ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第四十話 新学期

9月1日。今日から新学期が始まり、真は学校に向かっていた。

 

「あ、おっはよー」

「おはよう」

 

「里中、天城。おはよう」

 

声をかけてきた千枝と雪子に真も返し、千枝は残念そうに「夏休み終わっちゃったねー」と言う。

 

「うーす。来るとき、道間違えたー」

 

千枝達と話していると、遅れて登校してきた陽介がそう真達に声を掛け、陽介の言葉に雪子が「休み、長かったからね」と言うと、千枝が「だからってどうなのそれ」と二人に突っ込む。そのまま校門前で駄弁っていて新学期早々遅刻するわけにもいかないので真達は校門を潜り、玄関に向けて歩いていく。

 

「おはようございます」

 

と、玄関の前で青い帽子を被った少年が声をかけてくる。

 

「おっまえ、えと、“チビッコ探偵”!!」

 

その相手に、陽介はすぐさま名前が出てこなかったので見た目のイメージに探偵とつけて呼ぶ。それに少年――白鐘直斗は思い付きで変な名前を付けないでくださいと怒りながら名前を名乗り直す。

 

「あの……高校だよ、ここ」

 

中学生なのかと勘違いしているのかそういう雪子に直斗は呆れた様子を見せつつ、真達を見る。

 

「警察への協力は終えましたが、事件にはまだ色々と納得できない点があります」

 

真剣な目でそう言い、家の方の事情もあるのでしばらくこちらに留まる事にした。と直斗は説明する。今日からこの学校の一年生になったらしい。それに真達がびっくりした様子を見せると直斗は踵を返して歩き出し、数歩足を進めた後、再び振り返る。

 

「一応、皆さんに挨拶しておこうと思って。よろしくお願いします。先輩がた」

 

一言挨拶を終え、直斗は玄関に入っていった。

 

「先輩がた?……あの探偵クンが、後輩?」

 

千枝はぽかーんとした様子でそう呟いていた。

 

それから時間が過ぎて二学期初日の放課後。久方の授業に陽介がカッタリーと呟く。事件が解決したため向こう側の世界へと行き来する事もなくなり、時間を持て余しているようだ。日常が急にスカスカになったと不満そうに述べる陽介に、千枝が事件が解決したのは良い事じゃないかと反論。

 

「や、悪いとは言ってないけどさ」

 

その指摘に陽介がバツの悪そうな表情で口ごもる。自身も先ほどの発言が不謹慎だったと自覚があるのか、どことなく申し訳なさそうな様子を見せている。

 

「ねえ、今日もジュネス寄って帰るんでしょ? なら、直斗君も誘ってみない?」

 

雪子の提案に、陽介と千枝が驚いた表情を向けると、雪子はちょっと気になっただけなんだけどと話す。

 

「あぁ、あいつ確かこの事件の協力の為だけにこっち来たんだっけ?」

 

雪子の言葉を受けた陽介は、直斗が稲羽に来た理由を思い出し、事件が終わればただの後輩に当たる直斗に、陽介が自分達と同じ転校生なんだなと呟く。

 

「うっし、誘おうぜ」

 

「こんちわ、先輩。誰を誘うの?」

 

直斗もジュネスに誘おうと決めたところにりせが声をかけてくる。

 

「あ、芸能人ってのもすごいけど、“探偵”ってのもたいがいレアだよね」

 

りせを見た千枝が思い出したように言い、家どんな風なのかとかちょっと興味ある。と言う。雪子はなによりもあの歳でっていうのが不思議だねと疑問点を出した。

 

「あ、白鐘君を誘うの? でも彼だったら、さっき廊下で女生徒に声を掛けられてたよ?」

 

りせの言葉に真達が一組教室前を見てみると、確かに二人の女生徒に話し掛けられている直斗の姿が見えた。どうやら直斗に、この辺りを案内してあげると遊びに誘っているようだ。しかし、女生徒達とは対照的に直斗はあまり乗り気では無いように見え、事実「必要ないから」と拒否している。

 

「興味ないんです。遊び場にも、君達にも」

 

一刀両断、というにも少しばかり失礼な言い方に女生徒二人は「何言ってんの!?」「親切にしてやってんじゃん! 何よその態度!」と若干イラついた様子を見せて直斗に迫る。

 

「あーあーったく……折角モテてんのに、あいつ……」

 

陽介は呆れたようにそう呟いた後、「よーう白鐘君、元気かね?」と直斗に声をかけていった。いきなりの陽介の乱入に女子生徒は「えっと」と口ごもる。

 

「うーッス。何してんスか?」

 

さらに完二まで合流。陽介と完二の二人がつるんでいるという事を知っているのだろうか、女子生徒は「私らこれで」と言って足早に去っていった。

 

「……また会いましたね。僕に用でも?」

 

直斗は先ほどの事は気にも留めてない様子で陽介に話しかける。それに千枝が「帰りヒマなら、あたし達と一緒にどっか寄ってかない?」と遊びに誘った。

 

「僕と……一緒に?」

 

その言葉に直斗はそう呟き、少し考えた後に「今度にします」と答える。色々考え事があるようだ。

 

「考え事?」

 

「それに、今日は早く帰らないと。おじいちゃんに、そう言ったので」

 

りせが呟くと、直斗はそう次なる理由を続ける。

 

「そうか。それなら仕方ないな。じゃあ、また今度」

 

「ええ」

 

真は保護者にそう約束しているのなら仕方がないと納得、直斗も頷くとすたすたとその場を歩き去った。

 

それから真達は改めていつもの場所であるフードコートに集合。いつもの席に座る。

 

「ったく、直斗のあの態度……明らかにデビューしくじってるだろ」

 

陽介は人に与える第一印象として大切なデビューを直斗が完全にしくじっている事を呆れ、学校生活は大丈夫なのかと心配する様子を見せる。

 

「確かに変わった子だけど、不思議な魅力みたいなのがあるよね」

 

「うっそ、天城ってああいう年下がタイプ?」

 

雪子の言葉に陽介が驚いたように言うと、雪子はそういう意味じゃなくてと困った様子を見せた。

 

「直斗君、考え事あるって言ってたけど、事件の事だよね?」

 

「名探偵的にはスッキリしてないんだろ……もう解決したってのにさ」

 

千枝の言葉に続いて陽介がそう言う。と千枝がフードコートを見渡して「ここももう“特捜本部”じゃないワケか」と、名残惜しそうに呟いた。今まで自分達が集まっていた場所が変わってしまう事に他のメンバーもしんみりした様子を見せる。

 

「あ、そ、そーいや、じき修学旅行じゃね?」

 

空気を明るくしようと、陽介は学校における最大イベント――修学旅行を話題に出した。

 

「あ、そうだったね。行き先どこだったっけ?」

 

「辰巳ポートアイランド」

 

千枝が行き先はどこだったかと考え始めると、雪子が答える。海に面してる人工島で、かなりの大都会らしいと補足説明を入れた。

 

「……」

 

なお、雪子から行き先の名称が出た途端、真は固まってしまっていたが。

 

「ポートアイランド? 修学旅行の行き先あそこなの?」

 

「うおぁっ!?」

 

と、その背後から声がし、陽介は驚いたように振り向く。

 

「み、命さん!? 毎回毎回人の背後に気配なく立つの止めてくださいよ心臓に悪い!!」

 

「あはは、ごめんごめん。でも周囲の気配に気を配らないのはまだまだだよ?」

 

ジュネスエプロンを身に着けてバイト中の命は陽介に謝りながら、しかしそう言う。

 

「ポートアイランドかぁ……私よく、ロケで行ったよ? ムーンライトブリッジの先んとこでしょ? あの辺なら、結構遊べるとこ多いはず」

 

「ん~。まあ、ゲーセンとかカラオケとか遊ぶとこは多いね、確かに……ね?」

 

りせの説明を受け、命はそれを肯定しつつ悪戯っぽい笑みを真に投げかける。それに真はがくりっとうなだれたままだった。

 

「いや、それがさぁ、聞いとくれよ……」

 

が、千枝が気落ちした様子で話しを聞いてくれと言う。

 

「今回の旅行……遊んでる余裕、ないかも」

 

「は?」

 

千枝の言葉に陽介が返すと、千枝は語る。曰く、今年から観光中心の修学旅行は見直し、地方と都会のなんとかの触れ合いがとかで、向こう、つまりポートアイランドの私立の高校と交流会するらしい。ということだ。

 

「大分勉強メインで、マジメらしいよ?」

 

「うは……空気読まないにも程がある、ソレ」

 

げんなりとした表情で語る千枝に、同じくげんなりとした表情でりせが続く。

 

「私立の……高校?」

 

「……あー」

 

真は呆然とした声を盛らし、持ち前の直感で察した命がうんうんと頷く。

 

「私立の学校ってどんなトコよ?」

 

「なんか、すーごい立派な高校らしいよ? 校舎もキレイで。あたしら行く日、向こうは休校日なのに、返上で頑張ってくれちゃうみたい」

 

気づいていない陽介と千枝はそう話し合う。

 

「あ、ああああぁぁぁぁぁ……」

 

その言葉を聞いた瞬間、真はそんな変な声を出しながら両手で頭を押さえ、テーブルに突っ伏した。

 

「せ、先輩!? どうしたの!?」

 

りせが慌てて声をかける。

 

「……真君、時には辛い現実とも戦わなくちゃならない。それがペルソナ使いの覚悟というものだよ」

 

と、命も苦渋の様子で未だ奇声を漏らしている真に呼びかけた後、「里中さん」と真剣そのままの声で千枝に声をかけ、千枝が「はいっ!?」と返すと、彼はすぅ、と息を吸い、一拍置いて確信を得ているかの様子で切り出した。

 

「その私立の学校はもしかして……()()()()()っていう名前じゃないかな?」

 

その言葉を聞いた真がぴたり、と止まる。パンドラの箱、この世の災厄全てが収まっていたとされる箱、その箱が開いたことで世界中に災厄が飛び散った。だが、その箱の中にはたった一つの希望が残されている。あたかも、その希望にすがるように彼は頭を上げ、目をパチクリさせている千枝を見る。

 

「え? 命さん、なんで知ってるんですか?」

 

直後、真はずがんとテーブルに顔を叩きつけた。

 

「ん? ちょっと待てよ? げっこーかんがくえん?……どっかで聞いたことあるような?……」

 

陽介が腕組みをし、首を捻る。

 

「聞いた事あるっていうか、見た事あるはずだよ? 僕がジュネスでバイトする時、面接に提出する履歴書、花村君にチェックしてもらったでしょ?」

 

「あ、そうだ! 命さんの卒業してた高校の名前だ!!……って、ちょっと待てよ……」

 

陽介は合点がいったというように柏手を一つ打って頷く。が、その直後彼もはっとした様子を見せる。命と真の関係、それは命が高校時代の先輩後輩というもの。それはすなわち。

 

「……月光館学園は僕の母校で……真君がここに転校してくる前に通ってた高校だよ」

 

その言葉に全員が沈黙してしまう。つまり、真にとってはせっかくの修学旅行はほんの半年ほど前まで通っていた高校への里帰り。という事になってしまったわけである。

 

「え、えーと……あぁ、そうだ!」

 

重くなってしまった空気を払拭しようと、千枝は続ける。

 

「でね、二日目の自由行動では、工場とか見学するんだって。で、三日目には帰る」

 

「ほぼ社会科見学じゃねーかッ!」

 

が、それは逆効果。陽介が悲鳴を上げる結果に終わってしまった。

 

「うへ……聞かなきゃよかった……」

 

「ま、まぁまぁ……ほら、今年から修学旅行、林間学校と同じで1、2年合同になったし。皆が一緒なら、そんなに退屈しないんじゃない?」

 

真と同じく机に突っ伏した陽介に雪子がフォローを入れ、完二も「ダレたら適当にどっか抜け出すってことで」とフォローなのかよく分からない事を言い、りせは「お仕事抜きでポートアイランドとかどんくらいぶりだろ」と楽しそうに笑う。

 

「こ、この案、不評も出たらしいんだけど企画立案、バーイ“モロキン”なんだってさ。アイツらしいというか……」

 

「うおお……モロキン……死してなお俺らを縛るのか……」

 

今は亡き諸岡教諭への追悼として彼の案を採用したということなのだろうか。しかし生徒としてはたまったものではなく、机に突っ伏した陽介は頭を抱えていた。

 

「なんか、教員としても別の学校の教員と交流する中で成長をしていくとか言ってたらしいって……」

 

千枝がそんな事を言っていたが、誰も聞いていなかった。

 

「……まあ、あっちのダチと久しぶりに会うチャンスとでも思えばいいか」

 

自分の中で折り合いをつけたらしい真は気を取り直してそう呟く。

 

「ねえねえ、今の旅行の話、もっとクマに教えるがいいと思うな」

 

と、クマがぴょこぴょこと足音を鳴らしてやってきた。

 

「いいから働けよ、お前は」

 

ポートアイランドとはどこか、何があるのかと興味津々に聞いてくるクマに陽介はそう返す。

 

「けど修学旅行、じきって言っても、まだそんなすぐじゃないよね。それまで何しよ……」

 

「まー、ヒマは今に始まった事じゃないッスけどね」

 

千枝の呟きに完二もそう言い、所詮人なんて一生ヒマの潰し方を考えるだけの生き物なんスよ。と続ける。

 

「……いい事言ったみたいな空気出してるけどさ。意味全く分かんないから」

 

完二の言葉に対し、千枝はそうツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 

 

それからその翌日。真は放課後にジュネスにやってきていた。

 

「ん? よお、真」

 

「陽介……仕事中か?」

 

声をかけてきた陽介に真も返し、ジュネスにいるなら仕事中かと尋ねる。が、陽介は違う違うと言って笑った。

 

「俺だってたまにゃプライベートでジュネスにいるっての。特別捜査隊の時もそうだろ?」

 

「……まあ、それもそうか」

 

「で、真は何やってんだ?」

 

「修学旅行にあたって、何か買っておこうかと思ってな」

 

真と陽介は喋り合い、陽介は「なら後で一緒に買い物しようや」と言うと彼をフードコートに誘い、適当な席につく。

 

「たまにゃ、お前と二人でここってのもいいよな。金なくても、ここならちょっとサービスしてくれるし」

 

陽介は冗談っぽくそう言いつつ、その分面倒な事も多いんだけど。とぼやく。

 

「あ、いたいた、花村!」

 

と、そんな声が聞こえてくる。陽介は「こんな風にな」とぼやいて立ち上がり、声の方を向く。二人の女性がやってきた。

 

「お疲れ様っす。今日はどうしたんすか、先輩」

 

「あのバカチーフに何とか言ってよ! 土日出れないって言ってんのに、出ないとクビとか言うんだけど!」

 

派手な女子生徒が陽介に文句を言い、隣に立つもう一人の女子生徒が高圧的に「そういうのって、ナントカ法違反とかじゃないの!?」と続ける。

 

「や、でも先輩ら、面接ん時は土日も出れるって言ったんすよね?」

 

それに対して陽介が焦りながら言うが、派手な女子生徒は「じゃなきゃ採用されないじゃん!」と、要するに採用されるための建前だというような事を言う。

 

「あれ、花村君。今日はシフトじゃないでしょ?」

 

と、そんな声が聞こえてくる。

 

「命先輩」

 

「「あ、命さぁん♪」」

 

フードコートで仕事をしていたのだろうか、歩き寄ってきたのは命。それに真が気づくと、女子生徒二人もさっきまでの大声や高圧的な声はどこへやら、猫なで声で命に話しかける。

 

「ああ、えーっと……こんにちは。二人とも、今日はシフトじゃなかったよね?」

 

命は誤魔化すような笑顔で二人に言い、二人も「はい」と調子よく頷く。

 

「あのですねぇ。私達~土日は用事があるっていうのに~無理矢理チーフから出ろ、そうじゃなきゃクビだって脅されてて~」

「これってナントカ法違反ですよね~? だからちょっと花村君から注意してもらえないかな~って」

 

女子生徒二人は猫なで声で命に話す。と、陽介がはぁ、とため息をついた。

 

「分かった、分かりました。俺、ちょっとシフトについて話してみます……」

 

「あぁ、なるほど」

 

陽介の言葉を聞いた命は何があったのかを察する。

 

「うん、用事があるっていうなら分かりますけど。お二人もクビになったら困りますよね? 土日出られると言っておいて出ないというのは無責任ですし、特定の日に休みたいのならそれ以外の日に真面目に出ておいた方が、交渉もしやすいと思いますよ?」

 

「そ、そうですね……はい、分かりました」

「えーっと花村君、よろしくね?」

 

命の手前だと高圧的に出られないらしい二人はそう言って歩いていく。

 

「……はぁ~命さん、助かりましたよ」

 

「うん。じゃあ僕はこれで」

 

陽介は上手い具合に助け舟を出してくれた命に感謝し、命はそう言って歩いていく。

 

「先輩、やっぱ人気だな」

 

「まあな。バイトに入ってる女学生は大抵命さんがシフト入ってる時に潜り込もうと必死だよ。チーフもシフト調整に苦労してるぜ……そこにこれだからな、正直気が重い……」

 

陽介はやれやれとため息をつき、「命さんは、なんなら僕をこき使ってくれてもいいよって言ってるけど、そうもいかねえしな」と苦笑する。

 

「悪いな。こっちも流石にこれ以上日中にバイトを増やすのはきつい……」

 

「あ、いや別にいいって。またやばい時にヘルプ頼むかもしんねえけど」

 

「その時は出来る限り協力する」

 

真の申し訳なさそうな言葉に陽介は苦笑で返し、真もその時は協力すると約束する。

 

「あら、陽介君。ちょうどよかったわ~」

 

そこにまた別の声が聞こえてきた。

 

「あー……ども」

 

「ちょっと聞いてちょうだいよ! この間のクレームの件なんだけど精肉部長に……」

 

「あ、はいはいはい。この話なら、向こうで聞くんで」

 

大きな声で話し始める女性に陽介はそう返し、真に「ちょっと待っててくれ」と伝えてから、従業員の話を聞きに行く。

 

 

 

 

「うあー、疲れた……俺は苦情係かっつの……」

 

「だが、真面目にやっている辺り偉いよな」

 

「はあ? 面倒なだけだって」

 

真は嫌がりつつも律儀にしっかりやっている事を偉いと言い、しかし陽介は照れたように笑いながらそう答える。

 

「ったくさ……みんな俺をジュネスの息子って利用してんじゃん」

 

陽介はぼやく。それに、ヒマならまだしもテレビのことを知っている以上、事件の事も考えなければならない。事件は解決しているが、その犯人である久保美津雄は警察に手に負えるのか。そして法律はテレビを使った殺人、というものをちゃんと裁くことが出来るのか。それを考えていたら他の事に構う余裕はない、やれることがあるなら、やらなきゃならない。と陽介は話す。

 

「よく言った」

 

「ちょ、茶化すなって! クサイこと言ったみたいで恥ずかしいだろ!」

 

真の言葉に陽介は照れながら怒ってみせた。

 

「……こんなマジ系の話、するなんて思わなかったな。

 

陽介はははっと笑う。

 

「前いたとこだと、くだらねー笑える話しかしなかったし……それでいいと思ってた。こんなマジな話なんて、ホントお前らだけだよ……特にお前にはさ、初っ端から一番みっともねーとこ見られてるし」

 

陽介はそう言い、けどさと言う。

 

「なんかまあ……今考えると、お前でよかったな……とかさ」

 

今更だけど、あの時一緒に来てくれてありがとう。と、陽介は恥ずかしそうに笑いながら改めて真にお礼を言った。

 

「あーなんか色々あって腹減ったな。うっし、レジの人のサービス期待して、ウルトラヤングセットに挑戦してみっか!」

 

陽介は立ち上がると注文をしに行く。そしてウルトラヤングセットをそれぞれ平らげた後、真は修学旅行で使うものや、旅行の間の堂島家の食事の材料を買い出しして帰っていった。

 

 

 

 

 

それから時間が過ぎて9月7日の夜。翌日が修学旅行となり、真は旅行で家にいない間日持ちする料理としてカレーを作り置きしてから、学校配布の修学旅行のしおりを確認する。旅行は明日から二泊三日、一日目は交流先の私立月光館学園での交流会。二日目からは、千枝からは工場見学と聞いていたが実際は一日目の夜までに担当の教員に自分が行きたい場所を書いたプリントを提出し、認められればそこへ行っての自由行動が可能、認められなかった、または行く場所の希望がない場合は教員引率による学校推薦の工場見学となるらしい。

 

「……まあ、あっちに行ってから考えるか。幸い行き先には不自由するまい」

 

元通っていた学校であり、りせと比べても土地勘はあるだろう場所。真の頭の中にいくつかの候補が思い浮かび、明日の夜にでも皆に相談しようと考えつつ真は荷物の最終確認。足りないものがないかを確認し、問題なしと判断すると今日は早めに床についた。

 

 

 

 

 

「ほーら、もう明日でしょー。今日入って明日会いに行く! もう出発だよー」

 

「ま、待ってよー」

 

一方、昼過ぎ頃まで時間を戻して八十稲羽から遠く離れた地。茶髪の女性が呼ぶと、家の奥から赤髪の女性が髪をポニーテール風に結い、髪留めで髪を留めながらばたばたと出てくる。

 

「もー。忘れ物ないね?」

 

「バ、バッチリ! だよ!」

 

茶髪の女性の言葉に赤髪の女性はぐっとサムズアップを見せながら返し、玄関に置いていた旅行用のスーツケースをがしっと掴む。

 

「楽しみ楽しみー♪ 元気かなー千尋ちゃん♪」

 

赤髪の少女は鼻歌を歌いながら元気にそう言い、茶髪の少女はやれやれとため息を漏らす。

 

「さて、行きますか。ポートアイランド!」

 

そして元気よく声を響かせた。




さて気分が乗っていたので一気に書き上げました。今回は修学旅行前の繋ぎです。修学旅行自体は次回から、多分修学旅行も前編後編に分けられるのではないかなぁと思っています。
でもってうっかり書き忘れてたので大慌てで追加しましたが最後の方で修学旅行中のあるフラグを立てておきました。(ククク)
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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