四月二十一日。今日の授業も全て終了して放課後、真は荷物を纏めるとふと運動部が部員を募集し始めたということを少し前の登校中小耳に挟んだのを思い出す。
「えーっと……」
真は運動部に話を聞こうかと思い立ったが既に全員部活に行ったり帰ったりしており、千枝も既に雪子のお見舞いに行ってしまっている。
「ああ、花村!」
「ん? どした?」
真は陽介に話しかけ、陽介も鞄を肩に担ぎながら教室を出て行こうとしたところを呼び止められ振り返り、真も陽介の近くに走り寄る。
「悪い、運動部の募集が始まったって聞いたんだが。何か知らないか?」
「運動部? あぁわり。俺帰宅部だからさ……ほら、ジュネスでバイトという名の手伝いさせられてるし」
「あぁ、なるほど」
真の問いに陽介はすまなそうに謝った後苦笑しながら続け、真が納得したように数度頷くと陽介は虚空を見上げて考える様子を見せた。
「そうだ。職員室に行ってみりゃなんか分かると思うぜ?」
「そうだな、行ってみる。ありがとよ」
「いいってことよ。んじゃな」
陽介の言葉に真は頷いてお礼を言い、陽介もにししと笑って手を振ると去っていく。それを見送ってから真は一旦席に戻って鞄を持つと彼も教室を出て行き、転校初日に行った職員室に向かっていった。
「失礼します」
「む? なんだ貴様か」
職員室のドアをノックし、きちんと挨拶をしてから部屋に入ると諸岡が声を漏らす。
「諸岡教諭、申し訳ありませんが部活について聞きたいことがあるんですが」
「あぁん? 部活に入りたいだと?」
真の言葉に諸岡はそう漏らして立ち上がり、真の前に立つ。
「貴様の魂胆は分かっている! どうせ出会い目的だろ! 違うか!」
「違います」
「いいか、部活というのはなぁ……」
諸岡の言葉に真は瞬時に返すが諸岡は聞く耳持たず説教を始め、真は心の中でやれやれとため息をつく。
「……で、部活がなんだって?」
「運動部が募集を始めたと聞いたので、それについて」
「ふん、運動部だと! 貴様、青春の汗を流す気だな!」
一通り説教が終わった後諸岡はちゃんと問いかけ、それに真が切り出すと諸岡は鼻を鳴らしてそう言った。
「……貴様、運動部の経験は?」
「前の学校では剣道を」
「ふむ……貴様が入れそうな運動部はサッカー部かバスケ部だな。この学校に剣道部はない!」
諸岡は真の部活経験を尋ね、真が正眼の構えを取りながら答えると諸岡は少し考える様子を見せてから答える。
「サッカー部もバスケ部も職員室出て左! 非常口から行け! ちなみに活動日は火・木・土だ! 雨の日は休め! 分かったな!……で、他にはまだあるのか!?」
諸岡は高圧的な口調ながらしっかり活動場所と活動日まで教えており、最後に高圧的な声でまた尋ねる。それを聞いた真は「もういいです」と答えようとするが、直前で思い出したように出そうとする言葉を変える。
「文化部はどうですか?」
「フン、残念だな! 文化部の募集は四月二十五日からだ! 女子との出会いなどそうやすやすと手に入らんということだな!」
「そうですか。では掛け持ちについては?」
「掛け持ちぃ? 貴様、青春を満喫する気だな! 運動部同士や、文化部同士の掛け持ちは許さん! 運動部と文化部の掛け持ちなら許可する! 分かったな!」
真は文化部の募集および掛け持ちについても情報収集をしておき、それを終えると彼は丁寧に頭を下げる。
「分かりました。ありがとうございます」
「うむ、分かったならさっさと帰れ!」
「はい。文化部募集が始まったらまた尋ねに来るかもしれませんが、その時もご教授お願いします。では失礼します」
真はすらすらと言葉を並べて挨拶し、礼儀正しく職員室から出て行くと左を向く。
「えっと職員室出て左、非常口っと」
真はさっきの諸岡からの説明を思い出しながら一年組の廊下を、上級生が珍しいのか視線を受けながら歩いていく。そして廊下の端にある非常口まで辿り着いた時彼はふと先日のイゴールの言葉を思い出した。
(他者と関わり、絆を育み、貴方だけのコミュニティを築かれるがよろしい。コミュニティの力こそが、ペルソナ能力を伸ばしてゆくのです……だったかな)
真はそこまで考えると非常口から踏み出す。
(まあ、まずは見学してみるか)
「よう! そこにいるのは椎宮真じゃないか!」
「っと!?」
踏み出そうとした瞬間後ろから声をかけられ、びっくりしてちょっとふらつきながら振り向く。そこには体育および教員が足りないことから英語も担当している体育教師近藤の姿があった。
「こ、近藤教諭……びっくりした」
「はっはっはソーリーソーリー。どうした? 運動部に入部しようと考えてるのか?」
「あ、はい。さきほど諸岡教諭に相談したところバスケ部かサッカー部なら入部できると聞いて、ちょっと見学を」
驚いたように目を丸くしている真に対し近藤ははっはっはと笑いながら軽く返し、にっと微笑みながら尋ねると真はそう返す。それに近藤は腕組みをしてうんうんと頷いた。
「そうかそうか! いや、実はバスケ部アンドサッカー部は俺が顧問をしてるんだ。よし、しっかり見学しろ! なんなら掛け持ちでも構わんぞ!」
「いえ、運動部同士の掛け持ちは校則違反のようなので。それ以前に身体が持ちません」
近藤は見学歓迎の様子を見せた後掛け持ちでもいいぞと言い出したがさっき諸岡に運動部同士の掛け持ちは許さんと言われたことから面倒ごとになっても嫌なので断りを入れておく。それから二人は非常口から出て行き、近藤はそこから体育館へと向かう。
「よし。まずはバスケ部だ。ところで椎宮、バスケの経験は?」
「全く、前の学校の授業でやった程度ですね。サッカーも似たようなもんです。俺元剣道部なので」
「そうか……まあ、気にしなくてもいいぞ。初心者だろうが大歓迎だ!」
真の言葉に近藤は経験者でないことに僅かなり残念そうな声を漏らすがすぐ明るくそう言った。
それから真はバスケ部の練習を見学し始める。
「ナイッシュー!」
バスケの上手下手の区別は真にはよく分からないが、元気に声を出しているのは中性的に整った面立ちを持つ、やや小柄めという体格の男子だ。
(この前見た奴?……)
「そろそろ基礎練、行きましょーよー」
その男子に見覚えを感じ、真は首を傾げる。男子は基礎練習をやろうと言っているが全員聞く耳持たずシュート練習をやっていた。
「よし、次サッカー部行くぞ!」
「あ、はい」
それから近藤に連れられて今度はグラウンドに向かい、サッカー部の見学を始める。
「ナイパスー!」
こっちでもやはり上手下手の区別はよく分からないが、精悍な印象の面立ちを持ち鼻に絆創膏を貼っている男子が目立つ印象だ。
(あ、たしか前に走ってた奴)
「次、ダッシュ行くぞー!」
真は昨日ジャージを着て走っていた男子だったかと考える。まあそんなこんなで見学も終了し、真と近藤は非常口前まで戻ってきた。
「まあ、うちの活動はこんなもんだな。どうだ? 入るか?……ああ、今すぐ決めなくてもいい。うちに帰ってゆっくり考えてくれてもいいぞ。あ、これ入部届けだ」
近藤は運動部紹介を終えてそう言い、入部届けを手渡しておく。それに対し真は少し考えると鞄を探り、筆箱からボールペンを取り出すとさらさらと必要事項に記入を行い、近藤に入部届けを返す。
「はい、お願いします」
「も、もう決めたのか!?」
真の即断即決に近藤は驚いたように声を上げ、入部届けを見る。それにはバスケ部の文字が書かれていた。
「バスケにしたのか」
「はい。こっちの方が面白そうな気がしたので」
「そうかそうか。よし、すぐ体育館に戻って皆に紹介だ!」
近藤の言葉に真はふっと微笑んで返し、近藤は嬉しそうに微笑むと真を引っ張って再度体育館に向かった。
「……というわけで、今日からお前らの仲間だ! 椎宮真、知ってるよな? 都会からの転校生だが、バスケは初心者だそうだ。だがこれで我がバスケ部も安泰だな! なんなら部長にするか? ん?」
爽やかに笑いながらそういう近藤、部長にする~という言葉はまあ冗談だろうと真は考えて笑みを漏らすのみだった。
「あ、いっすねー。決めたりすんの、面倒だし」
しかし部員の一人からそんな声が出、さっき真の印象に残った男子が呆れたような顔を見せる。
「ほら、お前も挨拶せい」
「椎宮真です。バスケは初心者ですが、足手まといにならないよう頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
「あはは、まー適当でいいよ適当で」
その言葉から察するに、どうやらあまり熱心な活動はしてないらしい。真はついそう考えてしまった。
「そういうわけで、後よろしくな。先生はサッカー部、行ってくるから。椎宮、お前は今日は見学しておけ。じゃ、適当に解散」
近藤がそう言って体育館を出て行き、部員らは練習もそこそこに帰っていった。
「おつかれー」
するとさっきから印象に残っている男子が声をかけてくる。
「どう? 一日目の感想は?」
「あぁ……えっと」
「あ、俺、一条康。同じ二年だよ。よろしくな」
「ああ、椎宮真だ。改めてよろしく頼む」
男子――一条に対し真も改めて名を名乗る。と彼はにししっと微笑んだ。
「仲間できてさ、嬉しーよ。俺」
「いちじょー、そっちまだ終わんねーの?」
一条がそう言っていると、突然もう一人男子が体育館に入ってくる。サッカー部で印象に残っていた男子だ。彼は真の方を見ると少し首を傾げる。
「新入部員? あぁ、つかさっき見学してた奴か」
「ああ、サッカー部の方に入らなくてすまない」
「別にいい」
男子の言葉に真はすまなそうに返すが彼はただそう返すだけだった。特に気にしている様子はない。
「長瀬大輔だ。よろしく。サッカー部二年。一条とは……腐れ縁だな」
「腐りすぎ。もういいっつのな」
男子――長瀬の自己紹介に一条も笑って返し、真もつられて笑みを見せる。それから長瀬は自分達以外人気のない体育館を見回した。
「例によって、他の奴らは帰ったのか?」
「まーね。今日もさ、リバウンド練習やろーつったら、“疲れるから”却下だよ。で、シュート練習ばっかでさ……」
「ああ、さっき見学してた時はたまたまシュート練習の時間かと思ってたが、違うのか?」
「ああ。基礎練とかそういうのはほとんどなし……って、入ったばっかの椎宮の前でグチっちゃダメだよな!」
長瀬の言葉に一条が返し、それに真がさっきの練習風景を思い出しながら聞くと一条は困ったように息を吐きながら返した後気づいたように声を上げる。それから彼は真ににっと笑みを見せた。
「幽霊部員も多いけど、楽しいぜ、バスケ。椎宮、バスケ初心者なんだっけ?」
「ああ。だが前の学校では剣道部に入ってたから、体当たりと足捌きなら自信はある」
一条の確認の言葉に真はそう返す、と一条はおかしそうに笑った。
「おっけ、全然おっけ! 俺がガシガシしごいてやるからさ!」
「しごかれて嫌になったらサッカー部に逃げてこい」
「考えとくよ」
一条の言葉に続けて長瀬が冗談交じりに続けると真もふっと笑って返す。真は二人との間にほのかな絆の芽生えを感じた。
我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
絆は即ち、まことを知る一歩なり
汝、“剛毅”のペルソナを生み出せし時
我ら、更なる力の祝福を与えん……
頭の中に響いてくる声。それに真はまた僅かに笑みを浮かべた。
「そだ、活動日は聞いてる?」
「ああ。ここに来る前に諸岡教諭から。火・木・土、だったか?」
「そう。楽な部活だけど、ちゃんとやれば根性つくと思うぜ。あぁ、けど雨の日は部活休みだから注意な? この体育館、他の部に占領されんだよ」
弱小部はツライよなぁ……と一条は漏らし、また思い出したように口を開く。
「あぁ、それと試験前一週間も休みな」
試験休みも導入されており、それを言い終えると今度は長瀬が口を開いた。
「で、またお前がボール磨き?」
「あいつらが合コン行ってる間、ボクはボールを戯れますよ、どうせ。ボール大好き……」
長瀬の言葉に一条はそう言い、少し黙る。
「あー……合コン行きてえ!!」
そしてそう声を荒げた。
「ほら、手伝ってやるから早く帰ろうぜ」
「俺も手伝おう」
「マジで!? お前、超いいやつ……俺泣きそう」
声を荒げる一条に長瀬がそう言うと真も手伝いを申し出、一条は声を漏らす。
「ふむ、空気を読まず帰った方が面白い反応が見れたか?」
「ちょっ!?」
「冗談だ」
「真顔で言うなや!?」
一条の反応に真が真顔で呟くと一条は声をあげ、それに真は肩をすくめてふっと笑いながら返し、一条はツッコミを入れる。それから三人で雑用を行ってから、真は帰路についた。
「くあぁ……」
夜中。八十神高校の倫理教諭をしている諸岡金四郎は欠伸をしながら、家に帰る前に外食でもするつもりなのか商店街を歩いていた。
「む?」
すると彼は喧騒に気づき、足を止めるとその方を見て歩き出しながら口を開く。
「コラァー! 何を騒いどるんだぁー!!」
「げっ、この声モロキンだぞ!?」
「に、逃げろ!!」
怒鳴り声の後暗闇の中から聞こえてきた声とドタドタという足音。それが消えた後、暗闇の中から一人の青年が姿を現した。
「どうも。助かりました、諸岡氏」
「き、貴様は!?」
青年の姿を見た諸岡が驚きの声を上げる。暗闇から出てきたのは命だった。
「貴様、うちの女生徒を連れまわしたと思ったら今度は喧嘩か!?」
「ち、違いますよ! 僕は一切手出ししてません!」
「むぅ……ん?」
諸岡の言葉に命は慌てて首を横に振るが諸岡は疑わしげな声を漏らすのみ。すると彼は命が何かを抱きかかえているのに気づいた。
「なんだそれは? 子犬か?」
「ああ、はい。誰かは知りませんけど、子犬をいじめてたのを見て助けに入ったんです。んで、逃げ回っている間に諸岡氏がやってきたわけです」
諸岡の言葉の後命はそう言い、子犬を下ろす。と子犬は元気に走り出した。
「気をつけろよー」
命は暗闇に消えていく子犬を手を振って見送り、子犬が暗闇に消えると諸岡の方を向いた。
「さて諸岡氏。助けてもらったお礼に食事でもどうでしょうか? 奢りますよ」
「あぁ? いや、わしは……」
「まあまあお気になさらず。えーっとこの時間ならまだ愛屋は開いてるかなっと」
命の提案に諸岡は驚いたように声を漏らすが命はあっさりそう言って諸岡を引っ張っていく。それに困惑した諸岡はされるがままに引っ張られていき、二人は愛屋に座ると適当な席に向かい合って座る。
「焼きそば定食一つ、お願いします。諸岡氏は?」
「あ、む……わしもそれで構わん」
「アイヤー! 焼きそば定食二つ毎度ー!」
命の注文の後諸岡も流されるように注文。それに愛屋の店主はそう返した後焼きそば定食を作り始めた。なんでも注文してからそばを打ち始める本格派なのが売りとのこと、出来るまで時間はかかるだろう。
「……お前は変な奴だな」
「何がです?」
突然口を開く諸岡ときょとんとしている命。その表情はどこか無邪気な子供のようだ。
「以前、色々言っただろう? なのに何もなかったかのように話しかけてくる」
「ああ、里中さんのあれですか? 別に、教師が生徒の心配をして何もおかしいことはありません。むしろあの時はまるで都会人を差別されたようでこちらも少し言い過ぎました。すいません……ですが、噂に聞く諸岡氏が思ったより良い教師で安心しましたよ」
諸岡の言葉に命はどこか嬉しそうに笑いながら言った後すまなそうに謝り、さらにそう続ける。それに諸岡が怪訝な目を見せると命はあぁと声を漏らした。
「僕が高校二年の頃のお話なんですがね。別のクラスの女の子が行方不明になってた時期があるんですよ……あぁ、当時僕は生徒会の庶務をやってました」
「ほう」
命は目を瞑り、高校二年のあの戦いの中であった事件を思い出す。
「で、行方不明ってのを知った時僕達は驚きましたよ。その担任の教師が、その子は病欠、としてたんですから、もちろん教師は彼女が行方不明であることを知っていました」
「なに!?」
その言葉に諸岡が声を上げる。信じられんといわんばかりの目だ。
「それを知った後、僕と生徒会長は担任の先生に談判にいきましたよ。一体どういうことだ、とね。まあ僕は会長の後についていっただけなんですが……いやーあん時は久々に切れた切れた。若気の至りですねあれは」
「……な、何があったんだ?」
命の言葉に諸岡は頬を引きつかせながら声を漏らし、命は「ん?」と言いながら首を傾げた。
「ああ。その教師が『生徒の為にした事』、『皆将来の都合がある。君達子供には分からんだろうがね』と言い出したのでちょっとプチッてきちゃいまして……あはははは」
「焼きそば定食、おまちー」
「あ、どうも」
「あ、ああ……」
命はちょっと言いにくそうな表情で空笑いを漏らしており、諸岡は無言を保つ。するとそこに独特の声質という感じの声をした少女が焼きそば定食二つを置いたお盆を持って命達の席にやってきて焼きそば定食を二人の前に一つずつ置く。
「ごゆっくりどうぞー」
そして彼女はまた独特の声でそう言うと歩き去っていき、命は割り箸を取り、割りながらまた口を開く。
「許せないことですよ。教師というのは未来ある生徒を教え導くものであり、保身のため見捨てるものではない。僕は両親亡くしてから妹と一緒に親戚たらいまわしにされて転校を繰り返しましたけど、江古田……ああ失敬。そいつ程クズだと思った教師はいませんよ」
命はそう言って焼きそばをすすり、水を飲んで喉を潤すと師岡の方を見てにこりと微笑んだ。
「なので、諸岡氏のように生徒の事を思ってくださる教師を見ていると安心します」
「わ、わしは別に……」
命の微笑みながらの言葉に諸岡は慌てたように声を漏らすが、命はどこか相手を見透かすような不思議な表情を見せる。
「あの問いかけてきた時に感じや目を見れば分かります。まあ、違うっていうならそういうことにしておきましょう。とりあえず、とっとと食べましょうか」
「そ、そうだな……」
命の言葉に諸岡はそう言って自分も割り箸を取り、焼きそば定食を食べ始める。
それから十数分程度、二人は会話をしながらの食事を終え、最初の約束通り――といっても命が言い出しただけにすぎないものなのだが――命が二人分の代金を支払い、二人は愛屋を出る。
「あー……ご馳走になったな」
「いえいえ、諸岡氏の鶴の一声がなければ僕はまだ街中を逃げ惑うしかできませんでしたよ」
諸岡は一応最低限の礼儀としてそう言い、それに命はにこにこと微笑みながら返す。
「そうか……」
その言葉に諸岡は何か考える様子を見せ、ふんと鼻を鳴らす。
「そういうことにしといてやろう。それと、これを恩に着せようなどとは思わんことだ!」
「分かってますよ。では、おやすみなさい」
諸岡の言葉に命はおかしそうに笑って返した後挨拶して夜の闇の中に消えようとする、と思い出したように振り返った。
「一緒にお食事できて楽しかったですよ。またいずれ」
命はそう言い残すと走り出して夜の闇の中に消えていく。
「……変わった奴だ」
それを見送った諸岡もそう呟き、自分の家に帰っていった。
さて日常編後編ともいえる今回は真の運動部入部による剛毅コミュ入手と何をトチ狂ったか命と諸岡を会話させてみました、というか剛毅コミュだけじゃどうかな~と思ったので無理矢理組み込んだというかね……。ちなみに命が江古田にやらかしたのは……いや、うん。質問来たら答える形式にしようか。僕の考えてる上じゃ結生もやらかしちゃってんだし……。
さてと、次はどうしよう? 日時スキップして雪子復帰にしようか……ま、考えてみるか。それでは~。