ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第三十話 本当の自分

テレビの中の世界、久慈川りせの抑圧した精神から出来たという場――特出し劇場丸久座。真達はそこを突破し、巨大な扉を開いてその中へと突入したのだった。

 

「いた!」

 

千枝が叫ぶ。丸久座の最奥の場、それは部屋全体は円形状で中央にはこれまた円形状のステージ、そのステージの中央には天井まで伸びる一本の棒――ポールがあった。そのステージ中央に、黄色の水着に身を包んだ少女――久慈川りせのシャドウが立っている。

 

「見ろ、本物も居るぞ!」

 

さらに陽介が続けて叫ぶ。りせのシャドウが見下すように見ている先。そこに丸久豆腐店の制服と言うべきか、割烹着に身を包み三角巾を被っているりせが項垂れた状態で膝を地に着けている。

 

[キャーハハハハハ!! 見られてるぅ! 見られてるのね、いま、アタシィィ!!]

 

「やめて!」

 

りせのシャドウはステージ中央に伸びるポールに掴まってくねくねと踊りながらテンション高く叫び、それにりせが弱々しい声で叫ぶ。

 

[んっもー! ホントは見て欲しいくせに、ぷんぷん!]

 

しかしりせのシャドウはそう、甘えるような声を出す。

 

「こぉんな感じで、どぉ!?」

 

そう言ってりせのシャドウは再びポールに掴まっていやらしく踊り出す。

 

「もう……やめてぇ……」

 

それに対しりせはただ弱々しく呟く。

 

「皆、いくぞ!」

 

「ああ!」

 

しかし律儀に付き合っている理由もなく真が叫ぶと陽介がいち早く頷いて駆けだす。が、その時天井から太っちょの警察官型シャドウ――固執のファズが無数に現れてきた。

 

「げっ、またこいつらかよ!?」

 

「皆、椅子の後ろに隠れるんだ!!」

 

陽介が嫌そうに叫ぶと命が咄嗟に叫び、その指示に従って全員が椅子の後ろに飛び込む。その直後ファズの集団は銃を真達が立っていた方に向け一気に乱射する。

 

[お客さまぁ? 踊り子には手を触れず、マナーを守ってご覧ください?]

 

りせのシャドウが自分を抱きしめ、やれやれと呆れた様子でそう言った。

 

「くそっ!」

 

椅子の後ろに隠れながら真はくそっと毒づいて右手に精神を集中、ペルソナカードを具現すると握り潰すように砕く。

 

「来い、イザナギ!!」

 

「頼む、ジライヤ!!」

 

「いくわよ、トモエ!!」

 

「お願い、コノハナサクヤ!!」

 

「砕け、タケミカズチ!!」

 

「カモン、オルフェウス!!」

 

真がイザナギを召喚するのを皮切りに陽介達もペルソナを呼び出し、それぞれのペルソナとシンクロする。

 

「一気に行くぞ!!!」

 

そして真が叫び、ペルソナ達はファズの集団へと斬り込んだ。

 

 

 

「もう、やめてぇ……」

 

[ふふ、おっかしー。やめてだってー]

 

一方りせはこの極限の状況のせいでそれに気づいていないのかただ弱々しくやめてと繰り返し、それにりせのシャドウはおかしそうに笑う。

 

[ざぁっけんじゃないわよ!!]

 

その直後キレたような怒鳴り声を上げる。

 

[アンタはあたし! あたしは、アンタでしょうが!!]

 

「違う……違うってば……」

 

りせのシャドウの言葉にりせはただ弱々しく違うと呟く。

 

 

 

「まずい……里中さん! こいつら吹っ飛ばすよ!! 巽君! 真君達に突破口を!!」

 

「はいっ!!」

「了解ッス!!」

 

命は今までの経験からこのままではまずいと判断し、千枝と完二向けて叫ぶとオルフェウスの召喚を解除。新たなペルソナを心の海から準備すると拳銃型の召喚器をこめかみに当てる。

 

「来い、ナタタイシ! 電光石火!!」

「トモエ、疾風斬!!」

 

命が呼んだペルソナ――ナタタイシが高速で動き回ってファズに体当たりし、さらにトモエが薙刀を振るい真空波を発してファズを吹き飛ばす。

 

「タケミカズチ、デェッドエンドォッ!!!」

 

さらにタケミカズチが雷の形をした剣を振るい、前方のファズを薙ぎ払う。

 

「ここは僕と里中さんと巽君に任せて、皆は急いで!!」

 

「了解っ!!」

 

命の言葉に真も頷き、真、陽介、雪子、クマはファズの集団を命達に任せステージ向けて走り出す。

 

 

 

[キャハハハ!! ほら見なさい、もっと見なさいよ! これがあたし! これがホントのあたしなのよぉぉ! ゲーノージンのりせなんかじゃない! ここにいる、このあたしを見るのよ!! ベッタベタなキャラ作りして、ヘド飲み込んで作り笑顔なんて、まっぴら! “りせちー”? 誰それ!? そんなヤツ、この世にいない!! あたしは、あたしよぉぉぉ! ほらぁ、あたしを見なさいよぉぉぉ!]

 

「わ、たし……そんなこと……」

 

りせのシャドウはポールに掴まって踊りながら不満を吐き出すように叫び続け、それにりせは弱々しく呟く。と、りせのシャドウはいやらしく笑って踊るのを止め、水着に手をやる。

 

[さーて、お待ちかね。今から脱ぐわよぉぉ! 丸裸のあたしを、焼きつけなァ!]

 

「やめ、て……やめてぇぇ!」

 

そう言って水着を脱ごうとするりせのシャドウ。それにりせはついに我慢の限界が来たように叫び、自身のシャドウを睨む。

 

「あなたなんて……」

 

「! だめ、言っちゃダメ!!」

 

りせが叫ぼうとしている言葉をいち早く察知した千枝がファズを蹴り飛ばしながら叫ぶ。

 

「あなたなんて……私じゃない!!!」

 

しかし一歩遅く、りせは禁断の言葉を吐いてしまった。

 

[うふふ……ふふ、あはは、オーホホホホッ!! きたきたきたぁ!!]

 

りせのシャドウは高笑いをし、みなぎってきたように叫ぶ。そしてりせのシャドウを黒い影が取り囲み始めた。

 

[これで! あたしわぁ、あたしィィッ!!]

 

叫び、りせのシャドウを中心に衝撃が走り、りせは吹き飛ばされるとステージから叩き落とされる。

 

「あぶねぇっ!!! ジライヤ!!!」

 

しかしりせが床に叩きつけられる前に陽介がジライヤに指示を出し、ジライヤは忍者のようなスピードでりせの方に飛び込むと彼女をキャッチする。

 

「クマ! りせちゃんを頼む!!」

 

「分かったクマ!」

 

陽介は戻ってきたジライヤの抱えるりせをクマに任せ、さっきまでりせのシャドウが立っていたステージを見る。さっきまでりせのシャドウがいた場所にいる異形は目が痛くなりそうな極彩色の裸体をし、その顔にはアンテナをまるで仮面のようにつけ、ポールに足を絡めて逆さ吊りのような姿勢でゆらゆらと揺れていた。

 

[我は影、真なる我……さあお待ちかね、モロ見せタ~イム。フフフ……特等席のお客さんには……メチャキッツーいのを特別サービスよッ!]

 

「やっぱり色々悩みとかあったんだな……けど、必ず暴走は止めてやる!」

 

りせのシャドウがゆらゆらと揺れながらそう叫び、その姿を見た陽介が短刀を両手にしながら叫んでペルソナカードを具現。真と雪子もペルソナカードを具現化する。

 

[あらぁ? ステージの上に手ぇ出そうっての? 勘違いなお客……更にキツいのがいるかしら!!??]

 

りせのシャドウがそう叫んだその瞬間、真はイザナギを、陽介はジライヤを、雪子はコノハナサクヤを召喚した。

 

「アギラオ!!」

 

[くっ!?]

 

コノハナサクヤが炎を放ち、その先制攻撃をりせのシャドウはポールに絡めた足に力を込めて動き、かわす。

 

「スラッシュ!!」

「パワースラッシュ!!」

 

[ぐあっ!?]

 

しかしそこに相手の移動先を予測していたイザナギとジライヤがそれぞれ刀と手裏剣でりせのシャドウを斬り裂いた。

 

[このっ!!]

 

りせのシャドウはイザナギを睨みつける――顔がアンテナになっているのでその表現でいいのかは疑問だが――と、その瞬間イザナギの姿が消え去った。

 

[なっ!?]

 

「チェンジ! モスマン! ジオンガ!!」

 

[あぁっ!?]

 

真は瞬時にペルソナを変え、蛾人間(モスマン)の放つ落雷をりせのシャドウはその身に受ける。

 

「もらった!」

 

その隙をついた陽介が叫び、ジライヤが飛びかかる。

 

[もっと見てぇ……]

 

が、その時りせのシャドウが甘えたような声を出すと自分の股間を開き陽介へと見せつけた。

 

「なっ!?」

 

シャドウだが人間型、それもりせのシャドウが変化したものであるためか陽介は赤面して怯む。

 

[隙ありっ! ジオ!!]

 

「があああぁぁぁぁっ!!!」

 

直後陽介を落雷が襲った。

 

「花村君っ!!」

 

[またまた隙ありぃっ!!]

 

雪子が焦ったように叫ぶ。が、その隙をりせのシャドウは見逃さなかった。

 

[マハブフッ!!]

 

「っ、きゃああぁぁぁっ!!」

「チェンジが間に合わな……ぐあああぁぁぁぁっ!!」

 

雪子と真を氷の弾丸の雨が襲い、弱点である氷の攻撃に二人は怯む。

 

[キャハハハ、どう、楽しんでる? ホントのあたしは、まだまだこっから……壊れちゃったりしないでよねッ!!]

 

「くっ……」

 

りせのシャドウが楽しそうに揺れながらそう言い、真は刀を一閃しその勢いで身体についてた氷の欠片を払いのける。

 

「タケミカズチ、デッドエンド!!」

 

[な、あぐぅっ!!]

 

その時タケミカズチがその場に乱入、巨大な拳でりせのシャドウを殴り飛ばす。

 

「雪子、椎宮君、あと花村! 大丈夫!?」

 

「あいつらは全員片づけたッス!!」

 

「こっからは僕達も参戦するよ」

 

ファズの集団を相手取っていた千枝、完二、命が合流。ペルソナ達も陣形を取った。

 

「いくぞ、天城!」

 

「うんっ!」

 

陽介が雪子に合図を出し、雪子も頷くとジライヤとコノハナサクヤが構えを取り、コノハナサクヤは両手を掲げそこに炎を集中する。

 

「アギラオ!!」

 

そして雪子が合図を出し、コノハナサクヤは炎を放つ。

 

[うふふ、当たら――]

「マハガル!!」

[――なっ!?]

 

その炎を揺れる勢いを利用してかわそうとするりせのシャドウだったが、その逃げ道を塞ぐように無数の竜巻が現れてりせのシャドウの動きを封じる。

 

[ああああぁぁぁぁぁっ!!!]

 

そしてコノハナサクヤの放った炎がりせのシャドウに直撃、りせのシャドウは焼かれる痛みに悲鳴を上げた。

 

「そこよ! トモエ、黒点撃!!」

 

そこにトモエが突進、一点に威力を集中した蹴りを叩き込む。

 

[がはっ……]

 

りせのシャドウは苦しげに息を吐き、蹴りの勢いでポールから引き剥がされステージ外に落っこちる。

 

「まだだ! タケミカズチ、パスタアタック!!」

 

しかしステージ後ろに回り込んだタケミカズチがアッパースイング気味に追撃を決め、りせのシャドウの身体が再びステージへと打ち上げられる。

 

「いくよ、真君! 来い、オルトロス!!」

 

「了解! 来い、イザナギ!!」

 

命は真に合図を送って双頭の犬(オルトロス)を呼び出し、真はイザナギを呼び出すとまるで騎馬兵のようにオルトロスに跨り、オルトロスは一気にりせのシャドウ目掛けて突進する。真はそれを見て四本の赤い剣が描かれているカードを構えた。

 

「スキルカード、発動!」

 

真が叫ぶと同時にカードに書かれている剣が光を放ち始め、その光がイザナギを覆っていく。そしてオルトロスがりせのシャドウ目掛けて飛びかかったその瞬間、イザナギの刀とオルトロスの牙に光が宿った。

 

「パワースラッシュ!!!」

「剛殺斬!!!」

 

[ああああぁぁぁぁぁっ!!!]

 

イザナギの刀が斬り裂き、オルトロスの牙が噛み千切る。その二重攻撃にりせのシャドウは悲鳴を上げてポール横へと落っこちた。

 

「やったか!?」

 

陽介が叫ぶ。が、りせのシャドウはまだ戦闘不能には至らないのか再びポールの上にぶら下がる。

 

[フフフフフ……そぉーれっ!!]

 

りせのシャドウは怪しく笑うと自分から、緑色の、上から見たら正方形状になる緑色の光の線を放ち、真達がその光に当たると緑色の正方形状の光が枠になって一瞬真達を囲み、さらに上から光が降りてくる。まるで真達をスキャンしたかのような動きだ。

 

[おさわりは禁止だから。キャハハッ!]

 

「……一斉攻撃だ!!!」

 

『了解!!!』

 

未知の攻撃に対し、真達はまた何かされる前に攻撃を決意。一斉攻撃を指示し、それに陽介達も頷く。

 

「くらいやがれ、ガルーラ!!」

「受けやがれ、ジオンガ!!」

 

[キャハハハハ!!!]

 

ジライヤとタケミカズチがそれぞれ竜巻と落雷を一直線に繰り出して攻撃をしかけるが、りせのシャドウはそれをポールを支点に踊るようにかわす。

 

「「なっ!?」」

 

「だったら直接! 暴れまくり!!」

「援護して、マハラギ!!」

 

[おぉ~とっとぉっ♪]

 

男子二人が絶句し、千枝は魔法攻撃がダメなら直接ぶん殴るとでもいうようにトモエに接近戦を指示、光を纏った薙刀で連続して斬りつけるがその全ての斬撃、さらには援護に放たれた火球さえもりせのシャドウは全てかわした。

 

「イザナギ! スラッシュ!!」

「オルフェウス! 突撃!!」

 

[見え見え~っ♪]

 

その隙に背後に回り込んでいたイザナギとオルフェウスが斬りかかり殴り掛かる。が、死角から放たれたはずの攻撃をもりせのシャドウはまるで後ろに目がついているかのようにかわしてしまった。

 

[アンタたちのことは全てお見通し……キャハハッ!]

 

「なんなの、アイツ!? 全然、こっちのが当たんないじゃん……」

 

「くそっ、攻撃が全部読まれてるみたいだ……」

 

千枝が悔しそうに叫び、陽介もそう呟く。

 

「ク、クマ、なんの役にも立たんクマ……」

 

その後ろでクマが何の役にも立たない自分に頭を抱える。と、りせのシャドウは再びさっきの光を放ってくる。

 

「くそ、またか!? なんなんだこりゃ!?」

 

「この力って……」

 

陽介が叫び、クマが呟く。

 

「多分、こっちを探ってるクマ!……ちょっと、まずいクマ!!」

 

「そうか、このシャドウ! ユノと同じ解析タイプか!?」

 

クマが叫ぶと命も合点がいったように叫ぶ。

 

[はーい、解析完了ォ!]

 

直後、命の予測を肯定する意味の言葉をりせのシャドウは放った。そしてりせのシャドウはポールから降りてステージに足をつける。

 

[反撃、いっくよー!!]

 

そう言ってポールに手をやった瞬間、ポールが外れてりせのシャドウはまるで銃のようにポールの先端を真達に向ける。

 

「発射ー!!!」

 

「や、やめるクマ!!」

 

クマが叫ぶがりせのシャドウは構うことなくポールの先端から火、氷、風、雷のエネルギー弾を放つ。

 

『ぐあああぁぁぁぁっ!!!』

 

それぞれイザナギとタケミカズチには風のエネルギー、オルフェウスとジライヤには雷のエネルギー、トモエには火のエネルギー、コノハナサクヤには氷のエネルギーと、各々のペルソナの弱点が直撃。ペルソナとシンクロをしている真達にもダメージが通り苦痛の悲鳴を上げる結果になる。

 

[キャハハハハ! バッチリダメージ-!!」

 

「く、くそっ……」

 

「このままじゃやられる……」

 

りせのシャドウが笑いながら言う。弱点攻撃の直撃を受けた千枝と雪子はお互いを支えて立っているのが精一杯、完二も苦しそうに胸を押さえて膝をつき、陽介は大の字になって倒れている。息を荒げている真が唸り声を上げると、基礎体力の違いかまだ高校生達と比べて余裕のある命が呟き、直後一計を思いついたのか真達を見る。

 

「皆! 一塊になるんだ!!」

 

「そうか! あの攻撃は俺達の弱点を狙ってくる! 一塊になれば、うまくやればそれぞれの耐性を狙って防御できるかもしれねえ!!」

 

命の言葉に陽介がその指示の意味をそう解釈、力を振り絞って起き上がると彼らは一塊に集まり、ペルソナ達も円陣を組む。

 

[もういっちょー!!!]

 

直後りせのシャドウがポールからエネルギーを発射。

 

「くるぞ! 自分のペルソナに耐性があるやつを狙って、仲間を守るんだ!!」

 

陽介が合図を送り、全員が宙を走るエネルギー弾をじっと見切るように見る。

 

「花村君、はずれ」

 

と、命が突然そう言う。

 

「え?」

 

「こうでもしないと……皆を守り切れないんだ」

 

「先輩、何を……」

 

命の言葉に真が呟く。

 

「死ぬはダメだ……皆は僕が守る!! ゆけ、オルフェウス!!!」

 

命が叫び、オルフェウスは躊躇うことなく空中へと飛び上ると合計六発分のエネルギー弾を……全てその身へと受けた。

 

「ぐああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

シンクロしている、いや、していなくとももう一人の自分であるペルソナに大ダメージが通った命は悲鳴を上げる。

 

「が、はっ……」

 

そしてエネルギーの弾雨が止んだ瞬間、命が倒れ込み同時にオルフェウスが消える。

 

「せ、先輩!!!」

 

[キャッハハハハ!! かっこ悪いのー!!」

 

真が叫び、りせのシャドウが嘲笑う。それに真は怒りのままにりせのシャドウを睨みつけるが、その時には既にりせのシャドウは攻撃態勢へと移っていた。

 

[そーれぇっ!]

 

三度放たれるエネルギー弾、今度こそイザナギ達を撃ち抜いたその衝撃に真達も吹っ飛ばされる。

 

[そんじゃーそろそろー。あんたら、消しちゃおっかなー]

 

りせのシャドウが無邪気にそう言うと同時、現在りせのシャドウが武器にしているポールと同じものが四本、空中から落っこちてくる。

 

「ウソだろ……こんな……」

「か、勝てないって、こと?」

「わ、私達……し、死んじゃうの?……」

「ヤベェ……」

 

攻撃が通じず、相手の攻撃は確実にこちらの急所を狙ってくる。その状況に陽介達の心に諦めの感情が芽生えた。

 

「ダメクマ!! し、死ぬとか絶対ダメクマよ!!」

 

「クマ……久慈川さんを連れて逃げるんだ……」

 

「み、みんなを見捨てて……クマだけ?……」

 

リーダーである真もクマにりせを連れて逃げるように言う。それにクマはそう呟き、

 

「そんな事出来ないクマ!!」

 

首を横に振って叫ぶ。

 

「クマは、また独りぼっちになるの?……いや、いやクマよ……」

 

クマは頭を抱えてそう呟く。と、その時りせのシャドウが再びあの緑色の光を放ってきた。

 

「チィッ……またやりやがる気だ!……」

 

[はーい、またまた解析、完了ォ!]

 

りせのシャドウは無邪気にそう言ってさっき落ちてきた四本を合わせて五本のポールを真達に向ける。

 

[さよなら……永遠にね!!]

 

りせのシャドウがそう言い、エネルギー弾を発射しようとした瞬間、クマがりせのシャドウの前に立つ。

 

「か、考えるより先に、か、身体が……な、なに前に出てんだ、わしゃあ!?」

 

クマはその行動に自分でも驚いており「ぬおぉうっ!」と叫ぶ。

 

「と、トンデモない事をしでかしそうでクマっている自分っ!! こ、こうなったら、やってやるクマ!」

 

最初こそ驚いていたがクマは覚悟を決めた様子で叫ぶ。

 

「クマの生き様……じっくり見とクマーッ!!」

 

クマが吼えた瞬間、クマの身体が金色の光に包まれる。

 

[……!? なにこの反応、すごい高エネルギー……]

 

りせのシャドウは己の解析能力でクマのエネルギーを感知。

 

「ぬおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

その直後、クマがりせのシャドウ目掛けて突進する。

 

「く、来るなああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

咄嗟にりせのシャドウが五本のポールの先端をクマに向ける。

 

「「やめろおぉぉっ!!」」

 

陽介と完二が叫び、雪子と千枝が目を瞑り逸らす。直後ポールの先端から放たれたエネルギーがクマに直撃。

 

「クマーッ!!!」

 

真が必死に叫ぶ。が、その直後、クマはそのエネルギーをかき分け、少しずつ前に進んでいくのを見た。

 

「ぬ、ぬおおおぉぉぉぉうっ……とりゃーっ!!!」

 

クマはついにエネルギー弾を放っているポールの先端へと飛びつき、その砲口を抑え込んだ。エネルギーの出ていく先がなくなり、ポールの裂け目から光が差していく。

 

[ぼ、暴発する!?]

 

りせのシャドウが叫ぶがもう遅く、ポールはりせのシャドウとクマを巻き込み暴発の大爆発を起こした。

 

『クマーッ!!!』

 

真達のクマを呼ぶ声が響くと同時、彼らの視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

閃光が消え、真達の視力が回復すると紙のようにペラペラになり煤けたクマの姿が目に映った。ステージの向こうには戦闘不能に陥ったのか元の姿に戻っているりせのシャドウの姿もあるが、今は気にしていられない。

 

「クマ!! バカが……無茶しやがって……」

 

完二が叫び、次に呟く。

 

「クマ……みんなの役に立てたクマか?……」

 

「立ったどころじゃねーよ……命の恩人だよ!」

「うん……かっこよすぎ」

「逆ナンして……いいよ」

 

クマの言葉に陽介、千枝、雪子が涙声になりながら次々にクマの功績を称える。

 

「そか……よかった……独りぼっち、いやだから……」

 

クマはそう呟き、ペラペラの姿で立ち上がる。

 

「な……なんじゃこりゃああ!!」

 

直後、自分の状態に悲鳴を上げ、自慢の毛並みがボロボロになっていることに嘆き始める。

 

「……とりあえず、死にそうではないな」

 

「ああ。むしろ俺らが死にそうだし……」

 

その様子に真が呟き、陽介はそう呟くと彼らはりせのシャドウの方へと走る。そこにはいつの間にか目を覚ましていたりせの姿がった。

 

「久慈川さん!」

 

「あ、この前豆腐を買いに来た……」

 

りせのシャドウを見下ろしていたりせは、真の呼び声で振り返り彼の事をそう呼ぶ。

 

「ごめん……なさい……私のせいで……」

 

そして彼らがなんでここに来たのかなんとなく分かったのか頭を下げて謝る。

 

「もう無理しなくていい」

 

「……え?……うん。いつ以来だろ……そんな事言ってもらったの……」

 

真の言葉にりせは一瞬驚いたように声を漏らした後うんと頷き、何か安心したように微笑む。それから彼女は再び自分のシャドウに向き直った。

 

「起きて……」

 

りせが呼ぶと、彼女のシャドウも起き上がる。りせは、その瞳を真っ直ぐに見据えた。

 

「ごめん……今まで、ツラかったね。私の一部なのに、ずっと私に否定されて……」

 

まず最初に彼女は自分のシャドウに謝る。

 

「私……どの顔が“本当の自分”か、考えてた。けど……それは違うね。そんな風に探してちゃ……」

 

りせはそう語る。

 

「“本当の自分”なんて……どこにもない」

 

「本当の自分なんて……ない?……」

 

彼女の言葉に後ろの方でクマが呆然とした様子で呟く。

 

「あなたも……私も……テレビの中の“りせちー”だって……私から生まれた」

 

りせはそう言って、再び自分のシャドウを真っ直ぐに見る。

 

「全部……“私”」

 

その言葉にりせのシャドウも頷くとその姿が光に包まれる。直後、りせの目の前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。白いドレスを身に纏い、顔はアンテナになっている。さらに両手にはヘッドマウント式のディスプレイを持っている。それをりせは黙って見上げていた。

 

「……ヒミコ」

 

彼女がそう呼ぶと同時、ヒミコはタロットカードとなってりせの前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅵ]、恋愛を意味する数字が書かれていた。そのカードはりせの目の前まで落ちると光の粒子となって彼女を包み込んだ。その光が消えた瞬間、りせは膝を曲げ倒れそうになる。

 

「久慈川さん!」

 

咄嗟に真が彼女を支える。その後ろで陽介が「ずりぃ!」と叫ぶ。

 

「……気を失っているようだ」

 

真が冷静に言い、千枝が「無理ないよ」と言うと雪子も「私達もふらふらだもん」と呟く。それに完二も「確かにな」と賛成した。

 

「とりあえず、一旦外に出ようぜ。りせちゃんもそうだけど、命さんだってやべえ。俺達を庇って大ダメージを受けたんだ……」

 

「そうだね……」

 

陽介の言葉に千枝が賛成し、振り返る。と彼女はぎょっとしたリアクションを見せ、その姿に雪子が「どうしたの、千枝?」と呼びかける。

 

「本当の自分なんて……いない?……」

 

そこにはクマが呆然としたような声でそう呟いていた。

 

「お、おい、クマ……」

 

いつもと違う様子に完二さえもどこか引いたような声になっていた。

 

[“本当”? “自分”?]

 

その時、クマとよく似た、しかし違う声が聞こえてくる。

 

[ククク……実に愚かだ……]

 

その瞬間、クマの背後からまるで浮き出るように、クマによく似た、しかし目が凶暴そうな目つきになっている存在が現れる。

 

「なんだよ、アイツ!?……」

 

思わす身構えた陽介が呟く。

 

「ま、まさか……“もう一人のクマくん”? クマくんの、内面って事!?」

 

と、今までの経験からか千枝がそう叫ぶ。

 

(……?……なんだ、この違和感は?……)

 

その後ろで、りせを支えている真はもう一人のクマ(仮)を見ながら眉をひそめていた。

 

「な、何がどーしたクマ!?」

 

クマも様子がおかしい事に気づいたのか振り返り、

 

「お、おわあ!?」

 

そこにいた存在に驚きの声を上げる。

 

[真実など、得る事は不可能だ……真実は常に、霧に隠されている。手を伸ばし、何かを掴んでも、それが真実だと確かめる術は決してない……なら、真実を求める事に何の意味がある? 目を閉じ、己を騙し、楽に生きてゆく……その方がずっと賢いじゃないか]

 

「な……何言ってるクマか! お前の言う事、ぜ~んぜん分からんクマ! クマがあんまり賢くないからって、わざと難しい事を言ってるクマね!」

 

もう一人のクマに対しクマはそう叫び、「失礼しちゃうクマ! クマはこれでも一生懸命考えてるの!」と続ける。と、もう一人のクマはそれを嘲笑するようにふんと鼻を鳴らした。

 

[それが無駄だと言っているのさ……お前は“初めから”カラッポなんだからね]

 

「!」

 

[お前は心の底では気づいてる……でも認められず、別の自分を作ろうとしているだけさ……失われた記憶など、お前には初めからない。何かを忘れているとすれば、それは“その事”自体に過ぎない]

 

「そ……そんなの……ウソクマ……」

 

もう一人のクマの言葉にクマは力なくそう呟く。

 

[なら、言ってやろうか。お前の正体は、どうせただの――]

「やめろって言ってるクマー!!」

 

もう一人のクマを黙らせようとクマは体当たりを仕掛けるが、逆に弾き飛ばされ地面に倒れてしまう。

 

「クマさん!!」

 

[お前達も同じだ……真実など探すから、辛い目に遭う……そもそも、これだけの深い霧に包まれた世界……正体すら分からないものを、この中から、どうやって見つけるつもりだ?]

 

「真実は必ずある。俺達は、それを見つけてみせる」

 

もう一人のクマの嘲るような言葉に対し真はそう言い切る。と、もう一人のクマはくっくっと笑った。

 

[真実が欲しいなら、簡単な事だ。お前達が“真実”と思えばいいだけさ……]

 

もう一人のクマはそう言い、[では、一つ真実を教えてやろう……]と続ける。

 

[お前達は、ここで死ぬ。知ろうとしたが故に、何も知り得ぬままな……]

 

そう呟いた瞬間、もう一人のクマが、まるで今までシャドウを暴走させた時のように黒い影が取り囲み始める。

 

「くそっ! クマ抜きでこんなのとどうやって戦えば……」

 

攻撃を仕掛けてくると分かっているが今まで支援してくれたクマがいない。その状況に陽介が悪態をつく。

 

「大丈夫、構えて」

 

「久慈川さん!?」

 

そこにりせの声が聞こえ、真は自分が支えているりせを見下ろす。彼女は既に目覚めていた。

 

「ちょ……まさか、その体で一緒に戦う気?」

 

「いや、待て。そういえば先輩はさっき、久慈川さんのシャドウを解析タイプだと……」

 

千枝が慌てたように叫ぶと真がそう呟く。

 

「うん。私は多分、倒れてるその子の代わりが出来るから……今度は、私が助けてあげる!」

 

りせがそう叫んだ瞬間、彼女の掌に現れたペルソナカードが砕け散り、彼女の背後に召喚されたペルソナ――ヒミコが両手に持つヘッドマウント式ディスプレイがりせの頭部に装着された。

 

「よし……だが、この身体じゃ……いや、全力で戦うしか……」

 

支援のめどは立ったが自分達の身体はボロボロ。しかし弱音を吐いてはいられないと真は気合を入れ直す。

 

「心配、いらないよ」

 

そこに、さらにもう一人の青年の声が聞こえた。

 

「先輩……」

 

「死にかけて、コツを思い出したよ……僕の力のね」

 

声をかけた青年――命に真は呟き、命はそう言うと召喚器である銃を構える。額が切れたのか血が流れており、左目が赤く染まっているようにさえ見える。そんな中、命は笑っていた。

 

「見せてやるよ、ワイルドの奥義……ミックスレイド!!」

 

叫び、引き金を引くと共にガラスの割れたような音が響く。さらにその衝撃で命の頭が吹っ飛んだかのように大きく揺れた。そして彼は力を込めるように前かがみになって目の前のものを抱きしめるように両腕を前にやる。

 

「来い、オルフェウス! アプサラス!」

 

そして力を解放するかのように両腕を広げて身体を逸らし、同時に彼の頭上に二体のペルソナ――オルフェウスとアプサラスが姿を現す。

 

「ぺ、ペルソナを二体同時召喚!?」

 

「カデンツァ!!!」

 

真が驚愕に声を上げると命は叫び、オルフェウスとアプサラスはそれぞれオルフェウスは竪琴を鳴らし、アプサラスは舞いを舞う。と、それが真達に癒しの力を与え、真達の傷が一瞬で半分以上癒されていく。

 

「な、すげえ回復力……」

 

「しかもなんか、身体が軽い!」

 

陽介があっという間に癒えていく身体の傷、それほどの回復力を持つさっきのスキルに驚きを覚え、千枝はさらに身体が軽くなった事に感嘆の声を出す。

 

「これで戦えるよね、皆!?」

 

「はい!」

 

命の不敵に笑いながらの言葉に真も頷いて返す。と、同時にもう一人のクマを取り囲んでいた黒い影が膨張し、爆発する。

 

 

[我は影……真なる我……お前達の好きな“真実”を与えよう……ここで死ぬという、逃れ得ぬ定めをな!!]

 

「こんな不気味なのが……あのトボけたクマくんの中に?」

「クマの奴……見かけよりずっと悩んでたみたいだな……俺達で救ってやろうぜ!」

[なんなんだろ、この感じ……あいつ、何かの強い干渉を受けてる?……]

 

[愚かしい隣人ども! さあ、末期は潔くするものだ!]

 

まるで怪獣のように巨大化し、巨大な穴から上半身のみを出した格好で、不気味に化け物のような目を爛々と光らせている姿のクマのシャドウに千枝が呟き、陽介が叫び、ペルソナによる解析支援をしているりせがそう違和感を巡らせる。

 

「皆、いくぞ!」

 

真の叫び、それが開戦の合図となる。

 

「いくぜ、ジライヤ! ガルーラ!!」

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

「トモエ、ブフ!!」

「オニ、デッドエンド!!」

 

一気にジライヤ、コノハナサクヤ、トモエが竜巻、火球、氷弾で攻撃を仕掛け、そこに鬼が手に持っている大剣で一撃を叩き込む。

 

「「タケミカズチ!!!」」

 

そして命と完二が同名のペルソナを呼び出す。

 

「くらえ、僕と巽君の連携攻撃!!!」

「一撃必殺だゴラァ!!!」

 

命が叫び、完二がドスの効いた声で怒鳴ると同時に命のタケミカズチが連続斬りを叩き込み、完二のタケミカズチが一撃重い斬撃をくらわせた後タイミングを合わせて雷撃でシメる。

 

「どうだ!! 終わっちまったんじゃねーの!?」

 

陽介が自信満々にそう叫び、この猛攻で発生した煙目掛けて叫ぶ。と、その瞬間煙が巨大な手で払いのけられた。

 

[この程度か?]

 

そして煙を払いのけた存在――クマのシャドウは傷一つない姿を彼らに見せた。

 

「うげっ、ウソッ!?」

 

[ヒートウェイブ]

 

陽介が驚愕の悲鳴を上げるとクマのシャドウは巨大な右手を掲げ、地面に叩きつける。

 

「飛べっ!!!」

 

咄嗟に真が指示を出して全員ジャンプ。その直後地響きと衝撃波が地面を襲った。

 

「身体が軽い、テメエの攻撃なんざ当たる気がしねえぜおらあっ!!」

 

そのまま完二がジャンプの勢いでクマのシャドウの方まで飛んでいき、持っている鈍器を叩きつける。が、クマのシャドウは怯む様子も見せずに巨大な目で完二を睨みつける。

 

「くそっ!」

 

「コノハナサクヤ! マハラギオン!!」

「ジライヤ! 完二の離脱を援護しろ! マハガル!!」

 

完二が唸り声を上げると雪子と陽介がペルソナに指示、コノハナサクヤが火球を、ジライヤで風の刃を連射してクマのシャドウの気を引き、その隙に完二はクマのシャドウを足場にして大ジャンプ、陽介達の隣へと戻る。

 

「あざっす!」

 

完二のお礼に陽介は「気にするな」と返し、完二はクマのシャドウを睨みつける。

 

「あいつ、とてつもなくかてえッス」

 

「そのようだな。俺達がペルソナと一緒に攻撃するよりもペルソナとシンクロして、ペルソナでの攻撃に集中した方がよさそうだ」

 

完二の言葉に真も頷き、その作戦に彼らも了解と頷く。

 

[相談は終わったか?……マハラクンダ!]

 

クマのシャドウは咆哮と共に不思議な光を放ち、その光を浴びたペルソナ達から守りの力が消えていく。

 

「まずい……」

 

「なぁに、防御力を下げられても当たらなければいいだけの話だよ」

 

防御力を下げられたことに真がまずいと呟くと命はそう言ってペルソナの召喚準備をする。

 

「それより攻め込むよ! クー・フーリン! マハタルカジャ!!」

 

「! 了解! イザナギ、ラクンダ!!」

 

命が呼び出したクランの猛犬(クー・フーリン)が雄叫びを上げ仲間達を鼓舞、真の呼び出したイザナギが光を放ちクマのシャドウの防御力を下げさせる。

 

「ジライヤ、ガルーラ!!」

「コノハナサクヤ、アギラオ!!」

 

まずジライヤとコノハナサクヤが竜巻と炎で攻撃を仕掛け、その威力のある連続攻撃にクマのシャドウは一瞬怯む。

 

「そこだ! トモエ、黒点撃!!」

 

[ぐふっ!?]

 

その一瞬の隙を突いて突進したトモエがその勢いのまま一点に威力を集中した蹴りを叩き込んだ。

 

「まだ終わらねえぜ!」

 

しかしさらにタケミカズチが拳を振りかぶる。

 

「デッドエンド!!」

 

[がはっ!!]

 

真正面からぶん殴り、クマのシャドウの顔面が後ろへと吹っ飛ぶ。と、クマのシャドウは否応なく見せられた空中にクー・フーリンが槍を構えている光景を見てしまう。

 

「突き穿て、クー・フーリン!! ミリオンシュート!!!」

 

[ぐああぁぁぁっ!!!]

 

命が叫びクー・フーリンが投げ放った槍が突如炸裂したかのように分裂、四本の光の矢となってクマのシャドウを貫く。その後光の矢はクー・フーリンの手元に戻り槍へと姿を変える。クマのシャドウは貫かれた痛みに悲鳴を上げるが、再びふんと鼻を鳴らす。

 

[無駄な事はやめろ。抗っても、何も見えはしない……]

 

そう言ってクマのシャドウは穴の中に潜り込む。

 

「ヤロウ! 逃げる気か!?」

 

完二が腕まくりしながら声を上げる。が、その直後クマのシャドウは再び現れた。しかし左腕を上に掲げ、その左手の上に何か凄まじいエネルギーが球体状になっている。

 

[え、何?……やな予感がする……]

 

後ろで解析しているりせが呟く。

 

「一気に叩くよ! クー・フーリン! もっかいミリオンシュート!! 突き穿て!!!」

 

「イザナギ! ジオ!!」

「ジライヤ! ガルーラ!!」

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

「トモエ、ブフ!!」

「タケミカズチ! ジオンガ!!」

 

りせが呟くのを聞いた命は一斉攻撃を指示、クー・フーリンの投げた槍が再び四本の光の矢に炸裂してクマのシャドウを貫き、それを援護するように火、氷、風、雷がクマのシャドウを撃つ。と、クマのシャドウの左手にあるエネルギーがさらに膨張した。

 

[この感じ……攻撃が来るよ、防御して!]

 

「全員! 防御だ!!」

 

りせが叫び、真が防御の指示を叫ぶと全員のペルソナが主を守るように立って防御の構えを取り、真達もそれぞれ踏ん張る構えを取る。

 

[ぬうううぅぅぅぅんっ!!!]

 

『ぐううぅぅぅっ!!』

 

その直後クマのシャドウが左腕を勢いよく振るってそのエネルギーを真達に叩きつける。その威力にペルソナや真達は押されるがどうにかダメージなく乗り切った。

 

「よし、一斉攻撃だ!!」

 

「いくよ、雪子!」

「うんっ!」

 

真が叫び、千枝が合図をすると雪子も頷いてコノハナサクヤを見上げる。それと同時にトモエが飛び上がった。

 

「コノハナサクヤ! トモエにアギラオ!!」

 

雪子は千枝のペルソナに攻撃を指示し、コノハナサクヤは火炎放射をしてトモエを炎で包み込む。

 

「あっついっ、けど、我慢っ!!」

 

トモエとシンクロしている千枝にもその熱が伝わるが千枝はそれを我慢し、今トモエを包んでいる炎よりも燃え盛る気合を込めた目でクマのシャドウを睨みつける。

 

「燃えよトモエッ!! ドラゴン・スピン・キーック!!!」

 

技名の締めに千枝は「ホァチョーッ!!!」と叫び、燃え盛るトモエはドリルのように回転しその勢いを込めた蹴りがクマのシャドウへと叩きつけられる。

 

「いくよ、巽君!――」

「ウッス!――」

 

「「――タケミカズチ!!」」

 

次に命と完二がタケミカズチを呼び、二体のタケミカズチはそれぞれの武器を掲げる。その時天空から雷鳴が轟き、互いの武器に雷が落ちると雷の大剣が完成する。

 

「くらえ、布都御魂(ふつのみたま)!!!」

 

命の技名叫びを合図に二体のタケミカズチが剣を振り下ろし、雷鳴が轟いて雷光がクマのシャドウの身体を走る。

 

「椎宮、合わせてくれ!!」

「分かった!」

 

そして最後に陽介が真に合わせてくれと頼み、真も頷くと三本の赤い剣が描かれているカードを構えた。

 

「スキルカード、発動!」

 

真が叫ぶと同時にカードに書かれている剣が光を放ち始め、その光がイザナギを覆っていく。その瞬間ジライヤが飛び上がり、印を組む。そして陽介が炎の蹴りと雷の剣で黒焦げになり、目も形を保てなくなったかのようにぐにゃぐにゃと歪んでいるクマのシャドウを睨みつける。

 

「いい加減、往生しやがれっ!!!」

 

陽介が叫ぶと同時にジライヤが印を組み終え、イザナギは自分の刀を目の前に構えるとまるで扇風機の羽のように刀を回転させる。

 

「マハガルーラッ!!」

「ガルーラ!!」

 

陽介が叫ぶと共にジライヤがマハガル以上の勢いを持つ無数の竜巻を放ち、イザナギの回転させている刀から竜巻が放たれそれらが竜巻の矢となってクマのシャドウを貫く。

 

[グアアアアァァァァァッ!!!]

 

それがトドメとなり、クマのシャドウは断末魔の悲鳴を上げその全身がまるで焦げていくかのように黒く染まりあがったと思うと影が霧散し、消滅していった。

 

その後に気が付いたのか、クマも立ち上がって真達の前へと移動する。しかし相変わらずペラペラゆらゆらと頼りなさげだ。

 

「あれは、クマさんの一面なの?……」

 

「けど、まさかクマくんにも押さえ込んでた心があったなんてね」

 

雪子と千枝が呟き、クマは振り返るとその前に立つ、元の姿へと戻ったクマのシャドウへと向き直る。

 

「クマ……クマは、自分が何者か分からないクマ……」

 

[……]

 

クマの言葉をクマのシャドウは黙って聞く。

 

「ひょっとしたら、答え無いのかも……なんて、確かに時々、そんな気もしたクマ……だけどクマは、今ココにいるクマよ……クマは、ココで生きてるクマよ……」

 

「きっと見つかる」

 

クマの言葉に真がそう言い、それにクマは驚いたように振り返ると「センセイ」と言う。

 

「ホントに、見つかるクマ?」

 

「ああ。俺達もいるからな」

「しゃーねーな、一緒に探してやるよ」

 

クマの言葉に真が頷くと陽介が口ではしょうがないという様子だが真面目に笑いながら頷く。それに皆が頷き、クマは「みんなぁ!」と嬉しそうな声で言うと「クマは果報者クマ!」と感極まったように話す。と、その時クマのシャドウの姿が光に包まれた。

 

「これって……」

「ペルソナ?……」

 

見覚えのある、というかついさっきりせが自分のシャドウを受け入れた時にも見た光に千枝と陽介が呟く。それにクマが自分のシャドウへと近づいていった直後、クマの前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。ずんぐりとした球体状の身体に細い手足を伸ばし、その両手でミサイルを掲げている。それをクマは黙って見上げていた。

 

「……キントキドウジ」

 

クマがそう呼ぶと同時、キントキドウジはタロットカードとなってクマの前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[ⅩⅦ]、星を意味する数字が書かれていた。そのカードはクマの目の前まで落ちると光の粒子となってクマを包み込んだ。

 

「これ、クマの……ペルソナ?」

 

「それ……すごい力、感じるよ……よかったね、クマ……」

 

クマが驚いたように呟くとりせは相手を元気づけるように微笑みながらそう言い、その言葉が終わった瞬間彼女の身体が崩れ落ち、再び咄嗟に真が彼女を支える。

 

「わ、大丈夫!?」

「そうだよ、いきなりだもん……ごめんね、無理させて……すごく疲れてるのに……」

 

千枝が声をかけ、雪子が慌てたように彼女に謝る。

 

「とにかく、早く外に出よう!」

 

「うん!」

 

陽介が叫び、命が頷いてカエレールを取り出して掲げて、「転移!」と叫ぶ。それと共に彼らは光に包まれ、この場から消えていった。

 

 

 

「りせちゃん、大丈夫? もうちょっとで外だからね?」

 

そして場所は入り口広場へと移り、雪子は現在命に背負われているりせに向けて声をかける。それにりせはこくんと頷きながら、だが私よりもクマをと、クマを心配する言葉を投げかける。確かにクマは現在ペラペラ、クマの身体の構造は未だによく分かってないものの重傷と見て間違いないとは思える。

 

「……お前、大丈夫か? オレら、戻んなきゃなんねえけど……」

 

「しばらく一人にして欲しいクマ」

 

完二の言葉にクマはただそう言う。それに陽介が慌てたように「おい!」と叫ぶとクマは自分の自慢である毛並みがカサカサになった事や鼻が利かず探索で迷惑をかけている事を謝罪する。と、クマは突然寝っ転がって腹筋を始めた。

 

「毛が生え変わるまで、トレーニングにハゲしく励むクマ! 誰も、オラを止める事は出来ね! あ、ソーレ!」

 

「きゅ、急にどしたんだよ……」

 

「話し! かけないで! 欲しい! クマッ!! あ、ソーレ! ふんっ! ふんっ!」

 

豹変したクマに陽介が問いかけるが、クマはそう言って腹筋に励むのみ。

 

「そっとしといてやろうぜ」

 

完二が何かを悟ったように「男には一人で越えなきゃならない時があるもんだ」と話す。それに千枝は「そんなハイブローな話?」とツッコミを入れた。

 

「じゃあ、りせちゃんを僕と天城さんと里中さんで送っていこう」

 

「そうっすね。今はゆっくり休ませましょう……話はその後でいい」

 

命が言い、陽介も今は休ませようと言う。そして千枝が「頑張ってね」とエールを送り、彼らはテレビから出ていこうと歩きだし、真が一番最後に歩き出す。

 

「前にも、言ったけどっ!」

 

と、クマが腹筋しながら真に話しかける。

 

「センセイのっ、力にはっ、どこかっ、特別なものをっ、感じるクマよっ!」

 

腹筋しながらのため変に切れながらの口調だ。

 

「きっとっ、クマにもっ、クマだけのっ、役目があるっ……センセイとっ、いるとっ、そんな気がするっ、クマ! だからっ、それっ、探すためにっ、強くなるクマ! クマーッ!」

 

「ああ。頑張れ」

 

クマの言葉に真は、その燃える瞳を真っ直ぐに見返しながらエールを送る。その時彼はクマとの絆が深まった感覚を覚えた。そして腹筋し続けるクマにもう一度微笑みかけてから、真はテレビを出ていった。




P4Gアニメ化決定おめでとー!!!(挨拶)
さて、まさかのP4Gアニメ化。一体どうなるんでしょうね……普通にやるんじゃあP4Aの二番煎じですし……P4Gの追加要素をどううまく調理していくかが楽しみです。まあ僕としてはマリーちゃんがちゃんと動いてくれればそれで満足ですけどね、あとあいかちゃん。
さて後書き本題に戻って今回はりせのシャドウとクマのシャドウ二連戦です。んで今回から命、ミックスレイド解放です。まあいきなりハルマゲドンとかはいきませんって言うかハルマゲドン使わせる予定は今のとこないのでご安心を……使わせても、アニメでベルゼブフが直斗の影ぶっ飛ばしたみたいな状況ぐらいだと思いますよ。(汗)
ちなみにりせのシャドウでのあの戦い、ギリギリまで、あの皆を庇って戦闘不能に陥った命を守るため綾時が意識のみで参戦しタナトスを解放、りせのシャドウを滅多切りにする。という展開で迷ったんですが、今はニュクスの封印をしているはずの綾時がここに出てきたら納得いく説明させるのめんどくさいし、なによりクマくんの見せ場奪い取るのはやり過ぎかなぁと思ったのでやめましたと裏話をしておきます。
さて本作サブヒロインを予定しているりせちゃんを助けたところで次回どうしよっかな。日常編を考えようか……。
ご指摘ご感想があれば喜んで受け付けますので。それでは。

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