ギャルのパンティおくれ!!   作:真田蟲

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第8のパンティが抜けていたので修正しました。


八話(修正済み)

超の秘密基地に来てからというもの、驚かされてばかりだ。

正直、未来の俺が作ったというパンティの実物がなければ到底信じられないものだったが。

 

「信じられないかナ?」

 

「普通に考えればな。だが君が持っていたあのパンティは俺が作ったものだ。

 それに関しては妙な確信がある。理解はできないが信じるしかないといったところか」

 

「今はまだそれでいいヨ」

 

ここからの話はまず信じてくれていなければ始まらないからネ、と彼女は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

八話

 

 

 

 

 

超が指をパチリと鳴らすと、部屋の隅から昆虫を思わせる多脚型のロボットが床を滑るようにして現れた。

そいつは俺の足元まで来て止まると、器用に脚を折り畳んで、一辺が70cm程の完全な立方体へと変形した。

 

「話も長くなるだろうからネ、どうぞ座って楽にしてくれたまエ」

 

「……あぁ」

 

どうやらこのロボットに腰掛けろということなんだろうが……

こいつはいちいち俺を驚かせるために演出を考えているのではないかと疑いたくなる。

パンティイリュージョンで観客を驚愕さえるべき立場の俺が驚かされている。

この流れはどうもいかんな、話の主導権を完全に握られてしまう。

せめて驚きが顔に出ないようにしなければ。

 

「まずは私が未来から来たといったネ、その元いた時代について話そうカ……」

 

彼女はスカートのポケットから小さな端末を取り出すして操作する。

すると、部屋の中央に位置するモニターにとある映像が映し出された。

SF映画に出てくるような空を飛ぶ車に、宇宙まで届きそうな程の巨大な塔。

大小様々なロボットが街中を闊歩している。

国籍や人種を問わずに人が楽しそうに笑い合っている。

しかし、機械の姿は映し出されてはいるが映画とは違うところも見て取れた。

それは自然が残っていることである。

街路樹のように人工的に植えられた樹だけではない。

そこには自然に成長し、青々とした葉を茂らせる木々が生えた山々があった。

鳥が、獣が野山を駆け巡る。

空も海も、汚染されてはいない澄んだ色をしていた。

まるで理想の遠未来といったところか。

 

「これが、私の元いた時代の地球ヨ」

 

「へぇ……いいところじゃないか」

 

「そうだネ、この時代からは考えられない本当にいい世界ヨ」

 

彼女の語る未来の地球は、まさに理想とされる世界であった。

曰く、飢えに苦しむ人もない。

様々な国や宗教が存在するも、互いに争うこともない。

戦争が起きないために、最低限の治安維持や災害の際に対処するための部隊しか軍が存在しない。

核兵器は完全に廃絶されており、国境線で兵士が睨みあうこともない。

地球温暖化などの環境問題のほとんどが解決されている。

しかもそれを行った中心人物が他でもない、この俺だというのだ。

 

「貴方はパンティイリュージョンのマジシャンとしても有名だたネ。

 しかしそれ以上に名声を得ていたのがパンティYAMADAのオーナーという肩書きヨ」

 

なんでも、世界の下着シェアの実に9割以上を誇る大企業なのだという。

一代で会社を興し、そこまで育て上げた実績。

自身の得た利益を貧しい人々の衣食住を支えるために使うなどの社会貢献。

発展途上国を先進国と同じレベルまでの社会、医療制度のある国にまで次々と成長させてみせる。

実際、そのおかげで貧困から病気や飢えで死ぬ人間が随分と減ったらしい。

そしてその過程で築き上げた人脈のコネを使い、世界中の政府とのパイプを持つにまで至る。

人脈を使い、時には実力行使で紛争を止めてみせ、事実上、地球から戦争を根絶させた。

 

「おいおい、本当にそれは俺一人でやったのか?」

 

「一人ではなく仲間もいただろうがネ、貴方が中心人物であったのは間違いようのない事実ヨ」

 

モニターに映し出されたのは、国連のシンボルマークとして採用された鳩の絵。

ただし、その鳩は一枚のパンティを咥えていた。

 

「人は股間を隠すことで猿から人へと進化した種族ネ。

 同じくパンティを穿くもの同士、解りあえないはずがないのだから争いは止めよう。

 そういった想いがこめられたのがこのシンボルだヨ」

 

「成程な、それで鳩にパンティか」

 

……本当にそれは未来の俺なのだろうか?

とてもじゃないが、俺はそんな立派な考えを持った人間ではないのだが。

もしくは自分はこの世界に転生したと思っていたのだが、本当は憑依物だったのか?

本来なら世界を救う英雄になるはずだった人物に、俺の魂が入り込んでしまったのだろうか?

 

「疑問に思うのは当然だが、確かにこれは未来の山田太郎が行った偉業の数々だヨ。

 歴史上、英雄と呼ばれた誰もが最初から英雄足りえる人物だったというわけではない。

 貴方が駅で拾った大金の一部を懐へと入れたことに関しては善行とは言えないだろウ……

 だが、私は逆に安心したヨ。貴方にも馬鹿な事を考える人間らしさがあった証だからネ」

 

「ぬぐ……」

 

「実際、資料にも最初は山田太郎はただのパンティストの一人に過ぎなかったとあっタ」

 

俺の考えなどお見通しなのだろうか、超は微笑ましいものを見るかのように生暖かい視線を向けてくる。

精神年齢的には前世も合わせれば俺の方が相当高いはずなのに、妙に彼女の所作は大人びて見えた。

彼女の話では、俺が英雄と呼ばれるような行動を取り始めたのは、なんでもパンティYAMADAが世界

 

に進出するようになってかららしい。

世界に目を向けたことで、今までに見てこなかった世界の真実を目の当たりにする。

そして俺は、世界中のギャルを笑顔にするために立ち上がったらしいのだ。

 

「それで、その俺が救ったっていう未来の地球から何しに来たんだ?」

 

「勿論それは未来を救うためヨ……あの絶望的な未来を回避するため」

 

「絶望? あれでか?」

 

「そう、地球は本当に良い時代を迎えた。絶望なき世界、人々の笑顔絶えぬ世界」

 

超の表情がそれまでのものから変わる。

どこか飄々として、微笑を浮かべていた彼女の顔は沈痛な面持ちへと変化した。

手元の端末を操作するとモニターの映像が切り替わる。

そこに映っていたのは先ほどまでとは全く違ったものだった。

 

「なんだ……これ……」

 

どこまでも続く不毛な大地。

獣どころか草木一本見当たらず、水分も碌にないのか地面が罅割れている。

空はどんよりとした雲に覆われており、ちらちらと何かが降っていた。

あれは雪じゃないな、灰か。

人々の多くは痩せこけ、虚ろな瞳をしていた。

歩く様は幽鬼のようでふらふらと力が感じられない。

着ている衣服はぼろぼろで……否、まだ着ている人間はましなほうか。

中には何人かは裸で、そのあばらの浮き上がった肌を露出させていた。

 

「最初に言っただろう? 私は火星人だト……これがあの時代の火星、私の故郷ヨ」

 

「地球と全然違うじゃないか」

 

「そうネ、一番の大きな違いは貴方がいなかったこと」

 

「どういうことだ?」

 

「山田太郎サン、貴方は魔法を知っているかイ?」

 

「いや、意味がわからんが」

 

話がいきなり飛んだぞ、意味が本当にわからない。

つい今しがたまで未来の俺がどうだのとSFな話をしていたんじゃなかったのか?

この映像の火星が超のいた未来なら、彼女は未来を改変しようとしている。

それはなんとなく想像がついたのだが、何故ここに来て魔法なのか?

 

「その様子では知らないようネ。未来の貴方も一応表の人間という扱いだタよ。

 こんな不思議なパンティを作れても、魔法の世界とは関わりがなかったらしい。

 むしろ魔法も使わずにこのようなアーティファクト級のものを作れるのが馬鹿げているがネ」

 

いやまぁ、魔法が存在しているのは知っていることは知っているがな。

あくまでもそれは原作知識というもので詳しいわけじゃない。

今生において関わりがあったわけでもない。

そもそもこんな話をしている以上、原作知識とか最早意味がないというか。

ネギま自体最初の方しか呼んでないから魔法も女性とのパンティ脱がすやつくらいしか覚えていない。

つまり、全くと言っていいほど魔法については知らない。

 

「あらゆる歴史書にも山田太郎はあくまで表の人間、一般人だったと記載されているヨ」

 

不思議な能力を持っていたのではないかと推測されてはいたようだ。

事実、普通の人間が特殊能力を持ったパンティなど造れるはずも無い。

だがそれを裏付けるデータは何も残っていない。

気も魔力も一般人のそれと大差ない、最低限のものしか持ってはいなかった。

持っていたのはただパンティのみ。

先ほど超が口にしていたアーティファクトではないかと議論されたこともあるらしいのだが。

結果は違うという結論だったようだ。

何でも、アーティファクトというものは魔法の品である以上、なんらかの魔力を内包しているものらしい。

だが俺のパンティにはそれがない。

超が見せてくれた透布・無在のような完成系変異パンティなどを作り出す技術力。

どうやって作ったのかなどの一切が不明。

ただ、自身の最後を予期してか時の世界統一政府に託したらしい。

その数ヵ月後、未来の俺はテロに巻き込まれて帰らぬ人となったと超は言った。

完成系変異パンティが世間に公表されたのは約30年後。

魔法世界でもある火星――通称、新世界が地球に攻め入ってきた時だ。

圧倒的な数の魔法使いが地球に雪崩れ込もうとした。

 

「それを阻止したのは地球に住む魔法使いと政府の治安維持部隊。

 中心となり部隊を率いたのは政府から選抜されたパンティストの精鋭達」

 

火星の魔力を利用して生活していた新世界の住人であったが、その魔力が枯渇した。

逃げるように地球へとやってこようとした彼等は、あろう事か地球を侵略しようとしたらしい。

魔法の使えない一般人が大多数を占める地球など簡単に手に入れられると考えたようだ。

全くご先祖様たちも愚かなことをしてくれた、と超は自嘲するように笑った。

平和的解決を望み、まずは対話をと歩み寄った地球に対して武力行使した魔法使い。

新世界の民にも平和的に解決しようとするものはいたのだろう。

だが、当時は住む場所を無くす焦りからか短絡的な思考をするものが多かった。

地球側の魔法使いの使者を皆殺しにした新世界はそのまま宣戦布告。

これを地球側の統一政府は火星と地球を結ぶ門を封じることで阻止した。

魔法使いの数で圧倒的に勝る火星が勝利すると、そのときは新世界の民は信じていたらしい。

しかしそれは地球側の完全勝利となって終わる――誰一人地球人に死者を出さないという奇跡を持って。

奇跡を起こしたのは12枚のパンティに選ばれたもの。

 

第1のパンティ、輝布・照破

 

第2のパンティ、双布・連響

 

第3のパンティ、朧布・幻日

 

第4のパンティ、清布・乙女

 

第5のパンティ、轟布・雷電

 

第6のパンティ、玉布・花火

 

第7のパンティ、透布・無在

 

第8のパンティ、音布・仙楽

 

第9のパンティ、護布・金剛

 

第10のパンティ、裁布・閻魔

 

第11のパンティ、時布・悠久

 

第12のパンティ、廻布・地球

 

完成系変異パンティを穿くものと、彼等が指揮する部隊の前に新世界の住民は完封される。

そのまま魔力の枯渇した火星へと閉じ込められることとなった。

平和を享受する地球と違い、火星では地獄の日々が始まる。

仲間内で争い、限られた資源を奪い合う。

その日の糧を得るため、昨日まで友人同士だったものが刃を向ける。

醜い争いの果てに得た資源でも、長くは生活を保てない。

力の無いものから毎日数え切れない死者を出していた。

 

「私達にも貴方の、山田太郎のパンティがあれば……パンティの教えがあれば……」

 

いつのまにか超は何かを悔やむように涙を流していた。

 

「貴方があの時生きていれば、まだなんとかなったかもしれない」

 

彼女の語る願望は、身勝手で都合の良いIFでしかなくて。

例え未来の俺がその時生きていたとしても、攻め込んできた火星の民を救ったとは限らない。

未来の俺は俺であっても、今を生きているこの山田太郎ではないのだから。

 

「貴方がいれば地球のように救ってくれたかもしれない。

 目の前で人が次々に死んでいくことも無かったかもしれない。

 ……何故貴方はあんなにも早く死んでしまっタ?」

 

だからそんな縋るような目で見られてもなんと答えていいのか解らない。

今理解できることは、火星の民は一人も救われることが無かったこと。

そして、おそらくは超自身、誰か大切な人間が目の前で死んでいったのだろうということ。

彼女の瞳から流れる涙は、自身の経験を思い出して流しているものだった。

そこに嘘はなく、真実しかなかった。

 

「この無在は仲間が命をかけて入手し、私に託してくれたものだヨ。

 火星に生きる人間には最早自分達だけで生きていくだけの力が残っていないんダ。

 あの未来を、悲劇を回避するには貴方の助けが必要なんダ」

 

他力本願なのは理解しているのだろう。

しかし彼女が元いた時代の火星の民たちには、最早自分達ではどうしようもなかった。

地球に移住することは許されず、何かをするための資源もない。

超とその仲間達はこの歴史を改変するために過去へと跳ぶことを決意する。

そして選んだ時代が、俺のいるこの時代。

なんでも、俺を始めとして様々な将来英雄と呼ばれるようになる人物がこの時代、この土地に集まるというのだ。

 

「頼む。どうしても貴方の助力が必要なんダ!」

 

椅子から立った超は、躊躇うことなくその場で土下座して見せた。

先ほどまでの悪戯好きな少女を思わせる雰囲気は既に霧散していた。

そこにいるのは、真摯に願いを告げる一人のギャル。

 

「貴方が望むなら、私の全てを貴方に捧げよウ!

 嗅ぎまわっている警察も私がなんとかして見せル! だから……」

 

「はぁ……顔をあげてくれ」

 

未だ中学一年生のギャルに土下座させていることにちっぽけな俺の良心が痛む。

 

「年頃のギャルがそんなに簡単に自分の全てを捧げるなんて言っちゃ駄目だろ」

 

「しかし……」

 

「未だよく理解しちゃいないが、その、なんだ。

 俺としてはギャルが自分の作ったパンティを穿くだけで満足とか思ってたんだけどな?

 将来としてはやっぱり世界進出とか野望を持っていたわけで……」

 

「駄目カ?」

 

「いや、あれだよな?

 戦争だの食糧不足だのでギャルが笑えない世の中じゃ、気軽にパンティも穿けないよな」

 

どうやら俺の言わんとする所が解ったらしい、超は泣くのを止めて顔をあげる。

難しく考えるのはやめよう。

彼女に協力すれば、魔法世界とかに住んでるギャル達にも俺のパンティを浸透させることができるだろ?

正直まだ自分が英雄になるとか、社会貢献でどうのとかはピンとこないが。

それも追々知っていけばいいのだろう。

 

「よろしく頼むぜ、超鈴音」

 

「グスッ、こちらこそよろしくネ、山田サン」

 

そして超は、初めて純粋な喜びからくる笑みを見せた。

妙に大人ぶった態度を見せる時に浮かべていた微笑よりも、何倍も魅力的な笑みだった。

 

その後、秘密基地でとりあえず目下に迫った事案として、警察の対処について話し合うのだった。

 




この後は、理想郷にのせた番外編を投稿します

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