ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四十二話 修学旅行(後編)

八十神高校修学旅行二日目。真達は命の案内でかつて彼が共に戦った仲間達の元へと案内されていた。

 

「……で、さ」

 

陽介がぼやく。

 

「きゃー! ねえねえこれ! とっても綺麗!」

「うわーほんとだ! それにこっちの腕輪かっこいー!」

「わー、お守りもすごいたくさん……」

 

りせ、千枝、雪子がはしゃいでいるここはアクセサリーショップの“Be(ビー) blue(ブルー) V(ヴィー)”だ。

 

「いやー。今から会いにいく子は普通に学生やってるからね。放課後まで待たなきゃ」

 

陽介の呆れた様子に命はあははと笑っていた。

 

「……ま、ならしょうがないっすよね」

 

その言葉を聞いて納得したのか陽介は店内を見回す。アクセサリーショップで思い出の品を買おうという学生は多いらしく、店員達も見慣れぬ学生に対してすらすらと説明、接客をしている。中には陳列している商品を見ているだけの客も多いが、それらが何か興味を持った様子を見せるとすぐさま接客に入っていた。

 

「へー……なるほど。この接客術は見習いてえな……商品の陳列も、なるほどなー……」

 

ジュネスでバイトしている癖でそういう目で見てしまう陽介は思わずそう呟いてしまった後「なんで修学旅行でまで仕事の事考えてんだ俺」と自らの職業病に頭を抱えていた。

それから古美術眞宵堂等他の施設も回りつつショッピングを進めていき、時間は普通の学校ならば放課後という時間帯になる。命も時間を確認して「そろそろいいかな」と呟くと彼らの方を振り向く。

 

「さて、じゃあ改めて。行こうか」

 

そう言って命が彼らを先導してやってくるのは、月光館学園の中等部だ。結生が中等部の受付に行って見学の許可を取り――受付の人と顔見知りなのか談笑しながらあっさり取っていた――グラウンドにやってくる。

 

「パスパス!」

 

「回り込めー!」

 

「足を止めるなー!」

 

わーわーと騒がしく声が飛び交い、グラウンドの外からキャーキャーと黄色い声が飛び交っている。白と黒のボールを腕を使わずに相手のゴールに叩き込むスポーツ。サッカーだ。

 

「ふぅっ!!」

 

先頭を走る、茶色い髪の少年のヘディングシュートが決まり、それと共に声援が一段と大きくなる。そしてキャプテンだろうか、一際体格の大きい男子が時計を確認した後「よし、キリがいいし一旦休憩!」と叫ぶと部員達はぞろぞろと散らばっていく。汗を拭きにタオルを取りに行ったり、土汚れを落としに水道に行ったり、スポーツドリンクで水分補給を行なったりと様々だ。

 

「おーい! (ケン)くーん!!」

 

「わっ!?」

 

結生の呼びかけに驚いたように叫ぶのはさっきヘディングシュートを決めた少年。彼はきょろきょろと辺りを見回した後、手をぶんぶん振っている結生に気づくと彼女に駆け寄った。

 

「結生さん、どうしてここに!? って命さん! あなた行方不明になったって結生さんが――」

「あ、うん分かってる。昨日大分泣かれたからもう勘弁して……」

 

少年は驚いた様子で結生に問いかけた後、その隣に立つ命に気づいて事情を知っているのか怒った様子を見せる。が、命が苦笑交じりに返し、少年はため息をついて「分かりました」と言った後、彼らの後ろにいる真達に気づく。

 

「えっと、それでこちらの方々は?」

 

「彼らは修学旅行でここに来た八十神高校っていう学校の生徒。この椎宮真君は月光館学園から転校していって、皆はその友達だから僕達が案内してるんだ」

 

「皆、この子は天田乾君。まあ私にとっては弟分ってとこかな」

 

少年――天田乾の質問に命が答え、結生が天田を紹介する。

 

「椎宮……あ、あなたが」

「あぁ、あなたが天田」

 

と、天田と真が互いに何かを感じ取り、右手を差し出す。

 

「「初めまして、先輩から話は常々」」

 

そして握手をしながら初対面の挨拶を行なった。

 

「あ、あの、命さん……この子が、その……ペルソナ使い?」

 

「うん。強いよ」

 

千枝が命の近くによってこそこそと耳打ちし、この子がペルソナ使いなのかと問う。それを命は不敵に笑って肯定した。

 

「えーっとごめんね……君、いくつなの?」

 

「え? 僕ですか? 今年この月光館学園中等部に入学しました」

 

「ってこたぁ、オメエ一年ボウズかよ!?」

 

雪子の質問に天田は素直に答え、それを聞いた完二が驚愕の声を上げる。命達の影時間での戦いは二年前、つまりその頃の天田はまだ小学五年生で、そんな幼い時にシャドウとの戦いをしていたという事になる。が、そういう背景を彼らが知っていると知らない天田は完二のリアクションに首を傾げていた。

 

「そ、それより天田君、サッカー上手になったね!」

 

「あ、はい。頑張れば今度の試合、控えに入れるかもしれないって監督やキャプテンにも褒められてます!」

 

誤魔化すゆかりに天田も嬉しそうに笑っていた。

 

「それで、これから今度の試合のレギュラーを決める参考にするっていう紅白戦をするんですけど……」

 

次に天田は照れた様子で結生の方を見る。

 

「あの、それに僕達のチームが勝ったら、その……」

 

天田は頬を赤く染めながらもじもじとした様子を結生に見せる。

 

「ぼ、僕と付き合ってください!!!」

 

そしてキラキラとしたオーラを背負って勢いよく結生に告白。後ろの女性陣から「キャー!」という黄色い声が響く。が、その中で唯一ゆかりだけは気のせいか笑みを引きつかせていた。

 

「うん、いいよ」

 

結生もそれを微笑み承諾、女性陣がまた「キャー!」と叫ぶ。

 

「っていうか、買い物くらいなら言われなくたって付き合うよ。あ、なんなら皆で一緒に食事もどう? レギュラー入り出来そうならちょっと早目のお祝い、無理そうだったら残念会って」

 

が、結生は純粋な笑顔を浮かべながらそう続けた。その言葉を受けた天田の表情が引きつり、やがて「あはははは」と笑い始める。

 

「そ、そうですね……えーっとその……まあ、ゆっくり見て行ってください……」

 

天田はそう言ってグラウンドに戻っていく。気のせいか背負うオーラがどんよりしていた。

 

「ふう、乾君もまだまだ子供だね。まあ、買い物に付き合ってあげるのもお姉ちゃんの務めだね」

 

得意気にそういう結生の後ろで千枝はゆかりをつんつんとつついた。

 

「あのー……もしかして……」

 

「皆まで言わなくていいわ……私が知ってるだけでもこの子、告白を同じような感じで全部振ってるからさ……多分、本人告白とも受け取ってないわ」

 

千枝の言葉を受けたゆかりがこめかみに指を当てて頭痛を堪える様子でぼやく。

 

「……雪子がもう一人いる……」

 

その言葉を受けた千枝が呆れた様子でそう呟いた。

 

 

 

それから時間が過ぎ、紅白戦が終了した後、天田は「ミーティングとかあるし、この約束はなかったことにしてください」とやはりどんよりした様子で結生に言い聞かせ、命達は月光館学園中等部を後にする。

 

「次はどこに行くんすか?」

 

「そうだね……まあ、ついて来てよ」

 

陽介の問いかけに命はそう返すだけ。それから彼らがやってきたのは大きな清潔感のある建物だ。

 

「……病院?」

 

雪子が呟く。

 

「そう。僕が知る、確実にポートアイランドに残っている人がいる場所だよ」

 

命はそう言って病院に入り、受付に行く。

 

「すみません、荒垣真次郎さんのお見舞いに来たんですが?」

 

「ああ、お久しぶりです。荒垣さんならさっきリハビリが終了したはずなので、多分病室ですよ」

 

「ありがとうございます」

 

命と受付の女性はそう話していた。

 

「リハビリ?……」

 

千枝が受付の女性が言っていた言葉を繰り返す。が、命が「行くよ」と言って歩き出すと慌てて真達もその後を追った。そして命、結生、ゆかりが慣れた足取りで入院患者のいる棟に行っている途中だった。

 

「あっ、命君に結生ちゃん、ゆかりちゃん!」

 

「あ、風花! 風花も来てたんだ!」

 

そんな女の人の声が聞こえてくる。その声の相手にゆかりも笑って返す。

 

「よお」

 

そしてその少女が押している車椅子には一人の青年が入院服を着て座っていた。

 

「うお、こえっ」

 

入院患者らしいのだがその鋭い目つきや威圧感に思わず陽介が声を漏らす。完二も過去の経験か「こいつ、ただもんじゃねえ」と呟いていた。

 

「ん? テメエは椎宮……確か転校したって聞いたはずなんだが?」

 

「お久しぶりです、荒垣先輩。偶然にも転校先の学校の修学旅行先がここだったんですよ」

 

「そりゃ運がねえな」

 

荒垣と呼ばれた青年と真は話し合う。

 

「って事は、後ろの連中はその学校の友達ってとこか?」

 

「ええ」

 

「そうなんだ! 私、山岸風花。よろしくね?」

 

荒垣の質問を真が肯定、風花と呼ばれた女性がほんわかと微笑みながら自己紹介をした。

 

「……荒垣真次郎だ。まあ、命達とはちっとした付き合いでな……今は二年前に事故ったのが原因で入院してる」

 

続けて荒垣も自己紹介をした。

 

「二年前……」

 

陽介が何かを察したような声を漏らす。が、荒垣が「あん?」と呟くと「なんでもないっす」と誤魔化した。

 

「身体の調子はどうですか?」

 

「リハビリの経過はまあ順調だ……退院はまだ難しいが、もうしばらくすりゃ自力で歩ける程度には回復するだろうって医者にも言われている……普通なら間違いなく死んでたって考えりゃ儲けもんにも程があるな」

 

命の質問に荒垣はクククと笑いながら返す。

 

「し、死んでたって……」

 

「……あぁ、悪い。ものの例えだ、あまり気にすんな」

 

死、という単語に雪子が怯えたように口走ると荒垣は口に手をやって一言謝った後、ものの例えだと言っておく。

 

「でもよかったです、荒垣先輩がちゃんと動けるようになって!」

 

と、結生がにぱっと輝くような笑顔を見せる。

 

「だって、荒垣先輩が退院したらまた美味しい料理が食べれるし!」

 

そしてぺろっと舌なめずりしながらそう続け、それを聞いた風花が苦笑。荒垣も頭を抱えて呆れたようにため息をつく。

 

「この珍獣に餌付けしちまったのは失敗だったか……」

 

「あ、あはは……結生ちゃん、よかったら今度私がご馳走するから……これでも荒垣先輩に教わって、結構上手になったんだよ!」

 

荒垣の言葉に風花が苦笑交じりに、しかし後半自信満々に言う。それに結生が「ほんと!?」と目を輝かせた。

 

「やめんか!」

 

が、ゆかりがぽかっと結生に拳骨を入れた。

 

「というか、荒垣先輩に今料理教わってるの?」

 

「あ、うん。と言っても、荒垣先輩にレシピを教わって、それを元に私が料理を作って持ってきて荒垣先輩に食べてもらって、評価を貰ったりどこを直せばいいのか教わったりしてるって感じかな?」

 

結生を叱った後にゆかりはそういえばと風花に尋ね、風花はてへへと照れ笑いをしながらそう説明。「最近は看護師さんや他のお見舞い客にも有名になっちゃって」と続け、さらに「そういえば荒垣先輩、さっきリハビリ中にも看護師さんとお話してましたけど」とジト目で言うと荒垣は風花から目を背けつつ、「おかげでゆっくりできやしねえ」と誤魔化すようにぼやく。

 

「へぇ……もう花嫁修行はばっちりですね、荒垣先輩」

 

「「!!??」」

 

そこに命が悪戯っぽい微笑みで爆弾投下。その言葉を聞いた荒垣と風花が顔を真っ赤に染め上げる。

 

「な、何馬鹿な事言ってんだテメエ!?」

 

「あ、荒垣先輩無茶はダメです! み、命君もからかわないで!」

 

思わず立ち上がろうとする荒垣を慌てて風花が止め、真っ赤な顔で命を叱る。それに対する命はまだ悪戯っぽく笑っていた。それから風花が車椅子を押して荒垣を病室に連れて行き、命達もその後をついて行く。

 

「……はぁ。まだダメか……荒垣先輩もつまんない意地張ってないで素直に受け止めればいいのに」

 

前の二人に聞こえないようにぼそっと呟く命。それに千枝達が「えっ」と声を漏らす。

 

「……あまり言えないんだけどね。荒垣先輩、知り合いにちょっとした負い目があるの……それこそ、あの子に殺される事を覚悟していたくらいに。この入院の原因も、その子を命懸けで守ったためだし」

 

ゆかりがぼそぼそと説明、命もやれやれと肩をすくめた。

 

「その子とももうとっくに和解してるくせにさ、意地を張り過ぎなんだよ」

 

「しかもさ、ここ退院したら即シャドウワーカーに入隊するとか言ってるんだよ。美鶴先輩に無理言ってさ、美鶴先輩はこれも元はといえば自分達の責任だから~とかでここの入院費も自分でもってるんだけど、それを働いて返すとか息巻いちゃってさー」

 

「……荒垣先輩、不器用にも程があんだろ」

 

「それで、その贖罪に風花を巻き込むわけにはいかないっていう感じかな? お互い両想いなのは間違いないのに……」

 

「うんうん。それで文句言うような奴がいるなら全員私がぶん殴ってやるよ」

 

命、結生、ゆかりが前を行く二人に聞こえないようぼそぼそと話し合う。命はさらに「こうなりゃ風花だけを焚き付けた方が早いか」と呟いていた。

それから病室に戻り、荒垣がベッドに戻ってから命達三人は「お見舞いの品買ってきまーす」とか言いながら風花を連れて病室を出て行く。真達自称特別捜査隊メンバーが残された。

 

「……ったく、あいつら今度は何企んでやがる」

 

荒垣が頬杖をつきながらぼそりと呟いた。が、一拍置いて「まあいい」とも呟いた。

 

「な、なんかすみません、荒垣先輩……」

 

「別にいい……あいつらが妙なのは今に始まった事じゃねえ」

 

真が苦笑交じりに謝罪すると荒垣は頬杖をついたままそう返す。心なしか頬の端が緩んでいた。

 

「ところでだ」

 

と、荒垣は突如真達を見据え、言葉を紡ぐ。

 

「お前ら、今とんでもねえ修羅場をくぐってるだろ?」

 

『!?』

 

単刀直入な発言に千枝達が驚いた反応を見せ、どうにか無表情を努めていた真を見て荒垣は続ける。

 

「お前らの目を見れば分かる……昔のアキや、あいつらにそっくりだからな。いや、命のやつも、あの頃と同じ目をしていたからな」

 

そこまで言って荒垣はふぅと短く息をつく。

 

「とりあえず、一つだけ言っておく」

 

その瞬間、荒垣の目が鋭く研ぎ澄まされた。

 

「命から絶対に目を離すな。あのバカは誰かを守る、なんていう大義名分のために自分が死にかけるようなバカを平然をやらかすバカだからな」

 

「……ええ。先輩は俺達に無茶させないくせに自分はいとも簡単に無茶をしますから」

 

荒垣の言葉に対し、既にそういう前例を見ている真は首肯で返した。

それから少し時間が経ってから命達はお見舞いの品を買って戻ってきた後、結生とゆかりが久しぶりに会った風花ともう少し話したいと言い出し、命もそれに同席するということでその場で一時解散。真達は夕食をどうしようかと話し合いながら病院を後にした。その後は真の案内でポートアイランド内を見て回った後、日が暮れ始めると案内役をりせが引継ぎ、彼らをある場所へと連れてきていた。

 

「おーすげぇ、これがクラブか……」

 

りせに連れてこられた建物に入った完二が驚いたように呟く。派手目な内装にキラキラと輝くライト、ノリの良い曲に乗って歌う人や踊る人、所謂クラブだ。千枝が「テンションあがってきたー!」と両腕を掲げ、雪子も「こういうとこ、地元に無いもんね」と興味を見せている。

 

「いいんですか? 高校生がこんな所に来て」

 

『!』

 

そこに突然かけられる声、それに真達が反応して声の方を向き、完二だけは慌てた様子で顔を逸らす。そこに立っていたのは件の探偵――白鐘直斗だ。

 

「いいんですかって、お前のが先にいただろ!」

 

「問題が起きないか、確認に来ただけです」

 

陽介の指摘に直斗はさらりとそう言い、「見たところ客層は良さそうだし、問題は起きなそうですけどね」と続けると出入り口の方に歩いていく。

 

「え、帰っちゃうの?」

「どう? 一緒に」

 

千枝が驚いたように言い、雪子が一緒にどうかなと尋ねる。

 

「一緒にって……僕とですか?」

 

雪子からの誘いに直斗が驚いたように聞き返すと、雪子も「この間はゆっくり話せなかったでしょ?」と微笑んで問いかけ、それに対して直斗は頬を赤らめながら「この間は用事があっただけです」と返す。

 

「なら、今は流石に暇だろ?」

「私、話したいと思ってたんだ。同じ歳で“探偵”なんて、興味あるもん」

 

それに対し真が言うと、りせも笑いながらそう続ける。そこまで誘われると断る口実もないためか、直斗は「構わないですけど」と参加を了承した。

 

「なんだー? 微妙に顔赤くないかー?」

 

「あ、赤くないです!」

 

顔を赤らめている直斗を陽介がからかい、直斗が言い返しているとりせが「ちょっと待ってて」と皆に声をかける。

 

「上、貸し切るから」

 

「おう」

 

りせのあまりにも自然な流れでの言葉に陽介も頷く。

 

「……貸し切る!?」

 

その直後りせの言葉の意味を理解し、素っ頓狂な声を出した。

 

「うん。大丈夫、多分顔利くから」

 

しれっとそう言い残してりせは従業員のいる方に歩いていく。それから従業員を伴って戻ってきたりせは従業員の案内を受け皆を連れて二階に行き、従業員の運んできたドリンクで乾杯をする。

 

「けど、大丈夫なの? こんなとこ高いんじゃ……」

 

千枝が心配そうな表情で尋ねるが、対するりせは平気そうな顔で「平気平気」と言っていた。曰く、一昨年このクラブでシークレットライブをしていた時、途中で電源が落ちて中止になってしまったらしい。その時の借りを返したい、ということでむしろ今日はタダでもいいという事だ。

 

「そういう事なら、もっと頼んじゃおっと!」

 

「よぉぉし、クマキュンもエンリョしにゃい!」

 

お金の心配がなくなった千枝は喜んでドリンクの追加注文を決め、クマが妙な言葉遣いで言うと完二がそれにツッコミを入れる。

 

「ちゅめたいなーん、カンジは……」

 

クマは妙な言葉遣いのままでそう言った後、「カンジ、カンジ……イイカンジ! なんつって!」とか言いながらブフーッと吹き出す。

 

「なんで一人でそんなフルスロットルなんだよ……」

 

陽介も呆れ気味にツッコミを入れていた。

 

「……」

 

と、雪子の様子も妙に変になっていた。

 

「いいカンジ……ぷっ、ぶふーっ!」

 

そしていきなり吹き出して爆笑し始め、完二が「この人もいつも以上にユルくなってんぞ……」と声を漏らす。

 

「……まさか、ここのドリンク」

 

真がドリンクにアルコールでも入っているのではないかと疑い、ドリンクを持って鼻を近づけアルコールの匂いがしないかと匂いを嗅ぐ。

 

「わ、私、ソフトドリンクって言ったよ!? ちゃんとノンアルコールだって!……言ったもん。ちゃんと言ったもーん!!」

 

と、ドリンクを注文したりせがちゃんとノンアルコールのソフトドリンクを注文したと訴え、癇癪を起こす。さらには「信じてくれるよねーせんぱーい!」とか言いながら真に抱き付き、真もドリンクを零さないよう慌ててテーブルの上に戻していた。

 

「……これ、まさか本当に酒なんスか? けどそれにしちゃあ匂いが……」

 

完二も酒の疑いがあるソフトドリンクの匂いを嗅ぐがアルコールの匂いはしないのか首を捻るのみ。と、りせが突然真から離れ、立ち上がった。

 

「王様ゲエーム!」

 

そしていきなり宣言した。

 

「オトナは、こういう場合、王様ゲームするの。法律で決まってるの……ヒック」

 

赤い顔にヒックなどという酔っ払いみたいな台詞を言いながらりせはそう言い出す。しかもテレビの関係者は自分達で私に“りせちー”なんてロリっぽいキャラ付けしたくせに子供、子供、と言っている。さらには打ち入りも打ち上げも私が帰ってからの方が盛り上がっているのは知っているという、色々とまずいカミングアウトを酔っ払いがくだをまくような勢いでし始めていた。

 

「カァーンジ! ワリバシ、用意!」

 

「うぇ!? んで俺が……」

 

「王様の言う事は絶対よ! 駆け足!」

 

「は、始まってんの!?」

 

酔っ払いりせの命令により、なし崩し的に王様ゲームが開始される事となった。

 

「あ、あのぉ……王様ゲームって……どんなんだっけ?」

 

「えっと~、当たりを引いたら王様で~、他のクジには番号があって~……王様は~、何番と何番は何しろ~って命令できちゃうの。でも誰が何番かは~、命令決まるまでヒミツ!」

 

千枝のルール確認に対しこっちも呂律が怪しくなり、妙に身体が左右にゆらゆら揺れている雪子が間延びした口調で説明、りせも「さっすが先輩、話はやーい」と合いの手を入れる。

 

「な、なんで知ってんだ?……」

 

「家が旅館だからじゃね?」

 

千枝の驚きの言葉に対して陽介がぼやいた。そしてりせが「ほら引いた引いた!」と言ってクジである割り箸を入れたコップを突き出し、順番にクジを引いていく。

 

(……6番か)

 

真は自分のクジに書かれている番号を確認、心中で呟く。王様ではないらしい。

 

「はい、じゃあ~、王様だ~れだ?」

 

「クマの赤! 赤! クマ、王様!?」

 

りせの合図にクマが赤い割り箸を見せながらはしゃぐ。陽介が「出からやっべー」と汗を流した。

 

「王の名において命ずる!! すみやかに、王様にチッス!!」

 

初っ端からセクハラまがいの命令に千枝が「チッス!?」と叫ぶ。

 

「おう、神よ……女子をお願いします3番!!」

 

「ウギャー!!」

 

クマの言葉に悲鳴を上げたのは完二。それを受けたクマが慌てて「やっぱ2番」と言い直すと陽介が自分の割り箸をちらりと見た後、顔色を変えて「変えんな王様!」とツッコミを入れる。

 

「チッスチッス~!!」

 

雪子まで囃し立て始めた。

 

「カ、カンジ……やっぱりクマの身体目当てだったのね!」

 

クマは恥ずかしそうにそう言い、チラッチラッと上目遣いで完二を見る。

 

「おっけ、クマの純情あげちゃう!!」

 

そう言ってクマは突然完二を押し倒す勢いで飛びかかった。

 

「うわ、イテッ、やめろ! テンメ、シメッぞコラ!!」

 

完二は声を荒げた後、真達に助けを求める。しかし真達は何も出来ず、目を逸らしたのであった。

 

「さあ……一回戦で早くも脱落者二人よ」

 

「え、そういうゲーム?」

 

りせの言葉に千枝がツッコミを入れるが、りせは構わず「続けて第二回せーん!」と宣言。真達は再び割り箸クジを引いていく。

 

「王様だ~れだ?」

 

りせの合図で真は割り箸を見る。と、それには赤い印がついており、真はその赤い印を見せながら手を挙げる。

 

「よかった……まともな命令で済みそう……」

 

常識人である真が王様と知った千枝はほっと安堵の息をつき、陽介も「助かったぜ、相棒」とサムズアップを見せる。

 

「ダメよ~! チッスの次はチッスよりキワドくないと~」

 

が、雪子が爆弾を投下した。「く~きよめよ~」とか言いながらきゃははははと高笑いしている。

 

「じゃ、膝枕」

 

続けてりせが爆弾投下。しかも雪子も一緒に二人で「膝に座る」だの「いっそ抱きつく」だの「時代は肩車」だの言い始めた。

 

「ほら王様!」

 

「あ、えーっと……」

 

「誰? 何!?」

 

雪子とりせが二人がかりで真っ赤な顔で迫り、真は汗をだらだらと流しながら考える。

 

「い、一番が膝枕!」

 

そして咄嗟に思い浮かんだ一番と、最初に出た膝枕という命令が口に出てしまう。

 

「ハイ、一番! 一番!」

 

と、りせが一番と書かれた割り箸を握った右手を掲げてうっしゃーとガッツポーズを取り、ふらふらとした千鳥足で真の横に移動すると何故か彼の膝に頭を乗せる。

 

「え、王様の膝にって事!?」

 

一般的にこの場合は真がりせの膝に膝枕をしてもらうはずだがあべこべな結果に陽介が思わずツッコミを入れるのであった。

 

「えっへへー。先輩のヒザ、あったかくて気持ちい~」

 

りせは安心しきった様子で横になっていた。

 

「……ど、どうすればいい?」

 

思わず彼女の頭をよしよしと撫でながら、真は心底困った様子で陽介に問いかける。

 

「……放っとけ」

 

その言葉に陽介はふるふると首を横に振ってそう返した。

 

「あはははは、次は私、王様~! 女王様~!」

 

と、雪子が突然言い出し、陽介が「いやクジ引けよ!」とツッコミを入れる。

 

「よーし、でわぁ~、とても口では言えないハズカシイ~エピソード、語ってもらおー!」

 

しかし雪子は聞く耳持たず命令を進め、さらにはその命令の対象を「直斗君!」と名前でご指名する。

 

「何でもアリだな……無視していーぞ、直斗」

 

呆れきった陽介も直斗に無視していいぞと言っておく。

 

「……いえ、いいですよ」

 

が、直斗は意外にも彼女の命令を承諾した。が、続けて「その代わり」と言って自称特別捜査隊メンバーを見回す。

 

「僕が話したら、皆さんにも“あること”を話してもらいます」

 

「い~わよ~」

 

直斗の言葉を雪子も承諾してしまった。

 

「恥ずかしい過去なんて、思い当たりませんが……とりあえず、生まれの話でいいですか?」

 

直斗はそう一拍置いて話し始める。こんな機会でもないと話す事もないでしょうし、とクールに言う直斗に陽介が「なんという急速冷凍」と一気に空気が冷めていく感覚を感じる。

 

「白鐘の家は、代々ずっと探偵の家系で、時の警察組織に力を貸してきました……」

 

それから直斗は話し始める。その入りに千枝が「なんか金田一ナントカみたい」と呟く。科学捜査のなかった昔は、専門知識に基づいて助言できる人材は今よりも貴重であり、それゆえに祖父は警察に太いパイプを持っていて若い自分の面倒を色々と見てくれている。しかし最近の捜査は医学・科学に通じてないと話にならないため、自分ももっと勉強しなければならない。と直斗は話す。

 

「そりゃまた、大変だな」

 

陽介はふんふんと頷くが、そこで直斗が口を閉ざすと「終わり? オチは?」と慌てたように問い返す。しかし直斗はやや首を傾げながら「そういうのを期待されても」と淡々と返した。

 

「恥っずかし~。ナオト君、恥っずかし~」

 

しかし雪子は何が面白いのか笑って手を叩いており、あまりの温度差に陽介も「帰りてえ」とぼやいた。

 

「はふぅ……眠い……」

 

しかも未だ真の膝枕を受けているりせはそのまま眠りかけていた。が、話し終えた直斗は気にせずに「次は皆さんの番ですよ」と話を振る。

 

「答えて貰いましょう。皆さんが本当は、事件とどう関わっているのか」

 

「お前な……空気読めな過ぎて逆にオモシロイよ……事件つってもなあ、もう解決して――」

 

射抜くような視線で質問してくる直斗に、陽介が呆れた様子でツッコミを入れ、話を逸らそうとする。

 

「えっと~、誘拐された人を~、テレビに入って助けに行きま~す!」

 

しかし雪子がその陽介の努力を打ち砕き、「うようよしてるシャドウたちを~、ペルソナで“ペルソナァ~!”って……」と話し始め、陽介が「ばかおまっ!」と大慌てで彼女を止めようとする。

 

「……ハァ。僕をからかってます?」

 

が、まあ当然だが直斗は信じておらず、呆れた視線を向けるのみ。

 

「ホントらもんっ!」

「へぐっ!?」

 

と、ペルソナを信じてない口調に反応したのかりせは起き上がり、その時の流れで振り上げた拳が真の顎にヒットする。

 

「ペルソナーっ!!」

 

そして腕を振り上げてそう叫んだ後、今度はそのまま座り込んですぅすぅと寝息を立て船をこぎ始める。

 

「あーもー! この酔っ払いコンビは!!」

 

千枝が怒鳴り、直斗は呆れた様子で「話す気がないのは分かりました」と返した後、ドリンクを見る。

 

「大体、何にそんなに酔っ払ってるんですか? コレ、お酒じゃないですよ?」

 

「まぁったまた~」

 

直斗の指摘を雪子が笑うが、直斗は冷静に「飲酒運転への抗議があり、ここは去年からアルコールを扱っていません」とこの店に来た時に従業員から確認した事を彼らに説明する。

 

「え……みんなして、“場酔い”?」

 

「いいじゃらいろ、どっちれも……うふー、なんか気持ちよくらってきた……おやすみらさ~い」

 

汗を一筋流して呟く千枝に雪子は笑ってそう返し、彼女も眠りについてしまう。

 

「ちょっ、先輩!? おいおい二人も潰れてどやって帰んだよ!?」

 

「ハァ……なんか俺、色々頭痛してきた……こりゃ二日酔いだな……」

 

潰れてしまった雪子に完二が叫び、陽介はこの状況の頭痛を酔っ払いという意味合いで上手く表現、場酔いしているクマの呂律の回ってない「朝まで飲む」発言にりせも「のぞむところら~」と寝言で返す。

 

「だから……お酒じゃないって言ってんでしょうが! バカ軍団ですか!?」

 

直斗の呆れ気味のツッコミがクラブ二階に響き渡った。

そんな感じで二人も場酔いで潰れてしまったためお開きになり、眠ってしまった雪子とりせ、場酔い中のクマはそれぞれ雪子は陽介と千枝が肩を貸し、りせは真がおぶり、クマは完二が手を引いてホテルまで戻る。幸いにも教師に見つからずに部屋に戻る事が出来、熟睡しているりせは幸い同室が真の部活仲間である綾音だったため「はしゃぎ過ぎて疲れたみたいだ」と適当に理由をでっち上げてベッドに寝かせていた。

 

そんなこんなが起きた翌日。真達は八十稲羽に帰る集合時間前に、りせの強い希望によって巌戸台駅前商店街にあるラーメン屋“はがくれ”へとやって来た。もちろん命と結生、ゆかりも一緒である。

 

「んーっ! やばい、うまいよコレ!」

 

「ここのラーメン、この辺で一番おいしいんだから」

 

千枝の言葉にりせも自慢げにそう答える。ドラマの撮影などでここに来た時はロケ弁をパスしてここに食べにきていた程らしい。

 

「そーそー。相変わらず美味しいよねー! すみませーん、替え玉お願いしまーす!! あ、それとチャーハン大盛りで!」

 

ずぞぞぞっと一気に麺をすする音が後ろの席から聞こえた後、元気な女性の声が響く。

 

「……ってか、結生大先輩……どんだけ入るんすか」

 

完二が振り向いてツッコミを入れる。結生の食べているラーメンはこれで五杯や六杯で済むものではなく、しかもラーメンだけではなくチャーハンや餃子などのサイドメニューも同時に平らげて皿は隣の席にがしゃがしゃと積み上げられている。

 

「…………」

 

結生の正面に座る命はテーブルに肘をついて両手を組み、その手で顔を隠すようにしているがその顔色は真っ青だ。まあ、現在彼女の食べているラーメンだけで既に真達自称特別捜査隊メンバーが食べている量に匹敵している。

 

「まあ、これは罰だと思って、しっかり奢るように」

 

「……はい」

 

ゆかりもラーメンをすすりながら命に言い、彼も力なく頷いて返した。

 

「うっへー……結生さん、見た目痩せてるっぽいのになんであんなに食えるんだ?」

 

「だが、命先輩も痩せているが結構大食いだぞ?」

 

「っと、そうだっけ。フードコートの人達驚いてたな……けど、結生さんのはそれを超えてるぞ……」

 

陽介と真も隣同士の席で顔を合わせながらぼそぼそと話し合っていた。

 

「……ねえ、昨日って、夜どうしたっけ?……私、ほとんど記憶なくて……」

 

「ああ、私と先輩、すぐ寝ちゃったらしくて。なんか盛り上がったらしいけど」

 

「そうなんだ……覚えてない……」

 

雪子もりせに昨夜の事を質問、しかしりせも記憶は曖昧であり雪子は頭を悩ませていた。

 

「ラーメン替え玉とチャーハン、おまちー。それと食器おさげしまーす」

 

そこに結生のラーメンの替え玉とチャーハンを運んできた女性店員の声が聞こえてくる。その独特のイントネーションに思わず命と自称特別捜査隊メンバーが振り返る。

 

「あいかちゃん!?」

 

雪子が叫ぶ。はがくれの女性店員の正体は真達のクラスメイト、中村あいか。この店の制服姿のあいかに千枝も「なんでここで働いてるの!?」と驚きを露わにしていた。

 

「ここ、知り合いのみせー。しゅぎょうちゅー」

 

やはり独特のイントネーションでそう言いながら結生の食べた後の食器を黙々と運ぶあいか。陽介も「すげーなぁ旅行中まで」と驚き半ばに感心していた。そしてぱくぱくとラーメンとチャーハンを平らげながら、結生は眉間に皺を寄せる。

 

「ん~。もうそろそろ締めにしよっかな。すいません、はがぐれ丼で」

 

「えっ?」

 

結生がこともなげに注文したメニューを聞いたりせが驚いたように店に展示されているメニューを見ていく。

 

「はがくれ丼、通常メニューになってたんだ……あー、失敗した」

 

りせは注文を失敗したと悔しがるが、その直後ラーメンも美味しいからいっか。とあっさり続ける。

 

「そう言や、大丈夫なのか? 顔、モロ出しで来てるけどさ」

 

心配する陽介に、りせは気にした風もなく平気平気と答え、壁を指差す。

 

「ほら、そこに私のサイン飾ってるけど、誰も気づいてないでしょ? こっちじゃそんなもんだって。しかも、ほとんどノーメイクだし」

 

りせはそう言い、雪子も「サインあるね」と感心するがその隣で千枝が「バレないのはコイツの方が全然目ぇ引くからでしょ」とツッコミを入れながら、着ぐるみ姿でラーメンをすすっているクマを指した。しかし着てきた以上は着て帰らすしか無いかと諦めた口調で締めくくる。

 

「……あれっ!? 私のどんぶりは?」

 

りせのサインに注目していた雪子は顔を下ろした後、自分が食べていたどんぶりが無い事に気づいて両隣の席を見、そこでクマの席に先ほどまでなかったはずの空のどんぶりを発見する。

 

「もしかして……食べちゃった?」

 

「の、残してたから……えへ」

 

雪子の咎めるような言葉にクマはそう返すが雪子は「残してない!」と訴える。

 

「てかお前、さっきもお代わりしてなかったか? 何杯目だよ」

 

陽介が呆れた様子でクマに問いかけるが彼は「クマ、数、分からない」と誤魔化そうとし、それを聞いた陽介は怒鳴ってクマから伝票を奪い取る。

 

「1,2……10杯!?」

 

悲鳴を上げる陽介に対しクマは「ユキちゃんの残りで11です」と修正する。

 

「そろそろ、集合の時間ですね」

 

「あー、もうそんなかぁ……」

 

何気に一緒に来ていた直斗が時間を確認し、そう言うと千枝も残念そうに「旅行メンドくさーって思ってたけど、終わってみれば割と楽しかったかも」と感想を残す。それから駅でお土産買っていこうよと提案、陽介も「よし」と頷いた。

 

「じゃ、行くか。おいクマ、行くぞ」

 

陽介がクマを呼ぶがクマは微動だにせず、陽介は不思議そうに彼を叩きながら「おいクマきち」と呼ぶ。しかしやはり反応せず、完二が「毛ぇ逆撫でんぞこのやろう」とよく意味の分からない台詞で凄みながら歩いていく。

 

「……お、おい……クマが……う、動いてねえ!」

 

が、クマが一切の反応を見せないでいるのに気づくと慌てた様子で声を漏らす。

 

「ちょっと……ま、まさか……外に長く居過ぎて……とか、そういうんじゃないでしょーね!?」

 

「そうなの!? クマ!!」

 

千枝の焦った様子での声にりせもクマに呼びかける。

 

「うえぷ。おなか、おもたい」

 

その時クマから聞こえたのはそんな気持ち悪そうな声だった。要するに食べ過ぎで動けなくなっただけらしい。

 

「このコ、置き去ろう」

 

雪子の冷たい台詞に全員が戦慄、クマが「動けんクマ、運んでけれー」と懇願し始める。

 

「集合に遅れそうなので、僕はこれで」

 

直斗は一足先に勘定を置いて店を出ていき、雪子もその後に続く。

 

「あ、雪子。待ってよぉ」

 

千枝も慌ててお金を置いて後を追い、クマは慌てた様子で「帰りの切符代もうないの!」と訴える。

 

「……さらば、クマ」

 

陽介が一番に両手を合わせる。

 

「青春の思い出と共に、ここに置いていこう……」

 

そう言って残る真、完二、りせも共にクマに向けて合掌する。

が、流石に置いていくのは冗談としてクマは命達三人に任せ、真達は駅前のお土産コーナーで菜々子他各々の家族へのお土産を買った後、集合。一同帰路についたのであった。

 

 

 

 

 

「おかえり!」

 

八十稲羽の堂島家。玄関を開けて入ってきた真を出迎えたのは輝くばかりの笑顔を浮かべた菜々子だ。

 

「面白かった?」

 

「ああ。とてもな」

 

「たつみポートアイランドでしょ? 菜々子、テレビで見たことあるよ! ビルが高くって、人がいっぱいいて、うみがあって、おみせやさんがねー……」

 

菜々子は辰巳ポートアイランドについて自分が行ったかのように興奮しながら話していた。

 

「そういえば、菜々子にお土産があるんだ」

 

そう言って真が菜々子にお土産を入れていた紙袋を手渡し、菜々子は嬉しそうに紙袋を持つと「ありがと、お兄ちゃん!」と笑顔でお礼を言うと紙袋からお土産――巌戸台ちょうちん――を取り出す。

 

「すごーい、かっこいー!」

 

そして提灯を手に大はしゃぎ。するとその時遼太郎が帰ってきた。

 

「おー、帰ってたか。ご苦労さん。タッチの差だったな」

 

「はい。無事に戻りました」

 

遼太郎の挨拶に真も無事に戻ったと報告。と、菜々子が提灯を見せながら「お兄ちゃんにお土産貰った」と言う。

 

「よかったな、菜々子。お礼言ったか?」

 

「言ったよ!」

 

菜々子はそう言って嬉しそうに部屋に戻っていく。

 

「すまんな、小遣いから買ってくれたんだろ?」

 

「はい。ああ、叔父さんにもお土産に饅頭買ってきましたので、後で食べましょう」

 

「ああ、ありがとな。にしても、確か辰巳ポートアイランドだったか。確かお前がここに来る前に通っていた場所だったな。友達に会えたか?」

 

「ええ、まあ」

 

遼太郎の言葉に真は苦笑気味に返し、遼太郎が椅子に座ると真も巌戸台まんじゅうをテーブルに置く。

 

「そういやあれか、一年も合同って事は、白鐘も一緒か。お前、あいつとは結構話すのか?」

 

「そうですね。この修学旅行では結構話しました」

 

真から聞き、遼太郎は「あいつ、妙に大人びてるが、ほんとはお前の一個下なんだよな……」と何か思う様子で呟く。

 

「仲良くしてやってくれないか。生意気なガキだが……根は真っ直ぐな奴だ」

 

真剣な表情で真に頼む遼太郎。今の直斗は正論を言い張って上の連中に煙たがられているらしく、大人は勝手だな。と彼は自嘲した。

 

「っと、すまん。疲れてるよな。風呂入ったらどうだ? あぁ、荷物は片しとけよ」

 

遼太郎はそう言うと菜々子に風呂を入れてくれと頼み始め、真も風呂が沸くまでの間を使って荷物を片づけるため、部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

「……」

 

時間を少し戻して辰巳ポートアイランド。真達が集合場所に集まり始めた頃、命は一人である路地裏に来ていた。なお食べ過ぎで動けなくなっているクマは結生とゆかりに任せてベンチで休ませており、人数分のジュースを買ってくるよと言って一人別行動を取っている形だ。

 

「……何も見えない」

 

そしてぼそりと呟く。ポロニアンモールのとある路地裏、ここには二年前の戦いにおいて放課後など影時間以外の時間帯にペルソナの合体等を行っていたベルベットルームへの扉があった。しかし、今の命の目には何も見えない。それを確認した命は路地裏を出て行く。だが彼の姿が消えた後、裏路地の奥地に淡い青色の光がぽうっと走ったが、それに気づいたものはいなかった。




《後書き》
お久しぶりです、カイナです。二か月空いてしまいましたね、申し訳ありません。社会人になって慣れない仕事でてんてこ舞いになったり、あと今回オリジナルであるP3キャラとの掛け合いがどうにも思いつかなくて執筆が進みませんでした。
今回は修学旅行編の後編、真達はP3キャラの一部と邂逅です。まず現在確実に辰巳ポートアイランドにいるのは月光館学園中等部に在学していると明言されている天田だけでしたが、荒垣も色々設定付け加えて押し込みました。ちなみにこの作品では荒垣は生存していますが、荒垣と結生は付き合っていません。というかこの二人の関係は「結生→荒垣:(作ってくれる料理が)大好き」、「荒垣→結生:珍獣」という認識って設定なので。僕はP3P未プレイ者であり、無印時代から荒風派なのも手伝ってるんですけどね、この二人が恋人関係じゃないのは。その代わり天ハム要素を入れました、天田君からの完全なる一方通行(結生は天田を弟分としか見てない)ですが。(笑)
さて次回は結生やゆかりの八十稲羽での登場編を書こうかな、それとも本編進めようか……まあそこは後で考えるか。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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