幸か不幸か、転生した俺は前世での記憶を残していた。
おかげで精神は赤ん坊にして大人である。
まさかコナン君を超える存在になるとは思っていなかったな。
見た目は子供じゃなくて赤ん坊だし……まぁ、明らかに頭脳は彼の方が上だろうが。
そう考えるとむしろ存在としては下なのか?
とにかく、本来の赤ん坊なら何も考えなくとも「あーぶー」言ってるだけで時間は過ぎていきそうなものだ。
だが精神が大人な俺は無駄に思考が働いているため、退屈で仕方がない。
なんせ言葉も上手く発せられないどころか、体も満足にうまく動かせないのだ。
正直言って母親の乳飲んで小か大を漏らすしかできない。
最初の数日は羞恥心に悶えそうにはなったが、すぐに開き直った。
だって俺今赤ん坊だし。
だって与えられた能力が「自由自在にギャルのパンティを作り出す能力」だし。
これからの人生、この能力のせいで変態確実じゃないか。
まぁ使わなければ普通の人生になるだろうけど。
むしろここが危ない世界なら、そんな能力で危険なことができるとも思えなかった。
とりあえず大人しくしておこう……それが俺がした判断だ。
どういう生き方をするにせよ、今はまだ情報が足りない。
ここがどういう世界なのか、自分はどういう立場に生まれてきたのか。
生後数か月の今の俺ではそれすらも調べる術を持たない。
耳から周囲の声が聞こえてきて、少なくとも日本語で会話しているのは理解できた。
それが唯一の救いだろうか。
未だ俺がどのような立場の人間かといった情報は掴めていない。
だが、俺の名前がタロウというのはわかった。
十中八九「太郎」と書くのだろう。
明らかに日本人の名前だ。最近じゃむしろ珍しいくらいの典型的な日本男児の名である。
このことからここは前世と同じく日本か、もしくは日本を舞台とした物語の世界のような並行世界なのではないか。
太郎なんて最近じゃ聞かない名前だし、もしかして昔の日本なのだろうか?
少なくとも現代人の感覚ではもはや使わない名前だよなぁ。
これで名字が山田だったら、本名なのに偽名を疑われそうだよな。
偽名と言われて一番に思いつく名前と言われれば、多くの人間が「山田太郎」と答えるだろう。
むしろ思いつきすぎて逆に偽名として使われなさそうでもあるが。
まぁ、おそらく別の名字だろう。
もし仮にこれがネット上であふれる創作物の一つだったとしたらどうか。
その作者はどれだけ名前を考えるのが面倒くさかったかを露呈するようなものだろう。
これはまぎれもなく現実なのだが、俺はそのような思考遊びをして時間をつぶすのであった。
一話
そんな思考遊びをしていたのがいけなかったのかもしれない。
この世にフラグというものが存在しているというのなら、まさにその思考遊びが原因だろう。
俺の名前は「山田太郎」であった。
喋れるように発音が発達してきた俺は、好奇心旺盛な子供を演じて親に聞いてみたのだ。
確かに家の姓は山田であった。ちなみに俺は長男であった。
とくに昔でもなんでもなく、今は平成の世であった。
母親に聞いてみたところ「名前なんて飾りだ。識別できればいいんだよ」とのこと。
騎士と書いてナイトと読むような、親の正気を疑うような名前でないだけましかもしれないが。
明らかに名前負けするようなものでなかっただけ良しとするしかあるまい。
ちなみに母の名前は花子である。この親にしてこの子あり。
生まれながらにしてネーミングセンスは決まっていたようなものだ。
名前など、自分でどうにかできる問題ではない。
諦めて山田太郎という自分を受け入れるしかなかった。
まぁ、容姿が可もなく不可もなくな普通の日本人顔だっただけでも良かった。
前の俺は不細工といっていい顔だったしな。
イケメンよりもこういう普通の顔のやつのほうが、案外充実した生活を送れるものだ。
片親であり、唯一の親である母は放任主義な人であった。
幼稚園にも通っていない俺は、基本的に祖母の家で預けられている。
そのためあってか、孫を可愛がる祖母が一人にしてくれないので外を出歩いて情報収集をすることができなかった。
トイレなどで一人になった少ない時間、能力を確かめるように使用していた。
トイレットペーパーが切れていた時など、作り出したパンティで尻を拭いたくらいだ。
尻を拭いて安心した反面、トイレ前で待ち構えている祖母に見つからないように捨てるのが大変だったが。
それはともかく、この能力についていくらか判明したことがある。
一つが何の対価も無しにパンティを自在に作り出すことができること。
こういう場合、普通は精神力か何かしらを消費するものだが、特に疲れるということもない。
トイレの個室がパンティで埋め尽くされるほど作ってみたが特に体に変調を感じることもなかった。
二つ目、女性用のパンティしか作れないということ。
ギャルのパンティという願いだったためか、男用のパンティはどれも無理であった。
ブリーフ、トランクス、ボクサーと一通り念じてみたが反応はない。
逆に女性用はお子様パンティから大人な勝負パンティまで自由自在であった。
それはもう、純白から黒、横縞模様にヒョウ柄、紐パンやスケスケなものまでなんでもござれ。
念じるままにイメージした通りのパンティを作ることが可能であった。
ただしスパッツは駄目だった。
どうやらあれは神様基準でパンティに分類はされないらしい。
ちょっと悔しかったのは秘密だ。
三つ目、これは俺の主観的なものだから確かではない。
だがイメージすれば布強度をある程度変化させることが可能だ。
試しにトイレに行く際、ポケットに鋏をいれて入り、実験したことがある。
標準的なパンティは幼児の俺の力でも、鋏を使えば簡単に切り裂くことができた。
しかし強度を高くしようと念じて生成したパンティは、鋏をもってしても切り裂くことはできなかった。
触り心地などは変わらないというのに防御力は変化している、そんな感じ。
パンティが破れづらいからといって、特に何か得するわけでもないのだけれど。
まぁ、パンティパンティと真面目に考えていると、ふと冷静になった時になんとも自分が馬鹿馬鹿しく思えて悲しくなったこともある。
余談としては、あまりにトイレに閉じこもるのでよくう○こする子供と思われてしまっているのが難点か。
そんな生活を送り続け、俺は小学生にあがった。
小学生にもなると、友達と遊ぶという名目で一人で外出できるようになった。
門限は6時と決まっているが、格段に自由な時間をとりやすくなったといえる。
学校では周囲から浮かない程度に交友関係を保ち、休み時間などに遊んでいる。
だがあまり放課後は友人たちとは遊ばずに、一人で能力の開発をしていた。
何故俺は使えない能力と一度は判断したのにもかかわらず、こうして試行錯誤しているのか。
それは金銭面で使えると考えたからだ。
今の小学生の俺では無理だが、将来大人になったら女性用下着の製造会社を作るのだ。
それもパンティオンリーの会社だ。
ブラジャーなんて金のかかるものは売らない。
元手0でどんなパンティも作り放題。ぼろ儲けである。
完全に開き直ったといってもいい。
俺の人生はギャルのパンティに始まり、ギャルのパンティに終わる。もうそれでいいや……と。
将来の夢を下着会社の社長と応えて先生を困らせたのは母には内緒だ。
休み時間、未来ある小学生男児達を仲間に引き入れ、パンティのデザインについて語り合っているのは悪いとは思っている。
まるで俺が彼等を若くしてそういう趣味に目覚めさせたように、周囲の人間からは見えるだろう。
いや実際にそうなのだろうし、多少なりとも罪悪感は感じてはいる。
だが悪乗りしやすいお年頃。
う○こと同様、小学生男児とパンティは化学反応を起こした。
正直に言って利用した感が否めないが、彼等も楽しそうにしているのでいいだろう。
今では実に楽しそうに「俺の考えた新しいパンティ」のデザインを見せ合って楽しんでいる。
彼等の将来にとってはマイナスかもしれないが、これは俺の将来にとってはプラス以外の何物でもない。
大人な精神の俺では全く想像していなかったアイデアが、小学生の現実にとらわれない発想から生まれるのだ。
それは何もデザインだけにとどまらない。
履くだけで健康になるパンティ。
金運上昇パンティ。
足が速くなるパンティ。
テストで100点が取れるパンティ。
何の予備知識もないところから、穴が一つ多いスケベパンツを開発した米沢君は将来有望と見ている。
こうして学校では新しいパンティの追求を。放課後はそのパンティを実際に作ってみることで確認していた。
作り続けたおかげか、パンティ製作スピードも格段にあがってきた。
小学5年生の今では一秒間に200枚のパンティを作り出すことを可能にしていた。
一枚当たりにかかる時間が0.005秒。
タイムラグはほとんど感じない。マシンガンにも負けない自信がある。
さらに、アイデアで出た金運上昇などといった効果。
これを出せないか試行錯誤してみた。
だがただのパンティにそのような効果を付加させるのはなかなかに上手くいかなかった。
そこで取り入れたのがカラーイメージである。
色というものには色魂というものがあると考えられている。
その色にあった意味や言葉から連想した効果なら付加することも可能なのではないか。
結果は成功。
俺は以下のパンティを作り出すことに成功した。
金運上昇効果の金色の「黄金のパンティ」
身体能力上昇、赤色の「情熱のパンティ」
魅力上昇効果の紫色の「魅惑のパンティ」
疲労回復効果の水色の「癒しのパンティ」
食欲増強効果の黄色の「大食のパンティ」
今のところはこの5つだ。
このそれぞれのパンティは効果が絶大。
黄金のパンティを使えば、100メートル歩くだけで521円拾うことができた。
521円と侮ることなかれ。小学生には大金である。
情熱のパンティは、使用すれば3メートルも縦に跳躍することが可能となった。
魅惑のパンティは、使用者は魅力が上昇する。
ただし女性的魅力が上昇するのみで、男の俺が使ってもあまり意味はなかった。
事情を説明せずにプレゼントして試験者になってくれたクラスメートの雪奈ちゃんは、現在もてもてである。
パンティなどというものをプレゼントしたせいか、こっちを見る目が他と違うのが失敗か。
小学生とは思えないほど無駄に色っぽい目つきをするようになったのでひやひやである。
癒しのパンティは、100メートルを全力疾走した後の疲労を一瞬で回復した。
大食のパンティは使用者の食欲を増大させる。
どれもこれも極端なまでに効果を発揮した。
ただし、欠点として使用者は実際に履かないと効果を得られないということもわかった。
それも直に股間に触れていないと効果が発揮されない。
元々履いている男子用の下着の上からでは駄目なのだ。
この能力に関してはまだ誰にも言っていないので、自分の体を使って試すしかない。
人気のない近所の山で、一人ギャルのパンティを試し履きする小学生男児。
将来の金のためとはいえ、何か大事なものをどんどんと失っていく感覚に俺は目をつむっていた。
時は流れ、数ヶ月後には中学生になる。
そんなある日、母親から地元とは別の中学にあがるように言われた。
友人たちと同じ地元の公立中学に進学すると思い込んでいた俺は、かなり驚いた。
「麻帆良学園?」
「そ、私立だけどこっちの公立よりも学費安いしね」
そこで初めて、俺はこの世界がネギまの世界であると知った。
小学6年生10月のことである。なんとも遅い。
テレビやネットで魔法やオカルト的なことも報じられてはいなかった。
魔法とかは存在しないというのが世間の常識だったこともあり、俺はこの世界が前の世界と同じものと思い込んでいたのだ。
まさか隣の県に麻帆良学園があるとは、灯台もと暗し。
もっと早くに地図を開いて確認するべきだったのだ。
この世界は危険なこともある世界だった。
麻帆良学園は、初等部から大学までいくつもの学校が集まった一つの都市を形成する学園である。
調べたところによれば、学生数は少子化の影響なんて受けていないかのように膨大な数の生徒がいる。
それもそのはず。
俺の母親のセリフにあったように、ありえないほどに学費が安いのだ。
それはもう、田舎の公立の学校のおよそ半分である。
採算がとれているとは到底思えないが、そりゃあ皆こぞって自分の子供を入れたがるわけだ。
おそらくは、生徒数を集めるためにそのようなことをしているのだと推測している。
確か、麻帆良学園には世界樹といったものがあったと記憶している。
もはや転生してから結構経っているので原作知識などあってないようなもんだが、それくらいは覚えていた。
そしてあの地は結構地脈的な点においても重要な土地とかだったと思う。違ったっけ?
その地を守る役割もあり、隠れ蓑として学校という形をとっていると考えているんだが。
だとしたら学校という形式を保つために、学生は多く欲しいはずなのだ。
学費に関しては質よりも量、といったところなのだろう。
麻帆良の近辺以外にも、安い学費目当てに各地から学生が集まっていると聞く。
しかも珍しいことに、外部からの入学に関して試験があるのは高等部からのみである。
今の俺のように中等部に入学する分には試験が必要ないのだ。
そのせいか、俺と同じく中等部に外部から入学する生徒が圧倒的に多いそうだ。
実際、俺も試験は必要ないと言われた。
ネギまの漫画は、正直途中で読まなくなったせいもありよく覚えていない。
なんか鬼とか吸血鬼とか出てきたような気もするけど、危なかったりするのだろうか?
転生後も合わせて、読まなくなってから10年以上は確実に経つし、原作知識なんて無いに等しいと思うのだが。
個人的に、とりあえず餓鬼が教師をしていて生徒とラブコメする話という印象しかない。
ぶっちゃければ、なんちゃって魔法で女子生徒が服を消滅させられて全裸になるような印象しかない。
残っている知識など、先ほどの世界樹とか特別な土地とかなんか適当な設定だけ。
どうだろう、俺はあの町に行って大丈夫なのだろうか。
しかし小学生の俺には、母親の決めたことに抗うほどの術はない。
というか既に入学手続き終わってるらしい書類を見せられたし。
「いや、待てよ……」
確か漫画の中で中学生の癖に店を持っているやつがいなかったか?
名前はタオパイパイ……じゃないけど、何か似たような中国系の名前のやつが店出してたはずだ。
普通中学生では店を持って商売をすることはできない。
だけど、あの学園都市は一種の治外法権なんじゃないだろうか。
だから外ではありえないこともある程度許容される。
上手くいけば、大人になるまで待たずとも俺も店を持つことができるかもしれない。
更にあの町では毎日だれかしらが主人公の魔法で全裸になってるんだろう?
パンティの需要もあるはずだ。
一般人も多いんだし、俺も一般人として生活していれば危ないことは専門家のキャラ達がなんとかしてくれるはず。
とりあえず危ないことに首突っ込みさえしなければ、パンティ売り放題なんじゃないか?
何かあっても情熱のパンティで強化された逃げ脚で逃げればいい。
…………こいつはいける!
こうして、開き直った俺は麻帆良学園への進学を決めたのだった。
後日、卒業式の日。
そのことを知った雪奈ちゃんが俺に魅惑のパンティを返してきた。
今まで、特殊な効果のあるパンティは彼女以外には渡していない。
別にそのことに理由なんてなかったけど、他の子には渡したことなどなかった。
だから、試験者をしてくれた彼女だけが俺の「ギャルのパンティを作り出す能力」を知っている。
「いいの、雪奈ちゃん?
せっかく君にあげたパンティなのに……」
「いいのよ山田君。私はもう、十分にそのパンティに救われたわ。
もう私はそのパンティがなくても大丈夫。新しい私を作っていく。
今度は私の気持ちが向こうでのあなたを救うはずよ」
彼女の言っている意味は全く不明だったが、その顔は美少女というよりも美女であった。
今はもう魅惑のパンティを履いていないはずなのに、12歳にして妖艶な色気を感じさせている。
雪奈ちゃんなりに俺の門出を祝福してくれているのだと判断し、とりあえず受け取っておく。
何度も何度も履いたのか、微妙に生地が彼女の体に合うように伸びていた。
ほのかに温もりを感じさせる布は、つい今しがたまで彼女が実際に履いていたのだろう。
理屈じゃない。なんとなく本能的に感じた。
このパンティは彼女と俺との間にある、確かな絆なのだと。
「いつか、俺のパンティが世界に通用するようになったら、また試験者を頼めるかい?」
「ええ、喜んで。
あなたのパンティブランドが、世界の山田になる日を楽しみにしているわ」
俺たちは互いの門出を祝福しながら、笑顔で握手をした。
二人の重なった掌の中には、魅惑のパンティが力強く握られていた。