ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第十八話 男達の告白

ユニバース、奇跡を奇跡でなくさせる究極の力。それを使えば人類全てに死を与える概念を封印することすら可能。しかし、それには一人の人間の命が封印の楔として必要だった。

 

「…………」

 

だから僕は封印の楔となることを選んだ。それで皆を、仲間を、恋人を、妹を守れるのならば安いくらいだ。目の前に存在するのは人間が死に触れようとする欲求――エレボス、それが僕の封印している存在――ニュクスに触れてしまえば人間は滅びる。だから僕は負けるわけにはいかない。それが今の僕の使命。

 

「メギドラオンでございます」

 

突如そこに響く美しい声。それと同時に具現した白い光の爆発がエレボスを吹き飛ばす。

 

「…………」

 

それを見た僕は驚いたように声を失う。いや、既に声を出せる状態ではないこともあるのだが。白い光の爆発(メギドラオン)を生んだ女性――正確にはそれを放つ事が出来るペルソナを使役した存在は銀髪をおかっぱというべき髪型にしており、群青色の衣服に身をまとった姿はエレベーターガールを想像させた――は僕に見覚えのある相手だった。

 

「…………」

 

エリザベス、何故ここに? そう問いかけたいがやはり声が出ない。すると女性――エリザベスはエレボスを吹き飛ばした後暢気に僕の方を向いて頭を下げてきた。

 

「お久しぶりにございます、命様。貴方様を助けに参りました」

 

「…………」

 

助けに? でも僕はここでニュクスを封印しないと……僕がそう考えている間にエレボスが立ち上がり、自身に背を向けて隙だらけのエリザベス目掛けて襲い掛かる。それを見た命は危ないと叫びたかったが、やはり声が出なかった。

 

「タナトス!」

 

また聞こえてきた別の声、それと共にエレボスに襲い掛かった存在に僕は息を呑む思いだった。そしてエレボスに襲い掛かった存在――タナトスを使役している少年はエレボスに対峙した後顔のみ振り返ってにこっと人当たりの良い笑みを僕に見せてくる。

 

「久しぶり、命君。君を助けに来たよ」

 

「…………」

 

甘いマスクに後ろに撫で付けた髪、口元を隠す長いマフラー。ニュクスとなったはずの親友――望月綾時だ。それに僕はもはや何も言えないどころか、驚きのあまり思考停止状態になってしまっていた。すると二人はそれぞれが呼び出したペルソナ――綾時はタナトスに剣で接近戦を、エリザベスはピクシーにメギドラオンによる援護兼砲撃を指示しているようだ――にエレボスを任せて僕の方に歩き寄ってくる。

 

「命様、貴方様を助けに参りました」

 

「遅くなってゴメンね?」

 

そんなことより、なんで君達がここに? 特に綾時はニュクス・アバターとなって僕達と戦い、ニュクスに取り込まれてしまったはず……。

 

「あはは、それは話せば長いけどこちらのエリザベスさんのおかげだよ。ま、言っちゃえば禁則事項?」

 

「私は貴方様を助けるため、あらゆる手段を尽くしました。そして、ようやく貴方に会えた……」

 

綾時もエリザベスも嬉しそうに、どこか泣きそうな顔を浮かべている。そこまでして僕を助けたかったんだろう。でも、僕が封印の楔としての役目を果たさなければ人間は滅びてしまう。僕を助ける=結局僕含めた人間全てが死んでしまうだけだ。すると僕のそんな思考を読んだのかエリザベスは笑みを見せる。

 

「心配要りません。私達は貴方様を助け、同時に封印も維持する手段を手に入れております」

 

「うん、任せといてよ」

 

エリザベスに続いて綾時もそう言う。その二人の微笑みに僕はつい安心してしまい、ピクシーとタナトスがエレボスを足止めしている隙にエリザベスが封印されている僕に手を伸ばし、同時に僕の身体を暖かい感覚が満たしていく。

 

「う……」

 

突如喉の奥から声が漏れ、それから少しずつ身体の感覚が戻ってくるのが分かる。と封印が解けたためニュクスが少しずつ封印の扉から出てこようとし始めた。

 

「エリザベスさん、お願いします!」

 

「あっ……」

 

響く綾時の声。それと同時に綾時は僕を突き飛ばして、さっきまで僕がいた封印の場所に飛び込む。そしてエリザベスは一枚のカードを砕いた。それと同時に綾時の命が封印を満たしていく……これは、さっきまでの僕と同じ……人の命を楔にしたニュクスの封印だ。

 

「りょ、じ……ど、いう……と……」

 

久しぶりに声を出したせいかかなり途切れ途切れになってしまう。すると綾時はにこり、と笑みを見せた。同時に僕の頭の中に綾時の声が響いてくる。

 

(心配ないよ。僕はもう一人の人間さ、でも、かつてニュクスだった存在としてニュクスは僕が責任持って封印する)

 

「そ、な……こと……ふざ……る、な……」

 

声が途切れ途切れになってしまうのは久しぶりに声を出すせいだけじゃない、頬を流れるものがそれを示している。しかし綾時はにこりとした笑みを崩していなかった。

 

(君は君の未来を生きるべきだ。大丈夫、これが僕の選んだ道……君は、結生ちゃんやゆかりちゃん、たくさんの仲間達の未来を守るために封印の楔の道を選んだ。僕も、君の未来を守るために、この道を選んだ……それだけさ)

 

綾時はそこまで言うと、さっきまでとは違う慈愛の笑みを命に見せた。

 

(だって、僕は君の事が大好きだからね。でも、結生ちゃんやゆかりちゃんを泣かせたりしたら、許さないからね?)

 

その言葉を最後に綾時の声が聞こえなくなり、命はうつむく。新たな封印を終えたエリザベスはふぅと息を吐くと、エレボスが再び前進してきたのを見て命の腕を掴んだ。

 

「命様、ここは危険です。離れましょう!」

 

「綾時、綾時……」

 

エリザベスはそう言うと細身の女性とは思えない力で命を引っ張り、命は呆然とした表情でそう声を漏らした後、遠ざかっていく封印の楔――親友望月綾時に手を伸ばす。

 

「りょうじーっ!!!」

 

命は目を開けて声を上げる。しかしその手の先には誰もおらず、その手はただ虚空を掴むのみ。命はぜえぜえと荒い息をしながら起き上ると辺りを見回す。ここは天城屋旅館、現在僕がマヨナカテレビの調査のために宿泊している旅館だ。

 

「……ゆめ、か……」

 

命はぼんやりと呟く。寝間着は汗でぐっしょりと濡れており、手も汗でぐっしょりと濡れさらに僅かにぶるぶると震えていた。命はその手をぎゅっと握りしめ、目を閉じると震えが止まるように必死で祈り始めた。

 

 

それから時間が過ぎて昼。真達は昼食を食べた後雑談をして過ごしていると教室に一人の女子が駆け込んできた。

 

「試験結果張り出されたよー!」

 

「あぁ、来たか……」

 

その言葉に陽介が絶望の声を漏らし、真が苦笑交じりに立ち上がる。

 

「んじゃ、見に行くか」

 

「おう……」

 

真の言葉に陽介も頷き、二人は教室を出ていくと下駄箱前の掲示板に張り出されている試験結果に目を通しに行く。

 

「おっ! 来た来た! おーい椎宮!」

 

「ん? どうした、一条?」

 

「とぼけんなって。お前すげえじゃねえかよ、ほら!」

 

「え? どれどれ?」

 

掲示板に来た途端真と同じ運動部に所属している一条が手を振りながら真を呼び、真が首を傾げながら問い返すと一条はにししと笑いながらそう言って試験結果を見るように促し、陽介が試験結果を覗き込む。

 

「うえっ!? つ、椎宮!? お前、学年一位じゃねえか!?」

 

「ホントか!?」

 

その言葉に真本人もぎょっとしたように叫び、試験結果の一番上を見る。そこにはたしかに“椎宮真”の名が書かれていた。

 

「うおーっ、なんか自分の事みてーに嬉しいな、これ!」

 

「なんだよ椎宮ー、お前勉強出来るんだったら俺達に教えてくれたってよかったじゃねえかー!」

 

「あ、いや、俺も驚いてるんだが……まあ確かに月光……前の学校じゃいつもトップ10ぐらいは入ってたけど……」

 

「てっめ、さりげなく自慢かこのこの!」

 

陽介は自分の事を喜んでいるかのように喜び、一条は真に後ろから抱き付きながらそう言う。その後も教室からの帰り道に文化部仲間の綾音から尊敬の目で見られたり色々あって真は教室に戻っていった。

 

それから時間が過ぎて放課後。真は席を立つと陽介達に目をやる。

 

「じゃあ、今日もジュネス集合。俺はちょっと用事があるから少し遅れるけど。出来るだけ早く行く」

 

「おう」

「オッケー」

「分かった」

 

真の言葉に三人は頷いて返し、四人は一旦解散。真は商店街の方に行くとそこに誰にも知られず存在する青いドア――ベルベットルームへの入口へと向かった。今回の戦いに備えて新たなペルソナを呼び出す必要がある。そう思いながら彼は青いドアに手をやった。

 

「……あれ?」

 

真はベルベットルームに入ると声を漏らす。そこはいつもと様子が違った。イゴールとマリーの姿が見当たらず、マーガレットが本を読んで過ごしているだけだ。

 

「あら……」

 

マーガレットは真がやってきたのに気づくと驚いたように声を漏らす。

 

「これは、失礼しました。何かご用でしょうか? あ……と言っても、今ちょうど主が席を外しておりまして。急ぎでなければ、また時を改めてお越しくださると……」

 

マーガレットはそこまで言うと静かに本に目を落とした後ふるふると首を横に振る。

 

「いえ、違いますね。ここはお客様の定めと不可分の部屋……この部屋でまったく無意味な事は起こらない……この出会いにも、何か意味があるのでしょう」

 

マーガレットはそう呟くと本を閉じ、再び真の方を向く。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ……一度言ってみたかったのよね。主以外の出迎えを受けた人なんて、もしかしたら初めてじゃないかしら」

 

マーガレットはそこまで言うと一つくすっと笑う。

 

「ベルベットルームは、招かれる客人の心と不可分……景色も、住人の姿も、その時々の客人の数や定めに応じて、主に選ばれ、変わりゆく……少し話しましょう? そうするべき、という気がするのよ」

 

そう言うマーガレットの言葉と視線にはいつもの違い、優しげな情が感じ取れる、真は彼女との間にほのかな絆の芽生えを感じた。

 

 

 

     我は汝……、汝は我……

 

   汝、新たなる絆を見出したり……

 

 

   絆は即ち、まことを知る一歩なり

 

 

  汝、“女帝”のペルソナを生み出せし時

 

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

 

頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。

 

「貴方は既に、いくつか“コミュニティ”を持っているようね。出会いを重ね、言葉を重ね……お互いの理解が深まることで、絆は固まるもの……でも時に心は、千の言葉よりも、たった一つの行動によって大きく震えるわ。貴方に分かるかしら?」

 

「確かに。ただ口先だけで言うよりも行動で示した方が人の心に訴えるって聞いたことがあるな」

 

「フフ……今日の出会いの意味は、もしかするとその辺りなのかも知れないわね」

 

マーガレットはそう言い、何か考える様子でうつむく。

 

「決めたわ」

 

「……何をですか?」

 

「貴方の辿る定めの糸に、この私も絡めて頂戴……そこから“絆”という新しい糸が紡がれるかも知れない。私には知りたいことがあって、最初に迎えた客人が貴方……そして、主不在の今日の出会い……私達は、きっとどちらも特別なのよ……お互いにとってね」

 

「そりゃどうも」

 

マーガレットの微笑みながらの言葉に真は肩をすくめて返し、マーガレットは目を細めながらまた口を開いた。

 

「貴方の事をもっと知りたいわ。まずは、その類まれなペルソナ能力から見せてもらおうかしら」

 

「……というと?」

 

「そうね……」

 

マーガレットの言葉に真が首を傾げて返すと彼女はまた少し考えるように目を伏せる。

 

「“スクカジャ”を持ってる“イッポンダタラ”を私に見せて頂戴」

 

「スクカジャを持つイッポンダタラ?」

 

「千の言葉より、一つの行動に、心は震える……もう忘れたのかしら?」

 

「……なるほど。ペルソナ合体か」

 

マーガレットの出した命題に真は首を傾げるが少しすると思いついたように頷く。ペルソナ合体、それはワイルド能力の持ついくつものペルソナを操る能力によって呼び出せるペルソナ同士をイゴールが合体させ、新たな姿とすること。しかしそれはただ使わないペルソナを素材とするだけではなくその素材となったペルソナが持っているスキルを継承させることも可能。つまり彼女はペルソナ合体によってスクカジャのスキルを継承したイッポンダタラを作り出せ、と言っているわけだ。

 

「ふふ、楽しみが一つ増えたわね。それじゃ、ごきげんよう」

 

「ああ。でもイゴールさんにも用はあるし、少し時間を置いてまたすぐに来るよ」

 

マーガレットのお別れの挨拶に真もそう返し、それと共に彼の目の前を闇が覆っていった。

それから気づいた時には彼の意識は商店街に戻ってきており、真は少し考える様子で佇むとその場を後にし、ジュネスに走っていった。

 

それから真達は家電売り場からテレビに入る。真は広場へとやってくると皆にすまなそうな表情を見せた。

 

「悪い、まだちょっと用事があるから……」

 

真はそう言うと広場の隅にある青いドアの前に立ち、ベルベットルームへと入っていく。

 

「あー、また入ってった……」

 

「不思議だよね。あたし達からしたらただ突っ立ってるだけなのに、いつの間にか新しいペルソナ持ってるんだもん」

 

陽介と千枝はただ広場の隅で棒立ちしている真を見ながらそう話し合う。それから数分程度で真はベルベッドルームから戻り、真の「行こう」という言葉を聞くと皆も頷いて完二がいるはずのダンジョンであるサウナ入り口である脱衣所へと向かい、そこから前回上がった一番上の階までワープ、ダンジョンの攻略を開始した。彼らが少しサウナを進んでいくと出てきたのはピンク色のローブをまとったかのような姿をした、背中にまるで巨大な両手がついているような魔術師のシャドウが三体。その姿を見た真は自らの右手にカードを具現し、握りつぶした。

 

「浄化しろ、パワー! マハンマ!!」

 

彼が呼び出したのは能天使(パワー)、それが槍を振るうと同時に放たれた光の波動が一瞬で魔術師のシャドウを浄化し消滅させた。

 

「すっげー! 一瞬じゃねえか!?」

 

「今回のためにバイト代はたいてペルソナを多く合体させたからな。今日、確実に完二を助ける!」

 

「「「おー!」」」

 

陽介が歓声を上げると真は自信満々にそう言って士気を上げるためにそう言い、それに陽介、千枝、雪子が右腕を振り上げて返す。命もそれに頷くが念のため、といわんばかりの冷静な目で真を見る。

 

「新たなペルソナを手に入れたのはいいけど、そのせいでいつもの戦い方が出来なかった。なんて間抜けな真似はやめてよね?」

 

「はい、分かってます」

 

命の言葉に真も頷いて返し、命はならよしというように頷くと辺りを見回した。

 

「じゃあ急ごう。ただでさえ一日この蒸し暑い中なんだからね……二年前の戦いじゃタルタロスに一週間閉じ込められて平気だった例もあるけど……今回に当てはめるにはこことタルタロスは相違点がありすぎるから参考にもならないからね。急いで、でも慌てるな……だよ」

 

命の言葉に高校生四人組は頷いて返し、彼らは遅い来るシャドウをなぎ倒しながらサウナを進んでいく。そして十階にまで上がった時だった。

 

[……カンジの声、聞こえないクマ……]

 

「あ、ああ……」

 

クマが心配そうな声で呟き、陽介も歯切れ悪く返す。先ほど本物の完二なのか完二のシャドウなのか分からないが「ここは最高だ……」という声を彼らは聞いており、陽介はついに完二が目覚めてしまった可能性を危惧してしまっていた。

 

[よっしゃ! ここは一つ、全力で探してみるクマ!!]

 

とクマは気合を入れて鼻をクンクンし始め、突然ピカーンという擬音が出そうなほどに目を開く。

 

[キター! この感じ、クマ復活かも! カンジ、きっと近くにいるクマ!」

 

「よし。皆、急ぐぞ!」

 

クマの言葉を聞いた真は真剣な表情で言い、一気に走り出した。そして一行はさらに上の階層まで辿り着き、そのすぐ先にあるドアを見るとクマが声を出す。

 

[おっ! カンジの感じ! この向こうにいるクマ!]

 

「覚悟はいいな? 行くぞ!!」

 

「ええい、もうどうにでもなりやがれっ!!」

 

クマの言葉の直後真が一番に飛び出し、さらに陽介も自棄になったようにその後に続き二人の男子が扉を開けて全員一緒に中に飛び込んだ。

 

「いた!!」

「完二!!」

 

部屋に飛び込んで一番に千枝が完二を見つけ、陽介が彼を呼ぶ。

 

「お……俺ぁ……」

 

[もうやめようよ、嘘つくの。人を騙すのも、自分を騙すのも、嫌いだろ? やりたいこと、やりたいって言って何が悪い?]

 

しかし完二にその声は届いておらず、完二の歯切れの悪い声に対し完二のシャドウはまるで子供を諭すような、しかしやはり媚びた口調でそう言う。

 

「それと……これとは……」

 

[ボクはキミの“やりたいこと”だよ』

 

「違う!」

 

完二はうつむき、曖昧な言葉を漏らすが完二のシャドウの言葉につい否定の声を出してしまう。

 

「駄目! 完二君!!」

 

それを聞いた雪子が咄嗟に彼に走り寄ろうとする。

 

[邪魔はさせないよ! ふんっ!!]

 

しかしそれを見た完二のシャドウがそう叫び、何故かポージングを決める。その瞬間部屋の隅にあった浴槽らしきものから何か水っぽいものが溢れ、床に流れていく。

 

「なにこれ? こんなもんで足止め……ってうわぁっ!?」

 

「ち、千枝!? きゃぁっ!?」

 

それを見た千枝は首を傾げながら足を踏み出すが突然その液体が滑ってバランスを崩し、そっちを見た雪子も同じくバランスを崩して二人は尻もちをつき、ぬるぬるとした液体が身体につく。

 

「……な、何コレ……気持ち悪っ……ん、んぅ……」

 

「お、起き上がれない……ひゃんっ」

 

千枝と雪子が悲鳴じみた呻き声を漏らす。起き上ろうとしても滑ってしまい、再び嫌な感触のする床に倒れてしまう。

 

「こ、これ、まさかローション!? 芸人じゃあるまいし!」

 

命は謎の液体の正体を見抜き声を上げる。ちなみに陽介は「つっ、椎宮! 何か録画出来るもん持ってねえかっ!?」と真に問いかけ、真はどこか悔しそうに「な、ないっ!」と叫んでいた。

 

[女は嫌いだ……]

 

まあそんなことが起きている前で完二のシャドウは突然そう呟き、その言葉に完二が反応して顔を上げる。

 

[偉そうで、我がままで、怒れば泣く、陰口は言う、チクる、試す、化ける……気持ち悪いモノみたいにボクを見て、変人、変人ってさ……で、笑いながらこう言うんだ]

 

完二のシャドウはそこまで言うと一息つく。

 

[“裁縫好きなんて気持ち悪い”“絵を描くなんて似合わない”……“男のくせに”……“男のくせに”……“男のくせに”!……]

 

段々と強くなっていく口調、それはどこか悩んでいるような声にも聞こえる。

 

[男ってなんだ? 男らしいってなんなんだ? 女は怖いよなぁ……]

 

「こっ、怖くなんかねえ!」

 

[男がいい……]

 

完二のシャドウの言葉に完二は相手を脅かすような口調で返すが完二のシャドウは止まらない。

 

[男のくせにって、言わないしな。そうさ、男がいい……]

 

「ざっ……けんな! テメェ、ひとと同じ顔してフザけやがって!」

 

[……キミはボク……ボクはキミだよ……わかってるだろ?……]

 

「違う!」

 

完二のシャドウのにやけながらの言葉を完二は咄嗟に拒絶する。

 

「違う、違う!!」

 

その言葉を聞いた完二のシャドウのにやけ顔に、若干違うものが混じった。

 

「テメェみてぇのが……俺なもんかよ!!」

 

瞬間、完二のシャドウの口の端が妖しく吊り上がる。そして完二のシャドウを黒い影が取り囲み始めた。

 

[ふふ……ふふうふふ……ボクはキミ、キミさァァ!!]

 

その言葉の直後衝撃が走り、完二は吹き飛ばされると床にしたたかに叩き付けられ気絶する。さっきまで完二のシャドウがいた場所にいる異形は胴体が左右で白黒に色分けされた、やはりふんどし姿の巨人。その白黒で色分けされた丁度真ん中に咲き乱れた薔薇に囲まれる形で完二が生えており、その巨人の腕は丸から矢印が生えたような形の、雄を意味するシンボルを武器のように担いでいる。

 

[我は影……真なる我……ボクは自分に正直なんだよ……だからさ、邪魔なモンには消えてもらうよ!]

 

「こんなのが、完二君の本音だなんて……」

 

「こんなの本音じゃねえ! タチ悪く暴走しちまってるだけだ!!」

 

「ああ! 皆、行くぞ!!」

 

完二のシャドウの言葉になんとかローション地獄から抜け出した雪子が呆然と呟くとそれを陽介が否定し、真もそれに頷くと声を上げる。それに全員が頷き、千枝と雪子が動いた。

 

「トモエ!」

「コノハナサクヤ!」

 

召喚と同時に突っ込んでいくトモエ、しかしその前に完二のシャドウと同じく左右で白黒に色分けされたマッチョな巨人が立ちはだかった。

 

「邪魔だー!! トモエ! ブフ!!」

 

千枝は声を上げてトモエに指示、トモエは薙刀から氷の弾丸を巨人に叩き込むが巨人はなんとそれを自身の胸板で受け止めると歓喜の表情を見せた。

 

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

 

そこにコノハナサクヤが炎の弾丸で追撃をかけるが、それはもう一体の白黒マッチョ巨人がやはり厚い胸板で受け止めこちらもまた歓喜の表情を見せる。

 

「なっ、何あれ!?」

 

「かっ、火炎無効に氷結無効クマ!」

 

「厄介な! 来い、ラクシャーサ!!」

「だったらあんなの無視すりゃいいだけだろうが! いけっ、ジライヤ!!」

 

千枝の悲鳴にクマが声を上げ、次に真が鬼神を、陽介が忍者を呼び出してそれぞれのペルソナとシンクロ。二体の白黒巨人を翻弄するように動き回り、二人は互いにアイコンタクトで同時に完二のシャドウ本体に突っ込む。

 

[ウフフ、可愛いコ♪]

 

しかし白黒巨人の一体――タフガイはその動きを見切っていたかのように二人を抱きしめ、頬擦りする。

 

「「うぶっ!?」」

 

直後男子二人は気持ち悪そうな声を漏らし、がくっと膝をつく。とそれの意味を理解した命が顔を青ざめさせた。

 

「まさか、シンクロの感覚共有にこんな罠がっ!?」

 

「こ、心が折れたクマー! センセー! ヨースケー! しっかりー!!」

 

命の解説の後クマが二人に駆け寄って揺り起こそうとする。

 

「ま、まずい! 男性陣が命さん除いてやられた!」

 

「た、大変!……えっ!?」

 

その光景を見た千枝が焦った声を上げ、雪子も彼らを回復しようと何かスキルがないかコノハナサクヤに精神を集中しようとする。その瞬間もう一体の白黒巨人――ナイスガイが雪子の横に立ち、彼女を見下ろす。

 

[……はんっ、下品な赤!]

 

「はぁっ!?」

 

そしてナイスガイの鼻を鳴らしながらの言葉に雪子は分かりやすいぐらいに眉を吊り上げる。その次にナイスガイは千枝の方に目を向けた。

 

「え? な、なに?……」

 

自分を舐めまわすように見てくるナイスガイに千枝は不安げに身体を縮ませる。とナイスガイはまるで憐れむような視線を向けながら彼女の肩にぽんぽんと手を置いた。

 

「な……なんか言えやぁーっ!!!」

 

「ぶ、ぶぶぶブチギレクマー!?」

 

それに千枝も怒髪天。男性陣は感覚共有したペルソナがマッチョに抱きしめられている事で心を折られ、女性陣は馬鹿にされた事で理性を失いブチギレてしまった。

 

「くっ、オルフェウス!」

 

戦線崩壊寸前、その状況に命は召喚器を引き抜いてこめかみに押し当て引き金を引く。そして呼び出されたオルフェウスも竪琴を構え、命も腰の剣を引き抜いた。

 

「いけ、オルフェウス!」

 

命の言葉と共に突っ込んでいくオルフェウスはラクシャーサとジライヤを抱きしめているため無防備なタフガイを殴り飛ばして二体のペルソナを救出。タフガイと接近戦を繰り広げる。

 

「せやぁっ!!」

 

[オゥッ!?]

 

同時に命もナイスガイに斬りかかり、連続攻撃を見舞う。ペルソナとのシンクロによる高度動作制御状態での戦闘と並行して自分も戦闘、簡単に言えば一つの脳で二つの身体に別々の動作を同時に行わせているのと同義の状態。それを命は行っていた。

 

[これで、終わりだよッ!]

 

「っ!?」

 

突如聞こえてきた声に命は反応しつつも向かってくるナイスガイを反射的に蹴り飛ばす。完二のシャドウは両手に雄のシンボルを振り上げ、思いっきり地面に叩き付けると同時に床を裂いて雷が走る。真も陽介も無防備、雪子や千枝も頭に血が上って防御を考えられる状況ではない。しかし……

 

「巽君っ!!!」

 

何よりも、ペルソナを持たない普通の人間である完二があの電撃を受けたら間違いなく命がない。命はそれを直感的に判断し、走り出す。と同時にオルフェウスも竪琴をかき鳴らして光――タルンダ――を放ち、電撃の勢いを抑える。そして命は完二の前に立つと両腕を広げ、まるで壁のように立ちはだかった。

 

「がああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

完二をかばうのに精いっぱいで自分の防御なんて一切考えず無防備に電撃を受けてしまう。そしてオルフェウスの弱点である属性も……電撃だ。

 

[あぁ! 自らの身を挺してかばうなんて、なんて男らしいっ!!]

 

完二のシャドウが歓声を上げる。しかし命はそれを耳に入れる余裕すらなく、床に崩れ落ちる。その意識も闇に落ちていった。

 

「……」

 

その直後、やっと体調が回復した真は立ち上がるが目の前で命が床に崩れ落ちたのを見ると目を剥き、状態が平常に戻った陽介、千枝、雪子、そしてクマも目を見開く。

 

「せ……せんぱあああぁぁぁぁいっ!!!」

 

そして真の悲鳴がその場を響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベールベルベルベルベットー……」

 

突然聞こえてくる不思議な歌。歌自体に聞き覚えはないが懐かしいその美声に闇に落ちていた命の意識が少しずつ覚醒していく。

 

「わーがーあるじながいはなー……」

 

命はゆっくりと目を開く、とその顔を何者かが上から覗き込んだ。

 

「おはようございます、命様」

 

そう言ってにこりと微笑を見せる銀髪の女性、群青色の衣服に身を包んだ姿はエレベーターガールとでも称しようか。顔立ちも美人の部類に入る。その顔をぼんやりと見ていた命はやがてぎょっとしたように目を見開いて起き上がった。

 

「エ、エリザベス!?」

 

そして女性――エリザベスを見ながら素っ頓狂な声を上げる。さっきまで自分の後頭部にあった柔らかい感触なんて思い出す暇もない。

 

「お久しぶりでございます。命様」

 

「あ、ああ、久しぶり……いや、そんなことより……」

 

命はエリザベスの挨拶に挨拶を返した後辺りを見回す。二年前に見慣れたエレベーターのような部屋、しかしエレベーターの上昇は止まっておりしかし出入り口はどこにもなかった。ちなみにエリザベスは二年前に命がいつも腰掛けている椅子があった場所に置かれているソファの端っこに座っていた。

 

「ここは、ベルベットルーム? でもイゴールがいない……皆は? 僕はどうなったんだ? 巽君のシャドウは?」

 

「貴方様は巽様をかばってシャドウの電撃をその身に受けて意識を失われ、そのあなたの精神を私がここにお呼び申し上げました。この場所は、かつての貴方様のベルベットルームと申し上げればよろしいでしょうか?」

 

命の矢継ぎ早な質問にエリザベスはそう答えていく。

 

「まだ戦いは終わってないはずだ。じっとしちゃいられない……とにかく帰らなきゃ」

 

命はそう言うとベルベットルームを歩き回る。しかし帰り道がどこにもなかった。

 

「今の貴方では彼らの足手まといです」

 

そしてエリザベスはぴしゃりとそう言い放ち、それに命の身体がびくりと跳ね上がる。

 

「もちろん、貴方様の経験に裏打ちされたアドバイスなどは彼らの支えとなるでしょう。しかし、お気づきになっているはずです……本来、ワイルド能力は数々のペルソナを使役する能力。オルフェウスしか使えない貴方様ではその真の力は発揮できず、さらに言えばオルフェウスの力だけではここから先、いえ、この戦いを切り抜けることすら難しいでしょう……分かっているはずです」

 

エリザベスはそう言うと命の目を真っ直ぐに見る。

 

「あなたは封印の楔となるためユニバースを使役し、奇跡を起こした。ですが、その代償は安いものではありません。現在封印の楔は望月様が代行なさっておりますが、ユニバースの代償により貴方はペルソナ能力を失うまではなくともその大部分が消えてしまっている……言ってしまえばあなたがかつて持っていたペルソナを操る力は既にほぼ失われているも同義です」

 

「……」

 

エリザベスの言葉に命は彼女から視線を外して頭をかき、ため息をついた。

 

「……分かってるよ」

 

そしてそう呟き、次ににこっと微笑んで見せた。

 

「でも、だからと言って諦めるわけにもいかないからね。エリザベス、早く僕を解放して……いざとなったらオルフェウスしか使えなくとも……」

 

命はそう言いながら真剣な目で召喚器を構える。とエリザベスはふっと微笑んだ。

 

「戦いなどしなくても、貴方様を元の場に送り届けるつもりにございます」

 

「……え?」

 

エリザベスの言葉に命は驚いたように声を漏らす、とエリザベスはイタズラっぽく笑った。

 

「もちろん、愛しい貴方様と共にここで永遠に二人きりというのも捨てがたいのですが。そのような事をして貴方様に嫌われたくもありませんから」

 

「そりゃどーも」

 

「ですが、このまま返してまたすぐに死にかけられても困ります」

 

エリザベスの言葉に命はおどけたように笑って返すが、彼女は続けてさらっとそう言い、それと同時に彼女の両手に巨大な本が現れる。それを見た命が目を見開いた。

 

「ペルソナ全書!?」

 

「貴方様は当時使役していたペルソナの力こそほとんど失っております。ですが、このペルソナ全書に保存されている貴方様のペルソナの力さえあれば、多数のペルソナを使役することは可能です。今回はサービスということで一体、無料でお引き渡しいたしましょう」

 

「分かった。なら――」

 

エリザベスはそう言って手袋をしているものの細く美しい人差し指を立ててそう言い、それを聞いた命は自身の持つ最強のペルソナを呼び出そうと試みる。しかしその前にエリザベスが先ほど立てた指が命の口に触れ、つい命は口をつぐんでしまう。

 

「人のお話は最後まで聞きなさい。と教わりませんでしたでしょうか?」

 

エリザベスは悪いことをした子供をたしなめるお姉さんのような口調と柔らかい表情を見せながらそう言い、それについ命は僅かに赤くなってしまう。そしてエリザベスは指を命から離すとペルソナ全書にその指を触れさせる。

 

「先ほどから再三申し上げているように、今の貴方様のペルソナ能力は相当弱まっております。今の貴方様ではあの戦いの時に使役していたペルソナを扱うことなど不可能でしょう」

 

「……つまり、相当のレベルダウンってわけですか?」

 

「噛み砕いて言えばそうなります」

 

エリザベスの言葉を聞いた命ははぁとため息をついてそう言い、それにエリザベスも頷いてペルソナ全書を彼に渡す。

 

「では、ペルソナをお選びください」

 

「……」

 

命はエリザベスからペルソナ全書を受け取り、ページを開く。そして最初にニュクスとの決戦の時に使役したペルソナ達のページを見るがそれらは全てペルソナの姿がシルエットでしか見えず、今の彼では扱えないことを示している。そしてペルソナの姿が見えるページを探していくと嘆息した。

 

「ほんと、結構ランクが下がりますね……まあ、オルフェウスしか使えない状況からいったら大きな進歩になるか」

 

しかし命はふっと笑みを見せると一つのページのペルソナを指差す。

 

「では、こいつでお願いします」

 

「はい」

 

命の言葉にエリザベスは頷き、全書に手をかざす。そして全書から柔らかい光が発された後それが粒子となって命を包み込み、彼は自身の中の新たな存在に笑みを見せる。

 

「ありがとう、エリザベス」

 

「いえ。ですが、これ以降は有料となりますのでお気をつけを……もしここに来たければ、眠る際に私のことを思い出してください」

 

「はいはい」

 

命の言葉にエリザベスはふっと微笑みながらそう言い、それに命が頷くと共に彼の視界を闇が覆っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩っ! 先輩っ!!」

 

「くそ、こいつら! 邪魔だっ!!」

 

真が声を上げ、陽介が突っ込もうとするがナイスガイとタフガイが壁となり、敵ながら凄まじいコンビネーションで真達四人を押し返す。

 

[さぁーこれでトドメだよっ!!!]

 

響き渡る完二のシャドウの声、完二のシャドウは先ほどと同じく、雄のシンボルを高く掲げていた。

 

「止めろおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

響く真の絶叫、しかし完二のシャドウはその悲鳴をむしろ心地よさそうに聞きながら雄のシンボルを振り下ろし、電撃が再び床を裂いて倒れている命と完二に向かっていく。

 

「……!?」

 

次の瞬間、彼らは目を見開く。さっきまで意識を失ったかのように倒れていた命が突然ゆらりと立ち上がったのだ。そして彼は完二のシャドウと目の前から迫りくる電撃を眺め始めた。

 

[もう遅いよぉっ!!!]

 

しかし完二のシャドウは勝利を確信したように叫び、命は静かに右腕を左肩の方に持っていく。

 

『!?』

 

直後、命が腕を振ると同時に電撃が霧散した。

 

[バ、バ、バ、バババ、バカなっ!!??]

 

完二のシャドウはまさかと狼狽えはじめ、命は右腕を下ろすと右手で静かに召喚器を握り、自分のこめかみへと持っていく。ガァンッという銃声と同時に響き渡るガラスが割れるような音、そして彼の背後にペルソナが具現する。

 

「な……」

 

「な、なん……」

 

「う、嘘……」

 

「なんなの……あれ……」

 

真が、陽介が、千枝が、雪子が絶句する。命が召喚したのは彼が今まで操っていたペルソナ――オルフェウスではない。その姿はオルフェウスのような人形然とした姿ではなく人間そのもの。真っ白い服に身を包み古代人のような髪型、手には一本の剣を握っていた。命はその存在が具現すると同時、その名を呼ぶ。

 

「吼えろ……タケミカズチ!!!」

 

その名は雷神――タケミカズチ。彼の呼び声に答えるかのようにタケミカズチも右手の剣を振り上げて雄々しい声を上げ、剣をぶぅんと一振りする。

 

[し、死にぞこないがああぁぁぁっ!!!]

 

完二のシャドウはそんな声を上げて雄のシンボルを振り上げ、まるで鈍器のように振り下ろす。命はそれを見てくっくっと笑うと無造作に右手を掲げ、それに合わせるようにタケミカズチも右手を掲げ、その右手に持つ剣で完二のシャドウが右腕に握るシンボルを受け止める。

 

「遅い」

 

命が右腕を振るい、タケミカズチも同じ動作でシンボルを弾き返す。そして命が手首を返して再び自分の顔の前に防ぐように持っていき、タケミカズチも同じように動いて今度は左手で振り下ろしてきたもう一本のシンボルを受け止める。そしてまた押し返して直後向かってくる右手のシンボルをまた防いで押し返して今度は左手のシンボルを受け止めて押し返す……命がやっていることは簡単に言えばその繰り返し。しかし二本のシンボルを鈍器のようにさまざまな角度から休みなく乱打してくる攻撃を全て確実に、完璧にタケミカズチを操りその剣一本で捌ききっていた。

 

「せ……先輩! 先輩!! 先輩!!!」

 

真は泣きそうな嬉しそうな声を上げ、それを聞いた命はやれやれと首を振ると振り向いて呆れたような目を見せた。しかしその間も迫りくる完二のシャドウの攻撃は全て彼とシンクロしているタケミカズチが防いでいる。

 

「ほらどうしたの? 今日のために全力を尽くしたんでしょ? だったらそんな雑魚二体、余裕で倒してくれないと……これから先ずーっと、僕の足手まといだよ?」

 

挑発するような悪戯っぽい笑顔での言葉。それを聞いた真は少しぽかんとした後たしかにと頷いた。

 

「花村! 里中! 一度体勢を立て直す! こいつらぶっとばして距離取らせろ!!」

 

「「おうっ!!!」」

 

[[な、なんっ!? ひゃーっ!?]]

 

真の指示を聞いた陽介と千枝がジライヤとトモエの力で、ジライヤの疾風とトモエの蹴りでナイスガイとタフガイを吹っ飛ばす。そして真はふぅーっと息を吐くと刀を構え直した。

 

「仕切り直しだ! いくぞ!!」

 

「「「おうっ!!!」」」

 

真の叫びに陽介、千枝、雪子も声を上げて返した。

 

「天城! 里中! マハラギとマハブフ!」

 

「分かった! コノハナサクヤ、マハラギ!」

「オッケー! トモエ、マハブフ!」

 

真の指示を聞いた女子二人は冷静にペルソナに指示をし、直後炎と氷がタフガイとナイスガイに放たれる。と右にいたタフガイはアギの炎に怯み、左にいたナイスガイはブフの氷に怯んだ。

 

「右の方は俺と天城で潰す!」

 

「おう! 左は俺と里中に任せろ!」

 

真の言葉を聞き、以心伝心といわんばかりに陽介はそう言ってナイスガイに突っ込み、千枝もその後に続くと真は陽介達の方に向かおうとしたタフガイの前に立ち塞がり、右手に握った刀をタフガイに突きつけその刀の鋭さに負けない眼光で睨みつけた。

 

「ここは通さん」

 

[いや~ん、かっこいい~]

 

真の言葉を聞いたタフガイがそう叫んで真を抱きしめるように両手を広げて突っ込もうとする、がその真の左手には一枚のカードが握りしめられていた。

 

「ラクシャーサ!!!」

 

カードを砕き、現れる鬼神。と同時に鬼神が振り下ろした二本の剣をタフガイは両手で受け止め握りしめた。

 

[うふふふ、この程度でアタシを倒せると――]

「思っちゃいないよ……今だ、天城!」

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

[――え? ひゃああぁぁぁっ!!!]

 

タフガイは不敵な笑みを浮かべてそう言おうとするがそれを遮って真が叫び、雪子が指示を出すと同時にコノハナサクヤの放つ炎がタフガイを襲い吹っ飛ばす。しかしその炎は僅かにラクシャーサの背中も焦がした。

 

「あっちっ!」

 

「だ、大丈夫!? 椎宮君!?」

 

突如背中に走る焼けるような痛み、それに真が思わず声を出し雪子も心配そうな声を出す。

 

「心配いらない! ラクシャーサ、チャージ!!」

 

雪子の心配そうな声に対し突き放すようにそう言ってラクシャーサに指示を出し、ラクシャーサは身体に力を込める。

 

[グ……オオオォォォォッ!!!]

 

と、タフガイもそう男らしい雄叫びを上げて右手に光を灯らせる。それを見た真も真正面から受けて立つとばかりに睨み、ラクシャーサも頷くと二刀に光を纏わせる。そして二人が同時に飛び出した。

 

[ソニックパンチ!!!]

「キルラッシュ!!!」

 

タフガイの筋骨隆々な右腕をそのまま使ったとばかりの真っ直ぐな鉄拳。それをラクシャーサは二刀をクロスさせての斬り上げで打ち上げ、続けて連続斬りでタフガイを切り刻む。

 

[ぬぅっ!!]

 

しかし負けてなるものかとタフガイは左腕のフックをラクシャーサの脇腹に当てようとする。しかしそれをいつの間にか突っ込んできていた真が刀を使って受け止めていた。その瞬間真の身体が発光し、タフガイのフックがそのまま衝撃を跳ね返されたように弾かれる。

 

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

 

「こいつで終わりだ!!!」

 

さらに雪子の指示と共に放たれた炎弾がタフガイを貫き、トドメとばかりに真が刀を大上段に構えて勢いよく振り下ろし、タフガイを真っ二つに斬り裂いた。

 

[オ、オオオォォォォッ……]

 

タフガイは半身になりながらも左腕を既に自分に背中を向けている真の方に伸ばしていく。しかし真が刀を背中の鞘にしまうパチンという音と共にタフガイの身体は霧散し消えていった。

 

 

 

 

「ジライヤ、ソニックパンチ!」

 

陽介の言葉と共にジライヤの両手の手裏剣に光が灯り、二本の手裏剣は猛スピードで放たれナイスガイの身体を傷つける。

 

[ふんっ!]

 

しかしナイスガイがポージングを取ると共にナイスガイの身体が光に包まれ、その傷は一瞬で塞がった。

 

「あーもうっ! さっきからしつっこいっ!」

 

攻撃してもその分回復される。それに千枝は地団駄を踏み、トモエを見上げる。

 

「こうなったら回復以上のダメージを与えるまでよ! トモエ、あたしにタルカジャ!」

 

[ふんっ!]

 

千枝の言葉を聞いたトモエは力を与えるような舞いを踊り、千枝に力を与える。とそれを見たナイスガイも受けて立つとばかりのポージングを取り、力を込めた。

 

「花村、援護して!」

 

「おう! ジライヤ、里中にスクカジャ!」

 

千枝の指示に陽介も頷いてジライヤに指示を出し、ジライヤが印を組むと身軽になった千枝はナイスガイに突進する。

 

「ジライヤ、ガル!」

 

「とりゃあっ!!」

 

花村の指示と共に放たれる疾風がナイスガイの動きを僅かに止め、そこに千枝が渾身のドロップキックを叩き込む。がナイスガイはそれに耐えきると両拳に光を灯らせる。

 

「やばっ……」

 

それを見た千枝はすぐに逃げようとするが間に合わず、少しでも防ごうと両手を前に出す。

 

「マカジャマ!」

 

そこに響く陽介の声、それと共にナイスガイを緑色の光が包みそう思うとナイスガイの両拳から光が消えた。

 

「考えてみりゃ簡単なこった! 相手が色んなスキルを使うってんならそのスキルを封じちまえばいいだろうが! いけ、里中!!」

 

「オッケー!!」

 

陽介の言葉に千枝は力強く頷き、トモエを見上げる。とトモエはナイスガイに突進しながらその薙刀に光を纏わせた。

 

「いっけー!! アサルトダイブ!!!」

 

千枝の叫びと同時にトモエの薙刀から放たれる一撃。それがナイスガイを一撃で霧散させた。

 

 

「花村、大丈夫か!?」

「千枝っ!」

 

「あたしは大丈夫っ!」

「さあ、急いで命さんの援護に向かおうぜ!」

 

そこに彼らと同時にタフガイを倒した真と雪子が合流し、千枝はにししっと元気に笑ってサムズアップを見せると陽介もそう言い、真もああと頷くと現在完二のシャドウと一対一を行っている命の方に走り出した。

 

[くっ、このっ!]

 

「ほらほらどうしたの? 太刀筋が乱れてきたよ?」

 

四方八方から鈍器代わりのシンボルを叩き付ける完二のシャドウに対し己のペルソナタケミカズチを操りシンボルを弾き返す命。一見すれば命の防戦一方、しかしシンボルを叩き付ける完二のシャドウは苛立っている心情を表すように軌道が無茶苦茶で対する命は余裕の笑みさえ浮かべている。もはや防戦一方の状況すら何かの演技にしか見えなかった。

 

[この、キルラッシュ!!!]

 

シンボルに光を纏わせ、一気に連撃を叩き込もうと振り上げる。それを見上げながら命はふっと笑みを見せた。

 

「遅いってば……タケミカズチ、月影!!!」

 

[ぎゃぁっ!!!]

 

命の言葉と同時に放たれるのはまるで満月を思わせる軌道で斬るタケミカズチの剣。それが完二のシャドウを捉え完二のシャドウはしりもちをつくよう倒れこむ。

 

「先輩!」

 

「やぁ、やっと来たね。遅かったじゃない」

 

「うっそー……巽完二のシャドウをたった一人で圧倒しちまってる……」

 

そこにやってきた真の言葉に命はあっさりと返し、次に今の状況を見た陽介の言葉を聞くと飄々とした笑みを見せた。

 

「いやいやーけっこーぎりぎりだったよー」

 

「よく言いますよ、んな余裕な笑みをして……」

 

「じゃ、そういうわけで僕は一旦完二君を連れて少し後ろに下がっとくから。あとよろしく~」

 

「え、えっ!?」

 

命はあっさりそう言うと完二をおぶって後ろに下がっていき、千枝が慌てたように命と完二のシャドウを交互に見る。

 

[くっ……もうこうはいかないよっ!]

 

「先輩に頼ってばかりなんてわけにはいかない! いくぞ!!」

 

「「「おうっ!!!」」」

 

起き上り、シンボルを担ぎ直した完二のシャドウに対し真は刀を抜きながら叫び、陽介達三人もそれぞれの武器を構えながら声を上げた。

 

「来い、イザナギ! ジオ!!」

 

右手でカードを握り潰し、呼び出す人格の鎧(ペルソナ)は彼の相棒とも言える存在イザナギ。その咆哮と共に雷が完二のシャドウに降り注ぐ。

 

[あぁ~っんっ!]

 

しかしそれを受けた完二のシャドウはむしろ悦ぶような歓声を上げ、それを見たクマがげっと声を出す。

 

「電撃吸収クマ! 電撃攻撃しても悦ばせるだけクマよ!?」

 

 

「なに!? くそ、すまん!」

 

「気にすんなって! いくぜジライヤ! ガル!!」

 

「コノハナサクヤ、アギラオ!」

 

「トモエ! アサルトダイブ!!」

 

クマの判断を聞いた真はすまなそうに声を漏らし、それに陽介が気にするなよと返して自身のペルソナに攻撃を指示、雪子と千枝も続くと真もああと頷いた。

 

「イザナギ、スラッシュ!!」

 

剣に光を纏い、その剣を振り下ろすイザナギ。しかし完二のシャドウはそれを右手のシンボルで受け止めた。

 

[ふん、さっきの男に比べればこんなもの……]

 

「チェンジ!」

 

[えっ!?]

 

完二のシャドウはイザナギを押し返そうとするがその前に真の声が響き、イザナギの姿が消える。そして真の手に新たなカードが握られた。

 

「ティターニア! ガルーラ!!」

 

[ぐうぅぅっ!?]

 

「よっしゃここだ! ソニックパンチ!!」

「くらえーっ!!」

 

現れたのは妖精の女王(ティターニア)、彼女が手をかざすと疾風が竜巻となって完二のシャドウを襲い、その隙を突いた陽介がジライヤに指示を出して高速の手裏剣を放ち、千枝がトモエと共に突進し飛び蹴りを二重に叩き込む。

 

[ぐ、このっ! 狂信の雷!!]

 

「「「「ああああぁぁぁぁっ!!!」」」」

 

しかし完二のシャドウはそれらに耐えながら彼らに電撃を見舞う。しかし雪子はすぐに立ち上がり、自分の前に現れたカードを砕いた。

 

「コノハナサクヤ、メディア!!」

 

カードを砕きながら指示を出し、コノハナサクヤが空中で舞うと真達に癒しの光が降り注ぎ、その傷を癒す。それから次に立ち上がったのは千枝だ。

 

「トモエ、ブフ!」

 

[くっ、冷たっ!?]

 

その言葉と共にトモエが石突を相手に向けた薙刀から放たれるのは氷の弾丸、それに完二のシャドウが怯んでいる隙に真は電撃を受けてダウンしている陽介の方に走る。

 

「ニギミタマ、リパトラ!」

 

呼び出されるのは四魂の一つ和魂(ニギミタマ)。その発された光が陽介を包み、真はその光が消えてから陽介に手を出す。

 

「立てるか?」

 

「あ、ああ。悪い」

 

真の差し出してきた手を陽介はすまなそうに取って立ち上がる。

 

「お待たせ。完二君を避難させてきたよ」

 

「先輩」

 

そこに命が合流し、真は彼に声をかけ命はへらへらと笑って後ろを指す。

 

「いやーあのぬるぬるを拭き取るのに苦労したよ~」

 

「「……ほんとだ」」

 

命の言葉に男子二人はそう漏らす。後ろのローション地獄を命はどういう魔法を使ったのか綺麗に掃除し、その真ん中に完二を寝かせていた。

 

「さて、そろそろトドメといこうかな。真君、手を貸して!」

 

「はい! 花村、あいつの動きを止めてくれ」

 

「おう!」

 

命の言葉に真は頷いた後陽介に指示を出し、陽介も頷くと完二のシャドウの方に走っていく。そして命もニヤリと笑って完二のシャドウを睨んだ。

 

「さあ、真君。あいつに向かって一撃雷を叩き込むよ!」

 

「え!? いや、あいつは雷を吸収する能力があるみたいで……」

 

「心配いらないよ! 僕を信じてどでかい一発よろしく!」

 

「は……はい! 来い、イザナギ!」

 

命は見る者全てに安心感を与えるような微笑みを見せており、真も頷くとイザナギを呼び出す。

 

「来い、ジライヤ! くらいやがれ、ガルーラ!!」

「トモエ、ブフ!」

「コノハナサクヤ! アギラオ!!」

 

[ぐううぅぅぅっ!?]

 

そこに陽介、千枝、雪子の魔術三連コンボが決まり、完二のシャドウが怯んで動きが止まる。真はそれを見て三本の赤い剣が描かれているカードを構えた。

 

「スキルカード、発動!」

 

真が叫ぶと同時にカードに書かれている剣が光を放ち始め、その光がイザナギを覆っていく。それと同時に命も召喚器を指で回転させながら頭に近づけ、こめかみに銃口を突き付ける。

 

「来い、我が心の海より生み出されし雷の神! タケミカズチ!!」

 

銃声とガラスが割れるような音が重なり、彼の心の内より雷神(タケミカズチ)が降臨、タケミカズチは完二のシャドウを威圧感溢れる目で睨み付けた。

 

[喝ッ!!!]

 

[ひっ!?]

 

タケミカズチの口から放たれた一喝、それに完二のシャドウが怯んだ瞬間真と命は完二のシャドウを睨み付け、その口から声を轟かせる。

 

「「ジオンガ!!!」」

 

二人の言葉が轟き、雷鳴が轟き完二のシャドウに二つの雷が降り注ぐ。と完二のシャドウはニヤァと笑ってそれを歓迎するように両腕を広げた。

 

[忘れたのかい!? 僕に電撃は……え?]

 

完二のシャドウはそこまで言って気づく。電撃を吸収する快感が感じられない、いや、むしろ……

 

[ギャアアアアアァァァァァァッ!!??]

 

その身体を走るのは痛みと痺れ、予想してなかったダメージに完二のシャドウは悲鳴を上げ、悲鳴を聞いた命はふっと笑う。

 

「電撃ガードキル。僅かな時間、相手の雷に対する耐性全てを無効化する。さっきの一喝がそれだったんだよ。ついでに僕の電撃はブースト付きで威力割高。ま、遠慮しないでよ」

 

命が静かに呟き、完二のシャドウはふらりとふらつく。

 

「イザナギ、スラッシュ!!!」

 

そこに間髪入れずに真が叫び、イザナギは光を纏った刀を構えて一気に完二のシャドウに突進、横一文字に斬り裂いた。

 

[イ、イクウウウゥゥゥゥッ!!!]

 

斬撃を受けた完二のシャドウは歓声のような悲鳴のような叫び声を上げて倒れ、その巨人の身体がどんどん黒ずみ消滅していく。

 

「終わった……」

 

真はふぅと息を吐き、イザナギが消滅。と陽介達が足早に走り寄ってきた。

 

「み、命さん! 身体大丈夫なんですか!?」

「っていうかさっきのペルソナなんなんですか!? オルフェウスじゃないし!」

「も、もしかして命さんも椎宮君と同じ、ペルソナがいくつも使えるんですか!?」

「そ、そういえばそうだった! 先輩、一体どういう!?」

 

陽介、千枝、雪子と続いた質問に真も思い出したように問いかけ、命は苦笑する。

 

「えーっと、言ってなかったっけ? 真君には言った覚えあるんだけど僕も真君と同じワイルド能力……皆! 後ろ向いて!!」

 

「「「「!?」」」」

 

命は苦笑を漏らしながら説明しようとするがふと彼らの後ろを見ると目を見開き、真剣な目つきになって叫ぶ。それに真達も振り向くと、完二のシャドウが巨人の身体が消滅したにも関わらず立ち上がったのだ。

 

[情熱的なアプローチだなぁ……三人とも……素敵なカレになってくれそうだ……]

 

「……は?……! や、やめろってー! そんなんじゃねー!!」

 

完二のシャドウの言葉に陽介は呆けた声で一瞬呆けると気づいたように叫ぶ。

 

[誰でもいい……ボクを受け入れて……ボクを受け入れてよぉぉぉっ!]

 

「わああぁぁっ! ちょっ、無理矢理はやめてー!?」

 

そう叫びながら突進してくる完二のシャドウ、それに陽介は後ずさりながら叫ぶが直後、彼の横を別の影がすり抜けた。

 

「やめろっつってんだろぉっ!」

 

そんな怒声と共に響くのは鈍い打撃音。目の前にはさっき殴られたのだろう完二のシャドウが仰向けに倒れ、さっき殴ったのだろう完二のシャドウと全く同じ外見の少年が立っている光景があった。

 

「完二……君?……」

 

「たく、情けねぇぜ……こんなんが、俺ン中に居るかと思うとよ……」

 

「……完二、お前……」

 

雪子の呟きの後少年――巽完二が目の前の少年――彼のシャドウに向けてそう言い、その言葉を聞いた陽介が声を漏らす。と完二はふんと鼻を鳴らした。

 

「知ってんだよ……テメェみてぇのが、俺ん中に居ることくらいな! 男だ女だってんじゃねぇ……拒絶されんのが怖くて、ビビッてよ……自分から嫌われようとしているチキン野郎だ!」

 

完二は真達の前で宣言。そして自身のシャドウを睨み付けた。

 

「……オラ、立てよ。俺と同じツラ下げてんだ……ちっとボコられたくらいで沈むほど、ヤワじゃねぇだろ?」

 

その言葉を聞いた完二のシャドウはゆっくりと立ち上がり、その金色の目で完二を見る。それに完二は臆することなく、真っ直ぐにその瞳を見返した。

 

「テメェが俺だなんてこたぁ、とっくに知ってんだよ……テメェは俺で、俺はテメェだよ……クソッタレが!」

 

相手を脅かすような低い口調で悪態のように叫ぶ。しかしそれを聞いたもう一人の完二が柔らかく笑って頷くとその姿が光に包まれる。直後、完二の目の前にシャドウとは少し違う異形――ペルソナが姿を現した。黒い身体に骸骨が描かれている巨人。その左手には得物なのだろうか雷を模したシンボルが握られている。それを完二は黙って見上げていた。

 

「……タケミカズチ」

 

彼がそう呼ぶと同時、タケミカズチはタロットカードとなって完二の前にゆっくりと降下。そのカードにはローマ数字の[Ⅳ]、皇帝を意味する数字が書かれていた。そのカードは完二の目の前まで落ちると光の粒子となって彼を包み込んだ。その光が消えた瞬間、完二は膝を突く。

 

「う……くそ……」

 

そしてそのままばたりと倒れ伏せ、真達が慌てて彼に走り寄る。

 

「完二君!」

 

「く……」

 

「外に運ぼう!」

 

千枝の声に完二は唸り声でしか返すことが出来ず、命はそう叫んでカエレールを取り出すと頭上に掲げ、「転移!」と叫ぶ。それと共に彼らは光に包まれ、この場から消えていった。




あー疲れた……さてさてお久しぶりです。そして今回から命のワイルド能力が解放されます。今まではあくまでベルベットルームに行けなかったり可能性の芽が見えなかったせいで別のペルソナが手に入らず、実質的にオルフェウスしかペルソナが手に入らなかっただけでワイルド能力そのものが消えたわけではありませんからね。
さてさてここからどうするやら? ま、それでは。あ、感想はいつも心待ちにしておりますゆえ~♪

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