ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第二十九話 テレビの世界、特出し劇場丸久座

「オルフェウス! アギ!!」

 

拳銃を自分のこめかみに当て、引き金を引いた命が叫ぶと同時。目の前の、巨大な岩に仮面をつけたようなシャドウ――無為のバザルトが、命が呼び出したペルソナ――オルフェウスが竪琴を引くと共に放った炎に包まれる。

 

「先輩、後ろから敵が――」

 

その背後からDNAのような二重螺旋構造で形成された人型のシャドウ――ミス・ジェーンが襲い掛かる。が、命はすぐさまそっちに振り向きつつ、オルフェウスを消し自らの心の海より新たなペルソナを準備しつつ再び召喚器である銃の引き金を引く。

 

「タケミカズチ!! ジオンガ!!」

 

それと共に彼の心の海より姿を現した雷神――タケミカズチの咆哮と共に放たれた電撃がミス・ジェーンを粉々に撃ち砕いた。

 

「セ、センパイ凄いクマ!?」

 

「椎宮より数段速ぇ……」

 

辺りの敵シャドウ全滅を確認した後クマが叫び、陽介も唖然とする。そして命はタケミカズチが消えていったのを確認した後学生達の方を向いた。

 

「改めて、これが戦闘の基本だね。相手の弱点を確実に見抜き、その弱点を突く。特に僕や真君のようなワイルド能力者はいくつもペルソナを使い分ける事が出来る。つまりより多くの相手の弱点を突いて攻撃し、味方の力を底上げまたは敵の力を抑え、傷ついた仲間を癒し、さらにはシャドウの得意な攻撃を読みペルソナを入れ替えての防御等応用の効く戦いが出来る。もちろん、それをやれるだけの判断力と知識が必要になるけどね」

 

「は、はい……」

 

命の見せつけた技量の高さに真はぽかんとしながら頷く。と、雪子が「あの」と問いかけた。

 

「その、命さんや椎宮君のワイルド能力って……どういうものなんですか?」

 

「どういうもの、と言われてもね……そもそもとして、君達タロットカードって知ってるかな?」

 

「あの、占いに使うカードですか?」

 

雪子の質問に命が困ったように呟き、逆に質問をすると千枝が首を傾げながら答える。それに命は「そう」と頷くと右手を横に振る。と、二枚のカードがその手に現れる。その内の一枚にはローマ数字の[Ⅰ]、もう一枚には[Ⅻ]と書かれていた。

 

「基本的にペルソナ使いのペルソナは1番の魔術師から12番の刑死者までのいずれかに当てはめられる。花村君は1番の魔術師、里中さんは7番の戦車、天城さんは3番の女教皇、巽君は4番の皇帝。という具合にね」

 

そこまで説明を終えると命はその二枚のカードを消し、再び別のカードを手の中に具現させる。そのカードに浮かび上がっている絵はオルフェウス、それには[0]の文字が書かれていた。

 

「ただ、ごく稀にこのアルカナ番号0番、愚者のアルカナを持つペルソナを持つ者がいるんだ」

 

「!」

 

それを聞いた真がすぐさま自分のペルソナ――イザナギを確認する。

 

「イザナギのアルカナは愚者です!」

 

「僕のオルフェウスもそうだよ。これがワイルド能力者の証と言ってもいいかもしれない。まあ手っ取り早く言っちゃえばペルソナ使いの突然変異体って感じかな? 数字の0、それはなにものでもないがなにものにでもなれる……納得してくれたかな? 正直詳しい説明は難しいんだ」

 

「は、はぁ……要するに才能? みたいな?」

 

命が説明を終えると完二が頭をかきながら答える。

 

「まあ、生まれ持ってのって意味ならその解釈でいいかもね。さあ、そろそろ行こう」

 

「はい」

 

完二の見せた解釈に命は苦笑しながら返した後先に進もうと言い、それに真が頷いて彼らは先に進んでいく。

 

 

「ムムッ!」

 

先に進んでいき、第三層へとやってきた時クマが突然声を出す。

 

「匂う! 匂うクマよ! クマの鼻が何かキャッチしたクマ!」

 

「皆、急ぐぞ!!」

 

クマの言葉を聞いた真が突如目を研ぎ澄ませた真剣な表情で言い、陽介達も頷いて先を急ぐ。

 

「匂いの元はこの向こうクマ!!」

 

そして行く手を阻むある一つのカーテンを指差してクマが叫ぶと真がそれを開き、彼らは中へなだれ込む。

 

「やっと、見つけた!」

 

部屋に入って一番に陽介が叫ぶ。彼らの目の前には黄色のビキニを着た可愛らしい少女――久慈川りせの姿がある。

 

「……けど、やっぱ様子が変」

 

その姿を見た千枝が不安そうに呟くと雪子が「多分また、もう一人の……」ともう種が分かっているかのように呟いた。

 

[ファンのみんな~! 来てくれて、ありがと~ぉ!]

 

久慈川りせ、いや、りせのシャドウがコンサートなどの最初に観客に呼びかけるかのように声を出す。

 

[今日は、りせの全てを見せちゃうよ~!……えぇ? どうせウソだろって? アハハ、おーけーおーけー!]

 

りせのシャドウはそう言って無邪気に、しかしどこか妖艶かつ不気味に笑う。

 

[ならここで……あ、でもここじゃ、スモーク焚きすぎで見えないカナ? じゃぁもう少し奥で、ウソじゃないって、ちゃーんと証明したげるネ!!]

 

 

――マルキュン真夏の夢特番! 丸ごと一本、りせちー特出しSP!――

 

 

りせのシャドウがそう叫んだ瞬間彼女の背後にテロップが浮かび、心なしか普段よりも大きな歓声が響く。その光景に完二は「オ、オレも、あんな風だったんか?……うお……こらキツいぜ……」と絶句し、千枝が「うあ、ざわざわ声、今回スゴい……なんか気持ち悪くなってきた……」とざわざわ声にそんな感想を呟く。

 

「誰かが見えるんだとしたら……早く何とかしないと、これ……」

 

[じゃあ、ファンのみんな! チャンネルはそのまま! ホントの私……よ~く見て!]

 

陽介が呟くのをよそにりせのシャドウはそう言い、[マルキュン!]とポーズと台詞を決めると奥へ向かって走り出す。

 

「ま、待て! 皆、急ぐぞ!」

 

「ああ。イタい話聞かれるだけとは訳が違うって!」

 

真がりせのシャドウに待てと叫んだ後皆に急ぐぞと言い、陽介もそれに賛成して走り出す。が、その先にまるでアイドルの追っかけを防ぐ警備員のように警官型のシャドウ――固執のファズが二体姿を現す。

 

「邪魔だ! ジライヤ、ガルーラ!!」

 

その姿を見た瞬間陽介が邪魔だと叫んで自らの前にペルソナカードを呼び出し、走りながらそれを手に持っている短剣で斬り砕いて己のペルソナ――ジライヤを呼び出し、ジライヤは印を組んで竜巻の槍を固執のファズに放ち、ファズはそれを避ける事もなく、まるで竜巻の方がファズに吸い込まれるかのように突き進む。が、その瞬間、ファズの身体が発光した。

 

「っ!? ぐああぁぁぁっ!!!」

 

「花村っ!?」

 

直後ジライヤの放った中竜巻(ガルーラ)が跳ね返され陽介が吹っ飛ばされる。

 

「疾風反射!? なら!」

 

真は足を止めて右手に精神を集中、ペルソナカードを呼び出す。

 

「まとめて消し飛ばす! マタドール! マハンマ!!」

 

右手でカードを握り砕くと共に現れるのは闘牛士の格好をした骸骨。それがマントを翻すと共に辺りに光の陣が組み敷かれ浄化の光が放たれる。

 

「なにっ!?」

 

しかし、その光を受けたはずのファズは浄化されることなく、その場に佇んでいた。

 

「光無効……こういう奴は」

 

しかしその光を目くらましに命がファズへと突進、ファズの右手の銃から放たれる銃弾を伏せるようにかわしながら相手に足払いをかける。

 

「一発弱めに殴って確かめる!!」

 

足払いで体勢を崩したところに回転の勢いを利用してもう片方の足で蹴りを入れる。その感触に命はよしと頷いた。

 

「打撃は効きそうだ!」

 

「うっし! タケミカズチ、キルラッシュ!!」

 

命の報告を聞いた完二はうっしと頷いて手に持っている鉄板で自らのペルソナカードを砕き呼び出したタケミカズチに攻撃を指示、タケミカズチはファズ目掛けて右手に握る雷の形をした剣により攻撃を加え一気に打ち砕く。

 

「トモエ、アサルトダイブ!!」

 

さらに千枝がトモエに攻撃を指示、薙刀を構え突進の勢いを加えた打撃がファズを打ち砕いた。

 

「よっしゃー!」

「へっ。余裕だぜ」

 

千枝と完二がペルソナを消しながら台詞を決める。ちなみに陽介は吹っ飛ばされた時のダメージを雪子のコノハナサクヤが使う治癒魔術で回復している。

 

「それにしても、まさかいきなり攻撃が反射されるなんて……」

 

「カウンタのようなスキルの他に、ペルソナ自身の資質として無効や反射能力を持つ者もいる。もちろんシャドウもそれは同じ……そろそろ敵を見つけた瞬間先手必勝と攻撃を仕掛ける段階は終わりだよ。強力な攻撃を反射されたらその分こっちが不利になるからね」

 

「あてて……確かに、ほとんど不意打ちでしたよあんなの……」

 

真がさっきの戦いで思った事を呟き、命がシャドウとの戦いでの先輩としてそう言うと、反射攻撃の恐ろしさを身をもって知った陽介が頷く。

 

「とりあえず、そういう相手には敢えて威力の低い攻撃を当てて攻撃が無効化されたり反射されたりしないか試してみたらいい。物理攻撃なら特に楽だね、近づいてぶん殴ればいい」

 

「いや、初見の相手に生身で近づくって命さんじゃないと出来ないと思いますけど……」

 

命が簡単そうに言うのに千枝がツッコミを入れる。確かに初見、一体相手が何をしてくるか予想もつかない相手に対策なしで迷わず突っ込んでいけるのはこの中では命くらいだ。

 

 

 

 

[あれー!? こんなトコまで来るなんて、りせのファンの人?]

 

「……」

 

五階まで上がってきた時、りせの声――正確にはりせのシャドウの声だろう――が聞こえてくる。それに真は厳しい表情でなんとなく虚空を見上げる。

 

[マジ!? りせちー、超うれしー!]

 

しかしその声はそんな厳しい表情など関係なく歓声を上げた。

 

[せっかく来てくれたんだから、特別にサービスしちゃおっかなぁ……でも、ここじゃダメ! りせちーに、あなたの頑張りをもうちょっと見せてほしいな!]

 

嬉しそうな声でまくしたて、[待ってるからね!]の一言の後声が聞こえなくなる。それを聞き流して真はクマから荷物を受け取り、その中からプチソウルトマトを数個取り出すと齧る。

 

「真君、無茶はダメだよ?」

 

「まだ大丈夫です」

 

命が心配そうに声をかけると真は静かにそう返した。ちなみに後ろの方では陽介とクマが特別サービスという一言を聞いて疲れが吹っ飛んだかのようにうひょーと叫んでおり、千枝と雪子が冷ややかな目で二人を見ていた。

 

 

 

 

[ほら、頑張って! もうちょっとだよ! りせ、応援してるから!]

 

「……なんか、こっちは命賭けて必死で助けようとしてんのに逆に明るく励まされるとか……やるせない気分になりますね……」

 

さらに六階へと上がった時に聞こえてくる声に完二がやるせなさそうに呟く。

 

「りせちゃんのシャドウの挑発みたいなもんだよ」

 

その声に命がそう言い、そう思うと彼は突如目を研ぎ澄ませ「それより」と呟く。

 

「敵襲だ」

 

呟くと同時にスラァっと滑らかな金属音を響かせながら剣を抜く。彼らの目の前に現れたのはこの鮮やかというか派手派手しい場所に似合わない戦国の世の武者とでもいうシャドウが二体。

 

「只者じゃない……出来る」

 

よく分からないが普通のシャドウとは何かが違う感覚を覚え、命は呟く。と、その武者姿のシャドウ――雨脚の武者は突然自らを鼓舞するかのように刀を振り上げ、それと共に武者の周囲を光が上がる。

 

「リベリオン、相手の急所を狙い撃つ勘を研ぎ澄ますスキル……皆、気をつけてっ!」

 

命が素早くスキルを分析、自らの記憶のデータベースと照らし合わせて注意を呼び掛けていた瞬間、雨脚の武者の一体が鋭い斬撃を命に放ってきた。

 

「命さん!? コノハナサクヤ、アギラオ!!」

 

雪子がすぐさま扇子でペルソナカードを砕いてコノハナサクヤを呼び出し、炎を放って援護。しかしその炎を浴びた武者は無傷では済まずともほとんどダメージを受けている様子がなかった。

 

「くっ!?」

 

さらにもう一体の武者は真を狙い、急所目掛けて次々と鋭い斬撃をくらわせ真はそれを手に持っている刀で必死に防御していくが武者の猛攻は続く。

 

「ぐぅっ!?」

 

ついに武者の一撃が真の手から刀を弾き飛ばし、武者の持つ刀の刃が返され無防備になった真に狙いが定められる。

 

「タケミカズチ! 俺にラクカジャ!!」

 

「ぐっ!?」

 

しかしそこに突然そんな声が聞こえ、直後真が何者かに突き飛ばされる。

 

「ぐああっ!!」

 

「完二!?」

 

真を庇い斬撃を受けたのは完二。

 

「ジライヤ、テンタラフー!!」

 

だがそこに陽介がジライヤを呼び出して不思議な光を二体の武者に放ち、その光を受けた武者の動きが鈍る。

 

「しめた! 天城さん、巽君の治癒に! 真君花村君里中さん、物理攻撃で一気に決めるよ!!」

 

「「「「はいっ!!!」」」」

 

命は指示を出しながら召喚器である銃をこめかみに当て、真達もペルソナ召喚の準備を整える。

 

「ナタタイシ、電光石火!!」

「オニ、デッドエンド!!」

「ジライヤ、パワースラッシュ!!」

「トモエ、疾風斬!!」

 

ナタタイシが凄まじい速度での突進で攻撃をしかけ、オニの一撃が武者の刀ごと相手を打ち、ジライヤの手裏剣が武者を斬り裂き、トモエが薙刀を振るうと同時に発生した真空波が武者を斬り刻んだ。

 

「強敵だった……天城、完二は大丈夫か?」

 

「あ、うん。椎宮君の身代わりになる前にラクカジャを使ってたみたいだったから、ダメージはあまりなかったみたい」

 

「いっちちち……」

 

真は弾き飛ばされた刀を拾い鞘にしまった後に雪子に完二の具合を尋ね、雪子は治癒を終えた後状態を報告、完二も座ったままいちちと呟くが既に傷は全くなくなっていた。

 

「心配ねっすよ、先輩。こんぐらいの怪我はいつもの事ッス」

 

「そうかもしれないけど、無茶をし過ぎ。君に何かあったらお母さんが心配するだろうし、僕達も悲しいからさ」

 

「……すんません」

 

完二の、真に気を使うような言葉に命は心配そうな表情でそう言い、その言葉を受けた完二は申し訳なさそうにうつむきながら謝る。と、命は「まあでも」と言って完二に手を差し伸べた。

 

「真君を助けてくれてありがとう」

 

「……あざっす、大先輩」

 

そのお礼の言葉に完二も嬉しそうに微笑み、彼の手を取って立ち上がった。

 

「どうやらさっきの敵は、外が雨だから出てきたみたいクマ」

 

「雨?」

 

「うん。クマもよく分からないけど、外が雨とか雷とか、そんな日は出てくるシャドウに特別な奴が増えるんだクマ。この貴重な珍品がその証クマ」

 

クマの説明に命はふんふんと頷く。

 

「なら、珍しいシャドウのようだね……真君、雨の日は普段より危険みたいだけど、どうする?」

 

「……皆がいいんなら、先に進みます。雨の後は霧が出る。今日のこれは明日には止むみたいですけど……だからと言って絶対とは限りません」

 

命の言葉に真は強い意志を覗かせる目でそう言い、陽介達を見る。

 

「皆、さっきは少し不甲斐ないところを見せたけど……もう少し頑張っていけるか?」

 

「当然だ!」

「もっちろん!」

「早くりせちゃんを助け出そう!」

「俺の事は心配いらねッス! 頑丈なだけが取り柄ッスから!」

 

真の言葉に四人は口々に賛成の意見を述べる。

 

「……少しは皆の上に立つリーダーらしくなってきたかな?」

 

その姿を見た命も、ふふっと微笑んでそう呟いた。

 

 

 

 

[うれしい! ホントに来てくれたんだ!]

 

六階に上がった時、そんなりせの声が聞こえてくる。

 

[でも、やっぱりちょっと恥ずかしいからぁ……電気、消すね!]

 

りせの声でそう言った瞬間いきなり辺りが暗くなり、少し前しか見えなくなる。

 

「ムム! 電気を消したって事は……ゴクリ……セ、センセイ! クマ、オトナの階段登るのか?」

 

「何想像してんのよクマ……」

 

クマのテンション上がった声に千枝が冷ややかにツッコミを入れる。

 

「見通しが悪いな……皆、はぐれないように気をつけよう。先輩、バックアタックに注意したいので後ろの警戒をお願いできますか?」

 

「了解」

 

真が冷静に皆に呼びかけ、指示を行う。そして陽介と完二で前方を固め、二番目辺りに真が立って周囲を警戒、雪子とクマは千枝が徹底護衛、殿を命が守るという陣形で彼らは真っ直ぐ進んでいく。

 

「椎宮、前にカーテンがあったぞ!」

 

陽介が言い、今まで行く手を阻んでいたが触れると同時にシャッと簡単に開いていたカーテンに今まで通り触れる。

 

[ああん! もう、気が早いんだから! そこはまだ、ダ・メ! こっちよ、こっち! 早く来て!]

 

だがカーテンは開かず、そんなりせの声が代わりに聞こえてきた。

 

「どうやらこのカーテンはまだ開けられないようだ……他を探そう」

 

真がそう言い、一行は七階の探索を始めた。

 

 

 

 

 

[来てくれたんだね!]

 

七階の奥地、そこにあったカーテンの前に立つとりせの声が聞こえてくる。

 

[いいよ。りせ、心の準備はできてるから……]

 

りせのどこか恥ずかしそうな声にクマと陽介がごくりと唾を飲む。

 

「準備は良い? 真君?」

 

「はい……皆、行くぞ!」

 

命の確認に真は頷き、彼らはカーテンを開けると中に飛び込む。

 

[りせ、初めてなの……やさしくしてね? じゃあ、電気つけるよ?]

 

そのカーテンの向こうにはりせのシャドウが暗い部屋の中立っていた。そして彼女がそう言うと共に部屋が明るくなり、いきなりの光に彼らは一瞬目を瞑る。

 

「ギョギョー!」

 

クマの悲鳴に真達も目を開ける。

 

「「キャーッ!!??」」

 

そして千枝と雪子の女子コンビも悲鳴を上げた。さっきまでりせのシャドウが立っていた場所、そこには真っ白な大蛇が存在し空中で身をくねらせていたのだ。と、その悲鳴を合図に蛇型のシャドウ――淫欲の蛇は身をくねらせてハートマークのようなポーズを取り、周りに淀んだ空気をまき散らしてくる。

 

「ぐっ、なんだこりゃ!?」

 

「皆気をつけて! この空気の中じゃ毒や混乱とかの効果を受けやすくなっちゃう!」

 

陽介が空気を振り払おうとしているのかぶんぶんと短剣を振り回していると命が気をつけるよう叫び、全員が警戒を行う。それと同時に淫欲の蛇は毒をまき散らし攻撃を行う技――バイラスウェイブで攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ!?」

 

攻撃は受けながらも幸い毒までは受けず、真は素早く右手にペルソナカードを具現化する。

 

「オニ、デッドエンド!!」

「タケミカズチ、キルラッシュ!!」

 

真が赤鬼を召喚すると同時に完二も己のペルソナである髑髏の巨人を呼び出し、オニの持つ薙刀とタケミカズチの持つ雷の形をした剣が淫欲の蛇に振り下ろされる。が、蛇はそれを細長い体をくねらせてかわしてみせた。

 

「ジライヤ、ガルーラ!!」

「トモエ、疾風斬!!」

 

だがそこにジライヤが竜巻を起こし、さらにトモエの振るう薙刀からも真空波が発生してその威力が増大。蛇の動きを止める。

 

「オルトロス!」

「コノハナサクヤ!」

 

その機を逃さずに命と雪子がペルソナを召喚、

 

「「アギラオ!!」」

 

二人のペルソナから放たれた炎が蛇を捉え、蛇は悲鳴を上げて地面に落っこちる。

 

「今がチャンスよ! 準備はいい?」

 

雪子が合図をかけ、真達は一斉に武器を手に襲い掛かる。蛇も炎に怯んで攻撃されるがままだったが立ち直ると長い尾を鞭のようにしならせて真達を振り払う。そして再びバイラスウェイブで攻撃をしかけてくる。

 

「ぐぅっ!?」

 

「千枝!」

 

その一撃をかわしきれなかった千枝が攻撃を受けた左足の膝下を押さえて膝をつき、雪子が彼女の方に駆け寄り、千枝が押さえている部分を確認する。その傷跡は紫色に変色していた。

 

「千枝、大丈夫!?」

 

「うん、大丈夫……」

 

「チエチャン、これ使うクマ!」

 

雪子が声をかけ、千枝が少し苦しそうな様子で呟くと荷物持ちであるクマが大慌てで鞄の中からどくだみ茶――テレビの中だと解毒作用が強まるのだ――を渡し、雪子がどくだみ茶を少量千枝の傷口へとかけ、残りは千枝が飲んでいく。と、紫色に変色していた肌の色があっという間に元の肌色に戻った。

 

「相変わらず、四六商店で買ったやつなのに凄いなぁ……」

 

「テレビの中のイメージの力クマ」

 

千枝は空になったどくだみ茶のペットボトルをしげしげと眺めながら呟き、クマはえへんと胸を張ってそう答える。

 

「ま、いいや。とにかくいくよ、雪子!」

 

「任せて!」

 

千枝はまあいいやと言うと雪子に声を投げかけ、雪子も頷く。そして二人は同時にペルソナを召喚すると再び戦線に復帰した。

 

「サティ! マハラギ!!」

 

「ジライヤ! マハガル!!」

 

(サティ)陽介(ジライヤ)が無数の火の玉と風の刃で蛇を牽制し、

 

「タケミカズチ! デッドエンド!!」

 

逃げ道を塞いだところで完二(タケミカズチ)の一撃が淫欲の蛇に決まり、アッパースイング気味に打ち上げられた攻撃によって淫欲の蛇が上空へ吹っ飛ばされる。

 

「トモエ! 脳天落とし!!」

 

そこに千枝(トモエ)の、蛇の脳天目掛けた一撃により蛇は地面に叩きつけられた。

 

「インキュバス!」

「コノハナサクヤ!」

 

さらに(インキュバス)雪子(コノハナサクヤ)が追撃の準備をし、

 

「「アギラオ!!」」

 

その炎が再び淫欲の蛇を焼き尽くし、蛇はついに影のように真っ黒な粒子となり四散する。

 

「……お、明るくなった。これで先に進みやすくなったな」

 

「じゃあ、この部屋を調べたらさっきのカーテンの場所に戻ってみよう」

 

陽介の言う通り、シャドウを倒した瞬間この階層の全域が明るくなり、真がそう指示をして彼らは部屋を調べる。が、特に目立つようなものはなく、あったのは奥の方にあった宝箱に入っていたアムリタソーダ一つのみ。とりあえずそれを荷物入れ用の鞄に入れてから、一行は一度さっき陽介が見つけた開かないカーテンに場所に戻っていく。

 

「……い、いくぞ?……」

 

陽介が片手に短剣を準備しながらもう片方の手でカーテンに触れようと手を伸ばす。また何かの不意打ちがくるのではないかという警戒で、真達も武器を構えている。そして陽介が手を触れると共にカーテンが開き、真達は注意深くその先を調べる。が、そこにあるのは階段だけだった。

 

「ふぅ……よし、先に進もう」

 

真が一度警戒を解いて先に進もうと号令をかけ、真達は上の階層へと進んでいった。

 

 

 

 

 

[理想の男性は……うーん……やさしくて清潔感がある人かな?]

 

十階に上がってきた時、そんなりせの、先ほどから続くインタビューにでも答えているかのように明るい声が聞こえてくる。が、特に真達はその内容に興味を示している様子はなかった。

 

「見た目より、中身……」

 

ただ一人、容姿よりも中身が大切だと語るりせの声に、物理的な意味で中身のないクマを除いて。

 

「行くよ、クマ君」

 

と、命がクマの頭の後ろを優しくぽんと叩いてそう言い、真も刀を一、二回素振りをしてから構え直した。

 

「一気に突破するぞ!」

 

『おうっ!!!』

 

真の号令に陽介達が声を上げて士気を上げ、彼らは一気に十階を走り出した。

 

「おらぁっ!!!」

 

大きな球体に大きな口を開き長い舌を出しているシャドウ――妄言のアブルリーを完二が殴り飛ばし、

 

「やぁっ!!」

 

人の手を象り手首部分に顔を付けたようなシャドウ――キリングハンドを千枝が蹴り飛ばし、

 

「アギラオ!!」

 

下がピラミッドを逆にした形状に尖った椅子に座っているシスター風のシャドウ――解放のマリアを雪子が召喚したコノハナサクヤが炎を放ち焼き尽くす。

 

「花村! クマ! 大急ぎでこの辺を調べて階段を探してくれ!!」

 

「分かった!」

「了解クマ!」

 

鉄球と鎖で繋がれているライオン型のシャドウ――スレイヴアニマルを真は刀で押さえつけながら陽介とクマに指示を出し、二人は頷いて手近なカーテンを触っては開けて階段がないか探していく。

 

「クマックマッ!」

 

クマは息を切らしながら走り、一つのカーテンを開ける。と、その先には階段があった。

 

「か、階段見つけたクマーッ!!!」

 

クマは喜びを全身で表現しているかのように両腕を振りぴょんぴょんと飛び跳ねて大声を上げる。と、クマを突然大きな影が覆った。

 

「クマ?……ギョギョー!!」

 

クマは振り返ると悲鳴を上げる。いつの間にか巨鳥型のシャドウ――ヴィーナスイーグルがクマに接近していた。しかもヴィーナスイーグルはスキルを使おうとしているのか自らの内部に力を込めており、まるで自ら発光しているかのように見える。

 

「クマ君伏せてっ!!」

 

「クマッ!?」

 

聞こえてきた声に従いクマは頭を抱える形でしゃがみこむ。その直後ビュンッという風切り音が響き、そう思うとヴィーナスイーグルの断末魔が聞こえてきた。

 

「大丈夫だったかい、クマ君?」

 

「セ、センパイ……」

 

命がヴィーナスイーグルに突進し一撃でヴィーナスイーグルを仕留めたのだ。命はさっきヴィーナスイーグルに渾身の一突きを叩き込んだ片手剣を鞘に収めながらクマに大丈夫かと尋ね、クマは感動にふるふると震える。

 

「階段を見つけたみたいだね、お手柄だよ」

 

次にサムズアップをしながら彼はそう言い、そこに真達が走ってきた。そして彼らはそのまま階段を上がっていく。そのすぐ先にあったのは大きな扉。

 

「……ここが最上階みたいだね……真君、どうする?」

 

「ここまで来たら下手に仕切り直すより、この勢いで突き進みましょう!」

 

「そうだね。少しでも早くりせちゃんを助けてあげよう!」

 

「おっしゃ! 俺はいつでもいいぜ!!」

 

「あたしも、気合十分!!」

 

「俺もッス! 巽完二、男の見せ所だ!!」

 

命がどうするかを(リーダー)に尋ねると彼は仕切り直すよりも一気に勢いのまま突き進むと言い、それに雪子が少しでも早くりせを助け出そうと言うと陽介、千枝、完二が気合に溢れた様子でそう叫ぶ。

 

「皆……行くぞ!!!」

 

そして真が叫び、彼らは扉を開けると一気に突入していった。




やれやれ、なんか大分久しぶりのような気がする……。
今回はもう一気に丸久座突破、次回はボスシャドウとのバトルとなります。さてどういう風にしようかな? なんか噂によるとりせシャドウとの絡みは原作、漫画、アニメと違うらしいのでどういう風にやらせようか迷ってます……でも一度見たアニメのあれは正直トラウマものなんだよなぁ……なんかすっげー怖かった……。
さ、次回も頑張ろう。どういう戦いにさせるか自分でも楽しみだ、全然考えてないから……ま、それでは~。

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