ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第二話 仲間との交流

四月十三日、午前中、八十稲羽商店街。黒色のシャツに青色のジャケットを羽織り、青のジーンズ、さらに前髪が右目を隠す程度に伸びその髪色は青色というほぼ青ずくめの青年は商店街の道に一台のバイクを止めてどことなく居心地悪そうな表情で携帯電話を使い電話していた。

 

「……きついです、注目……」

 

[そ、そうか……]

 

その言葉に電話の相手も呟く。彼の言葉通り彼はすっかり注目の的、周りの人達は例外なくひそひそと何かを話していた。見覚えのないよそ者がその会話内容だと予測するのは想像に難くない。

 

[ところで命、やってきて早々だろうが何か異常な点はないか?]

 

「……もうちょっときちんと調べてみないとどうとも言えませんが、特に何か事件が起きたという話はありませんね。周りの話を聞く限り生田目元議員秘書の不倫騒ぎ、あのスキャンダルの話でもちきりってとこですね。ま、無理に異常を言ってやれば異常なほど平和な田舎町ってとこでしょうか?」

 

[……本当にすまない……それで、マヨナカテレビという話はどうだ?]

 

青年――命の皮肉に電話の相手――美鶴はすまなそうに返した後、自分が気になっている事について命に尋ねる。

 

「ああ、やってきた時にそこらの人が話してたので聞いてみましたけど、確か雨の日の夜午前零時、一人で電源の入ってないテレビを見ていれば運命の人が映るだのなんだの。確証はありませんけど単なる都市伝説の類じゃないですかね? あと気になるといえば霧なんですけど、まあ霧なんて自然現象ですもんね」

 

[そうだな……すまない、忙しい時期だというのに]

 

「まあ数日滞在しての調査とのご依頼だとこっちも納得して受けましたからね。気にしないでください……いつまでゆかりと結生を騙せるかは甚だ疑問ですが……」

 

命は美鶴にさっと調べた事を報告、それに美鶴がすまなそうな声で謝ると命はそう返した後はぁと深いため息をつく。この町にやってくるより前に妹である結生と恋人であるゆかりには「酷い風邪をこじらせた」と嘘をついて大学を休むことを理由付けている。しかしもしばれたら何を言われるかそして何をされるか分かったものではなく、それを了解しているのか美鶴が続けた。

 

[もしばれたら私もフォローを手伝おう。なんでも言ってくれ]

 

「言うような事にならない事を祈りますよ……それで、こっちの宿なんですが……」

 

[ああ。アイギスに頼んで旅館に予約を取らせておいた。なんでも町の老舗温泉旅館だそうだ。ゆっくり休んでくれ]

 

「そりゃどうも……で、なんですが。このバイク……」

 

命は一連の話が終わった後、自分がここまで乗ってきたバイクを見ながら呟く。この依頼を受けた後美鶴から送られてきたものだ。

 

[どうした?]

 

「これ、先輩の私物ですよね? S.E.E.Sで使ってた。シャドウのアナライズ機能とかのサポート装置は大方取り外されてますけど」

 

[ほう、よく覚えていたものだな。私も色々忙しくて最近はバイクに乗るどころか整備することすらままならん。そうとなれば君に使ってもらった方がバイクも喜ぶだろう……なにより、君に私のバイクのキーも渡していたしな]

 

「アリガトウゴザイマス。んじゃ、切りますね」

 

[ああ。定期報告はきちんとしてもらうぞ]

 

「ええ」

 

命はそう言い、電話を切るとバイクのハンドルにひもをかけていたヘルメットを被りなおし、また走り出した。

 

 

それから少し時間を戻して学生の登校する時間帯、真は菜々子と別れた後学校に向かっていた。と後ろの方からシャーッという音が聞こえ、そう思うと真の後ろから何かが追い抜く。そしてそう思った直後その追い抜いたもの――自転車が電柱に激突、その衝撃で運転していた男子生徒が派手にごみを捨てるポリバケツに頭から嵌ってしまい、ゴロゴロとあがくように転がっている。

 

「だ、誰か……」

 

「……」

 

流石に見かねたのか真は彼に近づき、彼が嵌っているポリバケツを取ってやる。

 

「いやー、助かったわ。ありがとな!」

 

「構わない……ん? あんたは昨日里中に蹴っ飛ばされてた」

 

「あ、ああ、まあな。えっと……そうだ、転校生の椎宮真だったよな。俺、花村陽介。よろしくな」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

少年――陽介の言葉に真も会釈をして返し、ポリバケツを立て直すと辺りに散乱しているゴミをすぐ出来る範囲でゴミ捨て場に集める。

 

「しっかりしてんなぁ……」

 

「通行人の迷惑になるだろうが」

 

陽介の言葉に真は真顔でそう言い、ぱんぱんと手を払うと陽介と共に学校向けて歩き出す。とその途中で陽介が口を開いた。

 

「なあ、ところでさ、昨日の事件、知ってんだろ? “女子アナがアンテナに”ってやつ! あれってなんかの見せしめとかかな?」

 

「まあ、事故だって言い張るのは無理があるのは確かだな」

 

「だよな。わざわざ屋根の上にぶら下げるとか、マトモじゃないよな」

 

陽介の言葉に真は腕を組んで返し、それに陽介がうんうんと頷きながら続けると真はふっと、どこか冗談っぽく微笑んだ。

 

「だが事は殺人事件だ、素人が首突っ込んだら危険だぞ。子供にされるかもな」

 

「あっはっは。怪しげな取引現場を目撃して黒ずくめの男達に毒薬飲まされてってか? お前って冗談言うタイプなのな。正直無愛想な奴だと思ってたぜ」

 

「よく言われる」

 

真の冗談に陽介は笑いながらそう言い、にっと笑って続けると真は肩をすくめて返した。それからたわいのない会話をしながら、彼らは学校に歩いていった。

 

 

それから時間が過ぎて放課後。真が帰るために荷物をまとめていると教室の後ろから陽介が近づいてきた。

 

「よう。どうよ、この町には、もう慣れた?」

 

その言葉に真は鞄を机の上に置き、陽介の方を向いて苦笑する。

 

「まだ二日目だからな。新しい環境に慣れるのは早い方だが、今は辺りの土地勘を覚えるのに大忙しだ」

 

「だろうな。ああ、今朝助けてくれたお礼にここの名物のビフテキをおごるぜ。俺、安い店知ってるからさ」

 

「あたしには、お詫びとかそーゆーの、ないわけ? 成龍伝説」

 

陽介が真にそう提案していると、それを聞きつけた千枝が会話に混ざってくる。

 

「う……飯の話になると来るなお前……」

 

「雪子もどう? 一緒に奢ってもらお」

 

千枝の言葉に陽介が声を漏らすが千枝はそれを無視して雪子に話しかける。しかし雪子はその言葉に首を横に振って返した。

 

「いいよ、太っちゃうし。それに、家の手伝いあるから。それじゃ私、行くね」

 

淡々と、しかしどこか残念そうに断りを入れて雪子は下校する。それに千枝は残念そうな表情でため息をついた。

 

「仕方ないか。じゃ、あたし達も行こ」

 

「え、マジ二人分奢る流れ?……」

 

「ご馳走様」

 

千枝の言葉に陽介が困ったような声を漏らすと真はくっくっと笑いながらそう返す。それに陽介はげんなりした表情で肩を落としため息をついた。

 

 

それから三人がやってきたのはジュネス――半年前にこの町にオープンしたスーパーマーケット、と真は里中から説明を受けていた――の屋上にあるフードコート。それから注文品を持ってきた陽介に一番に千枝がブーイングを出す。

 

「安い店ってここかよ!? ここ、ビフテキなんかないじゃん!」

 

「二人分じゃ無理だっつの」

 

千枝の言葉に陽介はそう言い、注文品をテーブルに置いて真と千枝に配ってから椅子に座り、自分の分を取る。それから彼らは少し会話をし、そのひとつを聞いた真が飲んでいたジュースを飲み込んでから口を開いた。

 

「へぇ。花村の親父さんはここの店長なのか」

 

「ああ。それで俺の家族、半年くらい前にこっち越してきたんだ」

 

真の言葉に陽介は微笑を浮かべながらそう言い、すると千枝がふと思ったことを口にするように声を出した。

 

「そういやここってさ、出来てまだ半年くらいだけど、行かなくなったよねー、地元の商店街とか。店とか、どんどん潰れちゃって……あ」

 

「……別に、ここのせいだけって事ないだろ?」

 

千枝の言葉に対し多少不機嫌そうに陽介が答える。それに真は口を挟むことができずジュースに口をつけた。それから少し無言が続くが、近くのテーブルに誰か女性がやってくるとそれを陽介が見つける。

 

「あ……小西先輩じゃん。悪い、ちょっと」

 

そう言って彼は席を立ち、離れたテーブルに座る女性の方へと移動する。それを真は見送った後千枝の方を向いて少し首を傾げる。

 

「誰だ?」

 

「三年の小西早紀先輩。実家は商店街の酒屋さん」

 

真の質問に千枝はさらっとそう答え、聞き耳を立て始める。しかしそうするまでもなく陽介の声が聞こえてきた。

 

「お疲れっす。何か元気ない?」

 

「おーっす……今やっと休憩。んで花ちゃんは友達連れて自分ちの売り上げに貢献してるとこ?」

 

「うわ、ムカつくなー」

 

悪態を叩き合いながらの軽口。それから陽介はどこか真剣そうな目で女性――早紀を見る。

 

「……つか、ホントに元気なさそうだけど、何かあった?」

 

「別に……ただ疲れてるだけ」

 

「……何かあったら、何でも言ってよ。俺……」

 

心から心配するような陽介の言葉、それに早紀はふふっと笑った。

 

「だーいじょうぶだって。ありがとね」

 

そしてそう言葉を返す、それに陽介は複雑な表情を見せた。と、早紀は先のテーブルにいる真に気づく。

 

「あの子……もしかして、昨日入ったっていう転校生?」

 

「え? あ、ああ」

 

早紀の言葉に陽介は頷き、早紀は席を立つと真達の方に歩いていく。

 

「君が転校生? あ、私の事は聞いてる?」

 

「名前程度ならさっき里中から。三年の小西先輩、ですよね? 椎宮真です」

 

早紀の言葉に真はさっき千枝に説明されたことを答えた後自身の名を名乗る。

 

「そう言えば後輩の子から聞いたけど、モロキンを言い負かしたんだって? 凄いよね」

 

「大袈裟な。少し自分の意見を出しただけですよ」

 

早紀の言葉に真ははぁとため息をつきながら返し、早紀はまたふふっと笑う。

 

「あなたも都会の方から越してきたのよね? 都会っ子同士はやっぱり気が合う?」

 

彼女はちらりと陽介の方を見やってから問い、真は少し考えると肩をすくめた。

 

「特にそうというわけでは。そもそも花村が都会出身ってのはこの放課後に聞きましたし」

 

「あらそうなの? ごめんね、変なこと聞いたかしら」

 

真の言葉に早紀はくすくすと笑ってそう言い、ちらりと陽介を悪戯っぽい目で見ると内緒話のような仕草を真に向ける。

 

「花ちゃん、お節介でイイヤツだけど、ウザかったらウザいって言いなね?――」

「ちょっ! 先輩!?」

 

内緒話の仕草とは裏腹に間違いなく陽介にも聞こえるような声量の言葉に陽介が声を出し、真はふっと笑う。

 

「ウザい」

 

「お前も乗らなくていいっての!!」

 

真のふざけたような一言に陽介は更なるツッコミを見せた。それに早紀は満足したように笑うと伸びをし、くるりと踵を返す。

 

「さーて、もう休憩終わり、っと。じゃあね」

 

そしてひらひらと手を振って歩き去っていき、陽介はにっと笑って真達を見る。

 

「人のこと『ウザいだろ?』なーんて、小西先輩の方がお節介じゃんなぁ?あの人、弟いるから、俺のことも割とそんな扱いって言うか……」

 

「ん? 弟扱いは不満なのか?」

 

「へえぇ~え、やっぱそういうこと~?」

 

陽介の言葉に真が純粋な疑問の声を零すと千枝がにやぁ~っと効果音がつきそうなほどに頬を吊り上げ、その言葉に陽介はぎくりとなる。

 

「老舗酒屋の娘と、デパート店長の息子。燃え上がる、禁断の恋! みたいな?」

 

「バッ!……アホか! 何言ってんだよ!?」

 

「花村、顔が真っ赤だぜ?」

 

「言われんでも分かっとるわ!!」

 

千枝の言葉に陽介が顔を真っ赤にして声を上げると真がふっと笑いながらそう言い、陽介はまた叫び返した後ため息をついて崩れ落ちるように椅子に座る。

 

「たっく、椎宮のキャラがマジで分からねえ……無愛想と思ったら軽い冗談だけじゃなく洒落にならん冗談もためらいなく口に出すし……」

 

「前の学校の先輩のおかげだよ」

 

陽介の言葉に真はくっくっと笑い、千枝はにっと笑った。

 

「じゃ、そんな悩める花村にイイコト教えてあげる。椎宮君も聞いときなよ」

 

「「……イイコト?」」

 

千枝の言葉に真と陽介が千枝の方に身を乗り出し、千枝も身を乗り出すとテーブルの中心に三人の顔が近づく。

 

「マヨナカテレビって知ってる?」

 

千枝が出したその言葉。続けて告げられるその内容はどこにでもありがちな所謂恋占いのような都市伝説。それに真と陽介は顔を見合わせて苦笑し、陽介が「幼稚なネタでいちいち盛り上がれんな」と口にして千枝の逆鱗に触れて口喧嘩を始め、真は苦笑を漏らしてまたジュースに口をつけた。

 

 

一方少し時間を戻し、雪子が実家である天城屋旅館に戻り、制服とでも言おうか着物に着替えて旅館に出た時。彼女は入り口で何か小さな騒ぎが起きてるのに気づき、そっちに向かう。

 

「あ、あの、ですから、利武様のご予約は明日からになっておりまして……」

 

「ちょっ、う、嘘でしょ!?」

 

「……ほ、本当です」

 

名簿を見ている従業員と困ったように声を上げている青年。その内容から察するに青年が予約日時を間違えてしまったらしく、青年はがくりと崩れ落ちる。

 

「ア、アイギス~……恨むぞちくしょう……」

 

そしてぶつぶつとそう呟くと立ち上がり、従業員に向けて深く頭を下げる。

 

「さ、騒ぎ立ててすみませんでした」

 

「あ、はい……」

 

「はぁ、今日の宿どうしよう、他の旅館予約なしで泊まれるかな? 最悪野宿も覚悟して……とりあえずまず先輩に相談しないと……」

 

礼儀正しく謝罪の言葉を出した後がっくりと肩を落とし、ず~んという擬音を背負いとぼとぼという効果音が似合いそうな足取りで旅館を出て行く青年。雪子はその後姿を見送った後、旅館の手伝いに戻っていった。




≪後書き≫
……なんと言えばいいのやら……まあ、P3主人公こと命は宿泊先で雪子と微妙にニアミスをしてしまいました……かな?
とりあえず次回には最初のマヨナカテレビ入りします、間違いありません。というかむしろこれで次話マヨナカテレビ入りまで話持っていけなかったら多分まずいだろうしね……。
感想は大歓迎でお待ちしております。それでは。

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