ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第二十五話 偶像

6月19日、夜。真達は三人揃って食卓を囲んでいた。現在テレビではワイドショーをやっている。

 

[……以上、当プロ“久慈川りせ”休業に関します本人よりのコメントでした。えー時間が押しておりますので質問等は手短に……]

 

進行役の人の言葉に一人の男性が手を挙げる。

 

[失礼、えー“女性ビュウ”の石岡です。静養と言う事は何か体調に問題でも?]

 

[いえ、体を壊してるって訳じゃ……]

 

石岡なる質問した男性の言葉に茶色の髪をツインテールにした可愛らしい少女――久慈川りせが、少し浮かない顔でそう返す。

 

[とすると、やっぱり心の方?]

 

[え?……]

 

りせの質問に石岡なる芸能記者はそう続け、それにりせは驚いたように声を漏らす。

 

[休業後は親族の家で静養との噂ですが、確か稲羽市ですよね、連続殺人の!]

 

[え、あの……]

 

[老舗の豆腐店だと聞いてますがそちらを手伝われるんですか?]

 

[えー、以上で記者会見を終わります! はい、道開けてください!]

 

芸能記者の遠慮ない質問にりせが困惑していると、彼女の所属事務所の代表らしき男性が無理矢理記者会見を打ち切る。

 

「りせちゃん、テレビやめちゃうの?」

 

「さあな……けど実家ここって事ぁ、面倒な野次馬が増えそうだな、こりゃ」

 

テレビを見ていた菜々子が尋ね、それに遼太郎はそう漏らすとワイドショーの後で流れる久慈川りせ主演のCMを見てふぅと息を吐いた。

 

「久慈川りせ……か。何もないのが取り柄だったような田舎町が、今年はエラく騒がしいな……」

 

彼がそう呟き、時間が過ぎていった。

 

その翌日、20日の放課後。真達特別捜査隊二年メンバーは集まって雑談を楽しんでいた。

 

「うーす」

 

と、一年の教室から来た完二がずかずかと二年の教室に入り、慣れた足取りで真達の元に向かう。

 

「お、来た。最近マジメに来てんじゃん、どしたん?」

 

「出席日数って面倒なんがあるもんで」

 

千枝の言葉に完二はくくっと笑いながら返し、陽介がため息をつく。

 

「しかし、お前の顔見ると、こう……どうにも林間学校思い出すな……」

 

「忘れるんじゃなかったのかよ……」

 

「いや……すまん」

 

「ハァ……いいスけど」

 

陽介の言葉に完二がそう呟くと二人は浮かない顔を見せる。

 

「つーかそうだ、先輩ら、ニュース見たッスか?」

 

そこで完二は話を変えようとしたのかそう話題を出す。

 

「ニュース?……ああ、“久慈川りせ・電撃休業”ってやつ? まさに今ブレイク中ってとこなのに、なんで休業すんだろーね」

 

「アイドルってのも大変だよなー、うん」

 

完二の出した話題に千枝がそう言い、陽介がうんうんと頷く。

 

「……りせ?」

 

と、真が首を傾げ、陽介が驚いたように真を見る。

 

「え……知らないの? お前、これは都会とか田舎、カンケーないぞ?」

 

「芸能にはあまり興味が……あ、いや昨日そんなニュースしてたな……えっと、久川りえだっけ?」

 

「久慈川りせ!!! お前頭いい癖になんで名前間違えて覚えてんだよ!?」

 

陽介の言葉に真が頭をかき、昨夜見たワイドショーを思い出して聞き返すと陽介は全力でツッコミを入れる。

 

「まだデビューして短いけど、このままいきゃ、じきトップアイドルだぜ。俺、結構好きなんだよ! なんたってキャワイイ!」

 

「キャワイイって……オッサンかよ」

 

陽介の言葉に千枝は冷たい視線を彼に送る。

 

「まあでも、確かここ出身で、小さい頃まで住んでたらしいし、ファン多いんじゃん?」

 

「ニュースだと、彼女“お婆さんの老舗のお豆腐屋さん”へ行くんでしょ? それ……もしかして、マル久さんの事じゃないかな?」

 

「マルキュー?」

 

千枝の続けての言葉に雪子がそう言い、その店名に陽介が首を傾げる。

 

「“マル久豆腐店”。うちも仕入れてるの」

 

「あー、商店街のあそこか! よく前通るな……」

 

雪子の言葉に陽介が納得したように頷き、ふと何かに気づいたように沈黙。顔をぱっと輝かせる。

 

「じゃあ、あの豆腐屋行ったら、りせに会えんのかな!?」

 

「ちょっと! 今はそういう話してんじゃないでしょ!」

 

「え?」

 

陽介の嬉しそうな声に千枝が叫ぶと彼は不思議そうな表情を見せる。

 

「事件の話だって! “テレビ繋がり”でしょーが!? 狙われるかもよ、彼女?」

 

「そんな、りせは別に昨日今日テレビに出たわけじゃないじゃん。大体、りせと事件って関係あるわけ?」

 

「それ、気になって調べてみたの」

 

千枝の言葉に陽介は笑いながら返すが、その言葉に雪子が返す。

 

「りせちゃんとアナウンサーの山野さんは、繋がり自体、ほとんどないみたい。同じ番組に、一、二度出たことがあるだけ」

 

「アイドルなのは前からだけど、彼女いま、ニュース流れて、この町の“時の人”じゃん」

 

「しかもその本人がここに引っ越してくる……狙われてもおかしくはない、か」

 

雪子に続いて千枝がそう言うと真が呟く。と、そこで陽介も気づいたように頷く。

 

「もしこれでりせが狙われたら、犯人の狙いはさらに絞り込めるな」

 

「どういうことッスか?」

 

陽介の言葉に完二が首を傾げた。

 

「だーから、もしりせが狙われたら、犯人のターゲットは完全に“テレビで報道された人間”だ」

 

「最初の事件の関係者って線は、ほぼなくなる」

 

「はー、あー、なるほど」

 

陽介の言葉に続いて真が言うと完二は二、三度空頷きする。

 

「よし、じゃ早速、りせの動向に注意だな! うしっ!」

 

「テンション上がってんな……」

 

陽介のテンション上がっている叫びに千枝は静かにそう呟いた。

 

それからその場は解散。まだ陽介はりせちーの事で盛り上がってそれに千枝が辛辣なツッコミを叩き込み、雪子はマイペースに帰宅。完二も荷物を取りに自分の教室へと戻っていったため真も荷物を持って教室を出ていき、一階へとやってくる。

 

「よお、小西」

 

「……あなたですか」

 

一階に知っている顔を見つけたため声をかけ、その相手――小西は嫌そうな顔を向ける。

 

[保健委員は至急、保健室に集合してください。繰り返します……]

 

と、突然そんな放送が聞こえてきた。

 

「あー……保健委員、か」

 

「一緒に行くか?」

 

「は? いいっすよ、俺だけで」

 

小西の呟きに真がそう聞き返すと小西はすげなく断る。

 

「おーい! 椎宮っておまえだろ?」

 

と、男子生徒が真に声をかけてきた。

 

「ああ。何か用か?」

 

「保健委員の代役よろしくって、先生が」

 

「は?」

 

「確かに伝えたぞ? オレ、停学になるから、頼むよ!」

 

男子生徒はそう言って慌てて走り去っていき、それに小西が苦笑する。

 

「はは……また、とばっちりですね。俺、ノート提出があるんで、後から行きます。お先どうぞ」

 

「ああ」

 

小西がそう言い、真は頷くと保健室へと急ぐ。

 

「椎宮君……何? キミも呼ばれた?」

 

「ああ。理由はよく分からないが代役として」

 

と、以前の女子生徒が真に尋ね、真は頷いて再度保健委員として招集されたことを伝える。

 

「マジで? 人手足りないし、ありがたいけど」

 

「けどー、今日の招集、マジ勘弁なんですけど。デートとか言って半分くらいいねーし。しっかも棚卸とか、すっげー辛くね?……ったく、小西はいいよな」

 

「そういえば小西君って宿題免除されてるってマジ?」

 

と、男子生徒が愚痴り始めるとさらに別の女子生徒がそんな噂を持ち出す。

 

「ええー! なんだよそれ、超うらやましいんですけど!」

 

ざわざわと、小西の話題で盛り上がり始めた。

 

「その辺にしておけ」

 

とりあえず真偽不明の噂も多く、聞いていて面白くないためたしなめる。

 

「いいっすよ、別に……」

 

と、そんな声と共に保健室のドアが開き小西が入ってくる。それと同時にさっきまで盛り上がっていた全員が口をつぐみ、居心地悪そうにうつむいた。

 

「……あ、その……すんません。空気悪くするつもりじゃなくて……」

 

小西は申し訳なさそうに呟き、保健室から出ていく。

 

「ほ、ほら、仕事仕事!」

 

気まずい空気を払拭するように女子生徒がそう言うが、気まずい空気の中保健委員の仕事をこなし、それが終わると真は靴箱へと戻ってきた。

 

「小西」

 

「あ……ど、ども」

 

真が驚いたように声をかけると小西も驚いたように振り返り、ども、と挨拶する。

 

「帰ってなかったのか?」

 

「……みんなが働いてるのに、先帰るの嫌だっただけです。なんとなく……」

 

「そうか」

 

小西の言葉に真は静かに頷く。

 

「あ……袖のとこ、汚れてますよ」

 

小西は気づいてないらしい真に指摘をし、真も袖を見る。たしかに少し袖が汚れていた。

 

「さっきの……棚卸のせいですね。はは……すみません、本当は俺がやるはずなのに……」

 

小西は申し訳なさそうに笑いながら呟き、真の方に歩いていくとハンカチを彼に渡す。

 

「これ、よかったら……」

 

「可愛いハンカチだな」

 

「あ、やっぱそれ……」

 

ハンカチを受け取った真はそう呟くと小西は慌てて何か言おうとするが、すぐ口をつぐむと首を横に振る。

 

「……いえ、なんでもないです」

 

呟き、彼は真に背を向ける。

 

「俺、もう少しここにいますから……さよなら」

 

そう言われ、真も彼を無理にこの場から離すことは出来ないと判断し、一人で家に帰っていった。

 

 

「おう、お帰り」

 

「ただいま」

 

新聞を読みながら挨拶してきた遼太郎に真はただいまと挨拶を返し、ふと以前彼が新聞記事のコピーを探していたことを思い出し、鞄を階段の下に置くと遼太郎の向かいの席に座った。

 

「叔父さん、この前探してた新聞記事のコピーはどうなりました?」

 

「新聞記事のコピー?……ああ、見つかったよ。すまんな、心配したか?」

 

「いえ、なんとなく気になっただけなので」

 

真の質問に遼太郎は一瞬首を傾げるが直後思い出したように頷き、苦笑する。それに真がなんとなく気になっただけと返すと彼は「そうか……」と呟いた。

 

「妻の……千里の記事なんだ。ひき逃げされて、死んだ時のな……」

 

遼太郎はそう呟き、一拍置く。

 

「前に話したな。まだ犯人が挙がってない事件の事を……もう分かっただろう? これ以上は家の中でする話じゃない……やめよう」

 

呟き、彼は暗い表情でうつむく。と、真はがたんと音を立てて立ち上がった。

 

「じゃあ、外で話しましょう」

 

「!?」

 

真剣な声でそう言う真に遼太郎は驚いたように目を丸くし、

 

「……ははっ。まったく……かなわんな、お前には」

 

やがて苦笑いを見せてため息をついた。

 

「アイツは……」

 

遼太郎が話し始め、真は再び椅子に座る。

 

「菜々子の母親は、菜々子を保育園に迎えに行くとちゅう、ひき逃げされたんだ。寒い日で、目撃者はなく、発見も遅れに遅れた。俺に知らせが入るまで、菜々子は保育園で一人、ずっと待ってた……いつまで経ってもこない迎えを、たった一人で、な……」

 

遼太郎はそこまで話すとまた一拍置き、苦しそうに息を吐いた。

 

「殺されたなんて……菜々子には言えなかった」

 

彼の口から発される言葉も、酷く苦しげなものだった。

 

「犯人を捕まえるのが仕事の父親が……足取り一つ、掴めてねえってこともな…………だが、俺は必ず犯人を上げる。そのためにはプライベートなどない、菜々子だって、分かってくれるさ」

 

「……菜々子が、そう望んだのか?」

 

遼太郎の言葉に真は目を鋭くさせながら問い返す。それに遼太郎は自分の顔を隠すように顔の前で両手を組んだ。

 

「……今は望まなくとも、分かってくれる日がくる……そう思うしか無いだろ……すまん、今は一人にしてくれ」

 

彼は疲れた顔をしており、一人にしてくれと頼まれたため真は立ち上がり、部屋に戻ろうとする。

 

「……真」

 

と、遼太郎が背中を向けている真に向けて声をかける。

 

「……ありがとな」

 

彼のお礼の言葉を聞き、真はそれに無言で返すと自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

少し時間を戻して夕方頃。命はマヨナカテレビ調査の建前で暇潰しに町を散策していた。そして前に店主のお婆さんをジュネスから家まで送った久慈川豆腐店の前を通りがかると、ふとバイクを止める。

 

「どうかしました?」

 

「え? ああ、命ちゃん」

 

命が声をかけると困った様子を見せていたお婆さんは嬉しそうに頬をほころばせる。

 

「いや、実はね。今日孫が帰ってくるんだけど、ちょっと天城さんの所に行かなきゃいけない用事が出来ちゃって……」

 

「ああ、前に言っていたお孫さんですか。なら僕が迎えに行きましょうか?」

 

「えぇっ!?」

 

命のあっさりした言葉にむしろお婆さんが驚いたように叫ぶ。それに命は穏やかに微笑んだ。

 

「どうせ暇ですし」

 

「ああ、じゃあお願いしたいけど……」

 

「ああ、知らない人ですからね……久慈川さん、携帯持ってませんか?」

 

「え、ええ……一応連絡とか取りやすいようにって息子が……」

 

お婆さんがそう言って携帯電話を取り出すと命は「貸してください」とだけ言って携帯電話を受け取り、少し調べる。

 

「……うん、メール機能と写メ機能はあるな。久慈川さん、ちょっとこっちに」

 

「ええ?」

 

命はそう言ってお婆さんの隣に顔をやるとお婆さんの携帯電話で写真を撮り、メールを開く。

 

「えっと、この[りせちゃん]ってやつですか?」

 

「え、ああ、うん。メールは上手く使えないんだけどね……」

 

「代筆しますよ。この子の携帯にさっき取った写メ送りますんで、この人と一緒に帰っておいでってメールを送っておきます」

 

「あ、ありがとうねぇ」

 

「いえいえ」

 

命はそう言って慣れた手つきでメールを送り、ついでに自分の携帯を取り出してそれぞれ片手で何か操作してから携帯電話をお婆さんに返すと店の前に止めておいたバイクにまたがってヘルメットを被りながらお婆さんの方を見る。

 

「じゃあ、行ってきます。ああ、僕の携帯電話の番号を送っておいたので何かあったら連絡してください」

 

命はそう言ってバイクを走らせ、それを見送ったお婆さんは穏やかに微笑んだ。

 

そして命は慣れたように稲羽駅へと到着、ヘルメットを外すと額にくっついた髪を顔を横に振って離れさせる。

 

「早すぎたかな……」

 

そう呟く。まあただでさえ人気がないし、電車はまだ到着していない。というよりそもそも何時の電車に乗ってそのお孫さんが帰ってくるのか聞いていない、ついでに言えば孫の顔や名前も分からないことに命はようやく気付いた。

 

「まあ、名前は多分久慈川とか“りせちゃん”から連想出来る感じだろうし、相手は僕の顔知ってるはずだからあっちから話しかけてくるのを待とう……」

 

命は自分に言い聞かせるように呟き、懐から携帯音楽プレイヤーとイヤホンを取り出すと音楽を聞き始める。それからしばらく時間が経ち、命は飽きることなく音楽を聞いていた時だった。

 

「の……あの……」

 

「ん?」

 

ようやく声をかけられている事に彼は気づき、一度音楽を止めてイヤホンを耳から外す。

 

「はい?」

 

命は相手を見下ろしながら声をかける。その相手は帽子を深くかぶりサングラスをかけ、軽い旅行に使うような鞄を背負っている少女だった。

 

「え、えっと……お婆ちゃんが言っていた、代理の方ですよね?」

 

少女はそう言って携帯を見せてくる。その画面にはついさっき命が撮ってお婆さんの孫に送った写メが写っており、それを見た命が微笑む。

 

「ああ、君が久慈川さんのお孫さんだね」

 

「はい……えと……」

 

「じゃ、長話もなんだし久慈川さんも待ってるだろうから行こうか。はい、ヘルメット被って」

 

「あ、はい……」

 

少女――久慈川孫は少しおどおどしており、命は彼女向けて微笑むと予備のヘルメットを渡し、彼女がヘルメットを被ってバイクに乗ると彼もバイクに乗る。そしてバイクは丸久豆腐店向けて出発した。

 

それから二人はバイクに二人乗りで人気の少ない道路を走っていた。

 

「あ、あの……名前……」

 

「ああ、名乗ってなかったっけ。僕は利武命」

 

「そ、そうじゃなくって……」

 

「ああ、そういえば君の名前聞いてなかったっけ。りせちゃんってアドレスの名前しか……ん?」

 

安全運転に集中しつつも命は久慈川孫の言葉に耳を傾け、彼女の言葉に納得したように返すがそこでふと気づいたように沈黙する。

 

(久慈川さんは息子さんに携帯電話を持たされたと言っていた、つまりこの子の苗字も久慈川の可能性が高い。この子の名前はアドレスから考えると“りせちゃん”から連想できる……)

 

命はそこまで考え、うんと頷いた。

 

「推理するに、久慈川りせちゃん、かな?」

 

「は、はい……え、えっと……なんとも思わないんですか?」

 

命の推理に久慈川孫こと久慈川りせはこくこくと頷いた後質問、それに命は少し首を傾げた。

 

「え?……あー……そういえばなんかどっかで聞き覚えがある名前だね。結生とゆかりが話してたような……」

 

命は運転しながら器用に頭を悩ませており、りせは我ながら信じられないとばかりの視線を命に向ける。

 

「え、えっと……りせちー、って聞いた事ないですか?」

 

「あー……確かどっかの少女アイドルの愛称だっけ? たしか……久川りえ?」

 

「く、じ、か、わ、り、せ、です!!!」

 

命のボケ――と言っても本人は至極真面目な表情で言っているが――にりせは思わず全力で一言一句に力を込めたツッコミを叩き込む。

 

「……ん? 少女アイドルりせちーの名前が久慈川りせ……」

 

命はそこで何かに気づき、赤信号のためついでにバイクを止めて振り向き、りせを指差す。

 

「……もしかして、少女アイドルの久慈川りせ?」

 

「遅いよ!!!」

 

いつもの聡明さはどこへやら、ようやく真相に辿り着いた命にりせは再びツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

「いやーごめんごめん。あんまり芸能人とか興味なくってさー、正直僕には関係なかったからどうでもいいって言うかね~。友達と話合わせる程度にしか見ないんだよそういうの」

 

「だ、だからって……」

 

再びバイクを走らせ、命のすまなそうな、しかしあっけらかんと笑いながらの言葉にりせはがくっとうつむきながら呟く。ここまで自分の事を知らない相手にいきなり出会うとは思ってもいなかったのだろう。

 

「それにしても、私がアイドルだって知ったのによくそこまで平然としていられますね……」

 

「……まあね。そういうお偉いさんとの顔合わせには慣れてるっていうかなんというか」

 

りせの言葉に命は言葉を濁しておく。彼には尊敬する先輩であり共に戦った仲間として桐条グループの現総帥がいるし、某通販番組の社長とコミュニティを築いていたりした過去がある。今更少女アイドル一人で驚く理由もないだろう。

 

「それに、君は君だし」

 

「え?」

 

「少なくとも僕は君がアイドルだろうが一般人だろうがどうでもいいよ」

 

命の言葉にりせはぽかーんとする。自分がアイドルであったという事自体知らなかった上にその事実すらどうでもいいと切って捨ててくるとはまさか思いもよらなかったと言わんばかりだ。

 

「さて、もうすぐ着くよ」

 

「あ、はい!」

 

命の言葉にりせは頷き、それから少し走った後バイクは止まり、命はヘルメットを外すと額にくっついた前髪を払いのけるように軽く顔を振ると改めてりせの方に振り返った。

 

「はい、到着。長旅お疲れ様でした、お嬢様」

 

「あ、ありがとうございました……」

 

命のスマイルを見せながらの言葉にりせはぺこりと頭を下げてお礼を言い、それに命も笑う。

 

「気にしなくていいよ、暇潰しにはなったしさ。じゃ、僕は帰るね。久慈川さんによろしく」

 

命はそう言ってりせから予備のヘルメットを盗るとバイクに再びまたがり、そこで思い出したように「そういえば」と声を出した。

 

「君って八十神高校に転入するんだよね?」

 

「はい? そうですけど?」

 

「あそこの二年には僕が信頼してる後輩がいてね。その子には信頼できる仲間がいる。何かあったらその子達に助けを求めなよ……もちろん、僕も何かあれば助けるけど」

 

「はぁ……」

 

命の言葉にりせは曖昧に声を漏らすが命は「じゃあねー」と軽く言ってバイクを走らせ去っていった。

 

「……不思議な人」

 

りせは命が去っていった方を見ながら呟き、持ってきていた鞄を背負い直すと丸久豆腐店へと入っていった。




さて今回はりせ登場、なんですけど命とちょっと絡んでもらいました。で、月光館学園コンビで久慈川りせの名前を間違えるボケ二連発です、同じネタですけどね。なんとなく思いついたのでやらしてみました。まあ改めて考えると少しばかり苦しい間違いですけどね、りせとりえの間違いはともかく久慈川(くじかわ)久川(ひさかわ)は特に。
さてと……ある意味困るんだよなぁこの子のマヨナカテレビ……どう描写すればいいのか、そしてどこまで描写していいのか見当がつかない……。
ま、そこはいつもの通り書く時に考えよう。ではまた次回、感想はいつでも楽しみにしてますのでお気軽にどうぞ。それでは。

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