6月7日の昼休み。自称特別捜査隊二年生メンバーは机を突き合わせて昼食にカップ麺を食べていた。
「熱いカップ麺が腹に染みるわ……」
「そういえば、もうすぐ梅雨入りだよね」
「まだ早くねえか?」
千枝の幸せそうな言葉の次に雪子がそう話題にだし、それに陽介が反応する。
「梅雨で毎日雨になったら、毎晩“マヨナカテレビ”見ないといけないね」
「あー、考えなかった……ま、仕方ねーな」
雪子の言葉に陽介がうんざりした様子でそう漏らし、千枝もう~むと何か考える様子を見せていると真が口を開いた。
「里中と天城は無理して起きておく必要はない。女性は夜更かしで肌が荒れるの気にするだろ? 俺と花村、完二でどうにかする」
「あー大丈夫だって。人任せにする方が心配で眠れなくなるってば」
「うん。それは申し訳ないよ」
「そうか。ありがとう」
真は女子に気を遣ったつもりだったがその女子二名が心配ないと返し、真は一言お礼を返しておく。それに女子二人はこっちこそというように微笑んだ。
「話戻すけど、今雨を気にするっつったら、へへ、“林間学校”だろ?」
陽介は楽しそうにそう言い、それに千枝と雪子が不思議そうな顔を向けた。
「なんでアレの話で、そんな楽しそうなワケ?」
「ん? 林間学校は普通楽しむような行事じゃないのか?」
「あ、そっか。二人とも初めてだよね……」
千枝の言葉に真もきょとんとした様子を見せる、と雪子が気づいたようにそう言い、千枝もやれやれといいたそうな浮かない表情を見せた。
「あんねえ、林間学校の目的、“若者の心に郷土愛を育てる”だよ?」
「建前なんて、そんなもんだって。フツーじゃん」
「そういえば俺もいくつか前の学校で、昔廃校になりそうだった学校を救った校長の偉業を称えるため、と銘打たれた“70時間断食”という行事があったな」
「いやそれはねーよどんな行事だよもはやただの苦行じゃねえか!?」
千枝の言葉を陽介は笑い飛ばすが次の真の言葉には即座にツッコミを叩き込む。
「やる事っつったら、そこの山でゴミ拾いだからね」
「ゴ、ゴミ拾い!? なんの修行だよ!?」
「いや、70時間断食と比べれば――」
「そいつはもういいっつーの!!」
千枝の言葉に陽介が叫び、修行という例えに真がそう言うと彼はそっちにもツッコミを入れた。
「ま、夜だけはちょっと楽しいかも。飯盒炊飯とか、テントで寝たりとか」
「私達四人、班一緒だよ」
「一緒……」
千枝の言葉の次に雪子がそう言い、その言葉に陽介は少し黙った後突然ガタンと席を立ちあがった。
「まさか、夜も一緒!?」
「死ね! テントは男女別」
「まあ当然だな」
陽介の叫びに千枝が叫び返し、真もうんと頷く。
「言っとくけど、夜にテント抜け出すと一発停学だかんね!」
その言葉に陽介は一気にテンション下がったとばかりに席に座り直し、背もたれに身体を預けてぐたぁ、という様子になる。
「ハァ……なんかつまんなそーだな。せっかく面白イベント来たと思ったのに……」
「一泊だけだし、次の日はお昼前に解散になるから、すぐ終わっちゃうけどね」
「そういえば、去年は河原で遊んで帰ったね」
陽介の言葉に雪子がそう言うと千枝も思い出したように返す。それに陽介がまた反応した。
「河原って、泳げんの?」
「あー、泳げんじゃん? 入ってるやついるよ、毎年」
「そっか、泳げんだ……」
千枝の言葉を聞いた陽介もうつむきながら女子達にばれないようにニヤリと微笑み、千枝と雪子は顔を見合わせて首を傾げ合わせた。
まあそんなこんなで昼休みも終わり、午後の授業も終わりで放課後へと時間が進む。真が隣の千枝とだべっていると彼にこの教室の担任である諸岡が近づいてきた。
「おい、椎宮! 今週は保険週間なのを知ってるな?」
「ええ」
「お前は委員会に入っておらん! つまり、怠け者だ!」
「……まあそうですね」
諸岡のきつい言葉に真は反論するつもりがないのかすぐに認める。
「よって、病欠者の代わりに委員会に出てもらおうか!」
「え、んな勝手な――」
「分かりました。で、どの委員会ですか?」
その命令のようなきつい言葉に千枝が反論しようとするがその反論を聞く前に真は平然と頷き、席を立つ。
「あ、え?」
そのあっさりとした返答に逆に諸岡が詰まった。
「で、どの委員会ですか?」
「あ、うむ。保健委員だ。保健室に行きなさい……は、話はワシが通しておいた」
律儀に聞き返す真に諸岡はそう言い、どうも調子を崩されたというように首を傾げながら教室を出ていく。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「い、行ってらっしゃい……」
真はそう言ってすたすたと教室を出ていき、千枝は頬を引きつかせながらそう呟いた。
それから真は保健室を探すとそこのドアを開ける。
「失礼します」
その言葉に保健室にいたメガネにツーサイドアップの髪型をした女子生徒が振り向く。
「椎宮君、だっけ? 転校生の……何か怪我とかした?」
「いえ、諸岡教諭に病欠の生徒の代わりに委員会に出ろと言われまして」
「あ~なるほど。よかった~。人手が足りないから困ってたとこ」
ここに来た目的を簡潔に話すとその女生徒は嬉しそうに微笑んでそう漏らす。
「校内中を見回らないといけなくて、その間、ココが空っぽになっちゃうんだ。椎宮君はココにいて、誰かが来たら、応対してくれる?」
「分かりました」
女子生徒の指示に真は軽く頷く。
「……と言っても薬いじっちゃダメ。怪我とか病気の人が来たら救急車ね」
「……了解」
釘を刺してくる女子生徒に真は少し黙った後頷いた。
「業者さんとか電話の応対だけ、お願い。滅多にないけどね」
最後にそう言い、保健委員メンバーは保健室を出ていくと校内に散っていった。それから真は保健室の長椅子に座っていたが、誰かくる気配に気づくと椅子から立ち上がり、ほぼ同時に保健室のドアが開いた。
「ども、サントー製薬の北尾でーす」
「はい、何かご用ですか?」
会社員風の男性――北尾に真は丁寧な口調で要件を聞き、男性は保健室内を見回す。
「って、先生はお留守? じゃあ伝言、頼んでいい?」
「あ、はい。ちょっと待ってください」
北尾の言葉に真は頷くと鞄の中から適当なメモ帳を一つ取り、一ページ破くと鉛筆を取った。
「ガーゼを頼まれたけど、再来月の納品でいいのか、連絡が欲しいんだ」
「ガーゼの納品が再来月でいいのか、連絡ですね。かしこまりました」
「はい。それじゃ、お願いしますねー」
北尾の伝言をメモり、確認。北尾は頷くと保健室を出ていった。それから少しして女子生徒達が帰ってくる。
「お疲れさまー。何かあった?」
「ええ。サントー製薬の北尾さんから、ガーゼの納品が再来月でいいのか連絡をしてくれと」
「ふんふん……了解。先生に連絡するね」
真はさっきの伝言を伝え、女子生徒は頷いて先生に連絡。少しすると先生からも連絡をしたという言伝を受ける。それから女子生徒が校内見回りをしたメンバーの方を向いた。
「それじゃ、校内の見回りの発表し合おうか。えーと、まず1班……あ、そうか。ここは一人で行ったんだっけ」
「そうっすよー、小西がいないから」
「小西?」
女生徒の言葉にメガネの男子生徒がそう言い、聞き覚えのある苗字に真がそう漏らす。
「あ、そっか、小西君か……仕方ないよ、あんなことがあったし……」
「うん、可哀想だよ。だからその分、アンタがやればいーの」
「ヒデーなー!」
「……」
軽口みたいな言い合いに真はつい黙る。とその時保健室のドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。
「すんません、遅れて」
「いっ、いーよいーよ!」
その男子生徒の顔を見たメガネの女子生徒が慌てて首を横に振る。
「委員会、来なくていいんだって、ホント。おうちの手伝いとか、大変でしょ? 代わりいるし、大丈夫だから」
「……けど、俺だけ……」
「じゃっ……じゃーさー。椎宮君と、ここの整理してくれる? あたしたち、報告会するし、テキトーにやって、帰っていいから、ね!?」
女子生徒は慌ててそう言うと真の方を向く。
「そ、それじゃ、お疲れさまー!」
そしてそういうや否や彼女達は保健室を出ていき、真と件の男子生徒のみが保健室に残される。
「……一年の……小西です」
男子生徒――小西はそう漏らすと顔を少し彼から逸らす。
「三年の、小西早紀……知ってますよね。あの人の弟です」
「ああ……」
小西の言葉に真は合点がいったように声を漏らす。
「あんた……花村のツレですよね?」
「ああ。二年の椎宮真だ」
小西の言葉に真は頷いて名を名乗り、小西は少し表情を歪める。
「俺、嫌いです。花村も……あんたも」
「嫌われる理由が想像つかないが……まあいい」
小西の言葉に真はそう漏らし、小西はふんと鼻を鳴らす。
「……もう、帰っていいですか?」
「ダメだ」
「……家の手伝いあるんで。家、大変だから……分かりますよね?」
「やってきておいて自分のやるべき仕事をしないのは無責任じゃないか?」
「……」
小西の暗い言葉に真は毅然とした態度でそう言い、小西は彼に背中を向ける。
「じゃ、俺、棚の方やるんで……雑巾あります? ああ、そこか」
小西はそう言って棚の掃除と整理を始め、真も保健室の整理を始める。それから整理が終わっても誰も戻ってこないため二人は保健室を出ていき、帰路についた。
それから次の日、あいにく雨が降っている中真は真面目に授業を受け、英語の時間に天城からバランスビームがなんなのかと質問されて平均台と答えたりして時間が過ぎ、放課後。帰る準備をしている真に陽介が近寄ってきて辺りを注意深く見回した。
「なあ、知ってっか?」
「何をだ?」
「後ろに乗せたりするとさ、背中にギューってなるらしいんだよ……」
「背中に
「いやぎゅうじゃねーよ。ギューっていうか、ムギュッて感じ?」
「?」
陽介の言葉に真は天然なのかわざとなのかボケで返し、陽介はツッコミを入れた後またそんな曖昧な言葉を言う。それに真がこいつは何を言ってるんだ的な表情を向けると陽介はすまなそうな顔を見せる。
「すまん、先走った。要するにだな……」
陽介はそう言い、もう一度注意深く辺りを見回してから真に顔を寄せる。
「バイクの後ろに女の子乗せると、背中に密着するらしいって話だ」
「背中に
「だからぎゅうじゃねーよ何回も言わすなっ! お前笑ってんだろ絶対分かってんだろ!?」
真は今度こそ陽介の目的を完全に確信しながらさっきのボケを繰り返し、陽介は叫ぶ。
「まあ、分かってんならいい。これからの男はバイクだと思うんだよ。モテる男子の条件は、ズバリ行動力だろ? つーわけでコレ、お前にやるよ。免許とんねーか、相棒」
陽介はそう言って原付免許の教本を真の机に置く。
「ま、予算的に原付しか無理だけど、少しは行けるトコも増えんだろ」
「……確かに、ジュネスや商店街に行くのに楽にはなりそうだな」
「そうそう! 事件捜査中の俺達に、絶賛、相応しいステータスだと思わない?」
陽介の言葉に真がそう言うと陽介は相手を乗せるために言葉を紡ぐ。彼の目は完全に本気だった。
「ちーす、先輩。林間学校なんスけど……なんか取り込み中ッスか?」
と、そこに完二がやってきた。
「あー。ちっとな、バイクの話」
「バイク? どっか潰すんスか? カチコミなら手伝いますよ!」
「カチコミじゃねーよ。ていうか、カチコミってなんだよ」
バイクと聞いて一番に連想するのがそれなのは完二らしいというべきなのかいわないべきなのか、とりあえず彼の言葉に陽介がツッコミを返す。
「バイクの免許を取らないかという話だ」
「免許? 先輩ら持ってないんスか?」
真が説明し、それに完二がクエスチョンマークを頭上に出しながらそう聞き返す。と陽介が目を見開いた。
「ナニ? まさかお前、ナニゲに免許……」
「ねッス。まだ15ッスから」
「ねーのかよ!」
思わせぶりに言っておきながら無免許な事に陽介はまたもやツッコミを入れ、次に呆れたような目を見せる。
「お前……よくそれで族とやり合ったな。どやって追い回してたわけ?」
「んなモン、チャリで充分だろ」
「いや、充分じゃない……」
陽介の言葉に完二が何言ってんだこいつみたいな表情で返すと真は小さな声でそう漏らす。
「とにかくお前は、“密着計画”には加えらんねーな」
「密着!?……なんスか、密着って!」
「声でけーよ!」
陽介の言葉に完二が反応し大声を上げると陽介もまた大声で返し、少し声を潜める。
「だから! これからの男のステータスに必要なのは、まずバイクと……」
「バイクと?……」
「……彼女だろ?」
「…………」
陽介の言葉を聞いた真は少し前に殺された早紀の事を思い出す。
「……小学生の発想だな」
「うっせーよ! せめて中学生と言ってくれ!」
しかし流石に言うのははばかられたのかからかいの言葉を言うに止め、それに陽介は叫び返す。結局年下じゃねーかというツッコミは真は心の内に留めた。
「先輩ら、免許デケーの取るんスか?」
「ん?」
「なんか分かんねーけど、バイクと彼女って事は、2ケツになるんスよね?」
「そうなるな。だが予算の関係上原付……ん? そういえばたしか……」
完二の言葉を聞いた真は原付にする予定だと返そうとするがそこで一つ思い出す。
「原付、2ケツ禁止ッスよ」
「あ、そういえば」
「……忘れてた」
完二の指摘に真は思い出したように呟き、陽介も忘れてたと漏らす。
「じゃあ作戦は開始するまでもなく頓挫だな」
「うっせーな! いいのっ! バイクあんだけで、女子が寄ってくんのっ! そんだけで充分プラスだろーが!」
真の冷静な言葉に陽介は叫び、再び声を潜める。
「……いいか、よく聞けよ。俺達に彼女がいないのは、この町で出会いを“待ってる”からだ! 小さな町でただ待ってたって、んなモン、出来なくて当たり前だろ? 原付でもいいから、とりあえずバイクの魅力で彼女作って! いつかデケーバイク買って……密着すんだよ!」
「密着……」
「それにほら、俺らのセンスって、ちょっと都会的なとこあるしさ。本気で出会いを求めるなら、もっと大きな町が舞台じゃないとな。恋にはタイミングってなもんがあんだし、一日数本しかねー電車なんて待ってられるか! バイクでさっそうと駆けつけて、近づく女の子にクールに声をかける……溢れ出す俺達のフェロモンで、たちまち仲良くなっちゃうってわけさ」
陽介の熱弁に真は心の底からめんどくさそうな表情を見せる。彼の先輩である命の名言を借りるならば「どうでもいい」といわんばかりだ。
「フィ、フィレ? モン?」
「フィレじゃねーよ! 里中かよ! フェ・ロ・モ・ン!」
聞き慣れない言葉のせいかボケをかます完二に陽介は一文字ずつ区切って強調する。
「俺調べによると、バイクは男のフェロモンを増幅させる、ナンバーワンアイテムらしいぜ!」
「フェロ……モン……」
陽介の言葉に完二は頬を赤らめながら小さく呟く。
「お前……変態のリアクションだぞ、それ」
「んだとコラァ! いースよ! だったら、やってやるっス! 巽完二、オトコの魂、女どもに見せつけてやんぜコラアァ!」
「お前は無理だっつってんの! とにかく誰にも言うんじゃねーぞ? いろんな奴にマネされたら、俺らのフェロモン薄まりそうだしな」
陽介は完二に念を押しておいた後、真に顔を向ける。
「つーわけで相棒。免許のこと、叔父さんに言っとけよ?」
「そのつもりだ。許可が取れるかは別だがな」
「ウッス!」
陽介の言葉に真は頷き、完二も腕まくりをして声を出す。
「お前じゃねーよ! てか、お前の叔父さん知らねーし!」
完二のリアクションに対し陽介はまたもやツッコミを入れた後、真剣な目で真を見る。
「俺は本気だからな……バイクあれば色んなとこ行けるし、絶対楽しいって!」
「まあ、行動範囲を広げたり時間短縮に使えそうなのは確かだな」
彼女を作るどうこうはともかく、陽介のその言葉には真も賛同する。
「嗚呼……きっと、かけがえのない青い春が、俺達を待ってる!」
「ええ! そっスね!」
陽介の言葉に完二が返し、二人は呆れたような目で完二を見た。
(今夜、叔父さんにバイクの相談をしてみるか……)
そして真は心の中でそう思うのであった。
それから帰り道、軽く飯食って帰ろうぜという陽介の提案と完二の希望により愛家に行く事になり、三人は商店街を歩いていた。と、ブロロロロというエンジン音が後ろから聞こえ、そう思った瞬間エンジン音は三人を追い抜く。そしてそのバイクは豆腐屋の前で止まり、それに乗っていた二人の人――運転していた青年は雨に濡れてびしょびしょになっており、後ろに乗っていた人はレインコートに守られている――がバイクから下りる。
「ありがとうねぇ、命ちゃん」
「いえいえ。買い物のついででしたし、お年寄りを濡らせるわけにはいきませんから」
「でも悪いわぁ。お風呂入っていきなさいな」
「じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
バイクに乗っていた青年は命、後ろに乗っていたのはどうやら丸久豆腐店のお婆さんらしい。お婆さんは柔和に微笑んでレインコートを脱ぐと家に入っていく、多分お風呂を沸かすのだろう。
「先輩、どうしたんですか!?」
「あ、真君。ジュネスで買い物してたら久慈川さんが立ち往生しててね。なんでも傘を間違えて持ってかれちゃったらしくって、ジュネスから傘なしで歩いてたら風邪引いちゃうかもしれないじゃない? だから送ってきたんだよ」
「み、命さんが濡れちゃってますけど……」
「大丈夫だって、僕強いから」
ヘルメットを脱いだ命はそう言ってバイクにもたれかかってにこっと笑う。それは濡れていてかっこ悪いなどという事を一切思わせない。むしろ濡れているからこそ何かの魅力を見せる。正に「水も滴るいい男」という言葉を的確に表現していた。
「カ、カッコイイッス! 大先輩!!」
「あはは、ありがと……って、大先輩?」
「椎宮先輩の先輩なんスよね。なら大先輩ッス!」
「あー……そういう理屈になる、のか?」
感動したらしい完二の言葉に命は笑ってお礼を返した後彼が自分を示した言葉に首を傾げ、完二はそう一言で説明、それに陽介は頭をかいた。
「命ちゃん、上がって身体を拭きなさいな。お爺ちゃんのお古だけど着替えも用意したから」
「あ、どうも。じゃあね、皆」
お婆さんの勧めに命はまた微笑んでお礼を言った後真達にお別れを言って丸久豆腐店に上がる。
「……うむ、やはりバイクを持っていればモテる理論は実証された!」
「なに言ってんの?」
「いやだって、かなり年上だけどそういうことにならね!?」
「……でも先輩がモテるのって月光館学園時代からそうだぜ?」
「なんだそりゃ!? 羨ましい!!」
真と陽介がそう言い合いながら、三人は愛家に向けて再び歩き出した。
それから食事を終えて、真は家へと帰ってくる。
「ただいま」
「おう、お帰り」
その声に返す男性の声。どうやら遼太郎は既に帰ってきているらしい、と、真はさらにもう一人人がいることに気づく。
「おじゃましてまーす」
「ああ、足立さん。こんばんは」
遼太郎の部下の足立だ。
「キミも食べる? ウナギ。スーパーのだけど」
「悪かったな」
「う、旨いっす! 特売品とは思えないですよね~!」
足立の言葉に遼太郎が機嫌悪そうにそう言うと足立は慌てて取り繕い、遼太郎は呆れたように足立を見た後真の方を見る。
「すまん、コイツ毎日カップ麺でな。ズルズルうるせえから、呼んでやったんだ」
「強がっちゃって。ホントは堂島さんも、同僚と飯食べたかったんでしょ?」
「馬鹿言ってんな」
遼太郎の言葉に足立がからかうような口調で言うが遼太郎は低い声でそう返すのみ。しかし足立はまた明るい声を出した。
「でもウナギっていいチョイスだったでしょ!? 菜々子ちゃんも喜んでたし。お父さんの株も“ウナギ”のぼり。なーんて、はは……」
その言葉に二人は無言になり、呆れた目で足立を見る。
「す、すべっちゃったかなー。ウナギだけに……」
「いいからとっとと食え」
「はい~」
遼太郎がそう言うと足立は再び食べる箸を進める。
「でも菜々子ちゃん偉いなぁ。食べたらすぐ宿題なんて……せっかくのウナギなんだから、もっとゆっくり味わえばいいのに」
「お前がサボりすぎなんだよ。少しは見習え」
「耳が痛いッス」
足立はそう呟いてまた食事を進めていく。真は遼太郎にバイクの相談をしなければならないが、来客なら帰ってからにした方がいいかと考える。
「……どうした?」
と、遼太郎はその視線に気づいて彼の方から真に問いかけてきた。
「ああ、今日学校でバイクの免許を取らないかって友達と話題になったんですが……」
「バイク? 原付か? そうか、お前の歳ならもう乗れるんだな……けどなぁ……」
その言葉に遼太郎は心配そうな声を漏らす。彼も警察、若者のそういう事故にはよく触れているのだろう。
「まーまーお父さん、そう言わずに。ここじゃバイクも欲しくなりますって」
と、足立が助け舟を出してきた。
「キミの気持ち分かるよー。同じ“元・都会人”としてさ。電車だって少ないし、徒歩じゃいくらなんでも不便すぎるよねぇ?」
「まあ“すぎる”というほどでもないですが、毎日ジュネスに食材やらなにやら買い出しに行くのはちょっと負担が大きいのは事実です」
「そうは言ってもな……」
足立の言葉に多少反論しつつもバイクがあれば便利だという事は言っておく。しかし遼太郎はまだ賛成とは言えない表情だった。
「そういや堂島さん、前に言ってませんでしたっけ? 若い頃はバイクで相当無茶を……」
その言葉に遼太郎は焦ったように足立を睨む。
「阿呆、余計な事言うな。食い終わったら、サッサと……」
と、言い終える前に突然彼の携帯が鳴りだした。
「ったく……」
彼はそう毒づいて立ち上がり、真達に背を向けると電話に出る。
「俺だ……分かった、すぐ行く」
仕事の用事だろうか。遼太郎はそう言ってすぐ電話を切った。
「酒飲まなくてアタリかよ……足立、例の資料確かお前持ちだったな?」
「資料?……あ~。あの不審者、また出たんスか?」
「いちいち口に出すな。戻るぞ、先に車乗ってろ」
「も、戻るって、署にですか!? まだ肝吸いが……」
署に戻るという言葉に足立はブーイングを出すが遼太郎が睨むと彼は大慌てで割り箸を持ったまま家を出ていく。それを見届けてから遼太郎は真を見た。
「バイクの話だが……自分で決めたことか? 誰かに影響された、とかじゃないんだな?」
「ええ」
「足がないと不便ってのは分かる。だが2輪は危険も多いんだ……分かるな?」
「安全運転を心がけます」
「ああ。だが簡単に許すってのもな……」
遼太郎は悩んでいるように頭をかき、真が少し不安そうな顔を見せると遼太郎は僅かに笑った。
「そんな顔するな。お前が本気なのは分かった。まずは免許だろ。無事に取れたら、また話を聞いてやる」
「あ、はい!」
「じゃ、悪いが留守番頼むぞ」
遼太郎はそう言って家を出ていく。と、玄関の戸が閉まると同時に真の携帯に着信が入り、真は相手が陽介だと確認して電話に出る。
[よっ、俺だけど! バイクの件どうだった? なんか気になっちまってさ]
「とりあえず免許を取る。話はそれからということになった」
[マジか!? ならすぐ取りに行こうぜ!]
「はぁ!?」
[猛勉強しねーと!……絶対、一緒に合格しようぜ! 明日、免許試験場行こうぜ!]
「お、おう……」
いきなり話が免許取得に進み、陽介は言い終えると共に電話を切る。それから真は部屋に戻り、陽介にもらった教本で原付免許取得のための勉強を始めた。
そしてその翌日の朝。真は普段通り学校に行っていた。
「ふあぁ……」
後ろの方から聞き覚えのある声での欠伸が聞こえ、真は足を止める。
「おはよーさん」
と、いかにも眠そうな陽介が追いつき、彼が横に立つのに合わせて真も再び歩き出す。
「眠そうだな」
「ベッド入って、細かいとこ気になって起きて本見直して、の三拍子がエンドレスでさ……結局ほとんど寝てねーよ……」
陽介はいかにも眠そうにそう呟くが、やがてにっと笑う。
「まあでも、やるからには一発合格だよな。どうよ、自信は?」
「任せておけ。先輩に電話で色々教わったからな」
「そ、その手があったかっ!!」
真の言葉に陽介は愕然としたように叫んだ。
「とにかく試験、遅れないように行こうぜ。学校終わったらソッコーだかんな」
「分かった」
彼の言葉に真は了解と頷き、互いに教本にあった問題を出しあいながら学校へと向かう。
それからあっという間に時間が過ぎて放課後。真は友達の誘いや部活の誘いも先約があると振り切って陽介と共に試験会場に飛び込み、免許の試験を受ける。そこで走り出したペンは止まらないとばかりに一気に問題を書き切り、真は余裕で試験に合格、原付免許を手に入れる。
「へへっ。狙い通り揃って一発合格だぜ!」
商店街のバス停。バスに乗ってここまで戻ってきた陽介は嬉しそうに微笑んでそう叫ぶ。
「つーか割と余裕だったな。ちょい気合入れすぎたっつーか……」
「まあな」
二人はそう話し合いながら商店街の方に歩みを進める。
「……叔父さん?」
「お、ほんとだ」
と、ガソリンスタンドの前に遼太郎が立っているのに真が気づき、陽介もそれを視認すると彼に走り寄る。
「こんちゃっすー。仕事ですか?」
「ガソリン入れにな。あとまあ、ちょっとした野暮用だ」
陽介の問いかけに遼太郎はそう返し、次に彼の方が陽介達を見据えた。
「お前達、どこ行ってたんだ?」
「免許取ってきました」
その言葉に隠す必要もないのか真はあっさりと白状し、原付免許を提示。それに遼太郎がぎょっとした目を見せた。
「お前、もう取ってきたのか!?」
そう叫んで真の見せてきた原付免許をまじまじと見て、やがて呆れた顔を見せた。
「原付は筆記だけだが、にしたって、早すぎるだろ……やれやれ……こりゃ姉貴をなんて説得するか、考えておかないとな……」
「いいんですか?」
「免許証持ってこられちゃ、ダメなんて言えねえだろ? たった一日で取ってきたお前の熱意を信じることにするさ」
遼太郎の呟きに真が驚いたように漏らすと彼はそう言ってふっと笑い、それを聞いた陽介が嬉しそうに真の肩を叩いた。
「やったな! お墨付き出たじゃん! 俺も帰ってカタログ読み込まねえと! お前にも貸すからさ!」
「いや、真は必要ないだろう」
「「え?」」
遼太郎の言葉に二人が不思議そうな声を漏らす。
「堂島さーん。満タン、丁度今終わりましたー」
と、ガソリンスタンドの中から足立が白い原付を押してやってきた。
「あれっ君達、偶然だね~。堂島さん、こりゃサプライズ中止っすか?」
「馬鹿言え。元々そんなつもりじゃねえよ」
「サプライズ?」
足立のにししと笑いながらの言葉に遼太郎が呆れたように返し、陽介が首を傾げる。そして遼太郎は微笑を浮かべてバイクを見た。
「俺の愛車だ。バイク屋で直させた。年季は入ってるが、なかなかいいぞ。ガソリン入れてみたが、まさか今日の内に渡すことんなるとはな……」
「うえぇっ!? まさか君、もう免許取ったの!? 最近の若者は行動力あるな~……」
遼太郎の言葉に足立は遼太郎と同じぎょっとした目で真を見る。
「って、堂島さん、まさか……」
「おう。真、これをお前に譲る」
「……もう乗らないんですか?」
陽介のまさかという言葉を遼太郎は肯定、真に譲ると言い、それに真は念のためにと聞き返すと彼はふっと笑った。
「いつかはと思ってたんだが、仕事じゃ車ばっかりだし、機会もなくてな。埃かぶらしとくより、お前に使ってもらった方がいい」
そういう遼太郎はとても穏やかに笑っていた。
「署じゃ難しい顔してばっかりなのに、すっかり優しいパパさんっすねー」
「うるせえぞ足立!」
「すーぐ怒鳴るんだから……」
そこに足立がからかいの言葉を入れると遼太郎は怒鳴り声を上げ、足立は怯えたように空笑いしながらそう漏らす。
「けど僕らも、もっと小回りきく足が欲しいですよね。例の“不審者”だって、いつ出くわすかもしれないんだし。プロ並みの撮影機材しょって、天城屋からこの辺まで、他人んち撮って歩いてるんでしょ? 細い道も知ってるみたいだし、四輪だけじゃ……」
「余計な事喋ってんじゃねえ! 車戻ってろ!」
「は、はいはいっ!」
足立の口を遼太郎は一喝で閉じさせ、足立は慌てて走り去っていく。
「まあ……なんだ」
と、遼太郎はどうにも気まずそうな笑みを真と陽介に見せた。
「俺も免許取ったのは、お前達くらいの歳なんだ。親に隠れて、勝手に取っちまってな。乗り回してるとこ後で見つかって、親にしこたまぶん殴られたよ……はは……菜々子には言うなよ?」
「はい」
「ははっ、なんか意外っすね」
彼の悪戯っぽい笑みでの言葉に真と陽介も微笑みながら頷く。と、彼は次に厳しい目を見せた。
「あまりうるさく言いたくはないが、くれぐれも安全運転しろよ? 2輪を始め車ってのは動く凶器なんだ。事故を起こせば怪我をするのはお前達だけじゃない時もあり、そこに未成年だのなんだのいう言い訳は通用しない。免許を取ったからにはそれなりの責任があるということを忘れるな」
「「は、はい!」」
警察として、そして真の保護者としての厳しくも優しい言葉。それに二人は背筋を伸ばして返した。と、そこにブロロロロという昨日と同じエンジン音が聞こえてきた。
「あれ、真君に花村君」
そして彼らの隣でバイクが止まった。
「先輩!」
「あ、堂島さんでしたっけ? こんにちは」
「あ、ああ。確かジュネスでバイトしてる……」
「利武命です。真君がここに来る前通っていた高校で彼の先輩やってました」
命はヘルメットを脱いで遼太郎にも挨拶し、遼太郎が呟くと彼は改めて名を名乗る。そして彼は遼太郎の横にあるバイクに目を向けた。
「バイク……堂島さん、乗るんですか?」
「いえいえ~。実はね命さん、俺達原付免許取ったんですよ! ほらこれ! で、このバイク、堂島さんのをなんと椎宮が譲り受けることになったんす!」
「へ~。そりゃおめでとう」
陽介はそう言って嬉しそうに原付免許を見せ、命もへ~と呟いて免許を見る。
「そういや命さんのバイクもかっこいいっすよね。どこのなんですか?」
「え? さあ? 先輩がちょ……先輩のお下がりだから」
「そうなんすか?」
命は自分のバイク――というか美鶴のバイクを調査にあたって借りた――を見ながらそう言い、陽介も頭をかく。
「身近に免許取ってるやついるじゃねえか……」
と、遼太郎はやはり誰かに影響されたんじゃないかと疑うような目で真を見、真もぎくっと肩を揺らすと彼はふっと笑った。
「冗談だよ。ただ影響されただけで一日で免許取れるはずもねえからな」
「ほっ……」
「じゃあこれから二人とも原付に乗るんだね? バイクは危険なんだからこういう場所では安全運転しなきゃいけないよ? 未成年だからって言い訳は――」
「あーいやいやいいっす! その説教はさっき堂島さんから充分聞きました!」
命は遼太郎と同じ説教を始めそうになり、陽介が慌ててそれを遮った。と、命はにこりと微笑む。しかしその笑みを見た陽介の脳裏に「嫌な予感」という文字がよぎった。
「じゃ、バイクもある事だし早速今度人気のないとこで軽く練習してみようか。頭で動かし方分かってても身体が動かなきゃ意味ないからね。事故起こされたら被害者の関係者にも悪いんだし、僕の目が黒い内は事故起こすような腕前で人が多い道に出す気はないからそのつもりで」
「えぇぇっ!?」
「ふっ、そりゃあいい。利武さん、うちの甥とその友達を頼みますよ」
「ええ。事故を起こしてからじゃ遅いですから、まずは手近な芽を徹底的に抜いておきましょう」
命の意外にスパルタな面が表に噴出。陽介が素っ頓狂な声を上げると遼太郎が命の提案に賛同。命もにやりと不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「……ま、間に合うかな……」
「先輩は結構スパルタだからな。覚悟しておこう」
陽介ががくっと肩を落としながら呟き、真も苦笑気味にそう返した。
さて今回は林間学校や新たなコミュのフラグイベントをやって、本題はP4G新規イベントである原付免許取得イベントです。ちなみに僕はそういう運転免許は一切持ってないので原付免許が実際どれくらいの難易度なのかは全く知りません。
さて次回はあのイベントやって林間学校やってってとこが限界かなっと。ま、それでは~。感想、いつでも待ってま~す♪