6月24日の放課後。真達は昨夜りせがテレビの中に落とされた事の捜査のためテレビの中を訪れていた。
「おーい、クマクマ?」
千枝が呼びかける。
「クマ、泣いてないよ」
クマは呟き、そう思うとがくっと膝をついてorzの形になる。
「みんな、クマの事忘れて楽しそうに……クマ、見捨てられた……」
「そ、そんな事あるワケないじゃん!」
「ごめんね、寂しかったの?」
クマの言葉に千枝が驚いたように叫び、雪子が謝る。とクマは立ち上がった、が、まだ彼らに背中を向けている。
「タイクツでヒクツしてたクマ。どーせクマは自分が何なのかも知らんダメな子クマ。答え見つからないし、みんなは来ないし……そっちの世界の楽しそうな声まで聞こえた気がして……寂しいから泣いてみようと思ったけど、ムリだったクマ……」
「まあ、空っぽだしな……」
クマの言葉に陽介が苦笑いをする。
「カラッポカラッポ、うるさいクマ!」
「な……なんだと、この! ココは、お前の現実なんだろ!? お前がココでひっそり暮らしたいっつーから、犯人捜し、約束したんじゃんか!」
と、クマは陽介の方を向いて地団駄踏みながら叫び、陽介が怒鳴り返す。
「まーまー。クマ君も考えすぎで疲れたんだよ」
命が苦笑しながら二人を抑える。
「独りだと色々考えちゃって、寂しさ増量中クマ……みんながいないと切なくて、胸が張り裂けて綿毛が飛び出しそうクマよ……」
「クマ君って中に綿毛が入ってるの?」
クマのその言葉に命が律儀にツッコミを入れていると千枝と雪子がクマを元気づけるように撫で、クマは嬉しそうに二人の方を見る。
「いつか、逆ナンしてもよい?」
「おー、いいぞぉ!」
「……逆ナンのネタは、もう封印しない?」
クマのいきなりの言葉に千枝が元気よく頷くと雪子は浮かない表情で呟く。
「それよか、確かめてー事あるんだよ! 今、こっちどーなってる? 久慈川りせって女の子、来てないか? なんか分かんない?」
「クジカワリセ?……んむ?……」
「分かんないのか……」
本題に入り、陽介の言葉にクマが分からないというように首を傾げると陽介も目頭を押さえるようにしながら呟き、「お前の鼻、だんだん鈍ってきてないか」と言う。
「クマは何をやってもダメなクマチャンね……みんなの役に立たなくなったらきっと捨てられるんだクマ……」
「そんな事はない」
陽介の毒舌に傷ついたのかクマが浮かない表情でそう呟くと真がフォローを入れる。
「クマ……みんなと一緒でいいの?」
その言葉に命が頷く。
「もちろんだよ……じゃあ、この前巽君を助けた時のように、今度はりせちゃんの感じが掴めそうなものを探してこよう」
「ハッキリとは分かんないけど、誰か入ってるような気は微妙にするクマよ。そのコを感じられるような、何かヒントがあれば、きっと前みたいに、分かるクマ」
少なくとも誰かがテレビの中にいるのは間違いないらしく、命が特別捜査隊メンバーの方を見て一つ頷くと、彼らはテレビから出ていく。が、真はただ一人、何か言いたそうなクマの前に残っていた。
「クマ……いろんなことが、分からんクマ」
「焦る事はない」
「……ありがとクマ。センセイは優しいクマね……クマ、もっと頑張るクマよ」
クマが話し出すが、真は微笑を浮かべて「焦る事はない」と返す。それにクマは嬉しそうに笑いながらそう言い、真は彼との間にほのかな絆の芽生えを感じた。
我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
絆は即ち、まことを知る一歩なり
汝、“星”のペルソナを生み出せし時
我ら、更なる力の祝福を与えん……
頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。
「クマ、ココで待ってるクマ……」
「ああ」
クマの言葉に真は頷き、彼もテレビを出ていった。
「おせーぞ椎宮!」
「何してたの?」
「ああ、クマとちょっと話を」
家電売り場の入り口近くで陽介達がたむろしており、真が来たのに気づいた陽介と千枝がそう言うと真は誤魔化し笑いをしながらそう言う。
「とりあえず真君が来る前に話し合ったけど、僕は一度久慈川さんのところに行って話を聞いてみようと思うんだ」
「大先輩、丸久のばっちゃんと仲良いっすもんね。俺もお袋にちょっと話聞いてみます……あんま期待はできねえと思いますが」
「でも、しないよりはマシだよ。私も旅館の人に話を聞いてみる」
「で、あたしと花村は前と同じく町中駆けまわって情報を集める!」
「っつーわけだ」
命の言葉に続いて完二、雪子、千枝、陽介が言う。
「……俺、余ってないか?」
その言葉の後、真が呟く。と、学生四人がはっとした表情を見せた。
「真君は学校で話を聞いてみてもらえるかな?」
「あ、そうだな! お前、一年の……松永、だっけ? ああいうとこに友達多いし!」
「分かりました。じゃあ、何か進展があったら携帯に連絡。集合場所はいつものフードコートで」
命の指示を聞いた陽介が前の林間学校での彼の顔の広さを思い出しながらそう言い、真は命の指示に頷いた後連絡手段、集合場所の最終確認を行う。そして彼が「解散」というのを合図に彼らは町中に散らばっていった。
それから真は走って学校へとやってくる。と、彼は靴箱のすぐ近くに以前保健委員絡みで知り合った、小西早紀の弟を見つける。
(そういえば、ハンカチを借りたきりだったな。もののついでに話してみるか)
真は以前彼からハンカチを借りたことを思い出し、それがカバンの中にある事を確認すると、カバンからハンカチを取り出して小西早紀の弟の方に歩き寄った。
「小西」
「ん?……ああ」
声をかけられ、小西は気だるげな様子で真の方を向き、真だと確認すると「ああ」とやはり気の抜けた声を出す。
「これ、返すよ」
「ああ、これ……」
そう言って真が差し出してきたハンカチを見て、小西は驚いたように声を漏らしてハンカチを受け取ると、頭をかく。
「別に、捨ててくれてよかったんですけど……これ、姉のハンカチなんです。親が間違えて、俺のカバンに入れてて……」
そこまで言って彼は苦笑する。
「もう、使う人いないから……このハンカチも役目果たせて、嬉しいと思いますよ……ども」
「助かったよ」
「や……い、いいっすよ、そんなの……」
小西のお礼の言葉に真は微笑を浮かべながら返し、それを受けた小西は照れくさそうに再び頭をかく。と、気づいたように真の方を見る。
「あ、俺、小西尚紀です」
小西あらため尚紀はそう言った後、頭を下げる。
「あの、よく知らねーのに、嫌いとか言って、すみませんでした」
「気にしてない」
「……よかったっす」
謝罪の言葉に対し真は言葉少なくそう返し、それに尚紀はホッとしたように微笑を浮かべる。真は彼との間にほのかな絆の芽生えを感じた。
我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
絆は即ち、まことを知る一歩なり
汝、“刑死者”のペルソナを生み出せし時
我ら、更なる力の祝福を与えん……
頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。と、尚紀が突然自嘲気味の笑みを見せた。
「こないだ、委員会に俺が入ってって、気まずくなったじゃないですか。あれで正式に、委員会をクビになりました。もう、来なくていいって……まあ、俺のせいなんですけど……また、取り上げられちゃいました……」
心なしか光の淀んだ瞳を覗かせながら彼はぼそりと呟いた後、真の方を再び見て笑う。
「よかったら、時々遊んでください。大体、週の始めの方はウチの酒屋のへんにいますから……家、手伝ってて……それじゃ」
暗い様子でそう呟き、靴箱の方に歩いていく尚紀。その様子に思わず真は硬直してしまうが、彼が自分を横切った辺りで、真は我に返ったように今、自分に背中を向けている尚紀の方を向いた。
「尚紀!」
「……はい?」
彼の呼びかけに、尚紀が振り返る。
「今この町に来てるって噂の久慈川りせについて、何か知らないか?」
情報収集しようとしていたことを、何も考えずにとにかく出してしまった。と、尚紀は悪戯っぽく笑う。
「先輩、見た目に似合わず意外にミーハーなんすか?……あいにく、何も知りません……あぁ、ま、ありがとうございます」
最近の話題を振って元気づけようとしたと解釈したのか尚紀は悪戯っぽく笑って皮肉を言った後にお礼を言ってひらひらと手を振り、学校を出ていく。それに真は妙な誤解を持たれたかと考える。
「あれ? 椎宮じゃん」
「花村達と一緒に帰ったと思ってたが、どうしたんだ?」
「あぁ、一条に長瀬」
そこに二階から一条と長瀬が降りてくる。
「ちょうど良かった。なあ、最近久慈川りせってアイドルが越してきたって噂、聞いてるか?」
「え? りせちー? ああ、そんな噂あるよな。商店街の豆腐屋だっけ?」
「そうなのか?」
真の言葉に一条がそう言って長瀬に話を振るがこっちは首を傾げるのみ。
「ああ、それでちょっとりせについての噂を集めてるというかなんというか……」
「へー、お前がアイドルの情報収集ってなんか意外だな。でも俺も別にそこまでファンってわけじゃないからなー」
真の言葉に一条は意外だなと笑った後に困ったように呟く。
「あぁ、そういえばその久慈川とかいうアイドルについて詳しいって豪語している奴がいたな。たしか実習棟の二階に歩いていくのを見たが……」
「そうか! すまん長瀬、助かった!」
長瀬から情報を得た真は彼の肩にぽんっと手を置いてお礼を言ってから実習棟へと走っていき、二人は何が何だか分からんというような表情を浮かべた後、まあいいかと結論付けたのか靴箱の方に行き、自分の靴を取ると学校を出ていった。
それから真は実習棟へとやってきてそのりせのファンだと豪語していた人物を探す。焦っていたため名前や人物像を聞きそびれていたが、偶然にも今実習棟にいる人間は二人組で話している者がほとんど。その会話内容からりせのものが読み取れないものを除外し、一人佇んでいる少年を選んだ。
「すまない。久慈川りせのファンだという奴を探しているんだが」
「りせちー? ああ、ずっとファンだよ! お前もか!」
どうやら当たりらしく、久慈川りせの名前が出た瞬間同志を見つけたとばかりに少年が目を輝かせ鼻息荒く真に話しかける。
「あ、いや、別にそういうわけじゃ……ちょっと話が聞きたいんだ」
「……え、違う? まぁ、りせちーファンなら、誰にも負けない自信はあるぞ? 聞きたいことがあるんならなんでも聞いてくれ!」
「ありがとう。最近の久慈川りせの様子について聞きたいんだが……」
りせちーファンと豪語するだけあって自信たっぷりにそう言う少年。それに真は先にお礼を言った後、聞きたいことを話す。
「え? 最近のりせちーの様子? そりゃ、電撃休業するなんて、“悩みがあった”以外に考えられないよ! ブログでもほのめかしてたしね。悩みの内容は……まあ、諸説アリだけど。ぞっこんファンとしちゃ気になるさ……でも俺なんかが解決できるわけないし……」
「悩みがあった、か……他にはどうだ?」
「うーんそう言われても、最近のりせちーと言ってもなぁ……休業後はブログも止まってるし、もっと詳しい情報が欲しいなら、もうマスコミ関係者くらいじゃないかな……ファンレター書いてみようかな……今でもちゃんと届くかなぁ……」
真からさらに聞かれた少年は困ったように腕組みをしてそう呟く。もうめぼしい情報はないらしく、真は話を終えるという合図に頭を下げた。
「ありがとう。助かった」
「ああいやいや、気にしないでよ」
丁寧にお礼を言う真に少年は朗らかに笑って返し、真はその場を去っていく。りせの一番のファンだという少年から話を聞いた以上ここでの聞き込みはもういらないかと判断し、彼は陽介達の手伝いでもしようかと思いながら学校を出る。と、その校門辺りでいきなり携帯電話が鳴り始めた。
「もしもし?」
[あ、真君?]
「先輩?」
[久慈川さんから良い情報を手に入れたんだ。なんでもりせちゃんについて探ってる人がいるみたい……俗に言うパパラッチってやつだね]
「パパラッチ……」
命から情報を得る。
[どこにいるかは聞きそびれちゃったんだけどね。りせちゃん目当ての客が多く来て久慈川さん忙しくなっちゃったから……まあとにかく、そういう相手ならりせちゃんについて何か知ってるかもしれない]
「分かりました。先輩はそのまま商店街を探してみてください、学校での情報収集も終わったので俺も探してみます」
[うん。僕はこの事を他の人達にも伝えるよ、じゃあね]
二人はそう話し合って電話を切る。そして真は携帯をしまった後校門を出て再び走り出した。それから真は河川敷や商店街を走り回った後、時間も遅くなってきたためジュネスへと向かう。そこには既に陽介達が集合していた。
「皆、どうだった?」
「一応りせに何か悩みがあったんじゃないかって話ぐらいはあったんだけどよ。悩みって括りじゃ大雑把すぎるだろ?」
「もっと突き詰めた方がいいと思うのよね。完二君を探す時もコンプレックスだけって話じゃ大変だったし」
「え? 俺そんな大雑把なモンで探されたんすか……」
真の言葉に陽介が返すと千枝が完二を探した時のクマの台詞から考えてその悩みというものを突き詰めた方がいいと意見を出し、完二はコンプレックスなどという抽象的この上ないキーワードで探されたことに若干ショックを覚える。
「で、命さんからパパラッチがいるって話を聞いたから商店街中駆けまわって探したんだけど、どこにもそうっぽい奴が見当たらねえんだよ」
「街の人じゃなきゃすぐ分かるんだけどさ……」
「うん。客のプライバシーに関わるから本当は言ったりしちゃいけないんだけど、うちの旅館に泊まってる人にもマスコミ関係とかそういう人はいなかったよ」
陽介、千枝、雪子から情報が出てくる。と、飲み物を買ってきたらしい命がお盆をテーブルに置いた。
「今日はもう遅いし、また明日、そのパパラッチの人に狙いを絞り込んで探そう。幸いにも明日は僕も花村君もシフトは入ってないからね」
「そうっすね」
「というわけで今日はお疲れ様。走り回って喉乾いただろうし、好きなもの取って飲んでってよ」
命がそう言ってドリンクをサービスし、彼がオレンジジュースを手に取るのを合図に真達も次々にジュースやらコーラやらを取っていく。そして乾杯を取ってドリンクを飲み干してから、彼らはまた明日の激務を誓って帰路についた。
「ただいまー」
「お帰り! お兄ちゃん!」
家に到着し、真の挨拶に菜々子も元気よく返した後、真は帰る前にちょっとジュネスで買ってきたものを並べる。
「菜々子ちゃん。俺今日バイトがあるから、夕食は簡単なものになるけどいいかな?」
「うん、いいよ」
真の言葉に菜々子はそう返し、真は「ありがとう」と返すとご飯が炊けているのを確認してから簡単な野菜炒めを作り、ささっと夕食を食べるとバイトに出かけていった。
最近彼が始めたバイトは病院での清掃。真夜中の病院というのはなかなか気味が悪く、どこからか視線や妙な声が感じたり聞こえたりして勇気がいるバイトである。まあそのためかバイト代はなかなかのもので、元々あまり怖いもの知らずな方である上に現在シャドウなどという摩訶不思議な存在と戦っている真にとってはお化けなんてどうってことないとあっさり応募したわけなのだが。
「……これでこの病室は終わりかな」
空き病室の清掃を終わらせ、真はふぅと息を吐く。と、入り口の扉が開く音と足音が聞こえ、真はそっちを向く。
「あら、先客?」
入ってきたのはこの病院のナースだ。というよりも、真がこのバイトに入った初日、医者と何か怪しげな会話を繰り広げていた人だ。
「って、この間の学生さんか。お仕事、偉いわね」
「……ども」
ナースの言葉に真は少しぶっきらぼうに返す。と、ナースはふふっと笑った。
「あ、ごめんなさい。自己紹介もまだだったわね。上原小夜子よ、よろしくね」
「椎宮真です」
ナース――小夜子が名乗ると真も名乗り、よろしくと会釈する。
「終わったら、ナースステーションにいらっしゃい。温かいコーヒーでも入れるわ……」
小夜子はそこまで言うとふふっと怪しく笑う。
「なーんてね」
「?」
おどけたような言葉に真が首を傾げると、彼女は突然真に近寄った。
「キミ、高校生だってね……」
そう呟いて真の身体を舐めるように見回す。
「ふふっ、肌がつるつる……ねぇ、分かるでしょ?」
「……何がですか?」
小夜子の言葉に真はわざとらしく返し、きょろきょろと辺りを見回す。
「ふふっ、とぼけちゃって……大丈夫、誰も来ないから」
「……すいませんが、今日俺走り回って疲れてるんです」
小夜子の言葉に真は今日は疲れていると返す。
「あら、部活動?……フフッ。気に入ったわ、キミ。今度キミが来るの、いつ? 私もシフト入れておくから」
「こんな町でも、楽しい事ってありそうね……」と呟く小夜子はよこしまな好意を真に向けており、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。
我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
絆は即ち、まことを知る一歩なり
汝、“悪魔”のペルソナを生み出せし時
我ら、更なる力の祝福を与えん……
頭の中に響いてくる声。それに真は僅かに苦笑を浮かべた。
「じゃ、また」
小夜子はそう言って病室を出ていこうと踵を返し、真も彼女と一緒に病室を出ると小夜子はナースステーションに戻っていき、真は別の部屋の掃除に向かう。そして時間一杯掃除をしてから、彼はバイト代を貰って帰路についた。
それから翌日の6月25日。朝から雨が降っており、真は少し苦い顔を見せながら歩いていた。雨が嫌いだと言うわけではない、いや、濡れるし洗濯物が外に干せないしと色々面倒なので嫌いではあるのだが雨が続けば霧が出る。それはすなわちテレビの中でシャドウが暴れ出す危険な時という意味である。今テレビの中にはりせがいる。それゆえに彼は苦い顔を見せていたのだ。
「おはよ、椎宮君」
と、後ろから千枝が話しかけてきた。
「うわ、怖い顔……今日は一日雨だけど、明日までは続かないらしいから……いきなり霧は出ないはずなんだけど……」
「……ああ。頭では分かってるんだが、どうにもな……心配だ」
「そだね。今回はマヨナカテレビの内容、かなりシンドイっぽいし……でも、焦りは禁物だよね」
苦い中に心配そうな顔を見せている真の言葉に千枝も心配そうに返し、しかしそう続ける。
「私達もしっかり準備して、“全開”んなる前に、助けたいよね!」
「……そうだな」
千枝のむんっ、と気合を入れるようなポーズをしながらの言葉に真も微笑を浮かべて頷いた。
それから時間が過ぎて放課後。真達は教室の後ろ隅に集合。円陣を組んで真は命に電話をかけていた。
[じゃあ、今日は例のパパラッチの捜索に狙いを絞ろう。僕はジュネスの店員に話を聞きながら探してみる]
「俺もジュネスを探してみます」
「あたしは商店街を探してみる」
「俺も行くッス!」
「私、旅館に戻ってそういう人を見たかもう一度店の人に聞いてみる」
「なら俺は商店街以外で人が行きそうな場所を探してみる」
命の言葉に続いて陽介、千枝、完二、雪子がそう言い、最後に真がそう言う。
「皆、今日こそ久慈川りせがいる場所に繋がる手がかりを見つけよう!」
そして真が場を引き締めさせ、全員頷くと一気に学校を飛び出し、散っていった。
それから少し時間が過ぎ、真は河川敷にある休憩所に腰かけていた。先ほどまで町中を駆け回ったがパパラッチと思える人間には出会えず、少し休憩がてら電話をかけていた。
[あぁ、こっちは駄目。見かけない人はいないってさ。花村君も似たようなもの……え? ああ……里中さんから花村君に電話があったんだけどさ。やっぱり見かけないって]
「そうですか……」
命からの報告に真は肩を落とす。と、彼は「ん?」と顔を上げた。
[どうしたの?]
「いや……」
命からの呼びかけに真はそう呟いて、傘を差し自分の前を歩いていく男性を見る。まだここに来て三か月にも満たないが、見覚えのない顔。
「先輩、見つけたかもしれません。電話切ります」
そう言うや否や真は電話を切り、傘を差して休憩所を出ていく。
「すみません」
「ん?」
背後から声をかけられ、その男性は振り向く。
「えぇっと……何か用?」
「すいません。久慈川りせについて、何かご存じではないでしょうか?」
「なんだ君……久慈川りせについて聞きたいって? 君もりせちーについての情報を集めてるのかい?……」
真の言葉に男性――パパラッチはそう聞き返した後、考える様子を見せる。それからふっと微笑んだ。
「良かったら、君の持ってる情報と僕の持ってる情報を交換しない? 商店街の人には警戒されちゃって、なかなか情報が集まらないんだよ」
「分かりました。では、俺から情報を提供しますけど。嘘は言わないでくださいね?」
「ああ。そこは君は信じよう、だから君も俺の情報を信じてほしい」
パパラッチの申し出を受けた真は不敵に笑って念を押すが、そういう話には慣れているのか相手も不敵に微笑みを返す。
「ではまず、知り合いから聞いた話ですけど……悩みを持っていたんじゃないかという話が出ています」
「悩みを持っていた、ね。やっぱりそこになるのかなぁ……」
真は学校で聞いた、りせは悩みを持っているという話を出す。それにパパラッチはやっぱりと呟いた。
「いや、実は先日の電撃休業の理由について、取材していたんだけどさ。“りせちー”って創作されたキャラクターに疲れてしまった、って情報が有力なんだ。“普段の自分とは違う、アイドルとしての自分……”。それに耐えられなくなった……って線で決まりかな。目新しい情報はなかったけど、助かったよ。ありがとう」
真の出した情報からすらすらと新たな情報を出し、お礼を言う。
「えっと、まだ聞いてみたいんですが……そういえば」
ここで話を終わらせてなるものかと粘ろうとする真。と、彼は初めてりせに会った時の事を思い出した。
「あの、俺久慈川りせに会った事があって、俺はアイドルには詳しくなかったのでよく分からなかったんですが……その時に友達が言っていたんです。テレビで見るのと全然キャラが違うって」
自分達の推理によると次に狙われるのはりせ。だからりせに注意するよう助言に行った時に陽介が言っていたことを彼は思い出し、情報として提供する。
「ふうん、やっぱりか……」
それにパパラッチもふむふむと頷いた。
「実は僕も昔、プライベートのりせちー、目撃したことがあるんだ。驚いたよ、テレビの印象と全然違っててさ。すぐ本人とは分からなくてね。でも、アイドルって“キャラづくり”するものだし当然っちゃ当然なのか」
(つまり……)
そう呟くパパラッチを見ながら真は今まで手に入った情報を整理していく。
(久慈川りせはどうやら“キャラ作りをしていた”らしい。そして、“普段の自分とアイドルの自分”、このことについて悩んでいた……)
「ああ、情報ありがとう。助かったよ」
「あ、はい」
互いに情報は手に入り、真とパパラッチは別れる。そしてパパラッチがいなくなってから真は電話をかけた。
[真君! どうだった!?]
「ビンゴです」
電話に出ると同時に叫ぶ命に真は笑って返し、パパラッチから手に入った情報を命に話す。
「キャラ作りに普段の自分とアイドルの自分……なるほど。さしずめ彼女は、“本当の自分”について悩んでたんだろうね」
「本当の自分?」
[人は誰しも仮面を持ち、相手によって使い分ける。真君だって心当たりあるでしょ?……色々と]
「それは、まあ……」
色々と、という部分の声が心なしか暗い命の言葉に真も返答に困ったように返す。と、命は明るい声を出してきた。
[ま、手がかりが手に入ったんだし話は後だ。花村君、里中さん達に連絡して……うん、お願い。真君、すぐジュネスに集合しよう]
「はい!」
近くにいるらしい陽介に指示を出しながら真にジュネス集合への指示を出し、真ははいと返すと電話を切ってジュネスに向けて走り出した。
「椎宮! こっちだ!!」
フードコート屋根付きの場所を陽介が場所取りしており、その隣の席には千枝と完二が既に集合している。
「先輩は?」
「命さんは旅館にいる雪子を迎えに行ったって!」
「変なウワサ立たなきゃいいけどな……」
「なんだって!?」
開口一番命の行方を問う真に千枝がそう言うと陽介がため息をつき、その言葉を聞いた千枝が眉を吊り上げて陽介を怒鳴る。
「ごめんごめん、待ったかな!?」
「お待たせ、皆!」
「あ、先輩」
「雪子!」
真が皆に集めた情報からの推理を説明し終えた辺りで命と雪子が到着。全員集合し終え、彼らはテレビの世界へと移動していった。
「あ、センセイ! その顔はもしや! 手がかり発見か!?」
「ああ」
クマの言葉に真は頷き、クマに説明していく。
「ふむふむ……ホントの自分……なるほど……クマと同じね。繊細でセンチメンタルなタイプね。ならば~……」
テレビに落とされた人物を示す匂いを手に入れたクマはうむむと唸って鼻をクンクンしていく。
「おっ!? なんか居たクマ! 見つけた? クマ見つけちゃった!?」
何か発見したらしいクマがテンション高く「ついて来るクマ!」と叫んで走り出し、真達もその後を追った。
「なにここ……真っ暗じゃん」
千枝が呟く。確かに彼らがやってきた場所は真っ暗で何も見えない。と、いきなりバチンという音と共に辺りが照らし出され、いきなりの光に真達の目がくらみ彼らは咄嗟に目を庇うように腕で覆ったり目を瞑ったりする。
「……うお……これって……」
光に目が慣れ、目を開けた千枝が呟く。目の前に広がるのはスモークがたかれているステージ、その近くには真っ赤なソファや木製のテーブル。さらにハートマークで彩られたカーテンや眩いライトなど、とても派手な場所だ。
「温泉街につきもののアレ!?」
「……あ、そうかも」
テンション高く叫ぶ陽介に雪子は同意し、僅かな沈黙の後「ウチには無いからね?」と念を押しておく。
「ストリップ……てやつスか」
「ストリップ!?」
完二の呟きに今度はクマが反応する。
「はっはーん! 読めたクマよ……シマシマのやつクマね!?」
「……」
「ストリップって……シマシマのやつクマね!?」
クマのギャグが滑り、雪子は眩しそうにライトを見上げる。
「ここ眩しい……メガネしてても目が痛くなりそう……」
「ねー、ボケたらツッコミなさいよ! もっかいクマ……ストリップって……シマシマのやつ……」
「うっさいな、こいつ……」
マイペースなクマに千枝が毒づく。
「……え、シマシマって? ごめん、何の話?」
そして全く話を聞いていなかったマイペースその2、雪子がクマのボケを完全に殺した。
「も、もう言わないクマ……はやく、先に進もうクマ……」
クマはいじけてしまい、流石に可哀想になったのか真達は憐れみの目を彼に向けた。
さて今回はりせの捜査とついでにコミュも色々組ませてみました。いや、次回最初からステージ行きたいので文字数稼ぎと言いますかなんというか……ま、そんな感じです。
さあ次回は戦闘、色々考えてることありますし頑張って書きたいです。それでは。ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。