ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第二十二話 コミュニティ、皇帝達との絆。

6月9日。真と陽介は原付免許を取得し、その後真はガソリンスタンドで会った遼太郎から彼が昔使っていたバイクを譲り受けることとなっていた。

 

「あっ」

 

「どうした?」

 

と、真が突然声を漏らし、遼太郎が聞き返すと真はしまったというように頭をかいた。

 

「携帯電話、学校の机の中に置きっぱなしにしてたの忘れてた……」

 

「あー、そういやお前学校出てから一度も携帯いじってねえな」

 

「なにやってんだ。ったく……とっとと取ってこい。バイクは俺が家まで持ってってやるから」

 

「なんなら学校まで送ろうか?」

 

「あ、じゃあお願いします。花村、また明日」

 

「おう!」

 

真のしまったといわんばかりの言葉に陽介が思い出したように頷くと遼太郎も呆れたようにそう言い、命が学校まで送ろうかと申し出ると真は好意に甘え、陽介に挨拶すると命の後ろに飛び乗り、ヘルメットを被る。そしてバイクは一気に走り出した。もちろん交通安全を考慮したスピードになっている。

 

そしてバイクはあっという間に八十神高校前の坂までやってきた。

 

「じゃ、僕はもうすぐバイトだから」

 

「はい、ありがとうございます」

 

命はそう言って出発し、真は一言お礼を言ってから学校に上がっていく。

 

「あれ、椎宮君。今日急いでたみたいだけど……どうしたの?」

 

と、今から帰ろうとしていたのか靴箱に立っていた雪子が首を傾げる。

 

「いや、ちょっと急用があってな。天城はこれから帰るのか?」

 

「うん。今日は家の手伝いはいいからって言われてたから、図書室で勉強してたの……一人で考えたいこともあったし。じゃあね」

 

「また明日」

 

雪子はそう言って靴を履くと学校を出ていき、真も挨拶を返しておくと上履きに履き替えて二階に上がる。

 

「あー、もう学校ヤだ。巽が来てるとかホント許せない」

 

と、階段の近くでそんな声が聞こえ、真は眉をひそめて階段を上がる。どうやら一年の女子生徒のようだ。

 

「どうかしたのか?」

 

「ん? あ、二年の転校生の……ねえ、あんた一年の巽完二って知ってる?」

 

「ああ」

 

キツめな印象を与える女子生徒の言葉を真は首肯する。知り合いというか既に彼にとっては友達と言えるだろう。

 

「あいつ、チーム作ってカツアゲしてんだって。同じクラスとかマジ最悪だし。何か実習棟の方でコソコソしてるしさ。超怖い」

 

「完二がカツアゲ?……どこでそんな噂聞いたんだ?」

 

「知らないわよ。でもどーせやってるに決まってんじゃん」

 

真の言葉に女子生徒は吐き捨てるようにそう言って、言いたいこと言って満足したのか階段を下りていく。それを見送った後真は教室に入って忘れていた携帯電話を取り、さっきの噂が気になったのか、実習棟へと足を延ばす。

 

「……」

 

確かに完二がいた。なんか被服室の窓からものすっごい睨んでいるような形相で教室内をガン見している。

 

「……完二?」

 

「おあっ!?」

 

突然声をかけられた完二は大袈裟に飛び跳ね、真を見ると目を丸くする。

 

「つっ、椎宮先輩!? べ、別にノゾいてるんじゃねーからな! 全然ッ、ちげーかんな!!」

 

「……完二、ちょっといいか?」

 

顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振り叫ぶ完二に真は真剣な顔をして問いかける。

 

「な、なんスかそんな怖ェ顔して……なら、場所変えましょうや」

 

完二は真の様子から何かを察したのか場所を変えようと提案。二人は鮫川の土手へとやってくる。

 

「……で、なんスか、話って? テレビのことッスか?」

 

「いや。少し話を聞きたいだけだ」

 

「なんスか、ケーサツみたいに?」

 

「警察……か。たしかにそう聞こえるな」

 

真の言葉に完二が聞き返すと真はふっと笑う。

 

「で、なんスか?」

 

「いや。さっきある女子生徒からお前がカツアゲグループを作って恐喝してるって噂を聞いて。確かめに来たんだ」

 

「あ?……は? カツアゲ? え、俺が!?」

 

単刀直入の言葉に完二は一瞬呆けた後その言葉の意味を頭で理解するとまた目を丸くして自分を指差す。

 

「せ、先輩、俺を疑ってんスか!?」

 

「見損なうな!」

 

「す、すんません!……あ、あれ? なんで怒られんだ?」

 

その焦ったような言葉に真は一喝。完二は反射的に頭を下げた後なんで自分が怒られたのか理解できないようにクエスチョンマークを頭の上に浮かべた。

 

「えっと、でも俺やってねえッスよ!」

 

「分かってる。本当に疑ってるのなら別の手段で証拠を押さえるからな、信じてるから直接聞いたんだ。疑われてると思ったならすまない」

 

「あ……いや、俺も別に本気で先輩が疑ってるなんて疑ったわけじゃ……俺こそすんません」

 

完二の焦った言葉に真は真摯な態度で返し、完二もごにょごにょと呟いた後どこか浮かない様子を見せた。

 

「……けど、そんなウワサ立つのも、やっぱテメェ自身のせいッスよね……これじゃ、先輩らにも迷惑かけっかも……」

 

「迷惑だなんて思わない。そんなふざけた噂に惑わされるほど俺は暇じゃないからな」

 

「先輩……その……」

 

真の言葉に完二は感動したように声を漏らす。そして決心したように強い光を宿した目で真を見た。

 

「ヒマん時でいいんで、ちっと、話とか……聞いてもらっていいッスか? 何かモヤモヤしてんスけど……俺、バカだから分かんないんスよね」

 

「それぐらいなら喜んで引き受けよう」

 

完二の相談を真は笑みを浮かべながら引き受ける。彼なりに自分を変えようとしている様子を感じ取り、真は彼との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“皇帝”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。すると完二は何か考える様子で空を見上げた。

 

「先輩らに迷惑かけねえには……えーと……」

 

どうやら早速、自分なりに何が出来るかを模索しているらしい。

 

「そうだ!」

 

そして彼は一計を思いついたのかぽんと手を打って真を見る。

 

「とりあえず、カツアゲグループとかツブしときますか?」

 

「いや、もっと平和的にだな……」

 

しかし思いついた手段が結局暴力的で、真は引きつった表情でツッコミを入れた。

 

それから土手の草原に座って完二の相談に乗った後、真は帰路につく。

 

「ただいま」

 

「遅かったな」

 

「あ、その後ちょっと友達と話し込んで……」

 

「そうか……」

 

先に帰りついていた遼太郎の言葉に真はそう言葉を濁し、遼太郎も納得したのか新聞に目を落とす。

 

「お兄ちゃん! お父さんのオートバイに乗るの? かっこいー!」

 

「ありがとう」

 

遼太郎から話を聞いたのだろう。菜々子はぱぁっと輝くような笑顔でそう言い、それに真はお礼を返す。

 

「これでぼーそーぞくだね! いつテレビでるの?」

 

「いや、そんな予定は……」

 

しかしその次の彼女の無邪気に微笑みながらの言葉には頬を引きつかせるしか出来ず、遼太郎も新聞で顔を隠してはいるものの参ったような様子を見せていた。多分彼も菜々子から無邪気な笑顔でそれを聞かれ返答に困ってしまったのだろう。それから真は菜々子を口八丁で誤魔化した後二階の自分の部屋へと戻っていった。

 

それから次の日の放課後。雨は降っているが少々小降りの中、真、陽介、命は堂島家前に集合していた。命はバイクを用意している。

 

「じゃ、ちょっと訓練してみようか。雨降ってるから少し近所を乗り回す程度にね」

 

「「は、はい!」」

 

「じゃあまず真君から。花村君は僕の後ろに乗って」

 

「「分かりました!」」

 

命が教官役のバイク訓練だ。遼太郎から安全運転を心がけるよう言われ、原付免許を取ったと知った命が教官役を買って出たのだ。真は叔父から受け継いだバイクに乗ってヘルメットを被り、陽介も命の予備ヘルメットを被るとバイクの後ろにとり、少し遠慮がちに命にしがみつく。

 

「花村君、もっとしっかり抱きつかないと。運転手に身体を預けるくらいの気持ちじゃないとむしろ危ないよ?」

 

「あ、はい!……うお、たしかにこりゃ密着するわ……」

 

「何か言った?」

 

「なんでもないっす!」

 

陽介は自分が作戦の女性役(予定)の立場になってその密着具合に驚き、真はその間にエンジンをかける。そして真を先頭に、命がその後を続くようにして二台はスタート。真のぎこちない運転に命が後ろから声をかけたりアドバイスを送り、三人は真がさんざん迷った挙句に駅前へと辿り着いた。

 

「ふぅ……」

 

「ご苦労様。じゃ、そこの自販機でジュース買って、少し休憩したら今度は花村君が真君のバイクに乗って帰ってみようか」

 

「あ、はい! 椎宮、バイクのキー貸してくれ」

 

「ああ」

 

ヘルメットを脱いで緊張が解けたように安堵の息を吐く真に対し命はいつものようにそう言い、陽介は頷くと真からバイクのキーを借りる。そしてジュースを飲み、少しだべっての休憩をしてから帰り道につき、再びさんざん迷って三人は堂島家へと戻ってくる。そして命はそのまま陽介を自宅に送る。また明日練習しようと言って乗せていき、真はそれを見送ってから家に入っていった。

 

そして土曜日。真は、命が急に午後からシフト入らなければいけなくなった――なんでも他のバイトが突然今日は無理だと言い出したらしい――という旨を陽介から聞き、今日はバイク訓練は中止だという事を聞くとしょうがないためなんとなく商店街に出てくる。

 

「あ……」

 

と、マリーがベルベットルームから出てきているのを見つける。

 

「ね、どっか行こ?」

 

「……ああ、いいぜ」

 

マリーの言葉に真は少し考えるがどうせ今日もバイク訓練のため予定を入れていなかったため頷く。

 

「うん、行こ!」

 

それにマリーは嬉しそうに頷いた。

 

「今日はね、“街”がいい。色んなのあるって聞いたよ? だから連れてって」

 

「街……沖奈でいいかな」

 

マリーの注文に真は少し考えるとマリーを連れ、沖奈市へと向かった。

 

「ここは“街”なんだ。ふ~ん……」

 

彼女はきょろきょろと珍しそうにあたりを見回した後、真を見る。

 

「変なの。広いのに狭い。四角と……灰色ばっかり。ね、街は何するトコ?」

 

「まあ、色々遊ぶとこかな」

 

「ふうん……」

 

マリーの質問に真はそう返し、マリーはそう呟くとジト目を彼に見せる。

 

「キミって遊んでるの? じゃ“遊び人”だね。だからたまになんでしょ、あの部屋来るの。さいあくきらいばかさいてー」

 

「んな事言われても……というか遊び人の意味が……」

 

マリーの言葉に真は困ったように呟く。

 

「こっちの身にもなってよ……待ってるのに」

 

彼女はそう言って頬を膨らませており、真はどうしようかと頬をかく。

 

「あれ、椎宮君? あ、マリーちゃんもいるじゃん!」

 

と、突然声をかけられ真はそっちを向く。声の方にいたのは千枝と雪子だ。千枝はおーいと手を振って二人に近づき、雪子は見慣れないマリーに視線を向けながら千枝と一緒に二人に近づく。

 

「こんにちは。えっと……友達?」

 

「あ、そっか。雪子は会った事ないっけ。この子、マリーちゃんって言ってね、前に一緒にご飯食べたんだー」

 

千枝が雪子にマリーを紹介し、次にマリーを見る。

 

「あ、こっちは天城雪子。あたしらの仲間だから」

 

「……なかま」

 

千枝の快活に微笑みながらの言葉にマリーはそう呟き、その間に雪子は真を見た。

 

「あなたの知り合いって事は、この辺の子じゃないよね? やっぱり都会から遊びに来てるの?」

 

「あ~そっか、それで沖奈市? はは、そーだよね。あたしらの地元、何もないからさ」

 

雪子の言葉に続いて千枝もそう言い、マリーは真の方を見る。それに真もマリーの方を見返した。

 

「……今日は赤もいる。何、この緑と赤」

 

「えっ?……緑と……赤?……緑と赤!?」

 

「あ、あはは……そっか、あたし前も緑だったかも……」

 

マリーの言葉に雪子が驚いたように叫ぶと千枝も頬を引きつかせながら呟く。それにマリーは首を傾げた。

 

「別に、嫌な事言ってないよ。似合ってるし」

 

嫌味とはとても思えない純粋な言葉に、二人は顔を見合わせると嬉しそうに笑う。

 

「あ、ありがと。褒められてると思わなかった」

 

「いい子だね。間違いないよ」

 

二人ともうんと頷いてそう太鼓判を押す。

 

「でも赤の人は赤ばっかって感じ。緑の人は……ずっと同じ?」

 

「「!?」」

 

しかしその直後マリーはそう言い、二人は驚いたようにのけ反り千枝は苦笑気味にうつむいた。

 

「あ、相変わらず痛いトコ突くね……」

 

「……でも当たってる」

 

「ううん、違うよ」

 

二人ともがくっとうつむいており、それにマリーが首を横に振る。

 

「何か……勿体ない。人間は服変えられるでしょ。もっと色んなの着ればいいのに」

 

「そ、そういうものかな。あまり自分で選んだりとか、しないから……」

 

「そうだ!」

 

マリーの言葉に雪子が困ったように声を漏らすと千枝が思いついたというように声を出す。

 

「あたしたち、今から服買いに行くんだけど、椎宮君も一緒に行かない? もちろんマリーちゃんも一緒にさ!」

 

「ちょっと千枝、いきなり誘ったら迷惑かもしれないよ?」

 

千枝の言葉を雪子がたしなめる。

 

「いや、俺はマリーが良ければ構わない」

 

「え……別に……いいけど」

 

「よし決まり! ホラ、早く行こ!」

 

マリーの言葉に千枝はそう言い、女子二人がマリーを挟んでまるで連行するように連れていく。それから四人は沖奈駅前のショップへと入った。そこで千枝と雪子は楽しそうに服を選んでいるが店内は女物の服やアクセサリーがメインらしく、真は手持無沙汰になっていた。

 

「ね、このシャツどうかな? いい色じゃない?」

 

そういう千枝は緑色のシャツを手に取っている。

 

「それは“緑”じゃないか?」

 

「うん、“緑”だけど……」

 

真に続いてマリーもツッコミを入れ、千枝ははっとした表情でシャツに目を落とす。

 

「おわ、ホントだ! なんであたし、緑ばっか買っちゃうんだろ!?」

 

千枝はそう言ってシャツを戻した後マリーを見る。

 

「マリーちゃん、好きな色は? 分かった。青でしょ」

 

「や、特にない……けど」

 

「そう? だってなんか青っぽいイメージだけど……帽子とかバッグとか」

 

マリーは千枝の微笑みながらの言葉にタジタジになっていた。

 

「このスカートどうかな? ちょっと大人っぽいかも」

 

と、スカートを選んでいた雪子が声をかけ、真は今度はそっちを見る。彼女は真紅のスカートを手に取っていた。

 

「……す、凄い色だな」

 

「うん……赤だよね」

 

「そっか、単色っていうのがダメなのかな? 私、すぐシンプルなの選んじゃうから……」

 

真が言葉を選び、マリーが単刀直入に言うと雪子はそう呟いてスカートを元の場所に戻す。

 

「うん、ありがとう。ちょっと冒険してみる、脱シンプルで」

 

「あ……うん、そう」

 

雪子はなんかちょっとずれているような気がする返答を見せてまた選び始め、真とマリーは顔を見合わせると心なしか困った様子を見せる。

 

「これはこれは? あたしっぽくない?」

 

「……また緑?」

 

「これはどうかな? 脱シンプル!」

 

「色ありすぎ。目眩するよ」

 

千枝と雪子のファッションセンスにマリーは次々と辛辣なツッコミを入れていく。

 

「このスカート可愛い! これとこれ合わせて……ね、どうかな!」

 

千枝がそう言って選ぶのは黄色のシャツと青いスカート。雪子もそれを見にやってきた。

 

「いいんじゃない? 一応、緑じゃないし……」

 

「でも、黄色と青って……混ぜると緑……だよね?」

 

マリーが頷くと雪子がそう呟き、三人は困った顔を見せる。

 

「あ、あはは~……ホントだ。なんだろ、無意識の欲求?」

 

「わざとじゃないんだ……」

 

千枝の言葉にマリーはそう返し、彼女らはまた服の選択を再開する。

そして買い物を終えた後、彼らは駅前へと戻ってきた。

 

「……」

 

「な~んでないかなぁ? あたしのサイズだけ」

 

「しょうがないよ、また来よう。次は入荷してるかもしれないし」

 

千枝は残念そうにがくっと肩を落としながらそう呟き、雪子が元気づけるようにそう言うと千枝は元気よく頷いた。

 

「じゃあそん時はさ、またこの四人で来ようよ、ね!」

 

「マリーが良ければ喜んで」

 

「え……私も? なんで?」

 

千枝の言葉に真は頷いてマリーに促すと彼女は驚いたように聞き返す。

 

「なんでって? 友達じゃん、あたしたち」

 

「……ともだち? そうなの? いつから?」

 

千枝のあっけらかんとした言葉にマリーはきょとんとした顔で聞き返し、それに千枝は「はうっ」と言いながらのけ反った。

 

「ひょっとしてマリーちゃん……楽しくなかった!? 今日とか、この前も……め、迷惑だった?」

 

「え……迷惑じゃないよ。ともだちって言うから訊いただけ」

 

千枝は落ち込みそうな表情でマリーに恐る恐るという様子で尋ね、マリーはそう返した後、頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような様子を見せる。

 

「……ともだちになると、何か意味あるの?」

 

怪訝な様子を見せているマリーに千枝はう~んと頭を悩ませていた。

 

「そりゃ……分かんないけど。と、友達の意味? う~ん……」

 

「友達になれば分かる」

 

「うん……意味は、あると思うよ。一人じゃ無理だと思った事でも、二人ならできる事もあるじゃない」

 

千枝が頭を悩ませていると真がそう言い、雪子もそう続けてにこっと笑う。

 

「ほら、今日だって、マリーちゃんにお洋服見てもらったし」

 

その言葉にマリーはうつむいた後首を横に振る。

 

「……わかんないよ。だって……」

 

マリーが何か言おうとしたその時、千枝が思い出したように顔を上げた。

 

「そうだ! 欲しいDVDあったんだ! 早く行こう、売り切れちゃう!」

 

「カンフー映画だよね……売り切れないと思うけど」

 

「いいからいいから! ほら、全員駆け足~っ!」

 

千枝はそう言って飛ぶが如く走り出し、雪子もその後を追って歩き出す。

 

「え……私も?」

 

「早く行こう」

 

「意味わかんない……行きたくないとかじゃなくて」

 

そういうマリーは戸惑ってこそいるが、嫌ではなさそうであった。

 

「ね、あの人達ペルソナ使うでしょ? キミと一緒に、“真実を追う”人達……」

 

マリーは大分先にいる千枝と雪子を見ながら呟き、次に真を見る。

 

「一人じゃ無理でも二人なら出来るの? ともだちだから……」

 

そう言って、彼女はさっきの千枝と雪子の言葉を考えていた。

 

「おーい、二人ともー! は~や~く~!」

 

千枝が両手を大きく振って飛び跳ねながら二人を呼び、マリーはうつむいて少し拍を置いた後うんと頷いて歩いていく。真もその後を追って歩いて行き、それから四人で沖奈市を見て回ってから帰っていった。そして家で少し封筒貼りのバイトを進めてから真は眠りにつく。

その翌日、6月12日。真はやる事もなく、通信販売番組[時価ネットたなか]を見ていると突然携帯が鳴り始め、真はテレビを切ってから電話に出る。

 

「もしもし?」

 

[あ、もしもし、天城ですけど……]

 

「ああ天城。どうしたんだ?」

 

[急にごめんね。もし今日、時間があれば出てこれないかな?]

 

「ああ、いいけど」

 

[うん。じゃ、後でね。バス停で待ってて]

 

「おう」

 

雪子からの誘いを受け、真は電話を切るとさっさと荷物を準備し――と言っても財布や携帯を手提げ袋に入れるくらいだが――菜々子に一言言ってから家を出ていった。そしてバス停で雪子と合流し、二人は商店街の本屋“四目内堂”に行く。

 

「椎宮君、何買ったの?」

 

「ちょっと漫画」

 

「へ~……意外。参考書とか買うのかと思ってた」

 

「そういう天城は何を買ったんだ?」

 

「ふふ、これ」

 

少し笑って雪子が見せてきたのはどうやら資格の本のようだ。

 

「最後の一冊だったの。よかった……この本、色んな資格のことが詳しく載ってるって先生に薦められたの」

 

「資格でも取るつもりなのか?」

 

「……う、うん、そうなの」

 

雪子の言葉に真が聞き返し、雪子はこくんと頷く。少し恥ずかしそうだった。と、雪子はうつむく。

 

「テレビの中の……“もう一人の私”が言ってた。旅館を継ぐなんて、まっぴらって……あれね、やっぱり……私の本当の気持ちだと思う。だから、もう少し、素直になることにしたんだ……」

 

雪子はそう言うとどこか焦ったような顔で真を見る。

 

「わ、私ね、天城屋旅館、継がない!……高校出たら、この町、出てく!」

 

雪子はそう言うと顔を紅潮させた。

 

「……言っちゃった……言っちゃった!……ふふっ」

 

「まあ、職業選択の自由はあるからな……俺は止めはしない」

 

呟き、彼女は清々しく笑う。それに真もそう返した」

 

「それでね、一人で生きていけるように、何か資格を取ろうと思うの。インテリアコーディネーターとか、いいかなって……どう?」

 

「なんだそれ?」

 

「え、えっとね、部屋の内装とか家具を選んで、素敵な部屋にする人……って感じかな?」

 

雪子の出した資格に真が聞き返すと彼女は張り切って教える。

 

「でも、難しいんだ。資格を取るのにお金が掛かって……お母さんたちにはもちろん、言えないしさ……」

 

「シャドウ倒してなんとかならないか?」

 

「そ、それはちょっと……私の我儘に付き合わせるみたいで気が引ける、かな?」

 

資格を取るのにお金が掛かる、という発言に真はシャドウを倒してお金を稼いだらどうだと聞き返すが雪子は苦笑を漏らす。

 

「こっそり出来るアルバイトでもあればいいんだけど……」

 

「……そうだ。天城、封筒貼りに興味はあるか?」

 

「封筒貼り?……あ、そっか!」

 

真の問いかけに雪子はアルバイトを掲示している掲示板を思い出し、うんと頷く。

 

「さっそく掲示板、見てみるね!」

 

雪子は拳をぎゅっと握って力強くそう言う。と、その時彼女は何かに驚いたように目を開けた。

 

「どうした!?」

 

「あ、ううん……何か、ペルソナに力が……」

 

真が驚いたように尋ねると雪子はそう呟き、ペルソナを召喚する時、精神を集中するように目を閉じる。

 

「新しいスキルを覚えてる……ムド?」

 

「闇属性、呪殺のスキルだ。そういえば前に花村の相談に乗っていた時も同じような事を言っていたが……まさか、天城の心の成長がペルソナに影響を及ぼしてるのか?……」

 

「すごい……」

 

雪子の言葉を聞いた真は前に同じことを陽介が言っていたことを思い出して仮説を立て始め、雪子も己の成長とペルソナの連動に呟く。が、すぐに気づいたようにあっと漏らした。

 

「きょ、今日は付き合ってくれて、ありがとね?」

 

「っと。気にすることはない」

 

「自分の気持ち、人に話すのってちょっとドキドキするけど……頑張ろうって思ったよ」

 

雪子は目を細めてにこっと微笑み、また照れたようにうつむく。

 

「じゃ、じゃあ私、掲示板見てくるから……」

 

「ああ。頑張れよ」

 

雪子はそう言って掲示板の方に走っていき、真も彼女に声をかけてから家に帰っていった。

 

それからまた翌日6月13日。学校は今日から衣替えであり、真は学ランを着ず夏用の半袖シャツに袖を通していた。ついでに私服も夏物を用意してから学校に行く。そしてあっという間に時間が過ぎて放課後も学童保育でバイトをし、夜、家にいる時だった。なんとなく下に降りると遼太郎が忙しそうに新聞を見ているのを見つける。

 

(前に聞いた、菜々子の母親について聞いてみよう)

 

真は意を決した様子で心の中で呟き、遼太郎に近づく。

 

「なんだぁ?」

 

「ちょっと話をしようかと」

 

「ああ、そんなにヒマか……んじゃ、ちょっと待ってろ。まだやる事があるからな、そんなに構ってはやれんぞ」

 

遼太郎は呆れつつ少し嬉しそうな様子を見せていた。彼は何かを探しており、真はそれを見て待っていた。

 

「あるとすりゃぁ、後は……ったく、今時の若ぇのは資料の整理ひとつ、まともにできねえんだ」

 

遼太郎はイライラとした様子で毒づいた後、すまなそうな様子で真を見る。

 

「……って、お前じゃない。すまんな」

 

「手伝おうか?」

 

「いや……いいんだ。あんまり気ぃ遣うな」

 

真が手伝いを申し出るが、遼太郎は苦笑いをして静かに首を横に振る。

 

「昔の……新聞記事だ。ボロくなったからコピーを取り直したんだが……そのコピーがどっかに紛れちまったらしくてな……ある事件の犯人が、まだ挙がらねえんだ。新しい事件のせいで風化しかかってる……」

 

遼太郎はそう言い、再び資料に目を落とす。

 

「けどな、俺だけは諦めるわけにはいかねえんだ……絶対にな」

 

そう言う遼太郎は、思い詰めた表情を見せていた。とても何かを聞き出せる雰囲気ではない。

 

「お父さん……」

 

と、菜々子が突然苦しそうな様子を見せながらやってきた。

 

「なんだ? どうした?」

 

「なんか、おなかいたい……」

 

その言葉を聞いた遼太郎が慌てて立ち上がる。

 

「悪いモンでも食ったか!?」

 

「叔父さん、それはないはずです!」

 

遼太郎の言葉にここの食事を任されている真が咄嗟に言い返す。

 

「おなかの下のほう、ちくちくする……」

 

「な、何だって!? きゅ、救急……い、いや、確か前にもあったな。あの時と同じ感じか!?」

 

「……わかんない」

 

菜々子は具合が悪そうにそう漏らし、遼太郎は焦ったようにきょろきょろと辺りを見る。

 

「参ったな……あの時の薬は確か……」

 

そんな時に突然遼太郎の携帯が鳴り始める。

 

「ああ、クソッ! こんな時に……はい堂島! なんだ足立か、切るぞ。なに封筒? しかも俺に? ひょっとして市原さんからか!? いつ!?……忘れてただぁ!? ふざけやがって……」

 

遼太郎は電話相手の足立に怒鳴り声を上げる。

 

「すぐ行く!」

 

そしてそう言うと携帯を切り、コートを取るとすまなそうな目を真に向けた。

 

「出てくる。救急箱の中に薬があるはずだから……頼む」

 

そう言って遼太郎は出て行ってしまい、真は救急箱の中から腹痛の薬を出すと菜々子に飲ませ、寝かせつける。それから数時間後、真は玄関前で仁王立ちをしていた。

 

「ふぅ……」

 

と、遼太郎が家に入り、機嫌が悪そうに玄関を占める。そしてようやく真を見るとぎょっとした目を見せるがすぐに睨みを利かせた。

 

「真……まだ起きてたのか。もう遅いだろ、早く寝ろ!」

 

「叔父さんが俺の話を聞けば今すぐにでも寝ます」

 

「お前の話だぁ?」

 

イライラして真を睨み付けている遼太郎を、真も負けじと睨み付ける。

 

「どういうつもりだ? 菜々子のことが気にならないのか?」

 

「ッ! うるせぇな! お前等にそんなこと言われる筋合いは……」

 

真の言葉に遼太郎は怒鳴り声を上げようとするが、直後静まり返る。

 

「そりゃあ、あるよな。すまない……」

 

そして自分の非を認め、申し訳なさそうに謝った。

 

「菜々子はどうしてる?」

 

「薬を飲ませて、寝かしつけました」

 

「そうか、寝てるか……お前がいてくれて……本当に助かった」

 

遼太郎は菜々子が薬を飲んで寝たことを聞くと安心したようにそう言い、真に助かったと伝える。

 

「もう遅いから、お前も寝ろ……おやすみ、真」

 

「おやすみ」

 

さっき約束した手前遼太郎の言葉におやすみとだけ返し、真は自室に上がっていった。




前回、次回は林間学校を書くと言ったな? あれは嘘だっ!!!(ドンッ)
……いやほんと申し訳ありません。ふとそういや今日辺りから完二コミュスタートだよなーって思ったりマリーコミュ、あと日曜日の雪子コミュに遼太郎コミュを書いてたら思った以上にスペースを取ってしまって……。
次回も次回でP4G新規イベントを書く予定なのでもしかしたら林間学校は次々回になってしまうかもしれません……ほんと無計画ですいません。
では今回はこの辺で。感想はいつでもお待ちしております。それでは。





PS:P4Uの続編が出ると聞いてちょっと調べてみましたが(P4U未所持)……ゆかりっち参戦しちゃってるよどうしよう!? いやP4U2買うとかじゃなくって何やっちゃってんのゆかりっちなんで女子大生モデルの上にフェザーマン続編のピンク演じちゃってんの!?……まあこの話でのゆかりはまだプロローグしか出てないからスカウト前だったとか命が八十稲羽行ってる間にスカウトされたってことにしときゃ矛盾はない……あーまた考えることが増えた……ま、命達P3主人公勢が生きてるのにエリザベスが参戦するんだろうし矛盾は今更だな、うん、開き直ろう。P4Uを知らず、ない事にしちゃえばいいんだよ。うん、P4Uなんて知りません。(開き直り)……でも女子大生モデルって部分だけならネタになりそうだよなぁ……。

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