別に呼んでいなくても本編に支障はありません。
超のいた未来の歴史で、山田太郎がいかにして地球を救ったかについてです。
ここに来るまでの道のりは長かった。
思えば、俺と……いや、俺達とパンティの歴史が始まったのはパンティYAMADA開業からではない。
俺は、自分を挟むようにして両隣に立つ人物に目を向ける。
「米沢……」
「ああ」
右手に立っているのは米沢。
かつて小学生のころ、様々なアイデアで僕のイメージの可能性を広げてくれた漢。
大学で再会してから再び俺の友人として、否、戦友として時を歩んできた人物だ。
俺がその名を呼ぶと、こちらの考えを察して力強く頷いた。
彼は中学の時の転校にあわせて交友が途絶えた以 降も、再会するまでの間も一人のパンティストとして日々精進していた。
米沢は、パンティとそれを穿くギャルに並々ならぬ愛を持っている戦士である。
その鍛え抜かれた筋肉は、ただひたすらに世のギャルたちを守るためだけに身につけられたものだ。
丸太のように太い腕には戦場でつけられた様々な傷が残っている。
これは銃弾飛び交う紛争地域で、危険にさらされ怯えるギャル達をその身で守りながらパンティの素晴らしさを語り、俺と一緒に数々の戦場で停戦を呼びかけてきた証である。
最も目に引くのは、その傷のせいで失明してしまった右目だろうか。
実力が足りず、また、俺のパンティが間に合わなかったせいで目の前でギャルを死なせてしまった時にできた傷だ。
今の治療技術なら失明はまだしも、傷は消すことはできる。
それをしないで今も顔の右半分に及ぶ傷を消さないのは、自分への戒めだという。
俺は自分の今までの活動で、多くのギャル達の命を救ってきた自負はある。
だが、それでも戦場などの現地で最もギャル達を救っているのは、間違いなくこの男だと思っている。
米沢はパンティYAMADAの幹部の一人であり、シークレットサービスを含む全ての実行部隊を指揮させている。
表に出ることはあまりないが、この会社のナンバー3である。
俺が唯一、背中を預けられる男だ。
「雪奈……」
「ええ」
左手に立ち、俺に微笑むのは雪奈。
小学生の頃に俺の魅惑のパンティの実験に付き合ってくれたギャルだ。
40歳となった今でも、その美しさは健在である。
肌のハリは十分に10代でも通用しそうなほどであり、老いとは一切無縁の容姿をしている。
一見二十歳ほどに見えながらも、成熟した女性の色気を全身からかもし出している。
俺がパンティYAMADAを開業して一年ほどたった頃、経営という壁に阻まれ頭を悩ませていたときがあった。
そんな時彼女は俺の前に舞い戻るようにして現れてくれた。
以降、公私共にパートナーとして今までの人生を歩んできたのである。
俺の心が折れそうになった時、疲労で倒れそうになった時、いつも彼女の温もりと優しさが隣にあった。
引く手数多の彼女は、行く先々で男性から求愛されてきた。
各国の政治家や王族からの求婚などざらである。
だというのに彼女はそれらを全て蹴って俺とともにあることを選んでくれたのだ。
世界一のギャルが俺を支えてくれている。
その事実に、どれだけ俺の心が助けられてきたことか。
今の俺があるのは彼女のおかげであるといっても過言ではない。
雪奈は俺達の会社のナンバー2でもあり、副会長兼、俺専属の秘書のような立場でもある。
「そろそろ始めるか」
この場にいるのは、世界でも数少ない俺の能力について知っている人物だ。
いや、少ないはずの人物たちだったというべきか。
今回の作戦のために、国連のトップたちには協力を要請する上で話している。
彼らとは既に個人的にも友誼を結んでいることもあり、比較的に混乱もなく信じてもらえた。
自由自在にギャルのパンティを作り出せるといった時は、驚いた顔をしたものの「お前ならなんでもありな気がする」といって
むしろ皆呆れ顔だったのが印象的だった。
決して記録に残すことはしないという条件のもと、全てを話したのだ。
俺の能力は完全に自身のイメージに依存している。
逆に言えば、イメージさえできれば作れないパンティなどない。
しかし、今回作ろうとしているパンティは果てしなく難しいだろう。
考えただけでも、人間の脳の情報処理のキャパシティを超えている。
だが、戦争根絶を成し遂げた今、俺が次にするべきことは決めていた。
今更後には引けないし、引くつもりもない。
もしもの時は、俺がいなくなっても世界の平和を維持していく為の力として12枚のパンティを国連の平和維持軍に託してきた。
世に流通している普通のパンティと違い、能力を付加している。
これまでの人生で培われてきた経験から作られた、能力付加のパンティの雛形たち。
完成形変異パンティと名づけられたそれらは、今尚ゲリラ的に起こるテロリストとの戦いの力となるだろう。
国家間の戦争は終わりを告げたが、パンティによる平和を認めないものたちもいまだに残っているのである。
その正体は軍需産業により代々富を築いてきた企業たちである。
平和を迎えたこの世界で縮小を余儀なくされた彼らは、悪あがきのように散発的にテロを誘発させようと動いているとの情報が入ってきている。
その戦いも収束に向かってはいるが、少しでも俺のパンティが平和維持のための役に立てればと思っている。
「各地点、準備はいいか?」
『ポイント1、準備完了』
『ポイント2も準備完了よ』
『ポイント3、同じく準備完了』
『ポイント4、こっちも準備OKッス!』
通信用のマイクに声をかけると、世界各地に散らばった仲間たちから返答が来た。
ある者はビルの上から。
ある者は山頂から。
ある者は太平洋の船の上から。
世界各地に散らばった仲間から、作戦準備が整ったという報告が入る。
彼らには、今回の作戦のために協力してもらっている兵や現地の一般市民の指揮を頼んでいるのだ。
「雪奈」
「衛星から見ても問題ないわ。ちゃんと赤道上を一周するように各員配置完了よ」
「よし、これより地球回復作戦を開始する!!」
俺の宣言とともに、世界各地で人々がパンティを空に掲げた。
この作戦は表向きは世界中の人々が同じ行動を取ることによって、
国境などないのだということを実感させる言わばセレモニーのようなもの。
しかし実際は違う。
重要なのは、赤道上に地球を一周するように配置されたギャルの輪だ。
彼女達は他の人々とは違い特別なパンティを穿いており、彼女達を線で結べば地球の円周となる。
このことが重要なのだ。
彼女達が手にしているのは普通のパンティでしかないが、穿いているものは違う。
お気づきの方もいるかもしれない。そう、遠隔操作式パンティ……通称P-ファンネル。
その改良型である。
これは、今現在俺が穿いている超人類のパンティによって操作可能なパンティであると同時に、穿いている人物の思念を増大させる。
人々が穿くP-ファンネルが思念を増大させ、この場の俺のところまで現地のイメージを届けてくれる。
そうすることで、俺自身が地球の円周を直接イメージするのだ。
続々と、彼らの思念が集まり俺の体へとそれらが集約されていく。
「ぐぬぅ!?」
「山田!?……っ!!」
しかし、地球を一周するほどの人数の思念。
それは想像通り、俺の脳のキャパシティを大きく超えるもののようだ。
脳に走る激痛に思わずうなり声が出る。
俺の異変に思わず駆け寄ろうと米沢が動こうとするが、それを雪奈が無言で止めた。
彼女は解っているのだ。ここで俺が止められることを望んでいないことを。
視界に映る彼女は、俺にむかってにっこりと微笑んだ。
心配してくれているのに、それでも俺を止めずに微笑んでくれていた。
雪奈の手は表情とは裏腹に強く握り締められて爪が食い込んでいるのか、血がぽたりと指の隙間から落ちている。
それでも、俺を支えようと強がって笑みを浮かべて……
「……イメージ」
自分の女に心配だけかけさせて、それで途中で止めて無理でしたなんて格好悪い真似絶対にしたくない。
そんなの、男じゃない。
「……イメージ」
全身の筋肉が、収縮したかのように強張る。
腕に、額に血管が浮き出し、ビリビリと神経が電気信号を活発に流し始めた。
「……イメージ」
イメージだ。イメージするんだ。
この地球を一周するイメージを。
痛みを堪えるための力みを止めることができない。
顎が砕けそうなほどに奥歯を噛み締め、コブシを握りこむ。
あらかじめ想定して爪は深めに切っておいたのだが、それでも掌に食い込んだ。
「……イメェ……ジ」
力みすぎで、脹脛のあたりからプチンと嫌な音が聞こえた。
どうやら肉離れか、もしくは筋繊維が断裂でもしてしまったのか。
鼻の置くが熱くなり、何かが鼻の穴を通って流れる感触がした。
駄目だ、負けるな。
耐えてくれ俺の体。
もう少しなんだ、やっとここまで来たんだ。
最初は、単にギャルが俺のパンティを穿いているだけで満足だった。
次第に世界中のギャルに穿かせようという野望が芽生えた。
その野望のために世界中に支社を作り、世界を見て回った。
そして知った、その日穿くパンティも無く、貧困にあえぎ餓死していく人々がいることを。
理不尽な暴力に怯え、銃弾が飛び交う地域で身を震わせながら生活する人々を。
そんな彼らを救いたかった。
今、戦争根絶を呼びかけ、国際的なボランティア団体としても大きく成長したパンティYAMADA。
やっと……やっとなんだ。
やっと核ミサイルも全ての国が廃棄してくれたんだ。
飢え死にするギャル達も減り、多くの地域で銃弾が飛び交わないようになった。
今の世界のギャル達を救うことができたんだ。
あとは彼女達の、そして俺達の子供である未来のギャル達を救うんだ。
そのためには人間のエゴで弱らせてしまった地球を元気にさせる必要がある。
今の地球は温暖化で南極の氷がとけ、海面が上昇してきている。
小さな島国などが極端で、年々海面が高くなり住める地域が狭くなってきている。
それだけじゃない。
度重なる予期せぬ異常気象のせいで、多くの人々が亡くなっている。
今でこの状況なのだ。
この先きっと、このままでは俺達の子供、孫の世代のころにはもっとひどくなっている。
「い……め……じ……」
ゆっくりと対策を講じて、結果が出るのを待つだけでは駄目なんだ。
いくら人間がこれ以上の温暖化を防ごうとしたところで、もはや地球に元に戻るだけの活力が残されていない。
誰かがなんとかしてくれるのを待っていては駄目だ。
救うと決めた以上、俺達がなんとかしなければ。
俺達が未来のギャルの地球を守るのだ。
そしてこの状況まで来た以上、あとは俺以外にはできない。
「…………イ……メ……ージ!」
意識が朦朧としてきたのか、視界が霞む。
耐えろ、深く考えるな。
地球も一人のギャルだと考えるんだ。
今まで多くのギャルをこのパンティで笑顔にしてきたんだ。
今更もう一人くらいなんてことはないだろう?
ほら、あの子が元気ならどんな顔をして笑う?
いつものように想像してみろよ太郎。
まず地球は青い。海も空も。
きっとあの子は透き通るようなスカイブルーの髪をしているんだ。
そして、緑豊かな森を髣髴とさせるグリーンの瞳。
きっと笑うと大地のように人を安心させる、母のような雰囲気を漂わせるんだ。
それでいて空に浮かぶ雲のように自由で、捉えどころの無い性格をしていて。
そう、普通の女の子なんだ。ただ腰周りが地球の円周と同じだけだ。
単に大きなだけのギャルじゃないか!!
「見えた!!」
俺は思いっきり両手を空にむけて掲げる。
瞬間、ぐらりと体が揺らめいて地面に倒れそうになるが、背中を誰かに支えられた。
後ろを振り向くまでも無い、背中に感じるのは二人分の手の感触。
その心強い感触に思わず頬の緊張がゆるむ。
イメージはできた。
俺の能力は、何の対価もなしに自由自在にイメージしたパンティを作り出す。
つまり、すでにイメージできた以上、もはやこの山田太郎に作れないパンティではない。
赤道上に立つギャル達の上空に、一本の透明で巨大なゴムが出現する。
そして、南半球にはゴムから広がるようにして布が広がり、クロッチ部分を作り上げる。
尻に相当する部分には、平和の象徴である鳩がパンティを加えている絵が描かれた、プリントパンティ。
一般人には見えないように透明に作られているが、確かにそこに地球を包み込むパンティを感じた。
「地球よ……元気になあぁぁぁああぁぁああああぁぁあれえええぇぇぇえええぇええええ!!」
俺の叫びにより、吸い込まれるようにパンティが地球にフィットする。
その瞬間、青い髪をした幼女がパンティを穿いて笑う姿を幻視した。
やがて地球が不可視の光に包まれる。
成功……したのだ。
「はは、やった……やったぜ、みんな」
全ての緊張がほどけたからか、俺は雪奈と米沢が支えてくれる腕の中、意識を失った。
それから二ヵ月後、地球の温暖化の進行が停止しており、様々な数値の計測から地球の活性化が認められるようになったという。
こうして、完成系変異パンティの12枚目、廻布・地球が完成しましたとさ