]

 

「落ち着け」

 

完二は動揺と同時に直斗を守れなかった自分の不甲斐なさを恥じており、真が彼を落ち着けと諭す。

 

[あ、す、すんません……]

 

「明日皆で話そう」

 

[そ、そっスね……くそ、でも、囮になっといてテメェが拉致られてりゃ世話ねえだろが……クソッ! イライラすんな、あいつ!]

 

完二は動揺しつつも何故自分がここまで動揺しているのか分かっていない様子で言葉を吐いている。

 

[とにかく、明日すぐメンツ揃えましょう!]

 

その言葉を最後に完二は電話を切り、真も電話を切ると明日に備えて眠りについたのであった。




《後書き》
お久しぶりです、カイナです。約二か月ぶりですね。
今回はゆかりと結生の加入&直斗編のスタート。推理シーンを色々とオリジナルで挟んでみました。結生の推理に関しては「そういえば、美津雄ってシャドウを出してる=ペルソナを持ってない=テレビに入れないっていう方程式が成り立つんじゃね?」的な疑問をふと思ったのでそれを掘り下げてみました。
さて次回はどうするかな……まあそこは後で考えるか。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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