ギャルのパンティおくれ!!   作:真田蟲

5 / 13
四話

ショーの本番まであと3日。

俺たち手品部は、打ち合わせのためにナイトメア・サーカス団のテントに来ていた。

今日はこれから本番通りに通して見るということで、全員本番の衣装を着ていた。

タキシードを着ていたりピエロの格好をしていたり、その服装は様々だ。

俺も今回は紳士風のマジシャンをイメージしてタキシードを着ている。

蝶ネクタイなど付けたことがなかったので、首のあたりが妙な違和感を感じる。

だがこれも一つの様式美のためだ。仕方あるまい。

近くにある姿身を見れば、そこには黒いタキシードに身を包んだ俺の姿があった。

普段から情熱のパンティを穿いて動きまわっているからか、体はそれなりに引き締まっている。

165センチというのは中学一年生にしては結構高めの身長かと思う。

現に俺はクラスの中で二番目に背が高い。

ここ最近で第二次性徴期が訪れたのか急激に身長が伸びた。

今もなお伸び続けており、入学したばかりだというのにこのままでは数ヶ月後には制服を新調しなければならない。

少し大きめの制服を購入したはずなのだが今では肩幅がきついのであった。

まぁ、簡単にいえば体がかなり大人に近づいてきているといえる。

顔はまだ幼さが抜けきれず、子供と大人が混ざり合った微妙な外見というところか。

 

「……ん?」

 

そこで俺は姿見の中に映る一人の女の子と目が合った。

振り返ると、俺と同じく新入生のザジ・レイニーデイがこちらを無言で見つめていた。

彼女は曲芸手品部の部員であり、今回のお披露目会におけるサーカス団側の目玉とされている子だ。

褐色の肌にグレーの髪の毛。おまけに普段から眼の下にピエロのようなメイクをしている特徴的な女の子。

原色バリバリな髪の毛の人間もいる中で、ひときわ目立つ容姿をしている。

だが本人は目立つ容姿とは裏腹にいたって無口で、俺は彼女の声を例外を除いて聞いたことがない。

しかもポーカーフェイスなせいで感情もいまいち読み取れない。

何を考えているのか、もしくは何も考えていないのか。

それすらもわからない所謂不思議ちゃんな子というのが俺がレイニーデイに抱く感想だ。

今は彼女も本番のショーで扱う衣装を着こんでいる。

全身のボディラインがはっきりと出ているタイツに、ピエロのような首周りの飾り。

手首と足首には動きを大きく見せるための飾りがついていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

なんとなく俺も無言になり、会話するでもなく立ち尽くしたままお互いを見つめる。

彼女は俺に何かしらの興味があるのか、練習で会うとこうやってよく俺を見ているのである。

最初は周囲の人間もレイニーデイが俺に気があるのだと茶化してきた。

だがそのほとんどは今はもうこの状況に何も言ったりしてこない。

おそらく皆、彼女が俺に恋心を抱いているわけではないと悟ったのだろう。

単純な興味から眺めているといったところか……その興味の内容がどういったものかは見えてこないのだが。

見られているだけというのもあれなので、俺は何回か彼女に話しかけたことがある。

だがそれらは全て会話が成立するまでには至らなかった。

何を話しかけても無反応か、よくて首を縦か横に動かすだけなのだ。

ほとんどコミュニケーションが取れていないといってもいい。

 

「…………」

 

「…………」

 

無言で見つめあう二人。

これでお互いが頬を染めていれば絵になるかもしれないが、少なくとも彼女は完全に無表情である。

この空気にどう対応すべきか悩んだ俺は、数日前にある打開策を編み出した。

今回も、悪いがさっそく使うことにしよう。

ズボンのポケットを探るようにしてパンティを生成、彼女の目の前に差し出す。

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

何の特殊効果も付与していないパンティ。

ただしデザイン的にはローレグと呼ばれるもので、申し訳程度の布面積しかないものである。

これといってフリルやレースをあしらったりはしていない。

シンプルなデザインのローレグパンティである。

その差し出されたパンティを、レイニーデイは頷きながらその手に取る。

そう、先ほどの彼女の声に関する例外というのがこれである。

パンティをあげると、彼女は小さく、だが確かにはっきりと「パンティ」と口にするのだ。

その瞳には何の感情も宿しているようには見えない。

だが少なくとも嫌ではないのであろう。差し出せば必ずレイニーデイはパンティを受け取った。

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パンティ」

 

「…………パンティ……」

 

「はい、パン「おい山田、いい加減にしろ!!」……」

 

「…………」

 

先輩の恫喝に気がつけば、レイニーデイは両手いっぱいにパンティを抱えていた。

足元には抱えきれずにこぼれたパンティが小山を作っている。

それでもなお差し出されたパンティを受け取ろうと、彼女は手を伸ばしていた。

とりあえず出してしまったものを渡さないのも気がひけたので、今回はこれで最後ということで彼女の掌にのせた。

 

「…………パンティ……」

 

レイニーデイは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーの本番当日。

会場となる世界樹広場前には数多くの生徒が集まっていた。

中には教師だろう人物もちらほらと見える。

まぁ、このショーは春先にあるイベントで1、2を争う派手なイベントだしな。

おまけにお披露目会ってことで観覧料は無料ときたもんだ。

おそらく今現在、学園都市にいる人間で暇なやつは大半が来ているのではなかろうか。

今がゴールデンウィーク中だから、帰省している学生も大勢いるはず。

それを考えれば、他の時期にやっていたらもっと人ゴミがすごいことになるに違いない。

設置された舞台の裏で、俺は自分の出番を待っていた。

ステージでは先輩たちが、さすがの技術力の高いパフォーマンスを繰り広げている。

我らが手品部の先輩たちの人体切断ショーから、トランプマジック。

帽子からは鳩が飛び出し、箱に入った人間が次の瞬間には観客席から現れる。

サーカス団の面々は、玉乗りに火の輪くぐり、空中ブランコに綱渡り。

まさにプロ顔負けのパフォーマンスを行っている。

観客も大盛り上がりで、ところどころにまだ慣れていない新人の芸が挟まれてもテンションが下がることはなかった。

むしろ新人お披露目ということからか、まだまだ緊張の抜けきらない新人を応援する声までが聞こえてくる。

麻帆良にはなかなかに暖かい心の持ち主が多いようだ。

俺も今まで何度も能力を使用してきたが、それは個人で扱ってきただけにすぎない。

今回は手品として見せなければならないしそれなりに緊張していた。

高鳴る鼓動を、パンティを完璧に股間にフィットさせることで落ち着かせる。

今の俺は、今回のショーのために新しく作った新人類のパンティを穿いている。

そう、以前夢の中に出てきたパンティだ。

ギャルのパンティにしては流線型なフォルムをした、未来的なデザインをしている。

普段穿いている情熱のパンティなどは、基本的に形がギャルのパンティであることが前提で作られている。

そのため男の俺が穿くと完全にお稲荷さんが露出してしまっている状態なのだ。

だが新人類のパンティは少しクロッチ部分が幅広なため、お稲荷さんも半分ほど顔を出しているだけに留まっている。

それでいてお稲荷さんが揺れることのない絶妙なフィット感が俺の心を冷静にしてくれた。

 

「わー!!」

 

俺の出番が刻一刻と迫る中、ステージ側から一際大きな歓声があがった。

覗いてみれば、レイニーデイが新入生とは思えない動きでパフォーマンスを行っている。

高さ10メートルの空中ブランコ。

振り子のように揺られながら、時折体の上下を入れ替える。

ある時は両手でブランコを掴みぶらさがり、ある時は両足でブランコに引っかかり逆さまでぶら下がる。

何度かそれを繰り返し、何を思い立ってか一番高い所に来てブランコから手を離した。

 

「キャー!?」

 

失敗したと思ったのか、観客席から女生徒と思しき悲鳴があがる。

命綱のない状態で、高さ10メートルのブランコから落ちればどうなるか。

結果を想像するのは至極簡単である。

だが、レイニーデイは失敗したわけではなかった。

華麗に空中で回転すると、下にある綱渡り用のロープに着地してみせる。

あのロープは直径が4センチとロープにしては太めだが、あのような着地を軽々とこなせるような代物ではない。

彼女の驚異的なバランス感覚を思い知らされる動きであった。

舞台の左右から、サーカス団の人間がジャグリング用の棒を何本も投げる。

それを危なげなく全てキャッチし、見事にロープの上でジャグリングをして見せるレイニーデイ。

何度も棒を空に放り投げてはキャッチを繰り返す。

ロープの上の彼女は特に緊張した様子もない。

むしろあの無表情だったレイニーデイが笑顔を浮かべて楽しそうにさえしていた。

観客も興奮から皆、頬を赤くして歓声を上げている。

これは、俺も同じ新人として負けていられない。

もうすぐ出番の時間だ。

俺は舞台裏から移動し、ステージの下に移る。

仮設されたステージの中央のちょうど真下にあたる部分。

そこは奈落と呼ばれる場所になっていて、そこからステージ上に昇れるようになっているのだ。

予定通り真上に黒い箱が置かれ、そこにレイニーデイが飛びこんだ。

すぐさま上から彼女が飛び降りてくる。

入れ替わるようにして箱からステージへと俺が飛び出す手はずなのだ。

彼女はステージ上の笑顔はどこへいったのか、今はもう先ほどの無表情になっている。

だが、俺と目が合うと何も語らないで片手をあげた。

今までと違い、彼女が俺に何を求めているかは簡単にわかった。

思わず口元がにやける。

 

「よっしゃ、いってくる!!」

 

「……ん」

 

すれ違いざま、俺は彼女のあげられた手にハイタッチをした。

それに満足げにうなずくレイニーデイ。

そのことに気を良くし、力一杯跳躍してステージへと飛び出した。

この間に綱渡りのロープなどは片づけられている。

派手にクラッカーが鳴る演出とともに舞台に姿を見せる。

 

『今回のショーの最後を締めくくるニューフェイスはこの男ぉお!!

 手品部期待の新人、その技はまるで魔法のようだ!!

 パンティを自由自在に操るパンティイリュージョンの山田太郎―――――!!』

 

「「「イェ―――!!」」」

 

俺の紹介をする声に続き、観客の一部から大声が聞こえてくる。

そこに目をやれば、クラスメートの面々が応援に駆け付けてくれていた。

まったくあいつら……これでテンションあがらなきゃ男じゃねえぜ!!

舞台上で栄えるように両手を広げる。

スポットライトを全身にあびながら、宣言した。

 

「……さぁ、パンティの時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまでのポップな音楽からBGMが変わる。

クラシカルな音楽とともに俺は握りこぶしを作り、くしゃくしゃとまるで何かをつぶしているかのように動かした。

するとどうだろう、手の隙間から純白のパンティがこぼれおちてくるではないか。

観客は初め、先ほどのレイニーデイの派手な動きとは違うことからあまり興奮している様子はなかった。

興奮した状態を見せているのは、俺がこれから行う内容をある程度知っているクラスメートくらいなものだ。

むしろ何故パンティなのかと戸惑っている様子の観客も大勢いる。

だが、手の中から出てくるパンティは一枚や二枚ではない。

くしゃくしゃと動かすたびに増殖するパンティにしだいに驚きの声があがる。

 

「おいおい、あれどうなってんだ!?」

 

「一体何枚でてくるの!?」

 

何も持っていない手から、何かしらの物体を出すというのはよくあるマジックだ。

だからこの程度ではあまり盛り上がらない。

こちらとてそれはよく分かっている。最初から大技を繰り出しても意味がないのだ。

これはまだまだほんの序の口である。何事も緩急が必要だ。

タキシードの胸ポケットからハンカチを取り出す。

真白なハンカチは表も裏も何も描かれておらず、いたって何の変哲もない布切れだ。

観客に向かってそれを見せたあと、ハンカチを丸めて握る。

その後丸めてある物を広げるとどうだろう。ハンカチが一枚のパンティになっている。

かぶっていたシルクハットを外し、その中に先ほどのパンティを入れる。

 

「ワン、ツー、スリー!!」

 

三つ数えてみると、シルクハットから噴水のように色とりどりのパンティが飛び出した。

おおっ、と驚く観客。

だが飛び出すくらいで驚いてもらっては困る。

空中に勢いよく飛び出した様々なパンティは、まるで蝶を思わせる動きで空中を飛んでいるのである。

 

「凄え!?」

 

「なんで、なんで飛んでるの!?」

 

これは、以前夢に見た遠隔操作型のパンティ【P-ファンネル】を使っている。

色こそ様々なパンティだが、実質的な効果はすべて同じだ。

現在着用している新人類のパンティによって、あたかも蝶が飛んでいるかのように操作しているのだ。

可愛らしく空中を漂うパンティに観客の目は釘付けである。

俺が両手をまるで曲に合わせた指揮をするように動かす。

すると、それまで何の統一もされずバラバラに飛んでいたパンティが、俺の真上に集まりだす。

手の動きに合わせて演奏をしているかのごとく、一糸乱れぬ動きで動きだした。

俺の意思で動かしているにすぎないが、観客からは生きたパンティを俺が使役しているように見えるだろう。

舞台の上にアーチを描くように並ぶパンティたち。

だが、色がばらばらなために虹にしてはまだら模様である。

そう、これではまだパンティの虹とは呼べない。

そこで俺は指をパチリと一つ鳴らした。

 

「うぉお!? 虹になった!?」

 

「綺麗……」

 

「魔法みたいだ……」

 

指の音を合図に、端の方からどんどん色が変わっていく。

そこに現れたのは見事にパンティで作られた美しい虹であった。

本物そっくりな色の変化を見せるグラデーションが観客を魅了する。

もう一度、指を鳴らすと今度は虹が分解されてまた蝶になる。

再び俺の指揮のもと、飛び始めたパンティ達。

数えるのも馬鹿らしいほどのパンティが空を舞っているわけだが、数えれば丁度千枚あるとわかるだろう。

その千枚のパンティが一本の列を作る。まるで蛇のようだ。

俺は上を向くと、その蛇を飲み込んだ。

 

「ええっ!?」

 

「マジかよ、どうやってんだ!?」

 

ひらひらと俺の口の中へと吸い寄せられるようにして飛んでくる蝶たち。

傍目には、俺が喉を鳴らして凄いスピードでパンティを飲み込んでいるようにしか見えまい。

実質は口の中に入るとともに消しているだけだけど。

もし仮にこれだけの数のパンティを飲み込んでいれば凄いことになる。

なんせ明らかに俺の体の体積よりも総量が多いのだから。

本当は飲み込んでなどいないのだが、全てのパンティを消した後これ見よがしに口を拭いた。

まるで口の周りの食事後の汚れをふくかのように。

次に、舞台そでに視線を送ると、道化師の格好をした部員が一体の女性型のマネキンを運んできた。

ステージ中央にマネキンを立たせる。まだ服を着せていない、裸のマネキン。

デパートなどの服飾売り場でよく見かけるそれが、粋なポージングをして立っている。

ポケットからまた一枚のハンカチを取り出すと、それでマネキンの股間部分を隠す。

隠している時間は一秒もないだろう。

だがそのわずかな時間の間、観客の目から隠していただけでハンカチを外すとマネキンはパンティを穿いていた。

足を上げる動作など一度もさせてはいない。

またまた驚きの声をあげる客に、どこかマネキンの顔がどや顔に見える。

だがマネキンを使ったマジックで驚くのはまだ早い……このパンティは、人形に命を宿す!!

俺はマネキンと一緒に運ばれてきた皮靴をそれの足元に置いた。

 

「ええ!?」

 

「なんで!?」

 

もはや数えるのも忘れた何回目かの客の驚愕。

まぁ、そりゃあ驚きもするだろう。

明らかに人形でしかないマネキンが、ひとりでに動き出して皮靴を器用に履いたのだから。

それだけでは飽き足らず、あろうことかマネキンは俺の手拍子に合わせてその場でタップダンスを始めた。

カカカカッと靴底が床を叩く小気味のいい音がステージに反響する。

これはP-ファンネルの能力のさらに発展型といってもいい。

いや、考え方の違いで同じようなものかもしれないのだが。

パンティを穿いた対象をパンティを媒介にして遠隔操作で操っているのだ。

俺はこのパンティをP-ファンネルMK-Ⅱと呼んでいる。

生物を操ることはできなかったが、こうしてパンティを媒介に生物以外を操ることは可能となった。

何度も犬や猫で試してみたが、生物では一度も成功しなかった。

どうやら対象が持っている意識が、操作を阻んでいるようである。

だがこうして人形であるならば問題はない。

特に人の形をしているマネキンならば、動きをイメージしやすい分動かしやすかった。

もう何でもありである。パンティさまさまだ。

ポケットから取り出すように新しいパンティを具現化させると、それをマネキンの近くに放り投げた。

すると、そのパンティ達が意思を持っているかのように起き上がり、器用にタップダンスを始めた。

お気づきの方も多いだろうが、これも遠隔操作で操っているにすぎない通常のP-ファンネルだ。

布でしかないパンティがタップダンスを踊ったところであの華麗な音は出ない。

だが隣で踊るマネキンと息ぴったりなダンスは観客を魅了させる。

まるまる一曲分踊りきると、マネキンは周囲のパンティを重ね穿きの要領で回収して穿く。

その後自分の足で舞台から去って行った。

もはや観客のほとんどは呆然としている。

一部何故かこちらを睨んでいるようなやつがちらほらいるが何故だろうか?

その中に影月の姿が見えた。なんだかんだで応援しに来てくれているあたり、ツンデレというやつか?

険しい顔をしているのは照れ隠しからか。ふっ、愛いやつめ。

素直になれないあいつのために、今度また鞄の中にパンティをプレゼントしておいてやろう。

再び視線を舞台そでに移し、部員達とアイコンタクトを取る。

道化師の格好をした部員が、今度はホワイトボードを持ってきてくれた。

今度の手品には協力者が必要だ。それもできれば観客が望ましい。

俺は観客席をぐるりと見渡すと彼女を見つけた。

舞台に近い最前列付近に陣取っている二つの集団のうちの一つ。

服装からして女子中等部の人間だろうか。

レイニーデイの時に一番声を張り上げていたから、おそらくはレイニーデイのクラスメートなのだろう。

ちなみにもう一つの集団というのが俺の応援をしに来てくれた男子中等部の連中である。

レイニーデイのクラスメートらしき集団の中に、以前見かけたパンティストの女の子を見つけたのである。

周りよりもかなり低めの身長に、紫がかった長い髪。手に紙パックのジュースを持って観覧していた女の子。

そう、以前紐パンを目撃したあの子である。

うむ。座っている位置も舞台正面の階段に近いし丁度いい。

小学生じゃなくて中学生だったんだ……とか余計なことを考えつつ、一枚のパンティを彼女に向って飛ばした。

 

「え?」

 

「これから行うものは協力者が必要なんだが、手伝ってくれませんか? お嬢さん」

 

「私……ですか?」

 

自分が指名されたことに戸惑いを見せる少女。

目立つことを好まないのか、どこか乗り気でない様子ではあったが周囲の女の子たちに背中を押されて立ち上がる。

彼女とは裏腹に、周囲の友人たちは乗り気のようだ。

グッジョブ、レイニーデイのクラスメート。

エスコート役のパンティに案内され、少女が舞台に上がってくる。

俺は道化師に受け取ったマイクを彼女の口元に近づけた。

 

「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

「……綾瀬夕映なのです」

 

「そう、綾瀬さんか。ご協力感謝します」

 

「いえ」

 

「それでは、綾瀬さんにはこのホワイトボードに即興でオリジナルのパンティを描いてもらいます」

 

「お、オリジナルですか!?」

 

即興で描けと言われて慌て始める綾瀬。もしかして絵には自信がないのだろうか?

 

「そんなに思いつめなくても大丈夫。

 簡単でいいので、好きな形や色、模様何かを描いてもらえれば結構です」

 

「簡単にですか………解りました」

 

数種類のマジックを受け取った綾瀬は、数秒ほど悩んでいたがおもむろにパンティの絵を描き始めた。

それは白い布地に横縞ラインが入ったパンティ。

横に紐が描かれているのからして、やはり紐パンのようだ。

それだけでなく、布地の部分にローマ字で「AYASE」と書かれている。

描き終えた綾瀬からマジックを受け取ると、俺は観客の方をを向いて声を張り上げた。

 

「ありがとうございます……それでは皆様!!

 これからこの綾瀬嬢の描いたパンティを実際にこの場に作りだしてみせましょう!!」

 

俺の言葉に、周囲は騒然となる。

何もない所からパンティを出してみせる手品はすでに見せている。

無理だという声と、彼ならできるんじゃないかという声。

できると思っている人間も、おそらくは俺と綾瀬があらかじめ打ち合わせていたと考えているかもしれない。

だがその本人である綾瀬は、俺の宣言に驚きを見せていた。

 

「そ、そんなの無理に決まってるのです!!」

 

「フッ、無理かどうかは実際にご覧あれ!」

 

俺はホワイトボードに描かれたパンティを隠すように手で触れる。

掌に隠したパンティで絵を消していきながら、あたかもそこから取り出すようにして何かを掴む仕草をして見せる。

絵を消し終えると、一旦手の中のパンティを消滅させて綾瀬デザインのパンティを作り出した。

観客に向かってパンティを掲げてみせる。

 

「うぉおおおお!?」

 

「本当に取り出した!!」

 

「すげえええ!?」

 

確かにそのパンティは横縞模様の紐パンで、AYASEと書かれている。

その文字の癖も先ほどと同じ。それは本人が一番よくわかっているだろう。

 

「そんな馬鹿な!? どうなってるですか!?」

 

俺の手のひらからパンティをひったくって確認する綾瀬。

このリアクションに演技はないと、観客も思ったようだ。

期待通りのいいリアクションをしてくれた彼女に思わずにやけてしまう。

 

「そのパンティは今日の記念にあなたに差し上げましょう。

 ご協力ありがとうございました」

 

いい笑顔で彼女を送り出す。

呆然としてパンティにエスコートされた綾瀬は観客席に戻って行った。

席に戻ると、周囲の友人たちにもみくちゃにされている。

友人たちはパンティを自分たちも確認しようとしているのか、四方から手をのばしていた。

ああっ、そんなにひっぱったらパンティが伸びる!!

俺の心の叫びは届けられぬまま、パンティは人ごみの中へ姿を消した。

 

「さて、三日後の5月9日に私はランジェリーショップを開くこととなりました。

 店の名前は【パンティYAMADA】、場所は主にこの世界樹前広場で開きます。

 パンティ専門の店ですが、皆さまよろしければご来店ください。

 では、これにてパンティイリュージョンを終了いたします」

 

結局、店の申請はあっさりと通った。

担任の堂島先生は渋っていたが、何故か学園長直々に許可がおりたらしい。

「儂、君のパンティには期待してるもんね」という手紙まで頂いた。

屋台の方も、工学部の方々がかなりいいものを作ってくれている。

本当にありがたいことだ。

店の宣伝も言えたことだし、これでショーは終了である。

あとは客の帰る時にパンティYAMADAのビラを配るだけだ。

そう思っていたのだが、観客から声を大にしてのアンコールの声が。

津波のように押し寄せるアンコールの言葉に胸が熱くなる。

 

『よし、いくわよみんな!!』

 

「「「「応!!」」」」

 

アナウンスの声で柳先輩がみんなにGOサインを出す。

次の瞬間、待ってましたとばかりに舞台裏からぞくぞくと部員たちが飛び出してきた。

皆おもいおもいにその場で手品を披露し、曲芸を披露する。

俺もじっとしているわけにはいかない。

純白のP-ファンネルを再び大量に生成し、空へと飛ばした。

観客席を縫うようにして飛ばすパンティは、光を反射してきらきらと輝いていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。