ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

35 / 63
第三十四話 事件解決?そして期末テスト

7月11日。真は普段通り学校に向かっていた。

 

「よう、椎宮」

 

と、後ろから陽介が追いつき声をかけてくる。が、本人としては普段通り明るく声をかけたつもりなのだろうがその声は暗く、自分で気づいたのか陽介ははぁと息を吐いた。

 

「……実感湧かないぜ……担任が“殺された”なんてさ。昨日……あんま寝れなかったよ」

 

その言葉の通りか陽介の目の下には若干クマが見える。

 

「お前は大丈夫か?」

 

「まあな」

 

「まあ……これで凹んじまってたら、犯人捕まえらんねえもんな……」

 

「ああ。諸岡教諭のためにも犯人を捕まえよう」

 

陽介と真はそう言い、犯人確保の決意を固めて頷きあう。

 

「ん? 待てよ……」

 

と、ふと陽介が声を漏らした。

 

「ってことは、担任が新しくなるのか? 誰だろうな……」

 

担任教諭が亡くなったため自分達の担任もまた新しくなるのだろう。それに気づいた陽介は腕を組んでそう呟いた。が、直後「まあ、モロキンより濃い奴なんてそう居るわけないか」と笑い、二人は学校に向かった。

それから始業前、教室は担任であった諸岡が亡くなったという噂でもちきりになっている。と、始業のチャイムと共に女性の教師が教室に入ってきた。

 

「おっはよぉ。今日から貴方たちの担任になった、柏木典子でぇす」

 

女教師――柏木は「諸岡先生が亡くなられたので代わりに私があなた達の相手をすることになった」と甘ったるい声で述べ、次に諸岡に黙祷を捧げます。と言い、クラスの生徒達は目を閉じる。そしてクラスの全員が黙祷を終えると彼女は教卓に腰掛けていた。そして来週の定期試験もちゃんとある、という事やらなにやら話し始める。それにクラスの生徒が「果てしなくうぜぇ……」や「モロキンから柏木って……どんな濃い味のコンボだよ……」と声を漏らし始めた。

 

「それとぉ、一応、言っとくけどぉ。一年に、例のアイドル……クジカワさん……だっけ? 入ったけどぉ。テレビで見るのと、ぜ~んぜん違うから、がっかりしないようにねー……うふ」

 

柏木は甘ったるい声でそう言い、次に「りせちーなんて所詮ケツの青いクソガキ」だの言ってりせをこき下ろし、さらに話を続けていく。

 

「……大人気ない教師だな……」

 

「あはは……」

 

真がぼそりと率直に感想を呟くと隣の席の千枝も苦笑を漏らした。近くの席で「柏木がりせちーに対して対抗意識を燃やしている」や、「柏木は地味に40過ぎだという噂は本当か」という話が始まり、次に「こないだ本屋でモロキンがりせの写真集買ってるの見た奴いるらしいし、生きてたらりせちーの入学、喜んでたかもな」や「モロキンはムカツク奴だったけど殺されたって思うとけっこ可哀想だよな」という話、さらにはりせのストリップ番組――マヨナカテレビだ――の噂にまで話が広がる。

マヨナカテレビの噂が大分広まってきていることがその会話から伺え、陽介が「放課後集まろう」という話を出すと真達も頷いた。

 

「あー……来週もう期末かぁ……赤、久々にくるな、コレ……」

 

時間は放課後に、場所はいつものジュネスフードコートへと移り、事件についての話をする前にふと千枝がぼやくと陽介が「しょっちゅうだろ」とからかう。それに千枝が「花村に見せた事ないっしょ!」と叫ぶと雪子が「赤の科目以外はいっつも平均点以上だよね」と本人的には助け舟を出す。しかし千枝は「フォローになってないっしょ!」と叫んでいた。

 

「あはは」

 

と、りせが朗らかに笑う。それに千枝が「り、りせちゃんまで……」と流石に落ち込んだ様子で呟いた。しかしそれにりせは首を横に振ると「違うの、ごめんなさい」と言う。

 

「私……新しい学校でも、どうせ当分は友達うまく出来ないって思ってたから……」

 

「きっかけが事件なんかじゃなきゃ、もっとよかったんだけどね」

 

りせは転校してすぐに友達が出来たことを喜んでいたらしく、しかし千枝はきっかけが事件じゃなきゃもっとよかった。と呟いた。

 

「てかそう、事件の話だけど。今回のモロキンの件……どう思う? 昨日は椎宮が仮説を立てたけど……」

 

「ああ。今までの事件との共通点だった、夜中の番組に映らなかったのがやはり気になるな……」

 

陽介の言葉に真が頷く。クマも「もしテレビの中に入ったならクマが分かるはずだよ。前より鼻、利かなくなってきてるけどそれくらいは間違えない」と言う。次に千枝が「死体が見つかったのも、現場の様子も今までの被害者である山野アナや小西先輩と同じだったとニュースで言っていた」と話し、雪子は「どうして諸岡先生が狙われたんだろう」と動機を考える。その言葉を受けて完二は「モロキン恨んでるやつなんざ数え切れねえ」と話した。たしかに諸岡は特に生徒に対して高圧的で、敵を作るタイプだ。だがそこで、りせが「テレビを見て狙いを決めるなら、被害者と面識ない犯人ってイメージ。そういうタイプは動機を考えても意味なさそう」と指摘する。曰く「会った事もないのに意味分かんない理由で恨んでくる人、世の中にはいっぱい居る」とのことで、どこか体験談染みた話し方に千枝が「りせちゃんが言うとリアルだね……」と頬を引きつかせた。

 

「だが、諸岡教諭の場合、マヨナカテレビだけじゃなく普通のテレビにも出てなかった。やはり諸岡教諭だけは特別に狙われていた、と考えるべきか?」

 

「椎宮の出した、小西先輩達は実験だったって推理なら筋が通らねえ事もねえしなぁ……」

 

真と陽介も腕を組んで考える。

 

「しっかし、ウチの高校から続けて二人か……警察、ウチの人間に目星つけて、目ぇ光らしてんだろうな……」

 

完二の言葉を聞いた陽介がうつむく。

 

「……俺、白状するとさ……正直、心のどこかで、モロキンのヤツが犯人かもって……思ってたことあんだ」

 

陽介はうつむいてそう、懺悔するように呟く。

 

「ウチからは二人目っていうけど、実際はもっとだろ? それにあいつ、“死んで当然”とか何度も言ってたことあったしな……けど、疑って悪かったなって……ムカつくヤツだったけど、こんな死に方、あり得ないだろ……モロキンだけじゃねえ……可哀想っつーか……なんつーか……とにかく犯人、許せねえよ!……」

 

陽介も言葉を受け、千枝が顔を上げる。

 

「モロキンのためにも、あたしたちに出来る事、やるしかないよ! こうなると、ウチの学校になんか関係あるってのが、今んとこ有力でしょ!? なら、あたし達で手分けして――」

「その必要はありません」

 

千枝の言葉をさえぎり、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「オ、オメェ……」

 

「白鐘直斗……」

 

姿を現した少年に完二が驚き、真がその相手の名前をフルネームで呼ぶ。

 

「諸岡さんについての調査は、もう必要ありません」

 

「何故だ?」

 

直斗の言葉に真が尋ねる。と、直斗は「容疑者が固まった。ここからは警察に任せるべきでしょう」と彼らに告げた。それに陽介が驚いた様子で「なんで、んなことお前が……」と呟く。

 

「白鐘君は、県警本部の要請できている、“特別捜査協力員の探偵”だからでしょ?」

 

「先輩!」

「あなたですか……」

 

直斗の背後から話しかける青年――命の姿に真が声を上げ、直斗は命をちらりと見る。

 

「……何故あなたがそれを知っているんでしょうか?」

 

「ジュネスで働いてたら警察の方々も多く来て、世間話の中からね。それより容疑者が固まったって聞いたけど、よければ誰なのか教えてくれない?」

 

直斗の射抜くような視線を命は防ぐこともせずに受け流し、話題も逸らす。真達の興味も何故命が直斗の正体を知っているのか、よりもこの連続事件の犯人の方に強くなっている。が、直斗は「僕も名前は教えてもらっていません」と告げた。ただ分かっている事、それは「容疑者は高校生の“少年”」だという事だ。つまり少年法で保護され、個人情報は公開されないことになる。

 

「メディアにはまだ伏せられていますが、皆さんの学校の生徒じゃないようです。ただ、今回の容疑者手配には、よほど確信があるみたいですね……今までの事件と、問題の少年との関連が、周囲の証言ではっきりしているそうです。逮捕は時間の問題かもしれません」

 

直斗はそう話し、「無事解決となれば、またここも元通り、ひなびた田舎町に戻りますね」と締めた。

 

「容疑者は……高校生……」

 

陽介はそう言い、そうかと呟いた後「で、お前は何しに来たんだ?」と直斗がわざわざここまで来た理由を問う。たしかに、元は命がせがんだとはいえ情報は伏せられているのにわざわざ無関係の高校生(以下一名大学生一名人外と思われる存在)に伝えるのは問題になるかもしれない。

 

「皆さんの“遊び”も、間もなく終わりになるかもしれない……それだけは、伝えておいた方がいいと思ったので」

 

「おや、それはわざわざどうも」

 

直斗の言葉に命がへらへらと笑い、お礼を言う。

 

「……関わった事は否定しないんですか?」

 

直斗はそう命に尋ねるが、彼の笑みを見るとふうと息を吐いて「まあいいでしょう」と言う。どうやらこれ以上どうこう言う気はないようだ。

 

「遊び?……」

 

と、りせが直斗の言った「遊び」という言葉に反応する。

 

「遊びはそっちじゃないの?」

 

その言葉に直斗もりせを見る。

 

「探偵だか何だか知らないけど、あなたは、ただ謎を解いているだけしょ? 私達の何を分かってるの?……そっちの方が、全然遊びよ」

 

「こっちゃ、大事な人殺されてんだ……遊びで出来るかよ」

 

直斗の台詞にりせが静かな怒りを滲ませて反論する。さらに続けて陽介も小西早紀の事を思っているのか、額に皺を寄せながら直斗に反論した。が、その次には優しく笑みを見せ、クマに向けて「それに、約束してるしな」と続ける。

 

「ヨヨヨースケ……」

 

その言葉にクマが感動したようにそう呟いた。

 

「遊び……か。確かに、そうかもしれませんね」

 

りせと陽介からの反論を受け、直斗は自嘲気味にそう呟く。それを受けた陽介が「容疑者が固まったのでお払い箱になったのか、それで寂しくなってきてみたとか?」と反撃に皮肉るように話す。陽介の皮肉に「探偵は元々、逮捕に関わる事もなく、事件に対して特別な感情も無い」と直斗は語る。

 

「ただ……必要な時にしか興味を持たれないというのは……確かに寂しい事ですね。もう、慣れましたけど……」

 

しかし、その次にどこか辛さを押し隠した様子で直斗はそう呟いた。

 

「謎が多い事件でしたが、意外とあっけない幕切れでしたね……じゃ、もう行きます」

 

直斗はそう言うと去っていき、千枝は「容疑者が挙がったって、ほんとにこのまま解決なのかな?」と呟き、陽介も意気消沈したように息を吐くと「さぁな」とぼやく。容疑者が挙がったという事で緊張感が無くなったのか、今日は解散となった。

それからしばらく、彼らは事件は捜査の経過を待つしかないため、期末テストも近いので放課後は勉強会を続けていた。そして日は7月17日に進む。場所はジュネスのフードコートだ。

 

「聞いてくれよ椎宮! 俺こないだ休んだからさ、長瀬にノート借りようと思ってー。持ってきたんだけど、それが“数1”……二年になってどんだけ経つと思ってんだよ。しかも“1”をフツーに書くなよ!」

 

一条はフードコートの机をばんっと叩きながら叫ぶが長瀬は平然と「借りる奴が偉そうな事言うな」と言い、一条は「借りねーよもう」とぼやく。今日は運動部繋がりで友情を結んだ二人との勉強会だ。

 

「あーあ。暗記モノはもう終わったし数学だけだっつのにさ……椎宮、数学得意? つかお前たしか中間トップだったよな?」

 

「ああ」

 

「あー、マジ尊敬するわ。公式丸暗記でそれなりの点は取るけどさ、数学だけはホント理解できない」

 

「いいからホラ、俺に教えろよ。世界史と物理と英語と……」

 

「多すぎんだよ」

 

真、一条、長瀬はダベるように言い合う。

 

「あ、偶然」

 

と、そこに女の子が声をかけてくる。

 

「里中、天城」

「さ、さささ里中さんっ!?」

「おう、天城か」

 

真が平然と二人を、一条が里中に焦り、長瀬も平然と雪子を呼ぶ。

 

「もしかして勉強するの? 混ぜてもらおっかな」

 

「え、や、ホント? 全然いーよ!」

 

「ごめんね、千枝が急に……」

 

「そ、そんなのホント全然……」

 

千枝を見て舞い上がった一条は千枝と雪子が勉強会に参加するのを喜んで歓迎し、雪子がぺこっと頭を下げて謝ると一条は「あはは」と笑う。と、千枝は唇を尖らせた。

 

「まーた、雪子には皆デレデレしちゃうんだから」

 

「え、ええ!? ちょっと待っ……」

 

「いいもーん。こっちには秘密兵器がいるんだし」

 

勘違いしてぷいっと顔を背ける千枝に一条が叫び、千枝が言う「秘密兵器」なるものに男性陣三人の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「はーやれやれ。ついうっかりバイトに入るとこだった。花村君にシフトじゃないってツッコまれなかったら危なかったよ……」

 

「先輩!?」

 

そこに命が姿を現した。

 

「あ、命さん遅いですよー!」

 

「やーごめんごめん。ついいつもの癖でバイトの方行ってた」

 

千枝の笑顔での言葉に命はへらへらと笑って謝る。

 

「私と千枝、命さんに勉強教えてもらおうかって話になってね。でもどっちかの家だったら集中できないかもって話になっちゃったからここに来たの」

 

「なるほど。先輩なら楽勝ですよね」

 

雪子の説明に真が笑う。

 

「……そんなにスゴイの?」

 

「俺が前通ってた学校であり先輩の母校で、先輩の親友曰くベスト3位以下になったことなし。ちなみに俺はトップ10前後」

 

千枝が目を丸くして呟くように尋ねると真は平然とそう言い、その言葉に全員が固まる。真は転校して初めての中間テストで学年一位を飾っている。それを上回る順位の成績を持つ、つまり命の方が勉強が出来るという証明だ。それを聞いた瞬間千枝は素早く命の方に姿勢を正して起立、びしっと頭を下げた。

 

「……利武せんせー! どうかこの迷える子羊をお救い下さいませ!!」

 

「そんなかしこまらなくっても教えるって。安心してよ、これでも後輩に教えるってのは慣れてるからさ」

 

「ぃやったー!」

 

命からの協力を取り付けた千枝は歓声を上げる。

 

「いやー、やっぱ頭がいい人って頼りになるわ~」

 

千枝は満面の笑顔でふんふん鼻歌を歌いながら勉強道具を広げていく。

 

「……椎宮、頼む。数学教えてくれ……今回、里中さんに勝つ」

 

千枝の台詞がなんらかのスイッチになったか、一条は真に教えを請う。

 

「ほほう、命さんの力を借りた私に勝とうとな? いい度胸だよ一条君!」

 

ただ単に仮想敵にされたとでも勘違いしたのか、千枝はさらにやる気に火をつける。そして二人はそれぞれ月光館学園の先輩後輩を先生役にし、やる気の炎を燃やしながら勉強に没頭し始めた。

 

「えーと……長瀬君、だよね? 私達も勉強しよっか?」

 

「おう。世界史と物理と英語、教えてくれ」

 

「うん、いいよ」

 

その横で長瀬と雪子もマイペースに勉強を開始した。

 

それから翌日、7月18日に時間は過ぎる。今日は祝日で次の日から八十神高校は期末テストに入るが、真は家にこもっての勉強ばかりでは息が詰まるため、息抜きに鮫川を散歩していた。そしてふとなんとなく土手から河原に下りると、そこでは見覚えのある老婦人が日向ぼっこをしている。

 

(たしか、病院にいた……)

 

真は病院での清掃のバイトを思い出しながら老婦人に近づく。と、その気配に気づいたのか老婦人はゆっくりと振り返り、真を見て少し首を傾げる。

 

「……? あら、ひょっとして……病院で掃除していらした?」

 

「はい」

 

老婦人の方も真の事を覚えていたらしく問いかけてくる。それに真もこくんと頷くと老婦人は嬉しそうに微笑んだ。

 

「まぁ、こんなところで、あなたに会えるなんてね。今日はいい日だわ……よかったら、おばあちゃんとお話しない?」

 

「ええ」

 

「まあ、嬉しいわ」

 

老婦人は穏やかに笑った。

 

「ええと……」

 

「椎宮真です。椎の木の椎に宮殿の宮。そして真実の真で椎宮真」

 

「椎宮真……真ちゃんね。ふふ、いいお名前ね。ぴったりだわ」

 

真は老婦人に名を名乗り、老婦人はぴったりな名前だと微笑む。老婦人は「ずっとこの町に住んでいるのだけど、あなたを知らなかった」と言うが、真は両親の仕事の都合で一時的に都会から越してきたんだと話す。それに老婦人は「あら、そうなの」と微笑んだ。

 

「都会から来たら不便もあるかもしれないけど……いい町だと思うわよ」

 

「はい、そう思います」

 

「ふふっ、嬉しいわ。なんだか自分が褒められたようね」

 

老婦人の言葉に真が頷くと、老婦人は嬉しそうに頷く。と、老婦人は「あら」と申し訳なさそうな声を漏らす。

 

「私、名乗ってもいなかったわね。私は、黒田ひさ乃というの……死神よ」

 

「死神?……どういう意味ですか?」

 

「……ごめんなさいね。つまらない事言ったわ」

 

老婦人――黒田ひさ乃の名乗った死神という言葉に真がどういう意味かと尋ねるが、ひさ乃はただそう言うだけ。彼女は続けて「まだこの町に慣れてないかしら?」と問うてきた。そして老人特有の暖かな微笑みで「何か困る事があったら、相談に乗るわよ」と言う。

 

「ふふっ、おばあちゃんで悪いけど」

 

「いえ。年の功と言いますし、その時は頼りにさせていただきます」

 

ひさ乃の言葉に真はそう返し、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“死神”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。

 

「また会えると嬉しいわ。それじゃ、さようなら」

 

ひさ乃はそう言って歩いていき、真も気分転換の散歩を再開した。

 

7月19日。今日から八十神高校は週末まで期末テストだ。

 

「……」

 

真は今までの勉強の成果をただただテストにぶつけていく。が、その数日の内の何回か、隣の席の千枝が「止まらん、ペンが止まらんぞふははははー!」とかテンション高く言っているのが妙に気になった。そんなこんなでテストは進んでいき、ついに期末テスト最後の教科が終了する。

 

「終わったー……くあー、も、ちょー眠ィ」

 

陽介はテスト終了の解放感を喜び、欠伸をする。

 

「にっしっしー大変だったようだね花村君。一夜漬けは身になりませんよ?」

 

と、千枝がにししと笑いながら陽介に話しかけた。

 

「なんだよその言い方? よっほど自信があるようだな」

 

「とーぜん! 命さんからコツを教えてもらって、雪子ともたっくさん勉強したからね! もうばっちり!!」

 

「千枝。さっきから答え合わせ、みんな私と同じ答えなんだよ」

 

陽介が千枝の言葉にカチンときたのかそう言うと千枝はびしっとサムズアップをしながら答え、雪子もそう言う。

 

「うーっス……」

「お疲れさま……じゃないや、こんにちは……」

 

と、完二とりせの一年生コンビが浮かない表情で入ってきた。

 

「うわ、まさか里中の代わりの負け組が……」

 

「何よ英語くらい! いざとなったら通訳でもなんでもつけてもらうもん!」

 

その呟きにりせが怒りに腕をぶんぶん上下させながら陽介を怒鳴る。

 

「先輩は?」

 

「まあ、普段通りかな?」

 

りせのどこか甘えるような声に真はそう返す。

 

「普段通りって、中間一位の普段通りってなんだよ……」

 

「そうなんだ! さすが、先輩は違うなぁ……」

 

真の言った言葉に陽介が呟くとりせは頭の上にハートマークを飛ばしているような表情でそう言う。と、完二が「も、いースよ。テストの話は……」と浮かない表情で呟いた。

 

「それより、事件の方どうなってんスか?」

 

「そうだな。久々に“特捜本部”に行っとくか」

 

完二の言葉に陽介が提案、彼らは荷物を持つと教室を出ていく。

 

「よ、椎宮」

 

「一条、長瀬」

 

と、一条が声をかけてきた。

 

「勉強教えてくれてありがとよ」

 

「……自信ばっちりのようだな」

 

一条の言葉に真がふっと笑うと一条はぐっとサムズアップを見せる。

 

「ま、結果発表を楽しみにしててくれ」

 

「一条、テスト終わったし少し走ろうぜ!」

 

「へいへい。じゃな!」

 

自信満々の一条に対しマイペースにそう言う長瀬。それに一条は笑ってへいへいと言って真達に別れを告げる。それに真も軽く手をあげて返した後、彼らは学校を後にするといつものフードコートへと向かった。

 

「なんかちょっと、気が抜けたね」

 

フードコートに用意されている椅子に座ると、千枝がテーブルに肘をついてぼそりと呟く。その言葉が意味するのはテストが終わった、という事だけではなく容疑者が固まった事。千枝は「あたし達にしか解決できないんだ、みたいに気負ってたからさ」と呟く。

 

「まだ分かんねーよ。逮捕されたわけじゃねえ」

 

その言葉に対し陽介がそう言い、完二も「情報待ち……ってとこスかね」と返した。

 

「ったく、容疑者挙がったのはいいけど、どこ行ったんだか……こっちはもう、クタクタだっての……」

 

と、いきなりそんな声が聞こえてきた。

 

「……足立さん?」

 

「え? おわっと!? き、君達、聞いてた?」

 

真がその相手を呼ぶと相手――足立が慌てたように彼らにそう言い、誤魔化すような笑みを浮かべて「事件はもう解決に向かってるから! 犯人が捕まるの、時間の問題だから。安心したまえ、うん。無差別に人を攫って殺人、なんて絶対許されないからさ! キバってるよ?」と取り繕うが明らかにどこか誤魔化し気味というか焦ってるというか、そんな空気を感じた特別捜査隊高校生メンバーの視線が足立に刺さっていく。と、足立は「も、もう行かないと!」とやはり誤魔化すようにそう言って足早に去っていった。

 

「なぁんか、頼りになんねーな……けど、流石に警察で手配中じゃ、俺達の出る幕はないか……」

 

「そっスね」

 

陽介がはぁとため息交じりに言い、完二もそれに頷くと空気がどんどん重くなっていく。

 

「そ、そうだ。テストで分かんないとこあったんだけど」

 

と、りせがテストで分からないところがあったと話題を提起する。

 

「“銀鏡反応に使われ、40%溶液がホルマリンとして知られる、化学式HCHOとは何か?”……だっけな。でさ、“HCHO”って、何?」

 

「ああ、ホルムアルデヒドのことか?」

 

りせの質問に真が即答。りせは「そうなんだ!」と感嘆の声を上げ、「酢酸にしちゃったけど、お酢なワケないよね」と冷静になってから自分の解答のおかしさに気づく。続けて「完二もこの問題出たでしょ?」と聞くと完二は「完二って呼ぶな」と返す。と、りせはむっとしたように唇を尖らせた。

 

「完二、私には冷たくない? 先輩達には鼻血出してんのに」

 

「は、鼻血って、オメっ、それどっから!?」

 

りせの言葉に完二が声を裏返し、千枝が誤魔化すように「勉強なら雪子に訊いたら?」というがりせは「せっかくなら異性の先輩に訊きたいでしょ?」となんでもない表情で返す。

 

「先輩、私のこと……迷惑ですか?」

 

次にどこか悲しげな表情で真にそう聞く。

 

「え、いや……別に、このくらいなら助けにならん事も……」

 

なんか押せ押せなりせに真もたじろぐ。千枝が「すげー」と声を漏らした後話題を変えようと「そういえばクマくんってどうしてんのかな?」と言った。と、陽介が「あ、そっか」と呟く。

 

「連絡すんの忘れてた」

 

そう言って彼は一つの方に顔を向け、全員が陽介の見ている方を見る。その視線の先ではクマが着ぐるみを着て風船を子供達に配っている。

 

「住み込みで働かせることにしました。マスコット」

 

「あーむしろ着せたんスね。逆転の発想だ」

 

陽介の言葉に完二が感心したように頷く。陽介曰く「あっちに帰んのイヤって言うから、しょーがなく」との事らしく、陽介がしばらく生活費を立て替えるという事を条件に陽介の家に下宿させる事になったとのことで、人懐っこい性格から陽介の母にも気に入られ、陽介の父にも「働かざるもの食うべからず」と、彼が持っていた着ぐるみをマスコットにしてジュネス八十稲羽店に採用されたらしい。

 

「……暇だから、からかってくッかな」

 

そう言う陽介に真っ先に千枝が同意して、完二がふかふかのクマに触れないかと呟いて席を立つ。雪子も無言で陽介達よりも早く席を立ち、陽介達はクマの方へと向かう。真も席を立ち、皆の後に続こうとすると「ね、先輩」と、りせに呼び止められた。

 

「学校も慣れてきたし、これからはもっと色々、遊びに行きたいなって思ってるの。でね、私ほら、やたら人に知られてて一人じゃ不安だし……それに先輩、色んな事知ってそうだし……」

 

「ああ。遊ぶなら付き合おう」

 

「ホント? やった!」

 

りせのお願いを真は快く了承、りせは嬉しそうにぴょんと跳ねる。その屈託のない好意を受け、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“恋愛”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。

 

「……なら早速だが、明日日曜だし。どこか遊びに行くか?」

 

「え? ホント? うん! じゃあ店番が終わったら遊ぼう!」

 

真の提案にりせは嬉しそうに頷き、二人は連絡先を交換。明日遊びに行くという約束を取り付けたりせは携帯を嬉しそうにぎゅっと握りしめた後、悪戯っぽい笑顔で「じゃ、クマイジりに行きましょ」と言うとクマを呼びながら、現在陽介達と談笑しているクマの方に歩いていく。真もその後に続くように歩き出した。




前回はかなり空きましたが、今回は割と流れが思いついてた感じに乗ってくれたので早く書き上げる事が出来ました。今回は事件解決? ってのと期末テストにちょっと思いついたのでオリジナルっぽい展開を入れてみました。ここに関してはオチまで頭の中で決定してますのでお楽しみに。やっぱ同年代で同じ部活の同性ってだけあって一条や長瀬は話に組み込みやすいわ。特に一条は里中が好きという設定があるからイジりがいがある♪
ま、そういうわけで次回も頑張りますね。今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。