~光一視点~
「なあ、エミヤ。三つもいきなりハデスの兜を投影して大丈夫なのか?」
ゲーム開始直後にエミヤから貰った兜を装備して逃げ出してから十分。
エミヤと会話が出来るところまで逃げ切った後に聞いた。
「何であれゲームだ。手を抜ける状況じゃないからな。人数差の代わりに春日部嬢に有利になるゲームだ。あそこでハデスの兜を投影しなければ負けていた」
「確かになあ。でもまあ、春日部はオリジナルの兜を攻略したんだぞ? 無駄だったんじゃないか?」
「春日部嬢がオリジナルの攻略を出来たとしても、このゲームは視認されなければ敗北にはならない。つまり彼女はゲーム開始と同時に名前を呼ばなければならなかった」
「だけど今のままじゃ春日部の願いはどうする?」
「お前はわざと負けるつもりなのか?」
「そういう訳でもないんだけどな……」
正直なところ決めかねている部分もあるんだがなあ。
しかも十六夜だけハブにする意味が分からない。
「春日部嬢は功績を誰にも上回られたくない。しかし、負けたくない。そして、功績を稼がないということはコミュニティの成長に繋がらない。故に最も功績を稼ぎそうなものを仮想的として置いておく事にしたのだろう」
「そうか。もしも十六夜まで巻き込んだのならお前とかに反対されるからか」
「そうだな。つまり、彼女は自分なりに考えてこの戦いを挑んでいるということだ。ならばこちらも答えてやらねばなるまい」
「そうだな。――よし決めた。俺は春日部の側につくことにしよう」
パチン。
エミヤに触れて指を弾く。
「――ああ、お前ならばそうすると思ったよ」
いや、正確に言うのなら触れようとした。
俺の左腕は空を切ってエミヤが走って消えようとする音が聞こえる。
俺は兜をギフトカードの中にしまって追いかける。
パチン。
「特大のだ!」
天空隆起の劣化コピー。
今回は範囲をオリジナルに近く、そして地面を盛り上げるという性能をそのままひっくり返す。
「食らえ!」
更に二回指を弾く。
空中移動手段のないエミヤにかわすことは出来ない!
「馬鹿が……」
ドゴン!
エミヤは呆れたように呟いて軽くなった俺を殴り飛ばした。
くそ、顎に綺麗に入っちまった。
「ああ、俺はこれでお前を追いかけることは出来ない。――だが、発動させてもらったぜ?」
「何?」
「
瞬間。
エミヤの髪が腰まで伸びて金髪になり、灰色の瞳は金色になった。
つまり。
つまりだ!
「このギフトゲーム! 春日部の勝ちだ!」
俺は高らかに宣言する。
――もしもこの世に透明になる能力があったのなら。
そしてそれがマイナスにまで劣化したら。
さらに、その能力をセイギノミカタを目指していたものが使ったのなら。
俺がもしこの能力の対象になったのなら趣味が違うといっていたはずだろう。
しかしこいつならば、いける。
「ここがエミヤシロウの理想の果てだ!」
俺の目の前には、ゼット戦士が存在していた。
エミヤはそっと鏡を創り出して自分の姿を見る。
そしてたっぷり三秒間ほど鏡を見つめた後に、無言で俺に鈍器を振りかざした。
ドゴッ!
「戻せ」
「ふっ。例え俺が気絶したとしても能力は消えない。いや、消させなどしない! ククク。ハハハハ。はーっはっはっは!」
俺はひとしきり笑った後意識を失う。
さあ、春日部に見つかって辱めを受けるがいい!
~光一視点終了~
光一「いてっ、いって! 無言で殴るんじゃねえ! うわっ、っちょ。んま・・・つぁ・・・ちょぎっ!」