ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第二十話 皇帝の仲間入り

六月四日。ここ数日雨が続いており家で見た天気予報では今夜は霧が出るという予報を聞く。そして夜中、真は外で霧が出ているのを確認してからカーテンを締めテレビの前に立つ。そして少し待つと電源の点いていないテレビが映り始めた。マヨナカテレビだ。しかしそれは砂嵐を映すのみで他には何も映らなかった。

 

(……よかった)

 

真は安堵の息を吐いてマヨナカテレビが消えていくまで何も映らないことを確認し、それから安堵と同時に疲れが出てきたのかふわぁと欠伸をすると寝巻きに着替えて布団に入り眠りについた。

 

それから翌日。真は散歩がてらジュネスへとやってくる。

 

「ああ、真君!」

 

「ん?」

 

と、突然自分を呼ぶ声が聞こえ、足を止める。

 

「ああ、足立さん」

 

自分を呼び止めてきたのは足立。それに真はそう言ってやっほーというように手を軽く振っている足立に歩き寄る。

 

「どうしました?」

 

「いや、ちょっと僕と話してかない? その方が捜査っぽく見え……あー、いや、こっちの話」

 

「……まあ、いいですよ」

 

「そうこなくっちゃ! 話が分かるねえ、出世するよ君!」

 

サボっているらしい足立の言動に真は苦笑しながら頷き、足立は悪戯っぽく笑いながら返す。

 

「でさ、君は何してんの? 買い物?」

 

「暇潰しのつもりでしたが……そうですね、夕飯の買い物もついでにしとこうかな」

 

「そっか。感心だねー。僕とか一人暮らしだからさ、夕飯とか面倒なんだよねー」

 

「え、どうしてですか?」

 

足立の問いかけに真は暇潰しのつもりだったのだが、ちょうどいいから夕飯の買い物もしておこうかなと返す。それに足立がめんどくさそうな表情で呟き、その言葉を聞いた真が驚いたように聞き返す。

 

「高校生には分かんないかな。ダルいんだよねー、仕事の後って。だからさ、カップ麺とかテキトーにね」

 

「栄養偏りますよ?」

 

足立はめんどくさそうな表情を見せながらそう言い、真が呆れたように返し次に思いついたようにふっと笑う。

 

「なんなら、作ってあげましょうか?」

 

「君が僕の家に来て、とか? はは、それ面白いね。でも出来れば女の子がいいなぁ」

 

「自信あるんですけどねぇ」

 

お互いに冗談交じりに笑いながら会話し、足立はにんまりと笑う。

 

「やっぱ可愛い子がいいよねー。あ、正確には美人タイプのが好みだけどさ。あと、料理が上手くないと。そしたら後はどうでもいいんだけど……」

 

「そ、それはちょっと……性格とか……」

 

足立の言葉に真は苦笑を漏らす。その時足立の背後のエレベーターのドアが開き、お婆さんが一人降りてくる。と彼女は足立を見た。

 

「透ちゃん! 透ちゃんじゃないの!」

 

「!?」

 

その呼びかけに足立は振り返ると驚いたようにのけぞる。

 

「うっわ……見つかった」

 

「お知り合いですか?」

 

「え? ああ、まあ……」

 

足立の反応に真が首を傾げると足立は言葉を濁す。

 

「お仕事、終わったの? 危ない目に遭ってない?」

 

「あー……いえ、まだ仕事中で。これから署に戻るところ」

 

足立が言葉を濁している間にお婆さんは足立に人懐こく話しかけ、足立は言葉を濁した様子でそう返す。とお婆さんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「お仕事頑張ってて嬉しいわぁ。ご近所さんにも、いつも自慢してるのよ。また煮物、持って行くからね。体調に気を付けなきゃダメよ? あ、そうそう。お昼に見た刑事ドラマでね……」

 

お婆さんはぺらぺらと話し続け、足立は困ったように頭をかく。

 

「あのー、そろそろ署に……」

 

「あら、もうこんな時間? それじゃあ、お仕事頑張ってね」

 

困った様子の足立の言葉にお婆さんはそう言ってジュネスを出ていき、足立はふぅと息を吐く。

 

「や~っと行ってくれたよ……」

 

「足立さん、食事作ってくれる女の人いるじゃないですか」

 

「止めてよ、そんなんじゃないってば」

 

安堵の様子を見せた足立に真が冗談っぽく笑いながら言うと足立は嫌そうな表情を見せながら返す。

 

「あの人の息子さん、何か僕と同じ名前らしくてさ。それでか知らないけど、やーたら構われちゃって。差し入れとか言って、いつも署まで大量の煮物持って来んの。話も長いし……ウザいったらないよ」

 

「慕われてる証拠じゃないですか?」

 

「いや、別に慕ってほしくないって。勘弁してほしいよ」

 

足立はそう言って肩をすくめる。

 

「ウチの親と正反対のタイプだからさ。ああいうの、よく分かんないんだよねー。要するに寂しいんだろうけど。身寄りとかなさそうだし。こっちじゃこれも仕事の内だから、無視とか出来ないしさ。ま、最近は警察も忙しいから、僕くらいしか相手する人いないみたいだね」

 

どこか憎まれ口のようながら、足立はどこか嬉しそうに真の目には見える。と、足立の表情が拗ねたようなものに変わった。

 

「でもさー、せめて息子じゃなくて孫じゃない? 僕まだ27なんだから」

 

「あはは……」

 

足立のどこか拗ねたような言葉に真は苦笑を漏らす、と足立は近くにあった時計を見た。

 

「さて……そろそろホントに戻らなきゃ。まーた堂島さんにドヤされちゃうよ。じゃーね」

 

「お仕事頑張って」

 

そう言って足立はジュネスを出ていき、真も一声かけた後買い物のためエレベーターに乗った。

 

 

 

それから時間が過ぎて夜。真は居間で菜々子と一緒にテレビを見ていた。それは少年が実の父親を探すドキュメンタリー番組で、菜々子は食い入るように見つめている。

 

「ほんとの、お父さん……」

 

菜々子はぽつりと呟き、真の方を見る。

 

「“ほんと”……って、どういうこと?」

 

「大好きな人の事、だと思う」

 

「そっか……じゃあ、お兄ちゃんはほんとのお兄ちゃんなんだ」

 

菜々子の問いかけに真はそう返し、それを聞いた菜々子は嬉しそうに微笑んでそう言う。

 

「お父さんも、ほんとのお父さんだ!」

 

えへへ、と笑ってそう続ける菜々子だったが。突如その表情が暗くなる。

 

「でもお父さんは、菜々子の事、好きじゃないと思うな……」

 

「そうかな?」

 

「……もしかして……菜々子、“ほんと”じゃないの?」

 

菜々子は寂しそうな、どこか泣きそうな表情でそう呟く。

 

「お父さんの“ほんと”の子供じゃないから、お父さん、おうちに帰ってこないの?」

 

「おじさ……お父さんがそう言ったのかな?」

 

「……言ってない」

 

菜々子の寂しそうな言葉に真は微笑を浮かべながら問いかけ、それを聞いた菜々子は安心したように微笑む。

 

「お母さん……どして、菜々子おいてったんだろ」

 

「……」

 

「……お母さんいたときね、お母さんとお父さんと菜々子で、三人でね……さめがわのとこで、お花つんでね……」

 

菜々子はぽつぽつと思い出話を続け、真はそれを黙って聞く。まるで彼女の胸の内を理解しようとするように。と、菜々子の話が止まった。

 

「お兄ちゃん。なにかお話、して……」

 

その言葉に真はちらりと時計を見る。もうそろそろ菜々子は寝る時間だ。

 

「……菜々子の話、もっと聞かせてくれるかな?」

 

「うん、いいよ! えーっとね、今日はね、朝おきて……」

 

真が優しく問いかけると菜々子は嬉しそうに微笑んで頷き、今日の事を話し始める。それから話が一段落し、夜が更けてくると菜々子を寝かせ、彼も自室に戻り眠りについた。

 

 

 

それから翌日の六月六日。放課後、特捜隊学生メンバーは屋上へと集合していた。と、少し遅れて前回テレビの世界に落とされ、真達に救出された完二がやってくる。

 

「う……うぃース!」

 

「ぷっ……意外に敬語じゃん」

 

「や、だってその……先輩なんスし……」

 

「あはは、意外に可愛いとこあんじゃん」

 

ぶっきらぼうながらにどこか敬語っぽい口調に千枝が吹き出すと完二は照れたように頭をかいて呟き、それを聞いた千枝が笑いながら感想を述べると真や陽介、雪子もくすくすと笑い、雪子は「変わってないね」とも呟く。

 

「えと……ありがとう、ございました……あんま、覚えてねえけど……」

 

完二は素直に頭を下げて感謝の言葉を述べ、真は雪子に目配せ、雪子も頷くと口を開いた。

 

「私達、教えて欲しい事があるの」

 

「さっそくだけど、あん時会ってた男の子、誰?」

 

「?……!?」

 

雪子の言葉の次に千枝が尋ねると完二は一瞬首を傾げた後思い出しびっくりしたようにのけぞり、頭をかく。

 

「ア、アイツの事ぁ、俺もよくぁ……つか、まだ二度しか会ってねえし……」

 

「二人で学校から帰ってたじゃんよ? 何話したの?」

 

「や、えと……最近変わった事ねえか、とか……ホントその程度で……けど、自分でもよく分かんねんスけど、俺……気づいたら、また会いたい、とか口走ってて……」

 

「「男相手に」」

 

「……」

 

千枝の言葉に完二はどこか焦り気味に言い、その最後の言葉に陽介と千枝がダブルツッコミを入れると彼はこくんと頷いた。

 

「お、俺……自分でもよく、分かんねんスよ。女って、キンキンうるせーし、その……すげー……苦手で。男といた方が楽なんスよ。だ、だから、その……もしかしたら自分が、女に、興味持てねえタチなんじゃって……けどゼッテー認めたくねーし、そんなんで、グダグダしてたっつーか……」

 

「まー確かに、男同士の方が楽だってのは分かるけどな」

「ああ。俺も転校したての頃は大体男友達とつるんでたからな、やはり友達付き合いという点なら同性の方が気楽だ」

 

完二の言葉に男二人が同意する。

 

「それで、気持ちは落ち着いたか?」

 

「あ、ああ、もう大丈夫ッスよ。要は勝手な思い込みだったって事ッスよ。壁作ってたのは、俺だったんだ」

 

真の言葉に完二はにっと笑いながらそう言い、それを聞いた全員が首を傾げると完二は「あ~」と声を漏らした。

 

「あ~、ええと……ウチ、こう見えて代々“染物屋”なんスよ……あ、知ってんのか。親は、染料は宇宙と同じ……とか、布は生きてる……とか、ま、ちっと変わりモンで。んな中で育ったもんで、俺、ガキの頃から、服縫うとか興味あったんスよ」

 

完二はそこまで言うとため息を一つつく。

 

「けどそういう事言うと、やっぱ微妙に思うヤツもいるみたいで……女にゃイビられる、近所は珍しがるで、一時はもうなんもかんもウザかったんスよ。で、気づいてみりゃ一人で暴れてた……ってとこスかね」

 

と、そう言い切ると彼は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「んだ俺? 何一人でベラベラ喋ってんだ……あー、今のなしで……なんか俺、大分カッコ悪りッスね」

 

「いや、逆にカッコイイよ」

 

「いや、全然ダメッスよ」

 

恥ずかしそうにそう言う完二に真はそう返すが完二は首を横に振って返し、それから空を見上げた。

 

「ハハ……こんなん、人に初めて話したぜ。ま、今まで言う相手もいなかったんスけど」

 

彼はそこまで言うと特捜隊メンバーを見る。

 

「やっぱ俺、男だ女だじゃなくて、人に対してビビってたんスかね。なんか、スッキリしたぜ」

 

そう言う彼は言葉通り、スッキリした表情を見せていた。

 

「意外に純情じゃん……つーか、いい子じゃん」

 

「い、いい子は、やめろよ……」

 

「ははは、図体でかいのに照れんなって」

 

そこまで聞いた千枝が驚いたように呟くと完二は照れ隠しに腕をぶんぶん振り、それを聞いた陽介はからかうように笑って言った後真剣な表情を見せた。その口から発される言葉も真剣味を増している。

 

「んで、二度目に俺らと会った後の事だけど、何か覚えてる事ないか?」

 

「ほら、あたしらをシメんぞーって追っかけてきた後」

 

「あ? えっとー……うち戻って……部屋でフテ寝決め込んで……」

 

陽介と千枝の言葉に完二は腕を組んで首を傾げながら呟く。と首が逆方向にかくんと傾いた。

 

「ん? そういや誰か来たような……」

 

「誰か来た!? どんなヤツだ!?」

 

「あ、いや、そんな気したってだけで、誰も来てないかも……」

 

完二の言葉に陽介が食いつくがそこの記憶は曖昧なのか完二も言葉を濁す。

 

「あと思い出すことっつや……なんか変な、真っ暗な入り口みてえのとか……気が付いたらもう、あのサウナみてえなトコにブッ倒れてたッス」

 

「真っ暗な入り口……」

「……テレビじゃないか?」

 

完二の言葉に雪子が何か考える様子を見せると真が口を挟む。

 

「あ?……あー、言われてみりゃ、んな気も……てかなんでスか?」

 

「いや。ちょっと思っただけだ」

 

完二は真の問いかけに頭をかいて思い出すように虚空を見上げながら答えるが唐突に出てきたテレビという名詞に疑問を覚えたのか尋ね返し、真は顔色一つ変えずに返し、完二も「そスか」とさほど気にする様子を見せなかった。

 

「警察には、何か訊かれたか?」

 

陽介の質問に完二は今と似たような説明をしたらワケ分かんねーって顔をされたと話し、また首を傾げながら四人を見る。

 

「先輩ら、もしかして探偵みてーな事やろうっての?」

 

「んー、まあ、そんなとこ」

 

「なら、俺も頭数に入れてくんないスか?」

 

完二の問いかけに千枝があしらうような口調で返すと完二は頼むような視線を見せながら尋ねてくる。

 

「何故だ?」

 

「酷ぇ目にあったのが“誰かの仕業”ってんなら、十倍にして返さないと気が済まねえ」

 

「マジ? そりゃいい。すげー戦力じゃん」

 

彼の参加希望に真が理由を問うと彼はそう返し、陽介は大幅な戦力増強に嬉しそうな顔を見せる。

 

「言っておくが、遊びじゃないぞ」

 

「へっ。遊びで言わねッスよ。命救われたんだ……俺ぁ、先輩らのために命張るって決めてるんで。面倒みてやってほしッス!」

 

完二はびしっと姿勢を決めて頭を下げる。とそれを見た真は少し黙った後こくんと頷いた。

 

「分かった。よろしく頼む、完二」

 

「あざっす!!!」

 

真の言葉に完二は一度頭を上げて真を見た後、また勢いよく頭を下げて声を上げた。と、陽介がにししっと笑う。

 

「んじゃ、仲間が増えたお祝いに……」

 

「“特別捜査本部”、行く?」

 

「それ、まだ言ってんだ……」

 

陽介の言葉に雪子がどこかテンション高く言うと千枝が呆れ気味にツッコミを入れる。

 

「な、なんスか、それ!?」

 

「しょうがねえな、連れてってやるか!」

 

特別捜査本部という言葉に完二が素っ頓狂な声を上げると陽介が笑いながらそう言った。

 

 

 

 

 

それから場所はジュネスの屋上フードコートへと移る。彼らはジュースをそれぞれ買っていたが完二はただ一人肉を食っている。

 

「しっかしよく食うな、お前……話ちゃんと聞いてたか?」

 

「んあ? ひーへるっふお」

 

陽介の呆れ交じりの言葉に完二は肉を口に詰めたまま返し、一旦食事の手を止める。

 

「あー、えっと、テレビを使って殺人?……って事ぁ、撲殺で決まりスね?」

 

「ちげー! テレビで殴ってんじゃねーよ! どんだけ聞いてねーの、お前……」

 

「まあ、完二君も自分の足で“向こう”に入ってみりゃ分かるって」

 

完二の見当違いの言葉に陽介が怒鳴り、千枝は笑いながらそう言う。

 

「とりあえず、犯人の手口は天城の時と同じと考えていいだろう」

 

「そうだね。まずさらって、それからテレビに入れる」

 

「うん……怖いね」

 

真の言葉に千枝がそう言うと雪子も顔を伏せ、特別捜査本部テーブルが静寂に包まれる。

 

 

「つーかさ、例のテレビ、最近、けっこー面白くね?」

 

「“次に出んの誰?”とか、気になるな」

 

 

「ん?」

 

と、近くのテーブルからそんな話し声が聞こえてきた。

 

 

「俺前から、次はぜってーアイツって思ってたんだよ。名前なんだっけ、一年の暴走族上がりの……」

 

 

「次は誰と思ったって?」

 

 

「「!?」」

 

男子生徒の一人がそう言うのに完二が反応し、ドスの効いた声を上げると二人はびくりと跳ね上がって口を止める。

 

「そいつぁ多分“巽完二”って名前だな……ちなみにゾク上がりじゃなくて、ゾクを潰した方だけどな」

 

彼は席を立ちあがり、振り向くと目つきを鋭くしながらそう言う。

 

「誰だテメェら!」

 

そして最後のドスの効いた声で脅しをかけるように叫ぶと男子生徒二人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「んだよ……つまんねーな」

 

完二はそう言うと席に座り直す。

 

「やりきれないね……殺人事件との絡みとか、よく知らないで言ってんのかもだけど、同じ学校の子なのに……」

 

「関係ねーとか、自分は大丈夫だとか、観客気分なんだろ……次に誰が狙われるか、分かんなくなってきたってのによ」

 

「今回の事で、“被害者は女性”っていう共通点は崩れちゃったね」

 

他人事な様子の生徒に千枝がため息をつきながら漏らすと陽介も困った様子で返し、雪子もうんと頷く。

 

「もう一個の読みはたしか“山野アナと関係ある人が狙われる”だったか? 完二、お前は山野アナと面識はあるか?」

 

「山野?……えーっと……いや、ねっすね。うちの客だってお袋が言ってたけど、会った事はねえっす」

 

「じゃあ外れ、と考えておくべきか」

 

「そうだな。直接関わったのはどっちも母親だったんだしな。なんでわざわざ子供を狙ったのか、微妙に説明つかない」

 

真と陽介の言葉を最後に彼らは再び口を閉ざした。

 

「なんだ先輩ら、手がかりなしスか?」

 

と、完二がどこかにやついているような様子で口を開く。

 

「じゃーここらで俺が、すんげーの出しちまうぜ?」

 

そして彼はポケットから一枚のメモを取り出した。

 

「なんだ、それ?」

 

「今日、俺が復帰したらなんか目障りなのがチョロチョロいたんすよ。先輩や俺が行方くらましたこと、面白半分にかぎ回ってやがったんで、没収してやったんス。ま、書いてある意味はよく分かんねんスけど」

 

「分かんないんじゃん……」

 

陽介がメモを見ながら聞くと完二はそう言い、千枝のツッコミを横に完二は真にメモを渡す。

 

「えっとわっ!?」

「なになに? 演歌ヒットチャート、女子アナランキング……」

 

真がメモを読み上げようとした瞬間彼の背後から誰かがメモを抜き取って項目を読み上げていく。

 

「お、おい、誰だテメェ!」

 

「命さん! お、落ち着け完二! こいつは俺達の、っつーか正確には椎宮の先輩だ!」

 

突然現れて自分の出した手がかりを横取りした相手に完二は席を立って声を荒げるがその相手を見た陽介は完二を押し止める。とメモを読んでいる男性――命はどんどん表情を険しくしていった。

 

「……巽君、これ君が見つけたんだよね?」

 

「あぁ?」

 

「……お手柄だよ」

 

静かに自分を呼んだ相手に完二はきつい表情で返すが彼はメモから目を離し、完二に賞賛の目を向ける。

 

「え?」

 

「真君、ここを読み上げて」

 

突然褒められたのに完二が呆けた声を出すと命は真にメモを渡し、一部分を指差す。

 

「えっと……テレビ番組報道表?……山野真由美、4月11日……小西早紀、4月13日……」

 

「なんだこの日付? 4月11日?」

 

「あ、遺体が発見された日……は、そっか、始業式の日だったから、12日か……11日はその前の日だけど……」

 

「小西先輩の遺体が出たのは15日だ。忘れらんない日だからな……“小西早紀、4月13日”?……」

 

「ヒントはこの項目のタイトルだよ」

 

真が読み上げた日付に陽介が首を傾げ、千枝が思いついたように口を開くがすぐに違ったと続け、陽介は苦虫を噛み潰したような表情でそう言う。そして考え始めるがそこで命がヒントを出した。

 

「……そうか! これ、4月13日、小西先輩がテレビ報道された日だ! 遺体の第一発見者で!」

 

「あ、第一発見者ってインタビューされてたやつ!」

 

「じゃあ、“山野真由美、4月11日”っていうのも山野さんがテレビの報道に出た日?」

 

「あった! あたし覚えてる! ちょうどそん時、不倫報道あった!」

 

「おい待てよ……天城も確か、インタビューされたよな? あのインタビュー流れたの、いつだった!?」

 

「た、たしか、学校休んでた間……えっと……」

 

命のヒントを受けた真が口を開くと次々に情報が出揃い、陽介も何かに気づいたように雪子に尋ねると雪子は思い出そうとした後真の方を向いた。

 

「土手であなたと会った日。ほら、私、和服で……覚えてない?」

 

「ああ、あの日か! たしか……」

 

「えっと、買い出しに行った日だから、ええと……4月15日! 私が事件に遭ったの、確かそのすぐ後!」

 

「完二、お前の出た、例の特番は!?」

 

「あー、あれッスか。あのおかげでお袋マジギレして酷ぇ目に……っと、えーっと……日にちまでは覚えてねッスけど……先輩らと会う、チョイ前ッス」

 

一気に情報が揃い、命はにやりと微笑んだ。

 

「僕達が巽君を張ろうと決めたのは、マヨナカテレビに映ったのが巽君じゃないかと思ったから、だったよね? そしてそれが巽君だと分かった根拠……」

 

「ああ、間違いない……今までの被害者全員、いなくなる前にテレビで報道されてる」

 

命の言葉に真は頷き、今までの被害者の真の共通点をその口で紡いだ。

 

「じゃ、犯人の狙ってるのって、“テレビで取り上げられた人”?……」

 

「事件のニュースにばっかり目がいってて、全然気づかなかった……」

 

「うん。僕も巽君のメモを見て初めて気がついたよ。巽君、本当にお手柄だったね」

 

「あ、いや、そんな……」

 

千枝の言葉に雪子も頷き、命も腕組みをしてこくこくと頷いた後微笑んで完二を褒め、それを受けた完二は照れくさそうに頬をかく。

 

「偶然にしては出来すぎている。恐らく間違いない」

 

「ああ。考えてみりゃ、天城の件で失敗したのに、もう一度天城を狙わず狙いを完二に移した。その事もテレビ報道っていう犯人なりのルールがあるって考えれば、一応頷ける」

 

「そっか、そうだよね……犯人、二度来る可能性あったんだよね……ヤバ、考えてなかった……」

 

「テレビ繋がりの線、全然あるな……」

 

「恐らく被害者は“メディアで有名になった人”、これを焦点にしてみよう」

 

「でも、そうなると動機はなんなんだ? テレビ出たら殺すって、どういうんだ? あーくっそ、よく考えたら全然解決出来てねーよ!」

 

話が進んだ……ように思えたが結局犯行の動機が分かっておらず陽介はまた頭を抱えた。

 

「なんで俺、もっと頭よくねーんだ……」

 

「それを言ったら間違いなく花村君より頭がいい自信がある僕にも動機は分からないし、とりあえずは愉快犯って考えとけばいいんじゃない? 本当の動機はとっ捕まえてから聞き出せばいいんだし」

 

陽介の落ち込みそうな言葉に命も苦笑気味に返し、完二もそれに頷いた。

 

「そッスよ。なんで落ち込む事あんスか? 俺、先輩らスゲーって思ってるんスけど」

 

その言葉に全員が完二の方を向く。

 

「だって先輩ら、結局俺の事気づいて、体張って救ったじゃねえスか。充分だぜ、それで」

 

完二の言葉に雪子も頷いて真達を見る。

 

「私だって、助けてもらった。解決はまだでも、もう二人も救ってる」

 

「それは、そうだけど……」

 

「それに、“次は完二君じゃないか?”っていう皆の推理はちゃんと当たってたよ」

 

「惜しかったよね」

 

「あ? 事件の前から分かってたんスか? なら来んのもちっと早目がよかったッスよー」

 

雪子の言葉に千枝が頷くと完二がそう言い、彼らはつい笑ってしまう。と、命も微笑んだ。

 

「そうだよ。僕達だって最初からすべてが分かってたわけじゃないんだ。最初なんてこれを倒せば影時間が終わる、目的が達成できるってのをすっかり騙されちゃってたって事だってあったんだからね。その後、一つずつ手探りで先に進んでいったんだ。今分からない事でも、進んでいけばきっと分かっていく。そう信じて、今を進んでいくんだ」

 

「はい。現に今、これで被害者の共通点と犯人が狙うルールが分かった。今度こそ先回りできる可能性は高い」

 

命という先人の言葉に真は頷き、真剣な目でそう言う。と雪子がうんと微笑んだ。

 

「それに、今度こそ犯行終わりって可能性もあるかもしれないし」

 

「だといいけどな……二度も邪魔してやったんだ、いい加減懲りてほしいぜ。とりあえずは今まで通り、雨の日にテレビチェックするって事だな」

 

雪子の言葉に陽介も頷き、千枝は空を見上げた。

 

「そういえば……来週、林間学校だ。雨降らないといいけど……1,2年合同だから、完二君も一緒っすね」

 

「マジスか? 学校かぁ……かったりーなぁ……」

 

千枝の言葉に完二がめんどくさそうな表情で呟く、とその次に表情が輝いた。

 

「あ、次のビフテキ、そろそろ頼んでもらっていいスか? 焼けるまでに、残り一気にいっちまうんで……ここ、先輩らのワリカンなんスよね?」

 

「毎度どーも……と言いたいけど、皆、顔合わせは済んでるの?」

 

「あ、そうだった。皆、行くぞ」

 

「あ、ちょっと? 分ぁったッスよ。じゃあ安いとこラーメンかペアセットのたこ焼きで……」

 

「全部却下」

 

「ええっ?」

 

完二の言葉に命が一応店員として返しておくが次に真に尋ね、真も思い出したように相槌を打つと席を立つ。それに続くように陽介と千枝が席を立つと完二はビフテキ二人前も金を払いたくないのかと思ったか安いものを頼もうとするが雪子が一刀両断、完二は情けない声を上げた。

 

「じゃ、僕もそろそろ仕事に戻るから。後は頼んだよ」

 

「はい」

「お疲れっす」

 

どうやら仕事を抜け出してきたらしい命はそう言って店内に戻っていき、真と陽介も一言返してから仲間を連れ、家電売り場の方に歩いて行った。

 

 

それから真達はテレビに入り、クマの待つ広場へとやってくる。

 

「あー……言われてみりゃ、居たような……クマだったのか……つーか、何で“クマ”?」

 

「知らん」

 

クマをしげしげと見ながら話す完二に陽介が即答する。

 

「クマも知らん。ずっと悩んでるの」

 

「な、なんか、かわいいじゃねえか……さ、触っていいか?」

 

「おさわりはお断りクマ」

 

「なっ……んだとコラァ! テメ、調子乗んなよ!?」

 

しょぼんとしている姿が琴線にでも触れたのか頬を染めながら触っていいかと尋ねる完二だがクマがおさわり禁止と返すと声を荒げる。とその姿を見た雪子がぷぷぷと笑い、完二もちっと舌打ちを叩いた。

 

「あー……ところで、気になってたんスけど、天城先輩もさらわれたんスよね?」

 

「え……うん、完二君の前に」

 

完二の問いかけに雪子はこくんと頷く、と完二は何か興味を持った風に雪子の方を向いた。

 

「てこたぁ、先輩もなんかこう、さらけたんスか?」

 

「そ、それは……その……」

 

「どんなだったんスか、先輩の――」

 

その言葉が終わる前に雪子の平手打ちが完二に突き刺さり、彼は「うごぉっ」と情けない悲鳴を上げた。

 

「あ、ごめん……スナップ効いちゃった……」

 

「あ、アゴが……」

 

「クマ、本題に入りたいんだが。完二のメガネは出来てるか?」

 

とりあえずコントはさておき真がクマに話しかけるとクマもこくんと頷いた。

 

「はい、これカンジのね?」

 

「お、これだな、例のメガネ……?」

 

クマがそう言って手渡してきたメガネを完二は受け取るが霧の中見えたそのメガネに若干違和感を覚える。

 

「早くかけて」

 

「あ? は、はぁ……でも、俺のだけ違わねえスか?」

 

雪子の催促に完二は少し首を傾げながらメガネをかける。それは、いつかの鼻眼鏡だった。

 

「に、似合う……うぷぷ……ぷぷ……あははははは!」

「ハハ、すげー。お前のは、マジ似合ってるよ!」

 

「ちゃんとしたのあるのに、ユキチャン、こっちにしようって聞かないクマよ」

 

その姿を見た雪子と陽介が笑い、クマがそう言うと完二はキレたように鼻眼鏡を地面に叩き付ける。

 

「つまんねー事してんなよ、あぁ!? よこせオラッ!」

 

完二はそう言ってクマが持っているもう一つのメガネを奪い取る。

 

「「ぶっ!!!」」

 

なんとそれも鼻眼鏡。不意打ちのそれに真と千枝まで吹き出してしまった。

 

「ウププ、あははははは!!」

 

そして雪子の笑いのスイッチももう一段階入る。

 

「スペアの方を奪われたクマ……カンジ、実は好きね、ソレ?」

 

「アハハ、くるしー!」

「くっ、くく……すまん、不意打ち過ぎる……」

 

クマの言葉の後千枝が笑い、真も必死で笑いを堪えながら謝る。その光景を見た完二は顔を赤くし、鼻眼鏡を遠くに投げ捨て鼻眼鏡を星にする。

 

「こっちが、本物クマ。やっと渡せたクマね」

 

「要らねえモンならスペア作ってんじゃねーよ」

 

やっと本物を受け取った完二はメガネ――サングラス型だ――をかける。

 

「くっそ、てめーら! いつか、ぜってーやってやっからな!」

 

「あははははは!」

 

「ふ、今度完二の武器を見繕ってからペルソナの訓練でもする。その時に仕返しを受け付けるよ。俺と花村でな」

 

「俺も!?」

 

「よっしゃ!!」

 

「ちょ、おい!?」

 

吼える完二の横で雪子が笑い、真はいつの間にか持っていた両手剣を鞘に入れたまま完二に突き付け、さらに陽介まで巻き込み彼は悲鳴を上げるが完二は拳をガンッと合わせてやる気満々の様子を見せ、陽介は悲鳴を上げるのであった。




今回は足立コミュと菜々子コミュをちょいと混ぜた後完二仲間入りです。ちなみに今更ながらコミュは基本「これは入れとくかなー」と、コミュイベントの先を結構忘れている中独断と偏見で入れてます。なので実は後のコミュの伏線となるイベントもたぶん大丈夫だろーと大雑把にスルーしてる可能性が高いのでそこんとこよろしくお願いします。
さー次回は林間学校。ゲームとアニメではあるキャラとの絡むタイミングが違うようになるし、どっちの方向で絡ませるか考えないとな。ま、それでは~。

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